MACROSS-A.D.2048-   作:eisyama

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 ブラックバルチャー隊に一人の少女が配属される。
 その少女の冷たい瞳に映るものは……

 そして、明かされるドルチェフの過去


第4話メモリー・オブ・ドルチェフ

 タクヤとエスターがブラックバルチャー隊に配属してから1ヵ月が過ぎた。

 少しずつ部隊の雰囲気にも慣れてきたのか、最近はエスターと共にメンバー達と交流したり訓練を行う事もあった。

 

 ある日、ブラックバルチャー隊基地に1隻の補給艦が着陸する。

 

「よく来たな、ラナ」

 

「バーミリオンセイバー隊以来ね」

 

「はい、これからよろしくお願いします」

 

 ドルチェフとマリアは、補給艦から降りてきたラナと呼ばれる少女と会話をしている。

 少女はライトブルーのショートカットに銀縁眼鏡を掛けているが、少し冷たい感じがする瞳が特徴的だった。

 しかし、ドルチェフとマリアとの会話で覗かせる目元は何処と無く笑っていた。

 

「あ~、終わった終わった」

 

 タクヤはエスターとレオンと共に哨戒任務を終えて戻ってくるなり、ヘルメットを外して首を思い切り左右に振る。

 

「二人ともお疲れ」

 

 レオンがコクピット上から労いの言葉を二人に掛ける。

 

「レオン先輩もお疲れ様です」

 

 レオンの言葉にエスターは笑顔で応える。

 

「腹減ったし、とっとと帰ってメシにしようぜ……って、あれ?」

 

 タクヤは少女と会話をするドルチェフ達の方に視線を向ける。

 

「おっさんとマリア、誰と話してんだ?」

 

「見かけない人だね」

 

 タクヤの言葉にエスターとレオンも一緒に覗く。

 物資の補給は時々あるが人員の補充は殆ど来ない為、三人にとっては物珍しく感じていた。

 

「うーん……顔は、なかなかイケるんだが、何か冷たい感じだなぁ」

 

 ラナを見たレオンは第一印象を呟く。

 冷たさを感じさせる瞳の印象はレオンだけでなくタクヤも気付いていた。

 

「レオンさんも、そう思う?」

 

「ああ。俺は、ああいう女とは、お近づきにはなりたくないな」

 

「あの様子からして、絶対性格も暗いと思うぜ」

 

「ああ、間違いない」

 

 ラナを見たタクヤとレオンは意見が一致したのか、お互いに顔を合わせて頷く。

 

 その日の午後、急遽ブリーフィングが開かれる事となり、パイロット達はブリーフィングルームへと集まる。

 

「本日より我が隊に配属になった、ラナ・ルピナス少尉だ」

 

 ドルチェフの紹介を受け、ラナは一礼する。

 

「ラナ・ルピナスです。よろしくお願いします」

 

 ラナは冷たい表情のまま淡々と挨拶をする。

 冷たい瞳と物静かな雰囲気にブリーフィングルーム内は、微妙な雰囲気を醸し出されていた。

 ラナの挨拶が終わるとドルチェフとマリアが率先して拍手をする為、周りも空気を読んで拍手をする。

 

「彼女のオペレーターとしての実力は、俺が保証する。何かと迷惑を掛けるかも知れんが、そこは許してやってくれ。何か質問は?」

 

 話を終えてドルチェフは辺りを見回すが、特に誰も手を挙げる様子はなかった。

 

「よし、以上でブリーフィングは終了だ。各自トレーニングするなり、飯なり食ってこい」

 

 ブリーフィングが終わり、パイロット達はブリーフィングルームを後にする。

 

「なんだよ、あの暗くて辛気くせぇ女。これから出撃の度にあんな暗い雰囲気で指示されると思うと、こっちまで気分が暗くなるぜ」

 

 ブリーフィングルームからの帰路、タクヤはラナの暗い雰囲気に対して文句を垂れる。

 

「タクヤ、そんな事は思っていても言わない方が良いよ」

 

 タクヤの人を見かけで判断するような言い方にエスターは苦言する。

 

「じゃあ、エスターはどう思うよ?」

 

「え? うーん……まあ、ちょっと物静かで大人しい感じかな?」

 

 タクヤの問い掛けにエスターは無難に応える。

 

「まあ、お前ら似たり寄ったりだしな」

 

 ラナもエスターもパッと見の印象は、大人しいので雰囲気的にも似ていた。

 その雰囲気を頭の中で比較しながらタクヤは、エスターに聞こえないように皮肉を呟く。

 

 タクヤとエスターが部屋へ戻る途中、格納庫で普段よりも騒々しい音が聞こえたので、二人は格納庫へと足を運ぶ。

 

 格納庫では、メカニックマン達が作業用デストロイドで届いた物資の積み込み作業を行っていた。

 

「何か新しい機体とか入って来ないかなぁ」

 

「入って来るといいよね」

 

 二人は、格納庫内に積まれている物資をキョロキョロと見回す。

 

「お? タクヤにエスター。ちょうど良い所に。すまないけど手が空いてるなら手伝ってくれないか?」

 

 格納庫を覗いている二人にミランが声を掛ける。

 

「いいですよ」

 

 ミランの依頼にエスターは即答で応える。

 

「すまないな」

 

「……ちょっと待てよ。俺は手伝いたくねぇよ」

 

 エスターとは対照的にタクヤは嫌そうな表情を見せる。

 只でさえ任務や訓練もない貴重な非番の時間を余計な事で使いたくなかったから尚更である。

 

「物資搬入の手伝いをしたら、もしかしたら補給物資の中身がいち早く見れるかもなぁ……」

 

 エスターはタクヤにやる気を出させる為、少しだけ悪戯ぽく言う。

 

「……わかったわかった。手伝えば良いんだろ?」

 

 物資の中身が人一倍気になるタクヤは、エスターの言葉を渋々了解する。

 

 「どうすればいいですか?」

 

「とりあえず、バルキリーを使って荷物を全部格納庫に入れてくれ」

 

「わかりました」

 

 ミランの指示で二人はバルキリーに乗り込み、エンジンを始動させる。

 

『タクヤ、ガウォークの方が早く運べるよ』

 

『そうだな、ガウォークでササっと運ぶか』

 

 二人は機体をガウォークへ変形させて補給艦からの補給物資を次々と格納庫へと運んで行く。

 

 物資に貴重品があると思ったエスターは、丁寧に両手のマニピュレータで一つずつ物資を掴んで速度を落としてゆっくりと運んでいく。

 

『オラオラどけどけ、タクヤ様のお通りでい!』

 

 そんなエスターとは対照的にタクヤは、物資をマニピュレータで持てるだけ持って一気に加速して運んでいく。

 運ぶ途中で進行方向の邪魔になる作業用デストロイドを巧みにかわしながら格納庫へと運んで物資を下ろす。

 

「タクヤ、もうちょっと大切に運べ!」

 

 その様子を見ていたミランは、大声でタクヤに叫ぶ。

 

『ほいほ~い』

 

 ミランの大声に気付いたのか、タクヤは一度に掴む物資を減らして運ぶ。

 

 タクヤとエスターが手伝ったおかげで搬入作業は予定よりも早く終了した。

 

「いやあ、二人のおかげで助かったよ。俺達だけだったら、まだ片付かなかったな」

 

 搬入作業が早く終わり、ミランはニコニコ顔で二人を労う。

 

「お役に立てて良かったです」

 

 ミランの労いにエスターは笑顔で答える。

 

「ミランさん、さっき運んだ物資って何が入ってたんスか?」

 

 物資の中身が気になるタクヤがミランに問い掛ける。

 

「ん? あれか。ちょっと待ってよ、えーと……」

 

 ミランはポケットから到着した物資のリストを取り出す。

 中身が気になるのか、タクヤがミランの隣から覗き込む。

 

「とりあえず、予備用のVF-11が3機にスーパーパックが15セット、アーマードパックが4セットに雑貨品やら食料とかその他諸々だな」

 

 ミランはリストを指差し確認しながら搬入物資を読み上げる。

 

「おお! ついにスーパーパックとアーマードパックが入ったかぁ♪ じゃあ、次の出撃の時はアーマードパックを使うぜ!」

 

 新しい装備にタクヤの目は輝かせていた。

 

 ブラックバルチャー隊は厄介者扱いの為、VF-11用の装備は追加されず、標準装備での任務遂行が主だった為、今回の補給物資はタクヤに限らず、パイロットにとっては有り難い事だった。

 

(まだ、タクヤの物と決まったわけじゃないのに……)

 

 エスターは浮かれるタクヤを見て苦笑いする。

 

「そうだ。ついでと言っちゃあ、なんだけど……オプションパーツの換装作業も手伝ってくれないか?」

 

 ミランは笑顔で二人に換装作業をお願いするが、その笑みには手伝えと言う微妙な圧があった。

 

「いいっスよ!」

 

「僕も構わないですよ」

 

「え、マジで?」

 

 嫌がる所か即答する二人にミランは驚いた表情を見せる。

 

「またバルキリーで作業すれば良いですよね?」

 

「あ、ああ。頼むよ」

 

 二人はバルキリーに乗り込み、機体をバトロイドに変形させて他の作業用デストロイドと共にオプションパーツの換装作業を行う。

 

「オプションパーツは、予備が無いから優しく扱ってくれよ。それから予備の1機だけフルアーマード装備を取り付けてくれ」

 

 ミランは作業をする二人に指示を呼び掛ける。

 

(てっきり断られると思ったんだが……まあ、あの二人のおかげで他の作業ができるからいいか)

 

 二人の作業ぶりを見ていたミランは、感心しつつ自分の作業に没頭する。

 

 ミランの指示通りに2機は、丁寧に格納庫内の全てのVF-11にスーパーパックを取り付けていく。

 フルアーマードパーツは、予備機のうちの1機をバトロイドに変形させてから取り付ける。

 

『各パイロットに通達。パイロットは至急ブリーフィングルームに集合せよ。繰り返す……』

 

 ラナの声でパイロット召集命令が基地内に流れる。

 

「何だ?」

 

「お前達、行った方がいいぞ」

 

「でも……」

 

 エスターは、作業中の状況を見て少し躊躇する。

 まだいくつかの機体がスーパーパックへの換装作業が済んでいないからだ。

 

「お前達の本職はパイロットだろ? 後の作業は、俺達の本職だから任せておけって」

 

 躊躇するエスターを見てミランは、右親指を突き出す。

 

「わかりました」

 

「じゃあ、行って来ます!」

 

 ミランの言葉を受けて二人は格納庫を後にし、ブリーフィングルームへと向かう。

 

「13:42、これよりブリーフィングを始めます」

 

 今回のブリーフィングからラナも参加していた。

 

「先程、統合軍ライザンバー基地よりウチの部隊に護衛任務の指令が出た。内容は、超空間共振水晶体を積んだステルス艦ハルカをポイントイプシロンへの護衛だ」

 

 ドルチェフは資料を読み上げて任務内容を説明する。

 

「隊長、しつもーん!」

 

 タクヤが威勢良く手を挙げて質問する。

 

「何だ、タクヤ」

 

「その超空間なんちゃらって、なんですか?」

 

「超空間共振水晶体だ」

 

「そう、それそれ」

 

 あやふやな言葉にドルチェフは正しい言葉を説明し、その言葉にタクヤは頷く。

 

「あー……それはだな……」

 

 ドルチェフはタクヤの質問に答える為、資料のページをパラパラとめくる。

 

「2043年に発見された水晶体。特定の波長の振動を与えることにより空間共振現象を引き起こし、次世代の通信や超空間航行を可能にする新たな鉱物です。この回答でよろしいですか? タクヤ伍長」

 

 ドルチェフが資料を探している間にラナはタクヤの質問に黙々と答える。

 

「あ……あんがと」

 

 ラナの的確な回答にタクヤは、思わず呆気に取られる。

 

「すまないな、ラナ」

 

「気にしないでください。隊長をサポートするのが私の役目ですから」

 

 ドルチェフの労いの言葉にラナは僅かに微笑む。

 

「ポイント地点、ディスプレイに映します」

 

 ラナはボタンを押してディスプレイに映像を映す。

 

「ステルス艦ハルカとはライザンバー基地から少し離れたポイントエータで合流。その後、ポイントイプシロンまで護衛してください。なお、今回は交代制少人数による護衛任務になります。2チーム編成で1チームがステルス艦ハルカの護衛、もう1チームがブロウニングの護衛です」

 

 ディスプレイの映像を切り替えつつもラナは淡々と任務内容を説明する。

 

「聞いての通りだ。チームは1チーム4機での護衛になる。チームはバルチャー3~6がシャーク隊。バルチャー7~10がパンサー隊。俺とマリア、タクヤ、エスターがイーグル隊だ」

 

 ディスプレイに分隊振り分けを映しながらドルチェフは、パイロット達に分隊説明をする。

 

「ちょっと待て、アタシは出撃しないのか?」

 

 一人だけ番号を呼ばれなかったネルがドルチェフに質問する。

 

「すまないが、今回はブロウニングで留守番をしてくれ」

 

「えぇぇぇ! アタシだけ留守番? なによそれ!」

 

 ドルチェフから留守番扱いされて出撃ができない事にネルは不満げな態度を取る。

 

「そう言うな、いざという時にはブロウニングの援護に出て貰わなければならなからな」

 

「……はいはい、わかったわよ」

 

 ドルチェフの説得にネルは渋々了解するが、その表情はふてくされていた。

 

「これより1時間後に出撃する。各自出撃準備に入れ」

 

 ブリーフィングが終わり、パイロット達はブリーフィングルームを後にする。

 

 タクヤとエスターは部屋に戻って準備を済ませ、機体のチェックをしに格納庫へと向かう。

 辺りはメカニックマンやパイロット達が機体の最終チェックや整備を行っていた。

 

「タクヤ、エスター」

 

 タクヤとエスターの姿を見掛けたミランが声を掛ける。

 

「ミランさん」

 

「お前達が手伝ってくれたお陰で作業も早く終わったよ。ありがとな」

 

 ミランは二人にお礼を言う。

 

「お役に立てて良かったですよ」

 

「まあ、俺達の手に掛かればコレくらい余裕っスよ」

 

 ミランのお礼にタクヤは得意げに話す。

 

「おーし、それだけ余裕があるなら機体を壊さずに帰って来いよ!」

 

 調子づくタクヤにミランは、悪戯っぽい口調で機体を無傷で帰還する事を約束させる。

 

「げげっ、それはカンベンしてよ」

 

 ミランの言葉にタクヤは嫌そうなを浮かべる。

 

「ははは、半分冗談だ。二人共、頑張れよ」

 

 笑いながら冗談を言った後、ミランはタクヤとエスターに軽く敬礼する。

 タクヤとエスターもミランに軽く敬礼を返して機体確認に向かう。

 

 VF-11には既に大気圏外用装備のスーパーパックが装備されている。

 

「ついにスーパーパック装備で出撃かぁ……」

 

 タクヤは新装備の嬉しさに浮かれていた。

 

「タクヤ、早く最終チェックをしないと、また隊長に怒られるよ」

 

 喜びに浸りきっているタクヤをエスターが急かす。

 

「わーったわーった」

 

 エスターに急かされてタクヤは、自分の機体チェックを行う。

 

 1時間後、VF-14と宇宙戦装備を施したVF-11を艦載したブロウニングは、ステルス艦ハルカとの合流ポイントであるポイントエータへ向けて発進する。

 

(今回は輸送物資の護衛か……それにしても超空間共振水晶体の輸送とはな。護衛中に悪い事が起こらなければいいが……)

 

 ドルチェフは、資料を読みつつも頭の中で色々と物思いに耽る。

 

 超空間共振水晶体自体は貴重な鉱物であり、2048年現在この鉱物を用いた通信技術は少しずつ増えてきており、その通信技術は目を見張るものがある。

 しかし、この鉱物自体は希少価値がある為、マフィアやシンジケート達の間では多額の金額で闇取引がされている。

 その為、その鉱物を狙って輸送船が襲われるケースも少なくはない。

 

『これより本艦はポイントエータへ向けてフォールドを開始します。各員はフォールド態勢の準備をせよ。繰り返す……』

 

 ラナの艦内放送が流れ、ブロウニングはポイントエータへのフォールド態勢に入る。

 

「フォールドなんて、ここの部隊に来る時以来だよなぁ」

 

「そうだね」

 

 タクヤとエスターは、割り当てられたパイロットルームで初めての出撃を懐かしんでいた。

 

「しかし、あのラナって女、もう少し愛想良くできないもんかなぁ。あれで愛想良けりゃ、お付き合いしたいんだけどなぁ……ホント勿体ねえよ」

 

 タクヤはベッドに寝転がりラナの話をする。

 ラナに対して、ぶつくさと文句を言っている割にはタクヤ自身もラナに気があるようだ。

 

「うーん……彼女にも彼女なりの事情とかがあるんじゃないかな? ほら、隊長とマリア大尉の前では楽しそうに話してたし」

 

 エスターはドルチェフ達と楽しそうに会話をするラナを思い出す。

 普段の会話では冷たい視線で黙々と話す彼女がドルチェフやマリアの前では嬉しそうな表情を見せていた印象がエスターには強く残っていた。

 

「事情ねぇ……そんなもんなのかなぁ? それはそうと、俺達のチームは偵察いつだっけ?」

 

「確か、明日の2時からだよ」

 

 エスターはポケットからメモを取り出して自分達の任務時間を確認する。

 

「そっか。じゃあ、時間まで寝てるから時間になったら起こしてくれ」

 

「うん、わかった」

 

 エスターに時間になったら起こしてもらうように頼み、タクヤは眠りにつく。

 日中の補給物資の運搬作業で疲れていたのか、しばらくしてタクヤの寝息が聞こえてくる。

 

 しばらくしてブロウニングは、ポイントエータ付近へフォールドアウトをする。

 

「フォールドアウト完了。ポイントエータまで後5,400km」

 

「各部異常はありません」

 

 ラナ達の状況報告にドルチェフは無言で頷く。

 

「ラナ、身体は大丈夫か?」

 

「私なら大丈夫です。状況通達、入れます」

 

 ドルチェフに少しだけ微笑み、ラナは艦内回線を開ける。

 

『各パイロットに通達。ポイントエータまで後5,400km。繰り返す……』

 

 ラナの艦内放送が流れ、ポイントエータまでの距離が案内される。

 初陣を任されているパイロット達は格納庫へと向かい出撃準備に入る。

 

「もう少しか……」

 

 艦内放送を聞き、エスターは少し緊張したのか胸が張り裂けそうな気分になる。

 ブラックバルチャー隊に配属されて既に4回目の任務に出撃をして多少は場慣れしたとは言え、任務の時が近付いてくるとまだまだ気が張り詰めてくる。

 

 ふと、時計を見ると21時を過ぎていた。

 

「僕も少しだけ寝ておかなきゃ。寝不足でみんなに迷惑掛ける訳にもいかないしね」

 

 少しでも疲れを取る為、エスターは椅子にもたれて座り仮眠を取る。

 

「まもなく合流ポイントです。ハルカからの通信、入ります」

 

 合流ポイント付近へと近付いたブロウニングにハルカからの通信が入る。

 ハルカからの通信を受けるとモニターに男の姿が映る。

 男の風貌は、落ち着いた感じがする優男だった。

 

「こちら統合軍ライザンバー基地所属、タイラー・ライネルです。よろしくお願いします」

 

 タイラーと名乗る優男は礼儀正しく深々とお辞儀をする。

 

「統合軍ブラックバルチャー隊所属、ドルチェフ・ブライアンです。こちらこそ、よろしく」

 

 タイラーの丁寧な挨拶に対してドルチェフも思わず席を立ち、タイラーにならい深々とお辞儀をする。

 

「早速ですが、こちらから護衛機4機をそちらに向かわせます」

 

「了解しました。こちらも護衛機を出しますが生憎、今回の任務が隠密行動故に護衛機が4機しかいないもので、とても助かります」

 

 タイラーから支援感謝の言葉を述べられて通信は切れる。

 

「ふぅ……どうも堅苦しい挨拶は苦手だ」

 

 統合軍入隊後、あまり普段から堅苦しい挨拶等をしていなかった為、タイラーとの通信が切れた後、ドルチェフはシートに座り、堅苦しさからの開放感からか思わず溜め息を吐く。

 

「ラナ、シャーク隊とパンサー隊に出撃命令だ」

 

「了解」

 

 ドルチェフの指示を受け、ラナは艦内放送の回線を開ける。

 

『シャーク隊、パンサー隊、出撃。出撃後、シャーク隊はハルカ、パンサー隊はブロウニングの護衛に回れ』

 

 ラナの管制指示によりブロウニング下部カタパルトが展開し、8機のVF-11が出撃する。

 出撃後、各隊は二手に分かれてハルカとブロウニングのそれぞれの艦の護衛に回る。

 

「各部隊、それぞれの所定位置に着きました」

 

「うむ」

 

 ラナの報告にドルチェフは頷く。

 

「それにしても、ラナまで私達の部隊に回すなんて……」

 

 マリアはラナが掃き溜めと呼ばれる自分達の部隊に転属させた統合軍のやり方に納得できず、眉間にしわを寄せる。

 ラナ自身は特に業務上でも問題もなく、与えられた仕事はソツなくこなしていた為、尚更疑問に感じていた。

 

「恐らく、ラナをこの部隊に寄越したのは……アイツの意向だろうな」

 

 マリアの言葉にドルチェフは、ある人物を思い浮かべて目を閉じて考え込む。

 

「……そうね」

 

 その人物に対して今は何もできない事にマリアは悔しさのあまり思わず奥歯を噛み締める。

 

「私なら大丈夫です……心配しないで」

 

 そんな二人を見ていたラナは心配掛けまいと声を掛ける。

 

「ラナ、これはお前だけの話じゃない。俺達全員に関わる話だ。アイツのおかげで今の統合軍は腐りきったも同然だ」

 

「そうね、いつか私達も部隊ごと消される事もあるし……」

 

 ドルチェフの言葉にマリアは不安げな面持ちを持つ。

 ブラックバルチャー隊も統合軍の掃き溜めと呼ばれているだけあって、任務も過酷な内容の物が統合軍本部から頻繁に来る事がある。

 だからこそ、いつ部隊が捨て駒として全滅してもおかしくない状況であった。

 

「私は、二人に生きていて欲しい……だって、私にとっては大切な二人だから」

 

「ラナ……」

 

 ラナの胸の内の想いを聞いたドルチェフとマリアは、お互いに顔を見合わせる。

 

「そうだな、俺達は全員で生き残る……いや、生き残らなければならない」

 

「ええ」

 

「はい」

 

 ドルチェフの固い想いにマリアとラナは頷く。

 

(そして、俺だけでもアイツに制裁を加えてやらなければならない)

 

 その胸の中でドルチェフは復讐を誓っていた。

 今の統合軍を腐らせ、統合軍の掃き溜め部隊に無理矢理転属させた張本人に。

 

「ねえ隊長。盗み聞きで悪いけど、ラナさんとはどんな関係なんですか?」

 

 三人の話を聞いていたアイナがドルチェフに問い掛ける。

 

「はいはーい、私も気になるなぁ~♪」

 

 アイナ同様にエミリアも興味津々な目をしている。

 

「それに関しては後で説明する。それに今は任務中だから仕事に戻れ」

 

「えー……」

 

 ドルチェフに激を飛ばされて二人は不満そうな表情を浮かべる。

 どちらかと言うとラナとの過去話を話してラナに余計に負担を掛けさせたくないと言う彼なりの親心でもあった。

 

「あ、もしかして……隊長って、ロリ……」

 

 エミリアがドルチェフを茶化すような言葉を言い終えようとした時、ドルチェフの殺気立った眼差しがエミリアに突き刺さる。

 

「ひっ!」

 

 その眼差しを受けたエミリアは恐怖におののく。

 

「エミリア、何か言ったか?」

 

「い、いえ……な、何も言っていません」

 

 殺気立った眼差しを向けられてエミリアは全身から冷や汗を流しつつ身体をガタガタと震わせていた。

 

「二人共、今は任務中よ。モニターやレーダーから目を離さないで」

 

「はーい……」

 

 マリアの注意に二人は不満げな表情のまま、お互いに顔を見合わせる。

 

……クヤ

 

……きてよ

 

「うーん……」

 

……ってば

 

「もう少し寝かせてくれよ……って、ヤバ!」

 

 エスターの声に気付いたタクヤは目が覚めて勢いよくベッドから起き上がる。

 

「あ、起きた」

 

 勢いよく起き上がる姿を見ると同時に不安そうな表情だったエスターの表情は明るくなる。

 

「お、おっさんは?」

 

 前回エスターに起こしてもらっても何時までも寝ていてドルチェフに殴られた為、目が覚めると同時にタクヤはビクビクしながら辺りを見回す。

 

「隊長なら、まだ来てないよ」

 

「あー、よかったぁ……また殴られるかと思ったぜ」

 

 ドルチェフがいない事を確認したタクヤは、ホッと息を吐く。

 そして、額に汗をかいている事に気付き汗を拭う。

 

「そろそろ時間だから行こう」

 

「ああ」

 

 二人は出撃準備をして格納庫へと向かうが、その途中タクヤは休憩室へと向かう。

 

「どうしたの?」

 

「ちょっと腹減っちゃってさ」

 

 タクヤは休憩室に備え付けの自販機でジャンクフードとジュースを購入して食べ始める。

 

「今食べるとトイレが近くなるよ」

 

「へーきへーき」

 

 エスターの忠告を聞き流しつつもタクヤは食事を終えて、再び格納庫へと向かう。

 

 二人が格納庫に向かうと、ちょうどシャーク隊がローテーションを終えて戻って来ていた。

 

「お疲れ様です、マルス先輩」

 

「おお、お疲れ」

 

 頭にターバンを巻いた男、バルチャー6ことマルスは眠たそうな顔をしながら他の二人のパイロット達と歩いてくる。

 

「眠そうっスね」

 

「まあな……敵さんが来ないと暇でな……ふぁ~あ……じゃあ、お前ら頑張れよ」

 

 マルスは、大きな欠伸をしながら他のパイロットと格納庫を後にする。

 

「な~んか暇過ぎて退屈な任務になりそうだなぁ」

 

 マルス達の様子を見たタクヤは、敵が殆ど攻めて来ない様子に不満げな表情を見せる。

 

「敵が来ないのは良い事だよ」

 

 逆にエスターは敵が来ない事の方が内心嬉しかった。

 マルス達と別れた二人は機体に乗り込み、出撃命令が出るまで待機をする。

 

『バルチャー1より各機へ。まずはブロウニングの護衛を2時間行い、その後パンサー隊と入れ替わりでハルカの護衛を行う。タクヤ、エスター、護衛だからって気を抜くんじゃねえぞ!』

 

『了解』

 

『タクヤ、特にお前が一番気を抜くんじゃねえぞ!』

 

『りょーかい!』

 

 ドルチェフの忠告にタクヤは、カチンと来たのかヤケクソに返事をする。

 

『イーグル隊、出るぞ!』

 

 ドルチェフの通信を受けてブロウニングの下部カタパルトが展開し、イーグル隊のバルキリーが発進する。

 

『バルチャー1より各機へ。フォーメーション2で待機』

 

 イーグル隊はフォーメーション2を編成し、ブロウニング周辺で待機する。

 

『ラナ、敵影は?』

 

『現在ハルカならびにブロウニングの半径2,000km以内に敵影は見当たりません』

 

『わかった』

 

 ラナの敵影未確認の報告にドルチェフは多少の安堵感を持つ。

 

『隊長、質問いいですか?』

 

 タクヤがドルチェフに通信を入れる。

 

『どうした?』

 

『ラナと隊長は、どんな関係なんですか?』

 

『タクヤ!?』

 

『タクヤ、失礼よ!』

 

 タクヤのドルチェフとラナの関係に対する質問にエスターとマリアが回線に割り込む。

 

『何だよ、別に聞いたっていいじゃん』

 

 エスターとマリアの割り込みにタクヤは口を尖らせる。

 普段は厳つい表情をするドルチェフ。

 そして、普段は冷たい表情をするラナ。

 この二人が楽しそうに会話をするのを見たタクヤは、どうしても気になって仕方がなかった。

 

『……タクヤ、お前の様なヤツなら聞いてくると思ったさ。いいだろう、特別に教えてやるから耳の穴をかっぽじってよーく聞け。……あれは、7年前の事だ。俺は、あの頃は統合軍特務部隊バーミリオンセイバーに所属していた』

 

 

『こちらバーミリオン1、これより帰投する』

 

『デルタ1了解』

 

 基地からの帰投承認の通信を受けてVF-19Aを先頭に3機のVF-14が次々と滑走路へと着陸する。

 そして、着陸した4機の機体は、そのまま格納庫付近の滑走路へと向かい停止する。

 

「お疲れ様です、ガルス少佐」

 

 メカニックマンがVF-19から降りてきた男、ガルスに声を掛ける。

 ガルスの風貌はガッチリした体格だが、どことなく無愛想な表情をしている。

 機体から降りるなりガルスは、メカニックマンにゆっくりと歩み寄る。

 

「貴様、あのスロットルとインテークの調整は何だ?」

 

 機体を降りたガルスは、迎えに来たメカニックマンを見るなり突然胸倉を掴む。

 

「じ、自分は、きちんと確認しましたが……」

 

「貴様が良くても俺は、おかしいと言っている」

 

 ガルスは、そのままメカニックマンを殴り飛ばして胸倉を再び掴む。

 突然の事にメカニックマンは怯えた表情をする。

 

「も、もも……も、申し訳ございません」

 

 ガルスはメカニックマンの謝罪も受け入れずにを殴り飛ばし、さらに追い打ちを掛けるかのごとく倒れたメカニックマンの腹を何回も蹴り飛ばす。

 

「も、申し訳ございません! 申し訳ございません!」

 

 メカニックマンは、ガルスに腹を蹴られつつも必死に謝る。

 必死の謝罪の言葉にガルスは耳を傾ける事はなく、ただひたすらメカニックマンの腹を蹴りまくる。

 ガルスに腹を何度も蹴られた影響なのか、しばらくするとメカニックマンから謝罪の言葉も聞こえなくなり既にグッタリとしていた。

 

「おいおい、どうした? 謝罪の言葉が聞こえんぞ? クックック……貴様のようなヤツは一度は痛い目を見ないとな」

 

 腹を蹴られてグッタリしたメカニックマンの身体にガルスは更に右足を乗せて思い切り体重を掛ける。

 

「ひ、ひぃぃ……ぐわぁぁぁぁぁぁ!」

 

 ガルスの暴行にメカニックマンの悲痛な叫びが格納庫内に響く。

 

「フハハハハハハ! どうだ、どうだぁぁぁ! ああ? 俺に逆らった気分は? ハーッハッハッハ!」

 

 メカニックマンの悲鳴にガルスは、見下したような目つきをして勝ち誇ったように笑う。

 それはまさに奴隷を扱うような態度だった。

 このような悲惨な状況が続いても、周りは誰も止めようとしなかった。

 いや、正しくは止める事ができなかったと言うのが正しいのかも知れない。

 

 統合軍エリート特務部隊バーミリオンセイバー。

 統合軍の中でもかなり位の高いエリート部隊であり、この部隊に配属できる事は統合軍パイロットにとって栄誉ある事だった。

 

 メンバーはドルチェフ・ブライアン、マリア・ランカスター、ギブソン・ディクソン、そして隊長のガルス・バルディアの4名。

 

 中でもガルスは、性格が横暴で両親が統合軍参謀本部関連に配属されているのを良い事に好き勝手にやりたい放題だった。

 

 彼に逆らう者は男女構わず鉄拳制裁、左遷、酷い時になると戦闘中の誤射扱いにより撃墜される事もある。

 逆らえば酷い仕打ちが待っている為、誰も意見を述べる事はできなかった。

 また、彼自身も度々軍規違反を犯していたが、その度に親の権力を振りかざしては隠蔽工作を行っていた。

 まさに彼が部隊に配属されて来た場合、彼の言動そのものが軍規の象徴であると言っても過言ではない。

 

 ある日、統合軍参謀本部よりバーミリオンセイバー隊に任務が下る。

 反統合政府軍テロリストによって都心部を制圧された中立地区のジェニオスシティからテロリストを排除すると言う内容だった。

 任務を受けたバーミリオンセイバー隊は、直ちにジェニオスシティへと向かう。

 

 テロリストの兵器の殆どが旧式の機体やデストロイドだったお陰でテロリストの排除はたやすかった。

 しかし、ジェニオスシティの市長が統合政府を制圧する為に裏で半島号政府軍と手引きしていたと言う裏情報を掴んだガルスは、恐ろしい作戦を実行しようとする。

 

「反応弾!?」

 

「隊長、正気ですか?」

 

 突然の作戦にドルチェフ、マリア、ギブソンは驚き、ガルスに抗議をする。

 

「ここの中立地区の市長は、反統合政府軍と裏で繋がっていた。このままでは他の地区に悪影響を及ぼすから排除する。俺は当たり前の事をしているだけだろう」

 

 三人の抗議に対してガルスは淡々と話す。

 

「この都市には無関係の人達も大勢いるんですよ。だからと言って、それは許される事では……」

 

 ギブソンの言葉を断ち、ガルスはギブソンの胸倉を掴む。

 

「貴様、上官に口答えする気か?」

 

 マリアがガルスとギブソンの間に割って入る。

 

「隊長、今一度、考え直してください」

 

「うるさい!」

 

 反応弾発射を止めさせようと説得するマリアをガルスは殴り倒す。

 

「マリア!」

 

 殴り倒されたマリアをギブソンは抱え起こす。

 

「全く、お前達は揃いも揃って口答えしやがって」

 

 ガルスは三人を上から目線で見る。

 

ピピー

 

 ガルスに通信が入ったのか、通信機が鳴り出す。

 

『ガルス少佐、まもなくジェニオスシティに到着致します。少佐の命令で、いつでも反応弾は発射可能です』

 

 四人が空を見上げると反応弾を搭載した3機のVF-11が飛来して来る。

 その様子を見たギブソンは絶望的な表情をしていた。

 

「くっ……隊長……いや、ガルス! 俺は……俺は、貴様のやり方にはもう我慢できん!」

 

 突如ギブソンは、ガルスを殴り飛ばす。

 そして、そのまま馬乗りになりガルスを殴り続ける。

 

「やめろ! やめるんだ、ギブソン!」

 

 ドルチェフがギブソンを羽交い締めにする。

 

「離せ、ドルチェフ! 俺は……俺はこいつのやり方が許せなくて今まで我慢してきたんだ!」

 

「頭を冷やせ!」

 

 ドルチェフは熱くなり見境の付かないギブソンを殴り飛ばす。

 

「クッ……き、貴様ぁ! この俺を……よくも……よくも……」

 

 ギブソンから解放されたガルスは起き上がり歯軋りをする。

 そして、ギブソンに殴られた事により唇からの出血を拭い、殺気立った眼差しでギブソンを睨む。

 今まで親に叱られた事も殴られた事も無かったガルスにとって、部下から殴られた事は生まれて初めての屈辱だった。

 

『ガルス少佐、どうしました? 早く御命令を……』

 

 なかなか反応弾発射の指示を出さないガルスに疑問を感じたパイロットがガルスの通信機に通信を入れる。

 

「発射だ、発射しろ!」

 

 パイロットからの通信にガルスは荒々しく命令する。

 

「やめろ、やめろぉぉぉ!」

 

 ギブソンの必死の抵抗虚しく、3機のVF-11から反応弾が1発ずつ発射される。

 

「恨むなら反統合政府軍と繋がりがあった市長を恨めよ」

 

 発射された反応弾の軌道を見ながらガルスは反応弾の爆発に巻き込まれないように自分の機体に乗り込みエンジンを掛けて即座に撤退を始める。

 

「ギブソン、逃げるぞ。この場所も反応弾に巻き込まれる」

 

 ドルチェフは呆然と立ち尽くすギブソンに声を掛ける。

 

「ギブソン!」

 

 呆然と立ち尽くして動こうとしないギブソンにドルチェフは声を掛けつつも身体を揺さぶるが、もはやドルチェフの声すら届いていない状態だった。

 

「マリア、無理やりにでもギブソンを連れて行くぞ!」

 

「了解」

 

 呆然と立ち尽くすギブソンをドルチェフとマリアは、強引に連れ出してバルキリーへと戻る。

 三人は、バルキリーを緊急発進させて反応弾の範囲から撤退をし始める。

 

「ギブソン、貴様だけは許さん……許さんぞ!」

 

 先に撤退していたガルスは同じく撤退するドルチェフ達を見掛ける。

 そして、機体の速度を落として、そのままギブソン機の後方に着く。

 

「死ね!」

 

 ガルスは、トリガーを引いてガンポッドでギブソン機を攻撃する。

 突然の攻撃にギブソン機は回避できず、ギブソン機は火花を散らす。

 

「な、何だ!?」

 

 突然の後方からの攻撃を受けてギブソンは振り返る。

 振り返った先にはガルスのVF-19が見えた。

 

『!? ガルス、何をする!』

 

『隊長!?』

 

 突然のガルスの行動に三人は戸惑う。

 

『フン、俺に逆らった罰だ! ギブソン、貴様は死んで詫びろ!』

 

 ガルス機は更にギブソン機にミサイルを撃ち込む。

 

 ギブソン機は回避運動をしようとするが、先程のガルス機の攻撃で思うように動けず、ミサイルは命中してしまう。

 

『ぐあぁぁぁぁぁ!』

 

『ギブソン!』

 

 ガルス機の攻撃を喰らい、ギブソン機は火花と黒煙をあげながら、そのまま墜落していく。

 

『ギブソン、今助ける!』

 

『ドルチェフ、もう間に合わないわ!』

 

 マリアの制止を振り切り、ドルチェフは機体を反転させて墜落するギブソン機の救出に向かう。

 

『く……来るな……ドルチェフ……お前まで俺と一緒に死ぬ事はないだろ……』

 

 息も絶え絶えにギブソンがドルチェフに通信を入れる。

 

『しかし……』

 

『ドルチェフ……お前は……生き残れ。生き残って……腐った統合軍を正しい道に……』

 

 しばらくして、発射された反応弾はジェニオスシティに到達し、都市は爆煙と炎に包まれていく。

 爆発の中心地の建築物は、まるで高熱に晒された飴の様にドロドロと溶け、市民達は瞬く間に蒸発する。

 更に爆風により周辺の建築物や市民達は吹き飛ばされる。

 その光景は、あまりにも惨たらしく悲惨だった。

 

 反応弾の爆発を確認したドルチェフは、機体を急速反転させてスロットルを上げて最大出力で爆炎から遠ざかる。

 

 やがて、ギブソン機は反応弾の爆炎の中へと消えていく。

 

『ギブソン、ギブソォォォォン! うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』

 

 ドルチェフの悲しみの叫びがコクピット内に虚しく響く。

 マリアは爆炎の中に消えていくギブソン機を見て、声を押し殺して涙を流す。

 

「フン、バカが……俺に逆らうからだ」

 

 二人が同僚を失う悲しむ中、爆炎を見ながらガルスは不敵な笑みを浮かべていた。

 

『ドルチェフ、マリア、わかっているな……ギブソンは事故死だ』

 

「……」

 

 気に入らない相手を殺し、あまつさえそれを捏造するガルスの言葉に二人は奥歯を噛みしめていた。

 

 反応弾発射から10時間以上が経過し、ドルチェフとマリアはガルスの命令で崩壊したジェニオスシティの調査をする事となった。

 

 反応弾の爆発によりジェニオスシティは既に死の街と化していた。

 朝方とは言え、まだ辺りは暗い為、余計に不気味さを増している。

 

「酷い……」

 

 マリアは廃墟と化した町並みを見てポツリと呟く。

 

『この有り様じゃ生存者はいないだろうが、とにかく調査しよう。マリア、二手に別れるぞ』

 

『了解』

 

 ドルチェフ機とマリア機は二手に別れて北東方面へ調査に向かう。

 

 ドルチェフ機は、ガウォークに変形して廃墟と化した市街地を進んでいく。

 

「やはり、生存者は見当たらないか……ん?」

 

 レーダーが生体反応をキャッチする。

 ドルチェフは生体反応付近で機体を停止させてシート後部から護身銃と懐中電灯を取り出し、バルキリーから降りる。

 そして、生体反応の場所へとゆっくり近づいていく。

 反応先は崩れた一軒家だった。

 

「ここか」

 

 ドルチェフは、懐中電灯を点けて生体反応が出ていた崩れた家の中へと入る。

 崩れた家の中は、灯りが無く真っ暗だった。

 

「誰かいるか!」

 

 建物の中にドルチェフの叫びはこだまするが、全く返事は無かった。

 この様な状況下でも場合によっては敵対勢力もしくは火事場泥棒が潜んでいる可能性がある為、油断はできない。

 周囲を警戒しながらドルチェフは、ゆっくりと玄関から廊下を歩いていく。

 

 懐中電灯の灯りだけを頼りにドルチェフは家の少し奥へ進む。

 建物自体は、ある程度崩れてはいるものの丁度高層ビルに近い場所のお陰で多少は奥へと進む事ができた。

 

「?!」

 

 少し進んだ場所でドルチェフは僅かなうめき声を聞く。

 

「この辺りか」

 

 うめき声が聞こえる場所は、瓦礫に埋もれていたのでドルチェフは瓦礫を手で退ける。

 瓦礫を少し退かすと、女性と少女の姿が見える。

 

「おい、大丈夫か!」

 

 ドルチェフの声掛けに対して女性からは応答は無かった為、女性の手を触るが体温自体は感じず、既に事切れていた。

 その女性に覆い被されるかの様に倒れている少女の僅かなうめき声をドルチェフは確認して、急いでマリアに連絡を入れる。

 

『マリア、生存者を確認した。ポイントM13地区だ』

 

『了解、すぐに向かうわ』

 

 ドルチェフの通信を受けたマリアは、ポイントM13地区へと向かう。

 

 しばらくしてマリアがやって来る。

 

「マリア、こいつを退かせるからライトを頼む」

 

「ええ」

 

 マリアの照らす懐中電灯の光を頼りにドルチェフは、少女ごと女性の身体を瓦礫から引き上げる。

 女性の身体を引き上げると無残にも両脚は切断されていた。

 

「……」

 

 その無残な姿に思わずドルチェフは言葉を失う。

 

「ドルチェフ……」

 

 ドルチェフの様子が気になりマリアが心配そうに覗き込む。

 

「見るな!」

 

 ドルチェフは覗き込もうとするマリアを静止する。

 

「うぅ……マ……マ」

 

 微かだが少女の声が聞こえる。

 

「大丈夫だぞ。もう少しの辛抱だ」

 

 少女を励ますかの様にドルチェフは声を掛ける。

 

「マリア、急いで救護隊を呼んでくれ」

 

「ええ」

 

 マリアが建物の外で救護隊に連絡する間にドルチェフは、少女の身体を抱きかかえて建物から出る。

 少女は、まだ幼さが残る顔つきで身体には反応弾の爆発や建物倒壊時の煙で汚れていた為、ドルチェフは身体の汚れを手で軽く払って落とす。

 

「はい、ジェニオスシティの生存者です……!? 何ですって! 人の命が掛かっているのよ!」

 

 突然マリアは通信機に向かって声を荒げる。

 

「どうした?」

 

 マリアの様子を気にしてドルチェフが声を掛ける。

 

「それが……ジェニオスシティは、反統合政府軍と繋がりがあるから救護隊は出せないと……」

 

 マリアの声は震えていた。

 統合軍のあまりにも冷たい対応に信じられない様子だったのだろう。

 

「何だと?! クソ……統合軍は、どこまで腐っていやがるんだ!」

 

 マリアの説明にドルチェフは、統合軍の冷酷な対応に怒りを露わにする。

 

 少女に何も罪は無い。

 ガルスの横暴の為に住んでいた街を焼かれて怪我をしただけである。

 それなのに街が反統合政府軍と繋がっていると言う理由だけで救援すらできないと言う理不尽な理由。

 

「……仕方がない、近くの病院までバルキリーを飛ばすぞ」

 

「ええ」

 

「お嬢ちゃん、すまないがもう少しだけ辛抱していてくれ」

 

 少女の容態を確認しつつ二人はバルキリーに乗り込み、少女を近くの病院まで運んでいく。

 幸いジェニオスシティから少し離れた街で何とか病院を見つけた二人は、少女を搬送し、少女は緊急手術を受ける事となる。

 

「……大丈夫かしら」

 

 マリアは不安げな表情で手術室のランプを見る。

 二人が少女を病院に搬送した時には、かなり容態も危ない状況だった。

 

「今は、あの子が助かる事を祈るしかない」

 

 ドルチェフは不安げな表情をするマリアの左肩に手を置く。

 

ピピピ

 

 ドルチェフの通信機が鳴り、ドルチェフは周りに迷惑の掛からない少し離れた場所で通信に応答する。

 

『はい』

 

『ドルチェフ。貴様、いつまで道草を食っている』

 

 声の主はガルスだった。

 

『……申し訳ございません』

 

『すぐに戻ってこい、いいな』

 

『了解』

 

 それだけでガルスからの通信は切れる。

 

「マリア、隊長が呼んでいる」

 

 通信を終えたドルチェフは、手術室の前に立ち尽くすマリアに声を掛ける。

 

「う、うん……」

 

 ドルチェフは帰ろうとするが、マリアは手術室が気になっている様子だった。

 

「後でこっちに連絡を貰えるように俺から伝えておく」

 

「……ありがとう」

 

 病院に連絡先を伝えて二人は基地へと急いで帰還する。

 

 それから2日が過ぎ、病院から少女の手術が無事に終了したと言う連絡が入る。

 しかし、まだ面会できる状態ではない為、改めて連絡を貰う事にした。

 

 ジェニオスシティへの反応弾による被害は悲惨な結果となった。

 

 死者は推定約280,000人、反応弾使用に関して統合政府は過去にジェニオスシティ上層部に対して反応兵器の保有に関して再三警告したが聞き入れず、反応兵器使用の意図を見せた為のやむを得ない手段と発表。

 

 しかし、統合政府のやり方に対して批判的な声を唱える者も少なくなかった。

 

 元々は、ガルスの勝手な判断で発射された反応弾。

 しかし、この事件の首謀者であるガルスは謝罪はおろか名前すら出ていない所からして既に統合軍参謀本部が裏で隠蔽工作をしていたのだろう。

 このニュースの内容に関して当事者であるドルチェフとマリアは納得がいかなかった。

 

 少女を救出してから3週間が過ぎる。

 既にニュースでは、あの事件が扱われなくなり、まるで何も無かったかの様に時が過ぎていく。

 その後も特に大きな紛争等は無く、平穏無事な日々が過ぎて行った。

 

 そして、1ヶ月が過ぎようとしたある日、病院から面会可能の連絡が入り、ドルチェフはマリアと共に少女の面会へ向かう。

 

 病室に入ると少女は、身体中を包帯で巻かれていた状態でベッドに寝かされていた。

 

「お嬢ちゃん、わかるか?」

 

 ドルチェフが声を掛けると少女は、瞳だけをドルチェフに向ける。

 

「……マ……マは?」

 

 少女は、弱々しい声でドルチェフに問いかける。

 

「……」

 

 少女の問い掛けに二人は、顔を見合わせる。

 少女の母親は、既にこの世には存在しない。

 その事実を少女に伝えるべきかドルチェフは頭の中で考えていた。

 まだ親に甘えたい年頃でもあるだけに今の状況で事実を伝える事は、肉体的にも精神的にもショックは大きい。

 しかし、少女の母親が既に亡くなっている事も後で知る事になる為、伝えなければならないのも事実である。

 

「マ……マに、ママに会い……たいよぉ……」

 

 只でさえか細い声の少女の声は、今にも泣きそうな声だった。

 

「お嬢ちゃん……」

 

 少女の今後の事を考えてドルチェフは、少女に事実を伝えようと決心する。

 そして、ドルチェフが少女に事実を伝える為に話し掛けようとした時、マリアが止める。

 

「お嬢ちゃん……お嬢ちゃんのママはね……天国に行ったの。わかるわね?」

 

 マリアは、少女に語りかける様に呟く。

 痛々しい少女の心境に同情しているのか、その声は涙声に近かった。

 

「……ママは……死んだの?」

 

 少女の問い掛けにマリアは、ゆっくりと頷く。

 

「いや……イ……ヤだよ! ママ、マ……マぁ……私を置い……てっちゃイヤだよぉ!」

 

 マリアの答えに少女は嗚咽交じりの泣き声で泣き出す。

 

 反応弾の爆風に巻き込まれて気付いた時には、病院のベッドで寝かされ、そして訳も分からない状態で母親の死を聞かされる。

 少女にとって、今まで生きて来た人生の中でこれ程までに辛い事は無いだろう。 

 

 泣きじゃくる少女の頭をマリアは優しく撫でる。

 そのマリアの目には涙が浮かんでいた。

 直接的ではないにせよ、少女を辛い目に合わせてしまった事への申し訳なさと何もできなかった事への悔しさでいっぱいだったのであろう。

 

 

『その後、身寄りの無いラナは俺が引き取った。勿論マリアのサポートもあったからここまで来れたわけだ』

 

『そう……だったんですか……』

 

 ドルチェフの思い出話にエスターは、少し涙ぐんでいた。

 

『隊長も苦労してたんだなぁ……』

 

 ドルチェフの話にタクヤは、しみじみと答える。

 

『あ、隊長、もう一個質問! 何で隊長ってブラックバルチャー隊に飛ばされたんスか?』

 

『まったく……お前は聞きたがりなヤツだな』

 

 タクヤの聞きたがりな性格にドルチェフは呆れた表情をする。

 

『いや、だって、ここまで話を聞いちゃあ聞きたくなるもんですよ。なあ、エスター?』

 

『僕に振らないでよ。それに僕は、そこまで詳しく聞きたいとは思わないよ』

 

 唐突にタクヤに話を振られてエスターは苦笑いをする。

 聞きたがりのタクヤとは対照にエスター自身は特に話を聞きたいとは思っていなかった。

 恐らくドルチェフ自身も過去の事には、あまり触れて欲しくないのが本心なのだろうと思い、エスターは敢えて空気を読んでいた。

 

『まあ、この話はまたの機会だ。そろそろハルカの護衛に廻る時間だ』

 

 丁度ブロウニングの護衛から2時間が経過しており護衛艦の交代時間だった事もあり、ドルチェフにとっては幸いだった。

 

『ちぇー』

 

 話をはぐらかすドルチェフにタクヤは不満そうな表情を浮かべる。

 

『タクヤ、今は任務中よ。任務に集中しなさい』

 

『はいはい、了解了解』

 

 マリアの忠告にタクヤは、投げやりに応えて通信を切る。

 

『こちらイーグル、これよりハルカの護衛に回る』

 

『了解。シャーク隊を出撃させます』

 

 ドルチェフがブロウニングに通信を入れた後、イーグル隊はローテーションでハルカの護衛へと向かう。




次回予告

 ステルス艦ハルカでタクヤは、本来の任務の真実を知る。
 その隠された真実は……

次回「カムフラージュ」
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