長く投稿せずにすみませんでした。
スランプのため気分転換に書きました。
完結まで書いてあるので、途中放棄しませんのでご安心を。
初めての方は初めまして。
一時間おきぐらいに予約投稿しておきますので、続けてお楽しみください。
プチッ
軽い音を立てながら、高く赤いシンプルなハイヒールが厨房の床を彷徨っていたゴキブリを一切の躊躇なく踏みつぶす。
「当然でしょ。
どんな清潔に管理された厨房ですら、必ずゴキブリは侵入してくる」
苛立ちを隠すことなく、ハイヒールはぐりぐりと・・・ 否、ギュリギュリと音を立てながら念入りにゴキブリをすり潰していく。
「世界一使えない
冷たい声でありつつも、確かな怒りを燃やしながら女性は静かに告げた。
「ヤレヤレ・・・ いつもながら人使いが荒いですね・・・
雪乃さま」
「いったん下がりましょう、雪乃様。
冠君、君は予定通りあちらへ」
悪役のような二人組の後ろから現れた一人のスーツの青年が、二人へと声をかけた。
「そうね、影山。
様子見はこれで十分だわ」
「承りました、影山さん」
二人も了承の意を示し、女性と青年はたった今入ってきた入り口から出ていき、美少女然とした少年は次の対戦者である南東京支店・河内恭介の元へと向かった。
女性と二人きりになった青年は通路に誰もいないことを確認した後、女性 ―― 梓川 雪乃 ―― へと寄り添い、心配そうに声をかけた。
「大丈夫か、雪乃。
ゴキブリなんて踏みつぶして」
すると彼女は今までの傲慢そうな態度と固まった表情を崩し、ガタガタと音を立てんばかりに体を震わせ出した。
「どどどどどどうしよう、だってつい目の前にあれがいたから・・・ ふ、踏みつぶしちゃったのよぉ。
どうしよう、もうこの靴履けないわ・・・ いいえ、それ以前にもう脱げないわ! どうしよう、
「わかった。大丈夫だ、靴はすぐ用意させるから。
また使うことなんて考えなくていい、そのまま袋に入れて捨てような?」
雪乃をなだめながら、雹はすぐさま携帯を取り出し部下へと命令を下す。
「私だ、すぐさま雪乃様の靴の替えを用意しろ」
それだけ言って携帯を切り、自らの恋人兼婚約者である雪乃をなだめることに雹は専念する。
「顔、真っ青だぞ」
そっと肩を抱きながら、大切そうに雪乃を撫でる。
「もういや。ゴキブリを踏みつぶした時の感触が・・・」
「わかった。わかったから、もうこの場で靴は脱ぎ捨てていっていいから、な?」
「だって、そうしたら・・・」
「こうすればいいだろう?」
未だに先ほどあった惨事から目を背けられない恋人を軽々と抱き上げ、雹はゆっくりと会場の外で待たせている車へと向かう。
恋人に抱きしめられながら、首へとしっかりと腕を回す雪乃はまだべそべそと泣きながら、絞り出すように言葉を紡ぐ。
「よかった。月乃ちゃん、本当に良かった。
月乃ちゃんのところに、いい職人さんが来てくれて・・・」
「あぁ、そうだな。
水乃ちゃんもよかったよな、あんないい店長さんを部下に出来て」
そこにはやはりつい先ほどの見下すような気配も、彼女らを排除するような敵意はなく、ただ腹は違えども妹を大切にする姉がいた。応える恋人もまた姉である彼女の気持ちを慮り、将来的に妹になり得る彼女達を思いやっていることが見て取れた。
「手を回してくれたのはあなたじゃない、雹」
「有能な人材が消えるのは惜しいから、少々こちらで良いように使っただけだが?」
「あなたはまたそうやって」
「俺はパンタジアの人事部長だからな」
素直じゃない物言いの恋人に雪乃は呆れるが、雹は冗談めいた言葉で返す。だが、内容はともかく傍から見れば恋人同士のイチャイチャである。
「さて、冠君にも本格的に働いてもらわないとな」
「また、企みごとなの?」
「少しだけ、な。
それに必要なことなんだ」
雪乃の口元に指を立て、内容は秘密だと言わんばかりに彼は笑む。
「信じているわ、雹」
信頼と愛情を隠すことなく笑む恋人と共に車へと乗りこみながら、彼の胸中にはある思いがあった。
(さぁ、始まるのか。原作が)