あの終わりはないな と 俺は思った   作:無月

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「原作通りにいって、よかったあぁぁぁーーーー!!!」

 

 知らされた優勝の知らせに、影山は自らの執務室で雄たけびを上げていた。

 

「はぁ、マジで胃に穴が開くかと思ったぁ・・・ というか、雪乃のタルトがなかったら持たなかったぁー・・・」

 

 目を閉じれば思い出すクレーム処理の日々、電話越しに頭を下げ続けた毎日。

 霧崎の南東京支店に対する攻撃、乗っ取りの命令、そのすべてを乗り越えて影山はここにいた。

 実際、霧崎を見張りながら合間を見つけて影山の元に雪乃が訪れていなければ、彼は精神的に持たなかったであろう。

 

「オーナーは隠居を決め、経営から一線を引いた。

 そして、社長の座は宙に浮いた状態、か・・・」

 

 原作だとあれ以後出ていなかったため、影山はてっきり亡くなったとばかり思っていた。原作の霧崎と雪乃ならばそれぐらいはしてもおかしくはなく、『行方知れず=死亡』だと認識していた。

 

「重いなぁ・・・」

 

 隠居を決めた時の貞尚は言葉、雪乃と影山が部屋に呼ばれ、静かに告げられた。

 

『あとは任せたよ、美味しいパンを多くの人達に届けておくれ』

 

 その言葉は影山達によって月乃・水乃にも伝えられ、二人もまた言葉以上の何かを受け取ったようだった。

 

「次の戦いかぁ・・・

 やるしかない、か・・・」

 

 主人公らしくない溜息まじりの言葉。それは当然だろう、彼は自分を悪役だと演じ続けていた。

 

「雹、入るわよ」

 

「あぁ、開いてるよ」

 

 軽いノックと恋人の声、これこそが彼にとっての日常で、それ以上は望んでいなかった。

 

「さっき霧崎から連絡が来たわ。

 パンタジアの社長を月乃に、そして私にはサンピエールの社長の座を渡す。ですって」

 

「あぁー・・・ そう来るか・・・」

 

 再びの溜息。

 雪乃に先を促せば、雪乃もまた頷く。

 

「競争が必要なんですって、くだらない」

 

「ということは、また試合かい?」

 

「『焼きたて!! 25』という番組だそうよ。

 今度は日本で、あちこちを転々とさせるみたい。そして、その番組資金を―――」

 

「今回の賭けの配当金で、か」

 

 正直、疲れもあって影山はどこかに突っ伏したいが、動き出している現実がそうはさせてくれない。

 何より惚れた女が立ち向かうと決めている以上、情けない姿ではいられない。

 

「はぁーーーーあ! なに、ポジティブに考えよう!!

 貞尚さんに言われた美味しいパンを届ける手段が増えたと思えば、なんてことはないさ」

 

「そうね。

 地域の活性化のための新しいパン作り、仕事として面白いじゃない?

 東君も随分乗り気だったらしいわよ?」

 

「日本のラーメンのような独自の文化が、ジャぱんという形で生まれるかもしれないな。

 なら、競争相手としていろいろ講じないとね」

 

「えぇ、もう陰謀なんて考える必要もない。身内同士で争う必要もない。

 『会社が違う』ただそれだけなんだから、こっちも全力で美味しいパンを作ればいいだけだわ」

 

「だな」

 

 肩の荷を下ろすように二人は笑い合い、和やかな空気が流れる。

 偶然とはいえ彼らが望んでいた状況であり、月乃を蹴落とすような真似も、身内に目を光らせる必要も、わざと不仲を演じる必要もなくなった。

 

「さて、日本に帰ってきた南東京支店の皆を出迎えるとしようか。そして、盛大にパーティーを開こう。

 勿論デザートは雪乃のタルトで」

 

「全力で作るから、楽しみにしてて頂戴」

 

 

 

 そうして祝いの席に手出された雪乃の全力のタルトにより、リアクションでパーティー会場が人外魔境になったのは微笑ましい余談である。

 

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