MACROSS-A.D.2048-   作:eisyama

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 西暦2046年、マクロス8船団においてサウンドプロジェクトが発案される。
 それに伴い、マクロス8船団においてオーディションが開催される


第16話アイドル・オーディション

 西暦2046年、マクロス8船団が惑星エデンを出航してから8年が経過したある日の事だった。

 

 部屋で一人の男がディスプレイ越しに年配の男と会話をしている。

 

 男は黒く少し長めの髪を軽く束ね、優しい目元に細身で長身が特徴的だった。

 

「ありがとう、父さん。貰ったコイツを培養して造ってみるよ」

 

「ネスティー、父さんが成し得なかったプロジェクトをなんとしても成功させてくれ」

 

「分かってるよ。一緒に機体の設計図も貰ったしね」

 

 ネスティーと呼ばれる男は、父親である年配の男に笑顔を見せる。

 しかし、その眼は笑っていなかった。

 

「じゃあ、元気でやるんだぞ」

 

 親子の会話が終わり、年配の男は通信を切る。

 

 通信を終えたネスティーは、机の上に置かれた試験管を見る。

 試験管の中には細胞の一片が入っており、時々脈を打っていた。

 

「プロトデビルンの細胞……コレさえあれば、サウンドフォースなんて目じゃないさ」

 

 ネスティーは、試験管を見つめて不敵な笑みを浮かべる。

 

 プロトデビルンの細胞を受け取ったネスティーは、コネクションを使って密かに研究室を用意してプロトデビルンの細胞を培養し始める。

 父が成しえなかった野望は今、息子であるネスティーが成し遂げようとしていた。

 

 プロトデビルンの培養が完了するまでの間、ネスティーは新たな企画を考案する。

 

 その考案が纏まった時には、既に年が明けていた。

 その考案を発表する為、会議室には艦長であるアンナを始め、上層部連中も出席している。

 

「では、ネスティー大尉」

 

 アンナに声を掛けられ、ネスティーはディスプレイに資料を映す。

 

「サウンド・プロジェクト?」

 

 ディスプレイに映し出されるサウンド・プロジェクトと言う文字に周りは、ざわつき始める。

 

「ご存知では無い方もおられると思いますが、現在マクロス7船団は新たなる脅威であるプロトデビルンと対峙しております」

 

 ディスプレイには、巨大な怪獣や少女型の宇宙人が表示される。

 

「これは、マクロス7船団が遭遇した一例です」

 

「こんなバケモノ、統合軍の力を持ってすれば一網打尽に出来るではないか!」

 

 小太りの男は、プロトデビルンの映像を見ながら勝ち誇ったように話す。

 

「お言葉ですが、ガーネフ大佐。残念ながら、この生命体には通常兵器はおろか反応弾すら全く効果はありません」

 

「なんだと!?」

 

 勝ち誇った表情をする小太りの男、ガーネフを否定するネスティーの言葉に周りは驚き、固唾を飲む。

 

「ネスティー大尉。マクロス7船団は、この生命体にどのようにして対処しているのかしら?」

 

 プロトデビルンに反応弾が通用しない事に対して周りがざわつく中、アンナが質問を投げ掛ける。

 

「それに対してマクロス7船団は、現在サウンドフォースと呼ばれるサウンド遊撃隊で対処しています」

 

「サウンドフォース?」

 

 サウンドフォースと言う聞きなれない言葉に周りは、なかなか理解できず困惑していた。

 

「ロックバンドFIRE BOMBERを中心とした部隊で、彼らはバルキリーに搭乗し戦場で歌います。彼らの歌はプロトデビルンに対して、かなり効果があると言う検証結果があります」

 

 ディスプレイには、サウンドフォースのバルキリーが映し出される。

 

「バカな……たかが歌ではないか」

 

「あの赤いバルキリーは、VF-19じゃないか。なんとも趣味の悪い……」

 

 ネスティーの説明が受け入れられないのか、上層部連中は、お互いに顔を見合わせている。

 

「そこで、我々もいつプロトデビルンのような反応兵器の効かない生命体と遭遇しても良いようにサウンド遊撃隊を作るべきです」

 

 ネスティーの主張に周りはざわつく。

 

「そもそも、メンバーはどうするのだね?」

 

 細身の男は、ネスティーに問い掛ける。

 

「メンバーは、一般公募します」

 

「ネスティー大尉、市民を戦場で歌わせるなんて危険すぎませんか?」

 

 アンナは、市民の安全を考えた故の意見を述べる。

 

「ご安心ください。メンバーには専用にカスタマイズしたVF-11に搭乗していただきますし、専属パイロットも付けます。また、護衛部隊としてガーネットフォースにご協力をお願いしたいと思います」

 

 ディスプレイには、VF-11のカスタム機が映し出される。

 

「……それでも私は、民間人を危険な目に合わせる訳にはいきません」

 

 アンナは、オペレーター時代での戦場の悲惨さを目の当たりにしているだけにネスティーの提案には賛成は出来なかった。

 

「アンナ艦長、私も民間人をみすみす危険な目に合わせる気はありません。もちろん、前線には出さずに後方支援で歌わせますし、搭乗機体も安全性を考慮します」

 

 ネスティーは、機体に搭乗する民間人への安全性を全面に押し出してアンナに説明する。

 

「ネスティー君。君もご存知だろうが、我が船団は新型機の開発で予算が取れない状況だ。予算に関しては、どうするんだね?」

 

 マクロス8船団は、試作可変戦闘機YF-23の開発に統合軍参謀本部より多額の予算を設けている為、細身の男はネスティーの提案の予算に対しての質問を投げ掛ける。

 

「それは重々承知しています。しかし、歌の力は今後も必要になると思います。第一次星間戦争において、リン・ミンメイがそれを証明しています」

 

「また、その話かね。前にYF-23の時も艦長は同じような戯言を言っていましたな」

 

 ネスティーの話に対してガーネフは、アンナの方を見ながら嫌味混じりで話し、その言葉にアンナは苦笑しながらもネスティーの考えに対して共感していた。

 

「わかりました。あなたがそこまで仰るならば、やってください。予算は私が統合軍本部に掛け合います」

 

「艦長!」

 

「また勝手な事を!」

 

 アンナの承認に毎度の事ながら上層部連中は噛みついてくる。

 マニングの件で慣れてきたのか、アンナは上層部連中からの批判は無視していた。

 

「ありがとうございます、アンナ艦長」

 

 自身の提案を承認してくれたネスティーは、アンナに深々と頭を下げる。

 

「毎回毎回、艦長は我々の意見を無視しおってからに……」

 

 細身の男は、アンナに聞こえるように嫌味を言う。

 

「私は自分の保身しか考えない人よりも、少しでも人の役に立つ考えを持つ人の味方です」

 

 細身の男の嫌味に対して、アンナは笑顔を返す。

 アンナの笑顔を見た細身の男は、悔しさのあまり歯軋りをする。

 

「まったく話にならん! 私は失礼する」

 

 細身の男は席を立って会議室を後にし、残りの上層部連中も周りの顔色を窺いつつも細身の男に続いて次々と会議室を後にする。

 

「ネスティー大尉。プロジェクトの方は、統合軍本部より許可が降りるまでお待ちください」

 

「かしこまりました」

 

 会議を終えた後、アンナは艦長室へと戻って統合軍本部へと連絡を入れる。

 

『こちら統合軍本部』

 

 統合軍本部と通信が繋がり、机上に設置したモニターにオペレーターが映る。

 

『新マクロス級大型移民船団マクロス8艦長、アンナ・エヴァンスです。ワードナ大佐に繋いでください』

 

『かしこまりました。少々、お待ちください』

 

 オペレーターは、ワードナを呼び出す。

 

 しばらくして、モニターにワードナが映し出される。 

 

『こんにちは、ワードナ大佐』

 

『君か……あれ? YF-23の進捗報告は、この間頂いているが?』

 

 既にYF-23の報告を貰っている筈なのに通信を入れてくるアンナにワードナは、疑問を感じていた。

 

『実は、今日は別件で……』

 

『……ぐ、また何かムチャなお願い事かい?』

 

 アンナの申し訳なさそうな表情にワードナは、少々顔が引きつっていた。

 

『ええ、やっぱり分かりましたか?』

 

 ワードナの嫌そうな表情にアンナは、思わず苦笑いする。

 

『君が別件で私に通信を入れてくる時は、大概ムチャなお願い事だからね』

 

 ワードナは、アンナに皮肉めいた言葉を掛ける。

 

『返す言葉もございませんわ』

 

 ワードナの皮肉にアンナは、深く大きな溜め息を吐く。

 

『で、今回のお願い事は?』

 

『実は……』

 

 アンナはネスティーの提案資料とデータをワードナに送り、内容を説明する。

 

『その話なら前にマクシミリアン艦長からも伺っているから、多分提案は通りやすいと思うよ』

 

『本当ですか!』

 

 承認が通りやすそうな話に思わずアンナは、目を輝かせて前のめりにディスプレイを覗く。

 

『そんなに目を輝かせて、こっちを見ないでくれ。まだ確定じゃないんだから』

 

 アンナの様子を見たワードナは、思わずアンナを宥める。

 

『とにかく、参謀本部に掛け合ってみるから少し待っていてくれ』

 

『わかりました。朗報をお持ちしております』

 

 アンナは、とびきりの笑顔をワードナに見せて通信を切る。

 

 ワードナとの通信を終えたアンナは、ハーブティーを煎れてネスティーの提案書に目を通す。

 

「マクシミリアン艦長も凄い事をしてるのね。やはり、天才の考える事は常に私達の斜め上なのかしら」

 

 アンナは提案書を読みながら、気になる部分に目印を付けていく。

 

「それにしても、このサウンドフォースのバルキリーって誰の趣味かしら? 何だか現行機をここまで凄い形にした人の顔を見てみたいわ」

 

 提案書に描かれたサウンドフォースのバルキリーを見たアンナは、思わず苦笑いする。

 サウンドフォースのバルキリーのカラーリングは派手な塗装を施され、顔に至っては人間と同じ目と口と鼻が描かれていた。

 

「まだ、このジャミングバーズ用のVF-11の方がマシに見えてくるわね。確かネスティー大尉は、この機体を使うみたいだけど……」

 

 アンナは、ジャミングバーズ用VF-11の仕様書に目を通す。

 

 ジャミングバーズ用の機体は、主力機であるVF-11の複座型タイプの背部に大気圏外用装備であるスーパーパックとは違った、大型ブースターを搭載していた。

 

「それにしても……反応弾が全く効かないと言われているプロトデビルンと言う生物に、このサウンドフォース達の歌が有効だったなんて……」

 

 マクロス7船団と対峙した謎の敵であるプロトデビルン。

 

 通常兵器はおろか反応弾を以ってしても太刀打ち出来なかったプロトデビルンに唯一対抗出来たのが、ロックバンドFIRE BOMBERの歌であった。

 

「資料を見る限りだと、サウンドブースターと言うので対抗していると書かれているけど、あのブースターで歌を聴かせていたのかしら?」

 

 アンナは、サウンドブースターを装備したサウンドフォースの機体が描かれた資料に目を通す。

 

「そもそも、こんな怪獣みたいな言葉が通じない様な相手が歌を聴いてくれるのかしら?」

 

 考えれば考える程、アンナの頭の中はこんがらがっていった。

 

 冷たく薄暗い部屋。

 

 その部屋には、ネスティー以外にも数名の科学者が実験を行っていた。

 

 その部屋でネスティーは、科学者達に父親から貰ったプロトデビルンの細胞片を培養させていた。

 

 培養液の入った大型試験管の中で、細胞片は少しずつ脈を打っている。

 

 端末を操作しながら成長剤等の薬品を少しずつ投与していく。

 

 投与後の細胞辺に関してのデータがディスプレイ上に表示され、そのデータを基に科学者達はデータ収集や確認作業を行う。

 

「細胞辺への投薬作業、完了しました。今の所は数値上での問題ありません」

 

「よし、そのまま続けてくれ」

 

「わかりました」

 

 ネスティーの指示で科学者は、細胞の培養を続ける。

 

「このプロトデビルンの細胞で作り上げた生命体があれば、統合軍にとって怖いものなんてないさ。いや……もしかしたら統合軍さえも私を恐れるかもね」

 

 ネスティーは、大型試験管を見ながら時々不敵な笑みを浮かべる。

 

 生まれてくる生命体が統合軍にとって脅威となり、やがて統合軍の政権を掴む自分の姿を思い浮かべていた。

 

「後は統合軍本部の回答次第かな」

 

 ネスティーは、テーブルに置いてあるティーカップを手に取りコーヒーを飲む。

 

 アンナが統合軍本部に掛け合ってから1週間後、ワードナから通信が入る。

 

『すまないね、待たせてしまって』

 

『いえ、気にしていませんわ』

 

『さて、統合軍参謀本部からの回答は……』

 

 ワードナの回答発表にアンナは真剣な眼差しでワードナを見ながら固唾を飲む。

 YF-23に続き、アンナにとっては結構無茶なお願いだけに承認されるかどうかの案件だった。

 

『安心しなさい、ちゃんと許可が降りたよ』

 

 ワードナの承認回答にアンナは、満面の笑みを浮かべる。

 

『ありがとうございます』

 

 アンナはワードナに深々と頭を下げて礼を言う。

 

『今回はマクロス7船団が有効的な結果を出していたからね。だから、提案も通りやすかったんだろう』

 

『そうなんですね』

 

『さて……すまないが、私は、そろそろ失礼させて貰うよ。今日は息子の誕生日なんでね。せめて、息子の誕生日くらいは祝ってあげないと』

 

『それはそれは、おめでとうございます。おいくつになられたのですか?』

 

『今日で16歳だ。今は士官学校で頑張っているみたいだよ』

 

『今日は、ご子息をいっぱい祝ってあげてくださいね』

 

『ありがとう、アンナ君』

 

 ワードナとの通信を終えたアンナは、ネスティーに出頭を命じる。

 

「アンナ艦長、提案の件でしょうか?」

 

 ネスティーは出頭早々、提案の件をアンナに訊ねる。

 

「ええ、そうです。ネスティー大尉の提案は、統合軍参謀本部でも承認が得られました」

 

「そうですか、ありがとうございます」

 

 ネスティーは軽く微笑み、アンナに頭を下げる。

 

「では、早速ですがメンバーの一般公募をしたいのですが……」

 

「そこは、私の主人にお願いして大々的に宣伝をさせて頂きます」

 

「確か、艦長のご主人は、シティ8の市長でしたね」

 

「ええ、広報関係もやってくれると思います。機体の手配は私がしておきますので、ネスティー大尉は、応募者からのメンバーの選定をお願い出来るでしょうか?」

 

「わかりました。オーディション関係の手配等は私がやっておきます。アンナ艦長、本当にありがとうございます」

 

「ところで、グループ名は決まっていますか?」

 

「ええ、メンバーは男女混成の6名にする予定なので、六人にちなんでHEXAGRAMと言うグループ名です」

 

「六芒星と言う意味ね。ふふ、哲学的なグループ名ですね」

 

「では、私はこれで失礼します」

 

 ネスティーは、アンナに頭を下げて艦長室を後にする。

 

(これでいい……後は、例の物の完成を急がねば)

 

 提案が承認され、順調に物事が進んでいくネスティーは、口元を緩ませて研究室へと戻る。

 

『なるほど、それは面白そうだね』

 

 アンナの夫であり、シティ8市長でもあるマイルズは、アンナからネスティーの提案を聞いて興味を示す。

 

『でも、戦場で市民を危険に晒す可能性があるから、本当は私は……賛成はしたくなかった』

 

 興味を示すマイルズと対照的に元々、一般市民を戦場に出す事にアンナは素直に喜ぶ事は出来なかった。

 

 いくら一般公募でメンバーを募集するとは言えど、実際に戦場で歌わせるのはメンバーのメンタル的負担等のリスクが大き過ぎる為、アンナはその事が気に掛かっていた。

 

『まあ……確かにね。でも、後方支援で専属パイロットや護衛も付けてくれるならリスクは低くなると思うんじゃないかな?』

 

『……』

 

 マイルズの前向きな言葉にもアンナの表情は優れなかった。

 

『そうそう、ネスティー君から聞いたけど、審査員は僕と君も参加みたいだね』

 

 浮かない表情をするアンナを元気づけようと、マイルズは話題を変える。

 

『ええ、そうみたいね。でも、私達なんかで大丈夫かしら?』

 

 マイルズが話題を変えたお陰で曇っていたアンナの表情は、多少なりと良くなっていた。

 少しだけ明るい表情を見せるアンナにマイルズは、内心ホッとしていた。

 

『ネスティー君も審査に参加してくれるから大丈夫さ。さあ、これから忙しくなってくるぞ』

 

 初めての審査員の仕事にマイルズは気合いを入れる素振りをし、その様子にアンナは微笑む。

 

『じゃあ私、仕事に戻るわね』

 

『ああ、アンナもムリして身体を壊さないでね』

 

『あなたもね。お互いに気を付けましょう』

 

 お互いに笑顔を交わして、二人は通信を終える。

 

 ネスティーの提案が統合軍本部より承認を受けてから二日後、シティ8の街中にHEXAGRAMオーディション関係の広告が飾られ、TVCMも放送される様になる。

 

『地球統合軍/シティ8主催 君の歌で銀河の平和をを守ろう! HEXAGRAMオーディション受付開始!』

 

 歌で銀河の平和を守ろうのキャッチコピーを前面に押し出して、色々な宣伝が街中を彩る。

 

 募集期間は約1週間。

 

 男性3名、女性2名の併せて5名を採用し、オーディションは書類選考、面接、歌唱力やダンス審査の順で行われる。

 

 人々は色々な宣伝に目を向け、そして、興味ある者は希望を募らせてオーディションに応募する。

 

 募集をかけた初日だけで約1,000通もの応募が殺到し、マイルズやアンナもこの数には驚きを隠せなかった。

 

「1,000通って数字は、実際に見ると意外に多いなぁ……」

 

 実際に届いた応募書類やメール等を見たマイルズは、その量の多さに圧倒する。

 

「マイルズ市長、まだ初日ですよ。期間は1週間ありますから、恐らくこの数の3倍以上は見ておいた方がいいかも知れません」

 

 届いた書類の多さを見てもネスティーは、冷静にマイルズに言葉を掛ける。

 

「はは、ネスティー君は冷静だねぇ……」

 

 冷静に対処するネスティーにマイルズは、苦笑いする事しか出来なかった。

 

「さあ、届いている書類だけでも目を通して、ピックアップしましょう」

 

「ふぅ……やれやれ」

 

 マイルズは、大きな溜め息を吐きながらもネスティーやマイルズの集めた100名近くの関係者らと共に応募書類を選考する。

 

 選考作業は夜通し掛かり、全ての書類に目を通した頃には、ちょうど朝日が昇ろうとしていた。

 

「や、やっと終わった……」

 

 夜通しの書類選考にマイルズの表情は、既に精気を失っていた。

 

「お疲れ様です、マイルズ市長」

 

 そんなマイルズをよそにネスティーは、相変わらずのポーカーフェイスでマイルズを労う。

 

「ネスティー君。君、疲れたり、眠いとは思わないのかい?」

 

 殆ど感情を表に出さずに作業をするネスティーをマイルズは、疑問に思っていた。

 

「もちろん、私だって疲れていますし、眠いですよ。それを表に出したら一気に気力が落ちるので、敢えて出していないだけですよ」

 

 ここで初めてネスティーは、マイルズに優しく微笑む。

 その表情にマイルズは、ロボットみたく作業をこなすネスティーにも感情があるんだなと思う。

 

「なるほどねぇ。僕もネスティー君を見習ってみるかな?」

 

 マイルズは重い腰を持ち上げながら席を立つ。

 そして、伸びをしながら軽くストレッチを行い、最後に疲労が溜まった腰の部分をく叩く。

 

「では、マイルズ市長。今日の夜もよろしくお願いします」

 

「!? あ、ああ……よろしく」

 

 今日も昨日と同じくらいの書類やメールが来る思うと、ストレッチをしたばかりの身体が急に重くなり始める感覚に陥る。

 その事を思いながら表情が固まるマイルズをよそにネスティーは、部屋を後にする。

 

 応募期間1週間の間に寄せられた応募は2万通を突破し、その間にマイルズとネスティーを中心に芸能関係者で毎日夜通しで書類選考を行い、2万5千通のうち書類選考を通ったのは、わずか20名のみである。

 

 書類選考が終わった頃には、さすがのネスティーも疲れを見せていた。

 その様子を見ていたマイルズは、人間らしい表情を見せるネスティーに思わず笑みを見せる。

 

「これほど1週間が長く、苦しいと感じた事は、今まで無かったな」

 

 応募期間と書類選考が全て終わり、マイルズはコーヒーを飲みつつ1週間を振り返る。

 あれだけ夜通しで行った苦しい書類選考も、喉元を通り過ぎれば、いい思い出になりつつある。

 

「マイルズ市長、干渉に浸っている時間はありませんよ。明日からは、書類通過者の面接を行うのですから」

 

 面接会場の打ち合わせや設定を端末でこなしながら、ネスティーはマイルズに話す。

 

「そうだったね。しかし、あれだけ多くの応募者から20人もよく絞れたものだね」

 

「それに関してはマイルズ市長を始め、芸能関係者の方々のご協力があればこそですよ」

 

 ネスティーは、端末で作成したデータを1枚の紙に印刷してマイルズに渡す。

 

「マイルズ市長。書類の確認をお願い致します」

 

「これは?」

 

「明日の面接のチェックシートです」

 

「チェックシートねえ。どれどれ……」

 

 チェックシートを受け取ったマイルズは、内容の確認を行う。

 

「ネスティー君、これは……」

 

 最初の面接項目を見たマイルズは、思わず驚いて目を大きく見開かせる。

 

「マイルズ市長。世の中は綺麗事だけでなく事実を述べないと、戦いには勝てませんよ」

 

 ネスティーは、夜空に輝く星を眺めながらマイルズに話す。

 その表情は、どことなく冷たい感じがしていた。

 

 そして、オーディション当日。

 

 オーディション会場はシティ8内の大型ホールで行われ、テレビ中継やマスコミ関係者の取材は完全シャットアウトの状態にしている。

 

 一足先にマイルズとアンナは、オーディション会場にやってきた。

 

 会場では、スタッフ達が忙しそうに動き回っている。

 忙しく動くスタッフに労いの言葉を掛けつつ、二人は面接を行う部屋へと入る。

 

「!? これは……」

 

 部屋の中に入った二人の目の前には、大型のシミュレータマシンが置かれていた。

 

「おはようございます」

 

 部屋に入ったネスティーが二人に声を掛ける。

 

「ネスティー大尉、これはいったい……」

 

 面接を行うのに、こんな大型の機械を持ち出す事にアンナは不思議に思っていた。

 

「ああ、これですか? これは最初の面接で使うんですよ」

 

「ネスティー君、昨日のチェックシートを見せて貰ったんだけど……いくらなんでも、初っ端から戦場のシミュレーションで恐怖感を与えるって、ムチャ過ぎないか?」

 

 マイルズは、チェックシートを確認し直しながらネスティーに問い掛ける。

 

「いいですか、彼らは芸能界で歌うのと同時に戦場でも歌わなきゃいけないんです。敵の攻撃で毎回毎回、悲鳴を上げて歌う事すら出来ないのではダメなんですよ!」

 

 ネスティーの力強い正論に二人は、ぐうの音も出なかった。

 

「ネスティー君。君の言いたい事は理解できるが、もう少し時間を掛けて戦場に慣れさせても……」

 

 合格後のメンバーの精神的部分を考慮して、マイルズは意見を述べる。

 

「マイルズ市長。昨日も申し上げましたが、戦争は綺麗事では済まない事があります。

だからこそです」

 

 マイルズの意見を受け入れず、ネスティーは自分の考えを押し通す。

 いくら護衛が付いているとは言え、オーディションで選ばれた人達が戦場で歌うのは、かなり勇気がいる事でもあり、精神的負担もかなり大きい。

 しかし、いつ攻めて来るか分からない敵に対しては、そうも言っていられないのも事実である。

 戦場で歌えなかった故に戦況が悪化して、下手をすると全滅する可能性だってあるからだ。

 その為、マイルズの意見もネスティーの意見も正しい見解である。

 

 過去にマクロス7船団でサウンドフォースに続いて結成されたサウンド遊撃隊ジャミングバーズが思ったほど戦果を上げられなかった事を父親から聞いていた為、ネスティーは今回のプロジェクトを何としても成功させたかった。

 

「わかりました。ネスティー大尉がそこまでお考えでしたら、私達はこれ以上は何も言いません」

 

「ありがとうございます」

 

 お礼を言うネスティーにアンナとマイルズは、お互いに顔を見合わせて苦笑いする。

 

 やがて開始時間が近付き、会場に次々と書類審査合格者がやってくる。

 そして、ついに面接審査が始まる。

 

「エントリーナンバー1番。キール・スタイナーっス」

 

 サーファーチックな容姿に軽いウェーブの掛かったブロンドの髪が印象的な青年が部屋に入る。

 

「では、最初に応募動機をお聞かせ願えますか」

 

「応募動機? あ、俺、ちょーイケてるって、みんなから言われてるんスよ。だから、テレビに出れば女の子にモテモテになれると思って応募したんスけど」

 

 アンナの応募動機の質問にキールは、陽気に応える。

 しかし、色々と突っ込みどころ満載でマイルズやアンナは、苦笑いしか出来なかった。

 

「では早速ですが、この機械の中に入ってください」

 

「え? いきなりこの中スか?」

 

 ネスティーにシミュレーションマシンの中に入る様に促されたキールは、思わずシミュレーションマシンに指を指す。

 

「合否の結果は、この中で行います」

 

「は……はあ」

 

 ネスティーの言葉にキールは疑問を持ちながらも、言われるままにシミュレーションマシンの中に入る。

 

 シミュレーションマシンの中は暗く、うっすらと見える中には、シートが1席置いてあり、シートの上にはヘッドディスプレイが置かれていた。

 

『その装置を頭に着けてから、シートに掛けてください。準備が出来ましたら、声をお掛けください』

 

 マシンの中からネスティーの通信が入り、キールは不安な面持ちで言われるままにヘッドディスプレイを頭に被り、シートに腰掛ける。

 

『え……と、準備完了っス』

 

 キールから準備完了の言葉を聞いたネスティーは、端末を操作し始める。

 しばらくして、ヘッドディスプレイ越しに戦場のイメージが映し出される。

 バルキリーとゼントラーディ軍の機体が両者入り乱れて戦闘しているイメージだ。

 

「おお、スゲェ……まるで映画見たいっス!」

 

 イメージに映される戦場の様子にキールは興奮しており、その様子はネスティー達のテーブルに置かれたモニター上に映し出される。

 

「ところでネスティー大尉、あの装置は?」

 

 アンナがキールの掛けているヘッドディスプレイの事が気になっている様子だった。

 

「あれは、ヘッドディスプレイ越しに実際の戦場を映し出しています。この装置には脳波コントロール装置を組み込んでいるので、実際の恐怖感を被験者に与える事で被験者の心理状態をデータとしても残せます」

 

 アンナの質問にネスティーは黙々と答える。

 黙々と答えるネスティーにアンナは、微妙な恐怖感を覚える。

 

「まだレベル1なので、コレくらいは序の口です。本番は、ここからです」

 

 ネスティーは、端末を操作して装置のレベルを上げる。

 

 ネスティーがレベルを上げると、ヘッドディスプレイ越しに映っていた戦場の様子は一転して、敵戦闘ポッドが攻撃を仕掛ける映像に切り替わる。

 

「うわ、こっちくんな!」

 

 映像が切り替わり、キールが動揺し始める。

 

「脈拍、心拍数共に上昇しています」

 

 スタッフが端末でキールのデータを見ながら報告を入れる。

 

「ネスティー君、大丈夫かね?」

 

 状況を見兼ねたマイルズがネスティーに声を掛ける。

 

「ご心配なく。死ぬ事はございませんので」

 

 ネスティーは、冷ややかな表情でマイルズに応えながらも端末を操作してレベルを徐々に上げていく。

 

 ヘッドディスプレイ越しの映像か切り替わり、敵戦闘ポッドは体当たりを仕掛ける行動を起こす。

 敵戦闘ポッドが体当たりをする度にキールの座っているシートが映像とリンクして大きく揺れる。

 

「うわああああ!」

 

 シートが大きく揺れる度にキールの大きな悲鳴がシミュレーションマシン越しから聞こえる。

 

「脈拍、心拍数、更に上昇」

 

「ネスティー君、本当に大丈夫かね?」

 

 スタッフの報告を聞いたマイルズは、更に不安を募らせる。

 

 そんなマイルズをよそにネスティーは、モニター越しにキールの様子を監視する。

 それは、まさに怯える小動物を見るような目つきそのものだった。

 

「やめろ、やめてくれえぇぇぇぇ!」

 

 キールの叫び声がシミュレーションマシンから聞こえてくる。

 

「ネスティー君! 急いで中止したまえ!」

 

「しかし、まだ審査は……」

 

「早く!」

 

「……わかりました」

 

 マイルズの呼び掛けにネスティーは、しぶしぶ端末を操作してシミュレーションマシンを止める。

 

「急いで彼の様子を!」

 

 アンナの指示でスタッフは、急いでシミュレーションマシン内に入り、中からキールを救護する。

 

「やめろ……も、もう……やめてくれよぉ……」

 

 キールは恐怖感に怯える目つきのまま、足元をふらつかせた状態でスタッフの肩に担がれてシミュレーションマシンから出てくる。

 

「お疲れ様。ちなみに戦闘の度にこのような事が毎回起きますが、如何ですか?」

 

「え!? い、いや……え、遠慮します!」

 

 ネスティーの問い掛けに対してキールは、怯えた表情をして逃げるように会場を飛び出していく。

 

「やれやれ……」

 

  逃げるようにして部屋を飛び出すキールの様子を見たネスティーは、深い溜め息を吐く。

 

「困るよ、ネスティー君。面接者に恐怖感を与えては……」

 

 ネスティーの非情なやり方に対して、思わずマイルズは苦言を入れる。

 

「マイルズ市長。先ほども申し上げましたが、戦争は綺麗事ではありません。この恐怖感に打ち勝つ者が必要なんです。それに、これはただの芸能活動ではないんです」

 

 マイルズの苦言にネスティーは、冷静な表情で自分の意見を述べる。

 そんなネスティーに対してマイルズは、憤りを感じていた。

 この様な状況では、合格者すら出ないまま終わってしまうのでは?と。

 

 やがて2番目、3番目と次々と面接者はシミュレーションマシンに入り、殆どの者がリタイアをしていく中、7番目の面接者が部屋に入る。

 

「フェイル・羽柴です……よろしくお願いします」

 

 フェイルは、少し陰のある感じがする少年だった。

 細く長い切れ目が印象的で、外見的にも冷たい感じが漂っている。

 

「では、最初に応募動機をお聞かせ願えますか」

 

「俺は……歌を歌いたい。俺の歌で人々を感動させて、俺を見下したヤツら見返したい。ただ、それだけです」

 

 アンナの質問に対してフェイルは、黙々と応える。

 その様子にアンナは、ただ茫然としていた。

 

「では、この機械の中に入って、シートに置いてある装置を頭に被ってからシートに座ってくれるかな」

 

 ネスティーの指示を受けたフェイルは、無言でシミュレーションマシンに入り、ヘッドディスプレイを頭に被ってシートに座る。

 

『準備は良いかい?』

 

『いつでもやってくれ』

 

 ネスティーの通信に対してもフェイルは、無愛想に応える。

 

 やがてモニター越しに戦場の映像が映し出される。

 しかし、フェイルは映像を見ても殆ど微動だにしない様子だった。

 

「脈拍、心拍数共に正常のままです」

 

「それは面白い」

 

 スタッフの報告にネスティーはフェイルに興味を持ち、端末を操作してレベルを上げる。

 

 レベル2になりヘッドディスプレイ越しの映像は、敵戦闘ポッドが攻撃を仕掛ける映像になるが、それでもフェイルは微動だにしなかった。

 

「ほほう……」

 

 ネスティーは全く動じないフェイルを見て、口元を緩ませて嬉しそうな表情を見せて更にレベルを上げる。

 フェイル以外の面接者は、この時点で悲鳴を上げる者ばかりいただけに、全く動じないフェイルが何処までのレベルに応じられるかを見てみたかった。

 

「凄いわ。レベルが上がっても彼、全く動じない……」

 

 モニター越しで全く動じないフェイルの様子を見ていたアンナは、思わず固唾を飲む。

 

「ほお……面白い」

 

 レベルを3に上げても全く微動だにしないフェイルにネスティーは、ついに面接者では初めてのレベルを4まで上げる。

 

「レベル4に上げるのは初めてなので、彼がどういう反応を示すか楽しみです」

 

 ネスティーはマイルズとアンナに軽く微笑みながら、フェイルの反応をモニターを越しに見つめる。

 そんなネスティーとは対照的にマイルズとアンナは、不安な面持ちだった。

 

 ヘッドディスプレイ越しにゼントラーディ艦隊が映し出され、大艦隊による一斉射撃が始まる。

 フェイルの横スレスレを艦砲射撃のビームが次々と横切るが、それでも彼は動じなかった。

 

「もしかして彼、寝てるんじゃないのかい?」

 

 全く微動だにしないフェイルを見ていたマイルズは、冗談交じりにアンナに話し掛ける。

 

「フフ、それは無いわ」

 

 アンナは、マイルズの言葉に少し笑いながら応える。

 

「凄い……あれだけの恐怖感を与えても、脈拍、心拍数共にそれほど変化ありません」

 

 スタッフは、フェイルのデータを端末で確認して、驚きつつもデータの内容に感心していた。

 

「ならば、レベルを最大に上げましょう」

 

 ネスティーは、端末を操作して最大レベルの5に上げる。

 

 ヘッドディスプレイ越しにボドル級クラスの大艦隊、そして、敵戦闘ポッド群の激しい攻撃が映し出される。

 攻撃を受けると同時に揺れるシートの揺れ幅もかなり大きく、悲鳴を上げてもおかしくない状況だった。

 しかし、それでもフェイルは全く微動だにする様子はなかった。

 

「テスト終了だ。彼の様子を見てきてくれ」

 

 ネスティーは、端末を止めてスタッフにフェイルの様子を見に行かせる。

 

 しばらくして、シミュレーションマシンからスタッフと共にフェイルが出てくる。

 しかし、その足取りはフラフラする事も無く、至って普通に歩いていた。

 

「おめでとう、君が初めての合格者だ」

 

「……ありがとうございます」

 

 ネスティーから合格を告げられてもフェイルは、表情を変える事なく相変わらず、ぶっきらぼうに応える。

 

「しかし、凄いなぁ……シミュレーションとは言え、あんな状況にいたら僕だったら震えあがっちゃうよ」

 

 マイルズは、シミュレーションに微動だにしないフェイルに凄く感心していた。

 

「でも、フェイルさん。仮に芸能界に入るなら、もう少し笑顔を見せた方がいいですよ」

 

 アンナは、一度たりとも笑顔を見せないフェイルに忠告をする。

 芸能界に入る以上、テレビで見る視聴者に不愛想な表情では逆にクレームが来てしまい、芸能活動の妨げになり、自分自身の首を絞める事になるからだ。

 

「!?」

 

 アンナの忠告に今まで無表情だったフェイルの表情は急に険しくなり、そのままアンナを睨み付ける。

 

「あ……気に障ったみたいでしたら、ごめんなさい……」

 

 急に表情が豹変したフェイルを見たアンナは、言い過ぎた事を謝る。

 

「とりあえず、一週間後に二次面接を行うから、今日はこれで終了だ。お疲れ様」

 

「……お疲れ様です」

 

 スタッフに案内用紙を渡されたフェイルは、不愛想な表情のまま一礼だけして部屋を後にする。

 

「何なんだ、彼の無表情っぷりは?」

 

 不愛想な対応をするフェイルの態度にマイルズは、思わず不満を口にする。

 終始笑顔を見せる事も無く、返事もそっけ無く、マイルズでなくとも同じ様に感じるだろう。

 

「確かにそうね……もしかしたら過去に何かあったのかしら?」

 

 そんなフェイルにアンナは、他人事ながら心配していた。

 

「でも、彼のデータはとても貴重ですし、私は彼をメンバーに入れたいですね」

 

 端末でフェイルのデータを確認しながらネスティーは、フェイルの環境適応能力に感心していた。

 殆どの面接者がシミュレーションレベル2もしくは3でリタイアしていただけに尚更である。

 

「でも、あのような態度や表情でテレビに出られてもねぇ……」

 

 マイルズはフェイルの態度や表情がテレビ向きでは無いと感じ、ネスティーの意見には賛同できなかった。

 今の状態でテレビ番組に出たとしても、不愛想な表情や仕事に対しての姿勢が視聴者からクレームが来る事は目に見えていたからだ。

 

「時間があまり無いので、次の面接を行いましょう」

 

 それから再び面接が始まるが、やはりシミュレーションマシンの映像に恐怖感を覚えてリタイアしていく者が多かった。

 フェイルが予想外だった故に次々とリタイアする面接者を見たネスティーは、思わず深い溜め息を吐く。

 

 結局、20名の面接を受けて合格者はフェイルのみであり、二人が仮合格だった。

 

 仮合格者の一人、アンジェイ・カークスは応募者の中で一番の巨体であり、過去に統合軍に入隊希望をしていたが、巨体な体格と少しのんびりした性格であるが故にそれが災いして入隊を断られた経歴を持つ。

 

 しかし、シミュレーションマシンではレベル4まで耐え抜き、フェイルに続いて好成績を叩き出している。

 

 もう一人の仮合格者、柊 弥生は少し勝ち気な性格だが、女性ながらサバサバした感じだった。

 

 マクロス7船団で活躍するロックバンドFIRE BOMBERの活躍をギャラクシーネットワークで知り、熱気バサラの歌声に惹かれ、いつしか彼らに憧れてオーディションに応募。

 シミュレーションマシンでは、アンジェイと同じくレベル4まで結果を出しており、本人は「スリルがあって楽しかった」とコメントしている。

 

「ネスティー大尉、以上で面接者は全員終わりましたね」

 

 全ての面接が終わり、アンナは腰掛けたまま思い切り伸びをする。

 マイルズも同様に席を立ち、背筋を伸ばす。

 

 結局20名の中から5名を選出する予定がシミュレーションマシンでの面接で合格者1名、仮合格者2名しか選出出来なかった。

 アンナとマイルズは、シミュレーションマシンを持ち出しての面接だっただけに合格者は低いと予め予測していたが、ネスティーにとっては死活問題であった。

 

「ええ……残念ながら、本来の採用数にたっしていないので、私の信頼できるツテの中から見つけます」

 

 ネスティーは自身でメンバーを見つける為、急いで片付けをし始める。

 

「アンナ艦長、マイルズ市長。本日はお忙しい中、ありがとうございます」

 

 二人に頭を下げてネスティーは、早足に部屋を後にする。

 部屋に残された二人は、お互いに顔を見合わせて苦笑いをする。

 

 ネスティーは自室へ戻る途中、知り合いに次々と連絡を入れてメンバーの候補者を探して貰うようにお願いをする。

 

「これで少しは、面接よりもマシな候補者が揃ってくれるとありがたいのだが……」

 

 期待と不安、両方の面持ちでネスティーは連絡を待つ事にした。

 

 翌日、早朝から上層部の小太りの男、ガーネフがネスティーの部屋を訪ねる。

 

「すまないな、朝早くから」

 

「いえ。それで、どのようなご用件で?」

 

「君のプロジェクト、メンバーが揃ってないみたいだね」

 

 ガーネフは、あざ笑うかのような目つきをネスティーに向ける。

 

「早朝からイヤミでも言いに来られる程、上層部は忙しいのですか?」

 

 ガーネフのあからさまな態度にネスティーは、思わず皮肉を言う。

 

「いやいや、実は君に相談があってだな……」

 

「相談?」

 

 先程の態度とは打って変わり、ガーネフはネスティーに対して下手に出る。

 

「ウチの娘が芸能活動をしているのだが、全く売れなくてね。そこで……」

 

「娘さんをメンバーに加入させてくれ……と言う事ですか?」

 

 ガーネフが自分の結論を言う前にネスティーが先に結論を言う。

 

「分かっているじゃないか、ネスティー君。どうかね? 新たに募集をするよりは手っ取り早いと思うんだが……」

 

 ガーネフは、ネスティーにゴマを擦りながら話す。

 

「……わかりました。前向きに検討します」

 

「さすが、ネスティー大尉! 君は話が分かる男だ」

 

 ガーネフはネスティーの手を取り、思わず力強く握る。

 

「それから、もう一つ……」

 

「な、何ですか?」

 

 ガーネフの話にウンザリしだしたのか、ネスティーは引きつった表情をする。

 

「実は、私の知り合いの芸能プロダクション社長の息子も……」

 

「メンバーに加入させろと言う事で、よろしいですか?」

 

 ガーネフの言いたい事を理解したネスティーは、半ばヤケクソになりながら応える。

 

「ウム、その通りだ。よろしく頼むよ」

 

「……前向きに検討します」

 

「じゃあ、ネスティー君。君の結果を大いに期待してるよ」

 

  ガーネフはネスティーの右肩を軽く何度も叩いた後、満足げな表情で部屋を後にする。

 

「まったく、人の計画をあれだけ散々バカにしていた癖に……」

 

 ネスティーは、ガーネフの手のひらを返したような態度に苛立ち、思わず頭を抱え込む。

 

(こうなったら、一刻も早くアレを完成させなければ……)

 

 思い立ったネスティーは早速、研究室に連絡を入れる。

 

『私だ、例の物は……』

 

『少しずつですが、なんとか人間体を構築しています。後は、人格をプログラムして培養し続ければ完成かと思います』

 

『わかった。これから、そちらへ向かう』

 

 通信を終えたネスティーは、支度をして研究室へと急ぐ。




次回予告

 裏で色々な物が渦巻く中、ついにネスティーの秘蔵っ子が誕生する。
 果たして、それは悪魔か天使か?

次回「デビル・オブ・エンジェル」

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