MACROSS-A.D.2048-   作:eisyama

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 特殊任務でリゾート惑星にやって来たタクヤとエスター。
 しかし、そこで待っていたのは……


第11話デビル・リゾート

 惑星オルファン。

 

 A.D.2020年代に統合軍の中規模移民船団が発見。

 惑星の周りには、何もなく海王星レベルの距離でも惑星すら一つもない状況であった。

 

 その惑星の調査により惑星内の大気は地球とほぼ同じ常夏の気候であり、海や森林も存在しており、居住するには充分な程の環境であった。

 中規模移民船団は、惑星の周りに何もなく、ひっそりと佇む様子から孤児と言う意味を称してオルファンと名づけて居住を開始する。

 

 その情報が統合軍より共有されると共に観光開発事業がこぞって惑星に進出し始めて、ホテルやリゾート地等の開発をし始める。

 数年後、オルファンはリゾート惑星として有名となり、行楽シーズンともなるとカップルや家族連れ等の多くの観光客が訪れて賑わうようになった。

 

 そんなリゾート惑星にタクヤとエスターは、任務で訪れていた。

 

「うー、あちー、あちぃよぉ……」

 

 惑星内に到着したタクヤは、コクピットの中でうだっている。

 

「うぉぉぉぉぉ! あっちぃぃぃぃぃぃぃ!」

 

 あまりの暑さにタクヤは、思わずコクピットで叫びだす。

 

『タクヤ、そんなに叫んだって涼しくならないよ』

 

 コクピットで叫びまくるタクヤの様子が気になったのか、エスターが通信を入れる。

 

『んなこと言ったって、暑いもんは暑いんだよ!』

 

 あまりの暑さにタクヤは、イライラしながらエスターに怒鳴り散らす。

 

 コクピット内の環境制御システムを弄り、コクピット内の気温を下げようとするが、限界まで下げようとすると機体の内部機器にも影響が起きる為、リミッターが起動して下げられなくなる。

 その様子にタクヤは、尚更イライラ感を募らせる。

 

『そんなに怒鳴ると、余計に暑くなるよ』

 

 暑苦しさに叫ぶタクヤにエスターは、冷静にツッコミを入れる。

 

『そう言うエスターは、暑くねぇのかよ?』

 

 暑苦しいコクピット内で冷静にいられるエスターに対して、タクヤは疑問に思っていた。

 

『そりゃあ、暑いけど……そもそも、タクヤが隊長の誘いに乗らなきゃ、こんな事にはならなかったのに……』

 

『あ、あれは、おっさんが悪いんだ! おっさんが俺を巧妙な罠に乗せて……』

 

 エスターの愚痴にタクヤは、しどろもどろになる。

 

『その罠に乗ったの、タクヤでしょ』

 

『う……』

 

 エスターの冷静なツッコミに押されて、タクヤは何も言えなかった。

 先程まで暑いと叫んでいたタクヤは、エスターのツッコミにより、体内温度が涼しく感じていた。

 

 それは、3日前の出来事だった。

 

 

 タクヤとエスターは、ドルチェフに呼ばれて部屋に出頭していた。

 

「タクヤ・バーズラッド、エスター・ワードナ、入ります」

 

「入れ」

 

「失礼します」

 

 エスターはドアを開けて部屋に入り、続けてタクヤも部屋に入る。

 相変わらず、ドルチェフに呼ばれた事で不安な面持ちをするエスターと何も考えずに能天気に口笛を吹くタクヤの変わらない様子にドルチェフは、「相変わらずだな」と言いたくなる表情をしていた。

 

 

「お前達を呼んだのには理由があるんだが……どうだ、お前達……突然だがリゾートへ行きたくないか?」

 

「リゾート!?」

 

 殆ど任務で宇宙にしか出ていないタクヤにとって、他の惑星へ遊びに行けるのが、よほど嬉しいのか、リゾートの言葉に思わずタクヤの目が輝く。

 タクヤの頭の中では、海で水着を着た女性が遊んでいる姿が焼き付いていた。

 

「そうだ。お前達二人だけの特別だ。別に断っても構わ……」

 

「行く! 絶対に行く! マジで行く! 頼む、行かせてくれ!」

 

 ドルチェフの言葉を遮り、タクヤは目を輝かせてドルチェフに詰め寄る。

 そんなタクヤの興奮した目付きにドルチェフは、思わず後ろに引いていた。

 

「タクヤ、本当に行くの?」

 

 ドルチェフに詰め寄るタクヤをよそににエスターは、不安そうに聞く。

 何も考えずにすぐに勝手に決めるタクヤにエスターは、正直不安を感じていた。

 

「そんなの行くに決まってるだろ! おっさ……あ、いや、隊長。そのリゾートに水着のお姉ちゃんは、いますよね?」

 

 タクヤは、そのギラギラと激った目を大きく見開いてドルチェフに質問する。

 ドルチェフ自身も今頃になってタクヤを呼んだ事を心の中で後悔していた。 

 

「……安心しろ、ちゃんといる」

 

「よっしゃ、決めた! 俺……いやいや、自分は行きます。いや、行かせてください!」

 

ドルチェフの返答を聞いて、水着のお姉ちゃんがいる事を確信したタクヤは、やる気満々で志願する。

 

(リゾートに行ったら、水着のお姉ちゃんとひと夏のアバンチュールも悪くないよなぁ~♪)

 

 鼻の下を伸ばしながら浮かれるタクヤの様子に今更ながらドルチェフとエスターも大きな溜め息を吐く。

 

(今のタクヤに何を言っても無駄だ)

 

 きっと二人は、同じ事を思ったに違いない。

 

「エスター、お前はどうする? 別に行くのを辞退してもいいんだぞ」

 

「僕は……」

 

 ドルチェフの問い掛けにエスターは、少し考える。

 

「タクヤが行くなら、僕も行きます」

 

 タクヤが浮かれ過ぎて変な行動を起こさないかを監視する為、エスターは、その思いで志願をする。

 

「わかった。二人共、出発は3日後だ。後で資料を渡すから部屋に戻れ」

 

 ドルチェフに言われて、二人は部屋を後にする。

 

 

『後で渡されたのが特殊任務の資料。くっそー、腹立つなぁ!』

 

 タクヤは、後部シートから資料を取り出す。

 そして、任務の資料を渡された時の事を思い出したのか、資料をビリビリに破り捨てて、そのままコクピットモニターを思い切り叩き、怒りをぶちまける。

 

『済んだ事を今更グダグダ言わないでよ。そうそう、隊長が言ってたよ。今回の任務が成功すれば報奨金が出るかも知れないって』

 

『え!? マジ? おーし、俄然ヤル気が出てきたぜ!』

 

 報奨金の言葉にタクヤの怒りは吹っ飛び、気合いを入れ直す。

 

『タクヤ、そろそろ降下しよう。今回の任務は、この惑星の統合軍にも極秘にしているみたいだから、バレないようにね』

 

『りょーかい、りょーかい』

 

 エスターはレーダーを確認して、統合軍基地の所在を確認する。

 レーダーには基地らしき反応が表示されなかった為、2機は近場の森林へと降下を開始する。

 

 機体をガウォークに変形させて森林に降り立った二人は、コクピットキャノピーを開けて周りを確認する。

 

「タクヤ、とりあえず見つからない様に機体を隠そうよ」

 

「えー、めんどくせぇなぁ」

 

「文句を言わないの」

 

「はいはい」

 

 エスターは、機体が見つからない様になるべく木々の多い場所へと機体を移動させる。

 ブツブツ文句を言いながらタクヤも機体を木陰に隠すように移動をさせる。

 

「一応、一般人に紛れて調査しなきゃいけないから着替えないとね」

 

 機体を隠したエスターは、シートの後部から荷物を取り出してパイロットスーツから私服に着替え、サバイバルキットと通信用端末、望遠グラス、そして護身用の拳銃を持ち出す。

 

(正直、あまり銃は使いたくないけど……)

 

 士官学校で拳銃の扱い方を習ったとは言え、自ら拳銃の引き金を引いて、直で生身の人間を殺める事をしたくない。

 その性格の甘さと、いざと言う時に引ける自信がないと認識しているエスターは、不安な面持ちで拳銃をバッグに入れる。

 

「タクヤ、準備でき……な、何、その格好!?」

 

 エスターは、タクヤの服装を見て呆れた表情をする。

 

 タクヤは、アロハシャツを着込み、グラサンを掛けて更には浮き輪と釣り竿まで持っていた。

 

「何って、せっかくのリゾート惑星なんだぜ? 遊ばなきゃ損でしょ」

 

 エスターの問い掛けにタクヤは、お気楽気分で応える。

 

「で、でも、僕達の任務は……」

 

「エスター、俺達は日々、生きるか死ぬかの橋を渡ってるんだぜ? だから、たまには羽を伸ばしだってバチは当たらないって」

 

 タクヤの言う通りに普段の任務でも生きるか死ぬかの瀬戸際なのは確かである。

 しかし、それとこれとは話はまた違うのも確かである。

 任務の重大さを考えずに気楽に話すタクヤにエスターは、半分呆れると共に少しだけ、その能天気さが羨ましかった。

 

「なあ、エスター」

 

「何?」

 

「ところでさ……俺達の任務って何だっけ?」

 

「……え? 資料見ていないの?」

 

「いや、全然読んでいなかったし、さっき読もうと思ったら怒りに任せてビリビリに破いちゃったしさ」

 

 任務の事をすっかり忘れて完全に遊びモードに入っているタクヤにエスターは、頭痛を感じていた。

 

「タクヤ、僕達の任務は、この惑星にお忍びで反統合軍の隠れ家が無いかの調査をしに来たんだよ」

 

 遊びモードのタクヤに呆れつつも、それでもエスターは真面目に任務の内容を説明する。

 正直、能天気もここまで来ると怒りを通り越して呆れてきていた。

 

「あ、ああ……そうかそうか、思い出した。思い出したよ、エスター」

 

「本当にわかった?」

 

「うん、わかったわかった」

 

 エスターの説明を理解したのか、それとも聞き流しているのか、タクヤは、エスターの問い掛けに気楽に答えながら歩き出す。

 そんなタクヤを見たエスターは、深い溜め息を吐く。

 

 しばらく歩くと、やがて市街地が見えてくる。

 

「お、街が見えてきたぜ」

 

「行ってみよう」

 

 二人は、市街地を見て回る事にした。

 

「リゾート惑星だけあって、やっぱり賑やかだよなぁ~♪」

 

「そうだね」

 

 久しぶりの賑やかさに二人は、物珍しそうに露天や建物を見て回る。

 空も雲一つない天気に恵まれており、日差しは少し強いが、心地よい風も吹いている。

 

「そこのお前さん達」

 

 街中を歩いていると、初老の男性が二人に声を掛ける。

 白髪まじりで初老の男性は、ニコニコしながら二人に近づいてくる。

 よく見ると初老の男性は、背中に木箱を背負っていた。

 

「な、何だよ、爺さん」

 

 ニコニコと近づく初老の男性にタクヤは、ビクつきながら話し掛ける。

 

「お前さん達、この御守りを買わんか?」

 

 初老の男性は、背中に背負っている木箱を降ろして、木箱の中からペンダントを取り出す。

 

「何コレ?」

 

「わあ、綺麗なペンダントですね」

 

 初老の男性の持つペンダントは、鳥の形を模しており、中央に赤い宝石が添えられていた。

 

「そうじゃろう。コレは我が家系に代々から伝わるペンダントで、ワシはコレのおかげで鳥の人の脅威から逃れる事ができたんじゃ」

 

 エスターのお世辞に初老の男性は、上機嫌にペンダントの説明をする。

 

「鳥の人? 何だそりゃ? エスター、知ってるか?」

 

「ううん、全然。鳥の人って言う言葉自体、初めて聞いた」

 

「何!? お前さん達も鳥の人を知らんのか?」

 

 二人の鳥の人の言葉を聞いた反応に対して、初老の男性は目を丸くする。

 そして、ガックリと膝を崩してうな垂れる。

 

「だから何だよ、鳥の人ってのは!」

 

 勝手に話し掛けて来て、そして勝手にうな垂れる初老の男性の態度にタクヤは苛立っていた。

 

「おじさん、僕も鳥の人と言うのは全く分からないので、教えてくれますか?」

 

「鳥の人と言うのは……これじゃ」

 

 初老の男性はポケットから1枚の写真を取り出して二人に見せる。

 写真には、鳥の形をした大型生物が写っていた。

 鳥の形をした大型生物の周りには、空中浮遊している戦艦が写っており、戦艦の全長を遥かに超える程の大きさである事が認識できる。

 

「全然知らねー」

 

「すみません、僕も分かりません」

 

 写真を見た二人は、お互いに顔を見合わせる。

 

「なんじゃと! 鳥の人は、ワシらの島の守り神じゃぞ! この写真は、2009年に軍がワシらの島でドンパチやってる最中に鳥の人が現れた時に偶然、撮ったものじゃ」

 

 写真を片手に初老の男性は、二人をよそに当時の事を熱弁し始める。

 

「エスター、知ってるか?」

 

「2009年に鳥の人が出たなんて、学校の授業でも習わなかったよ」

 

 タクヤの問い掛けにエスターは、思わず苦笑いする。

 

「その時、風の導き手でもあるサラが、鳥の人と融合をし……」

 

 二人が話している最中も初老の男性は、相変わらず熱弁をしている最中だった。

 

「なあ、もう行こうぜ。なんか、この爺さんと関わると時間が勿体無いしさ」

 

 初老の男性の熱弁に飽きたタクヤは、そっとエスターに耳打ちする。

 

「そうだね」

 

 二人は、初老の男性が熱弁してる隙を見て、その場を立ち去った。

 

 少し駆け足で初老の男性のいる場所から離れたが、後ろを振り返っても追い掛けてこない事から二人は、ホッとした表情を見せる。

 

「なんなんだ、あの爺さん」

 

「変な人だったよね」

 

 二人は苦笑いしつつも、再び街の中を歩き始める。

 

 その後、二人は市街地をあちこち回ったが、特に不審な人物や建物らしき物は見当たらなかった。

 

「これだけ回っても何も出て来ないなんて、おかしいなぁ……あのおっさん、ウソついてんじゃね?」

 

 タクヤは、額の汗を拭いながら愚痴をこぼす。

 照りつける日差しの暑さにタクヤもバテ気味だった。

 

「隊長が嘘なんて言うハズないよ。隊長から貰った資料には、近日中に反統合軍の動きがあるって書いてあったし」

 

 エスターは、鞄から資料を取り出して内容を再確認する。

 

「あー、もう、やめやめ! なあエスター、気晴らしに海行こうぜ」

 

「え!?」

 

 海へ行こうと提言するタクヤにエスターは、思わず目が点になる。

 

「もしかしたら市街地じゃなくて海沿いとかにあるかも知れないぜ?

 案外、怪しい物は人目に付きそうもない場所にあるって言うしさ」

 

「……なるほど。タクヤ、冴えてるね」

 

 タクヤの言葉にエスターは、思わず納得する。

 

「まあ、任せなよ。そうと決まれば海へレッツゴー!」

 

 二人は、調査の為に海岸へと向かう事にした。

 

(なーんて言って、本当は水着のお姉ちゃんが見たいだけだったりして♪)

 

 タクヤが内心そう思っていた事をエスターは、知る由もなかった。

 

 二人はタクシーを拾い、海水浴場へと向かう。

 市街地からタクシーで10分弱の場所に海水浴場が見える。

 

「うっひょー♪ 水着の姉ちゃんがいっぱいいる~♪」

 

 海水浴場に辿り着き、タクヤは目をキラキラと輝かせながら辺りを見回す。

 辺りは、カップルや親子連れが海水浴を楽しんでいた。

 

「タクヤ、海水浴場に着いたはいいけど、何処を探すの?」

 

「へ? 何の事?」

 

「え?」

 

 タクヤの提案で海水浴場へ来ている事を当の本人は完全に忘れており、今のタクヤの頭の中は、水着の女性の事でいっぱいだった。

 

「ここに来たら、何か手掛かりが見つかるって……」

 

「あ、ああ……そ、そうだっけ?」

 

「そうだよ!」

 

 完全に忘れているタクヤにエスターは、思わず感情的になる。

 

「お、落ち着けよ。とりあえず、俺は、お姉ちゃんと遊んで……じゃなくて、あっちの方を見てくるから、後はよろしく!」

 

「え? ちょ……」

 

 エスターが引き止める前にタクヤは、人ごみの中へ消えていった。

 

「もう、タクヤー!」

 

 呼べど叫べど、タクヤから返事は返って来なかった。

 

「はぁ……仕方ない、僕だけでも調査しよう」

 

 エスターは、ガックリと肩を落として調査へと向かう。

 

「とりあえず、隠れ家みたいなのがあるとしたら……海水浴場から離れた場所辺りかな?」

 

 エスターは、自分の勘を信じて海水浴場から離れた場所へ向かう。

 

「ふぅ……」

 

 エスターは鞄からペットボトルを取り出し、キャップを開けて水分を補給する。

 常夏気温の為、10分近く歩くだけでも喉が渇き、体力が減る感覚がする。

 

 海水浴場からかなりの距離を歩くと、大きな洞窟らしき場所が見える。

 ふと、気が付くと空は陽が落ち掛けていた。

 

「綺麗だなぁ」

 

 美しく輝く夕陽に、エスターは思わず見とれていた。

 

「いけないいけない。調査しなきゃ」

 

 エスターは、鞄からライトを取り出して洞窟内を照らして見渡す。

 

「結構長そうな洞窟だけど、人がいる気配は無さそうだ」

 

 エスターは息を飲み、洞窟の中を進もうとした、その時、

 

「何してるんだ、お前?」

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 突然後ろから声を掛けられたエスターは、大きな悲鳴をあげる。

 

「びっくりしたなぁ、いきなり大きな声を出すなよ!」

 

 エスターが振り返ると、そこには一人の男が立っていた。

 

「だ、だだだだだだ、誰ですか、あ、あああ、あなたは?」

 

 突然の事にエスターは、まだ動揺していた。

 

「なあ、お前少し落ち着けよ」

 

 エスターの動揺に男は、呆れた表情をしていた。

 男は、浅黒い肌に上半身裸の格好で、ドレッドヘアーが特徴だった。

 

 エスターは、気分を落ち着ける為、少しだけ深呼吸をする。

 

「ご、ごめんなさい。も、もうだ、大丈夫です」

 

 深呼吸をして気分を落ち着けたエスターは、男に頭を下げる。

 

「そりゃよかった。それはそうと、こんな所で何をしてたんだ?」

 

「え? それは、その……え、えーと、ど、洞窟が、その珍しかったもので、その、つい……」

 

 男の問い掛けにエスターは、どさくさ紛れの苦しい言い訳をする。

 さすがに市民に任務で洞窟を調べているとは言えなかった。

 苦し紛れの言い訳をしていたので、不審がられて疑われた時の事を思うと、妙に背中が汗ばんでいるのを感じる。

 

「そうか。まあ、確かに海に来ても洞窟に興味がなきゃ滅多に見ないからなぁ」

 

 エスターの苦し紛れの言い訳を疑うどころか、男はすんなりと受け入れていた。

 

(あれ? 何だか分からないけど、言い訳をすんなり信じてくれたみたいだ)

 

 どさくさの言い訳を受け入れられ、エスターは内心ホッとする。

 気が付くと、身体中が冷や汗をかいていた事に気付く。

 

「あなたも洞窟を見に来たんですか?」

 

「バカ言うなよ。俺は、ここの住人だし、この洞窟は俺の縄張りだ」

 

「そうでしたか。すみません、洞窟に勝手に入ろうとして」

 

 洞窟が男の所有物だと分かり、エスターは洞窟に勝手に入ってしまった事を男に謝罪する。

 

「あ、ああ。俺の方こそスマンな。それはそうと、そろそろ陽も暮れてきたし帰った方がいいぜ」

 

 いつの間にか日が沈み、空は暗くなりかけていた。

 あれだけ多くいた海水浴場に来ていた人達も、いつの間にかいなくなり、聞こえてくるのは静かな漣の音だけだった。

 

「そうですね。とりあえず、友達と一緒なので連絡しないと……」

 

 エスターは、鞄から携帯電話を取り出してタクヤに電話をする。

 

『お客様のお掛けになった電話は、電波の届かない場所にいるか、電源が入っていません』

 

 電話越しから聞こえてくるのは、聞き慣れたタクヤの声ではなく音声アナウンスだった。

 

「もう、タクヤってば何をしてるんだろう……」

 

 エスターは、再びタクヤに電話を掛ける。

 

『お客様の……』

 

 何回タクヤの携帯電話に電話を掛けても聞こえてくるのは、録音された音声アナウンスだけだった。

 焦りを感じたのかエスターは、胸が締め付けられる様な気分になっていた。

 

「はぁ……」

 

 全く繋がらない電話にエスターは、ただガックリと肩を落とす。

 

「電話、繋がらないのか?」

 

「え? ええ、まぁ……」

 

 男の問い掛けにエスターは、ただ苦笑するしかなかった。

 

(どうしょう、タクヤと連絡が取れないとマズイし、このままだと隊長に怒られちゃうよ……)

 

 全てはタクヤが悪いはずなのに後から色々と、とばっちりを受ける事を思うとエスターの心に不安とイライラ感が募り始める。

 

「もしかしたらホテルに戻ったんじゃないか?」

 

「実は、まだホテルの予約とかしていないんですよ」

 

「そうか。なんなら、今夜は俺の家に泊まるか?」

 

 エスターの不安そうな状況を見かねた男が言葉を掛ける。

 

「え?」

 

「泊まる場所もここからじゃ遠いし、どうよ?」

 

「で、でも、ご迷惑では……」

 

 急な男の誘いにエスターは戸惑いと不安が隠せなかった。

 

「まあ、気にするなよ。オレんち、ここから歩いて5分だし」

 

(……このまま待つよりは、少しは大丈夫かな?)

 

「では、お言葉に甘えさせてもらいます」

 

 このままホテルを探しながらタクヤを待つよりはマシだと思ったエスターは、泊めてくれる男の優しさに深々と頭を下げる。

 

「よし、決まりだ。俺は、ケヴィンだ。よろしくな」

 

「僕は、エスターです。よろしくお願いします」

 

 エスターは、ケヴィンの後に着いていき、ケヴィンの家へと向かう。

 

「悪いな、少し歩かせて」

 

「いえ、大丈夫です」

 

「お前、ひ弱そうに見えて結構丈夫だな」

 

「ありがとうございます」

 

 エスターの体格は、タクヤと比べると、確かにひ弱な体つきである。

 しかし、そこは士官学校出身だけあって、体力だけは一人前な為、少し位の長距離を歩くくらいは平気だった。

 

 海岸から山岳の方に向かってしばらく歩くと、やがてバンガロー風の家が見えてくる。

 

「ただいま、今帰ったぞ~」

 

「おかえりなさい」

 

 家路に辿り着いた二人を一人の女性が出迎える。

 女性は、長いストレートヘアーに少しだけ浅黒い肌と大人びた表情が特徴的だった。

 

「あら……そちらは、お客様?」

 

 女性は、ケヴィンの後ろを着いてくるエスターの存在に気付く。

 

「ああ、なんか友達とはぐれたらしくて今日だけ家に泊める事にした。エスター、俺の嫁さんのティナだ」

 

「初めまして、エスターです」

 

 ケヴィンにティナを紹介されてエスターは、ティナに頭を下げる。

 

「ゆっくりしていってくださいね」

 

 ティナは笑顔で返す。

 優しいティナの笑顔にエスターは、思わず顔を赤くする。

 

 

「あー、食った食った」

 

 食事を終えたケヴィンは、満腹になったお腹をさする。

 

「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」

 

 軍に配属されてから、なかなかゆっくりと食事を取れなかったエスターは、久しぶりに食事をゆっくり味わえたのか、満足な笑みを浮かべる。

 

「ありがとう」

 

 エスターに笑顔を返し、ティナは食器を片付ける。

 

「手伝います」

 

 食器を片付けるティナに気付いたエスターは、食事のお礼も兼ねて後片付けを手伝おうとする。

 

「お客様にそんな事をさせたら悪いわ」

 

 後片付けをするエスターをティナは諭す。

 

「でも、わざわざ泊めて貰って、食事まで頂いて何もしないのも……」

 

「気にしないで。それよりも、お風呂が沸いているから、お風呂に入って」

 

 そう言って、ティナはリビングの棚からバスタオルとボディタオルを取りだしてエスターに渡す。

 

「は、はぁ……では、お言葉に甘えさせて貰います」

 

 ティナからタオルを受け取ったエスターは、バッグから着替えを持って脱衣場へと向かう。

 

「ふぅ……湯船に浸かるのは、何ヶ月ぶりだろう」

 

 ブラックバルチャーに配属してからは、ほとんどシャワー生活で湯船に浸かる事は殆ど無かった為、久しぶりの湯船に浸かり、エスターは湯船の温かさを実感して寛いでいた。

 

「エスター、入るぞ!」

 

 突然扉が開き、真っ裸に右肩にタオルを掛けたケヴィンが風呂場に入ってくる。

 

「わ、な、何て格好で入るんですか!」

 

 エスターは、ケヴィンの姿に思わず両手を顔に当てて隠す。

 

「おいおい、男同士なんだから別に気にする事か?」

 

 エスターの行動にケヴィンは突っ込みを入れる。

 

「で、でも……」

 

「まあまあ、たまには男同士の裸の付き合いも悪くないだろう」

 

 ケヴィンは、腰掛けに座って身体を洗い始める。

 

「それにしても、リゾート惑星って呼ばれるだけあって、色々と賑やかですね」

 

 短い時間ではあったが、都心部や海水浴場を見て周り、エスターは改めてオルファンが人々で賑わう姿に思わず楽しそうな表情を浮かべる。

 

「……本当に、そう思えるか?」

 

 そんなエスターの楽しそうな表情とは裏腹にケヴィンの表情からは、明るい表情は消えていた。

 そして、その声はいつもの明るい声ではなかった。

 

「違うんですか?」

 

「表向きはリゾート惑星を唱っているけど、本来、この惑星は緑や自然が豊かだったんだ。ところが観光局や統合軍と結託して、次々と土地開発をしたお陰で今じゃ自然が残っているのは、この辺りくらいさ」

 

 恨みを募らせるかの如く、ケヴィンは黙々と話す。

 

「おっと、辛気臭い話になっちまったな。すまない」

 

 ケヴィンは、身体に付いた泡をお湯で洗い流す。

 

「い、いえ……」

 

「それにしても、お前……女みたいに細いな」

 

 ケヴィンは、エスターの身体をマジマジと見る。

 

「そ、そんなにジロジロと見ないでください!」

 

 顔を赤らめてエスターは、湯船に深く浸かる。

 

「男は、身体を鍛えてナンボだ。そんなヒョロヒョロな身体じゃ軍隊も雇ってくれないぜ」

 

 自身の考えを述べながらケヴィンは、湯船に浸かる。

 

「は、はぁ……」

 

(もう軍隊に入っているんだけどなぁ……)

 

 ケヴィンの言葉にエスターは、苦笑いしながら心の中でツッコミを入れていた。

 

 その後、エスターは、ケヴィンの話を色々と聞いた。

 ケヴィンは漁師として生計を立てている為、漁での話が中心ではあるがエスターは興味津々で聞いていた。

 

 エスターが先に風呂から上がった頃には、既に空は暗くなり、心地良いさざ波の音が聞こえてくる。

 

 テラスから空を眺めると、満天の星空がエスターの目に映る。

 

「綺麗……星って、こんなに綺麗だったんだ」

 

 淀みなく輝く星の輝きにエスターは、思わず見入っていた。

 ブラックバルチャー基地から見上げる空は、紫がかった雲しか見えない為、なおさら自然な夜空が新鮮に見えた。

 

「そうだ、タクヤに電話しなきゃ」

 

 タクヤの事を思い出したエスターは、携帯電話をポケットから取り出してタクヤに電話を掛ける 。

 

プルルルル……

 

「電話が鳴ってる」

 

 最初に電話を掛けた時には音声アナウンスのみだけだっただけに、エスターは電話が繋がる事を期待する。

 

『もしもし?』

 

 電話口からタクヤの声が聞こえる。

 

「タクヤ。良かった、繋がって……」

 

 電話が繋がった事でエスターは、嬉しさのあまり少し涙ぐむ。

 

『ああ、エスターか。お前、何処にいんだよ? 夕方くらいに探したのに全然いねーしさぁ』

 

 電話口のタクヤは、少し声が不機嫌だった。

 

「タクヤが勝手に何処かに行っちゃうからだよ。それより、タクヤは何処にいるの?」

 

『ああ、俺? キャバクラ』

 

「……え? キャバ……クラ?」

 

 タクヤのキャバクラと言う言葉にエスターは、思わず目が点になる。

 

『いやな、エスターとはぐれた後、話し掛けられた兄ちゃんと仲良くなっちゃってさ~♪ んで、今、その兄ちゃんの店にいるんよ』

 

「タクヤ、任務は……」

 

『そんなのエスターが、やってくれる んだろ?』

 

 能天気に答えるタクヤにエスターは、軽い目眩を起こす。

 

『タクヤくーん、電話なんてしないでぇ、もっとお話しようよ~♪』

 

 電話口から若い女性の声が聞こえる。

 

『はいは~い♪ そんな訳で、あとよろしく!』

 

 若い女性に呼ばれてタクヤは、上機嫌のまま電話を切る。

 

「え!? タクヤ、タクヤ!」

 

 通話の切れた電話にエスターは、必死に呼び掛ける。

 

「もう、何で電話を切るかなぁ……」

 

 再度エスターはタクヤに電話を掛けるが、電話の電源を切っているのか、電話口からは音声アナウンスしか聞こえなかった。

 

「はぁ……」

 

 相変わらずのタクヤの身勝手さにエスターは、思わず頭を抱えてうなだれる。

 

「……大丈夫ですか?」

 

 テラスにやってきたティナがエスターに優しく声を掛ける。

 

「だ、大丈夫です」

 

 心配そうな表情をするティナにエスターは、無理やり作り笑いをする。

 

「そう、それなら良かった」

 

 エスターの様子を見てティナは微笑む。

 心地良い風が吹き、ティナの長い髪が靡く。

 

「そう言えば、ケヴィンさんは?」

 

 先程から姿も見せず、元気な声も聞こえないケヴィンにエスターは気付く。

 

「ケヴィンなら、先に寝たわ」

 

「そうですか。それにしても、ここは星も綺麗ですし、自然も豊かで良い所ですね」

 

「……昔は、そうだったわ。でも、今は違う」

 

 ティナもケヴィン同様に冷淡に応える。

 そして、優しい表情が一転して、寂しそうな表情へと変わる。

 

「さっき、ケヴィンさんとお風呂で一緒になった時に、この惑星の事を話したら同じ事を言っていました」

 

「……そう」

 

 ティナはエスターを見る。

 

「この惑星は観光名所と謳っているけど、それを隠れ蓑にして本当は、統合軍の研究施設の建築が主だったの」

 

 海辺を眺めながらティナは、黙々とエスターに話す。

 ティナの言葉に統合軍に配属のエスターは、胸が詰まる思いでいっぱいだった。

 

「ごめんなさい、見ず知らずの人にこんな話をして……」

 

 ティナはふと我に返り、エスターに謝る。

 

「い、いえ。気にしないでください。僕、そろそろ寝ます」

 

「空き部屋に布団を敷いてありますので、使ってください」

 

「ありがとうございます。おやすみなさい」

 

 ティナにお礼を言って、エスターは寝室へと向かう。

 

 

「表向きはリゾート惑星を唱っているけど、本来、この惑星は緑や自然が豊かだったんだ」

 

「観光名所と謳っているけど、本当は統合軍の研究施設の建築が主だったの」

 

 

 布団に入っても、ケヴィンとティナの言葉が脳裏に焼き付き、エスターは寝付けなかった。

 

(統合軍のやっている事は、何なんだろう……隊長も上司の横暴で街を反応弾で壊滅させたって言っていたし)

 

 エスターは、自分が今まで行ってきた事に少なからず疑問を感じていた。

 

 統合軍参謀本部で日々忙しい業務に追われつつも、息子に対して気遣う父の優しさがエスターには嬉しく、いつしか父と共に仕事をしたいと思い統合軍に入隊を決意した。

 しかし、現実問題として統合軍の行動は度々ニュースに取り上げられている。

 時には行き過ぎた戦闘行為により、無関係の民間人が犠牲になる事もある。

 

「少し、風に当たって気分転換しよう」

 

 エスターは、夜風に当たりにテラスへ向かう。

 

 心地良く聞こえるさざ波と満天に輝く星空を見て、エスターはモヤモヤした気分を落ち着かせていた。

 

「タクヤ、今頃何をしているんだろう? 結局、反統合軍の動きも特に無いし……」

 

 星空を見ながらエスターは、今後の事を考える。

 

「とりあえず明日、タクヤと合流してから、色々と調べてみよう」

 

 現段階では何も不審な所も無く、平穏無事な状況である。

 結局、何か行動を起こそうにもタクヤと合流をしない事には、何も進展しないと言う考えに至った。

 考えを纏めたエスターは、寝室に戻る。

 

「?」

 

 寝室へ戻ろうとした時、ケヴィンが浜辺の方へと歩いている姿が見えた。

 

「ケヴィン……さん?」

 

 ふと様子を見ると、時々辺りを見回しながら浜辺へと向かっている。

 

「何だろう? 気になるな」

 

 ケヴィンの様子が気になるエスターは、テラスを乗り越えて、こっそりとケヴィンの後を着いていく。

 

 立ち並ぶ民家を抜けたケヴィンは、浜辺へと向かう。

 エスターも気付かれない様に物陰に隠れながらケヴィンの後を着いていく。

 

 しばらく着いていくと、ケヴィンと出会った洞窟が見えてくる。

 誰もいない洞窟には明かりが灯り、多くの人々が行き来していた。

 多くの人々は軍服らしき物を纏い、銃を構えており、何処からどう見ても普通の民間人には見えない雰囲気だ。

 その穏やかではない雰囲気にエスターは、思わず固唾を飲む。

 

 洞窟へと向かうケヴィンは、見張りらしき人と話をした後、そのまま洞窟の中へと入っていく。

 

 エスターは、物陰から気付かれない様に洞窟の様子を伺う。

 

「あの洞窟に何があるんだろう? それにケヴィンさんは、いったい……」

 

 明るく気さくな雰囲気を持つケヴィンが何故、こんな夜遅くに洞窟へ来ているのか。

 そして、その洞窟内で何が起ころうとしているのか。

 色々な事が頭の中をグルグルと回る感覚になりつつも、エスターは一時も洞窟から視線を外さなかった。

 

 しばらくすると、4隻の大型輸送船が洞窟付近の浜辺に近付く。

 よく見ると4隻の輸送船の後ろには、シートに包まれた大きな荷物がけん引されていた。

 輸送船の接近に気付いたのか洞窟から人々が集まりだし、輸送船が停泊するとけん引された荷物が浜辺へと運ばれる。

 そして、けん引された荷物のシートが解かれて、その中から大型の機動兵器が姿を見せて搬入作業が行われる。

 

「あの機動兵器……見た事が無い機体だ。機動兵器であの人達は、何をするんだろう?」

 

 エスターは、洞窟での状況をカメラに収めようとズボンのポケットに手を忍ばせる。

 

(しまった……ケヴィンさんを追ってきたから、撮影用カメラを持ってなかった)

 

 ケヴィンの様子が気になり、そのまま追い掛けてきたエスターは、カメラを持ってくるのを忘れた事を後悔する。

 エスターが後悔の念に駆られている間にも搬入作業は続き、周りの人々は慌ただしく動いている。

 

(カメラがあったら良かったなぁ……あまり長くいるとマズそうだから、そろそろ帰ろう)

 

 気付かれる事を恐れたエスターは、そっと場所を離れてケヴィンの家へと戻る。

 

(ケヴィンさん、あの洞窟でいったい何をしていたんだろう?)

 

 こっそりと寝室に戻り、エスターは洞窟での出来事を思い出す。

 

 まるで誰かに気付かれないかを気にするかの様に辺りをキョロキョロと見渡しながら洞窟に向かう姿は、エスターの知っているケヴィンではなかった。

 そして、洞窟で見た大型の機動兵器が気になり、カメラを持ってこなかった事を悔いる。

 

(あの洞窟でいったい何が? とにかく明日は、あの洞窟を徹底的に調査しよう)

 

 心の課で洞窟の調査をする事を決意して、エスターは眠りにつく。

 

 

「ん……」

 

 目を覚ましたエスターは、ベッドから起き上がり時計を確認する。

 時計の針は6時30分を指しており、外では鳥の鳴き声が聞こえてくる。

 

 ふと、美味しそうな匂いが鼻をくすぐり、自然とお腹が鳴り出す。

 

「ティナさん、もう起きているんだ」

 

 エスターは、着替えてリビングへ向かう。

 

「おはようございます」

 

 エスターがリビングに入ると、ティナは台所で食事の用意をしていた。

 

「おはようございます。もうすぐ食事の用意ができるので、よかったら座って待っていてください」

 

「は、はい」

 

 エスターは、ティナに言われるままに椅子に座る。

 

「あの、ケヴィンさんは?」

 

 先程から全く姿を見せないケヴィンを疑問に思い、エスターはティナに訊ねる。

 

「朝早くから、漁に出ているわ。あの人、いつも朝早いから。多分、夕方までは戻らないかも……」

 

「そうですか」

 

(だとしたら、昨日のアレは何だったんだろう?)

 

 昨日のケヴィンの行動を考えると、納得ができなかった。

 もしかしたらケヴィンがティナに嘘をついている可能性も否定できない。

 しかし、それを確証できる証拠が無い為、モヤモヤした気分になる。

 

(やっぱり、あの時にカメラを持ってきていたら……)

 

 あの時、カメラがあれば絶対的な証拠になるハズだっただけに、エスターは後悔の念に駆られて頭を抱える。

 

「大丈夫ですか? エスターさん」

 

 エスターの様子が気になったのか、ティナが声を掛ける。

 

「だ、大丈夫です」

 

「そう。はい、お待たせしました」

 

 ティナは運んで来た食事をテーブルに置く。

 

「ありがとうございます」

 

 食事を受け取り、エスターは食事を口へ運ぶ。

 

「おかわりもありますから、遠慮しないでください」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 エスターは食事を口に運びつつ、ケヴィンの事が気になっていた。

 

 エスターが考え事をしていた、その時、突如大きな揺れが起きる。

 

「な、なんだ?」

 

 突然の事にエスターとティナは、動揺する。

 エスターは、とっさにティナに覆い被さってティナを守る。

 ティナも恐怖感からかエスターにしがみついていた。

 

 しばらくして揺れは収まるが、外から大きな音が聞こえる。

 

「!? ティナさん、ここを動かないで」

 

「は、はい」

 

 ティナをその場に残してエスターがテラスに出ると、浜辺には大型の機動兵器が姿を表していた。

 その機動兵器は、昨日の夜に洞窟に運ばれてきた物だった。

 

「あれは……昨日の」

 

 エスターは、急いで家の中に入って荷物を持ち出してティナの元へと向かう。

 

「ティナさん、ここは危険だから逃げて」

 

「何か、あったんですか?」

 

 ティナは、突然の状況を理解できていなかった。

 

「巨大なロボットが浜辺にいます。だから、全力で逃げて!」

 

「エスターさんは?」

 

「僕は、行かなきゃいけない場所があるからいきます。いいですか、とにかく全力で逃げてください」

 

 それだけ言って、エスターは飛び出していく。

 

 大型機動兵器は、小さな孤島を目掛けて飛んでいく。

 その後を数十機のVF-5000やVF-3000等の旧式機で編成された戦闘機部隊が続く。

 

「何処へ行く気なんだろう? こうしちゃいられない」

 

 大通りに出た後、エスターはタクシーを拾ってバルキリーを隠した場所へと向かう。

 

 戻る途中に通りすがった街では、突然現れた大型機動兵器がニュースで報じられていた。

 その報を受けて、人々はパニックになっていた。

 

(あの洞窟が反統合軍の隠れ家だったんだ。早く行かないと、このままでは大変な事になるかも知れない)

 

 焦りを感じて必死に駆け足でバルキリーの隠し場所へと辿り着いたエスターは、不安と焦りを胸にバルキリーに乗り込む。

 

「とりあえず、隊長に連絡を入れないと」

 

 エスターはブラックバルチャー基地へと通信回線を開ける。

 

『こちら、ブラックバルチャー基地』

 

 エスターの通信にアイナが応答する。

 

『エスターです。隊長に繋いでください』

 

『ごめんなさい、エスター。隊長は今、哨戒任務に出ている最中なの』

 

『でしたら、オルファンで反統合軍の機体が出現したと隊長に伝えてください』

 

『了解、隊長に伝えておくわ』

 

『お願いします』

 

 通信を終えたエスターは、エンジンに火を入れる。

 

「タクヤもニュースで気付いてくれていると良いんだけど……」

 

 タクヤの事を心配しながらもエスターは、バルキリーを発進させる。




次回予告

 ついに姿を現した反統合軍の機動兵器。
 しかし、そこに待っていたのは悲劇だった

次回「アフター・イン・ザ・ダーク」
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