「いやぁー!皆どうしたのぉ!!?だ、駄目よ!止まってぇ!!」
迫り来る恐怖に冷や汗を一瞬でかいた。
すんごく聞き覚えのある声が理事長室前の廊下に響いたと思った瞬間────────吹き飛んだ壁。
そう、壁だ。
今や廊下と理事長室は吹き抜けの状態だ。
叫び声の主は暴走状態の式神達の後ろで、瓦礫の間から足を生やしていた。
…ちょっとしたホラーだ。
しかも術者である彼女は完全に目を回しているらしく、ピクリとも動かない。
「!や、やばっ―――――ガンッ!!!!!!!
咄嗟にソファーから降りて令子さんごと伏せたが、唐巣先生は間に合わなかったらしくサンチラ(巳)の尾で綺麗に窓の外に放り出された。
いきなり主戦力が戦線離脱とかッ!
ここまで5秒足らずだ。
「よ、横島君…」
瓦礫の煙が晴れたそこにいたのは予想通りの式神達だ。
「あんな強力な式神が12体とか…まずい!理事長!……も気絶中ですか」
あはははと渇いた笑いしかでない。
うわー、この部屋で解決策練れる二人が揃って気絶とか。
…やるっきゃないか。
「こっちだ!着いてこいッ!!」
本当にここが一階でよかった。
唐巣先生が突き破った窓から外に出て走り出す。
最近走って逃げるのがデフォに成りつつあるな何て考える。
しかし困った。
最強の分類の式神が暴走状態(プッツン)で、しかもコントロールできる術者二人は揃って気絶とはいきなりピンチすぎる。
まあ、六道女学院についた辺りから薄々嫌な予感はしてたんだよね。
当たってほしくは無かったけどさ!!!!
シンダラ(酉)が音速で突っ込んできたのをサイドステップで避けた。
が、Tシャツは摩擦熱で一部溶けた。
ほぼ勘だった。
直撃していたらマジでヤバかった。
理性が効かないせいか、攻撃も単調で雑だったのが幸いしたな。
逃げ回りやすい校庭に出たもののピンチには変わりない。
俺は完全にターゲットとしてロックオンされている。
「先生!先生!横島君のピンチです!起きてッ!起きてください!………─────────────起きんかコラァッ!!!!!」
テンパり過ぎた令子さんが先生に更なる追い討ちをかけていたが、止める余裕もツッコム余裕もない。
一番ヤバイやつら(十二支)はこっちに引き付けたから、校舎がこれ以上壊れることは無いだろう。
─────…もう手遅れかも知れないけど。
それに十二支以外に暴走した式神は、ほとんど暴走したバサラ(丑)によって吸い込まれちゃってるから一先ずは大丈夫だろう。
しかし妙だ。
「異常はないな…」
腕のミサンガはしっかり機能している。
ただ、あの瞬間だけ。
別の力が加わって…、干渉された気がする。
現に今の俺はそんなに漏れ出ていないし、正常に体にめぐっている。
ということは。
(誰かさんの作為的なものを感じるなぁー)
校庭の中央辺りで改めて式神達と対面する。
正直さっさと逃げ出したいが、こいつらしつこく追ってくるだろう。
意味はない。
後ろに少しだけじりと下がると向こうも少し前屈みになった。
今動いたら駄目だ。
もう絶望しかない。
時間をとにかく稼いで、理事長か冥子さんが起きてコントロールし直してくれれば何とかなりそうなもんだけど。
あとは、式神は充電式みたいなものらしいから、力をある程度使いきらせて、影に自動的に戻るのを待つか。
ひたすら逃げて避けてを体力が続く限りやるしかないか。
「それも全力で」
式神から目をはなさず、腰に手を回しそれを掴んだ。
神通棍だ。
原作の令子さんも愛用している代物。
まあ棍とは名ばかりでほぼ剣のように扱う霊具だ。
原作の俺じゃ霊力が足りなくて使えなかったが、今の俺なら。
水晶に力を流す要領で神通棍に霊力を流す。
神通棍が霊力を帯びて光だした。
「悪いけど、傷つけたくないなんて弱者(俺)は言ってられないんだ!」
真っ直ぐに突っ込んできたインダラ(午)を避け、ハイラ(未)の毛針攻撃をバサラ(丑)の背後に素早く回ることで回避。
攻撃をまともに受けたバサラ(丑)の悲鳴があがった。
すぐに、走り出す。
「先生!理事長!二人共起きて!」
令子さんが絶叫する。
──────シュン
アンチラ(卯)が左脇を抜けた。
「おわっ!あ、危なかった」
ピリッと痛みが走る。
頬が切れて血が滲んだ。
Tシャツは無惨なことになったが、今のところ大きな怪我は幸いない。
ドドドド…心臓が今までにないほどフル稼働しているのがわかる。
あの鋭い耳で切られたのか。
ぞくりとした。
さっと神通棍を盾にする。
「ぐっ!!!!」
メキラ(寅)が瞬間移動で現れ、不意討ちでタックルをくらった。
まだ出来上がっていない軽い体はボールのようにポーンと宙に投げ出され──────────「横島君ッ!!!!!」
「ガッ!!」
校庭の木々に思いっきり背を打ち付けた。
声が出ない。
(体痛ぇ、息が…)
口からはヒューヒューと音をしながら空気が出ている。
痛い。とにかく至るところが痛い。
正直なとこ俺はもういっぱいいっぱいだ。
今できることは、気絶しないことくらいしかない。
もっとひどい惨事を引き起こすことになるから、歯をくいしばって耐えてはいるけど。
幸運(ラッキー)もここまでか。
(…誰か…、助けて…)
「このぉ!!!!」
令子さんが破魔札を投げつけているのか、音がすごい。
ちりん、ちりん。
(!?鈴の音)
『ねぇ、呼んで?…名前を、呼んで?』
白濁し始めた意識を振り払う。
「!!!!!」
何でこんなとこに!
そう思うと同時にやっときたかと何故かそう思った俺もいて、ほっとした俺は―――――
「───────…遅いよ、琥珀(コハク)」
それはポロりとこぼれた。