非日常Life!   作:Pine Water

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少女は精霊

レイナは後ろを振り返った。

 

その視界に入ったのは……女性だ。

 

容姿は大人なっぽい高校生という印象を受ける。

 

服装は今どきなかなか見かけない和服のようだ。

 

今の時代、普段着として着ている人を見かけるのはレアだろう。

 

「何処から入ってきたのです、人間」

 

「人間…?」

 

「人間は貴女以外いないでしょう」

 

人間…つまり、私を指しているようだ。

 

「もう一度言います、何処から入ってきたのですか」

 

声音的に怒っている、非常に怒っている。

 

確かに、無断で入ってきたことは間違いない。

 

「か、勝手に入ってきて、ご、ごめんなさい…!!」

 

「違います。私は謝れと言っているのではありません。」

 

謝ったことを否定された。

 

「えっ、と……森の出口を探してたら、ここが出口だと、思って……」

 

問われていたことを返す。

 

しかし、怒っている相手に言っても、この内容は言い訳にしかきこえないだろう。

 

「成程、言い訳ですね」

 

やっぱり!?

 

「ここを血で染めるのは嫌ですが…人間がいるのはもっと嫌なので………」

 

「ここで、死んでもらいます」

 

えっ…?死ぬ?

 

そういった次の瞬間、女性は一振の刀を何も無い空間から出した。

 

召喚、とでも言ったら良いのだろうか。

 

「って、そんなこと考えてる場合じゃない!!」

 

刀は人を斬るために作られた武器と聞いたことがある。

 

現在は法律で罰せられるとか何とかで所有者はそんなにいないと本で読んだような………じゃない。

 

そ ん な こ と よ り

 

先程言った言葉は本気なのだ。

 

私の頭の中で警報の鐘が鳴り響く。

 

殺される……!!と。

 

「はっ、はっ」

 

走り出す。殺されないように。

 

だか、私は運動ははっきり言うと苦手だ。

 

昔から元気に遊ばず、室内で遊んでいた。

 

まさか、こんな所に影響するとは……

 

「逃がしはしません」

 

近い……!

 

本当に殺される。

 

「あっ……!!」

 

焦りが出てしまったのか。躓き、こけてしまった。

 

「ちっ…!」

 

女性が舌打ちを漏らす。

 

どうやらこけなければ、斬られていたようだ。

 

安心もつかの間。恐怖はまだ終わっていない。

 

再び走る。

 

ここに入ってきた時から思っていたが、ここは広い。

 

考えて走らなければ体力を大幅に減らしてしまい、不利な状況が更に悪化するだけだ。

 

走りながら出口を探す。

 

記憶にほんのりと残る通っただろう道の記憶を頼りに。

 

「!?」

 

「逃がしませんよ」

 

後ろにいたはずの女性がまるで瞬間移動のように目の前に現れた。

 

「ここに来たのが不幸でしたね、人間」

 

改めて女性を見た。

 

先程は逆光で顔が見えなかったが、とても人間とは思えない程の整った顔をしている。

 

大和撫子という言葉が似合う女性だ。

 

胸下ほどの長さの髪を高い位置に一つに結わえている。

 

服装は予想通り和服だが、裾が短い。

 

詳しく言えば、膝上である。もう一度言う。裾が短い。

 

それは置いといて、今刀を持っているのでまるで武士のようだ。

 

でも、今の世の中武士なんていないのでは……?

 

そもそも、こんな場所に武士なんて……。

 

それに、この人は───────

 

「死になさい、人間」

 

その言葉で現実に戻る。

 

そうだ、私今殺されそうなんだ……!!

 

でも、私に躱せるような技術など持っていない。

 

もう無理だ。諦めよう。

 

そもそも、私が死んだって誰も悲しまない。

 

必要とされてないのだから。

 

何を必死に足掻こうとしているんだ。

 

生きている意味が無いのに。

 

死んだら、誰もが喜ぶのだろう。

 

私の死を。

 

「(今日が私の命日か……)」

 

そう思った時に、強風が突然吹き荒れた。

 

「きゃっ……!!」

 

「なにっ……!?」

 

突然の強風に少しの悲鳴をあげる。

 

相手も、強風に怯んだようだ。

 

隙ができた。逃げる余裕が生まれた。

 

運がいいことに視界には入口が入っている。

 

「はぁっ、はぁっ」

 

間に合え!

 

「逃がさない……!」

 

入口に入った、でも、走り続ける。

 

森に入れば多少は巻けるだろう。

 

ついに入口を抜けた。

 

丁度私の身体が隠れられそうな太い木が沢山生えている。

 

これなら上手く撒けそうだと思っていた時。

 

「ああああああああっ!!!!」

 

悲鳴。

 

先程の女性の声だ。

 

しかし、今の声音は痛がってるように聞こえた。

 

怖いが悲鳴を聞いた以上、見捨てられない。

 

弱った人を放っておけない。

 

恐る恐る、見る。

 

目に映った光景は、先程の女性が倒れているではないか!

 

自分を抱くように、痛みに耐えるように。

 

「だ、大丈夫……?」

 

思わず、歩み出そうとする。

 

しかし、先程まで私を殺そうとしたのだ。

 

それに何故私は、私を殺そうとした人を心配しているのだろうか…?

 

「人間、まだ……そこにいるのですか」

 

女性が問うた。

 

「……うん。貴女の声が聞こえたから」

 

私はその問に答えた。

 

「何故戻ってきたのですか。私は貴女を殺そうとたのですよ?」

 

女性の言うことは正しい。

 

でも……

 

「貴女が気になったから。それに、私は貴女が人を殺せるような人に見えない」

 

私がずっと引っかかっていたこと。

 

私が受けた印象だ。

 

見た目で人を判断するのが危険なのは痛いほどわかっているつもりだ。

 

それでも、私はこの人をそんなふうに見えない。否、見れない。

 

「……人間、貴女は隋分思考がお気楽ですね。私は本当に殺そうとしてましたよ?」

 

「でも!私は……!」

 

 

 

 

 

「私は、こんなに綺麗な人が人殺しができるような人に見えない!!」

 

 

 

 

 

………数秒の沈黙。

 

それを破ったのは女性。

 

「……へ?」

 

先程まで凛とした口調だった女性の綺麗な唇から出た声は、私の発言でとても間抜けな声を出し、反応した。

 

「だ、だから、貴女は綺麗だから人を殺すような人に見えな…」

 

「わかりました!!わかりましたからっ、これ以上言わないでください!!!」

 

女性は顔を真っ赤にしながら私の言葉を遮った。

 

「(どうして顔が赤いのかな…?)」

 

 

 

 

 

 

 

「殺す気力がなくなりました」

 

女性が言った。

 

理由は簡単。褒められて嬉しいだけである。

 

レイナはその発言を信じ、もう一度百合の花畑に入る。

 

刀もないし見たところ本当に敵意がないようだ。

 

「ほ、本当に殺さない……?」

 

「はい」

 

レイナはまだ疑っているようだ。

 

警戒しながらも、女性について行く。

 

襲ってきてもすぐに走り出せるように、二三歩ほど開けて歩く。

 

「私はこの花園に住んでいる者です」

 

「じゃあ、この百合の花の管理をしているは貴女なんだね」

 

「いいえ、管理はしていません」

 

「え?植えたのは貴女じゃないの?」

 

「はい」

 

この百合の花を管理している人だと思っていたレイナだったが、違ったようだ。

 

「じゃあ、この百合の花を誰が……」

 

「この百合の花達は、野生です」

 

「や、野生なの!?」

 

「はい、百合の花達が教えてくれましたから」

 

この百合の花は野生だという。

 

つまり、風や鳥の糞などによって運ばれた種が偶然この場所に運ばれ、この場所に咲いたのだろう。

 

しかし、そんなことよりレイナはある発言が気になっていた。

 

「("百合の花達が教えてくれた"……?)」

 

発言通りならばこの人は百合の花と話せるということになる。

 

「(でも、そんなこと普通の人間にはできないよね…?)」

 

この女性は人間。そんな非現実なことは不可能な筈。

 

しかし、レイナのことを「人間」と呼ぶのだ。

 

「(じゃあ、この人は……)」

 

「どうかしましたか?人間」

 

「へっ!?あっ、何でしょうかっ!!!」

 

「いや、呆けているようだったので……」

 

女性がレイナの様子を心配する。

 

レイナはその反応に驚く。

 

「(気になっていることがある、って言えたらなあ…)」

 

学校でも施設でも人と馴染めなかったレイナにとって"人に尋ねる"ということに抵抗があった。

 

何を言っても聞いてもらえなかったあの頃の記憶が邪魔するのだ。

 

それでも、

 

「(怖いけど、気になることを放置していても無駄だ!)」

 

勇気を出し、怖さを抑え気になることを女性に問うた。

 

「あ、あのっ」

 

「?何でしょうか?」

 

「あ、貴女は私のことを『人間』と呼ぶけど………貴女は人間でしょ……?」

 

「………」

 

女性の表情が無に変わり、黙る。

 

「(やばい、詰んだかも)」

 

レイナは絶望した顔をする。

 

すると、女性はレイナの顔を見て笑った。

 

「そんなお顔をしないでください。殺しはしませんから」

 

その微笑みが今までみた人の中でも断然綺麗な笑みだった。

 

最後の発言がなければもっと良かったとレイナは心でつぶやく。

 

「そうですね……私は貴女が不思議です」

 

「え?」

 

レイナは言葉の意味を理解できず、その言葉に疑問な声を発した。

 

女性は続ける。

 

「私は本来ならば、普通の人間には見えないのですが……貴女は私の姿を捉えている。その瞳に私を写している。」

 

「("普通の人間には見えない"……?)」

 

「なので、私は貴女のことを不思議な人間だと思っています」

 

もしかして……と、レイナの頭にある言葉が浮かぶ。

 

嫌な記憶とともにあの光景が頭の中で流れる。

 

「貴女は……"人ならざるもの"、なの…?」

 

レイナは震える声でその言葉を出力し、女性に言う。

 

女性は答えた。

 

「"人ならざるもの"………そうとも呼ばれますね」

 

「あ、ああっ……」

 

怖い、怖い怖い。

 

レイナの頭にその言葉だけが浮かぶ。

 

また自分だけこんな体験をして信じてもらえなくて、絶望の日々を味わなければならなくなるのか、と。

 

やっと落ち着いてきたのに、またあの恐怖に怯えないといけないのか、と。

 

「ですが、私は………人間?どうかしました…」

 

「来ないで!!」

 

「!?」

 

突然の拒絶。

 

先程まで話していたレイナが突然女性を拒絶した。

 

「どうしたのですか?何処か具合でも……」

 

「お願いだから、来ないで!!」

 

レイナはそう言って、手に持っていた"石"を投げつけた。

 

「うっ……」

 

突然の行動に反応できず、レイナの投げた石が当たる女性。

 

レイナは石を投げつけた後に入口に向かって走り出した。

 

「(怖い怖い怖い怖い、怖い!!!)」

 

涙目になりながら、必死に走り続けた。

 

頭の中には『恐怖』しかなかった。

 

 

 

 

 

 

「どうしたのでしょうか……」

 

「私は何か間違ったことを言ったのでしょうか…」

 

やっと、人間に慣れたと思ったのに。

 

やっと、この恐怖が消えると思っていたのに。

 

やっと、辛い記憶と苦しい思いを忘れられると思ったのに。

 

「やはり、私には無駄な願いでしたかね……」

 

"人ならざるもの"。

 

あの人間の少女は"人ならざるもの"に対して恐怖を持っていた。

 

あの表情はそう言っていた。

 

「そういや、先程投げられた石は確か……」

 

あの人間の少女が大事そうに持っていたものだ。

 

彼女はこの石は偶然持っていただけなのだろうか。

 

彼女の見た目からすれば、この石は偶然拾って気に入ったから持ち帰ろう、と思う年頃だろう。

 

しかし、これはただの石には見えない。

 

とても強い霊力を感じる。

 

「見たところ、宝石と呼ばれるものでは…?」

 

まさかとは考えたが違うだろうと思い、宝石と肯定する。

 

実物の宝石は見たことない。

 

ちょっとした好奇心、見るだけだ。

 

そう思い、石に触れた時。

 

ビリッ!!

 

「っ!!」

 

電気が走るような痛み。

 

先程感じた霊力は嘘ではなかったようだ。

 

しかし、私の知る"あの石"ではないだろう。

 

 

石から発生した少量の痛み。

 

私を閉じ込めている"あれ"のよう。

 

しかし、威力は"あれ"よりも弱い。

 

私を怯ませる程度だ。

 

「ただの石ではなさそうですね……」

 

もしかしたら、彼女は戻ってくるかもしれない。

 

この石を探しに。

 

その時に、聞こう。

 

私を拒絶した理由を。

 

 

……どうして、私は嫌いな人間の事をこんなに考えるのだろうか。

 

どうして、人間についてこんなに悩むのか。

 

それは、きっと─────

 

「人間とまた笑い合いたいから……はっ!」

 

自然と口にした言葉。

 

驚いたが、本心だ。

 

辛い過去は変えられない。

 

ならば、それなりに克服しようではないか。

 

それに、あの人間が側にいると安心する。

 

ああ、早く会いたい。

 

彼女に。

 

あの人間の少女に。

 

その時、女性は何かを覚悟した表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ」

 

なんとか逃げきれた。

 

「お昼食べてないし、お腹空いたなぁ……」

 

今日の出来事は忘れよう。

 

私は"人ならざるもの"に会ってない、会ってない!!

 

「あれ……?」

 

手に持っていた筈の石がない。

 

「もしかして、あの時投げたのは………」

 

大 事 な 石 だ っ た の で は。

 

「………ははっ」

 

掠れた笑いしか出ない。

 

……最悪だ。

 

また取りにあの場所に行かなければならないなんて。

 

「も、もう今日は疲れたし、明日行こう…」

 

本心は行きたくないが。

 

入口に置いておいた荷物を持ち、施設に帰る。

 

「明日、あの"人ならざるもの"に会いませんように…!!」

 

 

 

 

 

 

次の日。

 

レイナはいつも通りに起床し、朝食を取り、学校に登校する。

 

「まーた、いるよ」

 

「本当、懲りないよねー」

 

「さっさと死んじゃえばいいのに」

 

「化け物化け物ー」

 

登校したら、必ず同じ児童に会う。

 

当たり前だ、同じ学校なのだから。

 

この悪口もいつも通り。

 

「(このいつも通りが、いつも通りじゃ無くなればいいのになあ)」

 

 

 

 

 

学校につき、教室に入る。

 

次に、自分の机に座る。

 

そして、飛んでくる悪口。

 

「今日もきたのか」

 

「いじめられてるの分かってんのかな、あいつ」

 

陰口のつもりかな、聞こえてるよ全部。

 

「よぉ水月ぃー、昨日投げた石取りに行ったのかァ?」

 

「行ったんじゃなーい?馬鹿だし」

 

ぎゃははは!!、と笑う男女。

 

私の石を投げた張本人と私の石を投げようと提案した人と、観客。

 

今日は忙しいのだ。

 

学校が終わったら、すぐにあの森に行かなければならないのだ。

 

こんな人達に構う理由もない。

 

私は無言を突き通す。

 

すると、

 

「ちっ、なんにも言わねーじゃん」

 

「つまんなーい」

 

「なあ、こいつ本当は喋らないんじゃ?」

 

「違う違う、死んでるんだよ」

 

ぎゃははは!!

 

あはははは!!

 

……私をいじめて何が楽しいのか、全く分からない。

 

どうして、この人達はいじめなんてするんだろう。

 

ああ、人の気持ちがわからない馬鹿だからか。

 

頭の中で、この人たちを馬鹿にする。

 

………そう思って意地張って(心の中だが)言い返している私も確かに馬鹿なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

今日もつまらない1日が終わった。

 

刺激が欲しいと思っていた事が、偶然にも昨日起こったのでこの願いは叶ったことになる。

 

まさか、殺されかけるとは思いもしなかったが。

 

施設に一度帰り、私服に着替える。

 

紫苑学園は制服指定なので、無駄にお金がかかっている。

 

それに加え、小学一年生から現在。

 

当たり前だが、私も成長している。

 

身長などが大きくなるので、その度制服を変えなければならない。

 

「(この施設に恩とかないけど、申し訳ないことをしてるのは事実だよね)」

 

ただの捨て子に。なんの期待をしているのだろうか、この施設の人は。

 

今日の出来事を愚痴りながら昨日行った森に行く。

 

「(何で投げたんだ私………!!)」

 

昨日の自分を叱りながら。

 

 

 

昨日の花園など幻だったのではないかと今更思い始める。

 

森に入って一時間は経った頃。

 

一向に花園に辿り着かない。

 

「どうやって行ったんだっけ……?」

 

石を拾って帰ろうとしたところにあの入口があったのだと思い出す。

 

「本当に馬鹿だ私………!!」

 

本日二回目。自分を叱る。

 

好奇心に負けるなんて本当に馬鹿。ばーかばあーか私!!

 

くだらないことを考えるが、石が必要なのは事実。

 

どちらにしろ、見つかるまで帰れないのだから。

 

「昨日落ちていた場所にどうやって行ったのかも覚えてないし……う──ん」

 

歩く。

 

見渡す。

 

視界に入るのは昨日初めて見た広い森の光景。

 

「あーっ、もうっ!!」

 

イライラを解消したくて大声で叫ぶ。

 

「あーっ、スッキリしてはないけどスッキリしたことにしよ………!?」

 

目を開ければ目の前にあの花園への入口があった。

 

「なんで……!?さっきまでなかったのに……」

 

もしかしたらこの入り口を出すのも消すのもあの"人ならざるもの"が操ってるのでは……

 

なんて、ありもしなくもないことを思いながら石を探すために花園へ。

 

「会いませんように会いませんように会いませんように会いませんように会いませんように会いませんように会いませんように」

 

そして、呪文も忘れずに。

 

 

 

 

 

 

 

「待っていましたよ、人間」

 

なんということでしょう!!

 

開けたと思えば目の前には美人な女性がいるではありませんか!……って

 

「ぎゃああああああああああああっ!!!」

 

思わず、叫ぶ。

 

そして、回れ右!後ろを向いた!さぁ後は元の道を走るのみ!

 

脳内で意味のわからない茶番を妄想しながらも、入口に向かって走る。

 

が………

 

「あ、あれ?前に進めないっ……」

 

まるで、見えない壁が邪魔している。

 

これじゃ捕まる………!!

 

「逃げるなんて酷いでありませんか」

 

と言いながらも語尾に音符がつくほど何故か機嫌のいい女性。

 

まさか、殺され……

 

「まさか!殺しません♪」

 

今度こそ音符ついちゃった!!

 

本当に何でこんなに機嫌がいいの!?

 

情緒不安定なんだね!?そうなんだよね!?

 

「帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい」

 

本当に帰りたい、いやお願いだから何でもするから帰してー!!

 

「そんなに帰りたいと連呼しないでください、傷つきます」

 

笑顔で返された!?

 

しかも最後の発言と顔が一致してない!!

 

貴女それ笑顔!その言葉の時の顔の表情は悲しい顔!!

 

これはもう駄目だ……と絶望していた時、女性が口を開いた。

 

「貴女に聞いてほしい話があります、人間」

 

「え……?わ、私に……?」

 

「はい、貴女にです。」

 

突如、女性が私に話したいことがあると言った。

 

私に対して何を話すのだろうか……

 

「そ、その前に、い、石を返して、ください!!」

 

しどろもどろになりながらも、(大体自分のせいで)消えた石を返すように要求する。

 

「だろうと思っていました。ええ、案内しましょう」

 

この人、今日はやけに笑うなーと思っていた。

 

"人ならざるもの"なのに。

 

「それと、貴女が石を探す羽目になったのは貴女が原因ですけどね」

 

「ごもっともです」

 

 

 

 

 

 

 

「こちらに落ちているので間違いないですか?」

 

「うん!」

 

ありがとう!!……と言おうとしたが、何言おうとしているんだ私。

 

この人は"人ならざるもの"なんだから。

 

私の人生をめちゃくちゃにした仲間なんだから。

 

私の顔を見て、女性は言う。

 

「……やはり、まだ私の事を嫌っているようですね」

 

余り前ですよね、と口にこぼす女性。

 

その言葉が私の何かを止めていた紐を解く。

 

「私は"人ならざるもの"がいなければこんな生活にならなかった」

 

「………」

 

「"人ならざるもの"が見えない体質だったら!!こんな目に合わなかったのに!!どうして、私だけなの!?ねぇ、ねえ!!」

 

「………っ」

 

昨日対面したばかりの女性に自分の今まで我慢してきた事をぶつけてしまった。

 

相手は私の何を知っている?何も知らないでしょ?

 

毎日のストレスが溜まりに溜まって勢いに任せて吐き出していた。

 

「……はっ!」

 

気づいた時は何もかもが終わっていたらよかったのに。

 

夢だったら良かったのに。

 

私が………生まれて来なければ良かったのに。

 

後からの後悔。

 

「もう、何をどうしたらいいのか、分からないよ……っ」

 

頭の中がぐちゃぐちゃだ。

 

私の方が情緒不安定だな、と少し残った理性でふと思う。

 

すると、今まで黙っていた女性が言葉を発した。

 

「私は、"人ならざるもの"です。」

 

「……知ってる」

 

「"人ならざるもの"ですが、私には"百合の花の精霊"という名前があります」

 

「……せい、れい……」

 

せいれい。

 

精霊。

 

この言葉も知っている。あの絵本に気味悪い絵で載っていた。

 

しかし、この精霊は綺麗な姿をしているではないか。

 

思い出せ、私。

 

私は最初この人をどう感じた?

 

「貴女にとっては"人ならざるもの"は全て同じなのでしょう。ですが、私達から見たら"人間"は全て同じに見えます」

 

「もしかしたら、私だけかも知れませんが」

 

クスッと笑う精霊。

 

この人の第一印象は『綺麗な人』って私は感じた。

 

精霊なのに、どうしてそんなに綺麗なの。

 

人ならざるものなのに、どうして綺麗なの。

 

「つまり全部が全部同じではない、と私は言いたいのです」

 

頭の靄が一気に消える。

 

「私も貴女がここに来たおかげで気づいたことなのですよ?」

 

優しい表情で私を見つめる精霊。

 

何故か、安心するという感情が生まれた。

 

「うっ……ひっく、うぅ……」

 

私の目から水がこぼれ出す。涙だ。

 

私、泣いてるんだ。

 

自分でも分からないけれど、何故か涙が止まらない。

 

「ごめんなさい……っ、貴女に、私のっ、不満をぶつけて」

 

「いいのですよ、貴女の本音を知れましたから」

 

嗚呼、なんて優しいのだろうか。

 

私が辛い思いをしてきた記憶の中には、こんな風に手を差し伸べてくれる人なんていなかった。

 

私の側に、誰もいなかった。

 

精霊に、人ならざるものに慰められるのはちょっと変な気分だが、今はこの優しさに甘えたい。

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着きましたか?」

 

「うん………ありがとう」

 

結局泣き止むまでそばにいてくれた精霊。

 

「そう言えば……私に言いたいことがあったんだよね?私が逆ギレしたせいで………」

 

「その件は忘れましょう。………では、話してもよろしいですか?」

 

「うん………私も、なんだか貴女のことが知りたいの」

 

人ならざるものなのに、何故か私を見ている気分になる。

 

貴女が今から話す内容を頑張って受け止めてみせるから。

 

「私も………貴女に私のことを言いたい」

 

「ええ、教えてください。私も知りたいです」

 

 

 

二人の少女はお互いの過去をさらけ出す。

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