MACROSS-A.D.2048-   作:eisyama

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 星間大戦が集結後、統合軍は種族繁栄の為に大規模な移民計画を開始する。

 次々と移民船団が出航する中、2038年、第8番目のマクロス級大型移民船団が惑星エデンより出航。

 そして、出航から3年後。
 マクロス8船団で新たなプロジェクトが始動する


第15話プロジェクト・エスペランサ

 西暦2009年に勃発した第一次星間大戦を経て、人類は異星人の再来襲に対しての種の拡散を図り、宇宙への移民計画が実行される。

 

 2012年を皮切りに宇宙移民計画により、人類は新天地を目指して宇宙へと旅立っていく。

 

 それから26年後の2038年。

 

 地球より第7次新マクロス級大型移民船団が旅立つ中、時を同じくして惑星エデンより第8次新マクロス級大型移民船団が旅立つ。

 

 惑星エデンではマクロス6船団に続いて2番目の大型移民船団の旅立ちである。

 

 今回の移民船団は新マクロス級大型移民船団での技術力や科学力の向上試験を行う為、惑星エデンからの全面的なバックアップにより、技術力や科学力は他の船団よりも高い技術水準を有しているが特徴である。

 

 そのマクロス8船団艦長であるアンナ・エヴァンスは、新マクロス級大型移民船団では初の女性艦長であり、女性艦長はメガロード01の早瀬未沙以来である。

 

 新マクロス級大型移民船団初の女性艦長としてマスコミからも大々的に取り上げられ、これは新統合政府と政府官僚の結託した、女性が積極的に社会貢献を促す為のアピールでもあった。

 

 なお、市街地シティ8の市長は、夫であるマイルズが就任して行政も行っている。

 

 統合軍士官学校特待科を首席で卒業後、数々の艦隊でオペレーターを務め上げ、後に26歳の若さで巡洋艦クラスの艦長を務めて多大な戦火や功績を残している。

 

 見た目は穏やかな雰囲気を持つ彼女も戦闘時には凛とした雰囲気を持ち、的確に戦略を指示していく。

 

 また、他の艦長と違い、部下達の提案や意見にも耳を傾ける事で部下達からの信頼も高く、上司からも一目置かれていた。

 

 後に生まれ故郷でもある惑星エデンへ転属後、そこで行政書士であり幼なじみのマイルズと再会し、その2年後には結婚を果たす。

 

 今までの功績を統合軍から高く評価されたアンナは、2038年にマクロス8艦長へと抜擢される。

 

 夫であるマイルズも同船団のシティ8市長に就任し、行政を任される事となる。

 

 マクロス8船団出航後、アンナはマイルズと協力して艦内職員や市民からの意見や声を聞き取り、常に環境改善に努めている。

 

 その聞き取りが功を成し、一番住んでみたい移民船団でマクロス8船団は2位を大きく突き放して1位となり、この事はマスコミやメディアにも大きく取り上げられた。

 

 そのお陰で艦内職員や市民からの支持率は多く、一時期は支持率が95%を越えるくらいの時もあった。

 

 マクロス8船団が出航してから3年後、兵器技術開発部門の主任兼技師長であるマニング・スティーブンより、船団独自での新型可変戦闘機の開発提案が挙がる。

 

 その提案を受けたアンナは話を聞く為、艦長であるアンナを筆頭に船団上層部を交えての会議が開かれる。

 

 元々技術系の家系を持つ彼は、ゼントラーディ技術を導入する航空メーカーであるゼネラルギャラクシー社や現在の主力機である傑作機VF-11の開発を行った新星インダストリーを渡り歩いて様々な知識や技術を修得し、その後は惑星エデンの兵器開発技術部門へと配属し、新型可変戦闘機の開発に携わってきた。

 

 彼の開発に掛ける情熱は目を見張るものがあり、一度何かに拘り始めると寝食を忘れる程である。

 それ故に彼は周りからは、変わり者扱いされる事もしばしばある。

 

 後にマクロス8船団の出航が決まると、彼はマクロス8船団兵器技術開発部門主任へと抜擢される。

 

 新しい環境で主任として開発に携わる仕事に意欲を燃やすマニング。

 そんな彼には、自らの手で思い描いた可変戦闘機を開発したいと言う夢があった。

 だからこそ、今回は彼にとっては願ってもないチャンスだった。

 その思いを実現する為、彼は資料を作成して会議に臨む。

 

 ディスプレイには、YF-23と表記された戦闘機が映し出されている。

 

「この機体は、惑星エデンで行われたプロジェクトスーパーノヴァでの試作機YF-19とYF-21の特徴を兼ね備えています」

 

 武道派の外見を持ち、唯一掛けている眼鏡がインテリ感を漂わせる男、マニングはディスプレイを見ながら解説をする。

 

 マニングが手元のリモコンボタンを押すと、ディスプレイに表示されているYF-23の両側にプロジェクトスーパーノヴァのコンペティション機であるYF-19とYF-21のモデリングが映し出される。

 

「YF-19の機動力とYF-21のBDIシステム。この二つの特徴を活かした機体があれば、様々な分野で活躍できると思います」

 

 マニングの説明に耳を傾け、そして資料を見ながらアンナや上層部連中はメモを取る。

 

 アンナはマニングの説明を聞きつつ、ボイスレコーダーにプレゼン内容を録音する等の徹底ぶりだった。

 そして説明を聞き、資料を見ながら重要な部分に関してはメモを入れる等もしている。

 

 アンナと対照的に上層部連中は、マニングの説明を真剣に聞いている者は少なかった。

 その中には、眉間にしわを寄せる者もいたり、あくびや居眠りをする者もいる。

 

「YF-19は、高い機動力です。既存のバルキリーの中では最高速度を持ち、空力特性にも優れており、単独での任務遂行も可能なのが特徴です」

 

 YF-19をポインティングデバイスで指し、マニングは機体特性を語る。

 

「YF-21は、脳波コントロールのBDIS(Brain Direct Interface System)です。

操縦系統や火器制御関係を脳波コントロールで行う事でパイロットが機体操作時における煩わしさを軽減しています」

 

 YF-19に続けてポインティングデバイスでYF-21を指し、マニングは機体特性を語る。

 

「この二つの機体の利点を兼ね備えたのが、このYF-23になります」

 

 ディスプレイにYF-23の各形態が映し出される。

 

「主翼はデルタ翼を採用し安定性を高めつつ、エンジンはFF2500シリーズの発展型のFF2600を搭載予定です」

 

 ディスプレイには、ファイター形態とエンジンのモデリングが映し出される。

 

 エンジンは、YF-19のエンジンをベースにした発展型を搭載する事で速度を高め、主翼をデルタ翼にする事で機体の安定性を保ちつつ加速性や高速域の運動性にも優れた性能を持たせた機体である事をマニングは説明する。

 

「続きまして、この機体の二つの特殊システムの説明に入らせて頂きます」

 

 画面が切り替わり、ディスプレイにはシステム説明のスライドが映し出される。

 

「まず最初にETSから。正式名称『Eye Target System』。ミサイルや頭部レーザー機銃等のロックオンをレーダー感知やジョイスティック操作から視点操作で行う事ができます。これにより、わざわざターゲットをサーチしなくてもロックオンが可能です」

 

 ディスプレイには、パイロットが視点を動かす事で視点に入った目標物が次々とロックオンされていくデモンストレーションの動画が映し出される。

 

「なお、このシステムを用いるには専用のヘルメットが必要になります」

 

 画面が切り替わり、ヘルメットの画像が映し出される。

 

「現在配備中のバルキリーでは、このシステムを搭載するのが難しい為、このヘルメットが必要となります」

 

 バルキリーにETSを搭載するにも、そのシステムを搭載する為のキャパシティが無い事と、仮にキャパシティがあっても現在配備中の機体全てに搭載するのも時間効率が悪いのも一因である。

 

「最後にピンポイントバリアの多様化です」

 

 画面が切り替わり、SDF-1マクロス、YF-19、YF-21が映し出される。

 

「SDF-1マクロスで発見されたバリアシステムをYF-19やYF-21では、小型化し搭載に成功しています。ただし、このシステムはバトロイド形態のみでしか発生させる事ができませんでした」

 

 画面が切り替わり、ディスプレイにはYF-23の各形態が映し出される。

 

「その辺りを踏まえて、この機体は各形態でもピンポイントバリアの発生が可能であり、更に専用ガンポッドにピンポイントバリアのエネルギーを転換する事でビームの出力を上げる事も可能です」

 

 画面が切り替わり、ガンポッドの全体イメージ図が映し出される。

 

「ガンポッドは、YF-21で採用されたカートレスタイプを採用しています。ピンポイントバリアのエネルギーはガンポッドのグリップ部分から注入される仕組みです」

 

 バトロイドの手首部分が表示されてガンポッドを握るイメージに変わり、手首部分からガンポッドのグリップへピンポイントバリアのエネルギーが流れるイメージが映し出される。

 

「また、専用アダプターをアタッチする事でビームキャノンタイプとしても使用可能です」

 

 画面が切り替わり、ガンポッド上部が展開するイメージが表示されてアダプターが差し込まれたイメージが映し出される。

 

「以上で説明を終わります。私個人としましては、開発自体は技術力の優れた、この船団内で行いたいと思っております」

 

 マニングは、自信満々の表情をしてプレゼンテーションを終える。

 

 彼のプレゼンテーションを聞き、配布された資料を見ながらアンナと上層部連中達は険しい表情をする。

 特に上層部連中は、揃いも揃って険しい表情を見せていた。

 

「如何でしょう?」

 

 マニングは、アンナ達に質疑応答を投げ掛ける。

 

「マニング君、君のプレゼンや資料を見て思ったのだが……」

 

 年配の男は、資料を見て険しい表情をしながらマニングに話し掛ける。

 

「はい、何でしょう?」

 

「去年、統合軍本部から次期主力機としてVF-19が採用されたのは、君は知っておるかね?」

 

「ええ、もちろんです」

 

 年配の男の問い掛けにマニングは応える。

 プロジェクトスーパーノヴァのコンペティションは、両試作機共に評価は互角ではあったが、コストの関係でYF-19が正式採用される事となり、現時点でVF-19は徐々に量産態勢に入っている。

 

「ならば何故、可変戦闘機をここで新しく開発する必要があるんだね?」

 

 小太りで口髭を生やした男は、少々荒々しい態度でマニングに問い掛ける。

 

「私は、この機体で可変戦闘機としての技術や性能が、どこまでやれるかを見たいのです」

 

 マニングのこの言葉に上層部連中は、呆れた表情をしだす。

 

「バカも休み休み言いたまえ。そんなバカみたいな理由で、この船団に割り振られた莫大な予算を使わせる気なのかね?」

 

 細身に眼鏡を掛けた男がマニングを小馬鹿にする。

 当たり前だが機体開発には、莫大なコストが掛かる。

 配布された資料を見る限り、統合軍本部より毎年割り振られる予算の7割近くは使う可能性がある。

 

「確かにバルキリーは、巨人族に対抗する為に開発されました。しかし、ただそれだけの目的で終わらせるには、勿体無いと思いませんか?」

 

 細身の男の批判にマニングは自論を力説する。

 

「マニング君。我々統合軍は、常に戦争に勝たねばならないのだよ。戦争に負けてしまっては、人類は死滅してしまう。その為には、性能の良い機体が必要だ。君も技術屋なんだから、それくらい分かるだろう?」

 

 マニングと同じく体格のガッチリした男は、見下した目でマニングを見ながら話す。

 

「ですが、可変戦闘機の技術を戦争以外に使う事も一つの方法だと思いませんか?」

 

「可変戦闘機の技術を戦争以外に? 馬鹿も休み休み言いたまえ」

 

 上層部連中は、マニングの意見を否定して笑い出す。

 

「……」

 

 上層部連中の否定的な意見にマニングは黙り込む。

 少しでも可変戦闘機の技術発展を目指して取り組んで来た事を意見も聞かずに真っ向から否定され、マニングは上層部に対して不信感を抱く。

 

「……艦長は、この件に関しては、どうお考えでしょうか?」

 

 マニングは、アンナを見て重い口を開く。

 

「……私も、この件に関しては他の方の意見と同じです」

 

 アンナの考えに上層部連中は当然だと言う感じで頷き、マニングは大きく目を見開き、がっくりとうなだれる。

 

「……そう……ですよね」

 

 周りの意見を素直に受け入れ、マニングは虚しさと悔しさの思いでいっぱいだった。

 そして、自分のやってきた事は、結局は自己満足である事も改めて受け入れる。

 

「ですが……」

 

 アンナの補足の言葉にマニングと上層部連中は、アンナの方に視線を向ける。

 

「私個人としては、可変戦闘機の技術力向上と言う考え方や、あなたの向上心を高く評価したいと思います。だから、私は賛成です」

 

 アンナの意見に上層部連中は呆気に取られた表情をし、マニングは目を大きく見開き、表情が明るくなる。

 

「ありがとうございます!」

 

 マニングはアンナに深々と頭を下げた後、更には土下座までし始める。

 

「艦長!」

 

「何を考えているんだ!」

 

 アンナの肯定的な意見に上層部連中は次々と抗議を入れる。

 

「あなた達は、戦争を武力行使でしか解決できないとお思いですか?」

 

 上層部連中達の抗議を遮り、アンナは上層部連中に問い掛ける。

 

「そんなの当たり前だ!」

 

「武力には武力でしか解決できる訳ないだろう!」

 

(……ホント、頭の固い人達)

 

 上層部連中の答えにアンナは、内心頭を悩ませる。

 現場上がりから艦長に就任したアンナとは対照的に上層部連中の殆どはコネ等で統合軍に入隊し、現場も全く経験が無いまま今のポジションに就いている。

 だからこそ、現場の苦労など分かるはずも無く、簡単に戦争を武力行使で終わらせると言う短絡的思考しか持っていないのだろう。

 

「では何故、ゼントラーディ人と地球人は分かり合えたかは、ご存知ですか?」

 

「それは、我々地球人の実力をアイツ等が受け入れたに決まっている」

 

「そうだ。我々地球人は野蛮なゼントラーディ人よりも優れているからな」

 

(……この人達って、本当に力でねじ伏せる事しか頭に無いのね)

 

 自己権力の強い上に周りの事を考えようともしない上層部連中の意見にアンナは、思わず深い溜め息を吐く。

 

「我々地球人とゼントラーディ人が分かり合えたのは歌です。リン・ミンメイの歌が無ければ、地球人は滅んでいたかも知れません」

 

「バカバカしい、そんなのは一つのきっかけに過ぎない」

 

「歌で戦争が終わるなら、それこそ軍隊なんていらないじゃないか」

 

 もはやアンナの言葉すら上層部連中は、聞き入れようとはしなかった。

 

「わかりました。あなた方の意固地な考えが変わらないなら、私は彼の提案に賛成します」

 

「艦長、あなたと言う人は!」

 

「自分が何を言っているのか、分かっているのか?」

 

 意固地な考えしか持たない上層部連中にアンナは、マニングの提案を全面的に受け入れる方針を伝える。

 

 新しい事への挑戦は、大きなリスクが伴う為、どうしても保守的な考えになってしまう。

 しかし、いつまでも保守的な考えでいるよりは、時には新しい事にも挑戦する考えも必要である。

 マニングの新型機開発の提案は、ある意味、新しい事に挑戦をしようとしている。

 その芽を摘んでしまうのは、あまりにも勿体ない。

 

「まあ待て。どうせ、新統合軍本部で却下されるに決まっている」

 

 細身の男は、アンナに聞こえないように周りにそっと耳打ちをする。

 細身の男の耳打ちに上層部連中は、納得して不敵な笑みを浮かべながら頷く。

 

「艦長、我々は失礼する」

 

「まあ、せいぜい悪あがきでもするんだな」

 

 上層部連中は、アンナやマニングに対しての文句を言いながら次々と席を立ち、会議室を後にする。

 会議室には、アンナとマニングの二人だけが残った。

 

「艦長、申し訳ございません。私のせいで……」

 

 マニングは、アンナに対して深々と頭を下げてお詫びする。

 自分が提案をした事により、艦長自身の信頼や立場が脅かされる可能性がある事に罪悪感を感じていた。

 

「マニング技師長、頭を上げてください。今の統合軍に必要なのは、あの人達の様な頭の固い人達よりも、あなたの様に柔軟性のある人だと私は思っています」

 

 アンナは、優しい笑顔を見せながらマニングを励ます。

 

「は、はあ……ありがとうございます」

 

 アンナからの励ましの言葉にマニングは恐縮する。

 

「あなたのプレゼンや資料は、とても分かりやすく纏められていると思いますので、この件に関しては、私から統合軍本部に掛け合ってみます。だから、あなたはあなたの仕事をやり遂げてください」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 アンナの激励を受けてマニングは、自信に満ちた表情で会議室を後にする。

 

 会議後、アンナは統合軍本部へ会議の内容を伝える為に通信を入れる。

 

『こちら統合軍本部』

 

 統合軍本部と通信が繋がり、机上に設置したモニターにオペレーターが映る。

 

『新マクロス級大型移民船団マクロス8艦長、アンナ・エヴァンスです。ワードナ大佐に繋いでください』

 

『かしこまりました。少々、お待ちください』

 

 オペレーターは、ワードナを呼び出す。

 しばらくして、モニターに口髭を生やしたロマンスグレーな男性が映し出される。 

 

『こんにちは。ワードナ大佐』

 

『ああ、君か。珍しいね、君から連絡をくれるなんて』

 

『そうですね。そう言えば、最後に大佐とお話をしたのは、いつ頃でしたっけ?』

 

『そうだなぁ……うーん……確か3ヶ月前くらいかな? 確かVF-19の運用試験の時だった様な……』

 

『確か、そうでしたね』

 

 久しぶりの会話にアンナとワードナは談話に花を咲かせる。

 

『どうかね? VF-19は』

 

『ガーネットフォースの皆さんもVF-17と比べて凄い性能だと喜んでいましたし、性能テストの方も順調のようですよ』

 

『そうか。それは何よりで』

 

 楽しそうに話すアンナを優しい瞳で見つめるワードナ。

 それは、まるで父と娘の会話を連想させる様な感じだった。

 

『……それで今日は、君と世間話をする為に、わざわざ私に通信を入れたのかい?』

 

 ワードナは、少し皮肉を混ぜてアンナに問い掛ける。

 

『いいえ。今日は、我が船団での会議提案の承認を頂きたいと思いまして』

 

『会議提案?』

 

『実は……』

 

 アンナは、マニングの提案した船団での次世代機開発の内容をワードナに説明する。

 

『……顔に似合わず、かなり無茶なお願いを言うね』

 

 アンナの説明を聞き、ワードナは苦笑いをする。

 それもその筈、本来は統合軍本部の承認後は、開発メーカーに設計や開発を依頼するのがセオリーである。

 しかし、今回は移民船団で独自で次世代機の設計と開発を行うと言う前代未聞の案件であるから尚更だ。

 

『無茶なのは覚悟しています。彼は武力としての次世代機開発ではなく、技術力向上としての開発を目指しています。だからこそ私は、その才能を戦力以外に使わせたいんです』

 

 アンナは、真剣な眼差しでワードナに訴えかける。

 

『……その芯の強さは、変わらないな』

 

 アンナの真剣な眼差しを見たワードナは、昔のアンナの面影を思い出す。

 

『わかった。なんとか参謀本部に掛け合ってみるよ』

 

『ありがとうございます。ワードナ大佐』

 

 アンナは、深々と頭を下げる。

 

『君、君。まだ決まった訳じゃないから、お礼を言うのは早いよ』

 

『そうでしたね、ごめんなさい』

 

 ワードナから注意を受けたアンナは、自分の頭をコツンとする仕草をする。

 

『じゃあ、近い内にまた連絡するよ』

 

『はい』

 

 ワードナとの通信を終えたアンナは、録音したマニングのプレゼン内容を聞きつつ、資料や仕様書に目を通す。

 

(よく見てみると、各ページに彼なりの考えが書かれてるわ)

 

 各ページにはマニング自身のコメントが記載されていた。

 

―YF-19の機動力

時間を要する任務遂行にはYF-19の機動力は必要不可欠。

 

それ意外にも人命救助や輸送等は特に要する。

 

ただし、機動力が高くなれば、その分パイロットへのGに対する負担は増大するので、コレをいかに減らすかが今後の課題

 

―YF-21のBDIS

VFシリーズは現行主力機VF-11でも新米パイロットには操縦し易くはなっているが、やはり操縦へのフラストレーションはある状態。

 

YF-21のBDISは操縦系統や火器制御を全て脳波コントロールする事でパイロットへのフラストレーションを減らしている。

 

このシステムは航空機以外にも必要性を感じる。

 

ただ、システム関連のメンテナンスの難しさや量産コストは莫大に掛かるのが最大の難点だ

 

 各試作機に対しての特徴や課題点を大まかではあるが、所々にメモが書かれている。

 

「航空機以外の使い道を彼なりに色々と考えているのね」

 

 アンナは、資料を読みながらマニングの考えに関心していた。

 

 マニングのプレゼンテーションから1週間が過ぎた頃、統合軍本部より通信が入る。

 

「艦長、統合軍本部より通信が入っています」

 

「わかりました。今から部屋へ戻りますので、回線だけ回しておいてください」

 

「了解」

 

 アンナは、ブリッジから自室へと急いで戻る。

 部屋へと戻ったアンナは、机の上のモニターを通話に切り替えて回線を繋ぐ。

 回線を繋ぐとモニターには、ワードナが映し出される。

 

『すまないね、連絡が遅くなって』

 

『いえいえ、とんでもない』

 

『とりあえず、結果だけを伝えるよ』

 

 ワードナの結果発表にアンナの表情は固くなり、思わず固唾を飲む。

 

『一応、私なりにこのプレゼンテーションや資料を参謀本部に見せたけど、やはり反対意見が多数出たよ』

 

『……そうですか。やっぱり、そうですよね』

 

 アンナは、ワードナの交渉結果に肩を落とすも、元々が無茶な内容故に結果には納得していた。

 

『ただし……』

 

 ワードナは、思わせぶりな言葉を付け足す。

 

『ただし?』

 

『ガルス少佐をテストパイロットとして任命するなら、船団での次世代機の開発を許可するらしい』

 

『ガルス少佐を……ですか?』

 

 ガルスと言う言葉にアンナの少し顔がひきつる。

 

『彼の父親でもあるバルディア中将は、このプレゼンテーションや資料を見て豪く気に入ったらしく、息子であるガルス少佐にも資料を見せたら、自分にやらせて欲しいと申し出てきたんだよ』

 

『は、はあ……』

 

 ワードナの説明にアンナは、呆け気味に受け答える。

 

『バルディア中将の親バカぶりは、君もよくわかっているだろう』

 

『ええ、まあ……ガルス少佐も色々と黒い噂が絶えませんからね』

 

 アンナはガルスに対しての黒い噂を思い出して、苦笑いしながらワードナに応える。

 

 バルディア中将は息子のガルスを溺愛しており、ガルスはそれを盾に好き放題やっているのが現状である。

 無論ガルス本人は、父親の事を自分の都合のいい様に使える人物としか思っていないのは、ガルス自身の言動や態度から周りも理解していた。

 

『さて、長話しになったが結論を聞こう』

 

ワードナは、真剣な眼差しをアンナに向けて結果に対しての返答を聞く。

 

『え、今ですか?』

 

 回答を迫るワードナにアンナは、思わず目を丸くする。

 

『仕方ないだろう。バルディア中将は、せっかちなんだから』

 

 ワードナは困惑した表情で深く溜め息を吐く。

 そんなワードナを見て、アンナは少し間を置き考える。

 

『……わかりました。マニング技師長の為にも、その条件を受け入れます』

 

 アンナは、腹を決めてワードナの提示した条件を渋々受け入れる。

 

『わかった。参謀本部には、そう伝えておくよ』

 

『よろしくお願いします』

 

(彼がこの件を知ったら、どんな顔をするのかしら?)

 

 恐らくマニングの事だから嫌な表情を見せる事は容易に想像できた。

 

 ワードナとの通信を終えた後、アンナはマニングを自室へと出頭させる。

 

「マニング技師長。あなたのプレゼンテーションは、統合軍本部で採用される事になりました」

 

「本当ですか!」

 

 アンナの報告結果にマニングは、嬉しさのあまり身を乗り出す。

 

「ただし、条件が一つだけあります」

 

 嬉しさに身を乗り出すマニングを静止しつつ、アンナは真剣な表情をする。

 

「条件ですか? 何でしょう?」

 

「ガルス・バルディア少佐をテストパイロットにする事です」

 

「ガ、ガルス少佐を……ですか」

 

 ガルスと言う言葉にマニングの表情が喜びから落胆した表情へと変わる。

 

(どうやら、彼もガルス少佐の事を快く思ってないのね)

 

 マニングの表情を見たアンナは予想が的中したのか、思わず心の中で苦笑いする。

 

「わ、わかりました。プロジェクトの為です、その条件を受け入れます」

 

 ここでプロジェクトを諦めてしまえば、自分が今まで努力した結果が全て水の泡となってしまう。

 テストパイロットの事さえ我慢すれば、プロジェクト自体は上手く行く。

 せっかく巡ってきたチャンスを無駄にはしたくはないと思ったマニングは、心の中で靴意をして腹をくくる。

 

「では、正式にプロジェクトを統合軍本部に申請します」

 

「ありがとうございます。せっかく頂いたチャンスを無駄にしない様に精いっぱい頑張らせて頂きます」

 

ところで……」

 

「はい」

 

「せっかくですから、プロジェクト名を決めておいた方がいいですね。プロジェクト名は何が良いかしら?」

 

「それなら既に考えています」

 

 アンナにプロジェクト名の提案を聞かれたマニングは、自信に満ちた表情で応える。

 

「プロジェクト名はエスペランサでお願い致します」

 

「エスペランサ? 確かスペイン語で……」

 

「希望です。開発機体のペットネームでもあります。このプロジェクトは、私にとっては希望なんです」

 

 まさにマニングにとっては、今回のプロジェクトは希望そのものである。

 こうして、マニングの提案したプロジェクト・エスペランサは始動する。

 

 機体の設計・開発は、船団内の工場艦オービルに専用の機関を設け、そこに資材や機材、人材を揃えた。

 

 マクロス8船団の高い技術力を活かし、機体の設計や開発は徐々に進められ、アンナは開発進捗状況を毎月末に統合軍本部へと報告する。

 

 プロジェクトの中心人物となり、自身にとって待ち望んでいた機体開発にマニングは、時には寝食を忘れて没頭する事もあった。

 

 そして、開発から約1年半が過ぎ、ようやく試作1号機が完成を迎える。

 ただし、BDISやETS等の本来のシステム系統は搭載せず、あくまでもバルキリーとしての基本的な変形機構やオペレーション等のシステム構築を完成させた機体としてである。

 

(……ついに試作1号機の完成だ)

 

 マニングは試作1号機を見て、今までの事を思い出す。

 色々と苦労はあったが、その苦労の甲斐もあり、その結晶が今目の前にあるのだ。

 

「マニング主任、おめでとうございます」

 

 機体のお披露目案内を受けて、オービルに駆けつけたアンナがマニングに祝福の言葉を掛ける。

 

「ありがとうございます。ですが、まだ試作1号機ですので完成ではありません」

 

 アンナの祝福の言葉を受けたマニングは謙遜する。

 

「そうね。まだ、第一歩ですよね」

 

 アンナも試作1号機に視線を向ける。

 

 YF-23試作1号機完成から2日後、マクロス8船団にガルスがテストパイロットとして赴任する。

 

 ガルスがマクロス8船団にやってくるのを知り、上層部連中はガルスに媚びを売り始める。

 そんな様子をアンナとマニングは、冷ややかな視線で見ていた。

 

 アンナ達の存在に気付いたガルスは、アンナ達にゆっくりと歩み寄る。

 

「初めまして、ガルス・バルディアです。今回のプロジェクト・エスペランサのテストパイロットに選出頂き、光栄に存じます」

 

 ガルスは、見下した感じの笑みをアンナとマニングに見せる。

 

(はぁ……これから色々と頭が痛くなりそうだわ)

 

 ガルスの高圧的な態度を見たアンナは、一抹の不安を感じたのか、心の中で大きな溜め息を吐いていた。

 無論マニングもアンナと同じ気持ちだったのは、言うまでもなかった。

 

「ほお、貴様が責任者か?」

 

 マニングの姿を見るなり、ガルスは相変わらずな上から目線な態度を見せる。

 

「はい、プロジェクト・エスペランサ開発主任のマニングスティーブンです。よろしくお願いしま……」

 

「挨拶はいい、早く機体に案内しろ!」

 

 マニングが挨拶をしているにも関わらず機体を早く見たいのか、ガルスはマニングを急かす。

 

 マニングに案内され、ガルスは工場艦オービル内の技術開発部格納庫へとやってくる。

 

「ほぉ……」

 

 YF-23試作1号機を見るなり、ガルスはコクピットに乗り込む。

 シートに座ったガルスは、操縦桿や操縦系統を触り、メインスイッチを入れる。

 

「ガルス少佐、シミュレーションは良いんですか?」

 

 マニングは、いきなり発進しようとするガルスに忠告を入れる。

 いくら試作機とは言え、シミュレーションも無しで搭乗して機体を壊されてしまっては元も子もない。

 

「うるさい、発進するから貴様はヘルメットを渡してゲートを開けろ!」

 

(やれやれ……)

 

 せっかちなガルスに溜め息を吐きつつもマニングは、急いでヘルメットをガルスに渡してゲートを開けに司令塔へ戻る。

 

 ゲートが開くのを確認したガルスは、キャノピーを閉めた後、マニングから受け取ったヘルメットを被り、スロットルを開けて宇宙空間へ出撃する。

 

「うぉぉ!?」

 

 強烈なGがガルスの身体に一気にのし掛かる。

 

「うぐおぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 ガルスは必死にGに耐えつつ操縦桿を握り、機体を操縦する。

 

 最初はフラフラだった軌道も徐々に慣れ始めたのか、自由自在に飛び始める。

 

「す、凄い……たった数時間で、あの機体を自分の物にするとは……」

 

 マニングは、試作機であるYF-23をシミュレーションも行わずに短時間で乗りこなすガルスのパイロット技術に思わず固唾を飲む。

 

「フ、フハハハハ。面白い……VF-19も面白いが、この機体もなかなか面白いぞ」

 

 ガルスは機体をガウォーク、バトロイドへと次々と変形させて動作確認を行う。

 

『おい、コイツに武器は無いのか?』

 

 機体の操縦に飽きたのか、ガルスは司令塔にいるマニングに通信を入れる。

 

『申し訳ございません。この機体には、まだ標準装備の頭部レーザー機銃しか積んでおりません』

 

『ガンポッドくらい積んでおけ! この役立たず!』

 

 機体にガンポッドが搭載されていない事を不満に思ったのか、ガルスはマニングを怒鳴りつける。

 そして、そのままガルスは、退屈凌ぎに無茶な操縦をし始める。

 

『ガルス少佐、無茶な操縦はおやめください!』

 

 無茶な操縦をするガルスをマニングは咎める。

 

『機体に武器を搭載しない貴様が悪いんだ!』

 

(はぁ……なんで怒られなきゃいけないんだよ)

 

 理不尽に怒られる状況にマニングは、憤りを感じながらもテストの様子を見続ける。

 

『そろそろ帰還する。ゲートを開けろ!』

 

 約3時間のテストを終えて、ガルスは格納庫へと帰還する。

 ガルスの帰還命令を聞いたマニングは、慌てて格納庫へと向かう。

 

「お疲れ様です、ガルス少佐」

 

 コクピットを降りるガルスをマニングは迎える。

 ガルスを出迎えるついでにマニングは、チラッとYF-23を見まわす。

 とりあえず、外見上は無茶な操縦をして機体が壊されている様子が無い事に内心ホッとしていた。

 

 コクピットを降りたガルスは、無言でマニングに近付く。

 

「おい」

 

「な、何でしょう?」

 

 無言で近付くガルスにマニングはタジタジだった。

 また理不尽な理由で怒られるのではないかと言う思いが頭の中を駆け巡る。

 

「なかなか面白い機体だったぞ。完成が楽しみだ」

 

 ガルスは、マニングを見て不敵な笑みを浮かべる。

 

「は、はあ……どうも」

 

 ガルスの満足そうな笑みを見たマニングは、恐縮しながら軽く頭を下げる。

 

 

「機動性やGとか、操縦していて何か感じた事はありませんでしたか?」

 

 マニングは、ガルスに機体への感想や意見を求める。

 パイロットからのフィードバックは、今後の機体開発への重要な意見である。

 

「そうだな……次からはガンポッドを積んでおけ。以上だ」

 

「え、たったそれだけですか? 他にありませんでしたか?」

 

 シミュレーターを使わず、ぶっつけ本番であれだけ短時間でYF-23を乗りこなした割にはフィードバックがガンポッドの有無だけしか言わないガルスにマニングは、思わず呆気に取られてしまう。

 

 呆気に取られるマニングをよそにガルスは、強引にマニングの胸倉を掴んで顔を近付ける。

 

「俺は、どんな機体だろうが乗りこなしてやる。だから貴様は、一刻も早く機体を完成させる事に集中しろ。いいな!」

 

「わ、わかりました」

 

 気迫あるガルスの表情にガルスと同じ位の体格であるマニングは、押されるがままに応える。

 

「フン!」

 

 掴んでいた胸倉を離してガルスは、そのまま格納庫を後にする。

 

(ふぅ……こりゃ、先が思いやられるな)

 

 これからテストの度に毎回毎回ガルスに理不尽な事で怒られなければならない事を想像して、マニングはプロジェクトを申請した事を今頃になって後悔し始める。

 

(いかんいかん、弱気になっては)

 

 しかし、これくらいで諦めようとする自分に喝を入れて気合を入れ直したマニングは、スタッフにメンテナンスを指示する。

 

 初の試験飛行から数日後、試験場所を訓練艦ガトウィック内の市街地訓練所へ移してテストが行われる。

 ガルスの注文通り、今回より機体にガンポッドを標準装備させてのテストだ。

 

 大気圏内での試験飛行と簡易的な射撃訓練も兼ねたテストが開始される。

 宇宙空間での操縦を物にしたガルスにとって、大気圏内での操縦も容易い物だった。

 

「凄い……」

 

 次々とスピードタイムを更新するガルスにマニングは、思わず目を見張る。

 スロットルを切るタイミングや、障害物を避ける感覚等、どれも絶妙だった。

 

『おい、貴様! 俺の操縦技術に見惚れて、どうせ間抜けな顔をしていたんだろう? 早く次の指示を出せ!』

 

 何も指示が来ない事に腹が立ったのか、ガルスの罵声が司令塔に響く。

 

『わかりました、次は射撃訓練に入ります。これより標的を地上と空中に展開しますので撃墜してください』

 

 マニングの通信が終わると同時に地上と空中に標的が出現する。

 

「面白くなってきたな」

 

 ガルスは機体を一旦上空まで浮上しながら空中の標的を撃墜する。

 一定の高さまで登ると同時に機体を反転させて、そこから一気に地上目掛けて急降下をする。

 それと同時に標的を次々とロックオンして撃墜していく。

 

「もっと、もっとだ!」

 

 まるで破壊を楽しむかの様にガルスは、次々と標的を撃墜する。

 

「お疲れ様です、ガルス少佐」

 

 コクピットから降りて歩いてくるガルスにマニングが駆け寄る。

 

「それにしても流石ですね」

 

「俺は、どんな機体でも乗りこなすと言ったハズだ」

 

 マニングの誉め言葉にガルスは、無愛想に応える。

 

「おい」

 

「何でしょう?」

 

「この機体の完成は、いつ頃だ?」

 

「そうですね……色々とシステムの組み合わせや調整を含めたら最低でも10年は……」

 

「5年だ」

 

「ご、5年ですか?」

 

 ガルスの無茶な要望にマニングの表情が引きつる。

 

「そうだ。それが出来ないなら、このプロジェクトは中止だ」

 

「そ、そんな……」

 

「お前なら出来るだろう。じゃあな」

 

 ガルスはマニングにパワハラに近い無茶な要望を押し付けたまま、そのまま格納庫を後にする。

 

「はぁ……」

 

 マニングは、大きな溜め息を吐きつつも作業へと戻っていく。

 

 それからのマニングは必死だった。

 ガルスの横暴でプロジェクトが打ち切られると言う恐怖感と戦いつつ、機体の開発を進めていく。

 

 後にその2年後の2045年にETSを搭載した試作2号機が完成を迎え、その3年後の2048年にBDIS搭載の試作3号機が完成を迎えようとする。




次回予告

 西暦2046年、マクロス8船団においてサウンドプロジェクトが発案される。
 それに伴い、マクロス8船団内でオーディションが開催される

次回「アイドル・オーディション」
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