MACROSS-A.D.2048-   作:eisyama

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 初の実戦にそれぞれの思いを見せる二人。
 果たして、生き残る事ができるのか?


第2話ファースト・ミッション

……ヤ

 

……きてよ

 

 何処からともなく声が聞こえる。

 

「うーん……うるさいなぁ」

 

……てば

 

「眠ぃから寝かせろよ」

 

ゴン!

 

 声が聞こえなくなると同時に突如、重い打撃音と共にタクヤの頭に激痛が走る。

 

「いってぇぇぇ!」

 

 タクヤは頭に走る痛みに耐えかねて起き上がる。

 

ガン!

 

 更に追い討ちを掛けるかの如く、起き上がった拍子に天井に頭をぶつけてタクヤは頭を抱えてうずくまる。

 

「つう……いってててて……」

 

「目は覚めたか、このバカ野郎が!」

 

 怒鳴り声に気付いたタクヤが顔を上げると鬼のような形相のドルチェフと心配そうに覗くエスターの姿が映る。

 

「いってぇな……何も殴る事な……」

 

「とっとと支度しろ! この大馬鹿野郎! のんびり寝てるのはテメェだけだぞ!」

 

 タクヤが文句を言おうとした瞬間にドルチェフはタクヤの胸倉を強引に掴み怒鳴り散らす。

 

「隊長、僕が急がせますから早くみんなの所へ向かってください」

 

「頼むぞ、エスター」

 

 タクヤをエスターに任せてドルチェフはタクヤの胸倉を掴んでいた手を離して部屋を出て行く。

 

「タクヤ、早く支度をして」

 

「うっさいな、わかってるよ!」

 

 タクヤはブツブツ文句を言いながら支度をしてエスターと共に格納庫へと向かう。

 

 格納庫では作業用ウインチアームにより機体が次々と強襲艦に艦載されていた。

 

「タクヤ、エスター、早く乗れ!」

 

「了解」

 

 ドルチェフに急かされて二人は強襲艦に急いで搭乗する。

 

 ドルチェフはブリッジへと向かい、そのまま艦長席へと座る。

 ブリッジではオペレーターのエミリアとアイナが艦艇の状態と機体の艦載作業の確認を行っていた。

 

「隊長、機体の艦載ならびにパイロットの収容は全て完了しました」

 

「隊長、艦の方のシステムもオールグリーンです」

 

「よし、発進!」

 

 エミリアとアイナの報告にドルチェフは発進許可を出す。

 

『カタパルトオープン』

 

 エミリアの通信を受けた監視室は基地地表のカタパルトを展開させる。

 カタパルト展開と同時に強襲艦が地下よりエレベーターで上昇し、ゆっくりとカタパルトへと進んでいく。

 

「メインエンジン、サブエンジン良好。メインシステム、サブシステム、オールグリーン。発進します!」

 

 エミリアは操縦桿を握り、ロケットを点火させてエンジンの出力を上げる。

 強襲艦は大気圏突入用ブースターを吹かして、カタパルトから宇宙へ向けて発進する。

 

 やがて大気圏突入を終えた強襲艦は、大気圏突入用ブースターを切り離してポイントガンマ付近まで進路を進める。

 

 強襲艦ブロウニング。

 統合軍の中型強襲艦であり、現行機VF-19で採用されたアクティブステルス技術を導入しており、強襲艦でもかなりの性能を誇る。

 

 艦載機も14機まで収容が可能で発進用カタパルトがそれぞれ独立しており、更にバトロイド形態でも射出可能なのが最大の特徴。

 

 また、コンピュータ制御によるオートシステムを搭載し、無人でもある程度は船体の操作や火器制御が可能である。

 これだけの性能を持つ強襲艦が何故、掃き溜め部隊に供給されたのかは全くの謎である。

 

「隊長、本艦は無事に大気圏を突破。これよりポイントガンマへと向かいます」

 

「わかった、引き続き頼む。アイナ、熱源反応ならびに敵の反応は?」

 

「現状況では特にありません」

 

「わかった。そのまま索敵を続けてくれ」

 

「了解」

 

 エミリアとアイナに指示を出した後、ドルチェフはシートに座り、任務資料を読み始める。

 

(今回のポイントガンマにある施設……)

 

 前回の任務での戦闘の舞台となった場所で回収した資料に書かれた場所。

 元々は統合軍の施設であったが小惑星群の増加と共に運用が困難となり施設ごと放棄されている。

 しかし、施設そのものは存在している為、風の噂では反統合軍やマフィア等の取引場所に利用されている。

 

 割り当てられた部屋でタクヤとエスターは出撃命令があるまで待機していた。

 

「あ~あ、ったく……やる事が無くて暇だなぁ。ヒマヒマヒマヒマぁぁぁぁ! ああ、早く出撃してぇぇぇ!」

 

 特にやる事が無くて暇なのか、タクヤは二段ベッドの上でゴロゴロと転がりながら時間を潰している。

 

「どした、エスター? 暗い顔なんかしちゃってさ」

 

 一言も話さないエスターが気になったタクヤが下段ベッドを覗き込むとエスターは、ベッドで膝を抱えてうずくまっていた。

 

「タクヤは……怖くないの?」

 

 初めて赴く戦場にエスターの声は少し震えていた。

 

「何が?」

 

「だって、これから僕達は戦うんだよ。シミュレーションじゃなくて、実戦で……もしかしたら死ぬかもしれないのに。本当にタクヤは怖くないの?」

 

「は? なに言ってるんだよ。このタクヤ様に怖いものなんて、あるわけねーよ! 大丈夫大丈夫、いざとなったら俺が助けてやるから、な」

 

 タクヤは得意気に豪語しながらも塞ぎ込むエスターを励ます。

 

(本当にタクヤは気楽で良いなぁ……)

 

 エスターは内心、能天気に考えるタクヤを呆れつつも逆に羨ましくも思っていた。

 そんな能天気に考えるタクヤを見ているうちにエスターは少しだけ元気が出ていた。

 

「まもなく、ポイントガンマ付近です」

 

 エミリアはドルチェフに状況を伝える。

 

「よし、出撃準備!」

 

『パイロットに通達、本艦はまもなくポイントガンマに到達。各パイロットは出撃準備。繰り返す……』

 

 エミリアの艦内放送が流れると同時にパイロット達は格納庫へと向かい、機体に搭乗して出撃を待つ。

 

「来た来た来た来た! エスター、さあ行くぜ」

 

「う、うん」

 

 ヘルメットを抱えてタクヤとエスターも格納庫へと向かう。

 初めての出撃にテンションが上がっているタクヤは急ぎ足で格納庫へと向かい、遅れてエスターも格納庫へと到着する。

 格納庫へ到着した二人は各々の機体に搭乗して他のパイロット達と同様に出撃を待つ。

 

「これが俺の機体なんだよなぁ……」

 

 初めて搭乗する自分に割り当てられた機体にタクヤは益々テンションを上げる。

 確かに機体の一部は傷が付いていたり塗装が剥げているが、これから出撃をする事を思えば、そんな事は全く気にならなくなる。

 

『バルチャー1より各機へ、出撃後はフォーメーションを組んで小惑星群に突入。小惑星群を抜けたら、ロングレンジミサイルで奇襲攻撃を行う。その後は部隊毎に迎撃態勢に入れ。なお、敵艦への攻撃は砲台のみとする。それから索敵、ジャミング担当機のバルチャー4、8の護衛も忘れるな。』

 

『了解』

 

 ドルチェフからの命令にパイロット達は応答する。

 

『タクヤとエスターは出撃後、俺に着いて来い、いいな』

 

『了解』

 

『りょ、了解』

 

 ドルチェフの通信を受けて二人は通信に応える。

 

「あー、何だろう……すっげぇ身体がウズウズしてくるぜ。うおぉぉぉぉ、早く敵をバンバンやっつけてぇ!」

 

 タクヤは初の実戦に浮かれてワクワクしていた。

 今まで士官学校の授業でのシミュレーションでしか経験が無い為、実際にバルキリーを操縦して戦えるので尚更テンションが高くなる。

 

「初めての実戦か……神様、どうか無事に生きて帰れますように」

 

 エスターは両手を合わせて神に祈りを捧げていた。

 戦場で生きるか死ぬかの常に隣り合わせの状況下の中、生き残れるように強く願を架ける。

 

 初の実戦にタクヤもエスターもそれぞれの思いを寄せていた。

 

『隊長、全機出撃準備が整いました』

 

『わかった、全機出撃!』

 

 マリアからの準備完了の連絡を受けたドルチェフは出撃の合図を出し、それを受けたアイナはコンソールを操作してブロウニングの下部カタパルトを展開させる。

 展開した下部カタパルトよりドルチェフのVF-14SとマリアのVF-14Fを先頭に次々とブラックバルチャー隊のVF-11が出撃する。

 

『バルキリー隊、全機出撃を確認。本艦は作戦空域から離脱後、ステルスモードに入ります』

 

 エミリアの通信後、ブロウニングはステルスモードを起動させて作戦空域から離れる。

 

 出撃したタクヤとエスターのVF-11は、ドルチェフのVF-14の後を着いて行く。

 

『タクヤ、エスター、大丈夫か?』

 

 ドルチェフは二人の様子を確認する為、通信を入れる。

 

『僕は大丈夫です、隊長』

 

 相変わらずエスターは不安げな表情でドルチェフの通信に応える。

 

『俺なら平気平気~♪ もう全然余裕っスよ』

 

 不安な表情を見せるエスターとは対照的にタクヤはディスプレイ越しにVサインをする。

 

『タクヤ、戦場ではテメェのようなヤツが一番最初に死ぬのを覚えとけよ』

 

 ドルチェフはタクヤの余裕な態度を見兼ねて釘を刺す。

 余裕な気持ちも大事だが、過剰になるとそれが命を落とす事にもなりかねないからだ。

 

「何だよ、偉っそうにさ。まあ俺の実力を見れば、おっさんも俺の偉大さが分かるさ」

 

 ドルチェフの忠告も今のタクヤには全く意味が無かった。

 

 しばらく進むと小惑星群が見えてくる。

 

『ホークス2から各パイロットに通達。まもなく小惑星群に入ります』

 

 エミリアから小惑星群到達への通信が入る。

 

『バルチャー1から各機へ、これより小惑星群に突入する。全機、計器に目を配れ』

 

 ドルチェフの通信にパイロット達は息を飲み、計器に集中しながら慎重に小惑星群に突入していく。

 照明を灯せば敵に気付かれる為、パイロット達は暗く、多数の小惑星が浮遊する中を進む。

 

 計器を注意深く見ながら進まなければ小惑星に激突してしまう為、パイロット達は固唾を飲みながら計器に目をやり、小惑星の中を慎重に進んでいく。

 計器の確認を怠り小惑星群に激突して死んでいったパイロットも少なくなく、戦場へ行くまでも常に気を抜く事は許されない状況だった。

 

『タクヤ、エスター、お前達も気を付けろよ。ここはシミュレーションなんかじゃねえ、一瞬の油断が命取りだ。例え小惑星にぶつかって死んでも二階級特進なんて無いからな!』

 

『了解』

 

 ドルチェフからの忠告にエスターは思わず息を飲む。

 

「んだよ、おっさんの野郎。それぐらいで脅かしやがってよ。それに、これくらいなら楽勝楽勝♪」

 

 暗闇しか見えない小惑星を進む恐怖を知らないタクヤは、ドルチェフの忠告に対しても気楽な考えで機体の速度をそのまま上げて小惑星群に突入する。

 

「タクヤ!」

 

「あのバカ!」

 

 エスターとドルチェフは無謀に小惑星群へと突っ込むタクヤの機体をレーダーで見つけて、機体の速度を上げて追いかける。

 

『タクヤ、速度を落として!』

 

『素人が無茶するな!』

 

 エスターとドルチェフが必死にタクヤに呼びかける。

 

「二人共、うるさいなぁ。こんなの楽勝楽しょ……? うわ、うわわわわ!」

 

 暗闇から突然目の前に小惑星が現れ、タクヤは急いで機体をバトロイドの脚部を展開した姿、ガウォーク・ファイターに変形させて急ブレーキを掛けつつスロットルペダルを思い切り踏み込んで脚部バーニアを吹かせて逆加速をする。

 

「んなくそぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 タクヤは思い切り操縦桿を引いてスロットルを切りつつ、バトロイドの脚部で小惑星を蹴り上げて振り切り、再び機体をファイターに変形させる。

 

「ふぅ……危ねぇ危ねぇ」

 

 小惑星を振り切ったタクヤはホっと胸を撫で下ろす。

 

『この大バカ野郎! 勝手な行動をするんじゃねぇ!』

 

 ドルチェフの怒号がタクヤの耳に響く。

 あまりの怒号の煩さにタクヤは、思わずヘルメット上から耳を塞ぐ。

 

『今度やったら絶対に撃ち殺してやるからな!』

 

『わ、わかったよ』

 

『わかったよだぁ?』

 

 ふざけた態度のタクヤにドルチェフは鬼のような形相でタクヤを睨む。

 

『りょ、了解であります! 隊長殿』

 

 ドルチェフからの通信を急いで切った後、タクヤは舌を出す。

 

『タクヤ、ダメだよ無闇に飛び出しちゃ』

 

 タクヤを心配してエスターは通信を入れる。

 

『悪ぃ悪ぃ、ちょっとばかし調子に乗りすぎたわ』

 

 エスターの心配もよそにタクヤは悪びれた様子も見せず、気を取り直して再び小惑星群を進んでいく。

 

 ある程度進んでいくと、小惑星群の数も徐々に少なくなってくる。

 

「よっしゃ、そろそろ大方の小惑星群は越えたかな? あーあ、それにしてもこうやってただ飛んでるも退屈だなぁ……そうだ、エミリアさんかアイナさんとお話でもすっかなぁ~♪」

 

 小惑星群も少なくなり、ただ飛ぶだけで暇に感じたタクヤはブロウニングへの通信回線を開ける。

 

『あー、あー、こちらタクヤ・バーズラッド。エミリアさん、もしくはアイナさん応答願いま~す』

 

『はい、何でしょう?』

 

 タクヤの通信にエミリアが対応する。

 

『お、エミリアさん。ちょうど良かった』

 

 エミリアの顔を見るなり、タクヤは上機嫌になる。

 

『何でしょう?』

 

『あのさ、この作戦が終わったらさ、どっかに遊びに行かね?』

 

『……はい?』

 

 任務中にも関わらず、タクヤの脳天気な発言にエミリアは呆れた表情をする。

 

『バーズラッド伍長、現在作戦遂行中ですし、この通信が傍受される可能性がありますので無駄な通信は極力控えてください』

 

 タクヤの脳天気な会話にエミリアは冷静に対応する。

 

『そんな、カタい事を言わないでさぁ……』

 

『それから、ふざけた通信をしていると隊長に怒られますよ』

 

『おっさんの事なんて関係ないって!』

 

 エミリアの冷静な対応を無視してタクヤは更に食いついていく。

 

『タクヤ! テメェ、作戦遂行中に何をしてやがる!』

 

 タクヤとエミリアの通信に気付いたのか、ドルチェフは二人の通信に割り込み、そのままタクヤの回線に怒号を浴びせる。

 

「うわわわわ、あぶ、あぶ……」

 

 ドルチェフの突然の怒号にタクヤは思わず機体のバランスを失い掛けそうになる。

 

『お前……今、何をしていた?』

 

『え、えーと……その……』

 

 ドルチェフの鬼の形相にタクヤは蛇に睨まれた蛙の如く、表情と身体が固まる。

 

『テメェ、女と通信している余裕ぶっこいてるヒマがあったら任務に集中しろ!』

 

『りょ、了解』

 

 タクヤは慌てて操縦桿を握り直す。

 そんな二人のやりとりを見ていたエミリアは少しだけ笑う。

 

 その後もタクヤは真面目に機体を操縦し、難なく小惑星群の中を進んでいく。

 他のブラックバルチャー隊も次々と小惑星群を突き進む。

 

『各パイロットに通達。まもなく小惑星群を抜けます。敵の機体データを確認できましたので転送します』

 

 エミリアから送られてきたデータをドルチェフは確認する。

 

「敵はアーマード装備のVF-1にVF-5000か……」

 

 反統合政府軍の機体の殆どは旧式が多いのには理由がある。

 第一次星間大戦時に反統合政府軍は殆どの機体を失った為、統合軍と繋がりのあるコネクションより機体を調達している。

 しかし、その殆どが軍用機の払い下げである為、旧式の機体が多い。

 だが旧式の機体とは言えど、パイロット達は強者揃いが多い為、油断をすると返り討ちにされる可能性もある。

 

『こちらバルチャー4、これよりジャミング電波を発信します』

 

『こちらバルチャー8、同じくジャミングを展開します』

 

『わかった、二人共頼むぞ』

 

 バルチャー4ことカイルとバルチャー8ことトールから通信が入る。

 ドルチェフとの通信後、カイルとトールのVF-11は電子兵装用に搭載されたEWAC装置を起動させて妨害電波を発信させる。

 

『バルチャー1より各機へ。敵さんはアーマードVF-1とVF-5000だ。旧式如きに負けるんじゃねぇぞ!』

 

『了解!』

 

 何も知らないパイロット達からはブラックバルチャー隊は統合軍の掃き溜めと呼ばれてはいるが、殆どは腕の立つパイロット達で占められている。

 また、部隊から負傷者が殆ど出ないのもドルチェフの鬼のようなシゴキと的確な作戦指示によるものである。

 ドルチェフ自身もパイロット達を信頼し、またパイロット達もドルチェフを信頼して命を預けている。

 

「ハッ、旧式如きに負けるタクヤ様じゃねえっての」

 

 敵部隊の殆どが旧式と判明した時点でタクヤは強気に出る。

 

『バルチャー1、エネミータリホー』

 

 小惑星群が徐々に少なくなり、ドルチェフの視界に敵部隊が姿を現す。

 

『全機、ロングレンジミサイルスタンバイ!』

 

 ドルチェフの掛け声と共にブラックバルチャー隊は、ロングレンジミサイルに装備を切り替える。

 

『アタァァァァック!』

 

 ドルチェフの号令と共にブラックバルチャー隊は、小惑星群を抜けると同時にロングレンジミサイルを発射して反統合政府軍に奇襲攻撃を仕掛ける。

 カイル機とトール機のジャミングによる妨害電波の影響で索敵できなかった為、突然の事に反統合政府軍は狼狽えるが、艦隊付近の部隊はすぐに迎撃態勢に入る。

 

 ブラックバルチャー隊と反統合政府軍の戦いが始まり、戦場では至る所で爆光が輝いていた。

 

「よっしゃあ! 俺の本当の実力を見せて、おっさんを見返してやるぜ!」

 

 ドルチェフに自分の実力を見せ付ける為、タクヤは一人で先走って辺りを見回しながら敵機を探す。

 

「敵機確認。これでも喰らいやがれ!」

 

 丁度正面から来る1機のVF-5000にターゲットを合わせてタクヤはトリガーのボタンを押してミサイルを発射する。

 しかし、ミサイルは正面真っ直ぐに飛んでいるだけの為、簡単に動きを読まれて回避行動と共にチャフをバラまかれて全弾回避された挙げ句、後ろに回られてしまう。

 

「クソ、避けてんじゃねえよ!」

 

 ミサイルを全弾回避された事にタクヤは苛立ち、怒りに任せてコンソールパネルを叩く。

 

「クソ、振り切れねぇ!」

 

 タクヤは後ろを振り返りつつ機体速度を上げたり色々な方向へ飛んだりするが、VF-5000は完全にタクヤの動きに合わせて後ろに着いていた。

 

「ちくしょー……後ろをチョコマカと……」

 

 タクヤ機は頭部レーザー機銃で攻撃するが、VF-5000はあっさりとかわすと同時にガンポッドで反撃する。

 

「うわわわ、あっぶねぇ!」

 

 何とかガンポッドをギリギリでかわすが、追い討ちを掛けるかの如くミサイルが発射されてタクヤ機を追いかける。

 

「え!? ちょ、待てよ! うわっ、ヤベェ、マジでヤベェ!」

 

 タクヤはレーザー機銃でミサイルを撃ち墜とそうとするが、恐怖感で手が震えて照準が合わない為、レーザー機銃を撃ってもミサイルには全く当たらなかった。

 

「くっそー、着いてくんなよ!」

 

 レーザー機銃を撃ちつつタクヤは機体の速度を上げて振り切ろうとするが、それでもミサイルは追い掛けてくる。

 

「え、えーっと……こういう時って、えーっと……どうすんだっけ?」

 

 恐怖感で気が動転してパニックになり、タクヤは頭の中で次の行動に移ろうと思っても身体が金縛りの様に固くなり、動きが取れなかった。

 

「うわあぁぁぁぁ! 死ぬ死ぬ死ぬ、まだ死にたかねぇよおぉぉぉ!」

 

 刻一刻と迫る死の恐怖にタクヤはコックピット内で絶叫する。

 人間、死期が近付くと今までの思い出が走馬灯の様に駆け巡る時がある。

 今のタクヤは、まさにその状態であり、自分自身の楽しかった事や辛かった事の思い出が次々と甦って来ていた。

 

 タクヤがコクピット内で絶叫を上げている間にタクヤ機を追い掛けていたミサイルは次々と撃ち抜かれて爆光を上げる。

 

『タクヤ、大丈夫?』

 

 タクヤの様子を心配してエスターから通信が入る。

 

『エ、エスター!』

 

 エスターからの通信に先程までどん底状態の表情で絶叫していたタクヤは、涙目になりつつも安堵の表情を見せる。

 

 エスターは、そのまま機体を旋回してタクヤを追い回していたVF-5000の後ろに回り込んで追撃をする。

 VF-5000はタクヤ機の追撃を止めてエスター機を振り払うかのように機体の速度を上げる。

 速度を上げて逃げるVF-5000を追うべくエスターもスロットルペダルを深く踏み込んで同じように速度を上げる。

 

「う……っく!」

 

 VF-5000を追い掛ける度にエスターの身体にGがのし掛かる。

 

(く、訓練と違って……か、かなりキツい)

 

 エスターは初めての実戦でのGにひたすら耐える。

 エスターは改めてシミュレーションと実戦での違いを認識する。

 

 やがてVF-5000はエスター機と距離を取った状態から人型形態のバトロイドに変形してガンポッドで応戦する。

 エスター機もVF-5000のガンポッドを回避しつつバトロイドに変形させて、そのままブースターを吹かせた勢いでVF-5000目掛けて体当たりを食らわせる。

 

「い、今だ」

 

 体当たりを食らってバランスを崩したVF-5000の隙を見て、エスターはトリガーを引いてガンポッドを発射する。

 VF-5000に次々とガンポッドが命中し、蜂の巣になったVF-5000は火花を吹いて爆発する。

 

「はぁ……はぁ……な、なんとか生きてる」

 

 エスターは初めての戦闘を終えて息が上がり手も震えていた。

 そして、無事に生きている事に心の中で感謝する。

 

『サンキュー、エスター! お前がいてくれて助かったぜ』

 

 戦闘が終わったのを確認したタクヤからお礼の通信が入る。

 

『だ、大丈夫? タクヤ』

 

『ああ、大丈夫大丈夫!』

 

 タクヤはディスプレイ越しのエスターに向けてVサインをする。

 

『エスター、お前こそ息が上がってるけど大丈夫か?』

 

『ぼ、僕なら……大丈夫』

 

 エスターは笑顔でタクヤに応えるが、声が若干上擦っていた。

 

『タクヤ! テメェ、また勝手に突っ走ってんじゃねぇぞ!』

 

 再びドルチェフの怒号がタクヤの耳に響き、タクヤは思わずヘルメット上から耳を塞ぐ。

 

『エスターがいなかったら、お前はとっくに死んでたんだぞ!』

 

『了解、以後気をつけます』

 

 ドルチェフの怒号に対してタクヤは、少しふてくされ気味に返事をする。

 

『これから敵艦付近の敵を叩く。着いて来い!』

 

『了解』

 

 合流した3機は、そのまま敵艦へと進路を向ける。

 

 敵艦付近には3機のアーマード装備のVF-1が護衛していた。

 ドルチェフ達の接近に気付いた3機のアーマードバルキリーは、ガンポッドと多数のミサイルによる弾幕を張る。

 

『こいつ等は俺が相手をする。その間にお前達は敵艦の砲台を攻撃しろ』

 

 ドルチェフ機はミサイルに向かって突進し、ぶつかる少し手前で急上昇してチャフをバラ撒いてミサイルを回避し、残ったミサイルもバレルロールで次々と回避する。

 そして、すぐさま敵艦前のアーマードバルキリー目掛けて急降下をしてガンポッドとミサイルをバラまく。

 

「うぉぉぉぉ!」

 

 いずれの攻撃もアーマーを小破する程度しか効果がなかったが、ドルチェフ機は一気に距離を縮めて機体をバトロイドに変形させた状態で、そのままアーマードバルキリーの頭部を踏み潰す。

 更に肩に乗り上げた状態で踏み潰した頭部に目掛けてガンポッドを連射してアーマードバルキリーを撃破する。

 

『す、すげぇ……』

 

『うん……』

 

 二人はドルチェフの戦闘スタイルに思わず固唾を飲む。

 

『何をボサっとしている! お前達は敵艦の砲台を叩け!』

 

『了解』

 

 ドルチェフの戦いぶりに思わず見とれてしまい行動を移さない二人にドルチェフの怒号が響き、我に返った二人は敵艦へと向かう。

 

 敵艦からの攻撃を回避しつつ、2機は砲台に攻撃を仕掛けようとするが、残りのアーマードバルキリーの攻撃と砲台からの対空砲火をかわすのがやっとで、なかなか攻撃を当てる事ができなかった。

 

『隊長、すみません。敵の攻撃が激しくて、なかなか敵艦へ攻撃ができません』

 

『タクヤ、エスター、俺が囮になるから、その間に砲台を叩け』

 

『了解』

 

 なかなか敵艦への攻撃が進まない2機を見兼ねて、ドルチェフは自分を囮にして敵の攻撃を引きつけている間に二人に再び砲台に攻撃をさせようとするが、それでも敵艦からの攻撃は激しいままだった。

 

『せっかく隊長が囮になってくれているのに……』

 

『くっそー、これじゃラチがあかないぜ!』

 

 2機が敵艦からの攻撃を避けている間に後方からミサイルが接近して、そのまま敵艦に命中する。

 

『二人共、大丈夫?』

 

 マリア機を先頭に他のブラックバルチャー隊が援護にやって来て敵艦へと攻撃を続ける。

 

『ありがとうございます』

 

『エスター、今のうちに攻撃するぜ!』

 

『うん』

 

 味方の援護支援を受けたお陰で敵艦からの攻撃も少なくなり、2機は敵艦の砲台目掛けてミサイルを発射して次々と砲台を破壊していく。

 そして、タクヤ機は、そのまま敵艦ブリッジまで飛び、機体をバトロイドに変形させてブリッジにガンポッドを突き付ける。

 

『無駄な抵抗は止めろ! 抵抗したら、即座にぶっ放すぞ!』

 

(くぅぅぅ~♪ このセリフを言ってみたかったんだよなぁ)

 

 よく海外ドラマ等で警官や刑事が犯人に対して言う様な台詞。

 そのシチュエーションに憧れていたのか、タクヤはシチュエーションが決まった事の優越感に浸っていた。

 

『くぉの大バカ野郎がぁぁぁ!』

 

 ドルチェフの怒号と共にドルチェフ機の鉄拳がタクヤ機に炸裂し、タクヤ機は殴られた勢いでクルクルと回転する。

 

「どわあぁぁぁぁぁ! め、目が回るうぅぅ!」

 

 タクヤは回るコクピットの中で目を回しながら絶叫する。

 

「タクヤ!」

 

 エスター機はタクヤ機が吹っ飛ばされた方向へ飛び、タクヤ機をある程度追い越した辺りで機体をバトロイドに変形させてブースターの出力を全開にしてタクヤ機を受け止める。

 

『さ……さんきゅう……』

 

 タクヤは回転の影響をモロに受けてグロッキー状態だった。

 

『もう、世話掛けさせないでよ』

 

 そんなタクヤを見てエスターは、少し呆れ顔で言う。

 

 戦力を失った反統合政府軍は、そのままブラックバルチャーに投降した。

 船舶内の貨物物資の殆どはバルキリーやデストロイド等の兵器類であり、今後は兵器の入手ルートの調査が行う必要がある。

 

『ある意味、この場所は兵器等の取引をするには、もってこいの場所だったな』

 

『そうね。早い所この施設を撤去しないと、また武器等の取引場所に使われてしまうわ』

 

『そうだな。だが、今の統合軍がそこまでしてくれると思うか?』

 

『……』

 

 ドルチェフやマリアの視点から見て、既に統合軍自体が腐りきっている事は想像できていた。

 恐らく、この件を報告したとしても統合軍は動く事は無く黙殺されるのがオチであろうと……

 

 ブラックバルチャー隊の通報により銀河パトロール隊の機体が駆けつけ、施設や反統合政府軍の調査を開始する。

 

『よし、ご苦労だった。バルチャー1よりホークス1、これより帰投する』

 

『了解』

 

 調査を銀河パトロール隊に任せてブラックバルチャー隊は基地へと帰還していく。

 任務を終えたパイロット達は、次の任務が入るまでの間しばしの休息に入る。

 

 その一方、タクヤは任務終了後にドルチェフに出頭を命じられ、彼の部屋の前まで来ていた。

 タクヤの表情は心無しか微妙に引きつっていた。

 

「タクヤ・バーズラッド、入ります」

 

 一声掛けてタクヤは部屋に入る。

 だが、その声は、いつもと違いボソボソと小さめの声だった。

 

 部屋に入るとドルチェフは腕を組んだまま仁王立ち状態でタクヤを迎える。

 

「来たか。こっちへ来い」

 

 部屋に入ると同時にタクヤはドルチェフの前へ呼ばれる。

 

「タクヤ、お前が何故ここに呼ばれたかは……わかるな?」

 

 ドルチェフは鋭い目付きでタクヤを睨み付けながら質問をする。

 

「え、えーと……ご、ご褒美が頂ける……わけないですよねぇ」

 

 タクヤは苦笑しながらドルチェフの質問に答える。

 

「当たり前だ、バカ野郎!」

 

 ドルチェフはタクヤの胸倉を乱暴に掴んで怒鳴る。

 

「今日のお前の行動は何だ? 勝手に小惑星群に突っ走って隊列を乱すわ、エミリアとムダ話をするわ、勝手に敵に突っ込んで死に掛けるわ、敵艦の前でバカをやるわ……お前がバカやるお陰で隊全体に迷惑を掛けてるのが分からねぇのか!」

 

 ドルチェフはタクヤを思い切り怒鳴りつけ、そのまま壁に思い切り突き飛ばす。

 

「くっ……」

 

 ぶつけられた痛みでタクヤはうめき声を出す。

 

「何とか言え!」

 

 謝罪の一つも無く、ただ黙り込むタクヤの態度にドルチェフは、ますます苛々を募らせる。

 

「……すみません」

 

 ドルチェフの恐ろしい形相にビビったタクヤは弱々しい声で謝る。

 

「すみませんだぁ? すみませんで済んだら軍隊も警察もいらんわ! いいか、本来なら営倉入りにする所だが、あいにくウチは物資も人員も足りない状況だ。お前のようなヤツでも人数に入れてる事を忘れるんじゃねぇぞ!」

 

「……」

 

 ドルチェフの怒号混じりの説教を聞いてタクヤは黙り込む。

 ただし、腹の中でタクヤは反省をするどころかドルチェフに対しての不満を募らせており、自分の軽率な行動が部隊に迷惑を掛けて怒られている事に全く気付いていなかった。

 

「もういい、とっとと自分の部屋へ戻れ!」

 

 ドルチェフの説教が終わり、タクヤは精神的に参ったのか少しフラついた状態で無言で部屋を出ていく。

 

「何だよ、あのおっさん! 偉そうに説教しやがって。別に悪い事した訳でもないし、少しくらい目立っても良いじゃねぇかよ!」

 

 タクヤはドルチェフに説教された事に対して文句をブツブツ言いながら部屋へと戻る通路を歩いていく。

 

「よお、タクヤ。今日はお疲れさん」

 

 部屋へ戻る途中、レオンがタクヤに労いの声を掛ける。

 しかし、今のタクヤはドルチェフに説教された事で不機嫌な状態の為、レオンの労いの言葉も耳に入らないまま歩いていく。

 

「何だよ、アイツ」

 

 レオンの言葉をよそにタクヤは、不機嫌そうな表情のまま部屋へと戻っていく。

 

「お帰り」

 

 不機嫌な表情を浮かたまま無言で部屋に入るタクヤにエスターは声を掛ける。

 ちょうどエスターは、部屋に備え付けのテレビでニュースを見ている所だった。

 

「ああ……」

 

「その様子だと隊長に結構怒られてきたみたいだね」

 

 エスターは不機嫌そうなタクヤを諭しながらドルチェフに怒られている様子を思い浮かべる。

 恐らくタクヤの事だから自分が悪い事をしていると思わずに反省している様子が無かった為にドルチェフの怒りを更に買ったのだろうと。

 まさに火に油を注ぐとはこの事を言うのだろう。

 

「確かにやりやすぎたとは思うけどさ、あそこまで怒る事ないと思うぜ」

 

 タクヤはブツブツと不満を言いながら椅子に座り、背もたれ部分に身体を持たれさせたまま机の上に足を乱暴に乗せる。

 その様子にエスターは溜め息を吐く。

 

「……タクヤは、まだ学生気分が抜けてないんだね」

 

「は? 何言ってるんだよ。学生気分なんて、とっくに抜けてるよ」

 

「全然、抜けてないよ!」

 

 反省する素振りのないタクヤにエスターの声が少し厳しくなる。

 突然のエスターの厳しい声にタクヤは、ギョっとする。

 

「タクヤ、ここは軍隊だよ。少しのミスや自分勝手な行動をするだけで死ぬ確率は大きくなるんだよ。今日の出撃だって初めてだったのもあったけど、いつ死ぬんじゃないかと内心、恐かったよ。それに僕が怖がってた時、タクヤ言ったよね? 『俺が守ってやる』って」

 

「……あ、ああ……えーと、そ、そうだっけ?」

 

 ブロウニングの待機室で初めての実戦で不安がっていたエスターに自信満々で守ると言った言葉をタクヤは完全に忘れていた。

 

「ちゃんと言っていたよ! 僕、覚えているし」

 

 タクヤのいい加減さにエスターは思わず詰め寄り、タクヤはそのまま仰け反る。

 

「でも、結局は全然僕を守ってないよね? それどころか僕がタクヤを守っているし」

 

「い、いや、それは、その……」

 

 エスターに自信満々に話していたタクヤも結局、戦場では何もできなかった挙句に逆にエスターに助けられてしまった事を詰め寄られて、しどろもどろになる。

 

「タクヤの事だから戦果を挙げたい気持ちは、僕にも分かるよ。でも、自分勝手な行動は死に繋がるから、それだけは覚えておいてよ!」

 

「……わかったよ。俺が悪かったよ」

 

 エスターの言葉にタクヤは頭を掻きながら申し訳ない表情をする。

 

「本当にわかった?」

 

「わかってるって」

 

「本当に?」

 

 エスターは覗き込む感じでタクヤを見る。

 

「しつけぇな、もう!」

 

「うん、なら大丈夫だね」

 

 少し厳し目で言ったお陰なのか、タクヤは表情や声のテンションから少しは反省している様子だった。

 そんなタクヤの表情を見て安心したのか、エスターは少しだけ笑う。

 

「じゃあ、これからシミュレーションルームで特訓だね」

 

「ああ、わかった……って、えぇぇ! ちょっ、カンベンしてくれよぉ」

 

 エスターのシミュレーションでの特訓提案にタクヤは嫌そうな表情をする。

 

「ダメダメ。タクヤには強くなってもらわないと、またみんなに迷惑を掛けちゃうよ」

 

 エスターはタクヤに笑顔を見せる。

 しかし、その笑顔はタクヤから見たら悪魔の微笑みにしか見えなかった。

 

「ちょ、マジでカンベンしてくれよぉぉぉ!」

 

「聞こえな~い」

 

 タクヤの叫びを無視してエスターは、嫌がるタクヤの背中押してシミュレーションルームへと向かう。

 こうして、二人の初めての実戦の1日は過ぎていった。




次回予告

 放棄された宇宙ステーションに潜伏するテロリストの殲滅任務を遂行するブラックバルチャー隊。
 しかし、そこで待ち受けていたものは……

次回「ユナイテッドフロント」
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