あの終わりはないな と 俺は思った   作:無月

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 東和馬・河内恭介ともにベスト4に残り、いつの間にか会場から消えていた月乃を求めて店長に導かれるがまま、二人はある墓地に訪れていた。

 そして、今日が月乃の母親の命日であることを告げられる。

 

「月乃の母親はな、女でなければ本店のジェネラルマネージャーになれただろうと言われるほどの凄腕職人でな・・・

 当時、パン職人を目指し本店で腕を磨いていた月乃の父・梓川貞道に見初められ恋に落ち、そして月乃が生まれたんだが・・・ 四年前の今日と同じ日に彼女は他界した。ガンだったらしい」

 

 月乃が口にしていなかった母との惜別の事実に沈黙が降り、店長もまたそんな二人を気にすることもなく、ある墓の前で足を止めた。

 

「着いたぞ」

 

 『梓川家之墓』と大きく書かれた墓は周辺の墓よりも広く場所が取られ、灯篭二つが墓標の前に立つ。

 

「スゲー墓じゃ!!」

 

「ゴッツイわァ」

 

「ひどい墓だろ?」

 

 その大きさに二人が感想をもらすが、店長だけは違っていた。

 

「へ? 何言うてまんの?

 立派な墓やないですかァ」

 

 河内の発言に店長は何も言わずに、墓とは別の方向を指さした。

 そこにあったのは桜の樹。そして、その木の下には線香と花を供え、静かに手を合わせる月乃の姿。

 

「月乃・・・」

 

「木や・・・ しかも枯れ木や。

 なに手を合わしとんねん・・・?」

 

 着いたと言われた場所にあった立派な墓に月乃は手を合わせておらず、墓場にある何の墓標もない枯れ木に手を合わせていれば困惑するのは当然である。

 

「あの枯れ木こそが・・・ 月乃の母親の墓標だ」

 

「なんやて!!

 どういうこっちゃ!?」

 

 重々しく告げられた事実に河内の驚きの声が響く。

 店長はそんな河内を叱責することなく、静かに在りし日のことを語った。

 

「月乃の母の葬儀が終わり、墓への納骨の時・・・」

 

 

 

『骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨―――――――!!!』

 

 そう大声で叫びながら、喪服を纏った女性が勢いよく白い粉状のものを枯れ木へとぶちまけていく。

 

『やめてえぇ!!!

 お母様を返してえ!!!』

 

『骨骨骨骨――――!!!』

 

 泣き叫ぶ少女の声も、腰に抱き着いて止めようとする行為すらも意味はなく、女性は楽し気に顔をゆがめて、次なるものを握っては枯れ木へと撒いていく。

 しまいには止めに入った少女をハイヒールで蹴り飛ばし、さらに高らかに笑っていた。

 

『花咲かじいさんでは犬の骨をまくと桜が咲くのよね~~~~!!

 泥棒猫の骨では何が咲くのかしらああん!?』

 

『おやめください、雪乃様!!』

 

 少女の制止の声で止まらない行為が、名前も知らない部下以下の人間の制止で止まるはずがなく、粉は次々と撒かれ、風に舞って消えていく。

 

『お母様の・・・ お母様の骨が・・・

 イヤアアアアア!!!』

 

 

 

「・・・そして、風とともに、な・・・」

 

 語り終えた店長の言葉は悲しげに墓場に響き、聞いた二人は怒り心頭とばかりに拳を握り、ガチガチと歯を鳴らす。

 

「・・・お前たちの怒りもわかる。だが、気を引き締めろ」

 

 怒りで我を忘れようとしている二人に店長は警告する。

 

「雪乃は水乃とは違う!

 本当に恐ろしい女だ!!! 勝つために手段など選ばない!!」

 

 店長は大会において、異常な三回戦連続不戦勝をなしてベスト4に勝ち残った冠茂を思い浮かべる。

 

「あの新宿中央(雪乃の)支店の冠茂は、三回戦連続不戦勝で勝ちあがっている。

 おそらく・・・ この新人戦のために雪乃が雇った、相当な達人なのだろう」

 

 店長の警告を聞いてもなお二人は冷静になることはなく、河内は腕をプルプルと震えさせ、東はシャツの胸元を固く握った。

 そして二人は、同時に額をぶつけ合った。

 

「ワイは必ず冠を倒す!! 完膚なきまでにな―!!

 お前も負けたら承知せぇへんぞ、わかっとるなァ!!!」

 

「ったり前じゃあ!!!」

 

「決勝は必ず、南東京VS南東京!!」

 

「それで決まりじゃー!!」

 

 二人の固く、熱い決意は墓場に響き、店長もまた駆け出しであっても心強い二人の若者を温かく見守っていた。

 

 

 

「ということになってますの」

 

「ということになってんだよ」

 

 かたやニッコリ笑顔、かたやドヤ顔で今までの話を台無しにする一言を二人が口にするまでは。

 

 

 

「なんやてぇ?!」

 

 河内のツッコミが響き、東は何が起こったかわからないというようにポカーンとする。

 

「だから、ということになってんだよ」

 

 悪びれもせず、店長はアフロを揺らしながら繰り返す。

 

「どういうこっちゃ!?」

 

 先ほどのまでの怒りはなんだったのか、無駄に長く悲劇的な語りはなんだったのか、河内が聞きたいのはそういうところだろうが、当然アフロは答えない。

 

「お姉様はそのようなことをなさる方ではありませんわ」

 

 やはりニッコリ笑顔のまま、月乃は告げる。

 

「じゃぁ、今の話っちゅうんはデマなんか・・・?」

 

「いや、それはあったぞ。

 間違いなく、雪乃はその木に粉を撒いた。目撃者もたくさんいるし、ウチじゃ有名な話だ」

 

 河内の疑問に店長は首を振って否定し、ニヤニヤと笑い続ける。実にいやらしい性格だ。

 

「じゃ、何を撒いたんじゃ?」

 

「岩塩(業務用)です」

 

「「はぁ!?」」

 

「だから、枯れとんのかい!!」

 

 塩害という言葉がある通り、植物に塩はよくない。枯れるのも必然である。元々枯れていたというのもあるが、とどめを刺したのは確実にあの一件であろう。

 

「お骨はきちんと墓の中に入ってるぞ。当たり前だろ?

 つーか、許可のないお骨の頒布は死体遺棄で犯罪だ」

 

 『何言ってんだ、こいつら』という顔をしているが、それらの誤解を招いたのは間違いなくこのアフロの語りの所為であるところは言うまでもない。

 

「じゃぁ、なんで雪乃はそんなことしたんじゃ?」

 

 東の疑問は当然であり、そもそもアフロのした話を鵜呑みにするならば雪乃は月乃を嫌っているということになる。否、それどころか雪乃の実妹である水乃もまた月乃を嫌っていることは試合にて明らかとなっていた筈だ。

 

「とりあえず、今までの水乃と雪乃への考えを捨てろ。

 いや、別人の話を聞いてると思ってもいい」

 

「なんでやねん!」

 

「いいから、聞いてろ。『なんやて』」

 

「河内や!」

 

 いつまでも続きそうなやり取りに店長は河内を無視して話し出す。

 

「あの三姉妹はなぁ、本当に仲がよくてなぁ。

 姉妹三人で仲良く厨房に立ったり、月乃のお袋さんがまだ元気だった頃なんて三人で習ったりもしててな。本当に微笑ましい光景だった」

 

 サングラスの奥の目を細めながら、店長は在りし日の厨房を思い出す。

 年の離れた雪乃がまだ小さな妹達にあれこれ教えながらパンやタルトを作っている姿は微笑ましく、幼いながらもちゃんと作ろうとする妹二人もまたとても可愛らしかった。殺伐としがちな厨房にそれだけで春が来たようだった。

 

「だがな、後継者の話が立ち上がっちまった時に早々にあの野郎は後継者の席を降り、三姉妹にその問題を放り投げやがった。

 そうしたらどうなるか、わかるか? 関西人」

 

「いや、そないなこと貧乏人たるワイにいわれたかて・・・ てか、関西人は関係ないやろ!」

 

 店長は苛々を隠さずにその矛先を理不尽に河内に向け、答えられなかった河内へと舌打ちする。

 

「チッ、これだから貧乏人は。まぁいい。

 三人それぞれを使って成り上がろうとする馬鹿が出んだよ。

 次、東。三人の中でもっとも後継者になり得ないのは誰だと思う?」

 

「え? えーっと、水乃じゃろ! 年齢的に!!」

 

「はい、馬鹿―――!!」

 

 答えた東を指さして馬鹿認定する容赦のないアフロ。

 

「愛人の子である月乃だよ。

 それに候補者は少ない方がいい、故に勝ち目のない月乃が叩かれるようになったのさ」

 

 職人としての実力があったのはあくまで故人である月乃の母であり、月乃本人ではない。当時、候補者となったばかりの月乃に実績も実力もなく、後ろ盾は皆無だった。

 

「その日からだ、雪乃がおかしな行動をしだしたのは。

 他人の居るところで月乃をいびったりだとか、嫌がらせのような行動をとって、距離を置いた。

 候補者の一人であり、正妻の子である自分が嫌っている・蹴落とそうとしていることを演じて、月乃に同情が行くように仕向けた。わずかであっても月乃擁立派が生まれたことで月乃には時間を与えられ、実績と実力を得る間も出来た。その結果がいまだ」

 

 店長はやれやれと肩をすくめて、溜息を零す。

 

「俺からいわせりゃ、不器用極まりねーんだよ。

 まぁ、学生のガキの精一杯の行動だったんだろうよ」

 

「雪乃お姉様は、あの行動をしだす前日に私に話しに来てくださいました。本当にお辛そうに何度も何度も謝られて・・・

 先ほど話した一件でも、雪乃お姉様は一週間もの間寝込まれてしまって・・・」

 

 演技とはいえお世話になったもう一人の母のような存在をあのように罵倒し、遺骨をまき散らすなどという演技は精神的に疲労し、寝込んでいる間も何度も月乃の母の名を呼んで謝っていた。

 蹴り飛ばしてしまった月乃にはあわせる顔もなく、SPに指示を下してまで自分も同じ怪我をしようとすらしていたのを妹二人がかりでとめたのである。

 

「モロバレやん!!」

 

「そりゃ幼い頃から見てる嬢ちゃん達のことだから、職人の俺らにはすぐばれるっつうの。

 重役をだませりゃいーんだよ」

 

 鼻をいじりながらぶっちゃける店長に、河内は呆れることしか出来ない。

 というか、姉妹揃って何をやっているんだ。

 

「じゃぁ、わざわざ冠とか用意せんでも大人しくしとって、負ければえぇやんか・・・」

 

 河内らしくもないもっともな発言に東が手を叩いて称賛するが、店長がどこからか取り出した×の棒を掲げた。

 

「マイスター霧崎とかにはバレんだよ。

 候補者降りようとしたって、それは後ろ盾共が許さねーしな」

 

「めんどうやなぁ、金持ちは」

 

「よかったなー、貧乏人に生まれて」

 

 河内の感想に店長は鼻で嗤う。

 

「ですから、私達姉妹の仲がどうであれやることは変わりません。

 美味しいパンを作って、この戦いに勝ってください。そうしたら河内さんは本店勤務になれますし、賞金も出ますし」

 

「せやなー、ここ最近のテンションが一気に下がってもうたわ・・・」

 

 見てわかるほどに肩を落とす河内に対して、東は美味しいパンを作ることが変わらないならやることも変わらない。ということでやる気もまた変わらないままである。

 

「だがな、警告は本気だぞ」

 

「はぁ? 雪乃はんの件はデマなんやろ?」

 

「もう一個の方だよ、単細胞生物」

 

 話を聞こうとしない河内に細胞の作りすら人間と違うと言いながら、店長は返す。

 

「はぁー? 冠はんなんて友好的やったやないか。

 それこそわてらに勝ち譲ってくれるために、勝ち残ったんやないんですかー?」

 

「妨害するのが雪乃だけとは限らねーんだよ。

 あと、不戦勝だったら諏訪原もだろうが」

 

「あれはー・・・

 ほれ、威圧感っちゅうか、殺気っちゅうか、店長と同じっちゅうか・・・」

 

「アーン?

 ・・・それに影山の野郎が何かしでかすつもりかもしんねぇしな」

 

「まーた、新キャラかい」

 

「新キャラ言うな」

 

 メタい発言をする河内に拳を落とし、河内は容赦なく凹む。

 月乃が何か言おうとしたが、店長がそれを遮ってサングラスを弄る。

 

「まぁ、追々な」

 

「ここで引くんかーい!」

 

 そういって四人は改めて梓川家の墓に手を合わせ、本拠地である南東京支店には帰らず、大会の打ち上げのため食事会へと向かった。

 

 

 当然、南東京支店で孤軍奮闘している木下を忘れたまま。

 

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