「きゃー!お姉様ステキですぅ!あの、これどうぞ!」
「え、あ、ありがとう…」
お礼を言えばグループで現れた女子生徒たちは顔を真っ赤にして甲高い悲鳴に似た歓声をあげた。
横島家に滞在、元い下宿するようになってから初めての学校。
また私のいつもの日常が戻ってきた。
「…いつもなら直接渡されることなんてなかったのに」
遠巻きにきゃーきゃー言われることはあったが、今のようにプレゼントや手紙を直接貰うのは初めてだ。
首をかしげながら下駄箱に向かう。
鞄からエコバッグを取りだし、添えたままゆっくりと下駄箱を開いた。
「これ、後半にいれてる人どうやってるのかしら?」
手紙で雪崩がおき、ドンドンエコバッグに投下されていく。
ようやっと自分の革靴が見えてきた。
「……下駄箱の手紙も心なし増えたような」
ずしりと重くなったそれを抱えて令子はため息をついた。
下校時刻。
テスト前と言うこともあって部活はない。
人でグラウンドもその先もごった返している。
「ん?なにあの人だかり?」
珍しい。
私以外にもいるんだ、そういう人。
邪魔だなと思いつつその集団を通り過ぎようとした、時だった。
「僕誰を待ってるの?探してこようか?」
「…いえ、もうすぐ来ると思うので、ありがとうございます」
すごく聞き覚えのある声がした。
「にゃー」
「か、可愛い!!!!」
「琥珀、お前人気者だな」
人が多すぎて姿がみえなかったが間違いない。
「ねぇ、なんの騒ぎ?」
校門にできた人だかり。
自分の自称ファンまで加わってちょっとしたお祭り騒ぎになりつつある。
「!お、お姉様!?…校門の前に小学生の男の子が、立っていまして、誰かの兄弟か話しかけたのが始まりみたいです」
「……………小学生」
令子が思い浮かぶ相手は一人しかいない。
「ちょっと、通してくれる?」
そう声をかけると最初は怪訝な顔を見せた生徒たちは、こちらを認識するや否や近くの友人を伴ってドンドンと離れていく。
(………こういう時だけは便利ね)
まるで葦の海で水が割れた時のモーゼのようだ。
退いたとはいえども横島の目の前で話をしている3人の女子はこちらに気づいていないようだ。
「呼んできてあげるよ?お名前教えてくれる?」
(…おい、おい)
真ん中の女子生徒が文字通り中心となって会話をしているようだが、その手にはスマホ。
(誰の、何を、聞き出そうとしているのか、全く)
頭に手を当てたい心境だが、こうして改めて客観的にみると不思議だ。
横島忠夫。
小学生にしては平均より大きめな身長、それに不釣り合いなくらいに落ち着いた雰囲気。
出会ってからは卒業したランドセルと半ズボンの代わりにスポーツバックとデニムのジーンズ。
まだ子供らしい可愛さと、少年らしさが混ざりあっている。
母性本能が擽られるのか、保護欲がわくのだろう。
しかしながら逆ドーナッツが幾重にもできているこの状況はそろそろ不味いだろう。
深呼吸をして余裕たっぷりに笑顔を作る。
「ただ、おまたせ」
まだ慣れない呼び方がひたすらにむず痒いが、顔には決して出さない。
年上の、姉弟子としての余裕を見せなければ。
昨日の夜、横島君から"ただ"と呼び掛けるだけであんなにも動揺してしまった自分が恥ずかしい。
その恥ずかしさにかまかけて"ただ"に遊ばれていた事実に気づいたのは今日の昼だった。
学食の食堂でたまたま耳に入ってきた、年上の彼氏ができたと友人に報告する女子生徒たちの会話。
「佐藤先輩から、下の名前で呼ぶようになったんだけどね、恥ずかしくて」
うん、うん、そうよね。
呼び慣れないと何故か気恥ずかしいわよね。
お気に入りの辛さのカレーを食べながら心の中で同意していた。
ちなみにこれは盗み聞きではない。
後ろの席でされた会話がたまたま聞こえてしまっただけだ。
「初々しい反応だから楽しんでいるんでしょうねー」
「でも、きっと佐藤先輩も照れ隠しなんじゃないの?それだけ呼べ呼べって弄ってくるんだもん」
その言葉に令子ははっとさせられた。
(あれ?………私横島君の彼女でもないのに。何で名前ひとつで動揺して…、っていうか彼女って!?……何で恥ずかしいのよ!)
頬はあつかったが、スッと頭が冷えた気がした。
そうして横島との待ち合わせの放課後。
意を決して挑んだ。
(こんなにも横島君が目立つなんて思わなかったわ…一体何をしたのよ!なにを!)
なぜだかすごくイライラする。
「!令子さん!いえ、さっき着いたところなんで…すみません待ち合わせの場所決めておけばよかったですね」
つい、ここまで来ちゃいましたと横島は申し訳なさそうに頬をかいた。
横島としてもまさかこんなに人だかりが出来るとは考えていなかった。かなり不可抗力であり、ばつが悪い。
「ううん、迎えに来てくれてありがとう!それじゃ、いきましょう」
さっと横島の腕を乱暴にならないように掴み、女子生徒たちから引き離す。
「…はい!」
にこりと笑った横島の顔を見て、モヤモヤしていたことも忘れて笑い返す。
前に進む度に人が自然と避けていくのでさっきよりは歩きやすかった。
「もう少し早くこれたらよかったわね」
「琥珀と待ってましたし、大丈夫ですよ?」
人の気も知らず笑う横島に外野からは可愛いだの、弟に欲しいだのと声が上がる。
あ、ま、まずい。
再び囲まれる前に手を繋ぐと、多少早足だが、その場を後にした。
(…またもやもやしてる…なんだろこれ?)