真っ暗な部屋。
カーテンを閉めきり、唯一の明かりはpcのモニターからのブルーライトのみ。
そんな室内で彼はずっと明日用の手紙を書いていた。
『貴女が好きです』
その言葉だけを何枚にも渡って延々と。
パソコンを使っているのだから、コピーし、張り付けを繰り返せばあっという間だが、毎日毎日心を込めて一文字ずつ入力している。
「…これだけ書けば、次に会うときには…」
ニヤッと口が弧をかいた。
彼女との出会いはそう、三ヶ月前だ。
衝撃を受けた。
あんな美少女が現実に存在したのかと。
サラサラと風に靡く、亜麻色のロングヘアー。
パッチりとした二重に、切れ長な瞳。
佇まいは凛としていて、思わず目を奪われた。
あの日から毎日手紙を書いている。
返事が来たことはまだ一度もない。
彼女は勝ち気そうなイメージだが中々シャイなようだ。
そこがまたいじらしい。
書き上がった手紙をプリンターを使って印刷する。
この間から彼女がカバンにつけだしたストラップのキャラクター。
そのレターセットを使って仕上げた。
残念ながら僕の字は、お世辞にも綺麗とは言いがたい。
恥ずかしいし、彼女に不快な思いもさせたくないから綺麗にかけるパソコンを使う。
この三ヶ月、彼女を調べ、観察した。
彼女のことはよーく、知っている。
だから昨日のように話しかけた時も、どんな対応をされたって気にしない。
彼女は忙しい人なんだから。
ほぼ母子家庭のような状態で幼少期から過ごし、昨日はその母が亡くなって、たった一人になったのだから。
「大丈夫、もう一人じゃないからね」
うっとりと端末画面に向かって笑いかけた。
「!!!!!????」
ぞくり。
背筋に冷たいものを感じ、令子は身を震わせた。
「?令子さん…大丈夫!?顔色悪いよ?」
その令子の顔を下から頭一つ分小さな男の子───横島忠夫が覗きこむようにして声を掛けた。
「今…良くわかんないんだけど、悪寒がしたのよね」
(しかもなんだか嫌な予感もするわね…)
今日は休日だ。
昨日はあのまま横島家に泊まった。
百合子ママの本気に、まだまだ口では勝てなかった為だ。
朝起きたときには、さっさと帰ろうとしたが、またもや普段着まで用意されていて…─────もうなにも言わず令子はそれに袖を通した。
しかも自分の好みにあっていたので、それに関しては全く文句はない。
そして今は横島君と二人で留守番をしている。
百合子ママと大樹パパが二人で、久しぶりに買い物デートしている為だ。
…もうこの時点でなにかいくつかおかしい。
「風邪じゃない感じですか?…GS関係ですかね?」
といいつつ、横島は令子のおでこに手を当てた。
「特に熱いとかでは無さそうですね」
今はのんきに二人揃ってリビングのソファーでDVDを見ていた。
百合子ママがいない今がチャンスだ。
横島君に別れを告げて、このままさっさと帰ってしまおう────思うのは、簡単だった。
だが、お世話になりっぱなしだ。
さすがになけなしの善意が痛んだし、何よりここは居心地が良かった。
「ありがとう、大丈夫よ」
にこりと笑うと横島君も笑い返してくれたが、温かいお茶を用意されてしまった。
────本当に子供の癖によく気がつくわね。
母との二人暮らしは実質は一人暮らしのようなものだった。
寂しかったのかもしれない。
だからなおさら、………柄にもないことだ。
それに、残念ながら私には今、友達といえる存在はいない。
年相応の相談したりと、気兼ねなくこうやって過ごせる相手はそれだけで貴重な存在だ。
自分なりに友達を作ろうと努力はそれなりにした、とは思う。
一応小学校低学年くらいまでは確かにいた。
まあ、ママの仕事の都合もあって各地を転々としていたっていうのも理由の一つにはあったのかな。
だけど、小学校高学年に近づくたび、友達になりたくても、何故か皆一様にファンになってしまうのだ。
女子からは年齢にとらわれず、お姉さま扱い。
男子からは、この母に良く似た美貌やプロポーションだ。
見せかけに惹かれた男たちに、一方的に言い寄られることも少なくなかった。
いや、むしろ多い。
あまり気分の良いものではなかった。
それに嫉妬する女たちにも。
───────どいつもこいつも。
だからそんなやつらを実力で捩じ伏せる、それがいつからか快感になった。
(…おかげでマゾなファンがついちゃったのよね)
頭がいたいが、やらかしたことに後悔はなかった。
「天気も少し悪くなってきてるみたいだし、それかな?」
いつの間にやら映画はフィナーレを迎えエンドロールが流れていた。
横島君につられ窓の外を確認する。
「…一雨来そうね。洗濯物取り込んじゃいましょう」
「はい!」
私の膝の上で寝ていた琥珀も欠伸をしながらニーと鳴いて返事をした。
二人がデートから帰ってきたのはそれから一時間ほどしてからだった。
帰りがけ雨に降られて濡れて帰宅した二人だが、それでも嬉しそうに笑いあっていた。
そんな二人をみて、なんだかこちらまで嬉しくなっていた。
いつの間にか、横島君がお風呂を湧かしていたのには手際が良すぎて気がつかなかった。