シスコン一誠くん   作:超人類DX

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さてと、運命の分岐点篇のOP

コロコロと場面やら視点が変わります。




ストレスの限界

 何故、そこまで我々悪魔を嫌悪するのだろう。

 悪魔を虫けら呼ばわりして、比喩じゃなく本当に手が出る少年の事ばかりでリアスは頭痛の種という意味で悩みを抱えていた。

 

 とりつく島は無いし、基本的に暴言しか言わないし、挙げ句の果てには制御不能レベルの力を只の人間である筈なのに持っている。

 

 しかも、妹は赤龍帝と来た。

 

 リアスにしてみれば触れただけですぐ爆発する爆発物を隣に生活している様で最近は生きた心地なんてしやしない。

 

 生徒会で幼馴染みの同族であるソーナとその眷属は死にはしなかったものの、激怒した彼に叩きのめされた。

 

 次はもしかしたら自分達なのかもしれないと思えば思う程憂鬱な気持ちにしかなりゃしない。

 

 しかもそれに付け加え、本日は天界側から派遣された教会の人間との会合。

 教会という時点で良い事なんてある訳も無く、雨天中止となった球技大会もあり、リアスの心はますます晴れないのだった。

 

 

 

 まあ、そんな都合の良い話は無いわな。

 というか、そうだったらそうだったで今更どんなツラして会えってんだって話なのだ。

 

 もう、数えるのも億劫な昔の記憶となってしまったのだから。

 

 

「ご存じですかイッセー様? 本日天界側からの使いがリアス様と会合をするらしいです」

 

 

 謹慎も解け、謹慎中にアーシアと呑気に遊んでたせいでレンにヘソを曲げられ、その機嫌を直す為に四苦八苦して漸く何時ものレンに戻ってくれてホッとした等々があり、後はレンの周りを飛び交うハエ共をどう粉々にしてくれようかって作戦を一人密かに考えていたこの日、雨により中止となった球技大会で持て余しながら、放課後になったらとっととレン連れて家に帰ろうと思っていた時だった。

 

 勝手に、頼んでも無いのに、許可すらした覚えすら無いというのに、わざわざ一年の校舎から二年の教室を訪ねて来た鳥悪魔の妹だったが、俺を見るなり笑いながら寄ってくるのにいっそ殴り飛ばして二度と近寄る気にさせないでやろうかと考えていた俺に、そんな情報を教えてきた。

 

 

「あのさフェニックスさん? どうして私のお兄ちゃんをイッセー様なんて呼んでるのかな?」

 

「それは勿論、イッセー様に心を盗まれましたので……」

 

「へー? ふーん? お兄ちゃんが、その……キミみたい子が嫌いだってわかってて言ってるのかな?」

 

「ええ、ですので私はその中でも一切の敵意が無く、寧ろその逆ですとわかって頂けるまで、こうして何をされようがイッセー様のもとへと参らせて頂くつもりですわ、レンお義姉様!」

 

「…………………。あ、この子やっぱりライザーさんの妹さんだ」

 

 

 天界側からの使い二人。

 ………時期的に見てそれは恐らくあの二人で間違いない。

 この雌鳥が何のつもりでそれを俺に教えてきたのかは知らないし、知りたくもないけど、この情報一点に置いては紛いなりにも役には立ったと思ってやらんこともない。

 

 だが、それだけだ。

 

 

「おかしくね? 生徒会の美少女達に暴力を働いた鬼畜野郎が何でレイヴェルたんみたいな美少女になつかれてるわけ? 不条理じゃね?」

 

「しかも何だしイッセー様って……おかしいだろ……間違ってるだろ……」

 

「しかも自動的に兄貴だからレンちゃままで……ふざけんなよ」

 

 

 小うるさい周りの視線に鬱陶しいと思う事無く、レンが敵を見るような顔して雌鳥と何か喋ってるのをBGMに俺は考える。

 この世界の二人は『違う』。

 そして関わることも無い……ってな。

 

 

「だから! お兄ちゃんはダメなの! 只でさえアーシアちゃんだけでも勝てる気しないのに、キミまで入り込んできたら私は敗北なの! だめっ!」

 

「ですがイッセー様もお姉様も何れは家庭を持つことになるでしょう? ですのでその候補に是非私を……」

 

「それでも駄目ー!! お兄ちゃんはずっと私のお兄ちゃんなんだから!」

 

 

 第一接点になるものすら無いし、向こうからしたら俺なんか『誰やねん』な状態だろうしな。

 ………。この世界のイリナとは辛うじてガキの頃レンの伝で知り合い未満にはなってたりはしたが、所詮それまででしかない。

 

 だから俺は会わない……そっちの方が恐らくなにも知らない二人にとって良いだろうからな。

 

 

「レン、帰るぞ」

 

「え? う、うん……」

 

「もうお帰りですかイッセー様? もう少しお話がした――」

 

「俺はお前となんざ話すことも無いし、ミリミクロンたりとも興味が無い。いい加減鬱陶しいんだよ」

 

 

 そうさ……俺が信じていた二人をこの世界の二人に押し付けてはならないんだ。

 それにさ、顔見たら錯乱しちまいそうだしな。

 

 

 

 

 

 

 レンお姉様を連れてアッサリさっぱりと帰ってしまわれたイッセー様は今日もツレない。

 しかしそこがまた良いということをわかってないのか、私達のやり取りを眺めていたイッセー様とレンお姉様のクラスメート……特に殿方達は口々にイッセー様への悪態をついている。

 

 

「んだよアイツ、生徒会には暴力振るう、レイヴェルたんに酷いことは言う。

良いところなんて何もねーだろ」

 

「まったくだ。大丈夫かいレイヴェルたん」

 

「折角だから俺たちで慰めてあげようか?」

 

 

 確かに普通の感覚を持つ者なら、イッセー様の態度にカチンと来るのかもしれない。

 だが私にとってしてみれば、そのツレ無さがまた良いのであって、勝手に傷ついてると解釈されても困る。

 というか、イッセー様と違ってここの殿方は下劣な目をする方が多すぎる。

 

 魅力の欠片もまったく無い。

 

 

「結構ですよ先輩方。イッセー様が私にミリミクロンたりとも興味がおありにならないように、私もアナタ方にミリミクロンも興味ございませんので」

 

 

 そうにこやかに言ってやった後、反応も見ずに私は教室を後にする。

 しかしミリミクロンも興味が無い……か。ふふ、そんな台詞を見下すように仰れるのは後にも先にもイッセー様だけですわ……うふふ♪ 腹が立つ筈なのに寧ろ何故か嬉しいです。

 

 

「さてと、取り敢えずは軽い偵察でもしましょうか」

 

 

 呆気なくイッセー様に振られてしまった私だけど、だからどうしたとしか思えない。

 恋というものはやはり障害があってこそ燃えるものであり、諦めないからこその恋なのだ。

 兄であるライザーと同じで私はとことんフェニックスですから。

 

 その為にはまず、悪魔という概念を嫌うその大きすぎる壁を乗り越えなければなりません。

 過度な接触は禁じられているけど、それは敵意を持つからであり、私に敵意が欠片も無い事を理解して頂ければ良い。

 

 つまり私のやるべきことは、イッセー様やレンお姉様に利益を持たらす事を地道にやり続ける事。

 だからこそ、今回天界側からの使いが何の用事でやって来たのかを知り、その情報をイッセー様へと献上しようと思ったのですが、早速その情報を握ってそうな方が廊下を歩く私の目に飛び込んでまいりましたわ。

 

 

「あら小猫さん、廊下は走るものではありませんことよ?」

 

「フェニックスさん……」

 

 

 転生悪魔、リアス・グレモリーの戦車こと塔城小猫。

 彼女とは奇しくも同じクラスということで一番関わりの濃い方です。

 イッセー様という共通の話題で話す事が多く、最もイッセー様から毛嫌いされているという意味では少しだけ同情してしまう方ですわね。

 

 おっと、話が逸れましたわ。

 何やら急ぎのお様子で廊下を走る塔城さんを呼び止めた私は早速、既に終わらせたと思われます天界側との会合についてを聞いてみようかと思います。

 

 

「お忙しいところ申し訳ありませんね小猫さん。

ひとつお聞きしたい事があります」

 

「何ですか? 私今急いでいるんだけど」

 

「みたいですわね。何かあったのでしょうか?」

 

「祐斗先輩が居なくなっちゃったから探しに……」

 

「あらまぁ……」

 

 

 祐斗先輩というと、レンお姉様に兄同様ストーカーみたいに付きまとってる騎士の方でしたわね。

 その方が会合中に『ちょっとあって』学園を飛び出して行ったとの事ですが……。

 

 ふむ、どうやらレンお姉様を追い回しに行ったといった様子では無さそうですわね。

 

 

「差し支えが無ければ理由をお聞きしても?」

 

「……。祐斗先輩の許可無く話せない」

 

「まあ、確かにそうですわね。ええ、この雨の中飛び出したともなれば何かご事情がおありなのでしょう。敢えて今はお聞きしませんわ。

その代わり、小猫さんをお手伝いさせて頂きます」

 

「は? 何で……」

 

「いえね、イッセー様もレンお姉様も帰ってしまわれましたので、割りと暇で暇で。

それに貴女とは知らぬ仲ではないでしょう?」

 

 

 本音を言うとそのついでに今回の会合について探るつもりですけど。

 クラスメートらしくお手伝いしたいと言えばそれっぽいでしょう?

 

 疑る様な眼差しを向ける小猫さんから目をそらさず、少々の微笑み共に提案する私に急いでいるからなのか深くは考えてないのか、小猫さんはコクリと頷く。

 

 

「わかった。お願い……」

 

「了解。では早速捜索を開始しましょう。騎士さんが行きそうな場所に心当たりは?」

 

「ある。付いて来て」

 

 

 しめしめ、これで騎士さんを探すに託つけて色々と聞けそうだわ。

 ふふ、イッセー様への手土産が増える……うふふ♪

 

 

 

 

 チラッとフェニックスさんが言ってたけど、なんか天界側と悪魔が会合らしい。

 

 

「ねぇねぇお兄ちゃん、天界側ってどんな人達なのかなぁ?」

 

「アーシアが元々天界側だったのは知ってるな?」

 

「うん、追放されちゃったって言ってたね?」

 

「つまりそういう連中だ。そもそも悪魔、堕天使、天使の三種族を世間じゃ三大勢力と呼ばれている。

今回はこの天使側の下につく勢力……つまり俺たちでも見る教会に所属する誰かが今回悪魔共とくっちゃべってるって訳だ」

 

 

 お兄ちゃんと相合い傘をしながらの下校。

 これだから雨の日は嫌いじゃないし、何時もよりたくさんくっついてられる。

 そんなワクワクでドキドキな気持ちを胸にお兄ちゃんから色々と教えて貰える訳だけど、要するに天使本人じゃなくて天使さんが支配下に置く教会所属の人間が悪魔さんと会合しているらしい。

 

 正直あんまりピンと来ない。

 

 

「何のお話なんだろうね?」

 

「さてな、どちらにせよ俺たちには何の関係も無い話だろうさ」

 

 

 ちょっと様子のおかしいお兄ちゃんがこれ以上話したくないみたいに言うので、私もこれ以上気にするのは止めようと思う。

 だってお兄ちゃん……さっきから悲しそうなお顔なんだもん。

 

 

「……………。それとは関係ないけど、お兄ちゃんどこか痛いの?」

 

「は?」

 

「だって、泣きそうな顔してるよ?」

 

「泣きそう? 俺が?」

 

「うん、何か辛いのを我慢してる顔……」

 

「…………。雨だからかな」

 

 

 雨だからと言うだけで理由は話さないお兄ちゃんに私はそれ以上問い詰めるのはやめた。

 いや、出来なかったといった方が正しいのかもしれない。

 

 聞いてしまったらお兄ちゃんが遠くに行ってしまう……そんな気がしたから。

 

 

「そっか、雨は確かに憂鬱になるもんね。

でも私は嫌いじゃないかな」

 

「ん? 何でたよ?」

 

「だってお兄ちゃんと密着しながら歩けるから!」

「………。ははははっ! 何だそりゃ?」

 

 私の言葉に笑ってくれるその顔も、何かをごまかす様に撫でてくれるその手も失いたくない。

 失うくらいなら聞かない。お兄ちゃんとずっと一緒に居たいから……。

 そう思ってたのに……。

 

 

「あ、やっと見つけた!! レンちゃんだよね!?」

 

「え?」

「っ!?」

 

 

 ライザーさんの時から心の中に痼として残っていた原因が現れてから、徐々にお兄ちゃんは変わり出してしまうなんて。

 私は思いたくなかったんだ……。

 

 

 

 その顔を見た時、まず最初に抱いたのは『歓喜と絶望』だった。

 

 

「私の事覚えてない? ほら、小さい頃遊んだ……」

 

「ええっと……」

 

「ほら、イリナよイリナ!」

「はぁ、イリナ……………うぇぇっ!? い、イリナちゃん!? あなたが!?」

 

「そうそう、久し振りレンちゃん! それからイッセーくん!」

 

 

 死ぬまで愛した女の平行世界の過去の姿。

 だが姿は同じでも中身はまるで別物。

 だからイッセーは、幼少期のレンと遊んでいた際に知り合ったイリナという少女とは殆ど関わろうとはしなかったし、今回の天界側からの遣いが誰かというのも知っていた上で関わることを避けようとした。

 

 しかし運命はどこまでも残酷であり、どこまでにイッセーに対し『罰』として降り掛かる。

 

 

「い、イリナちゃん……ず、随分と女の子っぽくなっちゃったね。

男の子みたいだったのに」

 

「あはは、そういえばあの時は短パンとかTシャツとか生傷だらけだったわね。

そういうレンちゃんも相変わらずイッセー君にべったりなんだ?」

 

「う、うん……」

 

「………」

 

 

 短かった髪は伸びてツインテールに結わかれ、被っていたフードが外れて見えた容姿は文句無く美少女。

 それはかつて悪魔に骨の髄まで利用されていた頃に再会した紫藤イリナそのものであり、レンに向けられた屈託の無い笑顔はまさに愛した女と同じだった。

 

 故にイッセーの表情はこれでもかと歪み、レンはレンでライザーへの暴行を止めた際に思わずといった様子で目の前の美少女化したイリナの名前を口にしていたイッセーを思い出し、危機感に苛まれていた。

 

 

(う、嘘だ。こんな可愛くなっちゃったなんて、勝てる気がしない。

何か変わった格好してるし、マントみたいの羽織ってて見えないけど確実におっぱいも大きい。ど、どうしよ……)

 

「? どうしたのレンちゃん?」

 

「な、何でも無いよ、あははは……」

 

 

 イリナと呼んだあの時からイッセーはもしかしたらイリナに何かしらの想いを抱いているのではと疑っていたレンは、キョトンとするイリナに乾いた愛想笑いをしながらチラリとさっきから無言のイッセーの様子を見る。

 

 この劇的な気しかしない再会で、しかも完璧に美少女化したイリナにもしイッセーが惚れちゃったなんて事があったら……レンは震えが止まらなかった。

 

 

「………………」

 

「背、伸びたねイッセーくん? 昔は私の方が背が高かったのに」

 

「………………………」

 

「? イッセーくん?」

 

「…………。何の用だ?」

 

「え?」

 

 

 そんなレンの心配を他所に、遂にイッセーへと話し掛けたイリナだったが、帰って来た言葉はこれでもかと言うくらいに冷たいものだった。

 

 

「えっと、事情があってこの街に戻ってきて、調べたらレンちゃんもイッセーくんも駒王学園の生徒だから探して……」

 

 

 幼少期も決して愛想が良いようには思えなかったが、それ以上に冷たい言い方に少し困惑しながらここに来た理由を話すイリナ。

 だがイッセーの表情は何かを思い出したくないというのがありありとしたものであり、イリナ……そして訝しげにその様子を静観していたフードを被るイリナの連れを見ると……。

 

 

「そうか……。悪いけど俺もレンもこれから急ぎの用事があるんだ」

 

 

 かつての頃ならまずありえない、突き放すようにありもしない用事を引き合いにして話す。

 

 

「へ? 用事……?」

 

「え、あ……う、うん……用事があったんだね。ごめん……」

 

 

 用事なんて無い筈だけど……と一瞬びっくりした顔をするレンと、思っていた以上に愛想が悪い対応に尻窄みしてしまうイリナ。

 

 

「行くぞレン……」

 

「え、でもお兄ちゃん……」

 

「良いから! 行こう……」

 

 

 相合い傘をしていたレンの腕を取ったイッセーは、イリナを気にするレンを連れてそのまま逃げる様に去る。

 

 

「ごめん……」

 

 

 小さく、誰に向けたのかもわからない謝罪を口にしながら……。

 

 

「………」

 

 

 ショックを受けた様に雨に濡れながら立ち尽くすイリナへ振り返ることは無く、イッセーは逃げたのだ。

 

 

「レン、先に帰ってろ……一人にしてくれ」

 

「お、お兄ちゃん?」

 

「ほら、傘はお前が使え……」

 

「ま、待ってよお兄ちゃん! お兄ちゃん!!」

 

 

 そしてレンに傘を押し付けるように渡したイッセーは雨の中を走り去る。

 

 爆発しそうな気持ちを孤独に処理する為に……。

 

 

 

 

 

 だから会いたくなかったんだ。

 同じだけど違う二人の顔を見たらこうなる事なんてわかり切っていたんだ。

 

 

「う、ううっ……うううっ!!!」

 

 

 相棒(ドライグ)という精神安定もしてくれた存在が無い今、乱れた感情を制御する事なんて俺にはできない。

 だからあの場からレンをも置いて逃げた俺が出来るのは、誰も来ない様な場所でこの荒れ狂う感情を沈める事。

 

 

 

「うう、ウォアァァォァァッ!!!!」

 

 

 虚しすぎる咆哮が、あの時白ガキを殺し損ねた雑木林の中を響かせ、衝撃波の様に木々を破壊する。

 

 

「違う。何もかも違うなんて分かりきってたんだ!! 俺の知るイリナもゼノヴィアも居ない! そんなことは最初からわかってたんだよっ!!! ちくしょうがァァッ!!!」

 

 

 それはただの八つ当たりでしかないのかもしれない。

 スキルを持たないこの世界のイリナとゼノヴィアが違うからって、その二人に何の罪も無いことはわかっている。

 

 けど中身は違っても尚、大好きだったトモダチと瓜二つの二人を見て平静になれる程俺は強くない。

 だからこのやるせなさをただ吠える事で晴らす事しかできない俺は、押さえ付けてきた異常性を白ガキから埋め込まれた力と共に解放し、周囲を破壊する事で感情の制御をするしかできない。

 

 

「はぁ、はぁ……ちきしょう、イリナ……ゼノヴィア……」

 

 

 意識する事で引き出せる様になった、白ガキの力をこの身から全て出し尽くして追い出すつもりで練った仙術の力が、壊した木々を修正するかの様に反応し、地面から芽が現れ、急成長し、樹海を作り上げる。

 

 それは白ガキが昔俺を拘束する時に使った術だからなんだったかであり、確か名前は神・森界降誕……だったか。

 

 とにかくそれに似た力が俺に埋め込まれたせいか、放り出した仙術エネルギーが反応して木々を生成し、俺を守る様に取り囲む。

 

 あれだけ手こずらせた意味不明の白ガキの力が、今じゃ俺の力になっちまってるなんて皮肉だとしか言えねぇ。

 

 そしてその力を察する事が出来るのが……。

 

 

「先輩……ですよね?」

 

「この力は一体……」

 

 

 この世界の白ガキと嫌いな悪魔だなんて……クソみたいに皮肉だぜ。ちきしょうが。

 

 

 

 

 フェニックスさんと祐斗先輩を探してる最中、強大な気の力を感じた私は、それが先輩が発したものであり、またそのエネルギーの発生源が、私がボコボコにされた雑木林だというのもあり、ついその場所へと向かってみると、そこにあったのは巨大な樹木が絡み合う雑木林ではなく樹海であり、その木々に守られる形に膝を付きながら頭を抱えている先輩の姿だった。

 

 

「………………。テメーか、何の用だ」

 

 

 私とフェニックスさんが呆気に取られてると、先輩が機嫌悪そうに私達を睨みつけている。

 雨によりずぶ濡れで、まるでその姿は捨てられた猫…………と言ったら確実に殴り飛ばされるので口が裂けても言えない。

 

 

「イッセー様! そのまま雨に打たれていたらお風邪を引かれてしまいます! ですからこの傘に……」

 

「要らない。

余計な事はするな、とっとと失せろ」

 

「で、ですが……」

 

「失せろと言ってるんだ! 今の俺は気分が悪いんだ! 殺されたくなければ消えろ!!」

 

 

 駆け寄ろうとしたフェニックスさんに怒鳴り散らす先輩の目の周りには仙術発動の証だと思われる隈取りが出来ており、瞳の色も金色に変わっている。

 

 

「何があった……と聞いても答えてはくれないでしょうから聞きませんが、さっき先輩が仙術の力を解放したせいで私達を含めた一部の人達が勘づいて此方に来ると思いますよ? 余計な詮索を避けるなら此処を離れた方が良いかと……」

 

「………」

 

 

 そんな先輩に私は提案の意味を込めて言ってみると、罵倒の言葉は無かった代わりに、金色の色に変色したその目が射抜く様に私を捉えているのと同時に、先輩が何かしらの方法で生成したと思われる樹木から発せられる気が取り込まれていくのが、最近やっと気の流れが見える様になった私にはわかる。

 

 自然の気を取り込み、仙術として練り込む。

 なるほど、先輩の扱う仙術のルーツはこれであり、同時にこの星が存在する限り先輩は実質無限に仙術を練れるという訳か……理不尽ですねこれは。

 

 

「っ……早く此処から離れましょう。

誰かが集団で来るのを感じます」

 

「確かに感じますわ。行きましょうイッセー様。

イッセー様とて鬱陶しい詮索は出来れば避けたいでしょう?」

 

「……チッ」

 

 

 そんな先輩に無言で睨まれてる内に、この場所に向かってかなり早い速度で向かってくる複数の気配を感じた私は、先輩にもう一度提案する。

 フェニックスさんも乗じてこの場から取り敢えずは移動しましょうと先輩を説得し、舌打ち混じりながらも何とか飲ませる事に成功した。

 

 移動先なんてまったく決めてないので、雑木林の抜けて適当に走り、辿りついたのは雨宿りが出来そうな目の前を川が流れる高架下でした。

 

 

「ふぅ、此処に居れば大丈夫でしょう」

 

「ですわね、大丈夫ですかイッセー様?」

 

「…………」

 

 

 私達が去った後の雑木林に案の定複数の気配を感じつつ、ホッと胸を撫で下ろしながら、ずぶ濡れになって仙術を解除した先輩とこれかれどうするかを考えつつ、取り敢えず雨が止むまでこの場に留まろうと腰を下ろす。

 

 

「イッセー様、こんなものしかありませんが、よろしければお拭きに……」

 

「必要ない…」

 

 

 随分長い間雨に打たれていたのでしょう、ずぶ濡れになってた先輩を心配したフェニックスさんがハンカチで拭いてあげようと手を伸ばしたけど、先輩はその手を払いのけ、ふて腐れた様にそっぽを向いてしまった。

 

 

「「「………」」」

 

 

 高架下なので、上に何かが通る度にその音が響き、その音と雨の打つ音をBGMに暫く私を含めた三人は無言でその場に腰を下ろしている。

 考えてみたら、普通の話題で会話したことが一切無い為、イザこうなると何を話して良いのかわからない。

 

 先輩が何故あんなに怒ってたのか……は、聞いてはいけないし聞かないと言った手前話題に出せないし、地味に困りますね。

 

 

「くしゅん!!」

 

 

 そう思いながらフェニックスさんと一緒になって先輩の様子をチラチラ伺っていた時だった。

 それまでボーッとしながら雨で流れの速くなってる川を眺めていた先輩が、地味に可愛らしいくしゃみをした。

 

 

「……ふっ」

 

「あ、あら……ふふ」

 

 

 まさに不意討ちだった。

 あんなに普段オラついてる先輩があんな可愛らしいくしゃみをするなんて思っても無かったので、笑っちゃ駄目だとわかってても私とフェニックスさんは思わず声に出して微笑してしまう。

 

 

「あ? 何笑ってんだよ?」

 

 

 それが当然気に入らなかった先輩は睨む様にして此方を見てきたので、慌てて私とフェニックスさんは謝る。

 

 

「ご、ごめんなさい。その、先輩のくしゃみが可愛らしくてつい……」

 

「寧ろ幸せな気持ちになれましたわ……」

 

「…………。その相手に歯やら骨やら折られてる分際でよくほざけるな。

バカじゃねーかテメー等?」

 

「否定はしません。普通なら先輩にあれだけ言われたりされたりしてるし、近づくなんて出来ない筈なんですけどね……」

 

「私はその、やはりイッセー様に心を盗まれてしまいましたから……」

 

「ふん」

 

 

 くだらない、と一蹴する様に鼻を鳴らした先輩は再びそっぽを向いてしまう。

 今更ながら、レン先輩と一緒じゃないのは、それほどに何か先輩にとって良いことじゃないことが起きて、そのストレスを発散したかったからなのでしょうか……。

 

 

「くしゅん!! ずずっ……うー…」

 

 

 それにしてもさっきから先輩のくしゃみが多い……。

 ちょっと心配になってきた……。

 

 

「大丈夫ですか? さっきからくしゃみが多いですが……」

 

「うるさい、別に心配される謂れは――げほげほっ?! ぅあー……」

 

「待ってください小猫さん。イッセー様のお顔が真っ赤ですわ」

 

 

 確かにフェニックスさんの言うとおり、先輩の顔は真っ赤で、先程まであった殺気の強い目も無くなり、こうボーッと遠くを見るような不安定な眼差しです。

 

 今さっきもくしゃみだけじゃなく咳き込み始めてたし……まさか。

 

 

「先輩、ちょっと失礼します」

 

 

 そんなイメージというか、癌細胞も勝てないと思い込んでいたせいで全然考えつかなった予感を胸に、私は一言言ってから先輩の額に手を置く。

 

 

「あ゛ー……なにすんらよ、ひぇめー」

 

「……………。凄い熱です」

 

 

 その結果、予感は的中した。

 雨に濡れすぎたせいで先輩は完全に風邪を引いてしまってた。

 しかも結構な高熱です。

 

 

「イッセー様! 大変ですわ小猫さん、今すぐ暖かい場所に移動しなくては!」

 

「先輩の家に送り届けるのが一番だけど、先輩の家は此処からだと一番遠い。とすると……」

 

「私の借りてるお部屋が一番近いですわ。

というか、そこまで転移すれば一瞬です」

 

「……ですか。それなら早く行こう」

 

「あぅー……」

 

 そう言いながら即座に転移を発動させたフェニックスさんの作り上げた魔方陣の中に先輩を抱えながら入った私は、一瞬でフェニックスさんの家にジャンプする。

 

 

「まず服を着替えさせ……………しまった、先輩のサイズに合う服がフェニックスさんの家にあるとは思えない!」

 

「それなら私コンビニまで行って買ってきますわ! 幸い下着や肌シャツならある筈ですし」

 

「お願い。なら私はタオルで――ちょ!? 先輩!?」

 

「よ、よけいなことすんな……帰らせろ……」

 

 

 フェニックスさんの寝室にジャンプした私は、ベッドの上に先輩をデフォルメさせたマスコット人形が大きさ様々に置かれるのを見なかった事にしつつ、フェニックスさんに許可を得てから先輩をそこに寝かしつけようとする。

 

 しかしその私を力無く突飛ばした先輩はフラフラしながら帰ると言い張り、部屋を出ようとした。

 

 

「そ、そのお身体ではイッセー様でも無茶ですわ!」

 

「うるへー……てめーらなんぞの施しなんかうけたかねー――うぁ……!?」

 

「きゃっ!?」

 

 

 当然引き留めようとフェニックスさんが先輩の腕を掴む。

 けど、相当体調が芳しくなかったのか、フェニックスさんの引き込む力に抵抗すら出来なくなっていた先輩の身体が大きく傾き、フェニックスさんを巻き込みながら盛大に転んでしまった。

 

 

「うぅ……」

 

「い、イッセー様……そ、そんな大胆な――あっ……んんっ……!」

 

「…………………」

 

 

 倒れた拍子に思いきりフェニックスさんの胸に顔埋め、右手の方はその胸を思いきり鷲掴みにしてたのを見たときは流石に不条理さを感じました。

 

 

「ぐ、ぅ……」

 

「ぁ……そ、そんなイッセーさまの息が……は……ぅ……お腹が熱くなって……ん……ぅ……!」

 

「おい、病気で弱ってる先輩を利用して盛ってないでさっさと着替え買ってこい鳥頭」

 

 

 だから思わずフェニックスさんに毒づいてしまった私は悪くない。

 

 

「そ、そうでしたわね……早くイッセー様のお風邪の看病をしないと……」

 

「ベッドに寝かせておくから早く――」

 

「く、くそ……ど、退け……帰る……」

 

「っ!?」

 

 

 そしてそれでも帰ろうとする先輩が足を滑らせて私にもたれ掛かってしまい――

 

 

「せ、せんぱいっ……! そ、そこ私の……んんっ!? せ、せんぱいのい、息がぁ……!」

 

「なっ!? い、イッセー様!? そんな、小猫さんスカートの中に顔なんて……!?」

 

「ふぅ……はぁ……ひぃ……」

 

 

 大事故になっても私は悪くない。絶対に。

 

 

「せ、せんぱい……は、恥ずかしいです……! ひんっ!?」

 

「ま、前が見えねぇ……」

 

「はぁ、はぁ……ぁ、あぁ……な、何だか私もお腹が熱く……」

 

「なってる場合か! アナタだって同じじゃない!! 早く離れて差し上げなさい!!」

 

 

 その後、何とか先輩をベッドに寝かし付け、近くのお店から着替え一式を買ってきた私達だったが、更なる問題に出くわしてしまう。

 

 

「下着も変えるとなると、その……アレだよね?」

 

「………。で、でも変えないと風邪は良くなりませんし……」

 

「だ、だよね……。でも取り敢えず先輩に聞いてみないと……。

あのー先輩? 着替えさせて貰っても良いですか?」

 

「………ん」

 

「……。これどっちの意味でしょうか?」

 

「多分意識が朦朧としてると思うけど……」

 

 

 全快の先輩に殺されるだろう真似をしてるのは自覚してる。

 けどここまで来たらもうそのリスクを覚悟でしないとやってられない訳で……。

 

 結局二人でやったら何となく一人より安心という謎の気持ちを持ちながらフェニックスさんと分担して先輩の湿った制服を脱がせ、タオルで拭きながら着替えさせたのですが……。

 

 

「先輩が覚えてない事を祈りましょう」

 

「……ですわね。それとレンお姉様にも……」

 

「うん、きっと殺される……」

 

 

 着替えさせた後、リビングで反省会をしていたフェニックスさんと私は鮮明に、多分この先ずっと記憶として残るものを思い出してお腹や顔を熱くさせながら、悶々とするのでした。

 

 

「…………………。あの、つかぬところ聞きますけど、アナタはイッセー様の事をどう思いで?」

 

「…………………。めちゃくちゃ嫌われてて、本当なら関わるべきじゃないとは思ってる。

けど、それ以上に気になってしまう人……かな」

 

「そうですか……アナタも同じですか」

 

「うん……」

 

「はぁ……このまま夜までイッセー様を看病しましょう。

最悪このまま一晩泊めてしまっても良いですし、アナタも折角だから泊まりなさいな」

 

「お世話になります」

 

 

 はぁ……何でああまで殴られたり罵倒されたりするのに、先輩の事で頭が一杯なんだろ。

 私ってフェニックス並みに変なのかな……。

 

 

終わり

 





補足

ストレスが限界に達して遂にリアルに体調が崩れた。

お陰で悪魔やら小猫たんに世話されるという展開。





その2

本日イッセーにされた事(レイヴェルたん篇)

 ミリミクロンも興味ねぇと罵倒される。

 元ネタが某柱間ァ! の樹界降誕的術をストレス限界で爆発させながら発動した場面に圧倒される。

 心配して駆け寄ったら失せろと言われる。

 取り敢えず移動し、ずぶ濡れのイッセーにハンカチで拭いてあげようとしたら手を叩かれた。

 風邪を拗らせたイッセーを心の底から心配して家に連れ込み、看病しようとしたら本人はフラフラしなかまら帰ると言い張るので、それを止めようと縺れていたら事故って押し倒され、胸を鷲掴みにされるわ谷間くんかくんかされた。

 寝てるイッセーを着替えさせたけど、そのせいで発情してしまい、でも発散なんてしてくれなさそうで小猫たんと悶々とする。


小猫たんの場合。

レイヴェルたん同様、看病しようとしたらぶっ倒れたイッセーに思い切りスカートの中に顔突っ込まれ、呼吸をされたりでもう何かヤバくなる。

 同じく、着替えさせてあげた時に色々見たせいで悶々とする。







 イッセーが目覚めるまで傍にレイヴェルと居たら、実の所、弱ると誰でも良いから人肌恋しがる寝ぼけたイッセーにレイヴェルたん共々引きずり込まれ、めちゃくちゃ抱き枕にされた。

 衣服が乱れてしまったけど直せない。

 もうどうしようも無くお腹が熱くて切なくなる。

 でも本人はスヤスヤ寝てるだけ。


その様子は…………まあ、描写しても仕方ないんでやりません。
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