GS横島‼-煩悩なしで生き残れ-   作:こたろー

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#14

 

心を落ち着かせて手紙の宛名を確認する。

「ママ…」

 

文字に指を這わせる。

あのアパートに住む私宛の手紙。

母の繊細な字で書かれている。

 

心なしか震え始めた手で、ゆっくりと封を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「心配かい?」

「…しっかりしていてもあの子はまだ子供だもの」

そりゃそうでしょと、ため息をつきながら味噌汁の鍋をゆっくりとかき回す。

 

「私達はただ、受け止めてあげることしかできないから」

 

いつもの太陽のような笑顔はない。

しょんぼりとした百合子の頭を撫でつつ、大樹はそうだねと同意した。

 

「だけど、あんなに可愛い娘さんを一人にしなければならないんだ。向こうのご両親だって辛いはずだよ」

 

忠夫は男だし。

娘をもったことはないからこれは想像だが、間違ってはいないだろう。

 

「そうね。例え今がダメでも。………いつかは、みんなでこの事を笑って話せると良いわね」

「あぁ」

 

お互いに言わんとしていることはそれなりに連れ添った仲だ。

短い会話だが十分に伝わっていた。

 

「ところで貴方。そろそろ手を離してくれる?危ないわよ」

「今離すと寂しさで僕死んじゃうよ」

 

百合子を背後から抱きしめたままの体勢で話していた大樹はおどけて言う。

 

火を止めて百合子は大樹を首だけ振り返りながら、にこりと笑った。

 

「あらそう?…でも、撫で回しながら言う台詞じゃないわよね」

「イタタタタッ」

 

ぎゅっと手の甲の皮を爪を立てながらつねると、大樹は怯んだ。

左手で右手をさする。

 

百合子は背中から離れた大樹に、すかさずそのまま正面から、抱きついた。

 

「!」

少し体勢を崩したものの大樹はすぐさま受け止める。

 

「…強引すぎたかしら」

「そのくらいしなきゃあの子は頼ってくれないからね」

僕は強引なの大歓迎だよと、優しく年上の奥さんを慰める。

 

「…嫌われないかしら」

「その時は僕らも共犯だから忠夫に取り成して貰おうか」

ぎゅっと背中に手が回りさらに密着する。

 

「他力本願ね」

「あの子が無意識に頼っているのは忠夫だ。僕らはその際足りないものを補ってやれば良いさ」

ポンポンと背中を優しく叩く。

 

ぐすん。

 

「あー、もう相変わらず可愛いんだから。………いっそのこともう一人くらい家族増やさないかい?」

「不謹慎」

 

短く返されたその言葉にさえ愛しさが止まらない。

ぎゅっと抱きしめ返した。

 

しばらくそうしていると、最近我が家にやって来た仔猫、琥珀がキッチンにそっと顔を出した。

 

鳴かずにじっと見つめるその顔はママどうしたの?と言わんばかりだ。

 

「…あの子たちもそろそろ来る頃ね」

 

するりとしなやかに離れる百合子を名残惜しく思いながらも大樹は笑う。

 

「そうだね、準備して待とう」

 

しつこすぎる男は嫌われる。

弁えているのが良い男ってもんだ、とは大樹の持論だ。

 

夕飯の支度のため、さっと取り皿、箸を片手に離れると入れ替わりに琥珀が百合子に餌をねだった。

 

「はいはい、琥珀ちゃんも一緒にご飯ね」

 

笑顔がそこに戻っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、………用意が良いのね」

 

それだけ覚悟の上で任務に当たっていたのだろう。

 

もし自分が殉職するようなことがあれば、これが私宛に届くように手配を済ませていた。

 

「もう一生分まで泣いちゃったかも」

あー、やだやだ。

辛気くさいのはキャラじゃないのよ。

 

「ママ、私立派なGSにきっとなるから。…応援しててね」

手紙にキスを落とし、とりあえず学校の鞄にしまった。

 

横島君にあとで手伝って貰おうかな?

家具と段ボールをみてそう一人呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「百合子ママ、大樹パパ、横島君。皆さん今日から改めてお世話になります」

 

夕飯の席でそう挨拶され横島家の食卓はいっそう賑わった。

 

俺が風呂場で悶々としている間に令子さんは答えを出していた。

鼻と目が赤いのは今はあえて誰も指摘しない。

 

だけど思う。

この人本当に我慢強いな、と。

例えそれが見せかけだけだとしても。

 

「…………………令子さん」

「何?横島君?」

「それ」

首を傾げる令子さん。

 

「この家横島ばっかなんで、そろそろ名前で呼んで貰えませんか?」

「あ、そうよね。………………っ」

 

ぽん。

そんな音がしそうなくらい一瞬で真っ赤になる令子さん。

 

はじめてみた。

めちゃくちゃ動揺している。

 

「え……ッ、あ………。な、名前よね」

ぶつくさと呟く。

 

あらあら。

おやぁ。

 

完全に両親は野次馬化した。

 

「!…っ」

(……何、この可愛い生き物)

いつまで経っても呼ばれそうにない。

仕方ないかぁ。

 

「…忠夫です。"ただ"でも良いですよ?」

ほーら。

 

「!」

 

うわ、何これ面白すぎる。

顔がコロコロ変わりまくる。

 

「………………………ただ、くん」

葛藤の末ぼそりと呟いた。

「はい」

 

「た、試しに呼んだだけよ?」

「はい」

 

めちゃくちゃ深呼吸する令子さん。

 

「…………ただ君あとで荷解き手伝って?」

「はい」

 

ギクシャク。

ギクシャク。

 

まるでオイルの切れたロボットのような動きをする令子さんに、とうとう俺は隠れて吹き出した。

 

めちゃくちゃ初な反応だった。

心なしか涙目だった。

──────────可愛かった。

 

「──────ねぇ、ただ」

「────ッ!!!?」

外気温がさっと下がった気がした。

 

「…令子ちゃんが可愛いのはわかっているけど、…………お預かりした大事なお嬢さんですから……ねぇ?」

 

しっかりと釘をさされた俺はコクコクと頷くことで何とか返事を返した。

何か、すんげー母さんが怖かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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