「あっぶねっ…!」
全速力で森の中を駆ける。無我夢中に走っているからか、もうすっかり自分の場所が分からない。
その最中もあの瘴気を纏った刀は絶え間なく斬撃を飛ばしながら、一直線に追って来る。この斬撃もバカルテットが使ってた弾幕ってやつの一種なのか…?
ただ不幸中の幸い。なぜかその斬撃を“運良く”避けられているのだ。
石につまずいたところ頭を斬撃が掠めていったり、逃げた方向と逆に斬撃が飛ばされたりと、今日の俺はなかなかの幸運と言っていい。
それにしても、病み上がりにする仕打ちじゃないだろこれ…ついこの間左腕斬り落とされたばっかりだぞ…!
──ビュンッ
そんな鈍い音をたてながら、逃げる俺を刀は追いかけてくる。
このまま逃げ続けても体力が尽きて追いつかれるだけだ。ただどこかに隠れるといっても、こいつがどういう基準で追ってているのかも分からない。それこそ妖怪や妖精を狙っている刀だ。妖力に反応して追って来ているなら、隠れてもどうしようもない。
じゃあ、誰かに頼るしかないか…。
でも誰に?今から冥界にいっても、途中で体力は尽きるだろう。
紫はどこに居るかも分からんし、助けてくれるかも分からん。
人里に行ったら助かる可能性はあるが、絶対犠牲者が出る。
それに、今は右も左もわからない森の中。人里以前にここがどこか分からない。
「…っはぁ…くそッ…どうすんだよ…はぁ」
呼吸が乱れるので、なるべく喋りたくないが、ついこの状況に悪態をついてしまう。
助けを呼ぶのは無理。隠れるのも逃げ切るのも無理。ならばどうする…何か利用出来るものは…。
考えろ…こういう時こそぼっちの特性を活かす場面だ。ぼっちというのは基本的に思考力が高い。対人関係や友人関係に割けるべきリソースを全て自分に向けているからだ。
自分の中で反省と後悔と妄想と想像を繰り返して、いずれ心理や哲学までに辿り着く。もう頭の中にもう一個の世界作れちゃうレベル。いや、本当に。
そういえば、妖怪や妖精とかの異種族が廃人と化しているのはこいつの仕業なんだよな…。
妖怪が廃人に…妖力を…なら…。
賭ける価値はあるかもしれない。
もし本当に妖力に反応し、妖力を吸い取り妖怪を廃人にしているのなら、妖力を込めた何かを……そう、弾幕だ!………でも弾幕ってどうやって作んだよ…。
そういえばさっき伊吹に聞いたよな…能力の使い方。
『そんなもの感覚だよ!』
感覚…感覚な…。なんとなくミスティアがやっていた様に手に力を込めて集中してみる。
感覚なんて言われても一つも分からんが、とにかく試してみるしかない。今は弾幕を出さないと始まらない。
掌に意識を貯め、なんとなく形を作るイメージで。
集中しろ…感覚、感覚だ………“かんかく” …………は?
「っはぁ…っはぁ…なんだ、これ?」
掌を見てみると、そこには鳥の羽の様なものが浮かんでいた。
普通の鳥の羽より二倍くらいの大きさで、どういう仕組みか、淡く光を放っている。
これが弾幕か?だとしたら結構呆気なく出せたな…。
あまりの呆気なさに少し驚いたが、出せたのなら話はこれからだ。
弾幕の仕組みがどういうものかは分からないが、もし妖力を込めて作られているのなら使える可能性がある。
そう、弾幕に反応させて、弾幕を追わせればやり過ごせるかもしれない。
まぁ前提としてあの刀が妖力に反応してくれなきゃ困るわけだが…。
やってみるだけ損はない、俺は弾幕を動かすイメージで刀の方へ飛ばす。
案外うまく操れるもんだな…もう少し難しいと思っていた。
自分の思った通りに動いてくれる弾幕を見て、少し嬉しくなる。
──スゥッ
静かに俺が出した羽の形をした弾幕が飛んで行く。
その弾幕は、刀に当たることなく横を素通りし、刀の向こう側の地面へと突き刺さる。
よし、狙い通りだ。後はあの弾幕に反応してくれたら逃げ切れる…もちろんまだ油断は出来ないが、ホッと息を吐いてしまう。
さて………どうだ?
『…………』
ピタっと刀が止まる。
成功か…?こう思ったのもつかの間、刀は弾幕を気にすることなくまたこちらに向かってくる。
失敗…とは言い難いが、そこまで反応を示さなかったか…なんなの?焦ってんの?
ただ、多少は反応を見せた。弾幕の妖力が強ければもっと反応してくれるんだろうが、妖力の込め方なんて分かるはずない。
一つの弾幕で一瞬でも動きを止められるのなら十分だ。うまく利用すれば逃げれるかもしれない。
よし、勝ち筋…というより逃げ筋は見えた。
後は助けを求められる場所に…………どこだよそこ…。
いや、とにかく逃げなきゃならないか…あいつが俺の妖力に反応しなくなるほど遠い場所に。
『…………』
未だ不気味なオーラを全開に出して追ってくる刀に、また羽の弾幕を打ち込む。そしてその弾幕に刀が一瞬反応を見せて止まった瞬間に、出来るだけ遠くに逃げる。この繰り返しだ。
気は遠くなるが、距離はどんどん離せている。このまま逃げ切れるな…。
にしても単純なもんだな。これなら人間の方が数倍は怖えわ。
ただ妖力に反応して、そちらを追う。考える頭を持っていないだけマシだ。ほら、人間を見てみろよ、あの刀以上にドス黒い瘴気纏ってるぞ。
ただ、今の俺には出来るだけ遠くに行って逃げきるという単純なものしか解決策が残っていないが、流石にもう体力も底が見えてきた。運動が苦手な訳でもない。言っても中の上か中の下だ。それでももう既に5キロ程度は走っていて、息も上がってきている。
かと言ってこんな山奥に助けてくれる人なんて居ないだろうし、一人でどうにかするしかないか…。
人間というのは、一度は孤独と向き合い孤独に戦わなきゃならない時がある。俺は今がその時だ。
あれ?でも俺ってずっと孤独じゃね?おい、永遠に孤独と戦ってんじゃねぇか。
いや、まてよ?つまり逆説的にぼっちは最強の戦士という事になる訳か…。
『──────ッ!!』
「うぉっ!?」
そんな俺の考えも無視して、いきなり刀が声を上げる。いや、雄叫びの方が近いかもしれない。まるでなにかを『宣言』するかの様に…。
「…………は?」
いきなりの大きな音にびっくりしていたのもつかの間。
つい反射的に刀の方へと振り向くと、目の前にはなんと…万華鏡が広がっていたのだ。
なにを言っているのか分からないと思うが、ただひたすら美しい巨大な万華鏡。
円柱の筒を除くと見える、あのカラフルで綺麗な昔ながらの玩具。
小さい頃駄菓子屋で母ちゃんに買ってもらった気がする。今はどこにあるか分からないが、随分長く持っていた気がする。
あの筒を除けば違う世界に行けた。たくさんのビーズが鏡に反射し、無限大の幻想を見せていた。
筒を回せば回すほど色々な世界が見れた。そしてどれも綺麗だった。
その万華鏡が、今目の前に広がっているのだ。迫って来ているのだ。
思わず魅入ってしまい、吸い込まれてしまいそうなその美しさに、思わず足を止めてしまう。
これは…弾幕なのか…?
しっかりと、一つ一つ見れば先程までの斬撃の弾幕が色づき、それが綺麗に並び、美しい万華鏡を魅せている。
言うならば弾幕の万華鏡だ。本当になんなんだよあれ…見惚れてしまうが、あれは弾幕だ…。きっと当たったらタダじゃ済まない。もちろん弾幕は万華鏡の様に複雑に敷き詰められてるので、避けることも困難だ。
──死ぬ
さっきも伊吹に頭突きされた時思ったが、今は全く違う意味だった。
避けるのが不可能という訳ではない。弾幕と弾幕の間には一人分くらいの隙間はある。並みの妖怪ならきっと避けれる。
ただ、生憎俺は限りなく人間に近い妖怪なんでな。これは無理だわ。
その万華鏡は止まることなく俺へと近づいてくる。俺を飲み込もうと。
あんな黒い瘴気を纏った刀がこんな綺麗な弾幕を出すなんてな…
もう足は動かない
ただ呆然と万華鏡の様な弾幕の大群を見つめているだけ
思わず魅入ってしまって
吸い込まれそうになってしまって
「向いてねぇわ…」
あぁ…綺麗だな…
「比企谷さん!」
聞き慣れた様な、聞き慣れてない様な声が聞こえてきた。
誰だったか…あぁ、妖夢か………いや、妖夢?
「なんでお前ここにいんだよ…」
ここに居るはずのない声が聞こえてきてハッと我に帰る。間違いない。俺の後ろから走ってくるのは魂魄妖夢だ。
幼さを感じさせない凛々しい顔つき、銀にも見えるその白髪に、黒いカチューシャが目立つ。剣は既に抜刀していて、今にも飛びかからんと黒い刀を睨みつけている。
「妖怪が鍛えたこの楼観剣に、斬れぬものなど、あんまり無いッ!」
いや、そのセリフかっこいいけど、なんか曖昧だな…。
妖夢は地面を強く蹴り、刀に向かってどんどん加速していく。ただその刀の前にはあの弾幕の万華鏡があるわけで…おい、そんなに突っ込んでいって大丈夫かよ…!?
「はぁぁっ!」
ただ妖夢はそれを気にもせず弾幕に突っ込み、剣で相殺する。もちろん全ての弾幕を消せた訳ではないが、少なくとも妖夢の前にあった弾幕は全て妖夢の刀により消え失せ、俺もすぐに避けることが出来た。
そのまま妖夢は刀に飛び掛かり、一撃を食らわせる。大きな音が響いて、そこからは鍔迫り合い。
なんだか人が握っていない剣と鍔迫り合いとか不気味な光景だが、妖夢の一撃に怯んだ様に刀は鍔迫り合いを辞め後ろに退がる。
ただすかさず黒い刀は体制を立て直し、妖夢に向かう。戦う意思はあるんだな…ただ妖力に反応しているだけの刀だと思ってたが…。
「そんな単純な剣筋で、私の剣には届きませんッ!」
鉄と鉄が強く打ち合う音。時折黒い刀が出す弾幕を妖夢は華麗に避け、時には相殺し、間合いに入った瞬間剣で斬りつける。
一見妖夢がおしている様に見えるが、黒い刀は怯むことはあっても、ダメージを受けている様子はない…それよりなんか動きが機敏になってきてね?
まさかこいつ…!戦いの中で成長している…!?
いや、冗談もほどほどに、黒い刀は妖夢の動きを読んでいるかの様に対応出来るようになっている。
最初こそ妖夢の方が素早く動いていたが、今じゃほぼ互角の様になっている。
一つ気になるのは、反比例して妖夢は動きが鈍くなっている気がするのだ。
「ッ…!…ッ!!」
まずい…いつのまにか妖夢がおされている形になってしまった…。
まるで嘲笑う様に刀は妖夢の動きに合わせ、弾幕を撃ち込んでいる。もちろん妖夢には余裕が無くなって行き、苦い顔になっていく。
そしてやっぱり妖夢の動きがさっきより鈍い、このままやってもいずれ負ける。素人の俺でもわかる。
「妖夢、一旦逃げるぞ!」
妖夢に聞こえるように声を張り上げて言う。
「いえ、まだ負けてません…!いや、負ける訳にはいきません!」
いや、なんか熱くなっちゃってるし…。
ただ、ここは妖夢がなんと言おうと絶対に逃げなきゃならない。妖夢と刀の実力差はもちろん、『二本目』の刀も気掛かりだ。
バカルテットと洞窟に行った時も、もう一本の刀のせいで俺の左腕は斬り落とされた。
もしここでもう一本の刀が出てきたら、妖夢はもちろんやられてしまう。そう、殺られてしまうのだ。
逃げてもどうにか出来る訳じゃないが、それでも二人仲良くご臨終よりは何倍もいい。
よし、俺だけでも逃げよう、そうしよう。と、言いたいところだが流石に放って置けない。
何としてでも妖夢を連れて逃げなきゃならない。
もう一本の刀はもちろん、既に妖夢はあの黒い刀一本に圧倒されてる。
今ならまだ俺でも介入出来る余地はある。今すぐ妖夢を引っ張って逃げ………
『……………』
「妖夢!後ろ…!」
「え…?〜〜ッ!!」
俺の警告を聞いたのか、直感的に危険を感じたのか、妖夢は間一髪のところで『二本目』の黒い刀の弾幕を躱す。
思った以上に早く来やがったな…二本目の刀が。なんなの?社畜なの?
ただ、またしても不幸中の幸い。妖夢が躱した弾幕は、その対角線上に居たもう一本の刀に当たったのだ。
「さっさと逃げるぞ」
その隙に妖夢の手を取り全速力で逃げる。二本は流石に勝てないと悟ったのか、妖夢は何も言わずについてくる。
さて、このままずっと逃げているわけにもいかないな。どうせ追いつかれるし、もしかしたら挟み撃ちに合うかもしれん。
「なんで…あの刀が二本…っはぁはぁ…」
妖夢に至っては既に息が切れている。半人半霊とはいえまだ少し幼い、見た目は小町の二個下ぐらいの妖夢だ。無理もないな…。
「さぁな…なんか洞窟に封印されてたっぽいが…」
確証はないが、洞窟で出会ったあの黒い刀。地面に落ちていたお札。この条件だとそう考えるのが妥当だ。
洞窟の奥底に封印されてたっぽいが、だとしたらあれって相当危険な刀だったりするのか…?いや、妖怪を廃人にする時点でもう危険すぎるが…。
「洞窟?あの刀は…っはぁはぁ…白玉楼の蔵に封印されてたはずですが…」
白玉楼の蔵…?いや、別におかしくはない。実際刀は二本あるわけで、今も後ろから追ってきている。
その一本は白玉楼に封印されてたのかよ…幽々子様管理甘くね?
「刀は二本あるからな…それぞれ洞窟と白玉楼に封印されてたんだろ」
さて、あの刀のことを知りたいのはもちろんのこと、まずはこれからどうするかを考えなきゃいけない。
さっきも言った通り逃げ続けるわけにもいかないし、戦っても勝てる確率は低いだろう。妖夢も俺も限界が近づいている。
「んなことより、これからどうする?…っはぁ…ふぅ…」
「とにかく…っはぁ…白玉楼まで走ります…」
「体育会系かよ…どれだけ距離あると思ってんだ…っはぁはぁ」
俺が萃香と別れ、刀と遭遇した場所からどの方向に走ったかは分からんが、もう右も左も分からない。
だいぶ走ったが、一層森は深くなっているだけで未だ人の気配も妖怪の気配も無い。何で妖夢と出会えたのかが不思議なくらいだ。
ただ、もし偶然俺が刀から逃げている方向が白玉楼の方角だとしたら、すこしでも希望は見えてくるんだがな…。
「いえ…っはぁ…この方角なら…すぐそこの筈です…!」
………偶然って怖い。悪いことじゃないが、なんだか今日の俺の運勢は異常に良い。
明日からどこぞの上条さんなりに不幸が続いたりしないよな…?いや、ツンデレ電撃ヒロインに追いかけられるのならそれはそれでありだが、残念ながら現実は非情だ。もしこの刀をやり過ごせたとしても待っているのは仕事だけだ。
ただ白玉楼が近いなら希望は見えた。こちらから否定しておいて情けない話だが、何かあったら幽々子様や妖忌さんに助けを求められる。
もしくは妖夢だけでもな…。
「で…後何キロぐらいだ…?」
「………2キロぐらいですかね」
いや、遠いだろ…。
でも選択肢なんて残っていない。白玉楼に逃げる以外の選択肢はな。
「妖夢は…ふぅ…走れるか…?」
「問題ないです…っ…はぁはぁ…」
妖夢がこう言ってんなら大丈夫だろ…。
いや、本当は大丈夫じゃないのだろうが、かくいう俺ももう数十分はずっと走っているわけで、妖夢を深く気にしている余裕もない。
走ることだけに集中しないと、すぐにバテそうなくらい余裕がなかった。
「はぁ…はぁ…」
「はぁはぁ…ふぅ…」
聞こえるのは俺と妖夢の息遣いのみで、刀は音もなく俺たちの後を追ってくる。
まずいな…さっきので少しは距離は離せていたが、もうすぐ後ろにいる。回り込んだり挟み撃ちをする頭が無いだけが助けか…。
ならまた弾幕に反応させて、一瞬動きを止めている間に距離を離せばいい。
掌に羽の弾幕を作って、また刀の方へ飛ばす。
もちろん二本とも刀は弾幕に反応を見せ一瞬止まり、再び俺たちを追ってくる。その間に距離を離す。
出来ることなら妖夢の弾幕に手伝って欲しいが、妖夢は走りに集中して気づいていないな…。
「もう…ちょっと、もうちょっとです…!…はぁ…」
妖夢が息を切らしながら声をあげる。
そうだ、ここまで来ると見覚えがある。冥界へ繋がる結界のある場所だ。
よし、ここまで来れば安心だ。
なんて思ったのはフラグだっただろうか。
中学の時のトラウマから、女性関係でのフラグは細心の注意を払って警戒していた。
なのになぜこのフラグは回避出来なかったのか。
こんな事を思えば何かが、何か悪いことが起こるのは火を見るよりも明らかだ。
俺の少し後ろを走る妖夢を確認しようと後ろを振り返る。
必死になって息を荒くして走っていた。ただ、しっかりとついてきていた。
その時だった
他の木より目立つ、一際大きな木
まるで見下す様にそこに生えていて
根気強く大きな根を張り巡らせていた
テンプレ通りに落とし穴にハマるかのように
妖夢はその巨木の根に足をかけ
──転んだ
「あたっ…!」
こいつ…!こんな時に天然を発揮してきやがった。
「わ、私に構わず行ってください…!」
いや、なに予定調和の様なセリフ吐いてんだ。一度言ってみたかっただけだろ…!
走って妖夢へと駆け寄る。もちろん黒い刀は目の前で、生きた心地がしない。
ヤバイ…とにかく離れないと。
どうやってだ?妖夢を抱えて後ろに飛ぶか?俺にそんな力も運動神経もない。
走って逃げてもこの距離ならざっくり逝かれる。ダメだ、もう策は残されていない…。
万事休す…か。
諦めたその時だった。
まるでそれすらもフラグかの様に、今の状況も合わせて1セットだったかの様に、グルンと視界が変わった。
「「………へ?」」
周りには草が生い茂り、木々がこれでもかというほど生えている。さっきと変わらない森の風景だ。
ただ、周りにある木の形や生えている場所、日の当たり方や草木の身長が全く違っていた。
当たりを見渡して見れば、さっきまで目の前に居た黒い刀が遠くに見える。ただ見えないわけじゃない。遠くに見えるのだ。
それならここはさっきと同じ森で間違いない。
ただ刀の目の前に居たはずが、今俺たちは刀から五十メートルは離れた所に居る。
「比企谷さん…ふぅ…あれ」
息を整えながら指をさす妖夢の目線を追う。その先にはさっき俺が目視した黒い刀があり、それと同じ場所にさっき妖夢が足をかけて転んだ一際大きな木があったのだ。
つまり刀が移動したのではなく俺らが移動したってことか…?
いや、考えてみれば当然だ。視界が変わった理由も説明がつく。つまり…
「間隔………か」
程度の能力とやらの仕業の可能性が高い。だとしたらなんで今発動出来たんだ?“偶然”や“幸運”にしてはあまりにも出来すぎている。
………いや、驚いている暇はねえな。俺は考えるのを後にして、妖夢の手を引っ張ってまた走り出す。
冥界に向けて。
いつも終わり方雑ですみません。
次回で第2章完結かなぁ。