惑星ローグから少し離れた場所にある、宇宙ステーションリゲル。
ブラックバルチャーの任務を取材中に怪我をしたレニスは、ここの医療施設へと搬送されて手術を受けて入院している。
コンコン
レニスの入院しているドアがノックされる。
「どうぞ」
「邪魔をする」
ドアが開いて人が入るが、その人物を見た瞬間、レニスの顔つきが変わる。
見舞いに来た人物は、ブラックバルチャー隊隊長ドルチェフだった。
「何の用だ? 俺を笑いにでも来たか?」
ドルチェフを見るなり、レニスは怒りを露わにする。
「そう言うな、見舞いだ」
ドルチェフは鞄から手土産を差し出す。
「いらん!」
「……そうか」
手土産をあっさりと拒否され、ドルチェフは手土産を鞄にしまう。
「用が無いなら出て行け!」
レニスは右手を強く振って、帰れと言う素振りをする。
「用件はある。お前と7年前の件で話がしたい」
「昔の古傷に塩を塗るつもりか?」
「俺もしたくはないが、どうしても話を聞いて欲しい」
ドルチェフは真剣な眼差しでレニスを見る。
「……」
レニスは、ドルチェフを睨みつける。
ドルチェフは、更に真剣な眼差しでレニスを見る。
しばしの沈黙が続く。
「……まあいい。聞いてやろうじゃないか」
レニスはドルチェフの気迫に負けたのか、睨みつけるのを止める。
「助かる」
「それで、話は?」
「信じてはくれないだろうが、あの事件の首謀者はガルス・バルディアだ」
「お前は、まだ言い訳をするのか」
事件の首謀者をガルスだと力説するドルチェフの言葉にレニスは、呆れて思わず溜め息を吐く。
「俺達三人は、ガルスの反応弾発射に最後まで抵抗したんだ。ギブソン・バーシェス、お前さんの言う首謀者の一人であり、俺達の仲間だ。アイツは、ジェニオスシティへの反応弾発射に最後まで反対したばかりにガルスに殺された」
呆れ顔のレニスをよそにドルチェフは、自分が知っている限りの事件のあらましを黙々と話し続ける。
「? 待て、俺の調べたデータには事件の責任を感じて自殺したと……」
ドルチェフの言葉にレニスは疑問を持つ。
GNNのデータベース上では、ギブソンはジェニオスシティへの反応弾投下により、多くの市民を巻き添えにした事に罪悪感を感じて自殺したと記載されていたのだ。
「自殺だと!? 統合軍は、事実まで捏造するか」
レニスの言葉にドルチェフは、怒りを露わにして奥歯を噛み締める。
「なあ……」
ドルチェフが統合軍に対して激しい怒りを表す中、レニスが重い口を開く。
「ん?」
「そこまでされて、何故お前さんは統合軍にいるんだ?」
「……俺も、お前と同じ目的かも知れん」
レニスの問い掛けにドルチェフの表情が険しくなる。
「俺達の部隊は、統合軍配属とは言え、世間じゃ掃き溜めと呼ばれる部隊だ。そんな掃き溜め部隊にいるメンバーの殆どは、ガルスによって左遷させられたのさ」
ドルチェフは、窓から宇宙を見つめながら黙々と話す。
ガルスにより辺境惑星に追いやられ、それでもドルチェフは必死になって部隊を築き上げてきたが、その苦労は並大抵ではなかった。
「ちなみに、ジェニオスシティの生存者が俺の隊にいる」
「それは知らなかったな。誰なんだ?」
ドルチェフの言葉にレニスは興味津々に聞く。
「ラナ・ルピナス。あの事件の唯一の生存者だ。報道記者のお前さんも知っているだろう」
「ああ、名前は知っている。確か一時期、唯一の生存者だと世間で色々と言われていたからな。しばらくして、名前を聞かなくなったと思ったら、お前さんの隊にいるとはねぇ……運命ってのは、不思議なものだな」
レニスは、はにかんだ様に話す。
「反応弾発射から、しばらく経った後に俺とマリアでジェニオスシティに調査へ向かった時に偶然、見つけたのさ。俺達のせいで身内を亡くしたラナへのせめてもの罪滅ぼしの為に、俺とマリアで世話をしていた」
少し眉をひそめて、当時を思い出しながらドルチェフは話す。
その表情は、普段見るような厳しい表情とは違い、何処と無く悲しげな雰囲気だった。
「お前さんは、彼女にあの事件の事を……」
「ああ、ちゃんと話したし、ちゃんと謝った。それでも俺は、彼女の為に必死になったさ。最初は、心を閉ざしていた彼女も俺やマリアの前で少しずつ笑顔を見せてくれた時は、凄く嬉しかったさ」
ドルチェフの表情が少しだけ笑う。
「やがて彼女は、少しでも俺達に恩返しをしようと思ったのか統合軍に入隊した」
「軍の入隊に反対はしなかったのか?」
「最初は反対したさ。でも、ラナは見掛けに寄らずに芯が強かったから、仕方なくオペレーターとして許可はしたよ。そんな彼女も、ガルスの命令で俺達の部隊に転属させられたがな」
ラナを語る時のドルチェフは、まるで自分の娘の事を話すような感じだった。
「……」
そんなドルチェフをレニスは、黙って見ていた。
レニスにも一人娘がいた。
受材の激務で、色々な惑星へと向かっている為、休暇もロクに取れず、ほとんど家に帰る事ができないレニスにとって、妻から送られてくる娘の成長のビデオレターが唯一の心の支えだった。
しかし、7年前の事件により、その大切な妻と娘は、もう戻ってくる事はない。
ラナの事を嬉しそうに話すドルチェフを見ていると、まるで自分の様に思えてならなかった。
レニス自身も仲間に娘の成長を嬉しそうに話していた為、なおさらそう感じていた。
しかし、もう戻ってこない家族の事を思うと、寂しさと怒りが募る。
当初は、ドルチェフ自身に対して怒りを募らせていたが、ドルチェフの真剣な眼差しやラナに対しての想いを聞いているうちに、怒りの矛先は統合軍へと向けてるべきだと思えてきていた。
「どうした、黙り込んで?」
「いやな……お前さん、厳つい顔の割には、そんな事まで考えていたから、人は見掛けによらないなと思ってな。もしかして、彼女もお前さんと居たから、多少は似てきたのかもな」
レニスは、ドルチェフを少し茶化したように話す。
「フ……確かにそうかもな」
レニスの言葉にドルチェフは、少しだけ口元を緩ませる。
「さて……」
ドルチェフは、鞄を持ち上げて帰り支度をする。
「行くのか?」
「ああ。部下に部隊を任せっきりなのも悪いからな」
「そうか」
「近いうちに、また詫びに来る」
「まあ、また勝手に来てくれ」
ドルチェフの言葉にレニスは、ぶっきらぼうに答える。
しかし、その表情から怒りの表情は消えていた。
ドルチェフは病棟を後にして、ステーションの格納庫へと向かう。
(統合軍は、7年前の事件の詳細する捏造していた。恐らくは、ガルスの指示だろう)
コクピットの中でドルチェフは、物思いに耽る。
(ガルスは確実に統合軍を手中に収めようとしている。ラナの見せてくれた試作機を使って……)
ラナがハッキングしたデータに映っていた試作機が気になっていた。
マクロス8船団でテスト中の試作機。
そして、そのテストパイロットを担当するガルス。
その機体が完成したとなればガルスは、その機体を使って手始めにマクロス8船団を支配下に置き、そこから徐々に統合軍の実権を握っていくのだろう。
そんな恐怖感が頭の中を過る。
ドルチェフは頭を軽く横に振り、気持ちを切り替えてステーションを後にして、ブラックバルチャー基地へと向かう。
その日の朝、ブラックバルチャー基地内は不穏な空気が漂っていた。
その原因は、マリアとネルが朝から機嫌が悪く、二人が顔を合わせるとお互いに喧嘩腰になっていたからだ。
朝の食堂でも二人は、喧嘩腰状態だった。
その為、他のパイロットやオペレーター達は、ヒヤヒヤしながら二人を見ている。
「ネル、あなたは女性なんだからもう少しおしとやかにしなさい!」
「はいはい。あんまり五月蝿いとシワが増えますよ、マリア大尉」
相変わらず、行儀の悪い食事の取り方をするネルにマリアは注意を促すが、ネルは聞き流してマリアをからかう。
「なんですって!」
「ほらほら、あんまりカリカリすると余計にシワが増えるよ~♪」
ネルは舌を出してマリアを挑発する。
「ネル!」
マリアは、挑発するネルの頬を張る。
「いったいわねぇ! なにすんのよ!」
叩かれた頬を押さえてネルは、席を立ち上がる。
「口は災いの元。覚えておきなさい」
「んだと!」
ネルは、怒りに任せてマリアの胸倉を掴む。
「マリア大尉、落ち着いてください!」
「ネルも落ち着けよ!」
その様子を見たメンバーが慌てて止めに入る。
「おーい、みんな! 見てくれよ、GNNの記事に俺が載ってるぜ!」
そんな状況の中、GNNニュースの記事を見せびらかしながら、タクヤが嬉しそうに食堂にやってくる。
「ほれほれ~、羨ましいだろう♪」
タクヤの嬉しそうにはしゃぐ様子に食堂内が一瞬静まり、周りの視線がタクヤへと集まる。
「……え? なになに? この空気」
タクヤは、状況を理解できずに辺りを見回す。
そして、その重苦しい雰囲気を僅かながらタクヤは読み取る。
「タクヤ、少しは空気を読みなさい」
マリアは、鋭い目つきでタクヤを睨み付ける。
「そうだぞ、ボウヤ。なんなら、そのままアタシが殺してやろうか?」
ネルは、指をバキバキ鳴らしながら、鬼のような形相でタクヤを睨む。
その二人の様子に周りからも「空気を読め」と言う視線がタクヤに向けられる。
「う、うわ。こ、怖ぇ……」
マリアとネルの殺気立った目つきにタクヤの身体は思わず震え上がる。
「タクヤ……タクヤ!」
タクヤの後ろの席から、エスターが小声で手招きをしてタクヤを呼ぶ。
エスターに気付いたタクヤは、二人から逃げるようにエスターの方へと向かう。
タクヤはエスターの向かいの席へと座り、思わず溜め息を漏らす。
「フー……なんだよ、あの二人。アンナにピリピリしやがって」
「僕もわからないよ。朝からあんな感じだよ」
エスターはウインナーを口へ運びながら話す。
「なあ、エスター」
「何?」
「理由を聞いてきてよ」
「えぇぇ……イヤだよ。どうして面倒な事を僕にやらせるのさ」
タクヤは、何かにつけて面倒な事をエスターに押し付けてくる。
その為、毎回毎回エスターが割を食わされており、エスター自身もその事については気付いていた。
「それに、今あの二人に関わると酷い目に遭うから絶対に嫌だよ」
今、いがみ合っている状況下で二人に喧嘩の理由を聞くのは、まさに武器を持たずに戦場に行くようなものである。
理由を聞いた時点でマリアに罵声を浴びせられ、ネルにはボコボコにされるのは明白だ。
そんな事を連想するだけでも身の毛もよだつ思いがエスターの脳裏を過る。
そんな事を思いつつもエスターは、マリアとネルの様子をこっそりと覗く。
マリアとネルは、お互いにいがみ合ったまま食事を口へと運んでいる。
その様子を他のメンバーも恐る恐る見ている感じだった。
「どうよ?」
「うーん……あの様子だと、話し掛けたら酷い目にあうかも……」
エスターは、二人の様子を見て溜め息を吐く。
「あ! もしかして二人共、アノ日とか?」
「タクヤ!」
タクヤの言葉にエスターが思わず反応して咎める。
女性が不機嫌になる理由は多々あれど、男性からその言葉を出すのは失礼に値するとエスターは思ったのだろう。
「冗談だよ冗談。でも、あの様子じゃ、しばらく続くと思うぜ」
「えー、あんまり続いて欲しくないなぁ……」
タクヤの言葉にエスターは苦笑いをする。
しばらく二人に近付くのは止そうと、そうエスターは心の中で思うのだった。
「あ、そうだ。GNNニュースに俺達の事、書いてあるぜ」
話題を切り替えてタクヤは、GNNニュースの記事をエスターに見せる。
「あ、本当だ。ヒロキさん、レニスさんの件で落ち込んでいたけど、頑張っていたんだね」
エスターは、まるで自分の様に嬉しそうに記事を読む。
記事の内容も統合軍の掃き溜めと呼ばれているイメージを払拭するかの様に少し贔屓目に書かれており、そこにはタクヤとエスターの写真も掲載されていた。
「……?」
ある程度の記事を読んだ後、エスターの記事を読む目が止まる。
「どした?」
エスターの様子に気付いたタクヤが思わず覗き込む。
「あ、ううん。なんでもないよ」
覗きこむタクヤにエスターは、笑顔で応える。
「ならいいけどさ。さてと、腹減ったからメシでも食おうっと」
タクヤは、そのまま配給所に食事を取りに向かう。
タクヤが席を離れるのを確認したエスターは、再び記事を開いて読み始める。
『統合軍幹部に闇献金疑惑!? 移民船団独自での新型可変戦闘機開発に関して開発資金を提供か?』
小さい文字ではあるが、記事の見出しが記載されている。
(……もしかして、この事って父さんも関わっているのかな?)
記事の見出しにエスターの表情が険しくなる。
記事には、統合軍所属の新マクロス級大型移民船団マクロス8船団において、新型可変戦闘機の開発が始まったと言う内容だった。
今までは、統合軍経由で新星インダストリー社ならびにゼネラルギャラクシー社で開発されるケースであったが、今回は船団独自での開発の為、この開発資金に関して統合軍幹部が開発資金の援助をしているのではないかと言う事だ。
エスターは一人、黙々と記事の内容を固唾を飲みながら読んでいた。
その日の午後、統合軍参謀本部からブラックバルチャー基地へ任務要請の連絡が入る。
任務要請の連絡を受けてパイロット達は、ブリーフィングルームへと集められてブリーフィングが行われる。
「12:49、ブリーフィングを始め……」
「ブリーフィングを始める前に……」
ラナの言葉を遮りマリアは、辺りを見回す。
そして、その視線はネルへと向けられる。
「ネル」
「何だよ?」
「人の話を聞く時は、姿勢を正しなさい」
先程からネルは足を机の上に乗せて椅子にもたれ掛かっていた。
他の者から見てもネルの姿勢は、どう考えても人の話を聞く態度ではない事は明らかだった。
「そんなの別にいいだ……」
ネルが言い切る前にネルを見るマリアの目は殺気に満ちていた。
その殺気立った視線にネルは、身の毛がよだつ恐ろしさを感じた。
「わ、わかったわよ」
殺気を感じ取ったネルは、慌てて姿勢を正して椅子に座り直す。
(うわあ……あのガサツな姉ちゃんですら言う事を聞かせるなんて、やっぱマリアって、すっげーんだなぁ)
二人のやり取りを見て、初対面で頬を叩かれたタクヤは、改めてマリアの怖さを思い知らされるのだった。
「さて……先程、統合軍参謀本部よりポイントガンマの小惑星群に所属不明の建造物の調査依頼が来ました」
気を取り直してマリアは、任務内容を説明する。
「映像、映します」
ラナはディスプレイにポイントガンマの映像を映す。
ディスプレイには、ポイントガンマとブラックバルチャー基地のある惑星ローグとの距離と統合軍から送られてきたポイントガンマ付近の映像が映し出される。
「前回は反統合政府軍が武器の搬送をしていたけど、今回はステーションの建造……ポイントガンマは隠れ蓑にはちょうどいい場所ね。これより1時間後にポイントガンマへと調査に向かいます」
前回は反統合政府軍が武器の搬送作業に使用しており、ブラックバルチャー隊の活躍により一蹴されていた。
しかし、あくどい事をする人間程、人目のつきにくい場所で活動をする習性がある為、この場所は使い勝手が良い様である。
「なお、統合軍参謀本部からは、場合によっては建造物の破壊も辞さないとの命令です」
ラナは任務に対しての補足説明をする。
「それならさぁ、最初っからステーションをぶっ壊しちゃえばよくね?」
タクヤがラナの補足説明に対してツッコミを入れる。
「タクヤ、我々の任務はステーションの調査が最優先よ。勝手な真似をしたら遠慮なく撃たせて貰うから、それくらいの覚悟はしておきなさい」
タクヤのツッコミにマリアは、冷静に応える。
しかし、その冷静な対応の割には言葉に毒もあり、とても冗談を言っている様な雰囲気には見えなかった。
(うわぁ……何気に怖い事を平気で言ってるよ。コレ、俺が下手な事をしたら絶対に殺すつもりだ)
タクヤはマリアの言葉に対して恐怖感を覚え、いつしか額から冷や汗が流れていた。
「念の為、トールとカイルの機体には偵察装備を施します」
「了解」
「各自出撃準備」
マリアの号令でパイロット達は、ブリーフィングルームを後にして出撃準備をする。
「さ~て、出撃まで時間あるし暇だなあ」
ブリーフィングを終えてタクヤは、大きなあくびをしながら思い切り伸びをする。
「タクヤ、そんな事を言うと、またマリア大尉に怒られるよ」
のんきそうに出撃準備をするタクヤをエスターが咎める。
「大丈夫だって……どした?」
咎めるエスターの表情が青ざめている事に気付いたタクヤは、そのまま後ろを振り返る。
その振り返った視線の先には、殺気立った目つきで睨むマリアの姿があった。
「さ、さーて、準備準備」
タクヤは、急ぎ足で逃げる様に格納庫へと向かう。
「待ってよ、タクヤ!」
エスターも急いでタクヤの後を追い掛ける。
「……ふう。もう、タクヤには困った者ね」
タクヤの任務に対しての軽い考えにマリアは、頭を悩ませる。
毎回任務遂行時も自分で勝手に行動をする事が度々あり、その都度ドルチェフ達がフォローに回る事が多い。
何度注意しても直す様子がない為、本来は営倉入りの処遇をしたいのだが、元々ブラックバルチャー自体パイロット不足の為、どうしても人数合わせの為にタクヤが必要となってしまう。
「ドルチェフ、普段はあまり顔には出さなかったけど、こうやって同じ立場になってみると本当にタクヤに対しての気苦労が分かる気がするわ」
ドルチェフもこの件に関しては毎回ボヤいていた為、マリアは改めてドルチェフがタクヤの態度に関して悩んでいる事を実感する。
ブリーフィング後の格納庫では、各パイロットは自分達の機体のチェックや整備を行い、ミラン達メカニックマンは宇宙用装備の換装作業や弾倉装填チェックに大忙しだ。
格納庫に逃げてきたタクヤとエスターも真面目に自分達の機体調整を行っていた。
パイロット達が機体点検で忙しい中、ネルは食堂でのんきに食事をしていた。
「やっぱりハンバーグには、デミグラスソースをたっぷりかけてないとな♪」
ネルは、デミグラスソースをたっぷりかけたハンバーグにフォークを刺して一口で平らげる。
「あー、おいしい~♪」
ネルは、ハンバーグの美味しさに気分上々だった。
「ネル」
後ろから自分を呼ぶ声が聞こえたので振り返ると、そこにはマリアが鬼のような形相で立っていた。
「出撃準備中に食事なんて、いいご身分ね」
「別にいいでしょ! 腹が減っては戦は出来ぬって言うじゃない」
マリアの言葉にネルは食ってかかる。
「あのね、ネル。みんなは出撃準備で機体チェックや整備で忙しい状況なの。わかるわね?」
「そんなの、わかってるわよ!」
マリアの小言にうんざりしたしたネルは、ぶっきらぼうに答えて食器を片付ける。
「フンだ!」
マリアにあかんべーをして、ネルは食堂を立ち去る。
「ふぅ……」
そんなネルの態度にマリアは、重い溜め息を吐く。
タクヤでも色々と気が重い状態なのに更にネルが加わり、マリアにとっては悩みの種が増えて余計に頭が痛くなる。
1時間後、バルキリーを艦載したブロウニングはポイントガンマに向けて発進する。
パイロット待機室でタクヤとエスターは、時間まで談話をしていた。
「ねえ、タクヤ」
「ん?」
仮眠用ベッドで横になっていたタクヤにエスターは話し掛ける。
「僕達の最初の任務もポイントガンマだったよね」
「ああ、そういやそうだったな」
「あの時は、本当に緊張したよ」
当時を思い出したのか、エスターの表情が少しだけ曇る。
初めての任務への参加。
初めての実戦に恐怖感で心臓がドキドキした事。
そして、任務を終えて無事に生き残る事が出来た時の安堵感。
当時は初めての任務で不安な事や恐怖感でいっぱいだったが、今思い返すと初任務から2ヶ月が経とうとしているが、その不安や恐怖感も懐かしく感じてくる。
「そうだよなぁ……なあ、話変わるけどさ」
「何?」
「マリア大尉とあの姉ちゃんのケンカって、いつまで続くか昼飯を賭けないか?」
「え? うーん……まあ、お昼ご飯くらいならいいかな」
「じゃあ、俺は1週間」
「僕は、そうだなぁ……うーん……」
タクヤの返答に対して、エスターは少し考え込む。
「じゃあ、僕は1日~2日かな」
「みじかっ!」
エスターの答えにタクヤは、思わずツッコミを入れる。
「え、そうかな?」
「絶対短いって。あの二人の様子じゃ絶対に長引くと思うぜ。さ~てと、昼飯は何を奢ってもらうかなぁ~♪」
タクヤは、既に賭けに勝った気分で上機嫌だった。
そんな上機嫌のタクヤを見て、エスターは思わず苦笑いをする。
「まもなく、ポイントガンマです」
レーダーにブロウニングとポイントガンマの距離が映し出される。
「ラナ、発進準備」
ラナの報告にマリアは、発進準備を促す。
「了解」
『パイロットに通達、まもなくポイントガンマに到達。各パイロットは出撃準備。繰り返す……』
「さあて、出撃出撃」
艦内放送を聞いたタクヤはベッドから飛び上がり、部屋から飛び出す。
「タクヤ、ヘルメット忘れてる!」
ヘルメットを持たずに部屋を飛び出すタクヤにエスターは、声を掛けてヘルメットをタクヤに投げ渡す。
「サンキュー!」
ヘルメットを受け取ったタクヤは、一目散に格納庫へと向かう。
「……もう」
エスターもタクヤに続いてヘルメットを脇に抱えたまま部屋を出て格納庫へと向かう。
ラナの艦内放送を聞いたパイロット達は格納庫へと向かい、機体に搭乗して出撃を待つ。
『バルチャー2より各機へ。出撃後は前回同様に小惑星群を抜けてステーションまで進路を向けて、ステーション付近で待機。向こうからの攻撃があるまでは、こちらからの攻撃は一切禁止する』
『了解』
『トールとカイルは、ステーション付近に到達後ジャミングをお願い』
『了解』
マリアはブラックバルチャー隊へ作戦開始後の指示をパイロット達へと促す。
『それから……タクヤとネル』
『ん?』
『何よ』
『間違っても、いきなりステーションに攻撃を仕掛けないでよ』
『んだそれ!』
『ふざけんな、ゴルァ!』
マリアの馬鹿にした様な通信にタクヤとネルは、怒りの感情に任せて罵声を入れる。
『エスター、二人をキチンと監視しておいてね』
『りょ、了解』
(何だか僕って、こんな役割ばっかりだなぁ……)
マリアの通信にエスターは不安混じりの溜め息を吐く。
毎回毎回タクヤのフォローに回されている事にエスター本人も気付いており、その事に関して多少なれど不満は感じている。
しかし、タクヤ自身をフォロー出来るのは自分しかいないと言い聞かせているのだった。
「出撃!」
ブロウニングの下部カタパルトが展開し、マリアの号令と共にバルキリー隊が次々と出撃する。
『バルキリー隊、射出完了を確認。これより本艦は戦線を離脱後、ステルスモードに移行します』
ラナの通信が入り、ブロウニングは戦線から離脱する。
『間もなく小惑星群に接近します』
『了解。これより小惑星群に突入する』
しばらくして、ブラックバルチャー隊は小惑星群に突入を開始する。
流石に学習したのか、タクヤは前回の出撃時の反省を活かして落ち着いて小惑星群を回避していく。
『今度は大丈夫だね』
次々と小惑星群を通り抜けるタクヤを見たエスターが通信を入れる。
『当たり前だって、この俺が同じ事を繰り返すかっての』
小惑星群を切り抜けながらタクヤは、余裕の表情を見せる。
タクヤ達が小惑星群を切り抜ける一方、ネルは初めての小惑星群突入に苦戦していた。
「ちょっと、みんな待ってよ!」
暗闇から突如現れる小惑星郡にネルは機体を毎回毎回ガウォーク・ファイター形態に変形させながら切り抜ける。
『ネル、遅れずに付いて来なさい』
小惑星郡に戸惑い部隊からはぐれそうになるネルにマリアが通信を入れる。
『そんな事言ったって、バルキリーで小惑星郡で操縦するの初めてなのよ!』
『ネル、言い訳をしている暇があったら、ちゃんと着いて来なさい』
ネルの言い分も聞かないままマリアからの通信は切れる。
「何よアレ、感じわっるぅぅぅぅ! 超ムカツク!」
マリアの通信にネルは、怒りをぶちまけながらも必死に操縦しながら小惑星群を抜けていく。
やがて小惑星群を抜けると、目の前にステーションらしき建造物が見えてくる。
ステーション付近には大型艦クラスと標準艦クラスを併せても10隻以上が停泊していた。
ブラックバルチャー隊は機体をガウォークに変形させて付近で待機し、その間にマリア機は艦隊に通信を入れる。
『こちら統合軍所属ブラックバルチャー隊マリア・ランカスター。貴艦の所属をお聞かせ願たい』
しかし、マリアが通信を入れた途端に艦隊はブラックバルチャー隊に向けて攻撃を開始し、それと同時に艦載機が次々と出撃する。
『バルチャー2より各機へ。各機散開して迎撃態勢を取れ。なお、艦載機の迎撃を優先し艦隊への攻撃は砲台へのみ許可する』
『了解』
マリアの通信を受けたブラックバルチャー隊は、散開して迎撃態勢を取る。
戦場は次々と爆光が輝いていく。
今の所、戦況はブラックバルチャー側が優勢だった。
マリアはミサイルの照準を攻撃を仕掛けてくる4機のVF-5000に合わせる。
そしてトリガーを引こうとした、その瞬間、4機のVF-5000は遠方からの攻撃により次々と撃墜されていく。
「え!?」
突然の事にマリアが辺りを見回すと、そこにはネルのVF-11の姿があった。
『ネル!』
『大尉がのんびりしてるから、アタシが代わりに片付けてあげたのよ~♪』
マリアを挑発するような言葉を残し、ネル機は別の敵を探しに飛んで行く。
「何よ、ネルったら!」
敵機を探しに飛んでいくネル機をマリアは恨めしそうに視線で追っていく。
ネルが敵機を探していると、レーダーに敵機の姿が映し出される。
「来た来た」
ネル機の前方より、3機のVF-5000が迫る。
「カモンカモンカモン……」
ネルは敵機にミサイルの照準を次々と合わせていく。
「よし、もらった!」
ネルがミサイルのトリガーを引こうとした、その瞬間、3機のVF-5000が次々と爆発する。
「え!?」
ネルが辺りを見回すとマリアのVF-14が見えた。
『何すんのよ!』
『あら、さっきの御礼をしに来てあげたのよ』
マリアは、ネルからの抗議を鼻で笑う。
『んだと!』
『さっきネルが私に言った言葉を、そっくりそのままお返ししただけよ』
再びマリアは鼻で笑う。
『ぐ……ぐあぁぁぁぁぁ! こんのおぉぉぉぉ!!』
マリアに鼻で笑われた事で今まで小言などを言われて溜まっていた鬱憤が爆発したのか、ネルは感情に任せてマリア機にミサイルの照準を合わせると同時に次々とミサイルを発射する。
「な!?」
突然の事にマリアは驚くが、機体を後退させながらガンポッドの照準をミサイルに合わせて次々と迎撃していく。
『何をするの!』
『うるさいうるさいうるさーい! 人を馬鹿にして……もう我慢できない、これでも食らえぇぇぇぇぇ!』
ネル機は、そのままマリア機に目掛けてガンポッドを連射する。
『やめなさい、ネル!』
攻撃をかわしながらマリアはネルに必死に呼び掛ける。
しかし、怒りの感情が高まっている為、マリアの必死の呼び掛けもネルは全く届く事はなく、攻撃の激しさは増していく。
ついにマリア対ネルの壮絶なドッグファイトが展開されるのだった。
『な、なあ……あれ、大尉とネルじゃないか?』
『ホントだ……何やってんだ? あの二人』
ブラックバルチャー隊のパイロット達は、マリアとネルのドッグファイトを見て呆然としていた。
『アンタは、いっつもいっつも口うるさいのよ!』
ネル機は、マイクロミサイルをマリア機に次々と撃ちまくる。
『ネルがいつもだらしないからでしょ!』
きりもみ回転をしながらマリア機は、小惑星郡を盾にして次々とミサイルをかわしていく。
『そう言うネルこそ、少しは女性らしくしなさい!』
ミサイルをかわしたマリア機は、バトロイドに変形して小惑星郡に身を隠しつつホーミングミサイルを発射する。
『うるさいわね!』
ネル機はバトロイドに変形して回転しながらミサイルを撃ち落し、再びファイターに変形して小惑星郡に突入する。
『そんなに怒ってばっかりだと、シワが増えるわよ! 4×8=32って感じで32本くらいね!』
ネル機は、その言葉通りに32発のマイクロミサイルをマリア機に次々と撃ち込む。
『余計なお世話よ!』
マリア機はチャフをバラ撒きつつ、バレルロールで次々とミサイルを回避して小惑星郡を抜ける。
『くっそー! 何で当たらないのよ!』
なかなか攻撃が当たらずネルは歯軋りをする。
『あなたとは実力が違うわよ』
その様子を見たマリアは、ネルを鼻で笑う。
『フンだ! どうせ、その機体を使わないと勝てないくせに』
ネルは舌を出してマリアを挑発する。
実際にマリアはVF-14、ネルはVF-11に搭乗しており、その性能差は歴然であった。
元々ゼントラーディの機体しか操縦した事がなく、ブラックバルチャー入隊後にバルキリーを操縦し、それでもVF-11でVF-14に食らいついているネルの実力は大したものである。
『!? ネル……どうやら、私を本気にさせたわね』
ネルの何気ない一言に、ついにマリアはキレた。
マリアはガンポッドと機銃、そして全ミサイルの照準をネル機に合わせる。
「な……何かヤバそうな雰囲気?」
コクピットにロックオンレーダーが表示され、ネルはマリア機の雰囲気を察して回避行動に移る。
『これでも食らいなさい!』
ありったけの攻撃がネル機に襲い掛かる。
『ちょ、ちょっと待ってよ!』
ネル機は、小惑星群に突入して小惑星を盾にして攻撃をかわす。
しかし、追い討ちを掛けるかの如くマリア機がネル機を追い掛ける。
『た、タンマタンマタンマ!』
ネルは、逃げながらマリアに必死で命乞いする。
『ネル……私を怒らせた事を後悔させてあげるわ』
マリアがネル機に照準を合わせてトリガーを引こうとした、その時、
『お前達、何をやっているんだ!』
突如ドルチェフの怒鳴り声が二人に入る。
『ドルチェフ!?』
『隊長さん!?』
突然の怒鳴り声に二人が辺りを見回すと、暗闇の影からドルチェフのVF-14の姿を現す。
『お前達、戦場から離れて何をしている!』
『そ、それは……』
ドルチェフの問い掛けにマリアは、しどろもどろする。
『え、えーっとぉ……そ、それよりも隊長さんがどうしてココにいるのよ?』
自分達がドンパチしている事を知らないはずのドルチェフが突然やって来た事にネルは、疑問を感じていた。
『見舞いを終えて調べ物をしに行こうと思ったら、たまたまブロウニングの姿を見て加勢に来たんだ。そうしたら、お前達二人が突然戦場を離れたとカイル達が言うから様子を見に来たら、このザマだ。それより、すぐに戦場に戻れ! 話は後で聞く』
『了解』
ドルチェフ機に続いてマリア機とネル機も戦場へと戻っていく。
戦況はマリアとネルが抜けた影響で、ブラックバルチャー側が不利な状況に立たされていた。
その穴埋めの為にパイロット達は、必死になって応戦する。
「うわ!」
敵の攻撃を受けてカイル機のガンポッドが右腕ごと吹き飛ばされる。
『大丈夫か、カイル!』
カイルの状況を見たマルスが心配して通信を入れる。
『ぼ、僕の方は、なんとか大丈夫だけど……』
カイルは、自分の体調よりも先に直ぐ様機体の状況やコンソールパネルを確認する。
『く……駄目だ、さっきの攻撃のショックで電子系統までいかれて来てる』
カイルはパネルスイッチを色々と弄るが、ディスプレイの一部は砂嵐状態で表示されていた。
『カイル、無理するな。援護するから下がれ』
『りょ、了解』
マルスの通信を受けてカイル機は、戦場から徐々に後退をし始める。
『バルチャー6より各機へ。バルチャー4が損傷を受けている。後退するまで誰か援護に回ってくれ!』
『了解』
マルスの通信を受けて、マルスとカイルの近くを飛行していた機体が援護に向かう。
『カイル、通信と索敵は俺が代わりにやっておく』
トールがカイルに通信を入れて索敵を行う。
『すまない、トール』
『まったく、こんな時にマリア大尉とネルは何をやってるんだよ!』
援護に来たフォルトが思わず愚痴をこぼす。
『みんな、大丈夫か!』
ブラックバルチャー隊パイロット全員にドルチェフの通信が入る。
ドルチェフの機体を先頭にマリア機とネル機が戦場に姿を現す。
その姿にパイロット達の表情が明るくなる。
『隊長』
『よし、隊長が加勢に来たんだ。形勢を逆転させるぞ!』
『おう!』
ドルチェフの加勢により、ブラックバルチャー隊の士気が高まる。
『マリア、ネル。このままフォーメーション6で仕掛ける』
『了解』
『えぇぇぇ! アレ、ニガテなのになぁ……』
フォーメーション6の言葉にネルは、愚痴をこぼす。
ネル自身、未だにフォーメーション6のシミュレーション成功確率が低いのだ。
『グダグダ抜かすな、行くぞ!』
ドルチェフ機を先頭にマリア機とネル機が続く。
艦隊周りの機体に照準を合わせて3機は、一斉にミサイルを掃射して、そのままミサイルを追いかける形で突撃する。
3機は、ミサイルの迎撃態勢をする機体とその周辺の機体に向けて、次々とガンポッドを浴びせて撃墜して行く。
『マリア、コンマ0.13遅れている。ネルはコンマ0.15だ』
『了解』
『了解!』
(そんなこと言ったって、こっちはVF-11なんだから合わせるの難しいに決まってるじゃない!)
ネルは心の中でドルチェフに文句を言う。
実際にドルチェフとマリアの機体はVF-14であり、ネルはVF-11である為、エンジン推力や出力は断然違う。
しかし、どんな機体でもパイロット次第では上位機体を上回る実力を発揮できるのも事実である。
『バルチャー1より各機へ。俺達がフォーメーション6を完了後に照明弾を上げる。その後に全機フォーメーション9だ』
『了解』
『いくぞ!』
3機は、そのまま艦隊へと向かう。
そして、砲台に照準を合わせて次々と撃破して行く。
砲台への攻撃を終えた後、3機は艦隊から離脱して、ドルチェフ機は照明弾を放つ。
照明弾を確認したブラックバルチャー隊は、フォーメーション9を編成して、艦隊の外側から回り込んで一気に艦隊へ向けてミサイルを掃射する。
ミサイルは艦隊や艦隊周辺の機体に次々と命中し、爆発を起こしていく。
やがて攻撃する気力が尽きたのか、艦隊から降伏宣言の閃光弾が放たれた。
後に銀河パトロール隊の調べでステーションは、テロリスト達の拠点として建造されていた事が判明した。
その件を踏まえてドルチェフは、パトロール強化の案をパトロール隊へと提言する。
無論、この案がすんなりと通る訳がない事は、ドルチェフ自身も理解はしていたが、何もしないよりはマシだと心の中で思っていた。
任務を終えて、ブラックバルチャー隊は基地へと帰還する。
基地へ帰還後、マリアとネルはドルチェフの部屋へと出頭を命じられる。
出頭を命じられたマリアとネルは、お互いに気まずい表情をしつつも揃ってドルチェフの部屋へと入る。
「何故、出頭を命じられたか……わかっているな」
「はい」
「……」
ドルチェフからの問い掛けにマリアもネルもお互い黙り込む。
「他の者から聞いたが、戦闘中に勝手に戦場を離れて、しかも味方同士でドンパチ……何を考えているんだ?」
「はい・……」
マリアは、顔を下に向けたまま返事をする。
ネルは殺気立った表情のドルチェフの表情が怖いのか、ずっと黙ったまま下を向いていた。
「他にも俺がいない間にマリアもネルもケンカをしていたみたいだな……その理由は何だ?」
「そ、それは……」
ドルチェフに喧嘩の理由を問い質されてマリアは、言葉を詰まらせる。
「それは……マリアが悪いんだ!」
マリアが言葉を詰まらせる中、突然ネルが口を開く。
「!? どういう事だ?」
ネルの突然の告白にドルチェフは驚く。
「だって、マリアがアタシが最後に食べようと思っていた残りのデザートを食べたんだよ!」
「……はぁ?」
ネルの説明にドルチェフは、口をあんぐりと開ける。
「そもそも、あれはネルの物じゃなかったでしょ!」
ネルの説明にマリアが反論する。
「いいや、あれはアタシがツバつけておいたのよ!」
「カウンターに置きっぱなしだったじゃない」
「それでもアレは、アタシの物だったんだ!」
「勝手に決めないの!」
「ぐ、ぐぐぐぐぐぐ……」
二人のやり取りにドルチェフの手がプルプルと震える。
そして、
「バカか! お前達はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ドルチェフの怒号がブラックバルチャー基地全体に轟く。
その瞬間、基地に駐在していた全員の動作が一瞬だけ止まる。
「まったく何事かと思ったら、そんなくだらん理由でケンカをするな!」
「はい……」
「すみません」
「それとだな……」
それからしばらく、ドルチェフのお説教時間が約3時間ほど続く。
ドルチェフの部屋を出た二人の表情は、疲労感たっぷりの顔だった。
「つ……疲れた」
「そうね。コレに懲りたら、もうケンカなんてよしましょう」
「そうだね」
「フフ……」
ネルの顔を見てマリアは微笑み、ネルも笑い返す。
今思い返すと、なんて馬鹿な理由で喧嘩をしていたのだろう?
今の二人は、そんな感じで思い返していた。
次の日、あのピリピリ感を醸し出していた二人は、どこへ行ったのかと思わせるくらいに、いつもの仲の良い二人に戻っていた。
二人のやり取りを見ていた他のメンバーも、ホッと胸を撫で下ろしていた。
「……」
そんな二人を見ていたタクヤは、一人でバツが悪そうな表情をしていた。
「おはよう、タクヤ」
「エ、エスター……」
エスターに話し掛けられてタクヤは固まる。
「約束、忘れてないよね?」
「え? なんだっけ?」
「賭けの事だよ」
エスターの言葉にタクヤは、引き攣った表情をする。
「あ、ああ……あれね」
エスターにマリアとネルの仲直り日数の事で昼食を賭けた事を思い出されて、タクヤの額から脂汗が流れる。
「賭けをした次の日には仲直りしてるっぽいから、この賭けは僕の勝ちだよね」
エスターは、いたずらっぽく勝ち誇った笑みを浮かべる。
「あ、ああ……なあ、エス……」
「ダメ」
「ちょ、まだ何も言ってないだろ!」
「タクヤの事だから、どうせ適当な事を言って誤魔化すつもりだったんでしょ?」
「う゛」
どうやら図星だったらしく、タクヤの表情が、ますます引きつる。
「僕、今日はDセットとデザートにチョコパフェモンスターが食べたいなぁ~♪」
エスターは、タクヤに聞こえるように呟く。
「はいはい、わかりましたよ!」
エスターの呟きを聞いたタクヤは、もう逃げられないと思い、やけくそに答える。
「じゃあ、そうと決まったら食堂に行こう」
「え? まだ昼前じゃん」
「そうだけど、前倒しでもいいでしょ」
エスターは、タクヤの背中を強く押す感じで食堂へと向かう。
背中を強く押されてタクヤは前のめりになりそうになりつつも、強制的に食堂へと歩かされる。
「コラ、エスター。背中を押すんじゃねえよ!」
「ダメダメ。僕が押さないとタクヤは、また逃げるもんね」
エスターはニコニコしながら嬉しそうにタクヤの背中を押している。
(クソ、あの二人何ですぐに仲直りするんだよ!)
エスターに背中を押されるタクヤは、恨めしそうにマリアとネルを見ていた。
次回予告
新型スナイパーライフルを導入したフォルト。
狙撃任務を任されたフォルトの胸中は?
次回「スナイプ・スナイパー」