あの日以来、霊力駄々漏れになった俺は封じのアイテムミサンガを身につけ修行をすることで何とかコントロール出来るようになった。
だがほっとしたのもつかの間、誕生日を迎えたことで俺の霊力はさらにパワーアップをしてしまった。
自宅で低級霊の襲撃に遭うも、父さんの怒りの鉄拳により事なきを得たが、このままではまずい。
さらに追加でミサンガを身につけ、自宅…というか俺の部屋もオカルトグッズで魔改造され始めたし、忙しい先生の代わりに、教会に立ち寄る前に令子さんが毎日のように俺の様子を確認するため、顔を出すようになった。
母さんは娘が欲しかったのもあってかご機嫌で歓迎し、本当に仲が良くて…
今までの出来事は実は全て夢なんじゃないかなんて、毎朝思いながら起床する________何てことは2日ともたなかった。
今までの日常が恋しいなとも思うが、少しワクワクしているのも事実だ。
父さんと母さんの前じゃ不謹慎すぎて言えないけど。
目が覚めて、着替えて布団を畳む。
ミサンガが外れていないか、破損していないか確認するのも日課になった。
このミサンガ実は、令子さんや先生の髪の毛を使って作られている。
髪は女の命だし、先生の将来のことを考えると本当いたたまれない。
大切にせねば。
ぐるりと部屋を見渡す。
数日前までは普通の子供部屋だった。
今や見る影もなく、オカルト好きもビックリな変貌を遂げていた。
部屋の四隅には盛り塩。
御札は窓を含めて壁一面に貼られ、強力な結界が出来上がっていた。
うーん、もうなにも言うまい。
何よりこうでもしなければ寝ていられなくなってしまったんだから。
うっかり変なところで気を抜いたり、寝てしまったら…
まだ、無意識では霊力をコントロール出来ない俺は体を乗っ取られて…_____人生強制終了なんだ。
そんなの嫌だね。
部屋がこうなってからは大分ましになった。
感謝あれど、文句はない。
しかし、ふと考える。
前世、普通の成人男性だった曖昧な記憶をもっているが、『高島』…つまりは原作の横島の前世の記憶は全くないのだ。
しかも、この年齢で既に令子さん達に出会っているうえに、煩悩なしでこの霊力だ。
「かなりイレギュラーが起きてるよな…」
死亡フラグみたいで嫌になるな。
荷物を詰めた鞄を持って俺は部屋をあとにした。
とある平日の昼下がり、学校が終わった俺は例の神社に立ち寄っていた。
というかあれからほほ毎日のように顔を出してる。
令子さんが俺の家に様子を見に来る前、だからほんの少しだけの間だけど。
いつものように仔猫に餌やりをし、少し遊んで、お世話になった神様の祠のお世話をする。
屋根の上の埃汚れを払って中に入り込んだゴミを取り除き、拭き掃除も忘れない。
「これでヨシッと」
綺麗になってから破損している箇所を一時しのぎにしかならないだろうが、丁寧に修繕した。
何日かに分けて作業していたが、一応今日で最後になりそうだ。
直している間、胡座をかいて座った俺の膝には仔猫。
特等席と言わんばかりに丸まっている。
最近の定位置だ。
それが大きな金色の瞳でじっと俺を見上げてくる。
遊ばないの?まだ終わらないの?と言わんばかりに。
______か、可愛い。
ついつい作業を中断しては撫でてしまうが、まだまだ撫でたりん。
心なしか撫でられて嬉しそうに見えるし、尻尾もご機嫌ですと言わんばわかりだった。
俺自身かなりメロメロにされているって言う自覚はある。
これもあったから作業も長引いたな。
祠の格子戸をそっと嵌め直した。
「よーし、直った!綺麗になったな!」
御神体も手掛かりも無くて、なんの神様なのかは結局わからなかったけど、取り敢えず祠に饅頭をお供えした。
「にゃーん」
そんな様子を見て毎度喜ぶように俺の足元を走りまくる元気な仔猫。
「なぁ、にゃんこ。お前俺んとこくるか?父さんたちにはちゃんと許可貰ったぞ」
ピタリと動きが止まった。
そしてきちんとお座りした仔猫。
んー、こいつ頭いいなぁ。
こっちの話をちゃんと聞いているみたいだな。
「俺んちに来ないか?」
プイッと反対に顔を背けられた。
「…またフラれたか」
地味にショックなやり取りもここのところ毎日だ。
「あ、まずい。そろそろ令子さんが迎えに来る時間だ」
片付けを手早く済ませると、仔猫を一撫して慌てて走り出した。
そんな俺を見送った仔猫は、ぴょんと祠に潜り込むと、じっとあるものを見つめていた。
「解決策が見つかったかもしれない。一緒に来てくれるかい?」
そう言って笑顔で出迎えた唐巣先生と令子さんに連れられて、俺は六道女学院の理事長室にお邪魔していた。
豪華な応接セットのソファーをすすめられ、少々俺は居心地が悪い。
貧乏性というか、一般人でも知っているブランドソファーだったんだ。
もし、傷が着いたらどうしようとかうっかり色々と考えてしまう。
そんな俺を一通り霊視し終わった彼女はお茶で喉を潤してから話し始めた。
「お話には聞いていたけどー、本当に霊力が強いわねぇ。力が漏れてぇそれに反応した霊が集まるなんてぇ、前代未聞じゃあないかしらー」
なんともかったるい、気の抜けた口調で話す着物の女性は穏やかだが、困った顔をしていた。
六道家48代目当主であり、この学園の理事長だ。
「そうねー。確かに唐巣君の言う通りぃ、式神を使えるようになればぁ、溢れ出ている分の力は消費できるしぃ、本人の力も安定するわねぇー」
「本当ですか!それでは…!」
唐巣先生がテーブルを挟み身を乗り出した。
「でもねぇ、ーつ問題があるのよー。式神に主と認めさせないといけないしぃ。うちの冥子と違ってぇ、式神を従えやすい才能も無いわねぇー」
ああ、それでこの困り顔かと納得した。
折角なので出されたココアのカップを両手で持ち一口。
甘ぇー、うまいわこれ。
このカップも高いんだろうな。
かなり作りが凝ってる。
このブルジョワ一族め。
まあ、これも1000年以上に渡って伝わる、式神十二支を使役する式神使いのご当主の言葉だ。
…まず、間違いはないだろうな。
「うーん、問題はそれだけじゃないのよー。この子の霊力を漏れなくする位だからぁ、すんごく力のある子じゃないとダメだしぃ。…それかぁ、一体で無理なら複数体で分散しないとねぇ」
「それって」
困惑する令子さんに理事長は一つ頷いた。
「うちみたいに数体も式神と契約なんて、かなーり無理があるわぁ」
下手したら、その辺の霊や自滅以前に使役失敗で精神が壊れちゃうかもねぇ。
ずずっとお茶を飲んで理事長は一息をついた。
「そんな…」
がくりと力なく先生は頭を抱えた。
まさかコントロールし切れないことがこれ程弊害になるとは。
もちろん能力者としてこの上ない才能なのだ。
けれど、量も質も極上過ぎる。
それが問題になっているのだ。
「妙神山で修行すれば、パワーアップ、コントロール、経験すべて修めれるでしょうけどぉ、この子じゃぁ、試しの門すらクリアできないわぁ」
困ったわねぇー。
右頬に手を宛てて、理事長は考え込んでしまった。
うわー、まじで打つ手なしか。
ちらりと二人を盗み見た。
俺を挟むように座った二人はすっかり固まっていた。
心なしか顔も青い。
______妙神山修行場。
原作でもあれは確かに、きついだろうなと思う。
今の俺では霊的知識は無いし、体力的にも弱い。
自分で言うのもなんだが最弱だ。
霊が見える程度のガキじゃ、行かなくても結果は見えているな。
その辺の人間にだって負ける自信あるし。
「発案事態は悪くないんだけどねぇ。
まずはうちの子達並かぁ、それ以上の力の強い式神って言うところからして厳しいわねぇ」
「そうですか」
良い案だと思ったんだけどなぁ。
令子さんまでもが脱力しながら、俺の頭を撫でた。
むー、何かこう…。
「ん?」
「あら、まぁ。不味いわねぇ。たーくんの力に感化されて、うちの学園の子達の式神がぁ…___________バン
暴走し始めちゃったわねぇ。
呑気な口調とは裏腹に理事長の顔はひきつっていた。
見れば校庭やら校舎やらは阿鼻叫喚の様。
予期せぬ暴走に術者も半泣きだ。
「ちょっと待って、これ…下手な霊を相手にするより」
「ああ、かなりまずい」
ああ、もう…本当にごめんなさい。