GS横島‼-煩悩なしで生き残れ-   作:こたろー

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#18

『あら、あの子ったらもうやられちゃったの?せっかく身体が手にはいったのに。全く何やってるのかしら…?』

 

艶やかな声が響く。

 

ぶわっと毛穴という毛穴が開く感じがした。

気味が悪い。

 

 

ずるり。

ずるり。

 

何かを引きずるような音が扉の向こうからする。

 

ずるり。

 

ぅふふふふふ

 

『嫌だわぁ、これで結界のつもり?』

 

悪戯を見つけた母親のような含み笑い。

 

そっと声の主が手をかけた。

その一瞬────扉が弾け飛び、結界が破られた。

パリンと硝子が砕ける音が甲高く響く。

 

「け、結界が!」

唐巣は叫ぶ。

 

張り直した本人だからこそわかる。

強度はかなり強いものだったそれは今や見る影もない。

 

煙が晴れ、それが姿を現す。

まるで風船を割ったくらいの労力しか使っていないそいつは────

 

『ふーん、欲しかったのはこれかぁ…まぁ、人間にしてはまぁまぁかしらぁ?』

 

─────令子のすぐ目の前にいた。

顎をひんやりとした冷たい、爪の長い手が撫で、真っ赤な長い蛇のような舌が令子の頬を舐めた。

 

「なっ!」

「ひっ!!!?」

 

巨大な蛇の下半身を持ち、ヘソから上は人の女性。

ラミアがそこにいた。

 

 

「逃げろぉぉぉッ!!!!」

 

叫んだ声はヤツの暴力の前に消える。

下半身を使い唐巣を吹き飛ばしたラミアはすぐさまその尾で令子を、とらえる。

 

「!ぐっ」

「ぁっ!きゃぁぁぁぁぁぁっ!!!」

悲鳴が響いた。

 

ばしん。

『静かにしなさいな、人間の小娘。こっちは起きたてなのよ』

 

ラミアに巻き付かれ逆さ吊りにされた状態で、令子は平手打ちをくらった。

馬鹿力だ。

口の中がキレて血の味がする。

 

「な、何てパワーだ」

げほげほと咳き込めばそれは微かに血が混ざっていた。

厄介なことになったと唐巣は汗をかく。

 

室内は滅茶苦茶で、家具の残骸が転がる。

 

「な、なんでラミアが…ぐっ、がっ!」

 

締め付けられ令子の口から血が吐き出された。

それを浴び嬉しそうにラミアは血を舐めて笑う。

 

『…なんで?ですって?そんなの呼ばれたからに決まってるじゃない』

 

頭悪いのかしらと言いたげなオレンジの瞳は縦に割れている。

服をまとわない上半身裸の化け物は、その大きな胸を強調するかのように腕を組んだ。

 

『でも聖職者が来るなんて聞いてないわ…私神様ってヤツがだいっきらいなのよね』

 

不機嫌そうに言い放つ。

 

「がっ!!あああ"あ"ッ!!!!」

更に締め上げられ令子の口からは悲鳴が絞り出されるかのようにあがる。

 

『あんたを殺せば契約終了…私は自由なの!』

 

──────だから、さっさと死になさい?

にたりと笑った。

 

 

(こ、コノアマぁ"!!!!!)

 

内心怒り心頭だが巻き付かれては手も足も出ない。

 

令子は息を吐く度に締め付けてくるこの化け物を睨みつけるしかできない。

 

しかしながら、さっさと死になさいと言ったわりにニコニコと笑って、こちらがどう足掻くのか楽しんでいるようだ。

さながら拷問だ。

 

強者の余裕。

いや、それだけじゃない。

完全にこっちを嘗めているのだ。

 

(絶対鞣して、その蛇革でバック量産して売り払ったるからなぁ!)

 

とびそうになる意識に叱咤する。

そして前に依頼があった爬虫類園での係員の言葉を思い出した。

 

蛇は獲物が息を吐くたびに締め付ける。

呼吸を締め付けにより止め、心臓の鼓動を感じ取る。

鼓動が止まるとみるや飲み込みを開始するといった内容だ。

 

(意地でも丸飲みなんかされてたまるもんですかっ!)

 

『あら?神父さん、動かない方が良いわよ?またこの子締め付けちゃうわよ?』

 

クスリと嘲笑った。

 

「!っくそ…。……………!!?……美神君ッ!父と子の聖霊の────」

 

(何でこのタイミングでアリアを?…!!!)

 

『!貴女見捨てられたわね、バカな人間たちね…』

「バカはあんたよ。いい加減私たちを嘗め過ぎよッ!!」

 

────バシャリ。

『!?これは…酒!!?』

 

バケツいっぱいの酒がラミアの身体にかけられた。

次々に酒の瓶が投げ込まれ割れた先で酒がこぼれる。

 

「あんた…蛇だけあって、あまり目がよくないんじゃない?」

『だったらなんなのよ?』

 

キッと睨まれても、令子はかまわず笑う。

不機嫌そうだがラミアも余裕の表情を崩さない。

 

「その分嗅覚は発達してるんでしょうけど、これだけ屋敷を壊し回ったあとじゃ…臭いが混ざりすぎて気付くのがちょっと遅くなったみたいね」

 

ヒュンと右後ろから飛んできたバケツを、反射的にラミアが振り払ったその時────

 

ガァ!!!

唸り声をあげた琥珀がラミアの上半身に飛び掛かった。

 

首を狙ったその牙はラミアが避けたことで、その青白い腕に深く突き刺さった。

 

そのまま重力によって床に叩きつけられる。

『ぐっ!…!!?神獣だとッ!!』

 

いつもより力を増した琥珀が体重をかけのし掛かるが、中々首は取れないようだ。

 

「ありがとう!琥珀!」

 

予期せぬ攻撃に慌てたラミアは令子を放り出した。

肺から、肋骨から嫌な音がするが、動けるなら上等だった。

 

「やられたら100倍以上にしてお返ししなきゃね!!」

構えたのは破魔札の束。

 

『そ、そんなことすればお前たちだってただじゃッ!』

 

「それが────どうしたって?」

にこりと笑って順番に札を投げ続ける。

 

破魔札の爆発から起きる炎が、アルコールの高い酒に次々に引火する。

 

『ギャ────!!!!!あつい、あつい!!!!』

 

火だるまになったラミアは苦悶に満ちた顔をする。

 

(先生のアリアはあと1分以上かかる!)

 

シャッとただから貰った神通棍を構えると、それにパワーが集まっていく。

 

「よくも散々締め上げてくれたわ、ねッ!」

『ギャ─────ッ!!!!!』

 

もはや悲鳴は人のそれではない。

獣の断末魔にあげる悲鳴のようだ。

 

鰻何かの解体よろしく尾を神通棍によって固定され、琥珀の牙や爪から逃れようとする必死なラミア。

 

『お、おのれぇッッッ!!!!!』

 

「ぐっ!!!」

霊力を流し続けてラミアの動きを封じる。

しかしながら身体は痛いなんてもんじゃない。

 

痛みなんて通りすぎていて、もう眼が霞む。

(…こんちくしょー!!!!)

 

「アーメン!!!!」

 

唐巣の霊力と神々の力が炸裂する。

琥珀はタイミングよくその場を離れた。

 

「くそがぁ!!」

 

素早く上体を起こしたラミアが反撃に転じようとしたが、一足はやくその場に現れた巨大な稲妻がラミアを焼いた。

 

『!!!!!ッッッッ!』

 

もはや悲鳴は上がらなかった。

プスプスと焼け焦げたラミアはそのままうつ伏せに倒れた。

 

「美神君無事かい!?」

「肋骨何本かいっちゃってますけど、生きてまーす」

 

唐巣は駆け寄る。

令子は脱力し、その場にへたりこむ。

偉い目に遭ったもんだ。

 

「あの蛇皮もう使えないわね」

ふうと息をするとずきんと身体がきしんだ。

 

今回はさすがに危なかった。

彼らが機転を利かせていなかったらと思うと恐ろしい。

 

(…何かの予兆か?一度小竜姫さまに相談しなければならないな)

「立てるかい?」

 

ピクリと動いた。

 

『…ガァぁぁぁぁぁぁ』

 

「!?まだ生きて…」

「!美神君!!!」

 

時が止まったかのように、令子の目にはスローモーションに見えていた。

 

意識を完全に失い、白目を剥いたラミアの頭が令子に迫る。

今動かないと殺される。

わかっていても縫い止められたかのように…身体が動かない。

 

「!!ッ」

(やばい、動けない!!助けて、誰か!!)

 

固まるしか出来なかった身体が強い力で引き倒された。

大きな影が自分を守るように抱き締める。

 

(パ…)

涙が溢れた。

 

その時不自然にラミアが止まった。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 

理性の欠片すら残っていない動きは素早かったが単調だった。

琥珀に再び押さえつけられ一瞬止まったその隙を見逃さなかった。

 

間に割り込んだ小柄な影が神通棍を構え、ラミアの首を居合いの要領ではね飛ばした。

 

「ぐっ!!!」

最後の足掻きとばかりに、横島の肩にラミアの爪が何本か刺さり、貫通し血が流れ出て唐巣の背と令子の顔を濡らした。

 

きっとあの一瞬は何が起きたのかラミアには理解出来なかっただろう。

 

宙を舞い、転げ落ちた首。

胴は痙攣しながら崩れ落ちた。

 

『オノレェ…』

 

そう呟くや否や、青白い炎が上がるとそこにはラミアの焼け跡と人影が瓦礫の中、残った。

 

唐巣は令子の無事を確認し、十字をきる。

 

召喚されてもなお、あのラミアは力が強く意識があった間はある程度自身の力で契約をはね除けることができたのだろう。

 

だが瀕死の状態になってはそれは敵わず、契約の執行により命尽きるその前に無理矢理使役されてしまったのだろう。

 

その姿は敵ながらにひどく憐れに思えるものだった。

 

「助かったよ、横島君」

「…!!」

「ギリギリ…間に合った…」

 

呟いたその声はひどく怯えているようだった。

小さくなった琥珀を抱えて撫でるその手が震えている。

 

横島は令子の元へ足を進めた。

 

「…令子さん」

名前を呼ばれ、びくんと肩が跳ねあがった。

 

暗い表情の横島。

唐巣は顔色が悪い。

 

「……怪我は?」

「た、たぶん肋骨が数本」

「……そう」

 

今。

今すぐ気絶出来るもののなら、是非そうしたい。

そんな心境に令子は駆られ、身を縮こませる。

 

目線を合わせるため横島は膝をつき、屈んだ。

琥珀をそっと足元に下ろす。

 

なんの感情も読み取れない虚ろな瞳。

それから目を反らせない。

 

「結果論ですが…一人でも、本当に大丈夫でしたか?」

「うっ」

「シャ──!!」

 

珍しく琥珀も怒りを露にする。

言葉に詰まる令子。

横島がため息をつくと、また令子が小さくなった気がした。

 

「自信をもて、でも過信は良くない。…中級っていっても戦う力が弱くても、あいつは悪魔。特殊な力があってもおかしくはなかった…その可能性の方が高かった」

「うぅ……」

 

完全にあれは自分の失態だった。

私情を仕事に挟んだのも良くなかったと、今は猛烈に反省している。

 

「令子さん、一つのミスが命にかかわる…そう俺に教えてくれたのは────貴女ですよ」

泣きそうな眼で、困ったようにいう。

 

「ご、ごめんな───」

「無事で良かった」

ふわりと傷を負っていない腕で、存在を確かめるように抱き締められた。

 

「!!!!ッ!!」

謝罪は中途半端に終わり、

耳元で囁かれた安堵の言葉が、耳を通してまるで毒か酒のように全身を素早くまわる。

 

甘い。

優しい響きに令子は涙を流した。

 

「ごめん、ごめんなさい!…助けてくれて、ありがとう…!!」

 

横島にすがり付いて、気付けば謝罪の言葉とお礼の言葉を繰り返していた。

 

唐巣はそんな弟子二人を前に、今度こそ安堵した。

皆一様にボロボロだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ」

 

すっかり忘れていたが、悪魔は成敗され契約は破棄されたのでストーカー息子はあんな騒ぎがあったにも関わらず無事だった。

素早く琥珀と横島が避難させていたおかげだ。

 

彼は依頼書に有った写真とは全くの別人のような変わりようだった。

悪魔というコーティングが取れた彼は、生気を吸われ続けていたせいかだいぶ痩せ細り、肋骨が浮き出ていた。

 

それでもギリギリのところで死ななかったのは、引きこもっている間に溜め込んだ脂肪のおかげもあったのだろう。

 

「もう大丈夫ですよ」

意識を取り戻した彼に唐巣は優しく声をかけた。

そして、状況や自分たちのことを話している間に、令子はそっと横島から離れ涙を乱暴に拭った。

 

「擦ると尚更赤くなりますよ?」

横島は苦笑する。

 

「美神君、彼から君に大切な話があるそうだ」

 

彼を介抱していた先生はあろうことか、発破をかけていた。

 

ほら、うじうじストーカーになるのは告白する勇気がなかったからだろう?だけど、もう気持ちはばれてしまっているんだ。ちゃんと自分の口で、言葉で伝えなさい、と。

 

神父という呼び名にふさわしい慈悲深い笑顔だった。

 

「……美神令子さん!好きです!俺と付き合ってください!」

 

叫ぶようにして伝えたストーカー息子。

そんな彼に令子はにこりと笑った。

 

「ごめんなさい、お断りします」

「なっ!!何で!?」

 

「大体好みじゃない」

ぐさり。

 

「ストーカーなんて気分のいいものじゃないし」

ぐさり。

 

「何より人の心をどうこうするのに、黒魔術アイテムや悪魔に頼ろうとするその根性がそもそも気に入らない」

ぐさり。

 

目には見えないが矢のように鋭いものが確実に刺さっていた。

 

「うっ、うわーん」

ストーカー息子は裸足でその場を逃げ出した。

 

「あちゃー、泣いてましたよ?」

「そうね」

ふんと鼻で笑う令子。

 

「これに懲りて、黒魔術には手を出さないといいんだが」

やれやれと唐巣は肩の荷をおろすと、もう一人の被害者、瀬川の娘を抱きあげた。

こちらは拘束されていたが、乗っ取られたのは少し前だったようだ。特に体に異常はみられなかった。

 

「もう大丈夫だと思いますよ?…悪魔と視界はリンクしていたから恐怖はしっかりと植え付けておきましたし」

 

ええ、だからこそ言われた通り、情け遠慮なしにやったのだ。

ただの子供にあれだけ恐怖を抱いたのだから、二度とバカな真似は出来ないだろう。

 

「それにあんな恥ずかしい告白したから、トラウマになっているだろうし」

 

苦い笑いがもれる。

 

「……パンイチでしたもんね」

「ねぇ」

じっと弟子たちは師を見つめる。

 

引きこもりどんどん蓄えられていった脂肪。

それにより真冬でも外気温が暑く感じていたのだろう。

 

サイズがどんどん合わなくなる服。

着ても、蒸し暑く締め付けがあり、着心地の悪い服。

 

服を着るのがだんだんと面倒になり、始まるパンイチ生活。

 

きっとその方が快適だったのだろう。

彼はその格好だった。

しかも急激に痩せたためサイズの合っていないパンツでだった。

 

自分がパンイチだったことを忘れていたようで、もじもじとブカブカなウエストを手でしっかりと押さえていたのにはなんとも言えなかった。

 

「あはは、恨み辛みほど面倒なものはないからね。トラウマにしてしまえば、それは彼だけの問題になるし、これでスッキリ解決だね」

 

「先生……」

「うっわー」

 

なんだかんだで、ああいう粘着質な男は先生は嫌いだったようだ。

からからと笑う師に、弟子たちは引きった顔を隠すことはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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