ドルチェフに取り押さえられたレニスは、そのままドルチェフの部屋へと連行される。
真夜中の為、辺りは静まっており、部屋へ向かう途中は二人の足音だけが響き渡る。
各々の部屋は格納庫から離れている為、誰一人として格納庫で起こった出来事には気付いていなかったのが二人にとっては幸いである。
部屋へ着くなりドルチェフは、レニスを近くの椅子に座らせる。
レニスを椅子に座らせた後、ドルチェフは棚からコーヒーカップを取り出し、コーヒーメーカーのコーヒーを入れてレニスに差し出す。
「これでも飲んで落ち着け」
「……」
レニスは無言で渡されたコーヒーカップを受け取る。
「安心しろ、毒なんて入っちゃいない」
ドルチェフは、不審がりコーヒーに口を付けないレニスに毒が入っていない事を証明させる為に自ら入れたコーヒーを口に運ぶ。
その様子を見ていたレニスもコーヒーカップを口に運ぶが、その視線はドルチェフへ向けられていた。
まるで恨みがましいような目付きがドルチェフは気になっていた。
「話を聞こうか。お前さんが何故、俺を殺そうとしたのかを」
「お前は……お前達は、俺の家族の仇だ」
「仇……か」
レニスの仇という言葉にドルチェフは、ポツリと呟く。
「確かに統合軍は、今までの戦いで色々な敵を撃ち落としてきたからな。仇として恨まれても当然か……」
戦争と言うのは非情である。
対立する互いの兵士にも家族や恋人がおり、兵士達はそれを守る為に戦う。
時には、戦闘で市民達に危害を与える事もある。
戦場では、敵に情けを掛ければ自分が死んでしまう。
例え、それが敵側の一般市民でもだ。
だからこそ、敵の事情などを理解している余裕なんて無いのが現状だ。
コーヒーを飲み終えたドルチェフは、コーヒーカップを机の上に置く。
「どうやら俺達は、お前さんの家族を殺したんだな」
「……7年前のジェニオスシティの事件を知っているな」
「!? ジェニオスシティだと?」
ジェニオスシティと言う言葉にドルチェフは、思わず声を荒げて驚く。
「俺の家族は、あの街に住んでいた。事件当日、俺は、やっと大きな仕事を終えて久しぶりに家族の元へと帰る所だった。だが、俺の目の前に見えたのは……赤い炎だった」
レニスは、当時の状況を思い浮かべつつ、ポツリポツリと話す。
その目には、悲壮感すら漂っていた。
「……」
悲しみに暮れるレニスの話にドルチェフは、言葉を詰まらせてしまうのだった。
「統合軍が反応弾を撃ち込んだという話を聞いた俺は、GNNのデータを調べたさ。それにしてもGNNも面白い記録を持っているもんだ。統合政府が隠蔽した記録が次々と出てくる」
「その時に7年前の事件も……」
「そうさ。当時の首謀者がアンタと今日取材を受けたマリアって女。そして、ガルスとギブソンの4人だと言う事もな。今回の仕事は、まさに俺にとって復讐出来るチャンスだったのさ」
レニスは、不敵な笑みを浮かべる。
今回の取材は、スキャンダルにより仕事を自粛させられているヒロキと違い、レニスにとっては、まさに復讐を果たす為に今回の仕事を買って出ていた。
「一つだけ言わせてもらうが、あの時、反応弾発射の命令を下したのは俺じゃない、ガルスだ。俺達三人は、反応弾発射を止めたんだ」
GNNに残っているデータも統合軍により改ざんされている事を見抜いたドルチェフは、事の真相をレニスに告げる。
「だが、結果的に反応弾は発射されてジェニオスシティは壊滅した。違うか? それにそんな事は、ジェニオスシティの市民には全く関係ないよな?」
しかし、レニスにとっては、今更真相を知った所で亡くなった家族が生き返る訳ではない。
理由はどうあれ、所詮は結果が全てである。
レニスの正論にドルチェフは、何も言えなかった。
「ようは、お前さんは家族の仇を取れたら、それで満足なんだな?」
「その通りさ。あの事件の関係者を誰でも良いから殺す事ができれば俺も満足さ」
「わかった」
ドルチェフは、懐から拳銃を取り出してマガジンから弾を抜き取り、弾を1発だけマガジンに戻した後、レニスに渡す。
「!?」
唐突にドルチェフから拳銃を渡されてレニスは驚く。
「俺は、後ろを向いているから1発で仕留めてくれ。セーフティも解除しているし、ソイツは消音銃だから銃声は、誰にも気付かれないから安心しろ」
レニスに拳銃を渡した後、ドルチェフはレニスに背中を向ける。
渡された拳銃をレニスは、まじまじと見つめる。
初めて触る拳銃は意外と軽く、よく映像やグラビア等のメディアで見かける物と遜色なかった。
拳銃を手にしたレニスは、固唾を飲みつつ銃口をドルチェフに向ける。
「……」
「……」
しばし、長い沈黙が続く。
しかし、レニスは一向に銃の引き金を引こうとはしなかった。
「どうした、早く撃たないか」
一向に引き金を引かないレニスにドルチェフは、背を向けたまま命令する。
「わ、わかってるさ」
ドルチェフに急かされてレニスは、固唾を飲みつつ深呼吸をする。
「どうした? 震えているのか?」
先程からレニスは、銃口をドルチェフに向けたまま固まっていた。
時々、手が震えているのか銃口が微かに震えている音が聞こえてくる。
「う、うるさい!」
ドルチェフの挑発するような言葉にレニスは激高する。
「……ハァ……ハァ」
撃つのを躊躇っているのか、レニスの呼吸が早くなる。
いくら憎い相手とは言え、いきなり凶器を渡されて殺せと言われても心の中の良心が残っていれば躊躇をしてしまう。
レニスには、まだその良心が残っていたのだ。
レニスの呼吸が早くなっているのに気付いたドルチェフは、レニスの方を向いて拳銃を取り上げる。
「な、何をする!」
「やっぱり、お前さんのような素人に人殺しなんて無理だ」
「む、無理なものか!」
レニスは、ドルチェフから無理矢理拳銃を奪い取ろうとするが、緊張感から解放された事で精神的な疲労が一気に来たのか、そのまま前のめりになって倒れそうになる。
「言わんこっちゃない」
ドルチェフは、前のめりに倒れそうになるレニスを支える。
「さ、触るな!」
レニスは、倒れそうになる自身の身体を支えるドルチェフから無理やり離れる。
ピピー、ピピー
突然部屋の通信機が鳴り出した為、ドルチェフは通信に応対する。
『隊長、統合軍本部から通信が入っていますが、どうしますか?』
通信主はアイナからだった。
「統合軍本部から? わかった、転送を少しだけ待ってくれ」
『了解』
ドルチェフは通信を保留状態にする。
「イヤミなら後でたっぷりと聞く。すまないが、部屋に戻ってくれ」
「……」
ドルチェフに促されてレニスは身体をフラつかせながらも部屋のドアへ向かう。
「今回の事は、俺達二人だけの秘密だけにしてくれ」
「……わかっているさ」
ドルチェフの部屋を後にしてレニスは、ドアに凭れかける。
(今の俺にはアイツらすら殺せないのか……クソ!)
自責の念に駆られつつレニスは自室へ戻る途中、何度もドルチェフの部屋を振り返った。
部屋に戻ったレニスは、椅子に座ってうなだれていた。
しばらくすると部屋の外から騒がしい音が聞こえたので、レニスはドアを開けて外の様子を見る。
外では、パイロットスーツに身を包んだパイロット達が格納庫へと向かっていた。
その様子を見たレニスは、すぐに出撃だと気付き、寝ているヒロキを起こす。
……きろ
「うーん……」
……ロキ……きろ
「何だよ……眠いんだから、もう少し寝かせてくれよ」
「ヒロキ、いい加減に起きろ!」
なかなか起きないヒロキをレニスは、身体を揺さぶって起こす。
「……うーん。なんだよ、レニス」
レニスに身体を揺さぶり起こされたヒロキは、目を擦りつつ身体を起こす。
「起きたな。ヒロキ、すぐに支度をしてくれ」
寝ぼけ眼のヒロキをよそにレニスは、身支度をしていた。
「何かあったのか?」
「どうやら、ブラックバルチャー隊が出撃するらしいぞ」
「なに、本当か!」
出撃の言葉に寝ぼけ眼のヒロキは、目が覚めて一気にテンションが上がる。
「ああ、部屋の外が騒がしくて様子を見てみたら、パイロット達が格納庫へ向かっているようだ。あれは間違いなく出撃するだろうな」
「よし、これで特ダネ写真とビデオが取れれば、視聴者がぶったまげる記事が書けるぞ!」
基地内でのインタビューだけでは記事が全く書けずに悪戦苦闘していたヒロキにとって、戦場のレポート取材は願ってもない大チャンスだった。
ヒロキはベッドから飛び起きて、急いで支度をしてレニスと共に格納庫へと向かう。
二人が格納庫に到着すると、格納庫内では出撃準備でメカニックやパイロット達でごった返しだった。
「チーフ、VF-11へのスーパーパック装備と弾倉装填、全機完了しました」
「わかった。そのまま出力系統と電子系統のチェックを頼む」
「了解」
相変わらずミランは、作業をしながら各メカニックマンに指示を出している。
「おお、これはネタになりそうだから撮っておこう」
ヒロキは、ビデオカメラを取り出して格納庫内の様子を撮影する。
レニスは辺りを見回してドルチェフを探すが、辺りにいる気配は無かった。
「ヒロキ、少し待っててくれ」
ビデオ撮影をするヒロキをその場に待たせてレニスは、近くにいるミランの方へ歩いていく。
「作業中すみません、隊長さんは何処にいるか知りませんか?」
レニスは、ミランにドルチェフの居場所を尋ねる。
「隊長ですか? さっきいたんだけどなぁ……」
数分前にドルチェフに機体作業関係の話をしていた為、まだ遠くへは行っていないと思い、ミランは辺りを見回す。
「あ、あそこにいました」
ミランが指を指した先でドルチェフは、ブロウニング付近でマリアと話し込んでいた。
「隊長、隊長!」
ミランは、大声でドルチェフを呼ぶ。
ミランの声に気付いたのか、マリアとの会話を中断してドルチェフがやってくる。
「どうした?」
「よお、隊長さん。出撃なんだって? 良かったら、俺達も一緒に連れてってくれないか?」
ドルチェフが来るのを待ち構えていた様にレニスは、話し掛ける。
しかし、その表情は不敵な笑みが混ざっていた。
「それは構わん……だが、俺達の部隊は見ての通り人手が足りないから、お前達を守ってやれる保証は無いぞ」
「ええ、それは構いません。危険な事は極力避けます」
レニスの覚悟を聞いたドルチェフは少し考える。
(恐らくレニスは戦場の取材という名目で俺が死ぬ瞬間を見たいのだろう)
部屋で銃を撃つ事もままならなかったが、戦場であれば戦闘によりドルチェフが殺されれば自身の手が汚れる事も無いだろうし、レニス本人も納得するだろう。
ただし、情けを掛けて自分から死にに行くような事はしないようにとドルチェフは自分に言い聞かせる。
「……わかった、着いて来い」
「ありがとうございます」
ドルチェフの許可を貰ったレニスは、ドルチェフに頭を下げてヒロキの元へと向かう。
「ヒロキ、隊長に同行の許可をもらったぞ」
「さっすがレニス! よし、機体の準備をしようぜ」
二人はGNNバルキリーに機材を積み込み準備を行う。
「よし、バルキリーも積み込んでもらえるか頼んでくるよ」
ヒロキは、ミランにブロウニングにGNNバルキリーを搭載してもらう様に頼み込む。
ミランの許可を得たヒロキは、ブラックバルチャー隊のバルキリーと一緒にGNNバルキリーもブロウニングの格納庫へ搭載してもらう。
そして、バルキリーとGNNバルキリーを搭載したブロウニングは、カタパルトから宇宙へ向けて発進する。
『間もなくポイントミューに到達。パイロットは出撃準備。繰り返す……』
しばらくして、目標地点に到達したのか、アイナの艦内放送が流れてパイロット達は格納庫へと向かう。
「レニス、俺達も」
「ああ」
艦内放送を聞いた二人も準備をして格納庫へと向かう。
『バルチャー1から各機へ。出撃後は3機でフォーメーションを組んで迎撃態勢を取れ』
『了解』
ドルチェフは待機中のパイロットに作戦を指示する。
『今回ネルは、タクヤとエスターに付け』
『えぇぇぇ! ボウヤ達と組むの?』
ドルチェフの指示にネルは、不満を漏らす。
『隊長、俺も姉ちゃんとは組みたくねぇよ』
タクヤも不満なのか、嫌そうな表情をしたまま通信を入れる。
『タクヤもネルさんも仲良くしようよ……』
お互いに不満をぶつけるタクヤとネルを見たエスターが二人を宥める。
『タクヤ、ネル。不満なら作戦終了後に腕立て伏せとスクワット100回とグラウンド50周のセットだ。それでも良いなら勝手にしろ』
『う……』
『げ……』
ドルチェフの言葉に先程まで不満げだったタクヤとネルは言葉を詰まらせて、まるで牙の抜けたライオンの如く大人しくなる。
『……バルチャー11。了解』
『バルチャー13。同じく、了解』
ドルチェフの言葉が効いたのかタクヤとネルが、しぶしぶ了承したおかげでエスターは、ホッと胸を撫で下ろす。
『無駄話をしてしまったが、GNNの方々は極力戦場から離れて取材を頼む』
ドルチェフは、ヒロキ達に危険行為を行わないように通信を入れる。
戦闘中は自分の事で手一杯の為、頻繁に周りを気遣う事が出来ない。
その為、ヒロキ達が取材の為に危険な行動を起こさない様に予め釘を刺しておく。
『わかりました。戦闘の邪魔はしません』
ヒロキは、モニター越しに敬礼をする。
「よし、出撃!」
ブロウニングの下部カタパルトが展開し、バルキリー隊が次々と出撃する。
その後にGNNバルキリーも続く。
「ヒロキ、戦場の取材経験は?」
「今回が初めてだ」
「わかった。じゃあ、俺の指示通りに飛んでくれ」
「了解。さあ、頑張っていくぞ!」
今までスキャンダルネタばかりの記事を扱っていた為、ヒロキは初の戦場撮影に気合を入れる。
(直に殺せなくても、無様な死に様くらいは俺に見せてくれよ)
良心が咎めた為、自らの手でドルチェフを殺せなかったレニスは、せめて戦死する瞬間をカメラに収めようと不敵な笑みを浮かべてカメラを構える。
既に戦場は混戦状態になっており、あちこちで爆光が輝いていた。
タクヤ達は、向かってくる敵機をレーダーで確認して迎撃態勢を取る。
「もらった!」
敵機を確認すると同時にネル機は、ガンポッドをヌージャデル・ガー目掛けて連射するが避けられてしまう。
『姉ちゃん、なにやってるんだよ!』
攻撃を外すネルにタクヤは、荒げた声で通信を入れる。
『うるさいな、ボウヤは黙って見てろ!』
ネル機は、加速してヌージャデル・ガーとの距離を徐々に縮める。
それに気付いたヌージャデル・ガーは格闘戦に持ち込もうとするが、ネルは先に機体をバトロイドに変形させて突撃する。
ヌージャデル・ガーは殴り掛かろうとするが、ネル機は脚部バーニアを逆噴射しつつかわす。
「これでも喰らえぇぇぇぇ!」
そして、隙を突いて展開させたガンポッドの銃剣を思い切り振りかぶり、ヌージャデル・ガーの首を跳ね飛ばす。
首を跳ね飛ばされたヌージャデル・ガーは、ピクリとも動かなかった。
『ふっふ~ん♪ どうよ!』
敵機を撃墜したネルは、タクヤに自慢げに通信を入れる。
『それくらい、俺だって出来るよーだ!』
自慢げなネルの言葉を聞かされて面白くないのかタクヤは、ネルを挑発をする。
『なによ、ケンカ売ってるの?』
タクヤの挑発にネルは、喧嘩腰になる。
いつものやり取りにエスターは、深い溜め息を吐く。
『二人共、喧嘩していないで次に行こうよ。それに喧嘩していると、また隊長に怒られるよ』
喧嘩する二人の様子を見て、エスターは宥めるように通信を入れる。
『……わかったよ』
『はいはい』
エスターの通信にタクヤとネルは仕方なく従い、3機は次の敵機を目指して飛んでいく。
「うわぁ……凄いなぁ……」
ヒロキは映像以外での初めての戦場を見て、ただ呆然としていた。
「ヒロキ、ボーっとしていると撃墜されるぞ。悪いけど、もう少しだけ近付いてくれ」
「お、おう。わかった」
レニスの指示でヒロキは、GNNバルキリーを戦場に近づける。
しかし、近づいた瞬間に突如ヌージャデル・ガーが目の前に迫る。
「う、うわあぁぁぁぁ!」
突然の事にヒロキは、機体をガウォーク・ファイターに変形させて逆加速をしながら急いで距離を離す。
GNNバルキリーには護身用の武器は一切搭載されていない為、何かあった場合は逃げる事しか出来ない。
その瞬間、遠方からの攻撃でヌージャデル・ガーは蜂の巣にされて爆発し、GNNバルキリーはその爆風に吹き飛ばされる。
「うわあぁぁぁ!」
「ヒロキ、早く……早く操縦桿を引け!」
「くっ、うぉぉぉぉぉ!」
ヒロキは操縦桿を思い切り引き、機体の全バーニアを吹かして何とか姿勢を制御する。
「はぁ……はぁ……だ、大丈夫か? レニス」
ヒロキは息を切らせつつ、後部座席のレニスに呼び掛ける。
「あ、ああ……なんとかな」
レニスは、首を左右に振りつつカメラを構え直す。
『大丈夫ですか?』
GNNバルキリーに襲いかかるヌージャデル・ガーを撃墜したエスターは、爆風で吹き飛ばされたヒロキ達が気に掛かり通信を入れる。
『あ、ああ。こっちは何とか大丈夫だ』
レニスがエスターの通信に応える。
『良かった』
レニス達の無事を確認したエスターは、安堵の表情を見せる。
『あんまり近づくとヤバいよ兄ちゃん』
タクヤが二人の通信に割り込んでくる。
『ああ、気を付けるよ』
『ボウヤの方がもっとヤバいから注意しなよ』
続けてネルも通信に割り込む。
『んだと!』
自分が馬鹿にされたと勘づいたタクヤは、ネルに喧嘩を吹っ掛ける。
『もう、二人共いい加減にしてよ!』
三人のやりとりをモニター越しに見ながらヒロキとレニスは苦笑いをする。
『三人共、そんな所で喧嘩してると怒られるよ』
三人のやりとりを見ながらヒロキは、さりげなく通信を入れる。
『ああ、そうだった。また隊長に怒られる』
『行くぞ、ボウヤ達』
『二人とも待ってよぉ』
今の現状をドルチェフに見つかったら後が怖いと感じたタクヤとネルは、急いで戦場へと向かい、その後をエスターが追い掛ける。
「ふぅ……やれやれ」
3機がいなくなり、ヒロキは安堵の溜め息を吐く。
このまま三人のやりとりを見ていたら、せっかくのチャンスが台無しになってしまうからだ。
「レニス、機体を動かすけど大丈夫か?」
「俺なら大丈夫だ……!?」
レニスの視線にドルチェフのVF-14が映る。
「ヒロキ、あの機体を追うぞ!」
レニスは、ヒロキにドルチェフ機を指差して追うように声を掛ける。
「あのVF-14だな」
「ああ」
「よし、行くぞ!」
GNNバルキリーは、ブースターの出力を上げてドルチェフ機を追う。
『ホークス1から各機へ、前方より大型の熱源がフォールドしてきます。気を付けて』
アイナからの通信が入り、戦場にゼントラーディ艦がフォールドする。
『敵艦は、ゼントラーディ軍の標準艦スヴァール・サランです。データを転送します』
アイナからゼントラーディ艦のデータを受け取ったブラックバルチャー隊は、データを参照する。
標準艦とは言え、巨人族の戦艦故にその大きさはブロウニングの10倍以上である。
『バルチャー1より各機へ。これより敵艦迎撃に向かう』
『了解』
ドルチェフの命令でブラックバルチャー隊は、スヴァール・サラン迎撃に向かう。
「これが、ゼントラーディ艦」
突然姿を現したゼントラーディ艦にヒロキは、思わず固唾を飲む。
「見るのは初めてか?」
「あ、ああ……」
初めて見るゼントラーディ艦の大きさにヒロキは、声が出なかった。
「ヒロキ、いつまでも見とれてないで追うぞ」
「お、おう」
GNNバルキリーは、スヴァール・サラン迎撃に向かうドルチェフ機の後を追う。
ドルチェフ機は、スヴァール・サランからの砲撃を巧みにかわして砲台にミサイルを撃ち込み次々と撃破する。
「さすが隊長だ」
ヒロキは、ドルチェフ機の巧みな動きに見とれていた。
(クソ、流石に簡単には死なないか)
カメラを回しながらレニスは、なかなか死なないドルチェフに苛立ちを覚えていた。
ミサイル攻撃で外壁に穴が開いたのを確認したドルチェフは、敵艦内に突入する。
ブロウニングの10倍以上の大きさを持つゼントラーディ艦を沈めるには、外部からの攻撃よりも内部からの攻撃で誘爆による撃沈が一番確実な戦法である。
『バルチャー1より各機へ。これより艦内に突入して中枢部分を叩く』
『了解』
「ヒロキ、俺達も続くぞ」
「ああ」
ドルチェフ機に続いて、GNNバルキリーも敵艦内へ突入を開始する。
ガウォークで艦内を進んでいく途中、ドルチェフは背後のGNNバルキリーの存在に気付く。
『お前達も着いて来たのか』
ドルチェフは、後ろから着いてくるヒロキ達に通信を入れる。
『ヘヘ、記事の為ですよ』
ドルチェフの通信にヒロキは、にこやかに応える。
『さっきも言ったが、お前達を守っている暇は無いからな』
『それは分かっています。でも、俺は、この取材に命を掛けているんです!』
『……どうなっても知らんぞ』
ドルチェフ達と同じく、ヒロキも取材の為に命を掛けていた。
ドルチェフ機はヒロキ達を無視して更に奥へと進み、GNNバルキリーもその後に続く。
しばらく進むと、ヌージャデル・ガー3機が待ち構えていたかのように攻撃を仕掛けてくる。
『来たか、お前達は下がれ』
ドルチェフはヒロキ達に退避するように通信を入れる。
ドルチェフの通信を聴き、GNNバルキリーが下がったのを確認したドルチェフ機はヌージャデル・ガーを迎え撃つ。
「それにしても、今日はツイてるなぁ」
ヒロキは、間近でドルチェフの戦いぶりを見て興奮する。
「ああ……」
(さあ、早く死ね。早く無様な死に様を俺に見せろ!)
レニスは、ドルチェフの無様な死に様を期待してカメラ越しにドルチェフの戦いぶりを映す。
例えエースパイロットでも3対1では勝てないだろうとレニスは、内心思っていた。
ドルチェフ機は、ガウォークの機動性を活かして3機のヌージャデル・ガーを翻弄する。
素早く動くドルチェフ機にヌージャデル・ガーは、攻撃をするも次々と攻撃をかわされていく。
翻弄されるヌージャデル・ガーのうちの1機を、ドルチェフ機は隙を突いてガンポッドで撃破し、そのまま残り2機に突撃していく。
2機のうちの1機を格闘戦に持ち込み、殴りかかる1機の腕を掴み上げて、そのままもう1機に投げ飛ばす。
投げ飛ばされたヌージャデル・ガーは、そのままもう1機にぶつかり、折り重なるように倒れる。
折り重なり動けなくなった2機をドルチェフ機は、纏めてガンポッドで蜂の巣にする。
『出てきていいぞ』
戦闘が終わり、ドルチェフはヒロキ達に通信を入れる。
戦闘終了の通信を聞いてGNNバルキリーは、物陰から出てくる。
『流石ですね。俺、こんな間近で戦闘が見れる事ができて感動しました!』
ドルチェフの迫力ある戦いぶりにヒロキは興奮気味に通信を入れる。
『戦闘は、お遊びじゃないんだ。それが分からないなら、いますぐにでも帰れ!』
まるでショーを見ているかのように語るヒロキをドルチェフは感情的になり一喝する。
ヒロキやレニスにとっては、戦闘シーンの映像は一番視聴者が食いつきやすいネタでもある。
しかし、戦っているパイロット達は生き残る為に必死なのだ。
ドルチェフ本人にとっては、人の生死を懸けた戦いを視聴率稼ぎに扱われるのが一番不快だった。
『す、すみません』
ドルチェフに一喝されたヒロキは、身体が縮こまる。
ヒロキを無視してドルチェフは、レーダーを頼りにして中枢部へと進み、ヒロキもそのまま着いて行く。
『あの……さっきは、俺も軽率でした。本当にすみませんでした!』
ヒロキは、自分が軽率な発言をしていた事を謝る。
ドルチェフに一喝されてヒロキは、今まで自分が掴んだスクープも裏では傷ついている人がいたのかも知れない事を気付かされた。
しかし、ドルチェフはヒロキの謝罪を無視したまま中枢部へと向かう。
そして、ついにドルチェフ達は敵艦中枢部分に辿り着く。
『ここを攻撃するから、お前達は脱出できるように下がっていろ』
『わ、わかりました』
『俺達は、お前達マスコミのネタになる為に戦っているんじゃない。それは覚えておけ』
『は、はい』
ドルチェフの通信を聴いて、GNNバルキリーは物陰に隠れる。
ドルチェフ機が中枢部を攻撃しようとした時、突如4機のヌージャデル・ガーと3機のリガードが仕掛ける。
「くっ、待ち伏せか!」
ドルチェフ機は、後退しながら敵機を迎え撃つ。
3機のリガードを後退しながらガンポッドで撃破しつつ、4機のヌージャデル・ガーを迎え撃とうとするが、二手に分かれたヌージャデルガーの攻撃にドルチェフは苦戦を強いられる。
「隊長さんを助けないと」
「ヒロキ、落ち着け」
操縦桿を握ってドルチェフを助けようとするヒロキをレニスは、止める。
「レニス!」
「俺達が出て何になるんだ」
「でも……」
武装を施していないGNNバルキリーが出て行った所で、返ってドルチェフに迷惑を掛けてしまう事にヒロキ自身も苛立ちを覚えていた。
(このまま死に様が見られるんだ。このチャンスを見逃すか)
レニスにとっては、ドルチェフの死に様が見られるチャンスだった。
だからこそ、ヒロキが助けようとする事を止めていた。
「……レニス、すまん!」
レニスの制止を振り切ってヒロキは、スロットルを全開に開けてドルチェフの元へ向かう。
「ヒロキ!?」
突然のヒロキの行動にレニスは、思わず体勢を崩す。
『隊長さん!』
『な!?』
突然現れたGNNバルキリーにドルチェフは驚く。
突如現れたGNNバルキリーに気付いたヌージャデルガー4機のうち2機は、GNNバルキリーに襲い掛かる。
「ほら、こっちだこっちだ」
GNNバルキリーは、自由に動き回り巧みにヌージャデル・ガーの攻撃をかわしていく。
「今だ!」
ドルチェフは、一瞬の隙を突いて2機のヌージャデル・ガーを撃墜し、GNNバルキリーに仕掛けているヌージャデル・ガーも瞬く間に撃墜する。
『大丈夫ですか、隊長さん』
ヒロキは、ドルチェフを心配して通信を入れる。
『この馬鹿野郎! 死にたいのか!』
ドルチェフの怒号がヒロキに響く。
『勝手な事をしたのは謝ります。でも、隊長さんが……』
『他人の心配をするヒマがあるなら自分の事を心配しろ!』
ヒロキの言葉を無視してドルチェフは、ヒロキを怒鳴り散らす。
戦闘のプロでもない素人がでしゃばって余計に危険に晒される事も多々あり、ドルチェフ自身もその状況をいくつか見ていたからだ。
これもヒロキの為を思っての事である。
『す、すみません……』
ドルチェフの怒号にヒロキは俯く。
『こんな事で時間を無駄にしている場合じゃない。中枢部を攻撃するから離れていろ』
『は、はい』
GNNバルキリーが後退したのを確認したドルチェフ機は、ガンポッドとミサイルで中枢部分を破壊する。
中枢部の破壊を確認すると同時にドルチェフ機は、撤退を始める。
『急げ、爆発に巻き込まれるぞ!』
ドルチェフ機の撤退を確認したGNNバルキリーも後に続く。
艦内は、中枢部分の崩壊により各セクションで誘爆が始まっていた。
爆発に巻き込まれない様にドルチェフは、レーダーを確認しつつ出口を目指して進み、ヒロキ達も遅れない様に後に続く。
『大丈夫か?』
必死に脱出をする中、ドルチェフがヒロキに通信を入れる。
『なんとか大丈夫です。大事な特ダネ残したまま、こんな所で死んでたまるか!』
誘爆する艦内を尻目にヒロキは、必死の形相でドルチェフの通信に応える。
そんなヒロキを見てドルチェフは、少しだけ口元に笑みを浮かべていた。
2機は出口を目指して、ひたすら進む。
『もう少しで出口だ』
目の前に出口が見えるのを確認した2機は、ファイターに変形してスヴァール・サランから脱出する。
2機が脱出して間もなく、スヴァール・サランは大爆発を起こす。
ヒロキは、しばらく大爆発を起こしているスヴァール・サランを見つめていた。
「やったな、レニス」
「あ、ああ……」
(クソ……やはり無理だったか)
特ダネをモノにして喜ぶヒロキと対照にレニスは、最後までドルチェフの死に様を見る事ができず、ガックリとうなだれる。
「?」
GNNバルキリーのレーダーが、新たな熱源をキャッチした事にヒロキは気付く。
ヒロキがレーダーの熱源反応に気付いた、その瞬間、GNNバルキリーに強い衝撃が走る。
「うわわわ」
「う、うぐぅ、ぐおぉぉぉ!」
強い衝撃の反動で機体が揺れると同時にレニスの悲痛な叫び声がコクピットに響く。
「レニス!」
レニスの叫び声にヒロキが振り向くと後部キャノピーは半壊し、レニスの右腕は赤く染まっていた。
『どうした!?』
GNNバルキリーの異変に気付いたドルチェフから通信が入る。
『レニスが……レニスが撃たれた!』
ヒロキは、震えた声でドルチェフの通信に応える。
『何だと!? 何処からだ?』
ドルチェフが辺りを見回すと、爆発するスヴァール・サランの中から2機のヌージャデル・ガーが姿を現す。
「くっ、こんな時に!」
ドルチェフは、2機のヌージャデル・ガーに突撃して瞬く間に撃破する。
「レニス、レニス! しっかりしろ!」
ヒロキは、シートにもたれ掛かるように倒れ込んでいるレニスに必死に呼び掛ける。
「う……うぅぅぅ……」
しかし、ヒロキの呼び掛けに対してレニスの意識は朦朧としていた。
(クソ……俺は、アイツに何もできずに死んていくのか)
間接的とは言え、家族の仇でもあるドルチェフに対して一矢報いる事もできずに死を迎える事にレニスは、ただただ悔しい思いしかなかった。
『レニスの様子は、どうなんだ?』
レニスの様子が気になっているのか、ドルチェフから通信が入る。
『隊長さん、このままじゃマズいよ……』
ヒロキは、少し涙目になりながら応える。
『わかった、バルチャー1より各機へ。ブロウニングへ速やかに帰還しろ。』
『了解』
ドルチェフの命令でブラックバルチャー隊は、次々とブロウニングへと帰還する。
『ヒロキ、ブロウニングへ戻れるか?』
『は、はい……エンジンに異常はないみたいです』
『よし、急いで帰還しろ』
『はい!』
ドルチェフ機とGNNバルキリーも続けてブロウニングに帰還する。
『ホークス1、聞いての通りだ。バルキリー隊収容後、すぐに基地へ帰還だ』
『了解』
バルキリー隊を全機収容を確認後、ブロウニングは基地へと急いで帰還を開始する。
GNNバルキリーを格納庫に収容後、レニスはコクピットから降され、パイロット達によって担架に担がれる。
レニスは右腕を撃ち抜かれており、出血も酷かったので、少しでも出血を止める為、右肩付近をガーゼできつめ縛り、そのまま部屋へと運ばれる。
「レニス! レニス、しっかりしろ!」
担架で部屋へと運ばれるレニスにヒロキがしきりに呼び掛ける。
しかし、ヒロキの呼び掛けに反してレニスの状況は、一向に良くなる気配はなかった。
「すまないが、もうしばらく我慢してくれ」
ドルチェフは、レニス呟く様に励ます。
「う……うぅ……」
朦朧とする意識の中、レニスは薄く目を開く。
そして、そのままレニスは、顔をドルチェフの方に向ける。
「ハ……ざまあ……みろ……と……思っ……ているん……だろ?」
弱弱しい声でレニスは、ドルチェフに呟く。
その表情は、怪我による苦痛とドルチェフに対して何も出来なかった事の悔しさが混じっていた。
「もう喋るな。出血が酷くなる」
レニスの弱々しい声を聞いたドルチェフの表情が一層厳しくなる。
「クソ……お前の……死に様を見れ……ないまま……俺……は……死ぬのか……」
悔しさと激痛の為、レニスの表情は歪みつつも、その恨めしそうな視線はドルチェフに向けられていた。
「俺は、お前を死なせない。俺の死に様を見せるまではな……」
ヒロキに聞こえない様にドルチェフはレニスに、こそっと呟く。
まだ生きていれば、自分が死ぬ瞬間をいつでも見せる事ができる。
ドルチェフが今レニスに対してできる、彼なりの最大限の罪滅しなのだろう。
もちろん、これはドルチェフなりの考えであり、それをどう受け止めるのかはレニス次第である。
「チッ……カッコ……つけやがって……言ってくれるぜ」
ドルチェフの言葉を聞き、苦痛に歪んでいたレニスの表情が少しだけ緩む。
恐らくレニス自身もドルチェフの言葉の真意を少しだけ読み取れたのであろう。
「とにかく、今は無理をするな」
ドルチェフは無理をさせないようにレニスを落ち着かせる。
基地へと帰還したレニスは、基地内の簡易医療施設で応急処置を施したおかげで、なんとか一命を取り留める事ができた。
しかし、本格的な治療をする為、惑星ローグに近いステーションの医療施設へと搬送される事となる。
しばらくして、ステーションから派遣されてきた搬送用の輸送船がやって来る。
輸送船が着陸すると、しばらくしてから医師と看護師、そして、二人の搬送員が降りてきてレニスの元へと向かう。
医師と看護師がレニスの容態を確認後、二人の搬送員に指示を促す。
二人の搬送員は、レニスを乗せた担架を担いで、医師や看護師と共にゆっくりと輸送船へと戻る。
「レニス……」
担架で運ばれていくレニスを見ていたヒロキは、不安そうな表情をする。
「大丈夫だ。アイツは死にはしない」
不安そうな表情を浮かべるヒロキをドルチェフは励ます。
ドルチェフとレニスは、互いに意思疎通をして信頼していた。
レニスが元気になった時に改めて罪滅ぼしをしたいと心の中で思っていた。
「隊長さん……」
ドルチェフの励ましにヒロキは、不安げな表情から少しだけ笑顔を見せる。
「それよりも、バルキリーは大丈夫なのか?」
「修理に時間が掛かるとメカニックの人が言ってました」
戦場で撃ち抜かれたGNNバルキリーは、幸いにもレニスのシート付近が損傷しただけであった為、大掛かりな修理をする程までもなかった。
「そうか。まあ、ここで治るまでゆっくりしていけ」
ドルチェフは、ヒロキの肩をポンと叩いて羽根を伸ばすように勧める。
『5月29日
ブラックバルチャー隊の取材が終わった。
最初の頃は、暗い雰囲気で怖い人ばかりだと思っていた印象と違い、実際の雰囲気は結構良かった。
隊員の取材や戦場の撮影も出来て、何とかいい記事が書けそうな気がする。
ただ、相棒のレニスが心配だ。
幸いにも怪我の治療が早かったから大丈夫らしいけど、それでも俺としては心配だ。
俺にとっては、掛け替えのない相棒だからな。
それから、バルキリーの修理に時間が掛かりそうだ。
その関係で、もう少しだけブラックバルチャー隊にいなきゃいけない。
せっかくだから、これを機にもう少しだけブラックバルチャー隊の事を調べてみようと思う』
取材へ行く前は不安な気持ちを綴っていたヒロキも、ブラックバルチャー隊との交流や戦場での取材を通じて、内容自体も少しだけ前向きな内容を綴っていた。
「よし、レニスの分まで頑張るぞ」
日記を書き終えたヒロキは、記事の作成を始める。
次回予告
隊長不在の為、急遽隊長を任されるマリア。
初の隊長任務にマリアの心境は?
次回「レディ・リーダー」