MACROSS-A.D.2048-   作:eisyama

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 仲間を失い、新たにマクロス8船団に配属となったタクヤとエスター。
 彼らの配属先で思わぬ人物に出逢う





第20話ボーイズ・ミーツ・ガール

「ミランさん……みんな」

 

 ミランのトレードマークでもある帽子は、多少焼け焦げてはいたが、運よく原形を留めていた。

 

「……俺は……俺は、みんなを殺した、あのゼントラーディが許せねぇ! 今度会ったら絶対にぶっ殺してやる!」

 

 タクヤは仲間を殺したゼントラーディ人、グランツに対して怒りを露わにし、肩を震わせていた。

 

「……」

 

 その様子を見ていたエスターは、居たたまれない気持ちになり、何も声が掛けられなかった。

 

 ミランの帽子を形見に二人は、惑星ローグを後にする。

 二人は後ろを振り返りつつ、ブラックバルチャー基地の残骸を見えなくなるまで見続けていた。

 

 ポイントアルファ付近ならびに惑星ローグを哨戒調査を行った結果、特に異常が確認されなかった為、ナギサを含む四隻のフリーゲート艦はマクロス8船団へと帰還する。

 

 その帰路の中、タクヤとエスターは待機室の中で仲間の死を受け止めて、お互いに黙り込んでいた。

 

 マクロス8船団へ戻った二人は、艦長室へと案内されてアンナにポイントアルファの状況報告をする。

 

「そうですか……」

 

 二人の報告を受けてアンナは、やり場の無い悲しみを感じていた。

 実際に共に戦った仲間達を失った二人は、ただ悲しみの表情に満ちている。

 

「……これが、唯一の形見です」

 

 タクヤは、基地の残骸から見つけたボロボロのミランの帽子をアンナに見せる。

 

「……大切な仲間を亡くして辛いでしょうけど、早く元気になってくれる事を願っています……ありきたりな言葉しか掛けて上げられなくて、本当にごめんなさい」

 

「いえ。お心遣い、ありがとうございます」

 

 彼女なりの心遣いにエスターは、こぼれ落ちそうな涙を堪えてアンナにお礼を言う。

 

「艦長、もしよかったら……ブラックバルチャー隊のみんなの墓を建てたいんですけど」

 

 タクヤはブラックバルチャー隊メンバーの事を思い、安らかに眠れる場所の提供を艦長にお願いする。

 

「わかりました。その件については、私の方から手配しておきます」

 

「ありがとうございます」

 

「今日は色々とお疲れになられたでしょうし、シティ8内の統合軍施設に部屋を用意しておきます。ゆっくりと休んで疲れを癒してください」

 

「ありがとうございます」

 

 アンナの心遣いに二人は敬礼する。

 

『アンナです。統合軍施設に二名分の部屋を用意してください。それから迎えの車も』

 

 アンナは係員に通信を入れて、部屋と送迎の手配をする。

 

 連絡を入れてからしばらくして、係員が艦長室にやって来たので、二人は艦長室を後にして、そのまま係員の後を着いていく。

 

「こちらのお車にお乗りください。施設までご案内致します」

 

 二人は係員の案内で車に乗り、シティ8内の統合軍施設へと向かう。

 

 道中、市民達が平和に暮らす街並みが二人には新鮮に見えていた。

 

 タクヤ達が配属していたブラックバルチャー隊基地のあった惑星ローグには、街もなく、いつも訓練や任務が日常であり、たまの休日が自室でのんびり過ごすくらいだったからだ。

 

「どうですか? シティ8は」

 

 車を運転しながら係員が二人にシティ8の街並みの感想を聞く。

 

「いやあ、俺達のいた惑星ローグに比べたら雲泥の差ですよ」

 

 先程の悲しみの表情から一転、タクヤはいつも通りの明るい表情に戻っていた。

 

「そんなに酷かったんですか?」

 

 あまりに酷い生活環境を知らない係員は、思わずタクヤに聞き返す。

 

「そりゃあ酷いもんですよ。空は紫色だし、周りに街なんて全く無くて、あるとしたら木ばっかりだったしね。それからさあ……」

 

 タクヤは惑星ローグの不満を係員に色々とぶちまける。

 

 不満のぶちまけ過ぎなのか、係員は若干引き気味で苦笑いしていた。

 

 エスターも係員同様に苦笑いしていたが、いつもの調子に戻っていたタクヤを見て安心していた。

 

 しばらくすると、大きな統合軍マークが描かれた建物が見えてくる。

 

 統合軍マークの描かれた建物の入り口前で車は止まる。

 

「到着しました」

 

 係員は運転席付近のボタンを押して、後部座席のドアを開ける。

 自動で後部座席のドアが開くのを確認した二人は、車から降りて建物を見渡す。

 

「はえー、でっけえなぁ……」

 

「う、うん」

 

「俺達のいたブラックバルチャー基地よりも大きいよなあ」

 

「かなり大きいよね」

 

 統合軍施設の大きさに二人は、思わず圧倒する。

 二人が配属していたブラックバルチャー隊基地の5倍以上の大きさである為、驚くのは無理も無かった。

 

「俺達、これからここに住むんだよな」

 

「うん」

 

「中を御案内します。こちらへ」

 

 係員に案内されて二人は、施設内へと入る。

 

 施設内はブラックバルチャー基地と違い、明るく綺麗で二人は物珍しそうに辺りを見渡す。

 

「鍵を貰ってきますので、しばしお待ちください」

 

 係員がフロントからカードキーを貰いに行っている間も二人は、施設内を物珍しそうに見ていた。

 

「お待たせしました。こちらです」

 

 フロントでカードキーを受け取った係員に案内されて二人は、係員と共にエレベーターに乗り込む。

 エレベーターは3階で止まり、再び係員の後を二人は着いていく。

 

「こちらです」

 

 係員は部屋の前に立ち、カードキーでドアの鍵を開ける。

 

「どうぞ、お入りください」

 

 ドアが開き、タクヤを先頭に続いてエスターが部屋に入る。

 

「おお、結構綺麗じゃん!」

 

「本当だね」

 

 ブラックバルチャー基地に比べて部屋からはカビ臭い匂いは無く、部屋も適度に広くて明るかった。

 

「こちらと隣りがお二方のお部屋になりますので、ご自由にお使いください。こちらがそれぞれの部屋のカードキーになります」

 

「ありがとうございます」

 

 エスターは、係員から部屋のカードキーを受け取る。

 

「では、明日の午前9時に再びお迎えに上がりますので、よろしくお願いします」

 

 係員は二人に明日の予定を告げて、そのまま部屋を後にする。

 

「うっひょーっ! こりゃいいや! 俺、この部屋にしようっと」

 

 タクヤは、部屋に備え付けのベッドにダイビングして跳ねて遊ぶ。

 

 子供の様にはしゃぐタクヤを見たエスターは、少しだけ悲しい思いが癒された気分になり、いつまでも仲間を失った悲しみで落ち込まずにタクヤを見習おうとも思っていた。

 

「なあなあ、せっかくシティ8に来たんだしさ、街の中を見てみようぜ」

 

「そうだね、気分転換も必要だよね」

 

「じゃあ、10分後に俺の部屋に集合な」

 

「うん、わかった。タクヤ、カードキー置いておくね」

 

 エスターは自分の部屋のカードキーを持って、タクヤの部屋を後にする。

 

「とりあえず、新しく住める場所も見つかってよかった。もし、このまま漂流していたら、どうなっていた事か……」

 

 グランツ達の襲撃から逃げ出し、先の見えない逃亡生活からマクロス8船団に拾われて新しい居住先を見つけたエスターは、心の底から開放感を感じていた。

 

「げ、ヤベェ!」

 

 隣の部屋から突然タクヤの大声が響く。

 

「え? なになに?」

 

 タクヤの大声を聞いたエスターは、部屋を抜け出してタクヤの部屋に急ぐ。

 

「タクヤ! タクヤ、どうしたの?」

 

 エスターは、タクヤの部屋のドアを叩いて呼び掛ける。

 

「あ、あのさ、エスター……」

 

 エスターの声に気付いたのか、ドア越しからタクヤが話し掛ける。

 

「う、うん」

 

「俺達って……荷物持たずに来ちゃったよな」

 

「う、うん。あの時は救難信号を受けて、そのまま出撃しちゃったしね。それでゼントラーディ軍の急襲を受けて、隊長の命令で今まで逃げて来たんだし」

 

「つまりさ……今は無一文だよな」

 

「う……うん。そうだね」

 

「基地も、もう無いよな」

 

「うん……基地も壊滅しちゃったしね」

 

「つまり、何も無いからお金を下ろして、全て買い直さなきゃダメって事だよな」

 

「……うん、そうなるよね」

 

「はぁぁぁぁぁぁ……」

 

 結論に辿り着いたのか、タクヤは大きな溜め息を吐く。

 

「ねえ」

 

「あん?」

 

「もしかして……それだけの為に大声を出していたの?」

 

「あ、ああ……」

 

 タクヤは自分の行動を恥ずかしく思ったのか、声のトーンも低かった。

 

「はぁ……」

 

 エスターは、呆れながら溜め息を吐く。

 いつもの事とは言え、それに毎回付き合う自分にも嫌悪感を示すも、それでも何だかんだ言いつつタクヤを放っておけない自分がいる事も認識していた。

 

「悪いエスター、そこで待っててくれ」

 

「うん、わかった」

 

 タクヤ自身もエスター同様に新しい居住先を見つけて心が安らいでいた。

 だからこそ、大声を上げて驚ける余裕があったのだろう。

 しばらく待つと、タクヤが部屋から出てくる。

 

「エスター、今から銀行に行こう」

 

「そうだね、お金が無いと何も出来ないしね」

 

 財布すら持っていない二人は、まずは銀行を探してお金を引き出す事を目標にする。

 

 街頭地図を見たり、街行く人々に尋ねたりして、何とか二人は銀行に辿り着く。

 

「とにかくワケを話してカードか通帳を作ってもらおうぜ」

 

「うん」

 

 二人は銀行に入り、受付に今までの経緯を話す。

 

「色々と大変でしたね。では、この書類に必要事項を入力頂いて提出をお願いします。発行まで少し時間が掛かるので、しばらくお待ちください」

 

 受付に同情されつつも、二人は書類を作成して待つ事にする。

 

「はぁ……腹減ったなぁ」

 

 マクロス8船団に到着する前に非常食を食べて以来、全く食事をしていない為、タクヤの腹の虫は鳴りっぱなしだった。

 

 書類関係の手続きなどで時間が掛かり、タクヤにとっては1分ですら長く感じていた。

 時々、時計をチラ見しては殆ど過ぎていない時間にタクヤは深い溜め息を吐く。

 

「早くカードと通帳できねえかなぁ……腹減ったよぉ……」

 

 なかなかカードと通帳が出来ないのと空腹の為、次第にタクヤはうなだれ始める。

 

「とりあえず、お金を下ろしたら何か食べようよ」

 

「ああ」

 

 空腹で元気が出ないタクヤは、うなだれたままエスターの話に応える。

 

「タクヤ・バーズラッド様、エスター・ワードナ様」

 

「待ってました!」

 

 約1時間後、受付に呼ばれたタクヤは、喜び勇んで受付に向かう。

 念願のカードと通帳を手にした二人は、早速ATMで現金を下ろす。

 

「よっしゃあ! 金も手に入ったし、飯だ飯!」

 

「タクヤ、待ってよ」

 

 お金を手にしたタクヤは、勢いよく銀行を飛び出して飲食店を探しにいく。

 その後をエスターは、必死に追い掛ける。

 

「さあて、何を食おうかなぁ~♪」

 

 飲食店街に辿り着いたタクヤは、辺りの飲食店を見回す。

 その目は、まさに獲物を狙う野獣のような目だった。

 

「マクロスナルド、デリーズ、ブランコビリー、流星ラーメン、うー……色々あって決められねぇぇぇぇぇ!」

 

 タクヤは飲食店が決められず、頭を抱えて悩んでいた。

 空腹も極限状態に来ている為、今のタクヤには、どの飲食店の料理も美味しそうに見えている。

 そして、更にタクヤのお腹の音が鳴り響く。

 

「……幸せな悩みだね」

 

 そんなタクヤを見ていたエスターは、思わず苦笑いをする。

 

「いらっしゃいませー、銀河最大規模のチェーンを誇る中華飯店娘々でーす」

 

 少し離れた場所の店からチャイナドレスの少女の呼び込み声が聞こえる。

 

「中華なら腹いっぱい食えそうだし、あの子は可愛い」

 

 タクヤの脳内で中華料理がインプットされる。

 そして、タクヤの視線は呼び込みをしているチャイナドレスの少女に向けられる。

 

 少し幼い感じがする可愛らしい表情。

 長い髪の毛をお団子に結った髪型。

 まさに中華料理店のイメージぴったりの雰囲気にタクヤは、次第に少女の魅力に惹かれていく。

 

「タクヤ・バーズラッド、これより中華料理店に向けて出撃しまーす!」

 

 目標を決めたタクヤは、チャイナドレスの少女に向かって一目散に走り出す。

 

「え? ちょっと、待ってよ!」

 

 突然一目散に走り出すタクヤをエスターは、必死に追い掛けだす。

 

「いらっしゃいませ、いかがですか?」

 

 店に向かって走るタクヤに少女は、呼び込みを掛ける。

 

「もちろん、ここで食べていく!」

 

「ありがとうございます、一名様ですか?」

 

「いや、ほれ」

 

 タクヤは、右親指を突き出して後ろに向ける。

 その向けた先には、タクヤを追い掛けてくるエスターのがあった。

 

「はぁ……はぁ……置いていかないでよ」

 

 タクヤに追い付いたエスターは、その場で息を切らす。

 

「かしこまりました。二名様、ごあんな~い」

 

 少女は、二人を店内へと入れて空いた席へ案内する。

 

「さあ~て、いっぱい食うぞ」

 

 席に着くなりタクヤは、置かれたメニューを広げて目を輝かせて見た後、すぐさまテーブルの呼び出しベルを鳴らす。

 その間、約10秒だった。

 

「ご注文どうぞ」

 

 チャイナドレスのウェイトレスがオーダーを聞きにやってくる。

 

「とりあえず、娘々ラーメンと麻婆豆腐と餃子と肉まんとマグロまんで」

 

「かしこまりました。そちらのお客様は?」

 

「じ、じゃあ、娘々ラーメンで……」

 

「かしこまりました。しばらくお待ちください」

 

 オーダーを聞き終えたウェイトレスは、厨房へと向かう。

 

「タクヤ、あんなに注文して食べられるの?」

 

「何か、めっちゃ腹減ってるから食えるさ」

 

 心配するエスターをよそにタクヤは、余裕の表情を見せていた。

 

「お待たせしました」

 

 ウェイトレスがオーダーの品をワゴンに乗せて運び、テーブルの上に次々と置かれていく。

 

「じゃあ、いただきます!」

 

 タクヤは、割り箸を手にとって二つに割って食べ始める。

 その姿は餌に群がる肉食動物を連想させていた。

 

「……」

 

 肉食動物のようにガツガツと食べるタクヤをエスターは、物珍しそうに見ながらラーメンを啜っている。

 

「あー、食った食ったぁ!」

 

 オーダーした食べ物は、運ばれてからものの数分でタクヤに食べ尽くされていた。

 

「お姉ちゃん、杏仁豆腐追加!」

 

 通り掛かったウェイトレスにタクヤはオーダーを追加する。

 

「え!? まだ食べるの?」

 

「甘い物は別腹って言うだろ」

 

 かなりの量の料理を食べた状態で更にデザートを注文するタクヤにエスターは、思わず目が点になる。

 

「お待たせしました」

 

 ウェイトレスが杏仁豆腐を持ってくるのと同時に小さな人形を持ってくる。

 その小さな人形は、髪の毛をお団子に結いチャイナドレスを着ていた。

 

「それって、ミンメイ人形ですか?」

 

 人形に気付いたエスターがウェイトレスに話し掛ける。

 

「はい。只今、3000ギャラン以上お食事をされた方にプレゼント中です」

 

 エスターにミンメイ人形の説明しながらウェイトレスは、杏仁豆腐をテーブルの上に置く。

 

「小さい頃、持っていたなぁ。確か背中の紐を引っ張ると私の彼はパイロットを歌ってますよね?」

 

「実はコレ、娘々特製のバージョンなんですよ」

 

「娘々特製?」

 

「紐を引っ張ると娘々CMソングが流れるんですよ」

 

 ウェイトレスは、ミンメイ人形の背中の紐を引っ張る。

 

『はおちーらいらい めいくーにゃん にゃんにゃん にゃんにゃん にーはおにゃん ゴージャス デリシャス でかるちゃ~♪』

 

 可愛らしい電子音声で歌が流れる。

 

「へ、へえ……色々と変わったんですね」

 

 自分が知っている物がいつの間にか別の物に変わっていた事にエスターは、少しだけ軽いジェネレーションギャップを感じていた。

 

「では、こちらをお受け取りください」

 

 ウェイトレスは、タクヤにミンメイ人形をプレゼントする。

 

「ああ。俺、いらねえからエスター代わりに貰ってくれよ」

 

 杏仁豆腐を口いっぱいに頬張りながらタクヤは、ミンメイ人形の受け取りを拒否する。

 

「では、どうぞ」

 

 ウェイトレスは、ミンメイ人形をそのままエスターに渡す。

 

「ありがとうございます」

 

 ミンメイ人形を受け取ったエスターは、懐かしさを感じたのか少しだけ微笑む。

 ミンメイ人形を渡した後、ウェイトレスはオーダー伝票をテーブルに置いて、そそくさと厨房へと戻っていく。

 

「タクヤが貰えるものなのに、何だか悪いなぁ……」

 

「気にすんなよ。男の俺が持っていたって変だろ?」

 

「それを言ったら僕だって……」

 

「お前は外見が女っぽいから大丈夫だって。それに元々は、女だったんだろ?」

 

「……う、うん」

 

 タクヤの女だったと言う言動にエスターは、言葉を詰まらせる。

 

 食事を終えた二人はショッピングモールへ向かい、服や必要な物を買い揃えて施設へと戻っていった。

 

 二人が施設に着いた頃には、時計は21時を回っていた。

 

「ああー、やっぱり街があるって良いよなぁ~」

 

 久しぶりの食事や買い物にタクヤの表情は、ご満悦だった。

 惑星ローグには娯楽自体が無かった為、尚更タクヤにとっては、ちょっとした娯楽施設でも充分に楽しんでいた。

 

「タクヤ、本当に楽しそうだったよね」

 

 今日一日のタクヤの行動を思い出して、エスターも釣られて笑顔を見せる。

 

「じゃあ、また明日」

 

「じゃあな~」

 

 タクヤと別れてエスターはドアの鍵を開けて部屋に入る。

 エスターは、そのまま脱衣場に行き、服を脱いで備え付けの洗濯乾燥機に放り込む。

 脱衣場の鏡に映る自分の裸体を見て、エスターは動きを止める。

 

 

 

 

「お前は外見が女ぽいから大丈夫だって。それに元々は女だったんだろ?」

 

 

 

 

 タクヤの言葉が脳裏を過ぎる。

 

 中性的な顔立ち、腰のくびれは女性並に細く、このまま女性物の服を着て女性と言っても誰もが信じてしまうくらいの外見だった。

 

(もし、この身体が女性のままだったら、どうなっていたんだろう)

 

 そんな事を考えつつ、エスターはシャワーを浴びる。

 

 本来、女性として生まれたエスター。

 しかし、幼い頃にフォールド航行中によるフォールド断層の影響を受けて、性別や体つきが男性へと性転換してしまい、今に至る。

 

(このまま女性だったら僕は、タクヤの事を……)

 

 いい加減で少しイキっている所もあるが、時折見せる男らしさにエスターは少しだけタクヤに恋心を覗かせていた。

 

 シャワーを浴び終え、洗濯機のスイッチを入れてエスターはそのままベッドに寝転がる。

 

 ふと、娘々で貰ったミンメイ人形を手にし、人形の背中の紐を引っ張る。

 ミンメイ人形から可愛らしい電子音声で娘々のCMソングが流れる。

 

 翌朝、エスターはモヤモヤした気分で目を覚ましながらも支度をする。

 

「タクヤ、まだ寝てるだろうなぁ……」

 

 支度を終えたエスターは、タクヤの様子を見にタクヤの部屋へ向かう。

 タクヤの部屋の前に来た途端に昨日のタクヤの言葉が頭をよぎるもエスターは、頭を左右に振り、そのまま深呼吸をする。

 

「うん……もう大丈夫……」

 

 そして、自分自身に言い聞かせる形でモヤモヤ感を打ち消す。

 

「タクヤ、起きてる?」

 

 ドアのチャイムを鳴らすも返事のないタクヤにエスターは、理解しつつも溜め息を吐く。

 

 エスターが自室へ戻ろうとした時、丁度係員がやってくる。

 

「おはようございます」

 

「おはようございます」

 

「昨日は、ゆっくり出来ましたか?」

 

「はい、お陰様で」

 

「それは良かったです」

 

 エスターからの返答を聞いた係員は笑顔を見せる。

 

「あと、相方がまだ寝てるみたいで……」

 

 エスターは、苦笑いしながら係員に話す。

 

「かしこまりました。では、フロントで合い鍵を借りてきます」

 

「すみません」

 

 係員は、合い鍵を借りにフロントへ向かう。

 

「タクヤ、起きてくれないかなぁ……」

 

 係員がフロントへ合い鍵を借りに行っている間にエスターは、チャイムを鳴らしたり、ドアを叩いたりするがタクヤからの反応は全く皆無だった。

 

 しばらくして係員が合い鍵を持って戻って来る。

 

「ありがとうございます」

 

「いえ、お気になさらず」

 

 部屋の鍵を開けて、係員とエスターはタクヤの部屋に入る。

 部屋の中では、案の定タクヤはベッドの中で爆睡していた。

 

「タクヤ、タクヤ。ねえ、起きてってば」

 

 エスターは、タクヤの身体を揺さぶって起こす。

 相変わらず身体を揺さぶってもなかなか起きないタクヤの熟睡っぷりは、感心するくらいだとエスターも内心思っていた。

 

「……うるさいなぁ、もう少し寝かせろよ」

 

「お迎えも来てるよ」

 

「……うっさいなぁ……俺は、まだ死んでねえよ」

 

「そっちのお迎えじゃないよ」

 

 タクヤの寝言にエスターは、冷静に突っ込みを入れる。

 

「すみません、なかなか起きなくて」

 

 エスターは、係員に謝りながら必死にタクヤを起こす。

 

「あなたのお気持ちもわかりますよ」

 

 その様子に係員も苦笑いしていた。

 

「仕方ないなぁ……タクヤ、ゴメン!」

 

 エスターは、一言謝った後にタクヤの頭を思い切り殴る。

 

「……いってえぇぇぇぇぇぇ!」

 

 エスターがタクヤの頭を殴って数秒後、痛みに気付いて、やっとタクヤはベッドから起き上がる。

 

「エスター! テメェ、何しやがんだ!」

 

 ベッドから起き上がると同時にタクヤは、エスターの胸倉を思い切り掴む。

 

「タクヤ……」

 

 エスターの醒めたような目を見た後、周りを見渡して係員が自分の部屋にいる事に気付いたタクヤは我に返り、エスターの胸倉を掴んでいた手を緩める。

 

「おはようございます。お迎えに上がりました」

 

 このような状況でも係員は、笑顔でタクヤに挨拶をする。

 

「……す、すぐ支度する」

 

 先程の態度とは打って変わり、タクヤはまるで牙の抜けたライオンの様に大人しくなる。

 

「彼の支度が終わるまで、我々は外で待機しましょう」

 

「はい」

 

 タクヤの支度が終わるまで係員とエスターは部屋の外で待つ。

 

 しばらくして、支度を終えたタクヤが部屋から出てくる。

 

「艦長がお待ちですので、急ぎましょう」

 

 タクヤが出てきたのを確認した係員は、タクヤとエスターを迎えに来た車でシティ8からバトル8へと向かう。

 

 先程の件でタクヤは妙に大人しくなっており、その姿にエスターも係員も苦笑いしていた。

 

 バトル8に到着後、係員の案内で二人は艦長室へと向かう。

 

「では、私はここで」

 

「ありがとうございます」

 

 係員と別れて、エスターは艦長室のドアをノックする。

 

「タクヤ・バーズラッド、エスター・ワードナ二名。只今到着いたしました」

 

「どうぞ」

 

「失礼致します」

 

 艦長室からアンナの声が返ってきたのを確認して、タクヤとエスターは艦長室に入る。

 

「おはようございます」

 

「おはようございます。昨日はゆっくり休めましたか?」

 

「はい、おかげさまで」

 

「しっかし、シティ8って凄いですね。ブラックバルチャー基地と比べたら雲泥の差ですよ」

 

 シティ8の街並みの凄さをタクヤは、興奮気味に話す。

 

「そうですか、それは良かったわ」

 

 タクヤの話にアンナは笑顔で応える。

 

「立ち話もなんですから、お掛けになって」

 

「はい、失礼します」

 

「失礼しまーす」

 

 アンナに勧められて、二人はソファに腰掛ける。

 

「さて、今日お呼びしたのは、本日よりお二方には新しい部隊に配属して頂きます」

 

「かしこまりました」

 

「そうだよな。ブラックバルチャーも壊滅しちゃったもんなぁ……」

 

 タクヤは、頭の後ろに腕を組みながら話す。

 既に所属していた部隊も壊滅し、新しく移民船団に配属となった二人にとって、新しい部隊は期待と不安感が募る。

 

 特にタクヤにとっては、次の新しい上司が気になっていた。

 ドルチェフみたいな厳しい隊長になるのか、それともまた違った感じになるのかと言う思いが頭の中を巡っていた。

 

「あなた達の上司となる方も、もうすぐ来ますので、しばらくお待ちください」

 

 時計を見ると8時55分を表示していた。

 

「失礼します」

 

 ドアがノックされ、部屋の外から女性の声が聞こえる。

 

「どうぞ、入ってください」

 

 アンナの了解を得た後にドアが開き、中から一人の少女が入室する。

 

 少女は青いロングヘアーを緩く束ね、左目下の泣き黒子が特徴的だった。

 

「あ……」

 

 タクヤとエスターは、少女の顔を見るなり、驚いたように目を大きく見開く。

 

「え?」

 

 一方の少女もタクヤとエスターを見るなり、タクヤ達と同じ様な驚いた表情をする。

 

「ク……クリス……」

 

「タクヤ……それにエスターまで」

 

「あら、三人共お知り合いだったのかしら?」

 

 三人のやり取りを見ていたアンナが声を掛ける。

 

「え、ええ……まあ」

 

 クリスは少し引きつった表情をしつつ、しどろもどろしながら応える。

 

「本時刻を持って、あなた達三人は新規部隊レッドアップル小隊へと配属になります。小隊長はクリスチーナ・プレセアに任命します。また、階級もクリスチーナ軍曹は少尉へ。タクヤ伍長、エスター伍長は軍曹へ昇格となります」

 

「りょ、了解」

 

 アンナから新規部隊の小隊長に任命され、クリスは狼狽えながらも敬礼する。

 

「こちらが辞令ですので、受け取ってください」

 

 三人は、順番にアンナから辞令を受け取る。

 辞令を受け取る三人の内のタクヤとクリスの表情だけは、凄く重たい感じの雰囲気と表情にエスターもアンナも、その理由に気付く事は無かった。

 

「あなた達の機体も手配が済んでいますので、後で確認をしてください」

 

「ありがとうございます、艦長」

 

 部隊も新しく変わり、タクヤは他の部隊のお下がりではなく完全な新品の機体が配備される事にワクワクしていた。

 

「あの、艦長」

 

 エスターがアンナに話し掛ける。

 

「どうされましたか?」

 

「あの……僕達が今まで搭乗していた機体は、どうなるんでしょうか?」

 

 エスターは、自分達が搭乗していた機体の行方が気になっていた。

 

「この船団には残念ながら、あなた達の機体の弾倉や予備部品の資材が無いので申し訳ないですが廃棄処分になります」

 

「……そうですか」

 

 アンナの回答にエスターは、少し表情を陰らせる。

 

 今まで自分でメンテナンスをして、ある程度愛着が湧いてきた機体が、こうもあっさりと廃棄処分されると思うと心の中で寂しさを感じる。

 既にVF-11自体もエスターが搭乗していたB型ではなく、アビオニクス等のソフトウェア面をアップデートされたC型へと配備変換されているので無理も無かった。

 

「では、艦長。私達は機体の確認に向かいます。タクヤ、エスター、行くわよ」

 

「三人共、新しい部隊で頑張ってください」

 

 クリス達三人は、敬礼して見送るアンナに敬礼をして、そのまま艦長室を後にする。

 

「それにしても、まさかクリスが俺達の隊長になるとはなぁ……」

 

 タクヤは、クリスが自分の隊長になっている事に未だに不満を漏らしていた。

 

「何よ私が隊長じゃご不満かしら?」

 

 タクヤの不満にクリスは食ってかかる。

 

「べっつにぃ~」

 

 そんなクリスに対してタクヤは、あっけらかんと応える。

 

「それにしてもクリスがマクロス8船団でパイロットをしていたなんてビックリしたよ」

 

「うん、まあ……ね。本当は特務部隊に配属だったんだけど、ちょっと色々とあってね。その時にアンナ艦長が私をマクロス8船団へ配属させてくれたの」

 

「……クリスも色々とあったんだね」

 

 エスターは、自分の心境の様に重ね合わせて話す。

 エスター自身も本来は、特務部隊へ配属される予定だったが、タクヤの事を踏まえてあえて特務部隊配属を辞退しているからだ。

 

 格納庫に辿り着いた三人は自分達の機体を探す。

 

「ど、どれなのかしら?」

 

 周りは、一般機の機体色が茶褐色のVF-11ばかりで見分けが付かなかった。

 クリスは、近くのメカニックマンに自分達の機体の場所を聞く。

 

「すみません」

 

「はい」

 

「私達、本日付けでレッドアップル小隊に配属ですけど、私達の機体は何処なんでしょう?」

 

「ああ、レッドアップルね。こっちですよ」

 

 メカニックマンの手引きでクリス達は機体の場所へと案内される。

 

 三人の前に白地の機体色に脚部と機体上部のラインカラーがそれぞれ赤、青、緑のVF-11が並ぶ。

 

「えーっと、クリス少尉がラインカラーが赤のS型で、エスター軍曹が青、タクヤ軍曹が緑の機体ですね」

 

 メカニックマンは、メモを確認しながら搭乗機体の説明をする。

 

「ありがとう」

 

「後程、3機共にスーパーパックの換装作業に入りますので、よろしくお願いします」

 

 メカニックマンは、換装作業の案内をしてからクリスに敬礼して作業をしに去っていく。

 

「うっひょー! おニューの機体だぜ!」

 

 綺麗に整備された新品の機体にタクヤのテンションは否が応でも上がる。

 

 その一方で、エスターは今まで自分達が乗っていた機体がキャリアーで別の場所に移動されるのを目撃する。

 自分でメンテナンスをして愛着が湧いていた機体が処分されると思うと胸が痛く感じていた。

 

「さて、機体確認も終わったし、これから艦内を案内するから着いてきて」

 

 タクヤとエスターは、クリスの後を着いて艦内を回る。

 更衣室やシミュレーション室等の主に一般隊員が使用する施設をクリスは案内する。

 

「大型移民船団って今までテレビでしか見ていなかったけど、改めて見てみると凄く広くて大きいね」

 

 色々な施設を周りながらエスターは、興味津々で艦内施設を見る。

 

「おい、お前達」

 

 突然後ろから声を掛けられて三人は振り向く。

 そこには、三人の女性が立っていた。

 

「アスカ中尉、どうされました?」

 

 クリスが声を掛けた女性に対応する。

 声を掛けた女性、アスカは大柄で見た目は野蛮そうなイメージが特徴的だった。

 

「クリス、風の噂で聞いたが、ブラックバルチャーとか言う部隊にいたのは、この二人か?」

 

「ええ、そうですけど」

 

「おい、お前達」

 

 クリスに内容を確認をした後、アスカはタクヤとエスターに声を掛ける。

 

「な、何だよ……」

 

「何でしょう?」

 

 大柄な女性に声を掛けられてタクヤは、少しビビっていた。

 アスカ自身は、パッと見で体格も良さそうに見える為、下手な対応をしたら殺されかけないと思っていたからだ。

 それとは対照的にエスターは、いつも通りの対応だった。

 その辺りが二人の普段の人との接し方で分かりやすい反応だろう。

 

「ホラ、フィリア」

 

 アスカは後ろでモジモジしている女性、フィリアに声を掛けてタクヤとエスターの前に突き出す。

 アスカに突き出されてフィリアは、よろけながら二人の前に出る。

 

「え、え……と、そ、その……」

 

 赤い髪色にお団子頭が特徴のフィリアは、顔を赤らめてモジモジしだす。

 二人に対して何か言いたい感じだが、なかなか言い出せない。

 

「な、何の用っスか?」

 

「僕達で分かれば良いんだけど……」

 

 二人はモジモジして、なかなか話そうとしないフィリアにヤキモキする。

 

「あ、あの……あの……マ、マリ、マリ……」

 

「マリ?」

 

「え、と……その……マリじゃなくて……その……」

 

「だあぁぁぁぁ、じれってぇぇぇぇ!」

 

 モジモジしながら話すフィリアにタクヤは苛立ちを見せる。

 

「大人しくしなさい!」

 

 苛立つタクヤをクリスが後ろから羽交い絞めにして抑える。

 

「ありがとうございます、隊長。フィリアさん、ゆっくりで良いですよ」

 

 苛立つタクヤをクリスに任せてエスターは、フィリアを宥めながら話す。

 

「あ、ありがとうございます。え……え、と……その、マ、マリアお姉ちゃんは……その、げ、元気……ですか?」

 

 フィリアのマリアと言う言葉にタクヤとエスターの表情が固まる。

 

「待てよ……マリアって……」

 

「あの……フィリアさん」

 

「はい」

 

「マリアって、もしかして……マリア・ランカスター大尉の事ですか?」

 

「は、はい! マリア・ランカスターは、わ、私の……お姉ちゃんです」

 

 フィリアがマリアの妹と分かると同時にタクヤとエスターは、お互いに顔を見合わせる。

 グランツ達の襲撃でブラックバルチャー隊共々マリアは、既に殺されている為、エスターはこの状態をどう説明すればいいのかと考える。

 

「フィリアさん……落ち着いて聞いてください」

 

 エスターは、真剣な眼差しでフィリアに話し掛ける。

 

「は、はい」

 

「マリア・ランカスター大尉は……3日前のゼントラーディ軍の奇襲攻撃で、僕達二人を逃がす為に……隊長と一緒に」

 

 エスターは、途中で涙を流しながら状況をフィリアに伝える。

 

「俺達が……俺達が不甲斐ないばっかりに」

 

 タクヤは顔を伏せたままフィリアに話す。

 タクヤとエスターの話を聞いたフィリアは、話の内容を理解したのか、思わず後退りをする。

 

「……お姉ちゃんは……マリアお姉ちゃんは……死んだのですか?」

 

「……は、はい」

 

 恐る恐る問い掛けるフィリアに対して、エスターは首を縦に振る。

 

「いや……いや、いやあぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 マリアの死を知ったフィリアは、その場にしゃがみ込み大声で泣き出す。

 

「お姉ちゃん、お姉ちゃぁぁぁぁん! うわあぁぁぁぁぁぁん!」

 

 泣き叫ぶフィリアを見て、タクヤとエスターは居たたまれない気分になっていた。

 直接的ではないとは言え、間接的にマリアを見殺しにした様な形だから尚更である。

 

「おい、テメェ! 不甲斐ないとか良いながら、本当はのこのこと逃げたんじゃないだろうなぁ? ああ!?」

 

 状況を見たアスカは、怒りに任せてタクヤの胸倉を思い切り掴む。

 

「お、俺だってなぁ、最後まで戦いたかったんだ! でも、隊長が俺達二人だけでも逃げろって言うから……それで」

 

 アスカに胸倉を掴まれつつも、タクヤは必死に訴えかける。

 仲間達が戦っている中、自分だけコソコソと逃げるのは、タクヤにとっては一番嫌な事だった。

 

「僕達の力不足なのは認めます。本当に申し訳ございません!」

 

 エスターは、フィリアの前で土下座をして謝る。

 仮に自分達が加勢したとしても戦況が変わる訳がなく、そこには自分達の実力不足に対しての悔しさもあった。

 

「お、俺も……申し訳ない!」

 

 アスカに胸倉を掴まれたままタクヤも必死に謝る。

 

「……」

 

 二人の必死のお詫びを見たアスカは、タクヤの胸倉を掴んでいた手を離す。

 

「……アンタ達、もういいよ。悪かったな」

 

 アスカは、感情的になってタクヤの胸倉を強引に掴んでしまった事を詫びる。

 

「フィリアも、もう泣くのは止めなよ」

 

 アスカは、座り込んで泣きじゃくるフィリアを宥めるようにして起こす。

 フィリアは、アスカに起こされるも足元をふらつかせて倒れそうになり、そのままアスカに身体を抱えられる。

 

「レイナ、フィリアを連れて行け」

 

 長身でボーイッシュな雰囲気を持つ女性、レイナは無言でフィリアを宥めながら連れて行く。

 

「二人共、辛く当たって、すまなかったな」

 

「い、いえ……こちらこそ」

 

「じゃあ、私はこれで」

 

 二人に謝罪したアスカは、フィリアとレイナの後を追い掛けるように去っていった。

 

 クリスは、言葉の掛け様の無い雰囲気にただ立ち尽くすだけだった。

 

「……すまねえな、カッコ悪い所を見せて」

 

 クリスに背を向けて、タクヤは顔を伏せたままクリスに話す。

 その背中の雰囲気は重苦しい雰囲気を漂わせていた。

 

「僕達は、二度と同じ過ちを繰り返さないようにしなきゃね」

 

 エスターは涙を拭いながら立ち上がる。

 

「あ、あなた達も色々と辛い事があったのね。う、うん……とりあえず、元気出そう。ね!」

 

 クリスは、この重苦しい雰囲気を少しでも和ませようと自分なりに必死に二人を励ます。

 

「ありがとう、隊長」

 

 クリスの励ましにエスターは、少しだけ笑顔を見せる。

 

「い、一応、私だって隊長なんだから、これくらいは出来ないと」

 

 少しだけ笑顔を見せるエスターにクリスは、内心ホッとしていた。

 

「うーん……でも、やっぱり顔馴染みにいきなり隊長って言われるのは、何だか変な気分になるわね」

 

 士官学校時代の顔馴染みが自分の部下になり、しかも隊長と呼ばれる事にクリスは言葉に表せない恥ずかしさと違和感を感じていた。

 

「やっぱり、そう感じるのかな?」

 

 クリスの思いに対してエスターも少なからず同じ様に感じていた。

 

「だって、今までお互いに友達同士でやっていたのに急に上司と部下って、やっぱり変な感じよ」

 

「んなの気にしないで、クリスはクリスで良いじゃねーかよ」

 

 さっきまで落ち込んでいたタクヤが、急にいつもの調子でクリスに話し掛ける。

 先程まで落ち込んでいた様子からの立ち直りの早さにクリスは少し驚く。

 

「立ち直り早いわね」

 

「いつまでも辛気臭い事考えても面白くないだろ? そんな事より隊長って呼ばれるよりもクリスの方がいいだろ?」

 

「……やっぱり、隊長って呼びなさい。馴れ馴れしく思えるし、それに他の人達に示しが付かないわ」

 

「はあ? 何だよそれ」

 

「親しき仲にも礼儀ありって言うじゃない。いい? 私は隊長であなたの上司。OK?」

 

「……はあ?」

 

 クリスは、少し自信満々な笑顔をタクヤに見せる。

 そんなクリスにタクヤは、不満そうな表情を見せる。

 

「とにかく、最初は慣れないかもしれないけど、練習でもいいから言いなさい」

 

 不意にクリスは、タクヤに顔を近付ける。

 顔を近付けるクリスから漂うフレグランスの香りにタクヤは、少しだけ顔を赤らめる。

 普段、女性が間近に顔を近付けるシチュエーションが無い為、尚更だった。

 

「どうしたの? 顔を赤くして」

 

「な、なんでもねえよ! 顔近いし、離れろよ!」

 

 顔が赤い事をクリスに気付かれたタクヤは、少しだけクリスと距離を置く。

 

「さあ、練習練習」

 

 そのクリスの笑顔の裏には、見えない圧力がある事をタクヤは、少なからず感じていた。

 

「……た、隊長」

 

 タクヤは、恥ずかしさからかボソッと呟く。

 

「んー? なあに? 全然、聞こえませーん」

 

 クリスは、左耳に左手を当ててタクヤの顔付近まで近寄る。

 クリスが顔を近付けてきたのを確認したタクヤは、意地悪そうな表情をして思い切り息を吸い込む。

 

「たぁぁぁぁいぃぃぃぃちょぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉ!」

 

「キャアァァァァ!」

 

 そしてクリスの耳元で怒鳴るように叫び、突然の大声にクリスはひっくり返る。

 

「ちょっと、な、何すんのよ!」

 

 左耳を塞ぎながらクリスはタクヤを睨みつける。

 

「へっへ~んだ。誰がクリスを隊長なんて呼んでやるもんかよ。あっかんべー」

 

 タクヤは舌を出してクリスを挑発して、そのまま逃げだす。

 

「ちょっと、タクヤ! 待ちなさいってばー!」

 

 逃げるタクヤをクリスは、必死に追い掛ける。

 

(相変わらずだなぁ、あの二人……)

 

 士官学校時代から二人の関係があまり変わっていない事にエスターは、苦笑いしながら見ていた。




次回予告

 マクロス8船団内でガルスとタクヤは因縁の出会いを果たす。
 そんな中、マクロス8船団に配属して初の出撃命令が下る

次回「エンカウンター・オブ・コネクション」
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