あの終わりはないな と 俺は思った   作:無月

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 そして始まるモナコカップ。

 

『ていうか影山さん、今回は本当に何もしないんですか?』

 

 電話の向こうから聞こえる冠の声に、『自分をなんだと思っているのだ』と思うが影山は気にしないでおく。

 

「冠君、いつかもいったが私は入社三年目のベテランとは言い難い存在だ。

 しかもその間、人事部長になるまで私もそれなりにいろいろなことがあったんだよ・・・

 暇を見て外国に友人を作ったりだの、モナコカップに向けて人脈作りをしたりする時間は私にはなかった」

 

『いや、時間が足りてたらしたんですか・・・』

 

 冠の言葉に『出来なかったから言ってんだよ』とは返さず、溜息を零した。

 

「それに君も知っているだろう?

 審査員は世界を飛び回る人気エンターテイメントのピエロだ、そんな相手を捕まえる実力も人脈も私にはないよ」

 

『あなたなら何とかしそうな気もしますけどねー』

 

(出来ればしたかったんだよなぁ・・・

 このモナコカップ編がもっとも主人公の命が脅かされ、人の命も簡単になくなる話だからな・・・ 原作通りにいくことを願うばかりだ・・・)

 

『というか、そんなに大変だったんですか?』

 

「人の苦労話を聞いて楽しいかね?」

 

『え? 楽しいですよ? 影山さんの話なら』

 

 一瞬、影山の額に怒りマークが浮かぶが、愚痴ぐらいなら聞かせてもいいかと思いなおす。

 

「その話は今度だ。

 画面の方だといよいよ東君達の番になる。君もそちらに注目しておきたまえ。

 パリの研修において、彼らがどれだけ成長をしたかをね」

 

 そして、二人は同時に画面へと視線を移す。

 だが、目に入ってきたものは彼らが作ったパンではなく、等身大の明らかに人が入ってそうなロダンの『考える人』。

 

「・・・・冠君、君の指示かね?」

 

『しませんよ!! こんな指示!』

 

「賭けのレートをあげようという策かね?」

 

『元々低い評価をこれ以上下げる必要ないでしょう!?』

 

「彼らは『日本代表』という立場にあるんだよ?」

 

『だから、知りませんってば!!』

 

 自分の目がおかしいのかと影山は目頭に手を当ててから、もう一度画面を見据える。

 しかしそれは幻覚でも、『焼きたて!! ジャぱん』の第八巻でもない。

 実際にフルカラーで、その目をパンの中から輝かせている河内恭介がいた。

(ないわー・・・)

 

「何故、こんなことが・・・」

 

(これが原作の矯正力か・・・)

 嘆く影山に、電話の向こうで驚きが言葉にならない冠。

 

「ま、まぁいい。最悪、決勝まで行かずとも南東京支店が営業を続けられれば、それでいい・・・」

 

『・・・』

 

 絞り出すようにいう影山に、電話の向こうは不自然に無言になる。

 

「冠君? どうかしたかね?」

 

『あー・・・ そのことなんですがー・・・』

 

 酷く言い難そうに冠が言葉を濁すのは珍しく影山は少々驚いたが、問いたださないわけにはいかない。

 

「どうかしたのかね?」

 

『えー・・・ 怒らないって約束してくれますか?』

 

「私が怒ったことなどあったかね?」

 

『ない、ですけどー・・・ これはちょっと・・・』

 

「言ってみたまえ、判断はその後だ」

 

『凄い怖い言葉なんですが!?』

 

 先ほどの原作通りの流れに影山は嫌な予感と外れてほしい予想を立てながら、冠の言葉を待った。

 

『僕の全財産と南東京支店の皆で持ち寄って総額五千百七十万二十三円、賭けてしまいました』

「なんやて!?」

 

 キャラが違うと承知で影山は叫ぶ。

 

「そんな必要はないと言っただろう!?

 今回の件は前年の不名誉払拭と大会に出るということで充分だというのに!!

 その賭けに関しては宝くじと同じだと言っただろう!!? 勝ったらラッキー程度だと!」

 

『いやー、だってー。勝てる博打には乗りたいじゃないですかー。

 あと月乃さんもお二人の覚悟に『自分も出来ることを~』と』

 

「冠君、君は確実に松代さんに毒されているぞ・・・!

 月乃ちゃん、そんな覚悟はいらなかった・・・」

 

 優秀な部下におかしな博打癖が移ってしまったかと恐れつつ、義妹の思い切りの良さと考えなしを嘆く。

 

「とりあえず私は、霧崎にこの情報を流す。

 その間、店の経営は厳しくなるだろうが、危ない時は臨時休業にでもしたまえ。

 なんでこうなったかはわからんが、河内君には負けたら解雇(クビ)だと伝えておいてくれ。家族の生活は心配するなともね」

 

『いやー、なんかすいません』

 

「加えて冠君、援助しようにも私はこれからおそらくクレーム処理で手が空かなくなる。

 モナコカップはなんとか自分達で切り抜けるように」

 

『はーい、わかりましたー。

 ところで、影山さんはいくら賭けたんです?』

 

 冠の言葉に今回何度目かの溜息をつきながら、影山は短く答えた。

 

「へそくりの百万だ」

 

 

 

 命の危険はあるだろう、苦労もするだろう。

 だが自分に出来ることは既になく、原作通りになることを祈って、影山は既に鳴り始めている電話に向かって手を伸ばした。

 

「あのハゲ、負けたら覚悟しておけ・・・!」

 

解雇(クビに)しても別口で系列会社に働かせて、死ぬまでこき使ってやる!!)

 そう固く決意をしながら、これからしばらく続くであろう激務へと立ち向かっていった。

 

 

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