あの終わりはないな と 俺は思った   作:無月

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「東君達は今頃、研修でもしてるんですかねー」

 

 眩しそうに太陽を仰ぎながら、冠は珍しくスーツを着て影山と並んでいた。

 

「あぁ、マイスター霧崎の妹さん直々に教えを受けている筈だ」

 

「黒柳先輩も一緒にですか・・・」

 

「その筈だ」

 

 のんびりとする冠とは違い、新郎の纏うスーツを着て待つ影山は落ち着かず、そわそわと周囲を見渡していた。

 

「ところで影山さん、結婚式が出来ないから写真館で写真を撮るっていう話がどうして施設を借りて大掛かりな写真撮影になっているんですか?」

 

「・・・部下に任せたら、そうなってしまってな」

 

「愛されてますねー」

 

 という冠もまた嬉しくて仕方ないと言わんばかりにニコニコと笑い、出席している。

 

「どちらかと言えば、オーナーの方がだろうな。

 先が長くない、そう思われても仕方ない。年齢が年齢だ・・・」

 

 出席者も本当に最低限であり、正式な式ではないということで短い式とも言えないものだが、影山は一度断ろうとした。

 だが、オーナーのため、そしてオーナーを想う雪乃のために、この大掛かりになってしまった写真撮影を許可した。

 影山自身そうならないことを望んではいるが、オーナーが亡くなるかもしれないという現実は刻々と迫っているのは確かだった。

 

「ところで冠君、南東京支店の方は大丈夫かい?」

 

「新商品としていくつか出して何とかしていますが、サンピエール側の大幅な安売り戦略などは痛手ですね」

 

「この件に関してはこちらから援助が出来ないからな・・・」

 

 苦い顔をする影山に冠は気にしなくていいと言わんばかりに首を振った。

 

「むしろ、潰すように協力しなければいけないでしょうに」

 

「模糊山さんを応援に出すか? 恋人のためにということなら邪魔も出来まい」

 

「・・・影山さん、実は根に持ってます? 店長に対して」

 

「黒柳君のことで少し、な」

 

 冠の言葉に影山は否定せず、むしろ肯定した。

 頭はいいが扱いにくく人間関係を保とうとすらしない問題人物に対して、影山はひどく被害を被った。否、人事の一角として将来性だのとのたまう上司に押し付けられたこともある。

 影山と黒柳との関係自体はけして悪くはないが、それはあくまで上司と部下という関係を確立させた影山の努力である。

 

「あのプライドの高くて傲慢な彼の相手は、なかなかにしんどい」

 

「あぁー・・・ 独特な性格ですからねぇ・・・」

 

「扱いを覚えるまで私がどれだけ苦労したか・・・」

 

 その苦労もあって影山のていよく使える駒の一人となったのだが、その原因となった松代に恨みを抱くのは自然の摂理である。

 

「そういえばフランスにはカイザーの三兄弟がいましたね。

 もし、三人が昨年の人達のようにカイザーのパンを食べて戦意喪失して戻って来たら、どうするつもりだったんですか?」

 

「・・・そんな繊細な三人かね?」

 

「あぁー・・・ 河内さん以外は大丈夫ですね」

 

 影山は少し考えるようにしてから冠に問い返すが、冠もまた影山の言葉に頷いた。

 そもそも同行者である黒柳が心臓に毛どころか、心臓がアダマンスチームで出来ているような男である。

 

「大体、パンを一口食べて戦意喪失というのが私にはよくわからない」

 

「えっ、それで新人戦を三回連続で不戦勝させてる僕の前で言います?」

 

「試合のパンを審査員が食べてみなければわからないだろうに。

 昨年の予選落ちの不名誉を払拭してほしいというのも本音だから、決勝までいかずとも結果を塗り替えてくれればいいさ」

 

 嘆かわしいと言わんばかりに首を振る影山はさらりととんでもないことを言い放つが、冠もまた大して表情を変えずに頷く。

 

「ですね。

 そろそろ雪乃さまたちが来るんじゃないですか?」

 

「ぬ・・・! そうだな」

 

 冠の一言でそわそわとした態度へと戻り、影山は扉からやってくるだろう雪乃を待つ。

 

「お義兄様、お待たせしました!」

 

「雪乃お姉ちゃんの準備が整ったよ、すっごく綺麗なんだから」

 

 二人の義妹の知らせに、影山は落ち着いた様子を必死に取り繕って立ち上がる。

 

「勿論、お義兄様もとてもお似合いですわ」

 

「ありがとう、月乃ちゃん。

 二人のドレスもとても可愛い」

 

「あーもう! 今はそういうのはいいから、早く雪乃お姉ちゃんのところに行ってあげて!! さっきからずっと、おじい様と会場で待ってるんだから!!

 お義兄ちゃんだって、会いたくて会いたくてそわそわしてたんでしょ!?」

 

「あ、あぁ」

 

 影山は今度こそ取り繕うことなく、小走りで雪乃の元へと急いだ。

 

 

 

 写真撮影の会場へと急げば、影山の目には白く美しい大輪の華が目に飛び込んでくる。

 

「雪乃・・・!!」

 

 ウェディングドレスの白は、名前の通り白い肌を持つ雪乃によく映えた。

 影山にはもう重々しいカメラも、会場の装飾すらも映らない。

 美しく最愛の恋人の姿だけが、今の彼の世界の全てだった。

 

「雹・・・!」

 

 そんな全てが自分を見て幸せそうに笑うのだから、もうたまらない。

 たまらず雪乃を抱きしめ、誓いのキスもない写真撮影会にもかかわらず、唇へと口づけを落とした。

 プロのカメラマンがこんな美味しい場面を逃すはずもなく、このシーンはばっちり写真に残された。それを知った二人が後日どんな顔をするかは、想像にお任せします。

 

「こらこら、雪乃、影山くん。

 二人の世界に行くのはいいが、この老いぼれを忘れないでおくれ」

 

「も、申し訳ありません! オーナー」

 

「忘れてなどいませんわ、おじい様」

 

 恐縮する影山に対し、幸せそうに笑む孫娘に貞尚の顔も緩む。

 

「あぁだが、本当に綺麗だよ。雪乃。彼が我を忘れるのも無理はない」

 

 ホッホッホと嬉しそうに笑って、貞尚は優しく孫娘の頬に触れる。

 

「お前は本当に優しく、たくさんの孝行をしてくれる。

 影山・・・ いいや、雹くん。君がそんな雪乃の隣に立って支えてくれることを、私は祖父としてとても嬉しく思うよ」

 

「いえ、私は・・・」

 

「えぇ、とっても頼りになる人なの」

 

 とっさに謙遜しようとした影山の言葉を雪乃がかぶせ、自ら影山を抱き寄せる。

 

「知っておるよ。

 それに雪乃が選んだ者じゃ、何も疑ってなどいないさ」

 

 一瞬だけ貞尚の目は全てを見透かすように光ったが、二人がそれに気づくことはなかった。

 

「さぁ、あまりカメラマン達も待たせるのもよくない。写真撮影を始めようか。

 月乃も水乃も待っているようだからね」

 

 貞尚に促されるがまま、写真撮影は始まっていく。

 貞尚は最愛の孫娘に包まれながら幸せな時間を過ごした。

 孫娘をしっかりと支えてくれる影山の姿と仲睦まじい三人の孫娘たちの姿に、もう何も思い残すことはないと思った。

 

 

 ん? 父親? 知らない子ですね。

 

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