省きまくりだけど
ジャぱんは魔王に打ち勝った! 『焼きたて!! ジャぱん』 完。
「また省略かい!!」
「なーぜか皆、原作より切羽詰まった感じだったなー。何でだろ?」
水槽のようなガラスの中に霧崎達を閉じ込めた張本人はしれっとそういった。
「そらー、あんだけの火炎放射器並べといたら、焦りもしますわ」
「水攻めにしてカビさせるって案も・・・」
「方法の話やないわぁ!」
物騒極まりない廃棄方法の別案に珍しく人型の河内が叫ぶが、影山は一切気にしていない。
「大変だったねー。
北海道になった頭部を切り離したら、そこから牛魔王みたいな顔が出てきて」
「それをジャぱんトースト食わせたワイに撃退させたなぁ。
負けたらどないすんねん」
「火炎放射器が火を放つぜー? 無論、君ごと」
「やっぱあんた、黒幕やろ・・・」
口にする言葉は全てが物騒なのではないかと思うほどに、影山のパンの処分方法は厳しかった。
「まぁ、いいじゃないか。
結局のところ私は、雪乃が空気になって風船に詰め込まれて樹海に放置されなければ、それでよかったんだから」
「何の話しとんねん」
「んー? あったかもしれない未来の話、かな?
いや、もう過去か」
「っちゅうか、タルト断ちであないになるってなんやねん。
怖すぎやろ」
「リアクションでとろろになったりする君には言われたくない。
それに飽きないように工夫してくれるからねぇ、雪乃が」
そう言いながらビワタルトを口に運び、美味しそうに目元を緩ませる。
「あぁ、美味いな」
「美味そうに食べはるのになぁ・・・
ちっとくれや」
「嫌だね」
タルトをホールごと抱えて防御する影山は本当に大人げない。
「それで? なんで君とこうして私が会談しなければならないんだい?
パンタジア本店勤務の河内君」
「そら、社長直々にあんた見張ってろって言われたからに決まっとるやろ」
「決まってないと思うが?
ちなみにここは、サンピエールの人事部長である私の私室なのだが?」
「まだ人事部長やっとるんかい・・・」
「無論、パンタジアとも兼業でね」
「一種の悪夢やな・・・」
河内の呆れた表情はコロコロと変わり、結局はパンタジアもサンピエールも名が違うだけでやっていることは同じということだ。
「私と雪乃は貞尚氏に言われたことをやっていけるなら、どこでもかまわないのさ。
誰が社長でも、どの会社でもね」
しがらみがなくなったおかげで雪乃は本業である職人に戻り、影山も人事の仕事を行い続けている。それに一切不満はなく、しいていうならそろそろ雪乃と正式に籍を入れることを考えている程度だった。
「サンピエールはマイスター霧崎が継ぎ、パンタジアは月乃ちゃんが頑張っている。
松代さんは橋口会の組長もやってアフロ会に改名したし、模糊山さんと正式に夫婦になって水乃ちゃんを養子にした」
「なんでやねん!
あんた、どんなことしたんや!」
「熱意に不可能はない。
つまり、そういうことだよ」
涼しい顔で影山は笑い、その笑顔にうすら寒い何かが通り過ぎていった。
「えー・・・ 押し切られたんか、あのアフロ」
「父二人、子一人の良い家庭じゃないか。
君もそう思うだろう?」
「セヤネー」
頷かざる得ない状況に置かれ、河内は諦めたように頷いた。
「諏訪原君はモニカさんのヒモをやってるし」
「一応、道場開いとるわ・・・」
「木下君には商店街一つ任せたし」
「分身が出来るからって、なんてえげつないことを・・・!?」
「冠君はパンタジアの総合研究所で楽しくやってるみたいだし」
「なんかあいつが一番おいしいとことってる気がするわ」
「東君はパンタジアでジャぱんを作り続けてる。
近いうちに月乃ちゃんとも婚約を発表させないとなぁ」
「は? どういうこっちゃ」
「冠君から聞いてるよ?
薬指に指輪を贈ったそうじゃないか?」
先ほどまでの笑顔とはまた種類の違う笑みを浮かべた影山は、手に持っていたフォークを歪めた。
「男なら責任取ってもらわないとね?」
「ホンマ怖いわ、あんた」
「いいじゃないか、君もダルシムにならずに済んだんだ」
「どういうこっちゃ!? それ、詳しく教えろや!!」
「さぁー? どういうことだろうね?」
その時、扉が叩かれた。
「お、時間や。
行くで、影山はん」
「は? どこへだね?」
「あんたの終着点へ、や」
戸惑う影山をドヤ顔の河内が手を引く。
そうして彼は、ある場所へと連れていかれた。
「影山さん、お待ちしていましたよ!」
いつかと同じようなスーツを身にまとった冠が影山を出迎え、背中を押して更衣室へと連れていく。
「はぁーい、影山ちゃん。お久しぶりねー」
そういったのは聞き覚えのある声だったが、目の前にいるのは愛くるしいパンダである。
「・・・模糊山さん?」
「そうよぉー。
これに着替えてね?」
パンダに示されるままに服を着替えれば、それはいつかの新郎服。
「良い男っぷりねぇ」
「いえいえ、あなたほどじゃありませんよ」
お世辞を言い合っていると、不意に影山の手を誰かが掴んだ。
「水乃ちゃん、久しぶりだね」
「お義兄ちゃん、久しぶり!
お義兄ちゃんならもうこれがどういうことか、わかってるでしょ?」
「あー、まぁね」
河内のいう言葉を信じるなら、これの発案は月乃なのだろう。
「いや?」
「時間つぶしの相手が河内君じゃなければ、もっとよかったかな?」
「あはっ、ごめんね?」
「かまわないよ。
案内、頼めるかい?」
水乃に手を任せて、会場への案内を任せる。
通りかかる人の全てに見覚えがあり、おそらくは影山に関係した者のみが参加者なのだろう。
「僕の案内はここでおしまい。
はい、月乃お姉ちゃん」
「はい、任されました。
お義兄様、手をよろしいですか?」
「勿論」
水乃と握っていた手を月乃へと渡され、交代する。
「お義兄ちゃん!」
「ん?」
「いつもありがとう! これからもよろしくね!!」
「あぁ、こちらこそ」
水乃の素直な言葉に影山は優しく微笑んで応え、水乃もまた満面の笑みを影山に向けた。
「お義兄様、少しだけ遠回りしていきませんか?」
「あぁ・・・ 雪乃が待ちくたびれない程度ならね」
「もちろん、わかっています」
月乃に庭へと連れ出され、二人はある場所で止まった。
「お義兄様、ありがとうございました」
突然のお礼の言葉に影山は戸惑うことなく、ただ静かに月乃を見つめた。
「お礼なんていらないよ、月乃ちゃん」
「お義兄様ならそう言うってわかってました。
でも、私達姉妹を救ってくれました」
「それは・・・」
影山は何かを言おうとするが、その言葉を月乃は口元に指をあてることで遮った。
「お義兄様はずっとお姉様の傍に・・・ お姉様の味方でいて続けてくれました」
嬉しそうに目に涙を溜めて、月乃は再び深く頭を下げた。
「美人な同期生に告白されたら、男は舞い上がってしまうものなんだよ」
「お義兄様?」
「適当に生きようって決めてたけど、少しだけ大好きな人のために頑張ろうと思った。
俺はただ、それだけの男だよ」
影山にとって、この人生は望まぬ二度目。
ただそれだけで、味気なくて、でも諦めて、適当に生きようと決めていた。
でも、大好きな人が出来て、その大好きな人の未来があんなことになるのは嫌だった。
いくら彼女が原作と違っていても、そうなる可能性の全てを奪ってしまいたかった。
「だから、頑張った。
極端な話、あとは全部おまけだったんだよ。月乃ちゃん」
月乃をからかうように影山は笑って、彼女の左手に光る指輪を見せるように手を握る。
「きっと、君の手にこれをはめた男の子もそうだったんだろうさ」
「東さんにそんな気は・・・」
「女が本気なら男は責任を取るものだよ」
「でも・・・」
「焦ることはないさ、君はまだ大学生で東君はまだ高校生ぐらいだからね。
さぁ、そろそろ行こうか。雪乃が待ちくたびれてしまう」
さりげなく東の逃げ道を塞ぎつつ、影山は月乃を促した。
影山にとって月乃は可愛い義妹であり、義妹をその気にさせておきながら結婚しないなどということをこの男が許す筈もなかった。
いつかと同じように雪乃はそこで、愛する恋人を待っていた。
「雪乃!!」
「・・・!」
いつもは物静かな彼らしくない大きな声に雪乃は少々驚くが、振り返れば影山はそこで優しく笑っていた。
「あぁ、やっぱり綺麗だ」
優しくて穏やかで、時々凄く弱気になって落ち込んだりもする。
「雪乃」
なのに、どこか人に距離を取っていて、遠くから傍観を続けるような人だった。
「雹」
『そんな人のどこを好きになったのか?』と問われれば、雪乃は返答に詰まる。
ただ無性に気になって、気が付いたら好きになっていた。
だから、傍にいてほしいと彼に願った。そうしたら自然と、恋人同士になっていた。
「あなたが好き」
恋人同士になってさらにお互いの距離が近づいていくと、影山は雪乃を全てから守ろうとしてくれた。
面倒極まりない家のことも、複雑だった姉妹の関係すらも、影山は雪乃の手を取って解決に運んでくれた。
「大好きなのよ、雹」
「俺もだよ。
愛している、雪乃」
だからここが、彼らの終わりで始まり。
『焼きたて!! ジャぱん』の原作は終わり、彼らの人生は始まったのだ。