シスコン一誠くん   作:超人類DX

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マコト編がああな以上……



すれ違い

 意識が戻った頃には朝になっていた。

 

 一体自分はどうしたのだろうか? 確か逃げる様に一人になって、一人で癇癪を起こし、この世界の白音と悪魔一匹が来て何やかんやがあったのまでは覚えている。

 だがそこからの記憶が微妙に曖昧というか……。

 

 

「けほ……あ、風邪かこれ……」

 

 

 何百年振りに風邪をひいてしまい、そこからの記憶がすっ飛んだんだったと、イッセーはボーッとする頭を何とか起動させながらぼんやりと見知らぬ天井を見ながら呟く。

 

 そう、見知らぬ天井を見ながら……。

 

 

「あ? 何だここ……?」

 

 

 ボーッとしていた為に今の今まで気付かなかったが、現在イッセーは見知らぬ天井――つまり見知らぬ誰かの部屋で寝ていた。

 それは何を隠そう、高熱を出してフラフラになっていた彼を普通に心配して此処に連れてきたレイヴェルが人間界の学校に通う為に借りた部屋なのだが、生憎そこら辺の記憶がすっ飛んでいたイッセーは覚えておらず、知らない場所で明らかに他人の匂いのする布団で漸く意識を覚醒させると、まだ治ってない風邪のせいで怠い身体を起こし、周りをほんの少しの警戒を込めて見渡す。

 

 

「ほ、本当に何処だここ……? 女の部屋か?」

 

 

 年頃の女のテイストを感じる部屋に、イッセーは記憶が曖昧な事もあって珍しく狼狽えながら辺りを見渡と

ふと枕元にマスコット人形が何体か……いや軽く10体は置いてある事に気づき、その人形達と目が合う。

 

 

「…………」

 

 

 勿論その人形達が言葉を発する事は無いのだが、何故か何処かで見た気がしてならない人形に他人とは思えない親近感を感じ、暫くじーっとその人形達とにらめっこを続けてる。

 

 

「何で俺はここに……てか何だこの格好? 何時着替えたんだ俺は……?」

 

 

 しかし何時までも物言わぬ人形と睨めっこをしていてもしょうがないと考えたイッセーは、取り敢えず何がどうしてこんな場所に、そもそも何処の誰の部屋なのかを考えながら半分まで起こしていた風邪の影響で怠い身体に鞭を打ち、ベットから降りてみようと身体を動かそうとしたのだが……。

 

 

「……………………あ゛?」

 

 

 右側が重い。いや左側も重い。てっきり数百年強振りのマジ風邪のせいかと思っていたイッセーだったが、どうやらそれだけじゃない事に掛けていた布団を前に押し出した時に気づき、『あ』に濁点のついた声を出してしまった。

 

 そもそも、妙に温かった。

 しかしそれは風邪でまだ下がってない熱のせいかと思ってたからであり、もっと言えば何の罰ゲームが発動してこんな事になったのか……と、直面することで割りと冷静にイッセーは考えつつも徐々に口元をこれでもかと歪めながら右と左に在るそれを見る。

 

 

「ん……」

 

「んぅ……」

 

「…………」

 

 

 徐々に状況を受け止め始めていたイッセーに全身から嫌な汗が吹き出すのと同時に、あり得ないくらいの鳥肌が立つ。

 いっそ見間違いであればどんなに良かったかと思いたいのに、日本人離れしたその目立つ容姿がそれを許さない。

 

 

「お……」

 

 

 だって、見知らぬ誰かの家の寝室で寝ていた自分の隣に……。

 

 

「#%〒♭♪■◆ΚΙΘΞΨΜΜーーーー!!!!!?!?!!」

 

 

 物凄く毛嫌いしている悪魔共がスヤスヤ寝てるのだから……。

 

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ーッ!?!?!?」

 

「ひぇ!? な、なにごと!?」

 

「て、敵襲!?」

 

 

 カチンと身に措かれた己の状況が歯車の様に噛み合い、それを全て理解したその瞬間、イッセーは近所迷惑も何のそのに絶叫した。

 その絶叫は比喩では無く部屋全体を震わせ、間近でスヤスヤ寝ていた小猫とレイヴェルを飛び起きさせるものだったとか……。

 

 

 

 

 

 

 喚き散らし、部屋を破壊しそうなレベルで暴れそうになっていたイッセーだったが、風邪による体力の消耗が笑えないレベルだったのか、直ぐに力尽きてしまった。

 

 お陰で小猫とレイヴェルが肉片になるのが避けられたのは幸運なのかもしれないが、何故イッセーがレイヴェルの部屋で寝てるのか、そして何故二人が頼んでも無いのに隣で寝てたのかの説明を受けたイッセーは精神的なトドメを刺されてしまった。

 

 

「ふざけるなよ……ふざけるなよ………!! この俺がカス悪魔と……ふざけるなよ……」

 

 

 風邪でぶっ倒れたのまではまだ良い。

 問題はよりにもよって倒れた自分をレイヴェルと小猫に看病され、挙げ句寝ぼけて自分がベッドに引きずり込んだという今世紀最悪のミスをしでかしてしまった事に絶望していた。

 

 

「俺のこの格好は……?」

 

「制服がずぶ濡れだったので、その……余計な事だとは思いましたがお着替えをさせて貰いました」

 

「一応出来る限りのクリーニングはしました……はい、決して何も見てませんので」

 

「………」

 

 

 只でさえこの世界のイリナとゼノヴィアから逃げて凹んでたのに、トドメこんなミスまでやらかすなぞ……しかも一晩泊まったなんて死にたくなると、ショックがでかすぎて一切二人に手を出さずに自宅に帰ろうとクリーニングした制服をひったくる様に奪ったイッセーは、何時もならうもはも無くミンチにしてやるのが、嘘の様に凹んでいた。

 

 

「帰る……邪魔したな」

 

「え!?」

 

「い、今なんて……」

 

「邪魔したな……。

後でこの着替えの金は払うから……。け、けけけけ……ひひひ……!」

 

 

 大きすぎるショックが逆に穏和にでもしたのか、驚くべき事に、自宅まで付き添うという小猫とレイヴェルに『要らない』とだけ言うと、普通に挨拶までした。

 

 そのあまりの変質っぷりにレイヴェルと小猫はギョッとしてしまうが、フラフラとまだ治ってない風邪とは別にフラフラした足取りで去っていくイッセーの背中を見送るしか出来なかった。

 

 

「……。相当ショックでしたのね」

 

「死ぬほど嫌いな相手だったから余計ショックだったんだと思う」

 

「ええ……そうですわね」

 

 

 小さくなっていくイッセーの背中を何時までも見つめながら、レイヴェルと小猫は複雑な表情を浮かべる。

 あのまま高熱に魘されたイッセーを放っておく事など出来ず、正直殴り飛ばされるのを覚悟で看病したのだけど、終わってみれば精神的に大ダメージを与えてしまった。

 

 それが酷く罪悪感を抱かせる。

 

 

「……。でもベットに引き込まれた時はちょっと嬉しかったと思いません?」

 

「……。否定はしない、普段が普段だし。

でもこの事は誰にも言うべきじゃないと思う」

 

「勿論ですわ」

 

 

 熱に魘され、弱りまくったイッセーの普段とは全く違うギャップに母性本能を刺激された事は内緒にしよう。

 割りと抱き枕にされたのも嫌じゃないのも黙っておこう。

 

 レイヴェルと小猫は今共通の秘密を持つ事で妙な連帯感を抱き、固く握手をするのだった。

 

 

 

 

 ショックで自殺しかねない精神状態のイッセーだが、ハッキリ言って自宅に帰ってからの方が大変なのかもしれない。

 何せ無断外泊だ。まさかレイヴェルの家に不可抗力で泊まったなんて言える訳も無いし、そもそも今着てるサイズが微妙に小さいスウェットはどうしたのかという説明も出来ない。

 

 従ってイッセーは偶々目に入ったコンビニに入り、トイレを借りてその中でクリーニングされていた制服に着替え、スウェットを紙袋の中に押し込み、自宅の屋根へと跳躍し、自分の部屋の窓から侵入を試みたのだが……。

 

 

「おかえりお兄ちゃん……」

 

「レ、レン……アーシア」

 

 

 自分の部屋じゃなくてイッセーの部屋で寝てたレンとアーシアにあっさりと見つかってしまい、物凄く微妙な空気になってしまった。

 

 

「昨日はどこに行ってたの?」

 

「いや、その……」

 

「その紙袋はどうしたのですか?」

 

「ド、ド○キーで買った着替え……」

 

 

  怒ってるならまだ良かった。

 が、今のレンとアーシアは泣きそうな顔をしており、その表情にマッチしてる涙声で追求されるのもあって、強烈な罪悪感で死にたくなっていた。

 

 

「昨日、あれから帰ってこなくて心配したんだよ……? 二度とお兄ちゃんが帰って来ないと思って……」

 

「そんな事は……いや、ごめん」

 

 

 思わずレンとアーシアから目を逸らしながら謝るイッセー。

 自分でもビックリするくらいこの二人に弱くなってるんだと今更ながらに自覚した訳だが、その謝罪が引き金となり、レンはとうとう泣き出してしまった。

 

 

「ぐすっ……よ、良かったよぉ……! お兄ちゃんが……ひっく! 帰ってきてくれて……!」

 

「そ、そうですねレンさん。本当に、イッセーさんがこうして帰ってきて……くれ……て……ふぇ……」

 

「お、おいおい……」

 

 

 嗚咽を漏らし、レンとアーシアが揃ってイッセーに飛び付くのを受け止める。

 相当に心配してたのがよーく分かるのが却って罪悪感を増大させ、イッセーはただただ謝るのだった。

 

 

「お父ちゃんは仕事だとして、お母ちゃんは?」

 

「町内会……」

 

「そうか……けほっ!」

 

「イッセーさんもしかして風邪を……」

 

「あ? ああ、自分でも今忘れてたがちょっと体調がな……けほけほ……」

 

 

 二人に抱きつかれた隙を突いて紙袋をベッドの下に放り込んだイッセーは、無理矢理止めていた咳を我慢できずにしてしまい、アーシアに風邪である事を気付かれてしまう。

 

 

「か、風邪!? お兄ちゃん風邪なの!?」

 

「え、あ、あぁ……いや、昨日あれから一晩中フラフラしてたからさ……雨にやられちゃったのかな?」

 

 

 本当はぶっ倒れてレイヴェルと小猫に看病されていた……とは口が裂けても言えなかったイッセーは口を押さえて小さく咳き込みながら誤魔化す。

 

 

「ちょうど休みで良かったよホント……けほけほ」

 

「た、大変! ええっと、氷枕用意しなきゃ! あ、あとお粥……!」

 

 

 泣いていたのが一変し、泡食った様に慌てるレンとそれを落ち着かせるアーシアを見て内心ホッとするイッセー。

 後はあの二匹を上手く口封じすれば、昨晩の悪夢は永遠に封印される。

 

 その為にはこの弱った身体をさっさと完治させなければと考えていたのだが、その沈静化しかけていたやり取りは家の中を響かせたインターホンにより再燃してしまう。

 

 

「え、こんな時にお客さん? 私出てくるからアーシアちゃんはお兄ちゃんを……」

 

「はい。ではイッセーさんはお着替えをしてベッドに……」

 

「おう」

 

 

 慌ただしく部屋を出ていったレンを見送りつつ、アーシアに促される形で部屋着に着替えさせられたイッセーは、そのままベッドに横になる。

 本当はたっぷりと爆睡しててまったく眠くないのだが、それを訴えたら怪しまれる為、ベッドの横で心配そうに見つめてくるアーシアの視線を受けつつ目を閉じる。

 

 

「……。レンの奴遅くないか? というか何か揉めてないか?」

 

「確かに、誰が来たのでしょうか?」

 

 

 レンが中々戻って来ない事を不審に感じたイッセーが、身体を起こす。

 

 

「見てくる」

 

「じゃあ私も…」

 

 

 もしかして質の悪いセールスマンなのかもしれないと思い、少し脅しつもりの表情を作りながらイッセーは玄関で揉めてる声がするレンの元へと行く。

 が、行った瞬間イッセーは後悔した……。

 

 

「あの、お母さんは町内会で今居ないし、お兄ちゃんも今具合が悪いの。

だからまた今度来て欲しいかも……」

 

「え、イッセーくん具合悪いの? ならちょっとお見舞いの言葉を……」

 

「おいイリナ、あんまり押し掛けるのもダメだろ」

 

 

 

 

「……」

 

「あ、悪魔祓い……?」

 

 

 レンが追い返そうとしてるその相手が、昨日の夕方に会いたくないのに会ってしまった二人組だったと認識した瞬間、イッセーは目の前がクラクラしてしまった。

 

 このタイミングでよりにもよってこの世界のイリナとゼノヴィアと鉢合わせするなんて、精神的に更にやられてもおかしくないのだ。

 

 

「あ、イッセーくん……こんにちは。

あの、今レンちゃんから具合が悪いって聞いたんだけど大丈夫?」

 

「ぅ……」

 

「む……? おい待てイリナ、そのイッセーとやらと一緒に居る女、何処かで見た気がしないか?」

 

「え? ………確かに。というかどう見てもおじさんとおばさんの子じゃないよね?」

 

「い、いえ私は……」

 

 

 イッセーに付いていったアーシアが二人の目に止まり、訝しげに見られて縮こまるアーシアはイッセーの背中に思わず隠れてしまう。

 

 

「あの子はアーシアちゃんといって、理由(ワケ)あってウチに住んでるの。

それより折角イリナちゃんに来て貰って悪いけど、お兄ちゃんは本当に具合悪いから今日のところは――」

 

 

 何かに怯えるようにイッセーの背中に隠れたアーシアを見てレンが二人に帰ってくれともう一度言い掛けた。

 

 するとアーシアという名前にハッと二人は思い出したような顔をすると、不躾にイッセー……じゃなくてその背中に隠れたアーシアを指差しながら言った。

 

 

「アーシア……? まさか『聖女』から堕ちたアーシア・アルジェントか?」

 

「行方不明になってたと聞いたけど、まさかよりにもよって『魔女』のアナタがイッセーくんとレンちゃんの家に転がり込んでたなんて……」

 

「っ……!」

 

「え、魔女?」

 

「………?」

 

 

 イリナとゼノヴィアの発した『堕ちた』だの『魔女』だのの言葉にアーシアはビクッとする。

 その言葉に全くピンとしてないレンは首を傾げるが、アーシアのこの反応からしてまず間違いなくネガティブな言葉だと察した。

 

 

「行方不明になっていたと聞いたが、一般人の家庭に取り入って生き永らえていたとは……。

その様子だと未だに我らが神を信仰してるのか?」

 

「…………………。は、はい、捨てきれないんです……」

 

「ふーん、魔女がねぇ? その様子だと随分二人と仲が良いみたいだけど……」

 

「それは……」

 

「なるほど、追放されて行く宛を失い、何も知らない一般人を騙して寄生してるという事か。元聖女ともあろうものが堕ちるところまで堕ちたものだな」

 

 

 妙に辛辣な物言いに、聞いていたレンがムッとしながらアーシアを庇う。

 

 

「ちょっとお二人さん。さっきからアーシアちゃんに恨みでもあるの? 言っておくけどアーシアちゃんはそんな子じゃないし、一緒に居るのだって私達の意思だよ」

 

「れ、レンさん……」

 

 

 いきなり来て、アーシアを見るなり言いたい放題な二人にいくらレンでも我慢が出来ずに言い返すのだが、特に青い髪に緑色のメッシュががったゼノヴィアというイリナの相棒らしい少女は淡々とアーシアを批判する。

 

 

「一般人のキミ達は彼女を知らないからそう言えるのだ。

神への信仰が足りずに堕ちたからこそ魔女だとな」

 

「私が聞いた限りじゃ、勝手にアーシアちゃんを祭り上げといて、あの子の神器が悪魔をも癒せるとわかった瞬間手のひらを返して魔女呼ばわりして追い出したんだってね」

 

「聖女と呼ばれたのも、神に見捨てられたのも彼女の信仰が足りなかったからだし聖女は神に愛される存在だ。そもそも他人からの愛や友情を求めている時点で聖女の資格はないのだ」

 

「……。やっぱり勝手だ」

 

「随分と庇い立てするようだが、キミはアーシア・アルジェントのなんだ? 我々を勝手だと言い切るくらいだが」

 

「友達で、ライバルで、家族だよ」

 

 

 気づけば一番小柄なレンが先頭立ってゼノヴィアと言い合いをしていた。

 

 

「いっそこの場でアーシア・アルジェントは断罪すべきだ」

 

「断罪? まさかそのこのご時世に銃刀法違反で捕まりそうなもので斬るつもりなの?」

 

「もしそうだと言ったら?」

 

「させないよ。それと私を只の一般人だと見くびらないでよね……!」

 

 

 そう言ってレンは赤龍帝の籠手を纏うと、イリナとゼノヴィアの顔つきが変わる。

 

 

神器(セイクリッドギア)……しかもそれは赤い龍の力」

 

「ま、まさかレンちゃんが赤龍帝……!?」

 

 

 少々驚くイリナとゼノヴィアだったが、それで狼狽えつづける程柔な鍛え方をしておらず、直ぐに冷静になる。

 

 

「キミと戦う理由はない。イリナの馴染みらしいからな。だがアーシア・アルジェントが存命とわかった今、放って置くわけにはいかないのだ」

 

「そうなのよレンちゃん。一応教会も行方不明になったのか彼女を探してたから……」

 

 

 あくまでもレンとやり合うつもりは無いと言ってアーシアの身柄を渡せと要求するイリナとゼノヴィアにアーシアは最早覚悟を入れ始める。

 

 

「あ、あの……私がそちらに行けば良いんですね?」

 

「ダメだよアーシアちゃん。

斬るって聞いて黙ってる訳ないんだから私は」

 

「で、でもこれじゃあ迷惑が……」

 

「大丈夫、迷惑だなんて思わないから……ね、お兄ちゃん?」

 

「………………」

 

 

 小さな身体でアーシアを守ろうとするレンが、それまで不自然なレベルで無言だったイッセーにニコリと微笑む。

 するとそれまで黙っていたイッセーはゆっくりと歩き始め、二人組の前に堂々と立つレンの頭を撫でてから身長の関係で見下ろす様にイリナとゼノヴィアの前に立つと……。

 

 

「帰ってくれ」

 

 

 ただ一言、冷たく、冷酷な表情で去れと吐き捨てた。

 

 

「え、イッセーくん……?」

 

「ほう、キミもアーシア・アルジェントを庇うのか?」

 

 

 昨日以上に冷酷な表情に一瞬戸惑うイリナと、アーシアを庇うと解釈して挑発的になるゼノヴィア。

 

 

「俺だって元々あの子がどうなろうと知ったこっちゃないと思ってたさ。

だから当初なら迷い無くお二人さんに渡してたのかもしれない」

 

 

 だが二人の知るところでは無いが、この時点でイッセーの心は完全に決定していた。

 

 

「けど今は違う。レンの……妹とダチになってくれるし、連れ帰って叔父と叔母に頼んで家に住むようになった事を後悔しちゃいないし、言われてハイそうですかと渡すつもりは無い。だから――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――永遠にさようなら、イリナとゼノヴィアとやら」

 

 

 同じ顔だけど、所詮それまででしか無いと。

 

 

「い、イッセーくん?」

 

「………」

 

 

 凍てつく様な目で言われたイリナはショックを受けた様に固まり、ゼノヴィアも言葉を失ったのか黙り混んでしまう。

 まるで何もしてないなのに一方的に『見限られた』様な気がして。

 

 

「ま、待ってイッセーくん。ちょっと言いすぎたのは謝るから――」

 

「あのさ、レンが言ったろ? 俺は具合が悪いんだよ………………早く消えろ」

 

「うっ!?」

 

「随分と口が悪いなキミは、そんなにアーシア・アルジェントが――」

 

「消えろっつてんのがわかんねーのかよ……ああっ!?」

 

「っ……!?」

 

「お、お兄ちゃん?」

 

「い、イッセーさん……」

 

 

 軽く咳き込みながら、あり得ない言葉を二人に吐き捨てたイッセーは、ショックを受けたイリナと目を見開くゼノヴィアを乱暴に肩を押して外に出す。

 

 

「こっちは朝から気分悪いっつーのによぉ、ゴチャゴチャ訳のわからねーことほざきやがって。魔女? 堕ちた? 知るかボケ、こちとら神なんつークソの役にも立たねぇゴミなんざ信じちゃねーんだよ」

 

「そ、そんな……何でそんな事言うの……?」

 

「おい貴様、今の言葉は我々に対する――うっ!?」

 

 

 信仰する神を冒涜する暴言を吐かれ、思わず持っていた剣の柄に手を掛けたゼノヴィアだが、そのまま身体が石の様に硬直してしまう。

 

 

「か、身体が動かない……っ!?」

 

「い、イッセー……くん?」

 

 

 それは体調が悪いのか顔色が芳しく無いイッセーの手に、何時の間にやら黒い錫杖の様なものが握られ、背に九つの球が浮かび上がっており、更には額に赤く妖しく輝く波紋模様に複数の勾玉が複数配置された眼と思われるものがギョロリと二人を睨む様に見据えている。

 

 それは奇しくも全力の殺し合いを演じた相手であるかつての白音が至った境地の際に開眼した輪廻を司る眼と同じであり、完全な死を迎えても尚笑っていた彼女からの贈り物だった。

 

 

「頼むぜ、只でさえアンタ等にこんな真似して頭がおかしくなっちまいそうなんだぜ? お願いだから黙って帰ってくれよ? なぁ?」

 

「「…………」」

 

 

 イッセーの額に不気味に開く輪廻の瞳が二人を恐怖に陥れる。

 最早ゼノヴィアに剣を抜く気力は無く、イリナと共に逃げるように去っていった事を誰が責めようか。

 

 そして去っていった二人を見送ったイッセーも……。

 

 

「は、はは……最低最悪だな俺は……くくく」

 

 

 自業自得とはいえ、精神的にも肉体的にも打ちのめされてしまっていた。

 

 

「お兄ちゃん……その、イリナちゃんにあんな事言っちゃって良かったの?」

 

 

 既に額の瞳は閉じ、開眼していた所を見られてなかった為に驚かれることはしてないレンが遠慮しがちにフラフラと部屋に戻るイッセーに話し掛ける。

 

 

「別に……皆違うってのがわかっただけだしな……」

 

「違う、とは……?」

 

「こっちの話だよ……へへ、なんかまた具合が悪くなってきたわ」

 

 

 部屋に戻り、一人無理してヘラヘラ笑ったイッセーはもそもそとベッドに潜り込む。

 それを心配そうに見つめるレンと、申し訳なさそうに顔を伏せるアーシア。

 

 

「ごめんなさい、私のせいで……」

 

「へ、別にお前の為じゃないから気にするな――――って言ってもアーシアの事だからどうせ気にするんだろう?」

 

「だ、だって……」

 

「だったらレンと一緒に寝付くまで俺の手でも握っててくれ……」

 

 

 そんな二人の頭をガシガシと撫でたイッセーは、二人に手を握ってて欲しいとお願いし、目を閉じる……。

 

 

「………。お兄ちゃん、泣いてる……」

 

「欠伸我慢してただけだよ……泣いてなんかないさ……くくっ」

 

 

 心の中で何度も『さようなら』と呟きながら。





補足

板挟みになった結果、選んだのは妹とアーシア。

理由としては、やはり同じじゃないからというのが大きい。

この世界の二人は自分と関わるべきじゃない……そしてやはり『持ってない』からこそわかり合えないという諦め。

故にあんなオチ。


その2

額に第三の眼の元ネタは、某アレです。
ちなみにこの眼も元々はネオ白音たんが覚醒して開眼させていたらしい。

ほんと、底無しに当時はヤバかったんです。
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