勝者の名を告げられ、会場を孔雀が走り回るという珍事が起こりながらも、勝者の胴上げが行われていく。
「さて、やるか」
影山が携帯を弄り爆破指示を下せば、どこか遠くから派手な音が聞こえてくる。
悪役らしい言葉でも何か言った方がいいかと考え、影山はある言葉を呟いた。
「きたねぇ花火だ」
「雹? 何を言ってるの?」
「いやなに、昼間に花火は映えないなと思ってな」
恋人の言葉を理解できずに雪乃が首を傾げると、東の祝福を終えた月乃が影山と雪乃の存在に気づいた。
「雪乃お姉様!」
「月乃ちゃん!」
会場で出会った姉妹は互いに目を輝かせ、嬉しそうに抱擁を交わす。
「お久しぶりです、月乃様」
影山も雪乃の付き人として礼をすれば、月乃はすぐに手を振った。
「そんなやめてください、お義兄様。
いつものように『月乃ちゃん』とお呼びください」
「いえ、公式の場ですから。そういうわけにも参りません」
南東京支店のメンバーと共にいた冠もまた影山へと軽く会釈をし、影山は雪乃の一歩前に出る。
「南東京支店の皆様、初めまして。
私の名前は影山 雹。パンタジア本店において、人事部長の役に付いております。
普段は雪乃様の従者のようなことを行い、本店にて様々な業務に携わっておりますので以後お見知りおきを」
「なんやこの、胡散臭いスーツは」
「突然アフロになった河内が言うてものぅ」
初見の人間を指さし、とんでもないことを言い放つ河内に東が正論を言い放つ。
「それにお前、わかってんのか?
そいつは人事部長、進退はともかくとして新人の店舗配置はもっぱらそいつの仕事だし、左遷も
「そんな松代さん、昨今
にこやかに笑う影山は松代の言葉を否定するが、その顔には『そう簡単に
「なんや怖い人やんか!?」
「怖い? 滅相もありません。
それに自分など、所詮恋人に取り入って今の立場を得た新参者に過ぎません」
事実、彼は入社三年目のベテランとは言い難い存在であり、社内でも彼を軽くんじる者は多く、彼の立場も影山自身が言った通り恋人である雪乃によるものだと口にする者は多い。
もっとも、そういった者達がどうなっているかは暗黙の了解である。
「お前が来てから、収益が上がってんのは事実だけどな」
「私以外にもパンタジアには出来る方が多くいらっしゃいますから」
謙遜する影山に雪乃にくっついていた月乃が影山の方へと向かい、首を振った。
「いいえ、お義兄様。
お義兄様はこの大会で責任者まで勤め、立派にやり遂げましたもの。それもお祖父様直々に任命されたんですから、お姉様に取り入って立場を得たなんてありえません!」
「ん? おにいさま・・・?」
強い断定の言葉に影山も困ったような笑顔をして、月乃の頭を優しく撫でる。
そして東から疑問の声が上がったので、影山はそちらへと向き直ってこたえる。
「えぇ、私は雪乃様の恋人であり、正式に認められた婚約者でもあります。
ですので、月乃様にとって将来的には義理の兄ということになりますね」
「逆玉かい!!」
河内のツッコミに対し月乃から冷たい視線が向けられるが、雪乃と影山は気を悪くした様子もなく、笑んでいた。
「告白したのは、私の方ですけどね」
「それにあなたはパンタジアの後継者候補であることを公言してませんでしたしね、あの時は本当に驚きましたよ」
さらりと惚気る二人に月乃は憧れるような視線を向け、さらに追及してみる。
「お姉様はなんて告白されたんですか?」
「そ、それは・・・」
顔を真っ赤にして黙る雪乃に、そんな姉が可愛くて仕方がないというのを隠しもしない妹。実に微笑ましい光景である。
「なんやー、影山はん。
こんなかーいらしい人捕まえて、玉の輿とはやるやないかー」
馴れ馴れしく肩を掴む河内に、影山は静かに口を開く。
「そういえば河内君、今度南極にパンタジアの支店を作ろうと思うのだが店長をやらないかね?」
「どういう左遷や!?
白クマか、ペンギンにでもパン売れっちゅうんか!!」
「アザラシもいるが?」
「そういう問題やないっちゅうねん!!」
「気をつけろよー? 河内。
そいつ、それをやれるだけの実力があるからな」
「逆らったらアカンっちゅうことかい・・・」
ガックリと肩を落とす河内に影山は距離を取り、影山は松代の肩を叩いた。
「では、松代さん。
冠君のことは頼みましたよ」
「はぁー・・・
お前、俺になんか恨みでもあるだろ?」
「そうですね、黒柳さんを押し付けたことですかね」
「あれは謝っただろ!」
「いやいやぁ、あの件で私がどれだけ各方面に頭を下げたことやら」
「だ、だがな・・・ あいつの将来としてもだな・・・」
「えぇ、心得ておりますよ。
加えて、模糊山さんの件もありますね」
「うっ・・・ その辺は感謝しているが」
「あなたが同僚としてもう少し協力してくださっていれば、違ったんですがね」
「む、むぅ・・・」
「なのに、仕事を木下君に任せて競馬にはいくわ、厩舎には通い詰めるわ、酒は飲むわ・・・」
影山が一つ言葉を言うだけで、あれほど大きな存在である筈の松代がどんどん小さくなっていく。
「なんやぁ、珍しいなぁ。
店長がこないにちいさなるのは・・・」
「スゲー!!」
「影山さん・・・」
河内と東は感心し、影山の心労を察した冠は静かに涙を零す。
「だ、だが模糊山の件はあれだけのパン職人をだな・・・」
「ですから」
松代の言葉を遮り、影山はにっこりと笑う。
「冠君のことをお願いしますね?」
「あ、あぁ・・・」
「それから彼がいる間あなたの勤務態度に問題があった場合、これにサインしていただきます」
影山は懐から一枚の書類を取り出し、松代に見せるように顔の前で固定した。
「なんやねん、それ? 解雇通知でっか?」
「いいえ、違います。
模糊山さんとの婚姻届けです」
「なんだと!?
しかもあいつのサインは済んでるじゃねぇか?!」
「模糊山さんからの伝言です。
『待ってるわ、ケンちゃん』だそうです」
「貸せ!! 破り捨てる!!」
「勘違いしないでください。
あなたがまじめに働けば、これはただの紙切れです。真面目に働けば、ね?」
「ぬ、ぬぬぬぬぅ」
「店長がやりこまれとるわ・・・」
感心しているのは河内にとどまらず、月乃も熱心に影山の手腕をメモしている。冠は顔を若干青くし、東はわけがわからずポカンとしていた。
「では冠君、そちらも頼みましたよ」
「えぇ、お任せください。影山さん」
そういって影山は雪乃と共に会場を去り、南東京支店のメンバーに冠茂が加わることとなった。