タクヤとエスターが実戦に参加してから数日が過ぎた。
エスターによる日々の特訓のお陰でタクヤは、何とか戦闘技術がマシな状態になっていった。
タクヤは日に日に戦闘技術が上がっている事を実感し、エスター自身も喜んでいた。
そして、今日もシミュレーションルームでの訓練が続いている。
『タクヤ、後ろから3機』
エスターからの通信を受けてタクヤは振り返る。
モニター後方からCGで造られた男ばかりの巨人族ゼントラーディ軍の戦闘ポッドであるリガード3機が追撃をする。
リガードはゼントラーディ軍の主力機であり、卵に足が生えたような形が特等的な機体である。
所謂数で押すタイプの兵器であるが、宇宙空間での機動性自体は侮れない性能を持ち、統合軍の主力機であるVF-11でも油断をすれば手強い相手にもなる。
「ハッ、ゼントラーディの雑魚如きに、このタクヤ様がやられるかっての!」
タクヤは余裕の表情でスロットルペダルを思い切り踏み込んで速度を上げる。
加速するタクヤ機の動きに合わせて3機のリガードも後を追うように続いて加速する。
「もうちょい、もうちょい……」
タクヤ機はレーダーを見ながら追い掛けてくる3機のリガードとの距離を合わせる。
しばらくして3機のリガードはタクヤ機の射程圏内に追い付く。
「よし、今だ!」
リガードとの距離を見極めたタクヤは、機体をガウォーク・ファイターに変形させて逆加速をしつつリガードをやり過ごす。
「後ろガラ空きだぜ」
そして、そのままガンポッドとミサイルを発射してリガードを次々と撃墜する。
「よっしゃ、やりぃー!」
全機撃墜に成功したタクヤは指を鳴らす。
『油断しないで、続いて上から2機』
『何?』
エスターの通信を聞き、見上げるとCGで造られた同じくゼントラーディ軍の戦闘ポッドであるヌージャデル・ガー2機が攻めてくる。
リガードと違い人型を形成した機体であり、リガードよりも機動力や武装が上である。
「くっそー、おらおらおらおらぁ!」
タクヤはヌージャデル・ガーの攻撃を避けながら機体をバトロイドに変形させると同時にガンポッドとミサイルで攻撃して1機を撃ち落す。
しかし、残った1機が接近して殴りかかる。
「うわ、ヤベ!」
すかさず回避しようとしたが、間に合わずコクピットに攻撃を喰らう。
コクピットに攻撃を喰らうと同時にコクピットシートが大きく揺れだす。
「うわあぁぁぁ!」
コクピットシートの揺れにタクヤは思わず前屈みの態勢になるが、シートベルトに引っ張られてシートに身体を打ち付ける。
「いってぇ!」
ディスプレイが赤色で表示され、そこに白い文字で-YOU DEAD-と表示される。
「うわっちゃあ……んだよ、結構いい線まで行ってたのになぁ」
タクヤは自分のシミュレーション結果に納得がいかず頭を掻く素振りをする。
『お疲れ様、タクヤ』
シミュレーションが終わり、エスターから通信が入る。
タクヤがシミュレータマシンを降りると同時にエスターが駆け寄る。
「お疲れ様」
そして、クタクタなタクヤに缶ジュースを渡す。
「サンキュー」
エスターから缶ジュースを受け取ったタクヤは蓋を開けてジュースを一気に飲み干す。
「えーと、ゴミ箱は……」
飲み終えた空き缶を手にしたままタクヤは辺りを見回す。
「缶なら僕が……」
「お、あった」
空き缶を代わりに捨てようとするエスター静止してタクヤは、ゴミ箱を見つける。
ゴミ箱はタクヤ達のいる場所から4m程離れていた。
「見てろよ……」
離れているゴミ箱を目掛けてタクヤは空き缶を投げる。
弧を描きながら空き缶は、ちょうどいい具合にゴミ箱の中に収まる。
「どうよ! 見た見た?」
上手い具合に空き缶がゴミ箱に入り、思わずタクヤはテンションを上げてガッツポーズをする。
「凄いね」
そんなタクヤの凄さにエスターも感心する。
「それよりもエスター、もうチョイ手加減してくれよ」
タクヤは鉄格子に腰掛けてエスターにシミュレーションレベルに対して愚痴をこぼす。
「そうは言うけど、シミュレーションでの戦闘技術レベルは最初に比べたら結構上達しているよ」
エスターは、シミュレーション成績表を確認しながらタクヤの上達ぶりを誉める。
最初の頃はリガード1機を撃墜するのに時間を掛けていたタクヤだったが、エスターの分かり易い指導のお陰で少しずつタクヤはパイロット技術が向上していった。
飽きっぽく、かつ堪え性の無い性格だと分かっていたエスターはタクヤに親切丁寧を心掛けつつタクヤのやる気も引き出していた。
「まあ、俺が本気を出せばこんなもんよ」
余裕綽々に答えるタクヤにエスターは苦笑いをする。
「あー、腹減ったから飯でも食いに行こうぜ」
「うん」
二人はシミュレーションルームを後にして食堂へと向かう。
食堂へ向かう途中、二人が格納庫を覗くとメイアがリストを見ていた。
「おぃっス」
「おはよう」
「おはようございます」
挨拶する二人にメイアは笑顔で返す。
「いつも大変だよね」
「最初は色々と大変でしたけど、もう慣れちゃいました」
エスターの労いの言葉にメイアは少し苦笑いして答える。
「二人とも、おはようさん」
ミランが二人に声を掛ける。
「おはよっス!」
「おはようございます」
「そう言えばタクヤ。隊長から聞いたけど、この前の出撃の時やらかしたんだって?」
「ま、まぁ……色々と」
ドルチェフから話を聞いたミランの問い掛けにタクヤの目が泳ぐ。
ミランは、よくドルチェフから色々な愚痴を聞く事がある。
任務の事、パイロットの事、組織のやりくりの事、機体のメンテナンス等など数えたらキリがない程の事を愚痴る。
隊長として且つ部隊の責任者としてのプレッシャーもあるのだろう。
普段は部隊の事を考えて厳つい表情をして怒鳴っているが、それでも気を抜きたい時もある。
そんなドルチェフの一面を知っているからこそ、ミラン自身もメカニックチーフとして妹のメイアを始めとするメカニックマン達を纏め上げる事の大変さを理解している。
時には飲み物を飲みながら人を纏め上げる大変さについて語り合う事もある。
「まあ、お前さんの性格なら何かするとは思ってたけど、もう少し人の迷惑とか考えて行動してくれよ。機体を壊して、こっちの仕事を増やされるのもカンベンして欲しいし」
「ほら、やっぱり言われた」
「ちぇー」
ミランやエスターのツッコミにタクヤは、ふてくされた表情をする。
そんな三人のやり取りを見ていたメイアはクスクスと笑う。
「そこ、笑わない」
「ご、ごめんなさい」
笑うメイアにタクヤはツッコミを入れる。
ツッコミを入れられて謝るメイアだが、その表情はどことなく笑っていた。
「それはそうと、二人共機体の整備はちゃんとやってるか?」
「もちろん、バッチリっスよ!」
ミランの問い掛けにタクヤはVサインで応える。
ブラックバルチャー隊にはミランを含めて五人しかいない。
その辺りも考慮してかドルチェフからは、機体のメンテナンスは極力自分達で行う様に言われている。
タクヤとエスターも配属当時にレオンから聞いている為、機体のメンテナンスは自分達で行っている。
「あれ? でも、この間はエスターさんと二人で整備をしていませんでした?」
メイアのツッコミにタクヤの表情が固まる。
「あ……あはは。いやぁ……相変わらずメイアちゃんは、ツッコミが厳しいなぁ」
タクヤは表情を強ばらせながらメイアに話す。
「タクヤ、やっぱり自分でできるようになろうよ」
そんな表情を強ばらせるタクヤにエスターは溜め息を吐く。
パイロット技術以外にも整備すらロクにできないタクヤにエスターは毎回付き合っており、今まで学校をサボっていたツケが、この部隊に配属になってから色々と返ってきている様だ。
「まったく、しょうがないな……タクヤのヤツ。よし、今回はエスターも入れて二人の機体は俺達が特別に整備しておくよ」
「え!? マジで!」
「僕もいいんですか?」
ミランの気遣いにタクヤとエスターは驚く。
「ああ。ただし、今回だけだぜ」
「いやあ~、さっすがミランさん。頼りになるなぁ~♪」
自分でメンテナンスをする必要がなくなったタクヤは、機嫌を良くしてミランに擦り寄る。
「お前、ホントに調子いいなぁ……」
そんなタクヤにミランとエスター、メイアは苦笑する。
「二人共、そこにいたか」
レオンが息せきかけて格納庫にやって来る。
「レオンさん」
「どうしたんですか?」
「統合軍参謀本部から任務が入って、これからブリーフィングをやるみたいだから、すぐに来てくれって」
「了解」
「出撃前には整備を終わらせておくから、行ってきな」
「お願いします」
エスターはミランに頭を下げた後、タクヤと共にレオンとブリーフィングルームへと向かう。
「レオンさん、どんな任務なんですか?」
ブリーフィングルームへ向かう途中、任務内容が気になったタクヤはレオンに質問する。
「さあ? まあ、毎度の事ながらラクな任務じゃないのは確かだな」
統合軍の掃き溜め部隊と呼ばれているだけに殆どの任務は汚れ仕事ばかりだ。
基本的に援軍や特別な物資の補給等の支援は得られず、基地に保有してある物資や資材で行う。
また、任務遂行中に機体の損傷や故障等が発生した場合でも代わりの機体が配備される事は全くない。
「うぇぇ……カンベンしてくれよ」
レオンの言葉にタクヤは、苦虫を噛み潰したような顔をする。
「そんな顔をしてると、隊長にブン殴られるぞ」
レオンは笑いながらタクヤの右肩をポンと叩いて励ます。
「そっちの方がもっとカンベンして欲しい」
タクヤは自身がドルチェフに殴られる姿を想像して身震いする。
「あ! そう言えば俺……まだ飯を食ってなかった」
食堂へ向かう途中に格納庫へ寄っていた為、タクヤは何も食べていなかった事に今頃になって気付く。
「そんなの我慢しろ」
「トホホ……」
空腹のまま任務に出撃する事になり、タクヤはガックリと肩を落とす。
三人がブリーフィングルームに到着した頃には、殆どのパイロット達が着席していた。
「三人共、ここを空けておいたわよ」
三人を見掛けたマリアが手招きで呼び掛ける。
「ありがとうございます、マリア大尉」
三人は、マリアが空けておいてくれた席に着席する。
しかし、その席はかなり前の方だった為、タクヤは不満げな表情を浮かべる。
(うへぇ、結構前の方かぁ……これじゃあ居眠りもできないじゃん)
そんなタクヤの思いをよそにドルチェフを先頭にアイナとエミリアがブリーフィングルームに入る。
「15:34、ブリーフィングを始めます」
アイナのブリーフィング開始の合図にドルチェフは資料を読み始める。
「先程、統合軍参謀本部からテロリスト討伐任務が来た」
ドルチェフが一旦、資料を読み終えるとスクリーンに資料が映る。
「現在、ポイントデルタ付近に放棄された大型宇宙ステーション、オルフェウスにテロリストが集結しているとの情報が来ています。ブラックバルチャー隊は、これを殲滅してください。なお、オルフェウス付近には改修された自動迎撃システムが設置されています」
アイナが資料を読み終えると、スクリーンに自動迎撃システムが拡大されて映る。
主にテロリスト等の襲撃に備えて配備された拠点防衛用迎撃システムだが、闇ルートによりテロリストや反統合政府軍が保有し、同じように運用される事もある。
「自動迎撃システムはオルフェウスからの誘導電波による管理の為、前回同様に今回もジャミング兵器を使用します。それから現在判明している敵の情報データを映します」
アイナが資料を読み終えてスクリーンにテロリストの情報が表示される。
「テロリストはレッドバタフライ。メンバーは主にゼントラーディ、メルトランディ等の巨人族で構成されていますが、主な兵器はゼントラーディやメルトランディの戦闘ポッドになります。首謀者はネル・ヤギアス、メルトランディの血縁者です」
第一次星間大戦以降、地球人はゼントラーディ人達との共存の道を歩み始めた。
しかし、元々戦闘種族であるゼントラーディ人達の中には地球人との共存を拒み争い続ける者もおり、2048年現在でも、その傾向は減る事は無く統合軍は手を焼いていた。
スクリーンにはゼントラーディとメルトランディの戦闘ポッドの映像が映し出されて機体データが表示される。
続けて表示された女性、ネル・ヤギアスはダークグリーンのショートヘアーに鋭い目付き、そしてスラッとした細身の体型だった。
「ほぉ、メルトランディらしく気が強そうだな……女だからと言って甘く見ると痛い目を見るぞ。わかってるか? タクヤ」
「え、何で俺!?」
突然ドルチェフに名指しで指名されてタクヤは驚く。
「この中では、お前が一番女を甘く見てるからな」
ドルチェフの言葉に周りは誰一人として否定せず、首を縦に振って頷いていた。
「よし、チーム編成ならびに索敵とジャミングは前回と同じで行く。これより30分後に出撃するから各自出撃準備に入れ」
ブリーフィングが終わり、パイロット達はブリーフィングルームを後にする。
「タクヤ、女だからってデレデレしてると撃墜されちゃうぞ」
「そうね、気を付けなさいよ」
ドルチェフの言葉を思い出してレオンとマリアがタクヤをからかう。
「ちょ、カンベンしてくださいよ。いくら俺でも戦闘中にデレデレしないですよ」
レオンの弄りにタクヤは苦笑いしながら応える。
その様子にエスターも苦笑いしていた。
「タクヤさん、エスターさん」
ブリーフィングルームを出る二人の姿を見たメイアが声を掛ける。
「メイアちゃん、わざわざ待っててくれてたの?」
「はい」
「ありがとう、メイアちゃん」
「お兄ちゃん曰く『機体の整備はバッチリ』だそうです」
メイアはミランの言葉を真似して少し笑いながら話す。
「私、まだ仕事があるので失礼します」
メイアは二人に頭を下げて格納庫へと走っていった。
「タクヤ、僕達も出撃準備をしよう」
「ああ」
出撃準備をする為、二人は部屋へと戻っていく。
パイロット達が出撃準備をしている間にもミラン達メカニックマンも機体の最終整備と調整を行う。
「チーフ、全機体の最終点検完了です」
「チーフ、全ての機体への弾倉装填完了しました」
「よし、各機体のブロウニングへの艦載を急げ!」
メカニックマン達の整備があるからこそパイロット達は、自由に空を飛ぶ事ができるのだ。
30分後、バルキリーを艦載したブロウニングはポイントデルタへ向けて発進する。
ポイントデルタに到着するまでの間、ドルチェフは資料に目を通す。
「まもなくポイントデルタです」
レーダーでポイントデルタ到着を確認したエミリアは、ドルチェフに伝える。
「よし、出撃準備!」
『各パイロットに通達、まもなくポイントデルタに到達。各パイロットは出撃準備。繰り返す……』
エミリアの艦内放送が流れて待機室で待機していたパイロット達は、格納庫へと向かい、機体に搭乗して出撃準備をする。
『バルチャー1から各機へ。出撃後は各自フォーメーションを組んでオルフェウスへ進撃。バルチャー4、8のジャミング電波の発信を確認後、自動迎撃システムを破壊。その後は、オルフェウス内のテロリストを殲滅する』
『了解』
ドルチェフの作戦内容の確認通信にパイロット達は応答する。
『出撃!』
ドルチェフの出撃命令と共にブロウニングの下部カタパルトが展開し、バルキリー隊は次々と出撃する。
『バルキリー隊、全機出撃を確認。これより本艦は作戦空域から離脱後、ステルスモードに入ります。なお、目標のオルフェウスまで、あと2,000kmです』
エミリアの通信後、ブロウニングはステルスモードを展開しながら作戦空域から離れていく。
『各機警戒を怠るな。既にテロリスト達のテリトリーだから、いつ敵が襲ってきてもおかしくない状況だ』
ドルチェフの通信を受け、ブラックバルチャー隊は周囲に気を配る。
既に作戦空域の為、敵襲が来てもおかしくない状況の為、パイロット達はレーダーに気を配りつつ目標地点を目指す。
『3時の方向より敵機確認! その数、6機』
電子戦装備を施したトールのVF-11が敵機を捕捉する。
「くっ、思ったより早いな……」
予想より早い敵襲にドルチェフの表情が険しくなる。
しかも敵機の数も6機とは言え、迎撃に向かわせるパイロットの人数を調整しなければ目標地点に辿り着く前に再び敵に遭遇した場合はパイロット不足で満足に迎撃態勢が取れない状況下に陥る。
また、目標地点に辿り着いても同じくパイロット不足で返り討ちに合う危険性も考えられる。
『隊長、私とレオンで迎撃に向かいます』
マリアがドルチェフに通信を入れる。
『お前達二人だけで大丈夫か?』
『私とレオンの実力は、隊長が一番分かっているでしょ?』
二人だけで迎撃に向かう事にドルチェフは気遣うが、マリアはウィンクして返事をする。
マリアとレオンはブラックバルチャー隊創設時から配属されている初期メンバーであり、パイロット技術としての腕が確かなのはドルチェフも認めていた。
『……わかった、二人共頼んだぞ』
『了解。レオン、行くわよ』
『了解です』
ドルチェフの了承を得たマリア機とレオン機は敵機迎撃に向かう。
『よし。残りは、このままオルフェウスへ向かうぞ』
残りのメンバーはオルフェウスを目指して進んでいく。
大型宇宙ステーション、オルフェウス。
統合軍がポイントデルタを拠点に活動する為に建設した宇宙ステーション。
巨人族であるゼントラーディ人達が働ける環境を考慮して、ゼントラーディ居住区も兼ね備えている為、宇宙ステーションとしては破格の大きさを誇っていた。
しかし、ポイントデルタに代わる新たな拠点が見つかったのと、ステーションの大きさ故に運用費も馬鹿にならないと言う統合軍参謀本部の決定によりステーションは解体費用も出し惜しみする為に放置される事となった。
しかし、それが仇となり巨人族が大多数を占めるレッドバタフライにとっては、格好の拠点地となってしまった。
『オルフェウスまで、あと500……!? ドルチェフ隊長、オルフェウスから通信です!』
『何だと?』
ブロウニングからの通信にオルフェウスからの通信が割り込む。
敵側からの突然の通信にドルチェフは驚く。
通信パネルに一人の女性が映し出される。
ブリーフィングでスクリーンに映し出されたメルトランディ人、ネルである。
『ようこそ、統合軍のみなさん。歓迎するわ』
ネルは落ち着いた物腰でブラックバルチャー隊に挨拶をする。
所謂、好戦的で戦闘種族と呼ばれている巨人族の割に落ち着いた雰囲気を見せるネル。
しかも、わざわざ歓迎の挨拶までする余裕さから恐らく地球人と接触して文化に触れたのだとドルチェフは予測する。
『確かネルとか言ったな。軍からは殲滅命令が来ているが、俺からの計らいだが……どうだ、無益な殺傷は止めて今からでも遅くないが投降する気は無いか?』
ドルチェフはネルに投降するよう交渉を持ちかける。
ネル自身が文化に触れている事を悟り、少しでも交渉をする余地があると睨んでいたからだ。
普段は無愛想なドルチェフだが、あくまでも彼なりに女性への紳士的な対応でもある。
そんなドルチェフを見たタクヤとエスターを除く他のパイロット達は、少し驚いていた。
『クッ、ククク……アーッハッハッハッハ!』
ドルチェフの交渉を聞いたネルは、大声で笑い出す。
『何がおかしい?』
『だって、だってさぁ……何を言い出すかと思ったら……投降しろって? 残念だけど、アタシは統合軍のようなゲスに投降するくらいなら戦って死んだ方がマシよ』
ドルチェフの交渉に対してネルは眉を釣り上げて怒りを露わにする。
『なあ、俺は、お姉さんみたいな美人と戦いたくないんだ。頼むから投降してくれよ』
タクヤ自身もネルとは戦いたくないのか、ドルチェフとネルの通信に割り込む。
勿論、そこには下心も多少なりとも含まれているのは言うまでもない。
『ハン! ネンネのボウヤが何を言い出すかと思ったら……アタシもナメられたもんだねぇ』
『俺はボウヤじゃねえよ!』
『タクヤ、お前は黙っていろ!』
ネルに挑発されていきり立つタクヤをドルチェフは一喝する。
『せっかくのお客様だ。丁重に歓迎してやるわ』
オルフェウス付近の自動迎撃システムがブラックバルチャー隊を確認して攻撃を開始すると同時に女ばかりの巨人族の戦闘ポッド、クァドラン・ローと男ばかりの巨人族の戦闘ポッド、リガードとヌージャデル・ガーがオルフェウスのカタパルトから次々と出撃する。
『くっ、カイルとトールはジャミングを展開。他は各自フォーメーションを組んで先に迎撃システムを破壊しろ。タクヤとエスターは俺に着いて来い』
『了解』
パイロット達は、フォーメーションを組んで敵機の攻撃を回避しつつ迎撃システム破壊に向かう。
タクヤとエスターもドルチェフの後に続いてフォーメーションを組む。
カイル機とトール機は、戦線から離れた場所へと移動してジャミングシステムを起動する。
2機から発信されたジャミング電波により、自動迎撃システムは一時的にシステムダウンさせられて攻撃が停止する。
『隊長、ジャミングにより自動迎撃システムの機能が停止しました』
『全機、攻撃開始!』
カイルから自動迎撃システムの機能が停止した通信を受けたドルチェフは、パイロット達へ攻撃命令を出す。
ブラックバルチャー隊は、機能を停止した自動迎撃システムをミサイルとガンポッドで次々と破壊していく。
『自動迎撃システムの全機破壊を確認』
自動迎撃システムの反応がレーダーから全て消えた事を確認したカイルがドルチェフに通信を入れる。
『よし。各機、散開して敵機の迎撃に当たれ』
ドルチェフの通信を受けてブラックバルチャー隊は、戦闘ポッドの迎撃に向かう。
『タクヤ、エスター、来るぞ!』
クァドラン・ロー1機とヌージャデル・ガー2機の混成部隊が3機に仕掛けてくる。
3機は散開して迎撃態勢を取る。
ドルチェフ機は、ヌージャデル・ガーへミサイル発射後、一気に間合いを詰める。
そして、発射されたミサイルを避けようとするヌージャデル・ガー2機をガンポッドで瞬く間に撃破する。
「クソ! やっぱ、つええなぁ……よし、俺だって!」
『タクヤ』
タクヤの様子を見たエスターが加勢に入ろうとする。
『エスター、手出しすんな。特訓の成果を見せてやるぜ!』
タクヤは加勢するエスターを引き止めて、単独でクァドラン・ローと対峙する。
タクヤ機は向かってくるクァドラン・ローに攻撃を仕掛ける。
クァドラン・ローはメルトランディ軍の主力機であり、ゼントラーディ軍の戦闘ポッドと違い、高い機動力とミサイル搭載数に長けた機体である。
タクヤは照準を合わせてガンポッドを連射するが、見事に避けられてミサイルを発射される。
「来やがったな、特訓の成果を見せてやるぜ!」
タクヤは機体を上昇させてチャフをバラまきつつミサイルを回避して、そのまま機体を反転させながらクァドラン・ローの後ろに何とか回り込む。
「今だ!」
タクヤは機体をバトロイドに変形させて、そのままガンポッドを撃つ。
タクヤの攻撃に回避が遅れたクァドラン・ローの背中にガンポッドが全弾命中し、クァドラン・ローは爆発する。
「やったぜ!」
タクヤは思わずガッツポーズをする。
『やったね、タクヤ』
クァドラン・ローを撃破して喜ぶタクヤにエスターから通信が入る。
『ああ、これもエスターのお陰さ』
タクヤは満面の笑みを浮かべながら応える。
『ほお、少しはやるようになったな』
最初の頃より戦闘技術が向上したタクヤを見て、ドルチェフが通信を入れる。
『ま、俺が本気出せば、こんなもんですよ♪』
ドルチェフからの通信にタクヤは余裕を見せる。
『いつまでもふざけるな、いくぞ!』
調子づくタクヤを一喝し、ドルチェフはオルフェウス目指して進み、2機も後に続く。
「フン、マイクローン達め。なかなか、やるじゃないか」
ブラックバルチャー隊の戦闘をスクリーンで見ていたネルは、満足そうな表情を見せる。
「アタシも出る。後は任せたぞ」
オルフェウスの指揮を部下に任せてネルは、格納庫へと向かう。
『よし、もうすぐオルフェウスだ……!? 来たか』
オルフェウスから出撃する黒いクァドラン・ローを見たドルチェフは、ネルの存在を確認する。
『タクヤ、エスター、本命の登場だ。援護しろ』
『了解』
3機はネルのクァドラン・ローに次々とミサイルを発射するが、瞬く間に回避されて間合いを詰められる。
「もらったよ」
ネル機は両腕のパルスキャノンをドルチェフ機に目掛けて撃つが、ドルチェフ機はギリギリでかわす。
背後からタクヤ機とエスター機の援護射撃も入るが、ネル機は巧みにかわしてミサイルを2機に撃ち込む。
「くっそー。あの姉ちゃん、やるな」
ネルになかなか攻撃が当たらずタクヤは、悔しさのあまり歯軋りをする。
『どうしたどうした! もっとアタシを楽しませてよ』
3機掛かりでの攻撃でもネルは、余裕の表情を見せながら回避する。
そして、ネル機は不規則な軌道を描きながら3機に近付きミサイルを撃つ。
『タクヤ、エスター、俺に考えがある。手を貸せ』
ドルチェフは案を閃き、急いでタクヤとエスターに通信を入れる。
『何だよ考えって?』
『とにかく手を貸せ!』
『了解』
3機は、ミサイルを回避して散開をする。
そして、ドルチェフ機はネル機に向かってそのまま突撃するが、不規則なネル機の軌道にドルチェフ機は無理矢理合わせる。
「く……ぐっ、ぐぅぅぅぅ」
従来のクァドラン・ローをカスタムして性能を上げたネル機の機動性と、その不規則な軌道に合わせて速度を上げている為、強烈なGがドルチェフの身体にのし掛かる。
『アタシの軌道に付いてくるなんて、やるじゃないか』
ネルは自分に着いてくるドルチェフに関心しつつ、ドルチェフ機に向けてミサイルを発射する。
「くっ……かわせるか……」
ドルチェフ機はチャフをバラまきつつ、不規則な軌道を描きながらもギリギリのタイミングで次々とミサイルを全弾回避する。
『タクヤ、エスター。ヤツの動きを止めろ!』
ドルチェフの通信を受けてタクヤ機とエスター機は攻撃するが、ネル機は機動力を活かして次々とかわしていく。
「ヤツの回避パターンは……そこか!」
2機の攻撃を回避するネル機の回避パターンを先読みしたドルチェフは、機体をバトロイドに変形させて突進し、ネル機を無理矢理羽交い締めにする。
『捕まえたぞ、このオテンバ娘が!』
『しまった。クソ、離せ!』
ネル機は必死にもがくが、機体は完全に手足を抑え込まれて動けなかった。
ネル機を羽交い締めにしたままドルチェフは、全通信回線を開ける。
『テロリストに告ぐ、お前達のリーダーは人質に取った。俺の計らいで殺しはしない。大人しく投降しろ』
ドルチェフの通信を聞いたテロリスト達はネルが捕らえられたのに気付き、次々と動きを止める。
その様子を見たブラックバルチャー隊も攻撃を中止する。
『それで脅しのつもりか? マイクローン』
突如、オルフェウスから通信が入る。
モニターには、大きめの体格に髪をモヒカンにしたゼントラーディ人が映し出される。
『どう言う意味だ?』
『そんな女、死んだって構わないさ。それにそいつが死ねば俺が次期リーダーだからな』
男は不敵な笑みを浮かべる。
『エリック、貴様ぁぁぁぁぁぁ!』
エリックと言う名のモヒカン男の身勝手な言葉にネルは激怒する。
『誰なんだ、アイツは?』
『アイツはアタシの片腕の男だ』
『お前さんは、アイツに見捨てられたと言う事か』
『見捨てられた? ハン、舐めるなよ。あんな奴アタシの方から見捨ててやる』
ドルチェフの憐れむ様な言葉にネルはムキになったのか強がりを言う。
『そもそも、このアタシを殺そうだなんて一千万年早いわ!』
『クックック……相変わらず減らず口だけは一人前のようだなぁ? だが、その減らず口もすぐに言えなくなるようにしてやる』
ネルがエリックの裏切りに怒り狂う中、突如オルフェウスが爆発し始め、中からバルキリーよりも二周り以上大きな巨大兵器が現れる。
「で、でけぇ……」
タクヤはオルフェウスから現れた巨大兵器の大きさに固唾を飲む。
勿論、タクヤだけでなくブラックバルチャー隊全員が巨大兵器の大きさに圧倒されていた。
まるで十字の形をした巨大兵器は、肩部分から収納されていた両腕を展開して戦闘態勢を取る。
『貴様、本当に味方を裏切るのか!?』
戦闘態勢を取る巨大兵器を見たネルは疑心暗鬼になりつつもエリックに通信を入れる。
ネルの問い掛けに対してエリックは、感情を高ぶらせて言い放つ。
その様子を見たネルは、もはやエリックは自分にとっては片腕ではなく敵である事を思い知らされる。
そして、その事を理解したネルは怒りの感情を露わにする。
『クックックッ……貴様が闇取引で手に入れた、このブラッド・ザンバインの実力を身を持って知れ!』
ブラッド・ザンバインはネル機とドルチェフ機に向けて肩部分に搭載されたビーム砲で攻撃を開始する。
『いつまで掴んでる、とっとと離せ!』
ネルの通信を受けたドルチェフ機はネル機を解放し、2機は急速離脱でビームを回避する。
「クッ、すばしっこい奴らめ」
攻撃を回避されたエリックは悔しさのあまり操縦席のパネルを叩く。
『くらえ、エリック!』
ネル機は怒りに任せてミサイルとパルスキャノンをブラッド・ザンバインに向けて撃つが、ミサイルは次々と軌道を逸れ、パルスキャノンは機体に命中するも弾かれてしまう。
『最新型ジャミングシステムにバリアフィールド。お前が仕入れた、このブラッド・ザンバインが役に立つとはなぁ!』
ブラッド・ザンバインの機体能力の高さにエリックは勝ち誇った笑みを浮かべる。
『それにしても素晴らしい性能だ。こんな素晴らしい物をお前なんかが使うには勿体無いな』
『クソ!』
エリックの言葉にネルは悔しさのあまり歯軋りする。
『なあ、何かヤバくないか?』
『このままではネルがやられてしまう』
『俺達で助けに行こう』
様子の異変に気付いた他のテロリストメンバーがネルに加勢し始める。
『ネル、俺達に任せろ』
テロリストメンバーはブラッド・ザンバインに向けて攻撃を仕掛けるが殆どが跳ね返されてしまう。
『やめろ、お前達では無理だ!』
『雑魚が、纏めて消えろ!』
ブラッド・ザンバインは背面部からミサイルと肩部のビームキャノンで攻撃し、テロリストの機体を次々と撃墜していく。
『隊長、遅れてすみません』
ブラックバルチャー隊が戦況を見守る中、マリアとレオンが遅れて戦線に復帰する。
パイロット達が全員揃った時点でドルチェフは、この状況を見て重い口を開く。
『バルチャー1から各機へ、状況が変わった。俺は……あのメルトランディを援護する。着いて来たい奴だけ着いて来い。無理強いはしない』
ドルチェフは味方の裏切り行為がどうしても許せない気持ちになり、ネルを助ける意向をブラックバルチャー隊全員に示す。
『水臭いですよ、隊長』
カイルがドルチェフに通信を入れる。
『そうですよ、俺は隊長に着いて行きますよ』
バルチャー10ことポールも続いて通信を入れる。
『俺達は、この隊に入った時から隊長に命は預けてますからね』
バルチャー5ことアーサーは、笑ってドルチェフに通信を入れる。
ブラックバルチャー隊パイロットは、ドルチェフの意向に次々と賛成する。
ブラックバルチャー隊は統合軍からは掃き溜め部隊と罵られ、パイロット達からは左遷候補とまで言われる程だった。
しかし、そんな事はお構いなしにドルチェフは配属されて来たパイロットを信頼して来ていた。
『お前達……嬉しい事を言うじゃねえか。』
次々とパイロット達から来る同意の声にドルチェフの目にうっすらと涙が浮かぶが、ドルチェフは涙が零れるのを見せまいと咄嗟に目頭を押さえる。
ブラックバルチャー隊に左遷させられて来た当時は、ネガティブなイメージを持っていたパイロット達に対して厳しさと信頼を説いてきたドルチェフ。
そのパイロット達が今では自分を信頼して着いて来てくれる事に心の中で感謝をしていた。
『あれれれ? 隊長、もしかして感動して泣いちゃってるとか?』
その様子を見たタクヤがニヤニヤしながら茶化すようにドルチェフに通信を入れる。
『バカ野郎! 泣くわけないだろう。タクヤ、エスター。お前達はどうする?』
タクヤの茶化した通信を受けたドルチェフは、元の厳つい雰囲気に戻る。
『俺は、あの姉ちゃんを助けたい』
『僕もタクヤと同じです、隊長』
タクヤとエスターは真剣な眼差しでドルチェフに応える。
『よし、決まったな。バルチャー1より各機へ、俺達の敵は、あの大型機動兵器だ。全機突撃!』
『了解!』
ドルチェフに続き他のブラックバルチャー隊もネルの援護に向かう。
『オラオラ、さっきの勢いはどうした?』
エリックはビームやミサイルで攻撃しながらネルを挑発する。
「クソ! エリックの奴」
必死に攻撃をかわしながらネル機は反撃をするもビームは弾かれ、ミサイルもまたジャミングシステムにより無効化されてしまう。
「ビームもミサイルも効かない……いったいどうすれば……」
攻撃が全く効かず、手の打ちようの無い状況にネルは既に死を覚悟していた。
『加勢するぞ、ネル』
突然のドルチェフからの通信にネルが振り返ると、遠方からブラックバルチャー隊が加勢にやって来る。
『やめろ! コイツにはビームもミサイルも効かない。お前達の武器では無理だ!』
ネルはブラッド・ザンバインに攻撃が効かない事をブラックバルチャー隊に通信を入れる。
「ビームもミサイルも効かない……」
ネルの通信を聞いたエスターは頭の中で対策方法を考える。
『隊長、僕に考えがあるのでやらせてください』
エスターは策を考えたのかドルチェフに通信を入れる。
『わかった、やってみろ』
『了解』
ドルチェフの了承を得たエスターは、機体をブラッド・ザンバイン目掛けて突撃を開始する。
『まだ雑魚がいたのか。雑魚が何機来ようが無駄だ! 死ねぇぇぇ!』
ブラッド・ザンバインはエスター機目掛けてミサイルを発射する。
エスター機は、きりもみをしながら迫り来るミサイルを回避し、ブラッド・ザンバインの右肩へ接近すると同時に機体をバトロイドに変形させる。
「ビームやミサイルがダメならこれで!」
そして、ガンポッドから銃剣を展開させたエスター機は、そのままブラッドザンバインの右肩へ銃剣を突き刺す。
「な、なにいぃぃ!」
銃剣が突き刺さった右肩から火花が上がる。
今まで攻撃が全く通用せず勝ち誇っていたエリックは、銃剣を刺されて火花を上げるブラッド・ザンバインに驚く。
『スゲェ! やるな、エスター』
タクヤは、エスターの作戦に感心しながら通信を入れる。
『隊長、格闘兵器なら攻撃が効くかも知れません』
エスターは、格闘兵器がブラッド・ザンバインに有効である事をドルチェフに伝える。
『わかった。バルチャー1より各機へ、ヤツは格闘兵器が弱点だ。思いっきりやってやれ!』
『了解』
ドルチェフの命令を受けてブラックバルチャー隊は、次々とブラッド・ザンバインに突撃する。
「クッ……ク、クソォォォ!」
エリックは予想外の事に混乱しながらもビームやミサイルを乱射してブラックバルチャー隊を攻撃する。
『全機、フォーメーション11』
マリアのVF-14を先頭に5機のVF-11がバトロイドに変形してガンポッドでミサイルを撃破し、残りのVF-11がビームをかわしつつブラッド・ザンバイン付近でバトロイドに変形してガンポッドの銃剣を次々と突き刺していく。
「バ、馬鹿な……こ、こんな筈では……」
火花を散らすブラッド・ザンバインにエリックは狼狽えていた。
ビームやミサイル等の遠距離攻撃を受け付けない為、ほぼ負ける事はないと思っていた故に格闘戦の事は考えていなかった。
『おい、トドメはアタシにやらせろ!』
エリックの裏切りや犠牲になった仲間への敵討ちとして一太刀報いたいネルが通信を入れる。
『いいだろう』
『じゃあ、僕のガンポッドを使ってください』
エスター機は、ネル機にガンポッドを渡す。
ガンポッドを受け取ったネル機は、火花を散らすブラッド・ザンバイン目掛けて飛ぶ。
『援護するぜ、姉ちゃん』
ブラッド・ザンバインに向かうネル機の援護にタクヤ機が加わる。
『アタシの足でまといにならないように頼むぜ、ボウヤ』
『だからボウヤじゃねえって!』
ネル機とタクヤ機は巧みなコンビネーションでブラッド・ザンバインに接近する。
ネル機のコクピットモニターにブラッド・ザンバインのデータが表示される。
「コクピットは……ここか」
コクピットモニターからブラッド・ザンバインのコクピットを確認したネルは機体をブラッド・ザンバインの背後へと回し、その後をタクヤ機も続く。
「クソ! 動け、動けよぉ!」
ブラックバルチャー隊の攻撃で既に火花を上げるブラッド・ザンバインのコクピットの中で、エリックは必死にトリガーを動かす。
しかし、動力回路系をやられている為、エリックが必死にトリガーを動かしても、もはや動く気配すらなかった。
そんなエリックの目の前にネル機が姿を現す。
「こんのぉぉぉ!」
ネル機はガンポッドの銃剣を展開して大きく振り上げる。
「ひ、ひぃぃぃぃ!」
ブラッド・ザンバインのコクピットにガンポッドの銃剣が刺さる。
「ついでに、こいつも喰らいやがれ!」
タクヤは照準をブラッド・ザンバインのコクピットに合わせてトリガーを引いて、ガンポッドを撃ち放つ。
銃弾がコクピットに次々と命中すると同時にブラッド・ザンバインは各部から次々と火花を上げる。
『急げ、爆発に巻き込まれるぞ!』
『お、おう』
ネル機とタクヤ機は、急いでブラッド・ザンバインから離れるとブラッド・ザンバインは大爆発を起こす。
『やったな、姉ちゃん』
『ああ』
タクヤ機とネル機は、互いにハイタッチをしながら笑顔を見せる。
『いや、まだだ』
タクヤとネルの通信にドルチェフが割り込む。
『どういう事だよ?』
せっかくの雰囲気に水を差すように割り込むドルチェフにタクヤは食って掛かる。
『タクヤ、今回の俺達の任務の目的は何だ?』
『任務の目的? 目的って確かテロリストの殲滅……あ!?』
任務内容を思い出すと同時にタクヤの表情は強張る。
『そう言う事だ』
ドルチェフ機はガンポッドをネル機に向ける。
『待てよ、助けるんじゃなかったのかよ?』
『悪いな……気が変わった』
『……え!?』
先程まで助けると言っていたドルチェフの変わり様にタクヤは言葉を詰まらせる。
『隊長、お願いです。考え直してください!』
ドルチェフの急な心変わりにエスターは通信を入れて説得する。
『フン、やっぱりそう言うことか……好きにしたら? もうアタシには帰る場所も仲間も失ったんだ』
エリックにより仲間を殺されて帰る場所も失ったネルは、ドルチェフ機にガンポッドを向けられたまま既に覚悟を決めていた。
『そうか、わかった』
『止めてくれよ、隊長!』
『隊長!』
タクヤとエスターの静止も虚しくドルチェフは、トリガーを引いてガンポッドを撃つ。
しかし、ガンポッドの銃口はネル機ではなく真上を向いていた。
『今のでネル・ヤギアスは死んだ。タクヤ、エスター……これでいいだろう?』
ドルチェフはタクヤとエスターに通信を入れる。
その口元は微かに笑っていた。
『隊長……』
『な、なんだよ。脅かしやがって』
『安心しろ。俺はそう簡単に信念を曲げたりはしないさ』
ドルチェフの言葉にエスターの表情は明るくなり、タクヤは安堵の表情をする。
『……どうして助けた?』
本来、抹殺対象である自分を殺さないドルチェフにネルは問い掛ける。
『男は女を殺したくはないし、気は引けるものだ。まあ……俺の気まぐれみたいなもんだ』
ネルの質問にドルチェフは、少し照れ臭そうにネルに応える。
その答えにネルは少し呆れた表情をしていた。
男と言うのは、こうも女に対して単純なんだと。
『どうだ、ネル。ここで会ったのも何かの縁だ。俺達の部隊に入らないか?』
『……』
ドルチェフの入隊勧誘にネルは黙り込む。
『俺達の部隊にもゼントラーディもいるし、メルトランディもいる。まあ、無理強いはしないが……』
『……断る。アタシは統合軍のゲス共は大嫌いだ!』
ドルチェフの誘いにネルは感情的に応える。
『……そうか』
ネルの返答にドルチェフは、少し肩を落とす。
『……だが……お前達の部隊は面白そうだし、退屈しなさそうだしな。だから……入ってやってもいい』
ネルは照れ隠しの笑顔をドルチェフに見せる。
ネルの返事を聞いたドルチェフは、素直にならないネルの態度に思わず口元を緩ませる。
『わかった、よろしく頼む。よし、全機帰還する』
『了解!』
ドルチェフはブロウニングに通信を入れる。
『バルチャー1よりホークスへ。任務完了、これより帰還する。』
『ホークス1了解。皆さん、お疲れ様です』
『ああ、それから大きな荷物があるからカタパルトを一つ空けておいてくれ』
『コラ、アタシを荷物扱いするな!』
ドルチェフの通信にネルはツッコミを入れる。
『フフ、了解しました』
ドルチェフとネルのやりとりにエミリアは笑って応答する。
他のパイロット達も任務からの開放感からか笑顔を見せていた。
任務を終えて、ブラックバルチャー隊は基地へと帰還する。
ブラックバルチャー隊と共に基地へと帰還したネルは、基地内のマイクローン装置でマイクローン化してマリアに基地を案内してもらっていた。
「一応、基地の施設の案内は大丈夫かしら?」
「ああ、大丈夫だと思う……多分」
マリアに基地内を案内される最中、ネルはキョロキョロと見回していた。
恐らくネルも基地の中の雰囲気が珍しいのだろう。
しばらくして部屋の前でマリアは立ち止まる。
「ここの部屋を使ってね」
マリアは部屋のドアを開けて照明を点ける。
「ありがと……? ねえアンタのその耳……もしかして、アンタもメルトランディ?」
ネルはマリアの尖った耳に気が付いたのか、ふと問い掛ける。
「ええ、そうよ。良かったら仲良くしてね」
マリアは少しだけはにかんだ笑顔を見せる。
同じメルトランディ人の同胞が増える事にマリアは内心嬉しかった。
「あ、ああ。しかし、アンタみたいなのが何でこんな部隊にいるのさ?」
マリアに基地施設内を案内されたネルは、暗い雰囲気の基地と劣悪な環境惑星にいるマリアが不思議で仕方がなかった。
「私は、ここに飛ばされたのよ。正確に言うとタクヤとエスターを除く、ここの人達全員ね。」
ネルの質問にマリアの表情が少しだけ曇る。
「飛ばされた? 飛ばされったって、どう言う事?」
マリアの言葉にネルは驚く。
「私達の部隊は、あなたの嫌いな統合軍によって飛ばされた軍人達で編成されているのよ」
「そ、そうか……アンタも色々とあったんだな。悪かったな、ヘンな事を思い出させて」
マリアから事実を知らされたネルは申し訳なさそうな表情をする。
「もう慣れたわ。それに、これぐらいでへこたれていたらフィリアに笑われるわ」
「フィリア?」
「妹よ、私にとって唯一の家族。今はマクロス8船団でパイロットをしているわ」
先程の曇っていた表情から一転してマリアは笑って応える。
「そうか。いいな……アタシには家族と呼べる人なんていなかったな。両親の顔も知らず、物心ついた時にはテロリストの一員になってたし……」
ネルは自分の生い立ちを思い出して憂鬱な表情を見せる。
ちょうどネルが生まれた時、ゼントラーディ軍の強襲により誘拐されてテロリストの一員として育てられていた。
両親の愛情も貰えず、見ず知らずのゼントラーディ人との生活が当たり前となっており、家族の温かさを知らなかった。
「だったら、これからは私達があなたの家族ね」
「え?」
マリアの家族と言う言葉にネルは、きょとんとする。
「いきなりは無理でしょうけど、みんな話せば分かってくれるわ」
「そうかなあ?」
マリアの言葉にネルは疑問を感じていた。
先の戦闘で同胞の裏切りにあったので、疑心暗鬼になるのも無理はなかった。
「隊長だって分かってくれるわ」
「隊長って、あのイカつい顔のおっさんでしょ?」
ネルはドルチェフの顔を思い浮かべる。
「ええ、そうよ。まあ……確かに怖そうな顔をしているけど、部下からの信頼は大きいわ」
「確かに怖そうだけど、アタシを殺さずに受け入れてくれたから良い人なのかもな」
ネルはドルチェフの行動を思い出して、とりあえず納得する。
「そこは私が保証するわ。そうそう、あなたの機体も手配が済んでいるから次からの出撃は、その機体でお願いね。バルキリーを操縦した事は?」
マリアの質問にネルは首を横に振る。
元々テロリストとしてクァドラン・ローに搭乗していたネルは、バルキリー自体を操縦する事は全く無かった。
「じゃあ、明日から私が特訓してあげるわ」
「はは……お手柔らかに」
マリアの言葉にネルは苦笑いをする。
しかし、その表情には仲間としての温かみによる嬉しさを覗かせていた。
次回予告
ブラックバルチャー隊に一人の少女が配属される。
その少女の冷たい瞳に映るものは……
そして、明かされるドルチェフの過去
次回「メモリー・オブ・ドルチェフ」