「やめるんじゃ、おじさん!!
魔王なんてパンは売っちゃダメじゃ!!」
「ほう・・・ 誰かと思えば・・・
だが、少し遅かったようだな・・・」
そう言いながら霧崎はサングラスを外し、その顔を東へと見せる。
そしてそこには本来あるべきはずの目はなく、パン生地が埋め込まれたようになっていた。
「どうだ、驚いたかね。
霧崎雄一という人間はこの世から消え去り、人類を超越した存在となったのだよ」
「じ・・・ 人類を超越した存在やて!?」
驚く河内だが、達磨になって東の肩に乗るお前には言われたくない。
「いわば、パンと
ヒューパンという存在にね」
霧崎は自分自身を見せつけるように両手を広げ、胸を張るが目が目がだけに滑稽なだけだった。
「地文、やる気ないやろ・・・」
達磨がメタな発言をするが知ったことではない。
「これからは人間どもに変わって、我らヒューパンが地球を支配するようになるだろう」
「アホが、何を勝手なコトを!!」
「そうじゃ! そんなコトは絶対させねぇ!!」
二人の言葉に霧崎は気にした様子もなく、それどころかどうってことのないようにしていた。
「心配はいらんよ、我々ヒューパンはパンしか食べない。
キミたちパン職人にとっても好都合なハズだ」
「何言っとるんじゃ!!
そんな強制的にみんながパンを食べるようになったからって、俺達が喜ぶワケがないじゃろう!」
「フン」
東の言葉に嘆かわしいとばかりに霧崎・・・ 否、ヒューパンは告げる。
「人間とはなんと愚かな生き物か・・・
得なことは得、損なことは損。そんなこともわからんとはな。
だが、この
ヒューパンは再びサングラスを外し、気持ち悪い姿を露わにする。
「貴様らにも、我が高等な知恵を授けてやるわ!!」
「!?」
「喰らえ!!」
某シリーズのサイクロプスよろしく発射される
「東くん、危ない!!」
どこから現れたマイスター霧崎によって東は危機を救われる。
そして、伸縮自在なのか戻っていく目。大変気持ち悪い姿である。
「ぬ!! こしゃくな・・・
だが次は外さん!」
再び射出されそうになる
「待ちなさい!!
今、このケータイでアナタの写真を写しました!
これ以上動くと、この画像をマスコミに送信しますよ!!
それでもいいんですか!?」
携帯を構えた冠が霧崎をとらえ、そのまま脅しをかける。
「フン、猿知恵を働かせおって・・・
仕方あるまい」
「魔王様、コイツらを見逃すのですか!?」
後ろに控えていたSPの一人が問いかけるが、魔王は気にしない。
「まだ記者会見場には記者たちが大勢いる・・・ここで騒ぎを大きくするのは面倒だ。
それに心配はいらん、こんな雑魚ども放っておいても何もできん。
彼らを守っていた人物・・・ 彼はこれから我らの仲間になるのだからな」
魔王がパチンと指を鳴らせば、SPの一人が何かを抱えて床に転がす。
「なぁ? 影山君?」
「うぅ・・・?」
「な!? 影山さん!!」
それは数日前から行方知れずになっていた影山だった。
「今までの計画において我らの懐に入り、君達を支えてきた男。
素晴らしい手腕だったよ。雪乃君と共に仮面をかぶり、我々の動きをさりげなく妨害していたのだからね」
霧崎は称賛を混ぜながら、未だ意識がはっきりとしていない影山を見る。
「そして、その手腕は今度は我らの元で振るわれる。素晴らしいとは思わないかね?」
「お義兄様!!」
「影山さん!!」
「さぁ、喰らうのだ! ヒューパンを!!」
髪を持ち上げられ、無理やり口の中に
『・・・!?』
場には緊張が降りる。
今まで自分達を守ってくれていた彼が敵として立ちふさがるのかと、東達は絶望する。
そう、河内が洗脳されかかった時とは比べ物にならないほどに。
「なんやて!?」
「比べるまでもないでしょう」
「役に立ったことの方が少ねーし」
「当然ですわ」
「否定、出来ませんね」
驚く河内にどこまでもクールな仲間達、それほどまでに『焼きたて!! 25』での彼の行動はひどかった。
「うぅ・・・ は・・・?」
地面におろされた影山は前髪を垂らし、力なく周囲を見渡すがまだ口にくわえられたままのパンを確認し、咀嚼を開始した。
その行動に東達の絶望は増し、魔王の笑みは深くなった。
だが、パンを飲み込んだ彼の口から出てきた言葉は、この場にいる誰もが予想しえない一言であった。
「・・・味付けしてないパンって、うまくないよね」
『はい?』
「せめて、ジャムぐらいつけようよ」
『はいぃぃ?』
「あ、携帯ある。
・・・あぁ、私だ。例の部隊を突入させろ」
駄目元で懐を探り、携帯があることを確認した影山は短く指示したのち、携帯を切る。
「な、何故だ!? 何故、ヒューパンにならない?!」
魔王の驚きの声に場が息を吹き返すように反応していく。
東達は希望へと塗り替わっているが、魔王同様に驚きを隠すことが出来なかった。
「パンを食ってパンになるわけないだろ、馬鹿か」
目覚めたばかりだからなのか黒柳よろしく口が悪くなっている影山だが、言っている内容は黒柳とは真逆である。
「ヒューパン化現象は美味さによるリアクションにより引き起こされる。
だが、私はどんなに美味くてもリアクションなんて取ったことがないんだよ」
『は?』
「って、そんな馬鹿なことあるかい!!」
達磨になっている物体がいうと説得力が凄い。
美味いものを食べたらリアクションをする。それはパンであろうかどうかは関係がない。この世界の常識である。
だが彼、影山 雹は転生者である。その感性は前世のもの。
「そういえば・・・」
思い当たる節があるのか、冠は口を開いた。
「雪乃さまのタルトをあんなに毎日食べてるのに、一度も変化したことがなかったような・・・」
「まさか影山くんは、感受性が豊かな河内くんとは逆に感受性がないのか・・・!」
「おい、マイスター!
その言い方だと私に人間的な問題があるかのようだろう!!」
むしろ埴輪やダムやら、達磨にはならない方が自然だろう。
「ば、馬鹿な!!
そんな人間がいるなど・・・ ありえない!!」
「お前も待て! 人を人外のように言うな!!
おかしいのはお前らだろうが!」
影山の怒りが臨界点を突破しようというところで、天井から破壊音が響く。
「来たな」
『はい!?』
冷静な影山と再び驚きに包まれる全員。
「オーケー、ボス。依頼トーリニ、霧崎ノトコニイタひゅーぱん確保シタゼー!
ノコーリハー、ソイツラダケダー」
「よくやった、報酬はスイス銀行に振り込もう」
「降ろすの面倒なんでやめてください」
「そうか?」
片言のおかしな言葉で話すマスクマンに影山は普通に話せば、突然素に戻ったように流暢な日本語で返される。
「さて終わりだな、魔王。
お前らは残らず捕らえて、ゴミ箱行きだ」
『はい!?』
「何か、おかしいか? 食えないパンなど、ただのゴミだ。
害をなすなら尚のこと」
(怖っ!)
その場にいる全員の心が一致した瞬間である。
「いや、あの・・・ 一応、父なのですが・・・」
「マイスター、君はパンが父なのか?
悲しい人生だな」
マイスター霧崎の言いだし難そうな言葉を、ギロチンのように切って捨てる。
「えぇと、パンを食って変わっただけなんだじゃけど・・・」
「医学的に証明できないな・・・」
東の言葉を悲しそうに目を伏せて断ち切る。
「えぇと、霧崎オーナーが行方不明だといろいろ問題になるのでは・・・」
「年間行方不明者数をどれくらいか、知っているかね? 月乃ちゃん。
成功者と言えども、突然蒸発したりするものだよ」
義妹の苦し紛れのような言葉を優しく諭すように遮った。
「一応意志をもって対話してるんですけど・・・」
「パンに人権などない。
あと達磨も」
冠の言葉に法を引用して断言する。ついでに河内も人から除外された。
『こいつ、ヤル気だ・・・・!?』
「ヒューパン共ノ拘束終ワッタゼー? ボス!」
「ご苦労、こいつらは例の場所に移送しろ」
「どこへやねん!?」
冷や汗をかきながらツッコミを入れた河内に、影山はこれまでにないほど優しく微笑んだ。
「ゴミは燃やすものだろう?」
「なんやて!?」
河内の驚きに対しても、影山はテンポよく指先を叩き、苛立ちを露わにしていた。
「数日間タルト断ちをしていたせいか、私はこれまでにないほど苛ついている。
それにだ、諸君はあの有名な映画は知っているかね?
バイオハザードは元から断つ、そうだろ?」
笑顔である。清々しいほどの笑顔である。
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「そんな風にしたくなかったら・・・
東君、君がやるしかない」
あまりの態度の豹変ぶりに、絶句する一同を前に影山は提案をする。
「東君、ジャぱんを完成させるんだ。
パンによるリアクションによって霧崎氏変わったのなら、魔王を打ち負かすほどのパンを作り、彼らを救うのだ。
出来るよね?」
「やっぱ、あんたが黒幕やろ・・・」
笑顔は威嚇だと、誰かが言っていた。
その理屈にこの場で頷かない者はいないだろう。
「演技・・・ だったんですね? 影山さん」
冠が口を開くが、影山の笑顔は先ほどと全く変わらない。
「本気だよ?」
彼は糖分が切れているのかもしれない。
そんな彼に誰も何もできないままでいる中、ただ一人月乃だけが行動に移った。
「至急、お姉様とお姉様のタルトをここに!」