MACROSS-A.D.2048-   作:eisyama

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 戦闘訓練、レッスン、様々な苦難を乗り越えた六人の少年少女は、ついにマクロス8船団よりアイドルデビューする


第18話HEXAGRAM

 歌い終えたフェイルをアンナとマイルズは、拍手で労う。

 

「君の歌声、とても胸に響いたよ」

 

「本当に素晴らしかったわ。何て言うのかしら、歌い方は静かなのに聴いていると、段々と胸が熱くなるような感じがしました」

 

「ありがとう……ございます」

 

 フェイル本人も久しぶりに歌を歌って褒められて嬉しいのたが、どうも素直に喜びが表現出来なかった様で、少し照れながら二人に礼を言う。

 

「君の歌いたい気持ちは、よくわかった。だから、歌以外にもダンスの方も頑張ってくれ」

 

「……努力する」

 

 ネスティーに対して相変わらず、ぶっきらぼうな返答をするフェイル。

 しかし、最初の頃に比べると、多少なりとも親しみやすい雰囲気になりつつあった。

 

「……失礼します」

 

 フェイルが部屋を後にしても、残された武は未だに呆然と立ち尽くしていた。

 

「武君、いつまでそこにいるつもりだ」

 

 ネスティーの問い掛けにも武は、未だに全く動じなかった。

 

「彼、大丈夫かしら?」

 

 動かない武をアンナは、少しだけ心配する。

 

「ネスティー君の言葉が、よほどショックだったんだろうねぇ……」

 

 マイルズもアンナと同じく心配そうに武の様子を伺う。

 

「おい、しっかりしろ」

 

 全く動じない武にネスティーは、近寄って武の身体を揺さぶりながら声を掛ける。

 

「俺はできるんだ……俺はできるんだ……」

 

 武は、小声でブツブツと独り言を呟いていた。

 

「いい加減にしろ!」

 

 ネスティーは武の頬を思い切り叩く。

 

「……」

 

 ネスティーに頬を叩かれた武は、視線をゆっくりとネスティーの方へと向ける。

 

「父さんや母さんにもぶたれた事が無いのに何をするんだ!」

 

 そして、頬を叩かれた事に気が付いた武は、思わず感情的になってネスティーに食って掛かる。

 

 状況を見兼ねたアンナとマイルズは止めに入る為に立ち上がろうとするが、ネスティーは左手を二人に突き出して来るなと言う合図を見せる。

 

「そんな感じだから、ちょっと批判されたから落ち込むんだな」

 

「なんだと!」

 

「あの時、私に見せた心構えは口先だけか?」

 

「くっ……」

 

 ネスティーに詰め寄られた武は、そのまま言葉を詰まらせる。

 

「あの心構えは、女性にカッコよく見せる為のアピールか?」

 

「……」

 

 どうやら図星なのか、武の目が徐々に涙目になっていく。

 

(……何だよ、本当に図星なのか)

 

 その様子を見たネスティーは、心の中で溜め息を吐く。

 

「身体は一丁前に大人でも、中身は子供か……やれやれ、これでは先が思いやられるな」

 

 ネスティーは、大きな溜め息を吐く仕草をする。

 

「う、うるさい……」

 

「図星で涙目になるなら、少しは努力したらどうだい? アンジェイ君やフェイル君は、どちらか片方しか出来なくても、努力しようと言う心構えは見せていたぞ」

 

「……」

 

 ネスティーの話に武は、涙目ながらも下を向き考え始める。

 

「いいか、このプロジェクトは武君の力も必要だ。だからこそ、みんなで努力をして成功させたいんだ」

 

 ネスティーは武の前に歩み寄り、そのまま武の右肩に手を置く。

 

「ぼ……僕、頑張ります! だ、だから……やらせてください!」

 

 ネスティーの励ましに吹っ切れたのか、武は顔を上げる。

 その瞳は、少年の目の様にキラキラと輝いていた。

 

「なら、歌とダンスの特訓と戦闘訓練……頑張れよ」

 

「はい!」

 

 武の力強い返事を聞いたネスティーは、少しだけ笑顔を見せる。

 

「今日はもう帰りなさい。後程、詳しい日程は、こちらから連絡する」

 

「はい、ありがとうございます。では、失礼致します!」

 

 ネスティーの励ましで元気になった武は、そのまま部屋を後にする。

 

「お見苦しい所を見せて、申し訳ございません」

 

 武との会話を終えたネスティーは、二人に頭を下げて自分の無礼を謝罪する。

 

「素晴らしかったわ、ネスティー大尉」

 

「ああ、あそこまで落ち込んだ彼を立ち直らせるとは、大したものだよ」

 

 失意で呆然とする武を何だかんだ言いつつも説得して立ち直らせたネスティー。

 厳しい事を言いつつも、何気にネスティーの気遣う本心をアンナとマイルズは気付いたのだろう。

 

「……あ、ありがとうございます」

 

ネスティーは、少し照れながらも席に戻って端末を操作する。

 

「デビューは3ヶ月後を予定していますので、アンナ艦長は機体の手配とガーネットフォースへの訓練依頼をお願いします」

 

「そこは、大丈夫です」

 

「私は後日、新城夫妻とスポンサーの件で打ち合わせをします。では、本日はお忙しい中、ありがとうございます」

 

「お疲れ様」

 

「なんだかんだで楽しかったよ、お疲れ様」

 

 ネスティーは二人に一礼をした後、再び端末を操作し始める。

 

 アンナとマイルズが部屋を後にして一人になっても、ネスティーは部屋で打ち合わせ資料を作成していた。

 

(メグミは大丈夫だろうか? ちゃんと薬やスピリチアの事は教えたから大丈夫だと思うが……)

 

 資料を作成しながらもネスティーは、メグミの事を心配していた。

 

 マクロス8船団の中核を担うバトル8。

 

 マクロス8船団所属のエリート部隊ガーネットフォース隊員三人がアンナの命令で会議室へと出頭していた。

 

「先日、お願いしていましたHEXAGRAMのメンバーが決まりました」

 

 アンナがボタンを押すと、ディスプレイにメンバーが映し出される。

 

「ヒューッ! 結構、可愛い子や綺麗な子じゃないですか」

 

 少し浅黒い肌の青年は、女性メンバーを見るなりテンションを上げる。

 

「新城武って、もしかしてギャラクシーレコードの新城幸一郎の……」

 

 右目が髪で隠くれている青年は、武の映像の名字をを見て、思わず指を指す。

 

「ええ、その通りよ。ちなみにこのレナさんは、ガーネフ大佐のお嬢さんよ」

 

「ええ!? あのガーネフ大佐のですか? し……信じられん」

 

 赤いバンダナがトレードマークの青年は、レナがガーネフの娘である事を知り、驚きのあまり椅子から転げ落ちそうになる。

 

「1週間後には皆さんに辞令と訓練スケジュールを出しますので、その間に訓練の準備をしておいてください」

 

「了解」

 

「ネスティー大尉曰わく、『例え訓練でも手を抜かないで欲しい』そうです」

 

アンナは、少し笑いながら話す。

 

「戦場で歌う……か。確かマクロス7船団が、それを実践していますよね」

 

 右目を髪で隠している青年がアンナに話し掛ける。

 

「ええ、そうよ。何でも、その歌エネルギーでプロトデビルンと言う怪物を撃退してるらしいわ」

 

「は、はあ……撃退……ですか」

 

「アスタル中尉。にわかに信じられないかも知れないけど、これは事実です」

 

 右目を髪で隠している青年、アスタルはアンナの話に驚きつつも信じられない様な表情をしていた。

 

「でも戦場で歌うのって、怖くないのかなあ?」

 

 赤いバンダナの青年は、椅子にもたれながら話す。

 実際の戦場でも生きるか死ぬかの瀬戸際の状態を体験している故に、パイロットでもない民間人が歌うのは、間違いなく恐怖以外の何物でもない。

 ましてや、自分達ですら混戦状態になった時にHEXAGRAMを守り切れるかすら不安である。

 

「ボゥウェン、お前やってみたいか?」

 

 少し浅黒い肌の青年は、赤いバンダナがトレードマークの青年、ボゥウェンに問い掛ける。

 

「いやいや、俺はバルキリーに乗って歌うなら普通に歌いますよ。グレン隊長は、やりたいですか?」

 

 ボゥウェンは、苦笑いしながら少し浅黒い肌の青年、グレンに逆に問い掛ける。

 

「うーん、そうだなぁ……俺なら志願するかな。そんで女の子にモテモテになるのも悪くないなぁ~」

 

 グレンは、HEXAGRAMに加入して女の子達にモテている自分を重ね合わせてニヤニヤしながら話す。

 そんなグレンをアスタルとボゥウェンは、お互いに顔を見合わせながら苦笑いする。

 

「とりあえず、説明はこれくらいですが、何かご質問は?」

 

 アンナの問い掛けにガーネットフォース隊員は誰も手を挙げなかった。

 

「では、以上です。お疲れ様でした」

 

「お疲れ様です」

 

 アンナとガーネットフォース隊員は、互いに敬礼をしてガーネットフォースメンバーは艦長室を後にする。

 

「HEXAGRAMにしろサウンドフォースにしろ、戦争に市民まで協力を求めなきゃいけないなんて。統合軍も変わったわね」

 

 今までの資料によれば、巨人族であるゼントラーディは文化を知らない種族故に歌による音響攻撃、通称ミンメイアタックと呼ばれる方法で撃退してきた。

 しかし、マクロス7船団が遭遇したプロトデビルンには通常兵器が効かず、ましてや本当に民間人の歌の力で戦争を終わらせているのだ。

 

 それを過信した統合軍が更に悪い方向へ行かないかと言う不安で、アンナは深い溜め息を吐く。

 

 二次面接から2週間が過ぎ、ついにHEXAGRAMの訓練が始まる。

 

 訓練は訓練艦ガトウィックで行われ、メンバーはパイロットスーツに着替えて格納庫に徴収されていた。

 

 格納庫にはネスティー大尉を中心にアンナとガーネットフォース隊員。

 そして、HEXAGRAMメンバーが搭乗する機体のパイロット六名がネスティーの横に立つ。

 

「まずはHEXAGRAMメンバーへの合格おめでとう。これから先は厳しい訓練やレッスンが待っている。だが、辛い事から逃げずに、それを乗り越えた時こそ君達は、一人前になれるから心掛けて欲しい」

 

 挨拶を終えたネスティーは、マイクをアンナに渡す。

 

「メンバーの皆さん、合格おめでとうございます。ネスティー大尉のお言葉と被ってしまいますが、あなた達は数多くの中から選ばれた事を誇りに思って、厳しい訓練やレッスンを頑張ってください。私からは以上です」

 

 挨拶を手短に終えたアンナは、マイクを再びネスティーに渡す。

 

「早速だが、これより戦闘訓練を始める。各員機体に搭乗後、発進準備!」

 

 HEXAGRAMの六人は副座機VF-11D改の後部座席に搭乗し、続いて各パイロット達も機体に搭乗して出撃準備を始める。

 

 HEXAGRAM達が出撃準備に入っている間にネスティーとアンナは司令塔へ向かい、ガーネットフォース隊員も出撃準備へと入る。

 

『ヘキサ1、準備完了。いつでも出撃可能です』

 

『ヘキサ2、同じく準備完了です』

 

 各パイロット達から出撃準備完了の通信が司令塔に入る。

 

『全機出撃!』

 

 ネスティーの掛け声と共にバルキリーは次々と出撃する。

 HEXAGRAMメンバーは、初めての戦闘機の乗り心地とGの体験に不安な面持ちを見せる。

 

 ガーネットフォースのVF-19は、先に格納庫から出撃して機体をバトロイドに変形させて、HEXAGRAMの搭乗機であるVF-11D改が到着するのを待ち構える。

 

『G1から各機へ、訓練だからって手加減無用だ。ただし、可愛い子ちゃんには手加減しろ。以上だ』

 

 グレンの通信内容にアスタルとボゥウェンは苦笑いする。

 

 やがて6機のVF-11D改が到着を確認すると同時にガーネットフォースは攻撃を開始する。

 ガーネットフォースの攻撃に6機のVF-11D改は、次々とバトロイドに変形して応戦し始める。

 

「キャアアアアア!」

 

「うわあぁぁぁぁ! と、父さん、母さぁぁぁぁん!」

 

 レナと武が恐怖のあまり悲鳴を上げる。

 

「こんな事で悲鳴を上げるな!」

 

「訓練如きで男のクセに怖がるな!」

 

 レナと武の搭乗機パイロット達は、二人の悲鳴を聞いて怒鳴り散らす。

 

『G1から各機へ、これよりミサイルによる模擬戦闘に入る』

 

『了解!』

 

 ガーネットフォースの3機は、模擬ミサイル弾を次々とHEXAGRAMの機体へ撃ち込む。

 迫り来るミサイルをHEXAGRAMの機体は、ガンポッドで撃ち落としたり、避けたりするが、模擬ミサイルの1発が武の搭乗機に命中し、武は更に悲鳴を上げる。

 

「も、もうイヤだあぁぁぁ! やめてくれえぇぇぇぇ!」

 

 あまりの恐怖感からか、武は涙声で訴える。

 

「……あの二人、大丈夫か?」

 

 司令塔内のモニターでレナと武の様子を見ていたネスティーは、あまりの酷さに呆れかえっていた。

 

 一方のフェイルとアンジェイは、それほど動じている様子は無く、弥生とメグミに至っては、まるで絶叫マシーンを楽しむかのようにはしゃいでいた。

 

 約3時間の訓練を終えて、ガーネットフォースとHEXAGRAMはガトウィックへ帰投する。

 

 レナと武は、恐怖感からかコクピットからなかなか出る事が出来ず、パイロット達の手助けで引きずり出される感じでコクピットから出てくる。

 

「レナ、それと武。あれだけ親の前で見栄を張った割には、この程度なんだな」

 

 ネスティーは嫌味ったらしくレナと武に話し掛ける。

 

「し、仕方な、ないでしょ……は、初めて、な、なんだから!」

 

 レナは身体を震わせつつ、時々噛みながらネスティーに訴える。

 武の方は完全に意気消沈し、目も虚ろになっていた。

 

 レナと武の様子を見たネスティーは、深い溜め息を吐く。

 

「よし、今から30分間の休憩。その後、基礎体力訓練だ」

 

 ネスティーの指示でレナと武以外のメンバーは、格納庫を後にして休憩に入る。

 休憩時間になってもレナと武は、その場を動こうとしなかった。

 

「ネスティー大尉、レナさんと武さんは大丈夫でしょうか?」

 

 訓練の様子を見ていたアンナが二人を心配する。

 

「最初にあの二人にも意志の確認はしましたし、時間があまり無いので、例えどんな事があろうとやり遂げさせます」

 

 心配するアンナをよそにネスティーは、プロジェクトの事の方が重要だった。

 

 休憩時間も終わり、六人は基礎訓練室に集まる。

 相変わらずレナと武の表情は冴えない感じだった。

 

「次は基礎体力訓練だ。あそこにあるベルトコンベアの上を20分間走ってもらう」

 

 ネスティーが指差す方向には、大型のベルトコンベアが置かれている。

 

「アイドルグループなのに何でそんな事をする必要があるのよ!」

 

 ネスティーの指示に不満があるのかレナが食ってかかる。

 

「君らはアイドルグループでもあり、パイロットでもあるんだ。基礎体力が無ければ話しならないだろう。レナは芸能活動していた時にやらなかったのかい?」

 

「そんなのやる訳ないでしょ!」

 

(……とことん親のコネで芸能界にいたんだな)

 

 レナの返答にネスティーは、内心頭を痛める。

 恐らく芸能界に入っても殆どは、ガーネフの娘であるが故にレッスン等はやっていない事は容易に想像が出来ていた。

 

「つべこべ言わずにやるんだ!」

 

 ネスティーの叱咤にレナはネスティーを睨みつつも渋々命令に従う。

 

「全員、訓練開始!」

 

 ネスティーの命令で六人は、全員ベルトコンベアの上に移動する。

 

 六人全員がベルトコンベアの上に乗ったのを確認したネスティーは、ベルトコンベアのスイッチを入れるようにスタッフに手で合図する。

 

 やがてベルトコンベアは動き出し、全員ベルトコンベアの上を走り出す。

 

 開始3分くらいの速度は緩やかなので、特に誰も息が上がる者はいなかった。

 

 しかし、4分後……

 

「きゃああああああ!」

 

 レナが足をもつれさせて転び、ベルトコンベアに流されていく。

 

「もう、何なのよ!」

 

 ベルトコンベアに流し落とされたレナは、八つ当たりに叫びながらジタバタする。

 

「早く戻りなさい!」

 

 ネスティーは、八つ当たりをするレナに駆け寄る。

 

「もうイヤ! 私、もう帰る!」

 

 レナは立ち上がり、そのまま帰ろうとする。

 

「待ちなさい!」

 

 そんなレナをネスティーは、肩を掴んで止める。

 

「離してよ、パパに言いつけるわよ!」

 

「ふぅ……君といい、武といい……親のコネを使うとワガママになったり天狗になったりするのは本当だな」

 

「なんですって!」

 

「あの時のガーネフ大佐の反対を押し切って加入した意気込みは、あれは嘘だったのか?」

 

「!?」

 

 ネスティーの言葉にレナは顔を背ける。

 

「やっぱり嘘だったか……あれか、パパの手前で意地を張っていたただけか?」

 

「……」

 

 ネスティーの挑発的な問い掛けにレナは黙り込む。

 

「……わかったわよ。やればいいんでしょ?」

 

 レナは振り向いて、そのままネスティーを睨みつける。

 

「ああ、そうだ」

 

「見てなさい。いつか私の実力を見せて、目の前で土下座させてやるわ!」

 

「ああ。楽しみにしているよ」

 

 ネスティーに挑発されてやる気を出したレナは、そのまま訓練へと戻っていく。

 

(そう、それでいいんだ)

 

 必死に特訓に食らいつくレナを見たネスティーは、口元を緩ませる。

 

長い訓練が終わり、メグミを除く五人は全員ヘトヘトになっていた。

 

「ねえ。君、メグミちゃんだっけ? あれだけ厳しい訓練だったのに平気なの?」

 

 全く疲れる様子を見せないメグミに思わずアンジェイが問い掛ける。

 

「はい。私、まだ頑張れます!」

 

 アンジェイの問い掛けにメグミは、ガッツポーズを見せる。

 

「女の子なのに凄いなぁ……」

 

 自分よりも小柄な少女が頑張っている姿にアンジェイは、感心しつつも内心は自分の体力の無さを悔やんでいた。

 

「みんな、お疲れ様。明日も今日と同じく8時にガトウィック格納庫に集合だ。では、解散!」

 

 ネスティーの解散命令を聞いたメンバーは、フラフラと更衣室へ戻る。

 

「ネスティー大尉、お疲れ様」

 

 1日の訓練課程を終えたネスティーをアンナは労う。

 

「アンナ艦長も貴重なお時間を割いて訓練をご覧頂き、ありがとうございます」

 

「皆さん、かなりお疲れでしたね」

 

「初日は、そんなものですよ。訓練を重ねれば、みんな段々と慣れてきますよ」

 

「だと良いんですけど……」

 

 ヘトヘトになって戻っていくメンバーを思い出したアンナは、メンバーの体調やメンタル部分を気遣う。

 

「では、私はデータ分析をしますので……」

 

「遅くまでお疲れ様です」

 

 アンナと別れたネスティーは、そのまま自室へと戻る。

 

 部屋に帰ると、先に帰っていたメグミがFIRE BOMBERの曲を聴いて自らスピリチアを放出して吸収していた。

 

「ただいま」

 

「お帰りなさい」

 

 ネスティーの帰宅に気付いたメグミは、とびきりの笑顔を見せる。

 純真無垢なメグミの笑顔にネスティーは、どことなく癒された気分になっていた。

 

「メグミ、身体は大丈夫か?」

 

「はい、大丈夫です。今日の訓練は楽しかったですよ」

 

「楽しかった……か」

 

 まるで訓練を遊びの一つとして思うメグミに対して、ネスティーは少し笑みを浮かべる。

 

「これから色々と大変だろうけど頑張りなよ。それから薬も飲み忘れないように」

 

「はい!」

 

(この様子なら大丈夫そうだな)

 

 メグミの素直な返事に安心したネスティーは、部屋でデータ分析を夜通しで行っていた。

 

 次の日も、また次の日も訓練は続く。

 

 当初は悲鳴を上げていたレナと武も段々と慣れてきたのか、悲鳴を上げる回数が徐々に減ってきていた。

 

「二人とも何とか様になってきたか」

 

 モニターでデータを確認したネスティーは、少しだけ満足そうな表情をする。

 

 訓練を続けて3週間が過ぎたある日。

 いつも通りに戦闘訓練を終えた六人は、格納庫に集合する。

 

「今日から歌とダンスのレッスンを追加する。その歌とダンスを指導する先生を紹介しよう」

 

 ネスティーに紹介され、二人の女性が前に出る。

 

「こちらが歌のレッスン担当のセレナ」

 

「よろしくお願いします」

 

 ロングヘアーを緩く束ね、落ち着いた表情の女性セレナが挨拶をする。

 

「もう一人がダンスレッスン担当のローザだ」

 

「よろしく!」

 

 ショートカットにボーイッシュで若干勇ましい感じの女性ローザは、右親指を前に突き出して挨拶する。

 

「二人の実力は折り紙付きだ。彼女達の指導を真面目に受ければ、間違いなく実力が付くはずだ」

 

 元々二人は、武の父親である新城が息子達の為を思う親心で派遣している。

 もちろんネスティーは、その事については敢えて説明はしていない。

 この事を説明してしまえば、メンバー達が武に対しての不満を漏らすだろうし、何より武がレッスンの手を緩めるのは間違いないと睨んでいた。

 

「それと、これから渡す紙が君達のデビュー曲だ」

 

 ネスティーは、六人に順番に用紙を渡す。

 

「Shooting Star……流星か」

 

 貰った用紙を見てフェイルが呟く。

 

「そうだ。君達の歌声を流星の如く聴いている者に降らせて、心を動かして欲しい。作詞作曲はセレナが担当している」

 

 六人は、ネスティーの話を聞きながら貰った用紙を閲覧する。

 

「今から5分休憩に入る。休憩後は全員、体育館に集合だ」

 

 ネスティーの指示で六人は、それぞれ休憩に入る。

 

 休憩を終えた六人は、ガトウィック内の体育館に集まる。

 

「これから歌のレッスンを行いますが、まずはデビュー曲を全体を通して聴いてください」

 

 セレナは、ラジカセのスイッチを入れて曲を流す。

 全体的にアップテンポな曲調であり、途中のサビでバラード調を織り交ぜた感じの曲だった。

 

 曲を聴いてメンバーは、それぞれの反応を示す。

 

 フェイルとレナは曲を聴きながら、歌詞を見ながら口ずさんでいる。

 

 弥生とアンジェイは、目を閉じて曲を聴きながらテンポに合わせて首を上下に小刻みに振る。

 

 メグミは目を輝かせながら曲に聴き惚れ、その隣で武は、少しかったるそうな表情をしながら曲を聴いていた。

 

 曲を聴き終えた後、早速レッスンが始まる。

 軽いストレッチから始まり、腹式呼吸や発声練習等の基本的な部分のレッスンを六人は行う。

 

 ここでもメンバーは、色々な反応を見せていた。

 

 フェイルは、元々バンドをしていた為、基本的な部分は難なくこなしていた。

 

 レナもフェイル程ではないが、フェイルに負けじとレッスンをこなしている。

 

 弥生は、腹式呼吸も発声練習もそつなくこなしていた。

 

 アンジェイは、腹式呼吸は出来ているが、発声自体がただ怒鳴っているだけとセレナに注意されている。

 

 メグミは、両方の練習をほぼ完璧にこなしてた。

 

 一方の武は、どちらも中途半端な感じである。

 

「はい、今日のレッスンは終了です。休憩を挟んで次はダンスレッスンです」

 

 レッスン終了後、ネスティーはセレナに話し掛ける。

 

「いかがですか、彼等は」

 

「そうですね……皆さん、それぞれ良かったのですが、アンジェイさんと新城さんは発声練習はまだダメですね。特に新城さんは、喉から声を出している感じですね」

 

「……そうですか」

 

 セレナからレッスンの感想を聞いたネスティーは、予想通りの不安が的中させていた。

 

 同じ親のコネがあるレナは、歌もダンスも面接ではそれなりの成果を見せたが、武は歌は所々で音を外し、ダンスは結局見る事が出来ないままだったからだ。

 

「彼が一番のネックか……」

 

 一番のネックである武をどうするか、ネスティーは頭を悩ませる。

 

「すまないが、彼を徹底的に鍛えてもらえないだろうか」

 

「わかりました」

 

 ふと武の方を見ると、武は気だるそうな表情をしながら大きな欠伸をしていた。

 その態度にネスティーは、深い溜め息を吐く。

 

 休憩が終わり、ダンスレッスンが始まる。

 

 ストレッチから始まり、流れる音楽のリズムに合わせて肩や膝を動かす等の基本的な部分から行っていく。

 

 ダンスが苦手と公言していたフェイルは、時々テンポが遅れたりしながらも必死にリズムに合わせて動作をする。

 

 一方の武は、リズムに合わせて動作が出来ず、途中から周りに合わせて適当に動作をし始めていた。

 その武の様子をネスティーは、見逃さずに見ていた。

 

 やがて本日の訓練とレッスンが終了し、メンバーは更衣室へと向かう。

 

「武、待ちなさい」

 

 更衣室へ行こうとする武をネスティーが止める。

 

「何ですか? これから父さん達と食事に行く約束があるんですけど」

 

「父さんと食事……か。ふーん、いい気なものだね」

 

「どういう意味です?」

 

 ネスティーの態度に武は、ムッとした表情を露わにする。

 

「今日の歌とダンスのレッスンを見させてもらったけど、君はやる気はあるの?」

 

「ありますけど」

 

「へえ……その割には、発声練習は、ただ怒鳴っているだけだったし、ダンスレッスンの時は適当に動いていたよね」

 

「!? そ、そんな訳ないですよ」

 

 ネスティーに手を抜いていたのを見透かされて、武は動揺する。

 

(わかりやすい表情だ)

 

 動揺する武を見て、ネスティーは苦笑いする。

 

「私が全く見てないと思ったら大間違いだから、そこは覚えておきなさい」

 

「わ、わかりました」

 

 ネスティーに釘を刺され、武は怯えた表情で更衣室へと一目散に走る。

 

「……ふう。あの様子じゃ、まだまだ先が思いやられるな」

 

 ネスティーは、溜め息を吐きながら武を見送る。

 

 そして、2日後。

 六人は、いつも通りにガトウィックの格納庫に集合する。

 

「本日より戦闘訓練の内容を変更する」

 

「変更?」

 

 ネスティーの突然の訓練内容の変更に六人は、お互いに顔を見合わせる。

 

「機体に搭載されたサウンドブースターを使用する為、戦闘訓練中に歌ってもらう」

 

「あのブースターって、何か意味があるんですか?」

 

 アンジェイがサウンドブースターに関してネスティーに質問する。

 

「あれは、君達の歌をエネルギーに変換する為の装置だ」

 

「そのエネルギーで、何が出来るんですか?」

 

 アンジェイに続いて弥生が質問をする。

 

「そのエネルギーは、歌の感情として相手の心に直に訴えかける事が出来る。分かり易く言えば、直に歌を聴かなくてもその歌エネルギーを浴びる事で、歌の感情を直に感じ取る事が出来ると言う事だ」

 

「う、うーん……歌の感情を直に感じる事が出来る? 何かイマイチよく分からないなぁ……」

 

 ネスティーの説明を聞いた弥生は、説明の内容が理解出来ずに頭の中が混乱していた。

 もちろん弥生だけでなく、他の五人もネスティーの説明を理解している者は、一人もいなかった。

 

「準備が出来次第、全員出撃」

 

 ネスティーの命令を受けて、六人は機体に搭乗して次々と出撃を開始する。

 

 HEXAGRAMの搭乗するVF-11D改は出撃後、機体をバトロイドへと変形させる。

 

「全機、サウンドブースター展開」

 

 6機のVF-11D改がバトロイド形態に変形が完了したのをモニターで確認したネスティーは、サウンドブースター展開の指示を出し、VF-11D改の機体背部に装備されたサウンドブースター先端部分が展開する。

 

 それと同時にBGMが流れ始め、HEXAGRAMは歌い出す。

 

―果てしない空に 輝くShooting Star……

 

 HEXAGRAM達が歌い始めて、しばらくするとメグミとフェイルの搭乗機から歌エネルギーのオーラが放出される。

 

 青白い光を放ち、その光は少しずつ大きく膨れ上がっていく。

 

「凄い……」

 

 歌エネルギーを初めて見るスタッフ達はモニターで確認して、その輝きと圧倒的な大きさに思わず息を飲む。

 

「やりましたね、ネスティー大尉」

 

「いや、ダメだ。全員の歌エネルギーを放出しなければ意味が無い」

 

 スタッフ達が歌エネルギーに一喜一憂する中、ネスティーだけ表情を変えずにモニター越しに歌エネルギーを放出しない機体を見続けていた。

 

 しばらくして、メグミとフェイルに続き、レナ搭乗機も歌エネルギーを放出し始める。

 それでもネスティーの表情は、微動だにしなかった。

 

「おはようございます。遅れてごめんなさ……」

 

 訓練開始から少し遅れてアンナが司令塔へ入る。

 そして、眩く輝く歌エネルギーを見たアンナは、少しだけその光に見惚れていた。

 

「……あれが、その歌エネルギーですか?」

 

 歌エネルギーを初めて見たアンナは、放出されている光に指を指してネスティーに質問する。

 

「そうです。5万チバソングを越えると、サウンドブースターから歌エネルギーが放出されます」

 

「チバソング?」

 

 アンナは、初めて聞く言葉に疑問を感じる。

 

「あの歌エネルギーは、マクロス7船団の軍医であるDr千葉が発見したと言われています。その歌エネルギーを測定する単位がチバソングだそうです」

 

「そうですか……でも、チバソングだなんて何だか変な測定単位ですね」

 

「それに関しては、私もそう思います」

 

 アンナのチバソングと言う単位に対しての否定的な意見にネスティーも即答で応える。

 

 訓練から30分が経過して何度もHEXAGRAMが歌い直す中、やっと弥生の搭乗機も歌エネルギーが放出され始めた。

 

「やはり、個人個人の歌への感情が足りないからなのか……」

 

 すぐに歌エネルギーを放出しないメンバーや全く歌エネルギーを放出しないメンバーを見たネスティーは、苛立ちを覚える。

 

 約1時間の戦闘訓練を終えて、六人はネスティーの元に集合する。

 

 最終的にアンジェイと武だけが最後まで歌エネルギーを放出する事も無く訓練は終了した。

 結果に満足出来なかったネスティーは苛立ちが隠せず、その不満そうな表情は、HEXAGRAMやスタッフ達にも伝わってきていた。

 

「先程の訓練を見て色々と思ったが、君達は歌う時に感情を込めているか?」

 

「感情って言われても……」

 

「なあ」

 

 ネスティーの問い掛けに対して六人は疑問を持ち、お互いに顔を見合わせる。

 

「歌エネルギーは、HEXAGRAM個人個人の歌の感情が高まった時点でサウンドブースターから発生する仕組みだ。メグミとフェイルは歌い始めてから発動に1分。他の者は5分以上掛かっている」

 

「そんな事を言われなくても、私達は真剣に歌ってるよ!」

 

 ネスティーの言葉に不満を持ったのか、弥生が強く反論する。

 

「弥生の言う通りに真剣に歌うのは、もちろん必要だ。だが、それ以外にも歌う時にもっと感情も込めて歌って欲しい」

 

「感情も込めてって……言うのは簡単だけど、いきなりは無理よ!」

 

「そうですよ、ネスティー大尉」

 

 ネスティーからのお願いにレナとアンジェイは、ただ困惑するだけだった。

 

 二人の言う事も正論ではある。

 しかし、敵は歌エネルギーが出るのを待ってくれないのも事実である。

 

「とにかく、歌への情熱を持ってみるんだ。そうすれば、何かが変わるかも知れない」

 

 メグミを除く五人は、ネスティーの言葉に不信感を持ち始める。

 このまま戦場で歌う事に本当に意味があるのかと。

 

 その日からボイストレーニングを重点的に行い、夜遅くまで残っての特訓が始まった。

 

 ネスティーも共に残ってメンバーやスタッフに差し入れをしたり、挫折しそうなメンバーには、激励をして励ます等のメンタル面のサポートを行う。

 それは、少しでも歌エネルギーを完全な物に近付けたいと言うネスティーの思いでもあった。

 その様子を見ていたメグミも自ら積極的にネスティーのサポートをしたり、メンバーを元気付けていた。

 そんなメグミの頑張りにネスティー自身も感謝をしていた。

 

 居残り特訓を始めて5日後、ついにその成果が見え始める。

 

 なかなか歌エネルギーを放出しなかった武やアンディも放出をし始め、当初に比べて全員の歌エネルギーの放出までの時間がおおよそ3分まで短くなった。

 

 この様子を見て、徹夜続きで寝不足状態のネスティーは一気に目が覚める。

 

「ついに……ついにやったか!」

 

 6機のVF-11D改は、皆それぞれの歌エネルギーを放出していた。

 六人は放出されるお互いの歌エネルギーを見て確認しあう。

 

「皆、よくやったな」

 

 珍しくネスティーが笑顔で六人を迎える。

 普段、あまり見せないネスティーの笑顔にフェイルを除く五人は、お互いに顔を見合わせて笑顔を見せる。

 

 最初のうちはメグミ以外のメンバー全員が疑心感を持っていたが、ネスティーの献身的なサポートを受けていくうちに徐々にその疑心感は解消されていった。

 だからこそ、今の五人はネスティーの笑顔も受け入れられているのだろう。

 

「だが、まだこれは始まったばかりだ。明日からは模擬戦でも歌って、歌エネルギーを出してもらうからな」

 

 先程まで笑顔を見せていたネスティーは、再びいつものクールな表情に戻す。

 

「ええぇぇぇ! せっかく歌エネルギーも出せるようになったばかりなのに、それは勘弁して欲しいなぁ」

 

 ネスティーからの忠告に弥生は、嫌そうな表情をする。

 

「弥生、あまり時間が無いんだ。我慢してくれ」

 

「ぶー、わかったわよ」

 

 弥生は少し口を尖らせる。

 

 本来はサウンドブースターを使用して全員が歌エネルギーを出すのを3日以内にする予定だったのが、実際には5日も掛かってしまっている。

 このペースのままでは、HEXAGRAMのデビューに間に合わなくなり、HEXAGRAMや自身の信頼関係に大きく響いてしまう為、それだけは避けなくてはならないのだ。

 

 HEXAGRAM結成から2ヶ月が過ぎ、厳しい訓練やレッスンを経て、ついにデビューシングルのレコーディングが始まる。

 レコーディングは武の父が経営するギャラクシーレコードの貸しスタジオで行われる。

 

 HEXAGRAMメンバーも待ち望んでいたレコーディングに期待に胸を膨らませていた。

 

「紹介する。彼が君達のマネージャーになるファニー鈴木さんだ」

 

「ファニーって呼んで良いわよ」

 

 ネスティーに紹介された男は、細身でナヨナヨした身体とワカメのような髪。

 そして、独特のオネエ言葉が特徴だった。

 

 そんなファニーを見て、メグミと武以外はドン引きしていた。

 

「まあ……彼の姿は置いといて、マネージメントは目を見張る物があるから、ちゃんと言う事を聞くように」

 

 ネスティーも彼に対しての対応の仕方が分からないらしく、とりあえずマネージメント部分を推していた。

 

「あ~ら、武ちゃん。久しぶりね」

 

 メンバーの中から武の姿を見たファニーは、懐かしさからか声を掛ける。

 

「お久しぶりです、ファニーさん」

 

「あーたの姿を全然見ないから、アタシてっきり引退したかと思っちゃったわよ」

 

「いえいえ。また、よろしくお願いします」

 

 ファニーの皮肉めいた言葉にも武は、全く動じる事無く挨拶をする。

 

 メグミはファニーが珍しく見えたのか、ファニーの周りをキョロキョロと見つめていた。

 

「ちょっと、何よ……あーた。アタシの事をそんなにジロジロと見ちゃって」

 

 自分をキョロキョロと見回すメグミをファニーは不審に思い話し掛ける。

 

「ファニーさんは、どうしてそんな話し方をするんですか?」

 

 何も知らないメグミは、ファニーの話し方が珍しく思っているようだ。

 

「まったく、失礼な子ね。フン、アタシは女とガキは嫌いだから答えてやんない」

 

 メグミの質問に対してファニーは、素っ気ない対応をする。

 

「……ひどい。そんな言い方しなくてもいいのに……ひどいです」

 

 ファニーの素っ気ない対応にメグミは、思わず涙目になる。

 

「ちょ、ちょっと、アンタ泣かないでよ。いい、この話し方になったのは、アタシも色々とあったのよ。わかった?」

 

 涙目になるメグミを見たファニーは、焦りだしてメグミを宥める様に質問に応える。

 

「はい……ありがとうございます、ファニーさん」

 

 涙目になりながらもメグミは、ファニーに礼を言う。

 

「まったく……あの娘といると、こっちまで調子狂っちゃうわ」

 

 ファニーは、溜め息を吐きながら音響室に入る。

 

 レコーディングスタジオには、ネスティーの他にも新城夫妻やガーネフ大佐も姿を見せていた。

 

「ネスティー大尉。ウチの息子は、頑張っていますか?」

 

「ええ。武君は、最初の頃に比べてかなり良くなっています」

 

 当初は戦闘訓練で悲鳴を上げたり、レッスンでは途中で手を抜いたりしていた武も、この2ヶ月で悲鳴を上げなくなり、レッスンも夜遅くまで行ったお陰で音外しも徐々に減ってきていた。

 

「ただ……」

 

「ただ?」

 

「その、ダンスがまだ……」

 

 ネスティーは、苦笑いしながら応える。

 

 歌声や声量に関しては、レッスンの積み重ねにより周りと同等にはなってきていたが、ダンスは下手をするとオーディションで自身でダンスが苦手だと告白したフェイルよりも劣っていた。

 

「そうか……よくよく考えると、私が甘やかしすぎたのも原因の一つかも知れんな」

 

 自ら息子を芸能界に入れて特に厳しく指導せずに好きな様にやらせていた事を幸一郎は、心の底から深く反省する。

 しかし、ネスティーのお陰で自分から取り組もうとする武の姿の話を聞いて心から感謝はしていた。

 

「なあ、ネスティー君。ウチの娘はどうかね?」

 

 どうやらガーネフも娘の事が気になるようだった。

 

「レナさんは元々の素質が高いのか、かなり良い線まで来てますね」

 

「そうだろそうだろ。ワシの娘だからな」

 

 ネスティーの誉め言葉にガーネフは、自慢げな笑みを浮かべる。

 

「ただ……」

 

「ただ?」

 

「あのワガママな性格、本当に何とかなりませんか?」

 

 ネスティーは、溜め息を吐きながらガーネフにお願いする。

 

 レナ自身はフェイルと同等の歌唱力を持ち、かつクラシックバレエの経験のお陰で新しいダンスの飲み込みも早く、HEXAGRAMメンバーの中で一番実力があるとネスティーも思う程だ。

 

しかし、何かにつけて反発してなかなか言う事を聞かない為、ネスティー自身も手を焼いている。

 

「いやあ、あれはワシも手を焼いているんだよ。ネスティー君の方で何とかしてくれんか?」

 

 ネスティーのお願いに対してガーネフは、頭を掻きながら苦笑いして逆にネスティーにお願いをする。

 そんなガーネフを見たネスティーは、思わず呆れ顔をしていた。

 

 何だかんだ言いつつもレコーディングも無事に終了し、メンバーも胸を撫で下ろす。

 

 デビューまで1ヶ月を切り、メンバーは訓練やレッスンにネスティーはファニーを連れてのスポンサー各位への挨拶まわりに大忙しだった。

 

 そして、迎えたデビュー当日。

 シティ8市役所内の大講堂で記者会見を兼ねたパーティーが開催される。

 

 艦長であるアンナや市長のマイルズを始め、各音楽業界関係者やマスコミ関係者も一同に集まる中、ネスティーがステージへと上がり挨拶をする。

 

「本日はお忙しい中、HEXAGRAMのデビュー記者会見にお集まり頂き、誠にありがとうございます。このメンバーは芸能活動以外にも戦闘中に歌い、外的生物への精神的な効果を訴えかける活動も行います。この活動に関しては色々と非難はあるかも知れませんが、どうか温かい目でお見守りくださいますよう、よろしくお願いします」

 

 周りから盛大な拍手を受けて、ネスティーは一礼する。

 

 自身で企画を立ち上げてデビューまでの約3年近く。

 当初は上層部から反対意見がある中、艦長であるアンナだけが認めてくれた喜び。

 そして、オーディションを踏まえて結成されたHEXAGRAM。

 自身で造り上げた人工生命体であるメグミを除くと、色々と個性が強すぎるメンバーだったが、それでもネスティーは色々とメンバーのサポートをして、ここまで築き上げたのだ。

 それ故に胸に込み上げる感情もひとしおだった。

 

「では、HEXAGRAMに歌っていただきます。タイトルはShooting Starです」

 

 ネスティーの紹介を受けてHEXAGRAMは、ステージに登場する。

 それぞれが華やかな衣装を身に纏い歌い始める。

 

「これは、まだ始まりに過ぎない。これからだ……」

 

 その様子を見てネスティーは、ポツリと呟いていた。

 

 AD2048年7月7日。

 七夕当日、HEXAGRAMはデビュー曲のタイトル通りにデビューを果たす。




次回予告

 宛もなく宇宙を漂流するタクヤとエスター。
 そんな彼等の前に現れたのは……

次回「ニュー・ホーム」
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