幻想冥界記録→東方青春録
まぁこの作品に青春要素はないんですけどね。
それと一応バカルテットメイン回です。
「お師匠様、お師匠様。よかったのですか?」
雪の降る竹林の中に屋敷が一つ。
本来視界が狭まる筈の雪の日の竹林。
ただ、その大きな屋敷はそれをも覆う存在感を示す。
名は永遠亭
その永遠亭の一室に二つの影が動いていた。
一人はウサギのような耳が生えた少女。
一人は美しい銀髪の女性。
「何がかしら?」
「外来人ですよ。いくら酷い怪我をしていたといえ、わざわざ結界を解いてまで…」
「ほんの一瞬よ。現にもう結界は元に戻したわ」
暖かそうなお茶を飲みながら銀髪の女性は話を聞く。
「む〜…それにしてもリスクが高すぎますよ。幻想郷の賢者、それに冥界の主にまでここの存在がバレたんですよ?」
「ウドンゲは彼女たちが月の民と繋がっていると思うの?」
「そういう訳じゃないですけど…」
ウドンゲと呼ばれたウサギ耳の少女は、どこか不満気に銀髪の女性をジト目で見る。
「…わかってるわ。いずれ彼女たちとも、ぶつかる事になるもの…」
「…?それはどういう…」
永遠亭が月明かりに照らされ、二人の影を作る。
銀髪の美しい彼女は、その髪が光に照らされ、やけに妖美な雰囲気を纏っていた。
〜〜〜
ちゅんちゅんちゅん…と毎朝の恒例かごとく鳥の鳴き声が聞こえる。
うるせぇ…昨日は色々あって眠れなかったからやけにうるせぇ…。
「はいはい、起きればいいんだろ…起きれば。ふあぁああ…」
碌に寝てないが、大きく蹴伸び。
さて、顔を洗うか。洗面所へ……って洗面所はどこだ…?
そういえば少し忘れていたが、ここは永遠亭だとかいう病院だったよな。
当たり前だが、俺が洗面所の場所を知るはずがない。
そこで、病室の扉が開く。
「あら、起きたわね」
病室に入ってきたのはお世話になっている八意さんだ。
昨日は天使のような微笑みを見せてくれた。
トツカエル、コマチエルと来たらヤゴコロエルか…語呂悪いな。
「すんません、なんか迷惑かけて…」
「いえ、大丈夫よ。それと腕の調子はいかが?」
ん?腕?あ、そういや俺腕斬り落とされたんだったわ。
全然気付いて……っ!?
「治ってる…?」
「ふふふっ。あら、今更ね」
腕を動かしても問題ない。義手でもなければプラスチックとかでもない。
本物の肉だ。血が通った人の腕。まるで違和感がないから気付かなかった…。
「え、えぇ。快調ですね。気付かないくらいに」
本当にどんな技術を使ったのだろうか…。
失礼にも、幻想郷は外より科学が発展しているように見えない。それと同時に医学もだ。
いや、ただ幻想郷は魔法や術といった摩訶不思議な物が発展している。
それでどうにかして治したのかも…。
え?どうにしたって?知るかそんなもん。
「そう、それは良かった」
八意さんが満足気に微笑む。
病室に入って来たのは俺の容態を見るだけだったのか、八意さんは病室を出て行こうとする。
「朝食を用意するわね。あ、あと…」
「……?」
「洗面所なら廊下に出て右に進めばあるわよ」
なんかこの人にはずっと敵わない気がするわ。
というより俺なら幻想郷の住民全員に敵わないまでもある。
〜
扉を開け、廊下に出ると冷たい風が部屋に入ってくる。その風が体に当たり、身震いする。
真冬だもんな…そりゃそうだ。さらに言えばエアコンもないから、病室も暖かいという訳ではないのだが…
廊下に出て右。
その方向に顔を向けると、向こうに洗面所らしき部屋が見える。
そしてその手前にうさ耳の生えた女性…………なんだあれ、モフりてぇ。
ここの従業員とかか?
それにしてもブレザーの制服的な服装を見る限りでは、看護師って訳じゃなさそうだが…
いや、幻想郷の看護師の服装が外と同じかどうかも怪しいか。
実際幽々子様や紫も、外ではあり得ない服装している訳だしな。
そんな事を考えていると、うさ耳の女性がこちらに気付き、振り向く。
一瞬、ほんの一瞬だけ目が合う…………
『鼓動』『動揺』
な、なんだ?今の…一瞬自分が自分じゃなくなったような感覚が…いや、厨二病じゃなくてな?
心臓が高く、大きく波打ちバクバクと鳴らす。
怒りや悲しみといった感情が同時に出てくるような…振り幅がなくなったような…。
「〜っ!外来人…!」
やけにオーバーリアクションを取りながら、思いっきり目を逸らされた。
なにこれ?結構傷つくんだけど…。
それと、先程の感覚は嘘だったかのようにおさまって、もう何事もなかったようになっている。
なんだったんだ…?
「どうしよう…目を合わせてしまった…」
かのうさ耳さんはなにか熟考している様子。
そんなに俺と目が合うのが嫌でしたかそうでしたか…。
「睡眠薬を…うーんでも相手は人間だから…解けるとは思えないし…」
ずっと考えている様子だ。少し声ぐらいかけてみるか…。
なんか俺のせいっぽいし。
「あの〜…」
「時間が解決して……う〜ん…でも…」
☆無☆視☆
せいせいするほどの無視。
『あれ?俺って存在してたっけ?』と思っちゃうほどの無視だったぞ今の。
いや、違うよな。聞こえてないだけだ。そうだ、そうに違いない…………そうと信じたい。
もう一度話しかければきっと反応してくれる事だろう。
よし、ここは気張れ比企谷八幡。長年のボッチ魂を見せるんだ。
「あ、あの〜」
「………でも、やっぱり…これが…こうなって…」
はい、お約束。
と、冗談も程々にして、そろそろ反応してもらわないと困る。主に俺のメンタルが。
広い廊下に二人しか居ないのにもかかわらず、無視されるとか…さっきから俺のメンタルズタボロなんだよ…!
とにかく次反応がもらえなかったら、大人しく洗面所に向かうとしよう。
その時に洗うのは顔じゃなくて涙だがな…。
「あの〜、すみません…」
「ふぇ?」
ようやく反応してくれた三回目。三度目の正直とはまさにこの事を指すのだろう。違うか、違うな。
とにかく反応してくれたのは喜ばしい事だが、『ふぇ?』ってなんだよ『ふぇ?』って。かわいいかよ…。
すると、うさ耳さんは驚いた様にこちらを見てくる。
「あ、あれ?普通だ…狂ってない…」
狂ってる?俺狂ってるとか思われてたの?そうか…普通じゃないとか思われてたのか…。
あれ?おかしいな。反応もらえて喜ばしいはずなのに、目から汗が…。
結局、洗面所で洗うのは涙になるのか…。
「あ、あの。どこもおかしくないですか?例えば…なんだか感情がお抑えられなくなったり…」
感情が抑えられない?字面だけで見ると凄く厨二臭いが、さっき似たような感覚に陥った。
もっとも、すぐに治ったから勘違いだと思うが…。
「いや。一瞬そんなことがありましたけど、特に今は…
「一瞬?今一瞬あったって言いました?」
お、おぉう…食い気味に聞いてくるな…。
「は、はい。まぁ一瞬なんで俺の勘違いだと思いますけど…」
「一瞬…?どうしてでしょう…でも…あれが…」
あぁ…また思考の海に潜ってらっしゃる。
〜
あの後真剣に熟考しているうさ耳さんを一旦放っておいて、洗面所に来た。
鏡で自分を見る。
いつも通り鏡の向こうから、冴えない顔をした腐った目の男が、こちらを覗き込んでいる。
斬り落とされたはずの左腕は、何事もなかったかのように存在していて、問題なく動く。
水道をひねって水を出す。
手を受け皿の様にして水を溜め、バシャバシャと顔に掛け、念入りに洗う。
「ふぅ…」
よし、こんなもんでいいだろ。後は八意さんが朝食を持って来てくれると言っていたな…。
朝食を食べた後に歯を磨いて…………
この後の行動を軽く整理していると…
「はちま〜ん!」
「がっ!」
謎の物体が顔に飛びついてくる。
ていうか痛い。ものすごく痛い。
「お、おい。離れろチルノ…!」
そう、その謎の物体の正体はチルノである。
「はちまぁん…八幡の腕がぁ…腕がぁ…!」
チルノは俺にしがみついたまま顔をくしゃくしゃにして泣きわめく。
「一旦落ち着け…!」
彼女は彼女なりに、ルーミアと同じで責任を感じているのだろう。
いくら子供(精神年齢)とはいえ、やはり責任というものは付いて回る。
イタズラ好きな子供でも、人の大切な物を壊してしまったら後ろめたさはあるだろうし、責任を感じるのはごく普通の事だろう。
ただ、今回は俺が勝手に庇った事なのだ。そこまでチルノ達に責任を感じさせるわけにはいかない。
まぁ、歳上としてもな。(精神年齢)
「チルノ、もう腕は…
「ちょっとチルノ!怪我人は慎重に扱わなきゃダメでしょ!」
いや、遮るなよ…。
横から俺の言葉を遮りながら出て来た少女は、リグルだ。横にはミスティアも一緒に居る。
そしてその後ろにはルーミアがフヨフヨ浮いている。
バカルテット大集合だ。
「いや、だから…
「八幡、ごめんね?私たちのせいでこんなことに…」
ミスティア俺の言葉を遮りながら、が申し訳なさそうに頭を下げてくる。
なんだ?俺に発言権はないのか?
というか、やめてくれ、頭を上げてくれ…!幼女に頭を下げさせるとかはたから見れば、犯罪者以外の何者でも…
「おやおや、目の腐った患者様が、幼女に頭を下げさせている」
廊下の角から声が聴こえてくる。
見られたか…この光景を…。
思わず陸に上げられた魚のようにピクピクと口角が釣り上がり、油のキれた自転車のようにギギギッと首を声のする方に回転させる。
案の定うさ耳を生やした幼女がこちらをニヤついて見ている。
先程の洗面所へ行く前に出会ったうさ耳さんとは、また違ったうさ耳さん。
ややこしいが、こちらのニヤついたうさ耳さんは幼女で、先程のうさ耳は少女といったところだ。
そんな事よりマズイ、この光景は。幼女のうさ耳さんが言うように、
『目の腐った男が幼女に頭を下げさせている』
という、犯罪臭のする光景“のみ”を見られてしまったのだ。
ただ、それは誤解も誤解、大誤解だ。
少し前に、『誤解は解けない、既に解は出ているからな』
とかドヤ顔で言ったが、こればかりは解かなければならない。
教師からテスト用紙を無理やりぶんどってでも解かなければならない。
「いや、ちょっと待て。これはだな…」
「おぉっと、何も言わないで。問題ないから、ちょっとお師匠様に報告するだけだから」
問題ありまくりんぐなんだよ…!なに?幻想郷は話を聞かない奴が多いの?
ただ、このまま犯罪者の印象を押し付けられて過ごすのは危険極まりない。
「い、いや、だからこれは誤解でだな…」
「誤解?既に解は出てるんで、解ける事はないでしょうねぇ〜」
こいつ…
相変わらずニヤついた笑顔のまま煽ってくる幼女のうさ耳さん。
俺じゃなきゃ手が出ちゃうね。
「ちょ、ちょっと!違うから、私が謝っているだけであって、八幡は悪くないのよ!」
あぁ、ミスティア。お前がこんなにも頼もしく見えるぞ…。
これからはミスチーって呼んでやろう……………やめとこう、キモいって言われて終わりだな。
「だとしても、だよ。はたから見れば犯罪臭すごいよね」
「ムムム…」
ミスティアと幼女うさ耳さんの間に火花が散る。
やめて…!仲良くして…!
「ま、今回は初犯て事で見逃すよ。次はちょっと賽銭箱に投げてもらう事になるけど」
肩をすくめながらそう言ううさ耳さんは、やけにいやらしい顔をする。
賽銭箱に投げるものって…金のことか…?
「元はと言えば誤解なんだが…」
それに初犯てなんだ、初犯て。俺がまるで犯罪者みたいじゃねぇか…。
いや、まぁ犯罪者の様な目をしている事は自覚しているが、実際に犯罪を起こしたことなど一度もない。
そう、ボッチとは人畜無害な生き物なんだよ。
誰にも噛みつかず、無色透明の空気のように生きていく。
ボッチほど日本の治安に貢献している人間は居ないだろう。
「ん、そういえば自己紹介してなかったね、私は因幡てゐ。好きに呼んで」
「あ、あぁ。ひきぎゃやだ…」
噛んだな…いや、他人事のようだが俺の事だ。
初対面と話すと高確率で噛む、それがボッチの特性の一つだ。
もう噛みどころか神の領域だろうな、これ。
きっと俺の名前が八幡なのも何か関係している筈だ………………いや、あり得んな。
「「………………」」
周りに静寂が走る。
チルノ達バカルテットも、呆れた様子でこちらを見ている。
「もしかして患者様は、ボッチという人種?」
もしかしなくてもボッチという人種だ。
いや、俺はボッチの中のさらにボッチを行く、エリートボッチだ。
前にも言ったが、なんなら八幡という新しい種族として登録されてもいいレベル。
因幡は馬鹿にしたような目でこちらを見ているが、ボッチである事は隠す事じゃないし、恥ずかしがる事でもないのだ。
それどころか自分がボッチである事を誇ってもいい。
漫画やアニメでよく言うだろ?己をよく知る事が強さへと繋がるって。
逆説的に、人とコミュニケーションを取らず、自分と向き合う時間が多いボッチは最強と言える。
ボッチ最強、ボッチ万歳。
「なるほど〜。人とのコミュニケーションが苦手で、社会から弾き出されたはみ出し者という訳だ」
「ぐっ…」
何この子、意外と毒舌…!
特に悪びれもなく、普通の顔をして毒を吐くから恐ろしい…。
ただ、それは違うぞ因幡。ボッチというものは…「あぁー!やっと見つけたー!」
今度はなんだ…?
「げげっ、見つかったー!」
因幡が渋い顔をして、逃げ出す。
その視線の先には、先程洗面所で会った方のうさ耳さんだ。
なんだか鬼の形相をして、因幡を追っている様子。
それを間抜けな顔をして見る俺と、バカルテット。
「まだ仕事がいっぱいあるんですよー!」
追ううさ耳さんと、逃げるうさ耳さん。
うん、なんというか…せわしないな。ついていけない…。
「そ、それより、八幡!左腕は大丈夫なの?休んでた方が…」
リグルが話を変えようとばかりに、俺の左腕の心配をしてくる。
心配してもらっているところ悪いが、もう既に左腕は治っているのだ。
まぁ、バタバタしてたしな、さっきまで気付かないのも無理はない。
「いや、俺腕あるんだけど…」
「「「「へ…?」」」」
バカルテットが揃って間抜けな声を出す。
まぁ、その反応が妥当か。バカルテットの反応を見るに、斬り落とされた腕を治すという事は幻想郷でも普通ではないのだろう。
「え、えぇ?」
「あ、あれぇ?」
「そ、そうなのかー?」
「あたいのサイキョーパワーのおかげね!」
それぞれ困惑した表情で、反応を述べる。一人だけ的外れな奴が居るが…。
………そういえば大妖精はどうなったのだろうか…。ここで聞くのは野暮かもしれないが、やはり気になってしまう。
一度首を突っ込んでしまった訳だし、更にいえば大きな被害も被った。
知る権利があるといったら微妙だが、聴いてもいいだろう。
「なぁ、大妖精はまだ目覚めてない…よな」
「……うん」
チルノが悲しそうに答える。
やはりまだ大妖精は目覚めてないのか…だとすると十中八九あの刀が原因だろう。
俺の左腕を斬り落とした、あの刀が………。
「そうか、それじゃあ刀の話になるな…」
「「「「…………」」」」
辺りに静寂が訪れる。
それはそうだ。あの刀に散々な目に遭わされた訳だからな。
ただ、紫や幽々子様なら簡単に刀を倒せるのかもしれない。
実際紫は俺が洞窟であの刀に出会った時に見ていたらしいしな。
でなければ、永遠亭に怪我をした俺を運べるはずがない。
あそこに紫が居なかったらとっくに俺は死んでいるはずだ。
ただ、何故俺が気絶するまで見ていたのか…。
助ける理由が無いと言われたそれまでだが、そうだったら最終的に助けた理由に説明がつかない。
だとしたら、何か紫なりに考えがあった可能性が高い。
はっきりとは分かってないが、ならば紫の力を借りる訳にもいかないだろう。
あの刀を倒せる力があるのなら紫に片付けて欲しいが。前文の通りにそれはナシ。
それじゃあどうするか……
「もう一度あたいのサイキョーパワーでたおす!」
「「「「無理だ」」」」
「なっ、なにをーっ!」
満場一致で可決。
チルノが幻想郷でどれほどの実力者なのかは分からないが、先の戦闘を見る限りチルノでは無理だろう。
それじゃあどうするか…俺自身は妖怪とはいえ、そんな大きな力を持っている訳でもない。
今から妖力の使い方を学んだところで付け焼き刃にしかならないだろう。
妖忌さんから剣術を学んでいるとはいえ、戦闘に使えるほどの実力はない。
やはり誰かに協力を仰ぐしか…。
「でも、八幡…」
「…あ?」
俺が考えていると、ミスティアが話しかけてくる。
その表情は申し訳なさそうで、幼いながらも責任という二文字の言葉がのしかかっている様だった。
「元は、私たちの問題だし…」
「うん八幡は巻き込まれちゃっただけだから…」
ダメだ、こいつらにこんな表情をさせてはいけない。言いたいことはわかっているつもりだ。
つまり、なにも関係のない俺を巻き込んで、多少の負い目を感じているのだろう。だからこれ以上関わることはないと…。
ただ、これはこいつらが悪いのではない。勝手に放って置けなくなって、勝手について行って、勝手に巻き込まれた俺の自己責任だ。
ただ、それは今回も同じだ……
「まぁ、その…なんだ。言いたいことは分かるが、これは俺が勝手にやったことだ。次も俺は勝手にやらさせてもらうだけだ」
そう、次にもしバカルテットがあの刀と戦う事になるのなら、俺はその時勝手について行くだろう。
そして勝手に巻き込まれて、勝手に左腕を斬り落とされるのだ……………ダメじゃねえか…。
「でも…」
やはり納得しない。ただ、今度はバカルテットと俺だけで行くという訳ではないのだ。
「あー…今度は俺らだけで行くとかそんな馬鹿な真似はしないで、他の人に協力してもらったりすれば大丈夫だろ。それこそ慧音さんとか…」
そう、困った時の慧音さん。本当にこの人に頼めば大抵の事はしてくれそうだ。さすがケイえもん。
それに慧音さんなら頼みを受けてくれる可能性は高い。
大切な生徒の問題だ。刀のことを話せばすぐに協力してくれるだろう。
「先生に?んー…」
ただチルノはなぜか悩んでいる様子。それは他も同じで、リグルやミスティアも首を捻って悩んでいる。
なんかさっきからこいつらやけに頼りたがらないな…。
戦力外の俺はともかく、妖怪としても歴史の長い慧音さんも頼りたがらないとは…。
「なぁ、なにか頼っちゃいけない理由とかあんのか?」
思わず聞いてみる。紫や幽々子様は現状を見て頼れないとしても、他に協力してくれる妖怪はたくさんいるだろう。
それこそ慧音さんや、射命丸さんたちも異変の取材として協力してくれるかもしれない。
さらに言えば今回の異変は、妖怪にも影響を及ぼす異変だ。
誰かしら手伝ってくれる可能性は高いだろう。
「う〜ん、もちろん大ちゃんが助かるならいいんだけど…なんていうか〜…う〜!」
リグルは何か自分の中で葛藤している様子。
「うん、なんていうか……よく分からないけど、他の人には頼りたくない」
それはミスティアも一緒で、理由は分からない。ただ何故か他の人には頼りたくない。単純なそれだけだった。
「そんなの簡単だよ!大ちゃんはあたいたちの仲間だよ?“だからあたい達が助けないと“!」
ただチルノは違った。リグルとミスティアと同じようにただそれだけの単純な理由だが、はっきりとしていた。
仲間だからこそ、仲間の自分たちが助ける。単純明快な理由だ。
そうか…こいつらはきっと誰にも頼らずここまで来たから、いつのまにか『頼りたくない』となってしまったんだろう。
バカルテットは、大妖精のために自分たちだけで未知の異変に挑んだ。
それは関係のない奴らから見れば、妖精やそこまで強い力を持っていない妖怪“だけ”で挑むのは愚行だろう。自惚れだ。
ただ、彼女らは自分たちで仲間を守りたい一心なのだ。
これは扱いの軽い妖精だからこそなのだろう。
誰も見向きもしない。誰も手を差し伸べてくれない。
嫌われている訳でも、好かれている訳でもない。
それは一緒にいるミスティアやリグル、ルーミアも一緒。
だからこそ自分たちだけで自分たちを守る術に憧れた。それが形になって誰にも頼らない。
もし頼ったところで、誰も手を差し伸べてくれないから…あの時の様に、あの人里でバカルテットに初めて会った、あの時の様に…。
ずっと嫌われてた俺は、こいつらの気持ちを完全に理解する事は出来ないが……あれ?涙が出てきた。
……とにかく、それらが彼女らの、誰も頼りたがらない理由だろう。
ただ残念だったな。
「そうかよ…なら俺にもその権利はあるな」
「「「え?」」」
『異変をなんとかしなくてはいけない』
もう既にそんな気持ちはなかった。
『異変をなんとかしてやりたい』
その気持ちの方が強かった。
もちろんバカルテットに同情した訳でも、正義とかいう曖昧なもののために動くのではない。
その…なんだ。文化祭の時も言ったが、今まで一番頑張ってきた奴が『誰かを頼れ』と責められるのはお門違いだ。
バカルテットが今まで頑張ってきたかは知らんが、今回の異変に関しては敢闘賞をくれてやりたいぐらい活躍した。
………結果を残しているかは別としてな?
だからこそ、戦力になるか分からないが少しでも協力したくなった。
「おいおい、自己紹介の時仲間になったはずだぞ?半分強引に…それともなんだ?友達料とか払わないといけない感じ?」
まぁ自信はないし、出来るかは分からないが、多少は力になれるかもしれない。
こんな時『俺が誰にも頼らずに終わらせてやるよ』とか言ったらカッコいいのだろうが…。
ハードルはいつだって低くだ。俺は最善を尽くす、ただそれだけ。
「屁理屈ね」
「屁理屈だね」
「へりくつ?」
バカルテットには散々言われているが…。
あとチルノ、お前は屁理屈の意味ぐらい覚えておけ。
「あー…まぁとにかくだ。俺も多少は協力するって事だ。多少は…な」
その一言で、誠に遺憾ながらも俺のバカルテットの仲間入りが確定した。
「そういえば、さっきからルーミアはなんでなにも喋らないんだ?」
「あはは…朝は光を遮断しているから、ほぼ前が見えてないのよ…」
ふわふわと浮いているルーミアが、何度も廊下の壁にぶつかっていた。
〜〜〜
バカルテットとの話を終え、意外にも午後には既に退院出来た。
実際、左腕は治っているし、正常に動くからもう入院は要らないのだがな…。
今は永遠亭の玄関で、八意さんに見送ってもらっているところだ。
横には因幡とうさ耳さんもいる。
ちなみにうさ耳さんの名前は鈴仙・優曇華院・イナバというらしい。
小学生並みの感想だが、名前なげえ…
それにしてもやはりこの永遠亭はどこからどう見ても病院じゃないな…。
内装を見た限りでは古風を感じる病院に見えたが、外装はというと、普通のお屋敷だ。
それを八意さんにそれとなく聞くと、少し苦い顔をされたので、追求はやめた。
知られたくない事だってあるだろうしな。
「竹林の外まで案内するわ、てゐが」
因幡の案内か。こいつ若干苦手なんだよな……なんてわがままは言ってられないな。
聞いたところ、ここは迷いの竹林とかいう場所らしい。
とてつもなく広大で、いつも深い霧が立ち込めているという。
人間が迷い込んだら、余程の強運じゃないと出られないとかなんとか…。なにそれこわい
「えぇ〜私ぃ〜?」
「はぁ…少しくらい手伝って欲しいわ」
案内を面倒くさがる因幡に、八意さんが容赦なく冷たい笑顔を浮かべる。
なにあれ、こっわ…あんなの向けられたらちびる自信がある。
やはり普段優しい人ほど、怒ると怖いという説は本当なのだろう。
「はいはぁ〜い」
因幡が気怠そうに返事をする。
そういえばバカルテットは、八意さんが『任せて』と言っていたが、どうするのだろうか…。
「妖精達も、後で私たちが帰らせるわ」
おぉ、それはありがたいな。
「…………てゐが」
「ちょっとぉ!?」
〜〜〜
竹、竹、一面の竹。
竹林というとあまりいい思い出はないが、それも忘れてしまうほど広大な竹林だ。
霧も濃く、既に自分がどこを歩いているのかも分からない。
だが、もう既に永遠亭を出てから数十分は歩いている事だろう。
「ねぇ、患者様」
すると今まで鼻歌を歌っていた因幡が話しかけてくる。
今更だが、その患者様呼びはなんなんだろうな…。
「…なんだ?」
「本当は能力で一人で帰らせてもいいんだけど…竹林の外まで送るのは大サービスだからね?」
ん?能力?サービス?
なんのことだ?
「………?因幡、それはどういう…
「は〜い!ここを真っ直ぐ行けば竹林の外に出るから。私の案内はここまでね。バイバーイ!」
無理矢理話を遮られる。
なんだかこいつにはいつも話を遮られている気がするんだが…。
ただやけに意味深な発言といい、今回はすごい気になる話の遮り方だ。
出来るのなら聞きたいのだが…
ただ俺のそんな気持ちも無視して、因幡は霧の深い竹林の中に消えて行ってしまった。
ほんとに…
「なんなんだよ…」
絶え間なく濃い霧が流れる竹林。
一匹の兎は、楽しそうに笑う。
「……………幸運を…ふふっ」
──────タラッタラッタラッタ♪可愛いだんす♪
その日の竹林に、少女のご機嫌な歌が響いた。
文字数多い割に、全然話が進まなかった…