東方青春録   作:青木々 春

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インフルにかかってしまった…。
皆さんはインフルエンザ大丈夫ですか?
マスクと手洗いうがいを忘れずに。
本編どーぞ


初めてのおつかい

「人里に行って見ない?」

 

「はい?」

 

いつもの様に大量の朝食を食べ終えた幽々子は、

唐突に八幡へ提案を持ちかけた。

 

「人里ってなんすか?」

 

「人里は人里よ?美味しい食べ物がいっぱいあって〜…」

 

「あ、ああ。分かります。それで、なぜ?」

 

「そうね〜。白玉楼の食材がきれたから買ってきてほしいの」

 

「あぁ…そういえば無くなってましたね…」

 

そう。白玉楼の蔵いっぱいにあった食材は、1週間足らずで全てきれてしまったのだ。

幽々子一人で成人男性二人分以上の量のご飯を、更にそれを毎日食べていれば無理も無いだろう。

 

「それに、八幡も少しは幻想郷を見て回りたいでしょう?」

 

「………まあ、多少は」

 

冥界に来てから早1週間

幽々子の元で働いていた八幡は、慣れない仕事のお陰で冥界以外を見て回る余裕は余り無かったのだ。

 

「それより冥界から外には出られるんですか?」

 

「ええ。最近は紫のお陰で、強い力を持っている者なら冥界に出入り出来るようになってるのよ?」

 

「それでいいのか幻想郷…」

 

「大丈夫よ〜。それなりに力を持っていなければ入れないから」

 

「(なんか大分適当な気がする…。)」

 

幻想郷の適当さが少し垣間見えた一瞬であった。

 

「それに、力のある者って…俺特にそういうの持って無いですけど?」

 

「ん〜?持ってるわよ?」

 

「………え?」

 

人はいきなり自分に超常的な能力があると言われたらどうなるだろうか?

答えは固まるだ。何も言えねぇ。

 

「だって八幡。あなたは妖怪よ?」

 

「あぁ、そういえば…、そんな事言っていましたね…。」

 

妖怪。

 

日本で伝承される民間信仰において、

人間の理解を越える奇怪で異常な現象や、

あるいはそれらを起こす、不可思議な力を持つ非科学的な存在の事。(Wikipedia 引用)

 

そんな摩訶不思議生物が、幻想郷では普通に暮らしている。

 

そして、俺もその内の一人らしい。

 

「それで、俺は何て妖怪なんすか?」

 

自分のことだ、少しは気になる。

それに厨二心もくすぐられるしな…。

 

「そうね〜」

 

「………?」

 

「う〜ん……、言っていいのかしら?」

 

視線を動かさずにジーと八幡の目を見つめる視線と、勿体ぶる様に何かを思考する幽々子に八幡はつい目を逸らし、たじろいでしまう。

 

「え、えーっと、結局何の妖怪なんですか?」

 

「わからないわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沈黙。

いや、静寂と言った方が正しいだろう。

幽々子の一言で、八幡は凍り付いた様に動かなくなっていた。

 

「え…?は?わからない?」

 

「ええ。全く」

 

悪意の無い良い笑顔で答える幽々子に、

再度八幡は言葉を失ってしまう。

 

「え?いや、なんか勿体ぶって考えてたじゃないですか…。」

 

「ええ。妖怪って言った手前、何の妖怪か分からないなんて恥ずかしいじゃない?」

 

「いやそこは素直に言えよ…」

 

頬を赤く染めて、どうでも良い事を恥ずかしがりながら言う幽々子に、

つい素早くツッコミをいれてしまう八幡であった。

 

 

 

閑話休題。

 

「つまり、食材の補充ついでに幻想郷を見て回ってくればって言う事ですね?」

 

「ええ。お釣りは自由に使って来てくれて良いわ〜」

 

「はぁ…分かりましたよ」

 

つい溜息を溢してしまう。

当たり前だ。自分が妖怪だと言われても、何の妖怪かは分かっていない。

自分が誰なのか。それが分からないだけでも相当不安だろう。

 

「それじゃあ、行ってきます」

 

腰を上げ、部屋を出て行こうと襖に手をかける。

一抹の不安を心に抱えながら。

 

「それと………」

 

幽々子に呼び止められる。

 

「まだ何か…?」

 

「いえ、何でもないわ、行ってらっしゃい」

 

「………?」

 

神妙な面持ちで手を振る幽々子に疑問を持ちながら、

ぺこりと頭を下げて、八幡は部屋を出て行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いるんでしょう?………………紫」

 

八幡が部屋を出て行った後に、

日当たりの良い和室に二つの女性の影があった。

 

「あら?気付いてたの?」

 

「ふふふっ、ええ。途中からね…」

 

空間の裂け目から目玉が覗く『スキマ』

スキマの中から、この世の者とは思えない程の、目も眩む様な金髪に美貌を持つ女性。

 

八雲紫。

 

幽々子の古くからの友人であり、

幻想郷の境界を操る程の能力を持つ実力者。

その美貌が見せる笑みは、今日も怪しく光っていた。

 

「紫が白玉楼(ここ)に来るなんて珍しいわね〜。」

 

「そうね…。確かに久しぶりな気がするわ」

 

「それで?今日はどうしたの?」

 

「……………」

 

口を開かない。

いつもは薄気味悪い笑みを浮かべている紫だが、

今日だけはどこか遠くを見つめている様な、虚空を見つめている様な、そんな表情をしていた。

 

「………紫は、何であの子を幻想郷に入れたの?」

 

幽々子の言うあの子は、ついこの間幻想郷の冥界に来た少年。

比企谷八幡を指しているのだろう。

 

「そうね…それは…」

 

「あの子があなたに…紫に似ていたから?」

 

幽々子は問う。

 

「それは幽々子の感性でしょう?」

 

「違ったの…?」

 

首を傾げる幽々子だが、何となくは理解していた。

八幡が幻想郷に来た理由。それはもっと違う、ナニカが隠されていると…。

 

「分かってるわ…。覚えて無いわよね。貴方『達』は…」

 

「『達』………?」

 

紫の言葉に再び首を傾げる。

亡霊という者は、死んだ人間がなるもの。ただ幽々子は、自分に生前の記憶が無いのだ。

だから理解はしていた。自分に記憶が無いのは。

 

そして貴方『達』。紫はそう表した。それはまるで……………

 

「ねぇ紫。貴方達ってどういう………」

 

「はいはいはい。この話は終わりよ幽々子」

 

「え〜。まだ肝心なところが聞けて無いわよ〜」

 

質問を無理矢理手で制し、話を終わらせる紫。

まるで何かに焦っている様な様子で。

 

「あの子…、いや八幡をここに連れて来たのは私の我儘よ。それ以上でも、それ以下でも無いわ…」

 

「我儘…?」

 

「ええ、そう。我儘…。それと……」

 

「………?」

 

不自然に会話に間を開ける紫に、

幽々子は不思議そうに視線を移す。

 

「彼は、八咫烏よ………」

 

そう言い残し、紫はスキマに戻って行く。

寂しそうな表情を浮かべながら………。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「案外賑わってんのな。」

 

八幡は人里の思った以上の賑わいに驚いていた。

肉屋を始め、団子屋、薬屋、雑貨屋など、沢山の店で賑わっていた。

人の住む民家の様なものもあり、民家からは、楽しそうな子供の声が響いていた。

その子供の中に、明らかに人外のものも混じっていたり…。

 

「人里っつっても妖怪みたいなのはいんのか。」

 

人を食べる妖怪も居ると聞いていた八幡にとっては、

人間は余り妖怪を良く思っていないと勝手に勘違いしていた。

 

「あぁ。ここには人外も沢山いるぞ。」

 

「へぁ!?」

 

いきなり後ろから声をかけられて変な声を出してしまう。

また小さな黒歴史を作ってしまった…。

八幡も内心穏やかではないだろう。

 

「(やべっ、変な声出しちゃったよー。これ完全に黒歴史だろ。

うわ、話しかけて来た人苦笑いしてんじゃん…。

っべー。っべーわー。やべーわー。焦りすぎて戸部が移る程べーわ…。

どうすんだよこの空気。誰か何とかしろよ。え?俺が何とかしろって?

いや無理だろ。俺だぞ?そんなコミュ力あると思ってるのか?)」

 

案の定であった。

 

 

 

 

 

「そうか、君は外から来たのか。」

 

「は、はい、まぁ…。」

 

「それにしても妖力を感じるが…。」

 

妖力とは、基本的に妖怪が持つ力。

幻想郷には他にも神力、霊力、魔力などの妖怪や神、人間などに備わった力がある。

 

「あぁ、今は一応妖怪…、らしいです…。」

 

「〜〜!外来人が妖怪になる事もあるのか…!」

 

「なんかそう見たいですね…」

 

自分が妖怪という事実に確証が持てないのか、

自信無さげに八幡は答える。

 

「そうか………。そう言えば自己紹介がまだだったな。私は上白沢慧音。

人里で寺子屋を営んでいる。」

 

「えと…、比企谷八幡です」

 

「八幡か…。どこかで聞いた事のあるような…?」

 

何かを呟きながら慧音は八幡の顔をじっと見つめている。

銀色の長髪に整った顔立ち。そんな年上のお姉さんに間近で見つめられ、

普通の人なら狼狽えてしまうだろう。

 

「あ、あにょ!近い…です…!」

 

それは勿論八幡も。

 

「…!、すまない!取り乱した!」

 

「ふぅ…いえ、全然大丈夫です…」

 

「すまないな。それで八幡は、どこに住んでいるんだ?

もし住居が無いようだったら私がなんとかするが…。」

 

外から来た八幡に対して、住居の心配。さらには

『私がなんとかするが…。』

と、頼もしい台詞。完璧だ、これ程頼もしい言葉はこれまでにあっただろうか?

いいや無い。断言しよう、無い。このドラえもん以上の安心感。間違いない……

 

「(この人めっちゃ良い人だ…!)」

 

大げさである。

 

「ん?どうした?」

 

「慧えもん…。」

 

「ケ、ケイえも?なんだ?」

 

「あぁ、いや、何でも無いです、ハイ」

 

ドラえもんを頭から追い出し、一息置く。

八幡は白玉楼に住んでいるので、住居の心配は全く無い。

 

「住居は問題ないっす。白玉楼に住まわせてもらってるんで。」

 

「そうか、白玉楼に…………って、あの白玉楼か!?」

 

慧音は驚いた様子で目を見開き、

八幡の肩をがっしり掴んで揺らしてくる。

その姿は一見すると結構怖いとかなんとか…。

 

「ひゃ、ひゃい!多分その白玉楼であってると思います…。」

 

「そうか…、あの西行寺幽々子が…」

 

慧音は真剣な顔付きで、

何かを必死に考えている様子だった。

 

「え、えっと…?どうしたんすか?」

 

「あ、あぁすまないな。あの幽々子が人を雇う事に驚いてしまってな…」

 

「…?そうなんですか?」

 

八幡は失礼ながら、幽々子は誰でも見境無く同じ様に人に接する人だと思っていたのだ。

一見すると良い言葉に聞こえるが、悪い意味に捉えるとそれは人を信用し過ぎという事だろう。

 

「ああ、そうだぞ?ああ見えても幽々子は人を見る目があるしな。

だてに白玉楼の主を何年もやっている事はあるぞ」

 

「なんか意外だ…」

 

「おいおい…、自分の主人にそんな事言っていいのか…?」

 

慧音は苦笑いしながら言う。

この後もしばらく話は続いていた。

 

 

 

 

 

「それじゃあ、もう行きます。」

 

慧音とのちょっとした話を終えて、

八幡は食材を買う為に慧音に分かれの挨拶を告げる。

元々あまり話すつもりはなかったのだが、

慧音のあまりの気さくさに口下手な八幡でもつい長く話してしまっていた。

 

「あぁ。暇な時にまた来てくれ。こんどはお茶でも出す。」

 

「(本当に良い人だなこの人。)」

 

最後まで慧音の良い人度数は測りきれない程だった。

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

「八百屋、八百屋…」

 

今俺は白玉楼の食材の買い出しで八百屋を探しているのだが、

人里広過ぎだろ…。

 

厄介なのは、明らかに無駄な店が置いてあるのだ。

いや、無駄な店と言うより同じ様な店が多すぎる。

なんで材木屋が三つも並んでんだよ。激戦区なの?ここ。

 

更に言えば何だよかわ屋って…、ただの厠だろ。トイレだろそれ?

分かりにくいボケかましてんじゃねーよ。

 

「はぁ、八百屋何処だよ…」

 

そりゃ溜め息も出る。

慧音さんと分かれてかれこれ十五分程度は経った。

一応幽々子様から地図は貰っている。

なのに全く見つからない。気配すら無い。

 

………………八百屋の気配ってなんだよ…。

本当にこの地図あってんのかよ。

まぁ、しばらく探索してみるか〜。

 

 

 

 

 

 

 

「っ!八百屋というより、ここ何処だよ…?」

 

あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!

 

『地図を見ながら人里を歩いていたら、

いつの間にか森の中にいた。』

 

な…何を言っているのか分からねーと思うが

俺も何をされたのか分からなかった…。

 

「いや、マジでここ何処だよ…。」

 

森。それしか言い表せない程の森。

えぇー…。迷子?この歳になって…?

とにかく人とか探さないとか…。

それ以前にこんな所に人なんて居るのか…?

 

なんて考えてたら後ろの草むらがガサガサっと揺れた。

人…なのか?人だと信じたい。ああ、人だ。人に違いない。

 

そして草むらから出て来たのは………、

 

 

 

 

 

 

 

クマでした。(水曜どうでしょう風)

 

「ははっ……、シカじゃねーのかよ…」

 

真っ黒な毛並みをした熊は、

小さく唸りながらのそのそと近づいて来る。

怖い。体が動かない。

落ち着け。俺も熊も落ち着け。

 

「ウガァァァァ!!」

 

「うぉっ!?」

 

なんて俺の心の叫びを無視してこちらに走ってくる。

ヤベェ、とにかく逃げないと…!

てかデカイ。何あれデカイ。日本の熊の1.5倍ぐらいあるぞ!?

 

あれ?なんか突進して来てない?ねぇ。

 

「グガァァァ!」

 

え?やばっ!?追いつかれた…!もうダメなのか…!?

 

 

 

 

 

 

 

「………あれ?」

 

なんだ?熊の唸り声が聞こえなくなった…?

って、熊が倒れてる?

 

何だよ、目を瞑って死ぬ覚悟したのに…。

いや、死なないなら良いんだよ?

いやでもなんか死ぬ流れだったじゃん。

 

でもなんで熊が………、

 

「まったく…、昔からなんでそんなに面倒事に巻き込まれるのよ…。

 

 

 

 

 

 

八幡」

 

いつのまにか背後に立ち、俺の名前を読んだその女性は、

誰もが魅入る様な金髪に、幽々子様に負けず劣らない美貌を持っていた。

 

女性は不敵に、それでいて楽しそうに、それでいて何処か寂しそうに、

笑みを浮かべていた………。

 




今回は地の文を三人称と一人称を両方書いてみましたが、
次回からは基本的に一人称にします。
モノローグのほうが描きやすいんですよね…。

この駄作にこれからもしばしお付き合い下さい

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