東方青春録   作:青木々 春

3 / 13
三話目ですね。
今回は少しベタな展開を描いて見ました。



比企谷八幡という人間

見慣れない暗い部屋。い草の匂い。障子の隙間から入る月明かり。

木で造られた無機質な天井を見上げて俺はあの場面を思い出す。

 

 

ー青春とは嘘であり悪であるー

 

 

いつだろうか。もう覚えてない。

あの作文で俺の人生は大きく変わった。いや、変わる事になっていただろう。

ただ、俺は間違えた。間違えてしまった…。

 

やっと欲しい物が手に入れられると思ったんだ…思ったんだ………

でも、俺が…「失礼するわね?」

 

「え?」

 

こんな時間に誰だ…?

ってまあ…一人しかいないよな………

 

「何か御用ですか…幽々子様」

 

「ふふふっ」

 

襖を開けた向こうに幽々子様が立っている。

廊下からの逆光で、幽々子様が影になり少し不気味に見え、いつものその妖美な笑みが、一層輝いていた。

 

「もう十一時ですよ?少し遅寝じゃ無いですかね。」

 

静かな部屋に、チクチクと針の音を鳴り響かせる時計を指差して、時間を示す。

針は十一の文字を指していて、外は既に1メートル先も見えないほど暗くなっている。

外の世界より街灯が少ないのもあるかもしれないが…。

 

「それは八幡もでしょ〜」

 

「お話があるなら明日に………な、何ナチュラルに人の布団入ってこようとしてんすか」

 

いやちょっとまって!入って来ないで!近い近い、良い匂い!

ごそごそと何食わぬ顔で布団に入ってきた幽々子様は、特に動揺の様子は一切無く、ただニコニコしているだけだ。

 

「あ、あにょ!?だから何で入って!?」

 

「八幡、夜中にそんなに騒ぐと近所迷惑よ?」

 

「いや……近所も何も…」

 

ここ冥界だし。家と言っても白玉楼ぐらいしか無いぞ?

いや、そもそも幽霊って寝るのか?

 

「………八幡」

 

「は、はい?」

 

「お昼妖忌と……何を話したの…?」

 

………。

 

ダウト。この人は俺が妖忌さんと、何を話していたかを知っている。

幽々子様なりに気を使っているのかもしれない。ただそんなエゴを押し付けられても迷惑なだけだ。

 

「……………」

 

「……………」

 

しばらく静寂が訪ずれる。いや、一瞬だったのかもしれない。ただ俺にはその静寂が数分にもわたる程度に長く感じた。

 

いつもニコニコしている幽々子様がこんなにも真面目な顔をしてこちらを見つめる様は、この部屋に中々の気まずさを与えていた。

それはまるで何かやましい事をしてしまい、いつも優しい母に酷く叱られた時の様な空気だ。

幼き日の家族の記憶。あの時はまだ、母ちゃんは俺と良く色々な事を話してくれた気がする。

 

いつのまにか、二人で同じ布団に向かい合って入っている事も忘れて、俺はゆっくりと口を開く。

 

「はぁ…幽々子様」

 

「ん〜?」

 

いつも通りの気の緩む声。違うのは、どことなく陰の入ったその表情だけだ。

 

「幽々子様って…、そういう嘘は下手くそなんですね。」

 

「ふぇ?う、嘘なんてついてないわよ…!?」

 

この人は分かりやすいのか、分かりやすくないのか…。

表情を隠さないくせして、なにを考えているのかわからない。

動揺は隠さない。ただ自分の事を語ることはまず少ない。いや、無いと言っても過言では無い。

 

………まぁとにかく、今は話を進めないとだな。

 

「俺が妖忌さんと何してたか。知ってるんでしょう?」

 

俺がそう言うと、幽々子様は目を丸くして少し驚いている様子。

自分の表情の分かりやすさを理解してないのか?この人は…。

 

「凄いわね〜。こういうのには自信あったのに…何で分かったのかしら?」

 

あ、理解してなかったわ…。

 

「確かに幽々子様は自分のペースに持っていくのは上手ですけど、嘘は元々得意じゃないんじゃないですか?知りませんけど」

 

そう、この人は直ぐに顔に出るタイプだ。

会って一日しか経ってない俺にも分かる。幽々子様の表情はコロコロ変わる。

きっと自分に正直なんだろう。

 

「ふふっ、そうかも知れないわね」

 

ほら、今だって楽しそうな表情をしてる。嘘偽りの無い、楽しそうな表情…。

だが俺は…それを信じる事が出来ない。

 

 

『『幻想郷は全てを受け入れるのよ…。それは時に残酷な事…。』』

 

 

俺は受け入れる事が出来ない。また俺が壊してしまうんじゃないかって…。

欺瞞や嘘で塗り固められた関係は、やがて崩れていく。

少し前に葉山のグループを皮肉ったことがあったが、奉仕部も同じ様なものだった。

 

──共依存の関係

 

昔雪ノ下さんに言われた言葉だ。

ただ、それでも俺は少しの希望を持っていたのかもしれない、奉仕部に見出していたのかもしれない。

それでもあの日、あの修学旅行の日。俺は葉山グループを一時的に繫ぎ止める代償として、「歪んだ関係」が決壊した。

 

これで正解だったのかもしれない。あの依頼によって気付かされたこともあった。俺の求めるものが明確になった。ぬるま湯の様な関係を終わらせたのが、散々嫌っていた葉山グループってのが皮肉だがな…。

 

ただ、明確になったからと言って、冥界に落ちてしまったらしょうがない…。

 

 

もうきっとそれは、手に入らないから…」

 

「……………」

 

再び静寂。

あれ?何で?俺まずい事言った?

 

「………八幡、最後声に出てたわよ?」

 

「まじか………」

 

恥っず!めっちゃ恥ずい。

今すぐ足をバタバタさせながら、枕に顔を埋めて悶えたい。

 

「………八幡」

 

──ゾクッ

 

いつにも増して幽々子様の真剣な表情に、冷たい目、鋭い声。寝っ転がっているにも関わらず、背筋がピンっと伸びる。

その冷たい目で見つめられると、つい目を逸らしてしまい、ここから逃げ出したくなる。

蛇にでも睨まれたかのように体は動かない、再確認した。初めて会った時も思ったが、

 

この人は只者じゃない。

 

怒っている様子はない。悲しんでいる様子も、喜んでいる様子もない。感情が高ぶっているわけでもなさそうなのに、そのたった一言の言葉には、謎の迫力があった。

 

「は、はい?」

 

絞り出す様に情けない声を出して、

 

「あなたは…………何に怯えているの?」

 

すぐに優しく、緩い声に戻る。それでも気は抜けない。

ここで気を抜いたら、今度こそこの人に呑み込まれてしまう気がしたから。

例えそれが、図星を突かれても…。

 

「………何が……ですか?」

 

落ち着いて。出来るだけ落ち着いて答える。依存は無し。それでいて変に拒絶するのも無し。

感情が高ぶってしまったら、こちらの負けだ。

 

なんの勝負をしている訳でもないのに、すっかり幽々子様に圧倒され、慎重になってしまう。

ここで呑み込まれたらまた、同じ誤ちを犯してしまいそうだから。

 

「八幡はずっと何かに怯えている。怖がってる。私にはそれが何なのかは見当もつかないの」

 

あぁ…ほら、まただ。また依存しそうになっている。

優しい幽々子様なら、全てを話し、泣いてすがれば、きっとここで受け入れてくれるのだろう。

また期待してしまう…そしてまた壊してしまう。

ダメだ、この悪循環を止められるのは、誰でもない。俺しかいない。だって自分のことだから。

 

「八幡。私に教えてくれないかしら?あなたの事」

 

やめろ、名前を呼ぶな。またきっと苦しくなる。

物事を成し遂げなり、達成したりする時、必ず犠牲というものが必要になってくる。

子供でも分かること。

 

苦しいのは嫌いだ。辛くて、痛いから。

 

 

失って苦しいなら、犠牲が必要ならば、最初から手に入れなければいいのではないだろうか。

そうすれば、『みんな仲良く』出来る。

 

当たり前だ、何故ならみんな何も持っていないから。

やはりぼっち最強説というのは、冗談じゃなかったのかもしれない。

 

これ以上に期待を持って、何かメリットがあるか?

無いな、無い。何も無い。関係なんて面倒が付いて回るだけだし、無駄な犠牲が出るだけだ。

 

それならば、全員が全員。『お互いのことを受け入れなければ』……

 

「八幡…………八幡!」

 

「…………ぁ…」

 

幽々子様の声で、ハッと目を覚ました様になる。

目の前には、ぼやけていて見えずらいが、幽々子様が居る。

何故ぼやけているのだろうか…顔を触っても、泣いている訳でもないのに。

 

「……八幡、あなたの欲しいものは何…?」

 

まるで誕生日に、子供の欲しいものを聞いている母親の様な言葉。

その先には俺がいて、情けなく目を見開いて怯える様な表情をとっていた。

 

欲しいもの。

 

分からない、全然分からない。全く出てこない。

自分のことでさえ分からないのに、何故こうも俺は奉仕部に対して、知った様な口を聞いていたのだろうか…。

 

「………八幡。私はあなたの事をもっと知りたい。どんな些細な事でもたくさん知りたい…」

 

幽々子様は変わらず優しい声で、慰める様に声をかける。

それでも俺にはその言葉が、魔女の囁きの様に聞こえていた。

 

俺を苦しめる魔女の言葉。

この言葉を信じてはいけない。

またきっと苦しんで、後悔する。

 

ぐるぐるとそんな言葉が、頭の中を駆け巡る。まるで頭の中をかき混ぜられる様な感覚に陥る。

それでもその言葉をも信用出来なくて、捕まる木を無くしたコアラの様な、そんな気持ちだ。

 

「………ごめんなさい…」

 

またも必死に絞り出した声。震えているような、泣いているような、そんな情けない声。

だれに対して謝っているのだろうか。自分自身にも分からなかった。

 

目の前に居る幽々子様か、それとも奉仕部か。それとも愛しの小町や戸塚か、あるいは先生か。

 

意味のない謝罪。

謝ればまた始められるんじゃないかと、やり直せるんじゃないかと、終わらせられるんじゃないかと。

そんな期待でもしたのだろうか。

 

「………もう一度聞くわね…あなたの欲しいものは?」

 

一筋の期待。そうだ、そんな期待を込めて俺はずっと歩いてきたのだろう。

 

『みんな仲良く』

 

理想の世界だ。俺だってそんな世界があるなら行ってみたい。

それでも、俺はずっとその『みんな』に含まれていなかったから良く分かる。

きっとそんな世界は、人間がいる限り不可能だ。

 

それでもその理想を掲げ、ずっと信じ続けていた気にくわない奴がいた気がする。

俺はそいつが、多少は羨ましかったのかもしれない。

 

それでもそいつは、ずっと目を逸らし続けていた。

欺瞞を許し、「信じる」という甘い言葉だけで突き進んでいた。そんな関係なら、捨てた方がマシだ。

 

それじゃあ俺が欲しいものというのはなんだろうか…。

 

欺瞞がなく、大きな嘘もない。依存もなく歪みもない。

そんな綺麗事の様な関係…。

 

知らないという事は恐ろしい事だから…。大切に想っている人に、知らない顔があるのは酷く恐ろしい事だから。

だから俺は知りたい。知っていたい。知って安心したい。

そしてそんな自分の傲慢な想いを、誰かが許容してくれるのなら…それはきっと俺にとって、一番の幸せなのだろう。そして、それが俺の本物というのなら…

 

「…俺は………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本物が…欲しい」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「本物が…欲しい」

 

幽々子は驚いていた。

目の前で静かに、そして強くなにかを願う少年のことを。

 

幽々子の八幡への印象は、素直になれないぶっきらぼうだけど優しい子。

 

ただ、今八幡は幽々子に対して嘘や偽りのない言葉を投げかけた。

この少年と会って間もない幽々子だが、この少年がここまで自分に本心を吐き出してくれるとは思っていなかったのだ。

 

「本物………八幡、あなたの言う本物って何?」

 

『本物』。幽々子はその言葉が気になっていた。

八幡が何を求めているのか。その本物を知れば、八幡の心奥に触れられるんじゃないかと。

そんな淡い希望が幽々子の中で渦巻いていた。

 

「分かりません…ただ、俺は知って安心したいだけなんですよ…知らない事は、恐ろしい事だから…」

 

ただ、八幡の想いは、幽々子が思っている以上に複雑だった。

その心奥に触れた幽々子が一つだけ分かったのは…

 

「(知らないと怖いから、自分の大切なものは、隅々まで知っていたい。これって…ヤンデレって言うのよね)」

 

マイペースはいつまで経ってもマイペース。

 

ただ、八幡の言う本物は、外の世界で欲すには、なかなか難しいものだ。

八幡自身もそれは分かっていた。

 

「無理なのは分かってるんですけどね…人を隅々まで理解するなんて不可能だし、側から見れば気持ち悪いだけだ」

 

その通りだった。八幡の言う本物は、ただのわがままでしかない。さらに、先程幽々子が思った通り、只のヤンデレ気質。それは八幡自身も理解していた。

 

ただ、それは外の世界での話。

 

「美しいじゃない。本物…」

 

「でも、でも俺は…壊してしまった…」

 

八幡は、ぽつりぽつりと外の世界での自分を語っていった。

 

奉仕部の事。

あの二人の事。

依頼の事。

自分の事。

 

八幡には本当に大切にしているものがあった。それを全て語った。

その様子を、幽々子は優しく見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう…八幡にも大切な人が居たのね…」

 

「………………」

 

幽々子はその奉仕部の二人に、言い表せない何かを感じていた。

 

「そう…そう………よね…」

 

妬みだ。

 

「ねぇ、八幡。」

 

「はい………」

 

ただ単純に羨ましかった。八幡に対する感情が何なのかは分からない。

 

「確かに八幡の言う本物はわがままかもしれない…」

 

「そうっすね…」

 

ただ八幡の隣に居た事に対して幽々子は少し妬ましく思っていた。

 

「ただ、ここはもう外の世界じゃない。『幻想郷』よ?」

 

「それが…?」

 

だから欲しくなった、本物が。八幡の思う本物が欲しくなった。

自分のことを知ってほしかった。

 

「ここは全てを受け入れる世界なの。まだ諦めるのは早いと思わないかしら?」

 

「………でも…」

 

八幡との本物、八幡の思う本物、自分の思う本物が欲しくなった。

そして何より、八幡のことをさらに知りたくなった。

 

「私は八幡の本物に…、なれないかしら?」

 

「っ………」

 

そう、幽々子は欲しくなった。

本物(はちまん)が、欲しくなった。

 

「ずっと思ってたのよ。八幡は誰かに似てるって…」

 

「だれか…?」

 

「えぇ。私の古くからの友人なんだけどね?八雲紫って言う妖怪」

 

「……………」

 

幽々子が自分の友人を語り始め、八幡はそれを黙って聞いている。

 

「紫はね、何でも知ってるのよ?だから紫の話を聞いてると退屈しないのよ〜」

 

幽々子は嬉しそうに友人の八雲紫の事を語って行った。

その話を聞いて八幡は思った。

 

「俺に似ているようには感じないすけど?」

 

「………紫はね、幻想郷を作ったと言ってもいいほどの大妖怪なのよ。

………幻想郷は元々、勢力の弱まった妖怪達が集まっていた場所だったの」

 

幽々子は紫のことを更に詳しく語っていく。

そして幻想郷の事も………

 

「ただ妖怪は幻想郷にとどまりすぎて、外の世界の人間達に忘れられ、居ない者として扱われた。

事実が否定された妖怪と幻想郷は消えかけてしまったのよ…」

 

八幡の知らない幻想郷の事実。妖怪の真実。

一体何百年まえの話なのだろうか…もしくは何千年規模なのかもしれない。

ただ八幡は、なぜ八雲紫が幻想郷を作ったのかがわからなかった。

 

「消えかけた妖怪と幻想郷をなおすために、紫は幻想郷と外の世界の間に常識と非常識の結界をはった。人間の否定の力を逆手にとって、幻想郷を復活させたの」

 

「そして…そして今の幻想郷が出来上がったのよ〜」

 

「なぜ、八雲紫………さんは幻想郷を?」

 

「全てを受け入れる。そんな幻想のような世界を作りたかったみたいよ?」

 

「なるほど……だから似てる…ですか」

 

八雲紫の本当の意は誰にも分からない。

自分を受け入れて欲しかったのか、妖怪を守りたかったのか、はたまた別の野望があるのか…。

それでも幻想を追い求め、ここに幻想郷を作った。それには違いない。

 

「えぇ。形も大きさも違えど、八幡も紫もずっと幻想を追い求めてる。」

 

「………」

 

「紫の作ったこの幻想郷のように、あなたも本物が作れるんじゃないかしら。

もちろん。私も一緒によ〜?」

 

少しイタズラに笑う幽々子の顔から、八幡は目を逸らす事が出来なかった。

 

「幽々子様。」

 

「ん〜?」

 

「そ、その……俺にも…」

 

「………」

 

八幡がどもりながら何かを伝えようとしているのを、暖かい目で見つめる幽々子。

 

「………い、いえ。何でもないです。おやすみなさい」

 

が、くるっと反対側を向いてしまう八幡を見て、幽々子は…

 

「ふふふっ、あらあら…」

 

素直になるにはまだまだ時間が掛かるわね………と親のような目で見ていた。

 

 

 

 

 

 

この日、一人の少年の心は、紛れもなく亡霊の少女に救われた…

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

障子の隙間から朝日が入ってくる。

眩しい…。昨日寝たのが十二時。流石に遅すぎたな…。

 

「んん〜…」

 

俺の布団の中から聞こえる筈のない女性の声が聞こえる。

ちょっと待て。嫌な予感がしてきた…。

 

恐る恐る布団をめくると…。

 

「くぁ〜。もう朝〜…?」

 

「ゆ、幽々子様…」

 

………これ、なんてTo LOVEる?

 

 

 

ちょっと待て。整理をしよう。

昨日寝ようと思ったら部屋に幽々子様が来て………それで…。

本物が…どうとか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死にてぇ。

 

 

うわああああああああああ!!

何言ってんだ俺!?何が本物だよ!なんだよ本物って!?

ヤバイ。ヤバすぎる。語彙力もヤバイ。

 

「………んぅ〜…、八幡?どうしたの?」

 

「い、いえ、何でもないです…。」

 

めちゃくちゃ恥ずい。

誰か俺を殺してくれ…!

 

「………八幡」

 

「は、はい?なんすか?」

 

「何かあったら、すぐに言うのよ?私はずっと、あなたの味方だから…」

 

「………はい」

 

「ふふふっ、よろしい」

 

本当にこの人はいい人だ。そして叶わない。

今思えば俺はこの人に拾ってもらい、この人に元気付けられた。

幽々子様には、本当に感謝しかない。

 

しつこいようだが、俺は養われても施しを受ける気は無い。それだけはずっと言っている。

これから…返していかないとな……この人に…。

 

「朝飯。作ってきます」

 

「えぇ。美味しいのを宜しくするわね〜」

 

ニコニコしながら手を振る幽々子様を尻目に、寝室を出て台所に向かう。

まだ幽々子様を信頼しきっている訳では無い。

 

疑ってしまうのは昔からの癖だし、俺は悪くないだろ。

といっても幽々子様に借りが出来たのは確かだ。

 

ん?あれは…妖忌さん?こんな朝から素振りかよ…。

 

「む?比企谷か…。朝食の準備か?」

 

「は、はい。そうです…」

 

「そうか、にしても………」

 

「ん?なんすか?」

 

「いや何。昨日より良い目をしているな」

 

「っ、そう…ですかね…」

 

マジかよこの人。そんなの分かんのかよ。

 

「ふむ…。あまり引き止めるのも悪いな。私は素振りを続けよう。」

 

俺も早く飯つくらねぇと。

さっさと台所に…………

ん?待てよ…?剣………か…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、妖忌さん。頼み事が…」

 

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

「脇をもっと閉めろ!」

 

「は、はい」

 

「右手に力はほぼ入れないんだ!左手で剣を振れ!」

 

「はいっ」

 

「手だけじゃない。足も意識するんだ。遅れているぞ!」

 

「はい!」

 

今俺は竹刀を持って素振りをしている訳だが………。

俺が頼んだといえきついな…。

 

「一度休憩を挟む。汗を拭いておけ。」

 

「はぁ…はぁ…、はい…」

 

「それにしても驚いたな。剣を教えてくれなど」

 

「まぁ、色々ありまして……。」

 

幽々子様に拾われて、あれだけ助けられたんだ。

俺は施しだけを受けるつもりはない。少しでも幽々子様の為になるのなら、剣を習ってみてもいいだろう。

そしてしかるべき時、今度は俺が………

 

「幽々子様の役に立ちたい………か?」

 

「え?………」

 

何でこの人考えてる事がわかるの?

エスパーなの?

 

「なに、今お主の考えそうな事はこれくらいしかなかろう」

 

「そう…ですかね…」

 

「あぁ。剣の振りが昨日より格段に良くなっている」

 

「でも………俺は…」

 

まだ振り切れてない。外の世界の事を、肯定できてない………。

 

「それでいい」

 

「……え?」

 

「それでいいんだ。まだお前は迷い、悩む時期もあっていいんだ」

 

妖忌さんは真っ直ぐした目で俺を見て言う。

 

「ただ、剣を振る時。その時だけは迷い、悩みを全て捨てろ。忘れるんだ。

自分が何の為に剣を振っているのか。ただそれだけを見るんだ」

 

「………はい」

 

ここに来てから背中押されてばっかな気がする…。

ほんと、情けねぇ。

 

「続きをするぞ、竹刀を持て」

 

「はいっ」

 

なんだか冥界に来て俺の黒歴史がどんどん重なって行ってる様な気がするが…。

たまには良いだろ…こう言う日も。

にしてもほんと…

 

「らしくないかもな…」

 

 




一応ここからがこのクロスの本番ですね。

本来奉仕部に言うはずの言葉を幽々子様に言ってこの先どう変化していくのか…
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。