ある日突然俺は思い出した。
所謂前世の記憶ってやつを。
思い出したきっかけは公園で遊んでいたときに、出逢ってしまった突然現れたおっさんだった。
音もなく背後をとられ、話しかけられたまでは100歩譲ってまだよかった。
まぁ本能的に逃げようとはしてたが。
「おじさんと遊ばないかい?」
そう言ってそいつはニタニタと気持ち悪い笑い方をした。
はい、アウトー!!
「さぁ、行こうか?」
ボールを持っていた手を無理矢理引っ張られた。
小さな俺にはかなりのショックだった。
初めて出会ってしまった変態は。
俺は骨ばったその冷たい手を、無理矢理振りほどき公園内をダッシュで逃げ出した。
がむしゃらに大人では通れない子供道、住宅地を縫うようにして振り返らずとにかく走った。
息が切れる。
横っ腹いてぇ。
それでも走る。
振り返ってはいないが、嫌な感じがずっとしている確実に追ってきている。
生け垣に頭を突っ込んだ先にあったのは、白亜の壁と十字架。
「っ!ここなら!!____ッ!!!!」
ぞくりとした。
「ぼくー?どこだーい?一緒に帰ろう?」
いつの間にか日が陰り始めていた。
追い付かれる!?
というか、あり得ない。
なんなんだアイツは!!?
俺は教会の扉を開き勢いよく駆け込んだ。
「子供を狙う妖怪変化?」
「ああ、最近頻発しているらしい。拐われて翌日見つかるが、その間の記憶はなく、高熱が続いているそうなんだ」
美神令子は女子中学生だ。
学校を終えた足で師である唐巣神父の教会へ向かい、さっそく依頼にあった最近この近所で頻発している事件について聞いていた。
唐巣神父は小さな丸眼鏡をくいっと持ち上げると、ため息をついた。
「拐われていた子供たちの様子を見てきたが、生気をギリギリまで吸われていたよ。ほっておいても1、2週間もすれば回復するが、この町のイメージは悪くなるし、さっさと解決して欲しいと。まぁ、いろんな手順をすっ飛ばして私に依頼が来たのさ」
やれやれと唐巣神父は肩を竦めた。
「子供だけがターゲットか。…先生私が囮やりましょうか?どうせ霊感の強い子供が軒並み狙われているなら手っ取り早いと思いますけど」
自信ありげな瞳を向けられ唐巣は苦笑いがでる。
本当に変な所ばかり母親に似ている。
「少々厄介な敵だ。今では力も相当につけているだろうが、やるしかなさそうだ。美神君これを」
3枚の御札を渡された美神は神妙な顔で受け取った。
「使い方はただ悪霊に投げつけるだけ。ただし使い所は間違えないように、僕がアリアを唱えている間の数秒持ちこたえるんだ。怖ければ逃げることも視野にいれておきなさい」
やるせない顔の神父は、プロのGSへと変わっていた。
_____________バンッ!!!!
勢いよく開いた教会の扉に向かい、2人は反射的に身構えた。
はぁ、はぁ、はぁ、
扉を開いたのは10才くらいだろうか?半袖半ズボンの少年だった。
「た、助けて!」
先に動いたのは唐巣神父だった。
少年を抱き上げると素早く扉を閉め、詠唱すると鍵が淡く光った。
そして素早く離れると、美神の隣に少年を下ろし祭壇をどかした。
現れたのは魔法陣。
「な、なによ、あれ!?」
扉に新たに守護の結界を張り直したようだと美神は理解していた。
冷や汗がにじんだ。
心なしか手が震える。
あれは低級霊ってもんじゃない。
守護をかけ直さないといけないほどの化け物、上級霊だ!
扉が開かれた瞬間、美神と唐巣神父はその敵の姿を確認していた。
あれはまずい。
美神は低級ごときに負けるほど弱くはない。
しかしながら上級霊に勝てるほどの力はまだ扱えない。
心臓が嫌な音を奏で始めて、美神は自分の頬を叩いた。
「だからどうだってのよ!」
こちとら日本一の、世界一のGS目指してるのよ!
___バリン
「君を追いかけて来ているのは黒い帽子にコートの男だね!?」
「!?うん、そう!急に現れたんだ!さっきまで俺一人だったのに!」
「やはりそうか」
この短期間で低級霊が上級霊になるなんて、いったい何が起きている?
「美神君!予定変更だ!この子と魔法陣の中へ入って、この子を守りなさい!」
ドン!!!!
「門の結界をこうも簡単に!?…扉も時間の問題だな」
すぐさまアリアを唱え始めた神父は扉と魔法陣の間に立っている。
「先生任せましたよ!」
背を叩くと美神は走る。
ドン!!!!!!
協会全体が軋み悲鳴をあげた。
「君!こっちよ!」
恐怖をごまかした美神は少年の手を取り魔法陣に走る。
自分よりも小さな男の子は、これに耐えてここまで逃げた。
だから、私にだって出来ることくらいある。
背に庇って陣取った際、半ば引っ張るようにしてしまったが、緊急事態だ。仕方ないだろう。
ドカン!!!!!!!!
扉が勢いよく吹き飛び、そこから嫌な冷気が流れ込む。
くらり。
妖気に当てられ目眩がする。
気持ち悪い。
立っていられない。
────────寒いッ。
ふいにぎゅっと制服を引っ張られる。
あの少年だ。
先生はもう少しだ。
私が時間を稼がなきゃ。
私が守らなきゃ。
「大丈夫、君は私たちが守るわ」
「!ありがとう」
少年にそう伝えたが、その言葉は自身を鼓舞する為だった。
「どちら様ですかね、私の獲物を隠した愚か者は?」
ひたり。
ひたり。
ひたり。
吹き飛んだ扉の先にいたのは、最初に出会った時よりもさらに禍々しさを増し、明らかにパワーアップした黒い変態もとい化け物だった。
身長は唐巣神父よりもさらにでかい。
裕に2mは越えている。
その体から伸びる手は爪が長く、枯れ木のように細いが、だらんと床に着いている。
「!そうか!…成る程ね。逢魔が時、この時間まで利用してさらにパワーアップしたのね!」
「!!?」
キッと睨み付けてやっても相手には私のメッキで隠した恐怖は丸わかりなのだろう。
「お嬢さん、その子を私に返して下さるなら見逃してあげますよ?」
ニタニタニタ。
黄色いギザギザした牙が覗く。
ひたり。
ひたり。
距離が縮まる。
「ふん、どうせ約束なんて守る気も更々ないし、その次の獲物は私なんでしょ?」
わからないはずないでしょうが。と言い切った瞬間、ヤツは動いた。
魔法陣の結界に一瞬でヒビが入る。
「!!!せっかちさんね!!そんなに私たちの霊力はおいしそうかしら」
「ええ、一口味見したいですね。どんな味がするのやら」
よだれが溢れた。
「ふん、甘くは、無いわよ!!!」
破魔札が0距離で爆発する。
足を踏ん張り余波を耐える。
あれで終わる筈はない。前だけはしっかりと見据えたまま、次の札を構えた。
「痛いですねー。しかもくそまずい。これはすぐに口直しせねば」
ギロリと鮫のような目が私を見据えた。
ぞくっ。
また来る!
破魔札を投げる動作をした瞬間______バリンとガラスが割れる音がして結界が壊れた。
「がっ!!!!」
美神の首に、長いあの手がかかった。
見た目からは考えられないほどの馬鹿力だ。
振りほどけない!…先生まだなの!!!!?
ひらりと力が入らなくなった手から破魔札が舞う。
「こっのぅ!!!ぐっ!」
瞬間、再び爆発音が響く。
化け物は背後からの破魔札による攻撃で美神を放した。
「お姉さんから離れろ!化け物!!!」
「おのれ、クソガキがー!!!!!」
少年に化け物襲い掛かったその瞬間。
「アーメン!!!!!」
唐巣神父による神の裁きが下った。