MACROSS-A.D.2048-   作:eisyama

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 ブラックバルチャー隊にやって来た新聞記者。
 彼は、記事をスクープできるのか?


第6話バルチャースクープ

『6月20日

 

今日から俺は、惑星ローグにある統合軍の掃き溜めと呼ばれるブラックバルチャー隊の取材に行く事になった。

 

統合軍の掃き溜めって呼ばれてるくらいだから、ヘンなパイロットとか恐い人とかが多いんだろうなぁ……』

 

 青年が机上のパソコンで日記を綴ってる。

 しかし、日記を綴り終えると青年は、大きな溜め息を吐く。

 

「ヒロキ、そろそろ行くぞ!」

 

「わかった、今行く」

 

 男に呼ばれてヒロキは、パソコンの電源を落として準備をする。

 

 神崎ヒロキ。

 銀河系最大の発行部数を持つGNN(Galaxy News Network)の記者である。

 今日も相棒のレニスと共に特ダネのスクープに向かう。

 

「ヒロキ、システムオールグリーンだ」

 

「よし、発進する」

 

 ヒロキは発進用カタパルトからGNNバルキリーを発進させる。

 

 GNNバルキリーは、民間用に払い下げをした統合軍の訓練機VT-1を改造・改修した機体である。

 改良された小型プロペラントタンクを機体上部に設置し、更にその上部と機体底面に往復用フォールドブースターを取り付けると言う大胆な増設をしている。

 

 GNN各支社には発進用カタパルトデッキが多数設置され、大気圏外担当記者達は、そこから大気圏ブースター装備のGNNバルキリーで大気圏外へ発進する。

 

「フォールドブースター作動。目標、惑星ローグ」

 

 大気圏を抜けたGNNバルキリーは、フォールドブースターを作動させて惑星ローグへとフォールドを開始する。

 

 しばらくしてGNNバルキリーは、惑星ローグへとフォールドアウトする。

 

「すげぇ……ここが惑星ローグか」

 

 ヒロキは、惑星ローグをマジマジと見つめる。

 今まで取材に向かった惑星の中でローグは、近寄りがたいと言う一風変わった雰囲気を漂わせていた。

 

「話で聞いた事はあるが、何でも昔、移民予定惑星だったが移民基準値に達しなかったから放棄されたらしいぞ」

 

 ヒロキに話しながらレニスもローグを見渡しつつ、持参したカメラでローグの全景を撮影する。

 

「それにしても、こんな辺境惑星に飛ばされた軍隊の事を取材しなきゃいけないなんてGNNは余程ネタに困っているんかねぇ?」

 

 ヒロキはシャッターを切るレニスを見つつ、思わず今回の仕事についてボヤく。

 

「ボヤくなよ、ヒロキ。こうやって仕事が回ってきただけでも有難いと思え」

 

「はいはい。じゃあ、大気圏に突入するぞレニス」

 

「了解だ」

 

 フォールドブースターを切り離したGNNバルキリーは、そのまま大気圏に突入する。

 

「うわ、何だコレ?」

 

 大気圏を抜けて目の前に広がる惑星ローグの環境にヒロキ達は驚きの表情をする。

 

「……なあ。ここ、本当に人が住んでるのか?」

 

「とてもじゃないが、人が住んでいるとは思えんな……」

 

 ひび割れた大地。

 人が住んでいる住居らしき物は無く、ただ無造作に生い茂るだけの森林地帯。

 そして不気味な雰囲気が漂う薄紫色の空。

 あまりの環境の酷さに二人は言葉を失いつつも辺りを見回す。

 

 長く続く生い茂る森林地帯を抜けて、しばらくすると建物と滑走路が見えてくる。

 

「あれが統合軍の掃き溜めと呼ばれるブラックバルチャー隊の基地か?」

 

「多分、そうだろう。他に建物らしき物は見当たらないようだしな」

 

 辺りを見回してもブラックバルチャー隊の基地以外に人が住んでいる様な建物は見当たらなかった。

 今まで不気味な光景が続いていただけにマトモな建物を見た二人に妙な安心感を感じていた。

 

「よし。レニス、着陸するぞ」

 

「わかった」

 

 GNNバルキリーはランディングギアを展開して速度を徐々に落としながら滑走路に向かって着陸を開始する。

 ヒロキ達がコクピットから降りると、待っていたかのようにドルチェフが出迎える。

 

「よく来た。自分がブラックバルチャー隊の責任者のドルチェフ・ブライアンだ」

 

 ドルチェフは、厳つい表情のまま少しぶっきらぼうな挨拶をする。

 

「初めまして、俺……いや、自分はGNNのレポーター、神崎ヒロキです。こちらはカメラマンのレニス・ローンです」

 

 ドルチェフの厳つい表情に少しビクビクしながらもヒロキは、ドルチェフに挨拶と相棒のレニスを紹介する。

 

「レニス・ローンです。よろしくお願いします」

 

 ビクビクしているヒロキとは対照的にボサボサ髪に髭面の男、レニスは、少しだけ笑顔を見せつつドルチェフに軽く会釈する。

 

「こちらこそ、よろしく頼む。部屋を案内するから着いてきてくれ」

 

 挨拶を終えて二人はドルチェフの後を着いて行く。

 

(うわぁ……惑星自体も凄かったけど、基地の中も何か色々と凄いなぁ……)

 

 ドルチェフの後を着いて行くヒロキは、薄暗い基地内をキョロキョロと見渡す。

 

「どうした?」

 

 基地内をキョロキョロと見渡すヒロキに気付いたドルチェフは、声を掛ける。

 

「い、いや……何だか凄い所だなぁと思いまして」

 

「まあ、初めて来るヤツの殆どはそう思うだろうな。ここだ」

 

 手馴れた様に施設内を説明するドルチェフは、二人を自分の部屋へと案内する。

 部屋に到着したドルチェフは、ポケットからカードキーを取り出して部屋のドアを開ける。

 

「入ってくれ」

 

 ドルチェフの案内で二人は、部屋に入る。

 

「ああ、そうだ。遅れて申し訳ない。隊長さん、これがウチからの取材の委任状です」

 

 レニスはポケットから委任状の入った封筒を取り出してドルチェフに渡す。

 封筒を受け取ったドルチェフは、ペーパーナイフを使って封筒の端を切り、中から委任状を取り出して隅々まで目を通す。

 

「……確かに」

 

 内容を確認したドルチェフは、封筒と委任状をそのまま机に置く。

 

「では、2日間ですが、色々と基地内や関係者の取材や撮影をさせて頂きます」

 

「わかった。とりあえず撮影に関してだが、基本的にどこを撮影して貰っても構わん。ただ、ウチの部隊には女性もいるから盗撮や盗聴は止めてくれ」

 

「わ、わかってますよ」

 

 盗撮と盗聴の言葉にヒロキは動揺する。

 

 以前ヒロキは、統合軍の幹部と女性士官がホテルで密会している所をスクープして高視聴率を叩き出したが、後に統合軍からクレームを受けて泣く泣く始末書を書かされた挙句、辺境惑星のレポーターや取材記者へと左遷されていた。

 だからこそ、今回の取材でスクープを撮りヒロキは再びメインテレビレポーターへ復帰しようと意気込んでいた。

 

「もし、盗撮ならびに盗聴が発覚した場合は……分かるな?」

 

 ドルチェフの鋭い眼差しが二人に向けられる。

 

「わ、わわわわわわかってい、いいいいいいますです。は、はい」

 

 ドルチェフの眼差しに怯えたヒロキは、ガタガタと身体を震わせる。

 

「そこは大丈夫ですよ、ご安心を。そんな事が無い様に俺が彼を見張りますので」

 

 ヒロキとは対照的にレニスはマイペースを貫いていた。

 

「子供扱いするな!」

 

 レニスに子供扱いされたと思い、ヒロキはレニスに食ってかかる。

 

「お前達の部屋を案内する。着いてきてくれ」

 

 ドルチェフは、自室を出て二人の部屋を案内する。

 二人も荷物を持ってドルチェフの後を着いて行く。

 

「ここだ」

 

 しばらく歩いて部屋に到着したドルチェフは、部屋の鍵を開けて電気を点ける。

 電気を点けた部屋は、どことなくカビ臭い匂いが漂う。

 カビ臭い匂いに思わずヒロキは、鼻を摘む。

 

「すまないが、この部屋を使ってくれ」

 

「わかりました」

 

 ヒロキとレニスは部屋の中へと入り、荷物を置く。

 

「とりあえず、何かあったら部屋にあるインターホンで呼んでくれ。手の空いた者が来てくれるだろう」

 

 それだけ言って、ドルチェフは部屋を出て行く。

 ドルチェフが部屋を出て行くのを見計らいヒロキは、大きな溜め息を吐く。

 

「やっぱり統合軍の掃き溜めと呼ばれているだけあって、凄い所だよなぁ……基地の中は不気味だし、部屋はカビ臭いし、隊長さんは怖いしで良い所なんて何も無いじゃないか」

 

 ブラックバルチャー隊への不平不満をぼやきながらヒロキは、荷物を降ろす。

 

「まあ、そう言うな。とりあえず、準備が出来たら早速取材に行くぞ」

 

「ああ」

 

 二人は、取材の身支度をして部屋を出る。

 

「さ~て……まずは何処へ取材に行こうかなぁ?」

 

 早速ヒロキは、躍起になって小型ビデオカメラを片手に基地内をキョロキョロと見回す。

 

「そう焦るな、ヒロキ。とりあえず、色々と基地内を回ってみよう。何か面白い物が見つかるかも知れん」

 

「お、おう」

 

 このままだとヒロキが先走って問題を起こすに違いないと悟ったレニスは、自分の案を提案して適当に基地内を散策する。

 

 適当に散策している内に二人は、食堂にやって来た。

 辺りを見回すとエミリアとアイナがテーブルで寛いでいた。

 

「ん~♪ やっぱり、1日1回は甘い物を食べないと気分が乗らないわねぇ♪」

 

 エミリアは、ストロベリーサンデーを食べて、ご機嫌な様子だった。

 

「そんなに食べてると、また太っちゃうわよ」

 

 そんなエミリアをアイナは、ジャスミンティーを口に運びながらからかう。

 

「ぶー、そう言いますけど、コレでも前月に比べて4kgは痩せてますよ~だ」

 

 からかうアイナにエミリアは、口を尖らせて言い返す。

 

「ヒロキ」

 

「ああ。まずは、あの娘達から取材しよう」

 

 早速ターゲットを見つけた二人は、エミリアとアイナに近付き声を掛ける。

 

「すみません、ちょっといいですか?」

 

「はい?」

 

「え……と、どちら様ですか?」

 

 基地内では見掛けない人物に声を掛けられて二人は、不安げな表情をする。

 

「私、GNNの者ですが、取材させていただいてもよろしいでしょうか?」

 

 ヒロキは、ポケットから名刺を取り出してエミリアとアイナに渡す。

 

「GNNって、あのGNN?」

 

 アイナは、名刺を見ながらヒロキ達に尋ねる。

 

「ええ。今日は、ここの部隊の取材に……」

 

「ちょ、ちょっと待ってて」

 

 ヒロキの言葉を断ち、エミリアとアイナは、トートバッグから化粧品を取り出してメイクを始める。

 突然二人がメイクをし始めた為、その様子にヒロキとレニスは、お互いに顔を見合わせつつもメイクが終わるのを待つ。

 

「はい、お待たせしました」

 

 メイクを終えたエミリアとアイナは、満面の笑みを浮かべる。

 

 エミリアは、長めのロングヘアーをホットカーラーを使い、少しだけ緩いウェーブにし、リップは薄いピンクを引き、可愛らしい感じに仕上げている。

 対するアイナは、少し濃い目のアイシャドウを引き、リップには艶の出るグロスを引いて大人の魅力を引き立たせる感じでに仕上げている。

 

(おお! ピンクにロングヘアーの娘は可愛いし、栗色でボブカットのお姉さんは大人の色気があるし、生きててよかったぁぁぁ!)

 

 ヒロキは心の中でガッツポーズをしつつ、メイクを終えたエミリアとアイナに見惚れていた。

 今までも取材で女性に接する機会はあったが、主にスキャンダル記事などがメインの為、魅力的な女性に出会う確率は低かったので、ヒロキのテンションは、いやがうえにも高まる。

 

「ヒロキ……おい、ヒロキ!」

 

 二人に見惚れて、だらしない表情をしているヒロキを見兼ねたレニスが声を掛ける。

 

「へ?」

 

「へ? じゃない! ボサっとするな。それと、鼻の下が伸びっぱなしだぞ」

 

「あ……ああ、スマン」

 

 だらしない表情をレニスに一喝されたヒロキは、気分を入れ替える。

 その様子にエミリアとアイナはクスクスと笑い、ヒロキは照れ隠しに頭を掻く素振りをする。

 

「では、色々と質問させていただきますけど、答えにくい所はスルーして貰っても構いませんので気楽に答えてください」

 

「はいは~い」

 

「はい」

 

 ヒロキはインタビューをレニスはカメラ撮影を担当する。

 

「すみませんが、まずは1枚写真を撮らせてよろしいですか?」

 

「はい、どうぞ」

 

 エミリアとアイナが並んだ姿を被写体にレニスはシャッターを切る。

 

「ありがとうございます」

 

 写真を撮り終えたレニスは、二人に礼を言う。

 

「では、最初に名前と役職をお願いします」

 

「エミリア・ガーフィールド、オペレーターをやってま~す♪」

 

「アイナ・エルライン、同じくオペレーターをしています」

 

  エミリアはウィンクをしながら、アイナは落ち着いた様子でインタビューに答える。

 

「ここに配属されて何年ですか?」

 

「私は、まだ2年目ですね」

 

 エミリアが答える。

 

「私は、今年で4年目ね」

 

 続けてアイナが答える。

 

「ふむふむ……なるほど。ちなみにオフの日は何をされてますか?」

 

「……」

 

 ヒロキの質問にエミリアとアイナは急に黙り込み、お互いに顔を見合わせて黙り込む。

 

「あ、あれれ? どうしたんですか?」

 

 急に黙り込む二人の様子にヒロキは、困惑する。

 

「……よく考えたら、ここに来てから楽しい事って殆どしてないなぁって……」

 

 先程まで明るかったエミリアの表情が急に暗くなる。

 

「そうよね……ココに飛ばされてから、本当に無いわよね」

 

 エミリアに続いてアイナの表情も暗くなる。

 

「唯一の楽しみが1日1回、甘い物食べるくらいしかないし……うう……」

 

 エミリアの目から涙が零れ落ちる。

 

「ちょ、ちょっと、泣かないでくださいよ」

 

 突然涙を零すエミリアにヒロキは、動揺する。

 

「だって、ここに飛ばされてから何も楽しい事がないんですよ! 空は変な空だし、地面はひび割れているし、周りにはショッピングセンターとか無いし、基地内は薄暗いし、私くらいの女の子ならショッピングしたり友達や彼氏と遊んだりしてるのに……う、うう……うわぁぁぁぁぁん!」

 

 ブラックバルチャー隊に配属されてからの鬱憤が溜まっていたのか、今までの不満をヒロキにぶつけるだけぶつけた後、とうとうエミリアは泣き出してしまう。

 

「大丈夫……大丈夫よ、エミリア。ほら、泣かないで」

 

「うわ~ん、アイナァァァァァ!」

 

 アイナの慰めの言葉にエミリアは思わず抱きつき、アイナは優しくエミリアの頭を撫でる。

 

「ヒロキ!」

 

「あ、ああ……すみません、すみません」

 

 レニスにせかされてヒロキは、泣きじゃくるエミリアを宥める。

 

「あなた達って、最低ね!」

 

 エミリアを慰めながらアイナはヒロキ達を睨み付ける。

 

「すみません、すみません、すみませーん!」

 

 結局、二人がエミリアやアイナを宥めるのに1時間以上の時間が掛かった。

 

 エミリアとアイナを何とか宥めた後、二人は食堂を後にする。

 しかし、その表情は疲れきっていた。

 

「……な、なあ、レニス」

 

 グッタリした表情でヒロキは、レニスに話し掛ける。

 

「ん、何だ?」

 

「俺、別にヘンな事って聞いてないよな?」

 

 ヒロキは、インタビューした内容を一つ一つ思い出しながらレニスに問い掛ける。

 特に相手を傷つけたり不快にさせる様な質問をした覚えがない事をヒロキは、頭の中で整理して確信する。

 

「んー……まあ、こういう事もあるさ」

 

 うなだれるヒロキにレニスは、励ましの言葉を掛ける。

 

「はぁ……今回の仕事を降りてぇ……」

 

「まあ、そう言うな。気を取り直して次の人を取材しよう」

 

 早くも弱音を吐くヒロキにレニスは、元気づけるかの様にヒロキの肩を軽く叩く。

 

「お、おう」

 

 気を取り直して二人は、再び基地内を散策する。

 

 しばらく歩くと二人の目の前に格納庫が見えてくる。

 

「丁度いい、ここのメカニックを取材しよう」

 

「わかった」

 

 二人が格納庫内を覗くと相変わらずメカニックマン達は、忙しなく動いていた。

 

「ひぃ、ふぅ、みぃ……見たところメカニックマンは五人か」

 

 レニスは、格納庫内で作業するメカニックマンの数を数える。

 

「それにしても軍隊だけあって格納庫は広いし、バルキリーもそれなりに多いな」

 

 ヒロキは、格納庫内を色々と見渡す。

 レニスも格納庫内に配備されているバルキリーを色々と見渡していた。

 

「エド、2番機の電子系統は?」

 

「もう少し掛かります」

 

「ロルフ、アーマードパーツの補修作業は?」

 

「もうすぐ終わります」

 

「ジョン、スーパーパックの保守作業は?」

 

「10パックまで完了です」

 

「メイア、作業用デストロイド2番機の保守作業は?」

 

「ゴメン、まだ掛かりそう」

 

 自らも作業をしつつ、ミランは各メンバーの作業状況の確認を行っていた。

 

「何だか色々と忙しそうだけど、こっちも仕事だからインタビューをしないとな」

 

「まあ、確かにな」

 

「あの、ちょっと良いですか?」

 

 ヒロキは、作業をしているミランに声を掛ける。

 

「はい、なんでしょう?」

 

「私、GNNの者でして、ここの部隊の取材をさせていただきたいのですが……」

 

「ああ、隊長さんから話は聞いてますよ。でも、うーん……すみません、ちょっと手が放せないんですよねぇ……」

 

 ヒロキからの取材依頼にミランは、困惑の表情をする。

 取材自体は受けても構わないが、その事で自分の作業が疎かになり、それが元で機体に不具合が生じる事が何よりも嫌だった。

 

「チーフ、アーマードパーツの補修完了しました」

 

 作業を終えたロルフがミランに声を掛ける。

 

「わかった、続けて弾薬補充も頼む」

 

「了解」

 

 メカニックマン全員が作業に集中をしている為、とても取材を受ける状況ではない事をヒロキは感じ取っていた。

 

「……行こうぜ、レニス」

 

「あ、ああ」

 

「すみません、お邪魔しました」

 

「こちらこそ、すみません」

 

 ミランの声を背にして、二人はトボトボと格納庫を後にする。

 

「はぁぁ……」

 

 何も取材が出来ず、ヒロキは大きな溜息を吐く。

 

「溜息を吐くなよ。まだ始まったばかりじゃないか」

 

 落ち込むヒロキをレニスは励ます。

 

「……そうだな」

 

 レニスの励ましにヒロキは、自分の頬を叩いて気合いを入れ直す。

 

 再び基地内散策していると、ちょうど反対方向からラナが歩いてくる。

 

「ヒロキ」

 

「ああ」

 

 ヒロキは、チャンスとばかりにラナに声を掛ける。

 

「すみません、お時間よろしいでしょうか?」

 

「何ですか?」

 

 ヒロキの質問にラナは、冷たい視線を向ける。

 

(うわぁ……凄いやりづらいのに声を掛けちゃったなぁ)

 

 ラナに冷たい視線を向けられたヒロキは、内心そう思いつつも表情に出ていた。

 

「あ、あの、私達GNNの者でして。ここの部隊の取材を……」

 

「イヤ」

 

 ヒロキが取材依頼をする以前にラナにあっさりと断られる。

 

「そこを何とか……」

 

 先程から全く取材ネタが拾えていないヒロキは、両手を合わせて必死にラナに頼み込む。

 

「……」

 

「あのぉ……」

 

「……」

 

 ヒロキの必死の頼み込みに対してラナは、冷たい視線をヒロキ達に向けたまま完全無視だった。

 

「……すみません、もういいです」

 

 必死に頼み込んでも冷たい視線を向けられるヒロキも、ついに心が折れてしまうのだった。

 

「そう」

 

 二人を無視して歩くラナを背にして再び二人は、トボトボと施設内を歩き出す。

 特にヒロキの精神的ダメージは、かなり大きかったようだ。

 

「うぅぅ……やっぱり、この仕事を降りたいよぉ……」

 

 いつもなら多少の困難はあれど徐々に順調だったヒロキも、さすがに3回も取材ができない状況になると頭を抱えて再びうなだれる。

 

「まあ、そう言うな。次を頑張ろう」

 

 うなだれるヒロキを励ます為、レニスはヒロキの肩を叩こうとする。

 

「アンタ、さっきからそればっかじゃないか!」

 

 レニスの励ましの言葉にヒロキは、食って掛かる。

 

「しかたないだろう。じゃあ、他に何を言えばいいんだ?」

 

 レニスの言葉にヒロキは、ぐぅの音も出なかった。

 人間、落ち込んでいる時に他人事の様に励まされるとイラつく時がある。

 だからと言って、励まされないと落ち込んでいる気分が更に落ち込む。

 人間と言うのは、わがままな生き物である。

 

「……トホホ。ミシュタル、俺はどうしたらいいんだ」

 

 ヒロキは、胸ポケットから写真を取り出して写真に写る女性に呟く。

 写真には、青いストレートヘアーの可愛らしい笑顔の女性が写っている。

 

「兄ちゃん、何やってんの?」

 

 写真に独り言を呟くヒロキの後ろからタクヤが声を掛ける。

 

「うわぁ!」

 

 突然の事にヒロキは驚き、その弾みでミシュタルの写真を落とす。

 

「何だコレ? おお、なになになに。この美人のお姉ちゃん! あ、もしかして……兄ちゃんのコレっスか?」

 

 写真を拾ったタクヤは、小指を立てる仕草をしてヒロキを茶化す。

 

「か、返せ!」

 

 ヒロキは、タクヤから写真を奪い返そうとする。

 

「へっへ~ん、やっだね~♪ ほれほれ~♪ 取れるもんなら取ってみ~♪」

 

 タクヤは、写真をヒラヒラさせてヒロキをからかう。

 写真を奪い返そうと必死になるヒロキは、タクヤに翻弄されて写真が取り返せなかった。

 

「タクヤ、返してあげなよ」

 

 状況を見かねたエスターは、写真をタクヤから奪い取りヒロキに返す。

 

「はい」

 

「あ、ありがとう」

 

 エスターから写真を受け取ったヒロキは、胸ポケットに大事にしまう。

 

「そう言えば、どちら様ですか?」

 

 基地内で全く見掛けないヒロキを不思議に思い、エスターが声を掛ける。

 

「ああ、すみません。私達、GNNの者でして……」

 

「GNN!?」

 

 GNNの言葉にタクヤは、目を輝かせる。

 

「GNNと言うことは、取材に来たんだよね?」

 

 タクヤは目を輝かせながらヒロキに詰め寄る。

 

「あ、ああ」

 

「じゃあ、写真も撮るんだよね?」

 

「その為に相棒がいるからね」

 

 ヒロキは右親指をレニスに向け、右親指を向けられたレニスは、カメラをタクヤに見せる。

 

「よーし、分かった。兄ちゃん、俺を取材してくれ!」

 

 タクヤは、髪の毛をかきあげてバッチリとポーズを決める。

 

「……え?」

 

「だから、俺を取材してくれよ」

 

 タクヤ自ら取材を依頼されたヒロキは、心を打たれたかの様に突然タクヤの手を握り締める。

 

「あ、ありがとう……」

 

 やっと取材が出来る人物が見つかったのか、ヒロキは嬉しさのあまり涙目になっていた。

 

「な、なに……この人?」

 

「さ、さあ?」

 

 涙目でタクヤの手を握るヒロキにタクヤもエスターも困惑顔だった。

 

「あの、ここでは何ですから僕達の部屋でも良いですか?」

 

「あ、ああ。頼むよ」

 

 ヒロキは、タクヤとエスターの部屋に招かれて取材を受ける事にした。

 

「じゃあ、早速だけど名前と役職をお願いします」

 

「俺、タクヤ・バーズラッド。ブラックバルチャー隊のパイロットやってま~す♪」

 

 タクヤは、インタビューに答えつつヒロキにVサインをする。

 

「僕は、エスター・ワードナ。タクヤと同じくパイロットです」

 

「この部隊に配属されて何年になるのかな?」

 

「実は僕達、今年の4月に士官学校から配属されたんです」

 

 ヒロキの質問にエスターが応える。

 

「へえ~、じゃあ新米パイロットなんだね」

 

「まあ、そのうち俺がこの部隊のエースパイロットになる予定なんで、よろしく!」

 

 タクヤは、得意げな表情をヒロキに向ける。

 

「はは……ところでオフの日は、何をしているのかな?」

 

 得意げな表情をするタクヤをスルーしてヒロキは、別の質問を投げ掛ける。

 

「休み? ……そういや俺達って、マトモな休み貰ってないよな?」

 

「言われてみるとそうだね」

 

 二人は、ブラックバルチャー隊に配属してから休暇を貰っていない事に気付き、お互いに顔を見合わせる。

 

「そうか。じゃあ話を変えて、ここの部隊に配属されて良かった事と悪かった事は?」

 

「良かった事ねぇ……」

 

「うーん……」

 

 ヒロキの質問に二人は考え込む。

 ブラックバルチャー隊に配属されて以来、殆ど訓練か任務しかしていない為、特に思い当たる様な節はなかった。

 

「……ゴメン、じゃあ悪かった事は?」

 

「おっさんがうるさい」

 

 ヒロキの質問に開口一番にタクヤが答える。

 

「おっさん?」

 

「隊長の事です」

 

 おっさんと言う言葉に誰の事か全く分からずにポカーンとした表情をするヒロキに、さりげなくエスターがフォローを入れる。

 

「ああ」

 

 エスターのフォローにヒロキは、思わず納得する。

 

「それから遊ぶ場所が無いし、機体の整備は自分でしないとダメだし、それから……」

 

 この後ヒロキは、タクヤの愚痴を約30分延々と聞かされるハメになる。

 

「も、もう無いよね?」

 

 延々と愚痴を聞かされて既にヒロキの表情は、疲れきっていた。

 そんなヒロキに姿にレニスは、苦笑いを浮かべていた。

 

「まだあるよ。それから……」

 

 愚痴を言い足りないのかタクヤは、まだ愚痴を言いそうだった。

 その様子にヒロキの表情が引き攣る。

 

「タクヤ、もうそれくらいにしなよ」

 

 エスターが場の空気を読んで止める。

 エスターのフォローにヒロキとレニスは、思わずホッと胸をなで下ろす。

 

「まあ、とりあえずはこんな感じかな?」

 

 メモを取り終えたヒロキは、レニスにメモを見せる。

 

「そうだな。よし、最後に記念写真を撮らせてくれ」

 

 レニスは、カメラをタクヤとエスターに向けて写真を撮る。

 撮影時、タクヤはVサインをしてノリノリな表情、エスターは少し恥ずかしそうな表情を浮かべていた。

 

「いやあ……ありがとう。君達が取材に答えてくれなかったら、下手をすると今日1日何も記事が書けないかと思ったよ」

 

 ヒロキは、インタビューを快く引き受けてくれたタクヤとエスターに改めて礼を言う。

 

「誰だよ、取材を断るなんて勿体無い」

 

「えーと、確か……」

 

 ヒロキは、今までのいきさつを話す。

 

「……色々と大変でしたね」

 

 ヒロキの話を聞いてエスターは、思わず同情する。

 それは、クセの強いメンバーが揃っている部隊にいるからこそ理解できていた。

 

「わかってくれよ、この気持ち」

 

「ああ、わかる。兄ちゃんの気持ち、すっげーわかる!」

 

「わかってくれるかい?」

 

「もちろんさ!」

 

 やけに息の合うタクヤとヒロキ。

 そんな二人を見てエスターとレニスは、お互いに顔を見合わせて苦笑いをする。

 タクヤ達と別れて二人は、再び基地内を散策する。

 

 腕時計を見ると18時30分を指していた。

 昼過ぎに到着し、取材の為に基地内を散策していたら、いつの間にか夕方になっていた。

 

「さて……時間も時間だし、あと一人か隊長さんにでも話が聞ければ良い方かな?」

 

 ヒロキは、メモを確認しながらレニスに聞く。

 

「そうだな。なんだかんだ言いつつも、一応は聞けているな」

 

 二人が歩いていると、ちょうどマリアが通りかかる。

 

「あら、あなた達は?」

 

「私達、GNNの者でして……」

 

 ヒロキは、ポケットから名刺を取り出してマリアに渡す。

 

「ああ……隊長から話は聞いているわ」

 

 ヒロキから名刺を受け取りマリアは納得する。

 

「では、取材の方をお願いしたいのですが……」

 

「わかったわ。ここでは何だから、よかったら部屋に来る?」

 

「え!? いいんですか?」

 

 マリアからのお誘いにヒロキのテンションが少しだけ上がる。

 

「ええ」

 

 二人は、マリアの部屋に招かれる。

 

 タクヤ達の部屋と違い、部屋の中は小綺麗に片付いており、時折フレグランスの香りが鼻を擽る。

 

(さっきのクレアって子とは違った大人の女性の魅力を感じるなぁ……)

 

 マリアの部屋に入るなりヒロキは、だらしないくらいに鼻の下を伸ばしていた。

 

「ヒロキ、しゃんとしろ!」

 

 そんなヒロキをレニスは、小声で言いながら右肘で横から突っつく。

 

「私達の部隊の取材で、よろしいんですか?」

 

 コーヒーを煎れつつマリアが訊ねる。

 

「あ、もう全然大丈夫です」

 

 少し緊張した面持ちでヒロキは答える。

 

「気分を害されたら申し訳ないですが、今回の記事は統合軍が明かさない裏の顔みたいな物ですよ」

 

 レニスが続けて答える。

 

「裏の顔……ですか」

 

 レニスの言葉にマリアの動きが止まる。

 

「まあ、ブラックバルチャーと言えば統合軍では、掃き溜めで有名みたいですからね」

 

「おい、レニス! 失礼だろ!」

 

 皮肉混じりに話すレニスにヒロキが食ってかかる。

 

「大丈夫ですよ。そう呼ばれても、仕方ありませんからね」

 

 元々統合軍内部でもブラックバルチャー隊は、部隊としては評価されず、殆ど汚れ仕事ばかり押し付けられている為、マリア自身も周りからの評判は分かっていた。

 

「あ、でも、掃き溜めと言う割には、隊員の方も野蛮な人とか全然いなくて安心してますよ」

 

 場の雰囲気を和ます為にヒロキは、さりげなくフォローする。

 

「ありがとうございます」

 

 ヒロキのフォローの言葉にマリアは、少しだけ微笑む。

 微笑むマリアの表情を魅力的に感じたヒロキは、思わず顔を赤らめる。

 

「どうぞ」

 

 マリアは、テーブルにコーヒーカップを置く。

 淹れたてのコーヒーの香りがヒロキの鼻をくすぐる。

 

「ありがとうございます。では、お話をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 

「ええ」

 

「まずは、お名前と役職をお願いします」

 

「マリア・ランカスター、パイロット兼ブラックバルチャー隊の副隊長です」

 

「女性で副隊長ですか」

 

 女性がパイロットで活躍する事は、第一次星間大戦時では珍しかった。

 現在は女性がパイロットで活躍する事も特には珍しくなくなったが、隊長クラスで活躍する事は希である。

 

「おかしいですか?」

 

「い、いえ。自分の女性の友達も統合軍でパイロットをしていまして……」

 

「そうなんですか」

 

「は、はい。しかも今度、小隊長になるみたいなんですよ」

 

「その方、パイロット技術が凄いんでしょうね」

 

「いやいや。でも、僕は副隊長も充分にカッコいいと思ってます。だって、パイロットで腕が立つからと言ってなれる訳でもないですし」

 

 ヒロキは、どぎまぎしながらもフォローする。

 

「フフ、そうですね。ありがとうございます」

 

「い、いえいえ」

 

 ヒロキのフォローにマリアは少しだけ微笑み、ヒロキの顔も真っ赤になる。

 マリアの微笑む顔が見たいのか、ヒロキは積極的にフォローを入れていた。

 

「ここの部隊に配属されてから、どれくらい経ちますか?」

 

「そうね……設立時から隊長と一緒だったから、もう5年ぐらいかしら? 今思うと色々とあったわね」

 

 マリアは、ブラックバルチャー隊への配属から5年の歳月が流れた事に色々と思い出を募らせる。

 自分が部隊の中で過ごしてきた日々が懐かしく思える。

 結成当時は、ドルチェフと自分を含めて六人しかいなかった部隊が、今では四十名近く増えている事に統合軍の内情の悪さやガルスの横暴が続いている事を表しているのだと実感する。

 

「なるほど。この部隊に配属されて良かった事や悪かった事は?」

 

「そうね……隊長と過ごした日々が良かった事でもあり、悪かった事でもあるかしら」

 

(何だろ? 今の意味心的発言は……)

 

 マリアの言葉にヒロキは、ふと疑問を感じていた。

 

「色々とありがとうございます」

 

 取材を終えたヒロキは、お礼を言いつつメモを整理する。

 

「最後に写真を撮らせてもらえないですかね?」

 

 レニスは、マリアにカメラを見せる。

 

「ええ、構いませんよ」

 

「では、いきます」

 

 少しはにかんだ笑顔を見せるマリアを被写体にレニスは、シャッターを切る。

 写真撮影を終えた二人は、マリアの部屋を後にする。

 

 レニスが時計を見ると針は20時を指そうとしている。

 

「今日はこれくらいにして、飯でも食べよう」

 

「ああ、それにしても今日は精神的に疲れる事ばっかりだったなぁ……」

 

「ハハ、そうだな」

 

 二人は、一緒に背伸びをしながら食堂へと向かう。

 

「疲れてお腹が空いているのか、やけにご飯が美味く感じるなぁ」

 

 ヒロキは、トレイに並んだおかずを次々と口に運び、ご飯をかきこむ。

 美味しそうに食事をしているヒロキをよそにレニスは、食事を取りつつも端末でメールをチェックしていた。

 

(なるほど……)

 

 メールを確認したレニスは口元を緩ませる。

 

 食事を終えた二人は部屋に戻り、それぞれの記事の骨組み作成をする。

 しかし、マトモに取材できたのはタクヤ、エスター、マリアの三人だけなのでロクな内容物にならなかった。

 

「ダメだぁぁぁ! やっぱり記事にならねぇぇぇぇ!」

 

 記事作成に行き詰まったのか、ヒロキはヤケを起こす。

 そんなヒロキを横目にレニスは、撮影した写真の整理とネットワークニュースの閲覧をしている。

 

「ヤケにならないで気分転換に少し休んだらどうだ?」

 

 一人でヤケを起こすヒロキにレニスは冷静に諭す。

 

「けどさぁ……」

 

 レニスの言葉にヒロキは、口を尖らせる。

 

「行き詰まったこういう時こそ、一晩寝てみると意外に頭がスッキリするぞ」

 

「……わかったよ。じゃあ、レニスには悪いけどシャワーを浴びて先に寝かせてもらうわ」

 

「ああ」

 

 レニスの助言を素直に受け入れたヒロキは、鞄から着替えを取り出してシャワールームへと向かう。

 

「ゆっくりしてこいよ」

 

「ああ」

 

 ヒロキがシャワーを浴びている間もレニスは、端末でネットワークニュースを閲覧していた。

 

「あー、サッパリした! さて寝よう寝よう」

 

 シャワーを浴びて気分転換したヒロキの表情からは、先程のイライラ感は無くなっており、その様子を見てレニスは少しだけ笑っていた。

 

「じゃあ、レニス。先に寝るわ。おやすみ」

 

 ヒロキはベッドに横になると、よほど疲れていたのか、すぐに眠りについた。

 

「さて……」

 

 ヒロキが眠りに入ったのを確認したレニスは、端末でメールの確認し始める。

 メールには、ある言葉が表示される。

 

ドルチェフ・ブライアン……VF-14S 機体No:001

 

「なるほど……やはり間違いなかったか」

 

 メールの文章を確認したレニスの口元がニヤつく。

 

 辺りが静まりかえった真夜中。

 時々、聞こえてくる虫の鳴き声が心地よく感じてくる。

 

 ブラックバルチャー基地内も静まり返っていた。

 偵察任務で出撃しているパイロットを除いた非番のパイロット達や基地内職員は皆、各々の部屋で過ごしている。

 そんな静まり返った基地内で一人の人影が足音を立てずに歩いていた。

 

 人影は時々、歩みを止めては辺りを見回す。

 そして、人がいないのを確認すると再び足音を立てずに歩き始める。

 

 人影は、非常灯の明かりで照らされる案内板を頼りに格納庫へと歩みを勧める。

 ミラン達は、既に作業を終えているので照明が消されており、格納庫内は暗く不気味なほど静まりかえっている。

 人影は、格納庫の中を確認すると懐中電灯を点けて格納庫の中へと歩み寄る。

 

 ポケットから懐中電灯を照らして1機ずつバルキリーを確認しながら歩く中、あるバルキリーの前で歩みを止める。

 人影は、ポケットから小型端末を取り出してメールの内容を確認する。

 そして機体に懐中電灯を照らして機体の確認を行う。

 

「VF-14S……機体番号は001。この機体に間違いないな」

 

 人影は、呟くと小型端末をポケットにしまい、別のポケットから小型爆弾を取り出す。

 

「ドルチェフ・ブライアン……まずは、お前から家族の仇を討たせてもらう」

 

 人影は、ドルチェフへの恨み言を呟きながら、ゆっくりとドルチェフの機体へと歩み寄る。

 そして、人影がドルチェフの機体に小型爆弾を取り付けようとした瞬間、突如格納庫内の照明が点く。

 

「!?」

 

 突然の事に人影は驚いて辺りを見回すと、入り口にドルチェフが拳銃を突きつけて立っていた。

 

「こんな夜更けに格納庫にやってくるとは、ただの散歩ではないようだな……ここで何をしている?」

 

 拳銃を突きつけたままドルチェフは、人影に問いただす。

 

「……」

 

 拳銃を突きつけられたまま人影は微動だにしなかった。

 

「そんな物騒な物を持っているとは……レニス、お前さんは、ただの報道記者ではないな?」

 

 至極真っ当な報道記者は、小型爆弾と言う物騒な物は所持していない。

 それ以前に小型爆弾を所有していると言う事は、私は危ない事をしますと自ら白状しているような物である。

 

「くっ……」

 

 レニスは、恨めしい眼差しでドルチェフを睨みつける。

 

「そんな目で睨まれた所で、俺は一歩も引かないし、拳銃も下ろさないぞ」

 

 ドルチェフは、レニスから眼差しを受けても一歩も退こうとはしなかった。

 

「安心しろ、この事は周りには黙っておいてやる。さあ、その物騒な物をこちらによこせ」

 

「く……嫌だと言ったら?」

 

「……その時は、俺も容赦はしない」

 

 ドルチェフは、拳銃を突きつけたまま、ゆっくりとレニスに近づく。

 

 レニスは、隙をついてジャケットのポケットから拳銃を取り出そうとする。

 しかし、それよりも早く気付いたドルチェフは、拳銃をレニスの足元に撃つ。

 

「今のは威嚇だ。次に抵抗をした場合は、遠慮なく撃つ。だから、バカな事は考えない事だ」

 

 ドルチェフとレニスとの距離は約3mくらい離れているが、正確に足元へ向けて銃弾を当てており、レニスはドルチェフの言葉が脅しではない事に気付いたのか、額から冷や汗を流して固唾を飲む。

 こちらの行動を見抜かれて更に念を押された事で、レニスは恐怖感からか一歩も動けなかった。

 

(クソ……どうする)

 

 ゆっくりと近付いてくるドルチェフに対して、レニスは次にどのような行動をするべきかを頭の中で試行錯誤しながら考える。

 ドルチェフがレニスに近付き小型爆弾と拳銃を奪い取ろうとした、その時、

 

「うぉぉぉぉぉぉ!」

 

 一瞬の隙を突いてレニスは、ドルチェフに殴りかかる。

 

「くっ!」

 

 レニスのパンチを受け流し、そのままレニスの足を引っ掛けて転倒させる。

 そして、ドルチェフは倒れているうちにレニスの右腕を掴んで後ろへと捻る。

 所詮は、素人がプロに喧嘩を仕掛けるような物であり、ドルチェフにとってレニスを大人しくさせるのは容易い事だった。

 

「ぐぉあぁぁぁぁ!」

 

 右腕を後ろへ捻られてレニスは悲痛の叫びを上げる。

 

「いい加減に観念しろ!」

 

「わ、わかった! お、大人しくする! 大人しくするから離してくれ!」

 

「本当だな?」

 

 ドルチェフは本心を確認する為、掴んだレニスの右腕を更に捻る。

 

「ほ、本当だ! ほ、本当に大人しくする!」

 

 レニスの必死な叫びを聞いたドルチェフは、レニスの右腕を解放する。

 ドルチェフに右腕を解放されたレニスは、息が上がったまま掴まれた右腕を庇うように掴む。

 

「まったく、無茶しやがって」

 

「ク……クソ、クソォォォォ!」

 

 ドルチェフに工作を妨害された悔しさからなのか、レニスは怒り狂ったように叫び出す。

 

「レニス……お前さんは、いったい何を企んでいる?」

 

 ドルチェフの問い掛けにレニスは何を語ろうとするのか?




次回予告

 語られるレニスの過去。
 そして、戦場の取材に向かうヒロキ達を待ち受ける物は……

次回「デンジャラス・スクープ」
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