MACROSS-A.D.2048-   作:eisyama

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 隊長不在の為、急遽隊長を任されるマリア。
 初の隊長任務にマリアの心境は?


第8話レディ・リーダー

 数日後、GNNバルキリーの修理が終わり、ヒロキは職場へ戻る事になった。

 偵察任務に出ているパイロットを除くメンバー全員がヒロキを見送る。

 

「フォールドブースターまで用意していただいて、色々とありがとうございました」

 

 ヒロキは、ミランに頭を下げて礼を言う。

 

「フォールドブースターは俺達で改良した特注だから、結構長距離までフォールドできるよ」

 

 ミランは、特注のフォールドブースターに自信があるのか笑顔で話す。

 本来、バルキリー用のフォールドブースターは、1回の使用で20光年分の距離を航行できるタイプが主流である。

 

 ミラン達はGNNバルキリーを修理する合間に搭載されていたフォールドブースターを改良し、1回の使用で約1.5倍の距離を航行可能である。

 

「それは助かります」

 

「縁があったら、また来てくれ」

 

 ドルチェフがヒロキに話し掛ける。

 

「はい、色々とありがとうございます。あと、レニスの件ですけど……」

 

 怪我を負い、病棟ステーションへと搬送されたレニスをヒロキは気遣う。

 

「わかってる。怪我が治ったら、俺達が責任を持って送る」

 

 少し無愛想ながらもドルチェフの声からは、優しさが感じられていた。

 

「よろしくお願いします」

 

 ヒロキは、レニスの事をドルチェフに託して頭を下げる。

 

「ヒロキさん、今回の記事って、いつぐらいにできるの?」

 

 今回の取材の記事に興味があるタクヤがヒロキに質問する。

 自身が初めて取材を受け、しかも記事になるのだから尚更タクヤが気になるのは、当然である。

 

「そうだなぁ……これから戻って編集とかするから、多分、記事が掲載されるのは3日後くらいかなぁ……」

 

「記事、楽しみにしてますよ」

 

 タクヤと一緒に取材を受けたので、エスター自身も記事の内容が楽しみであり、笑顔でヒロキに話し掛ける。

 

「では、失礼します。皆さん、お元気で!」

 

 ヒロキは、一礼してGNNバルキリーに乗り込む。

 やがて、GNNバルキリーは、ブースターを吹かせて滑走路から発進して行く。

 

「行っちゃった」

 

「……うん」

 

 タクヤとエスター、そして、ブラックバルチャー隊の面々は、GNNバルキリーが見えなくなるまで空を見上げていた。

 

「さあ、ボサッとしてないで全員基地へ戻れ」

 

 GNNバルキリーの姿が見えなくなったのを確認したドルチェフは、メンバーに基地へ戻る様に急かす。

 ドルチェフに急かされてメンバーは、次々と基地へと戻っていく。

 

「マリア」

 

 基地へ戻ろうとするマリアをドルチェフは、呼び止める。

 

「何かしら?」

 

「お前に話がある」

 

「?」

 

「実は……」

 

 マリア以外のメンバーがいなくなったのを見計らい、ドルチェフはマリアにレニスとの事を話す。

 

 レニスが7年前のジェニオスシティ事件の件で恨みを持っている事。

 そして、今回の取材でドルチェフを殺そうとしていた事。

 

 ドルチェフの話を聞き、ヒロキと共にレニスの取材を受けていたマリアは驚きの表情を隠せなかった。

 

「そんな……」

 

「ツラい所だが、彼は今でも俺達を憎んでいる。先日の出撃の時も俺の死に様をカメラに残そうとしていたくらいだ」

 

「……」

 

 ドルチェフの話にマリアは、言葉を詰まらせる。

 

「俺は、これから彼の見舞いがてら調べたい事があるから出掛けてくる」

 

「わかったわ」

 

「許して貰おうとは思ってない。だが、せめてもの罪滅ぼしに俺自身でできそうな事は、やってやりたいと思っている」

 

「ドルチェフ……」

 

 本来は、自分達の上司であるガルスが独断で犯した事である。

 それなのに自分から上司の代わりに責任を取りに行こうとするドルチェフにマリアは、不安な表情を浮かべる。

 

「すまないが、しばらく留守にするから俺のいない間は、隊の事はお前に任せたい」

 

「……わかったわ。どうせ、止めても行きそうだものね」

 

 マリアの言葉にドルチェフは少しだけ笑い、基地へと戻っていく。

 

 その後、ドルチェフは、メンバー全員をブリーフィングルームに集めて緊急ブリーフィングを行う。

 

「この間の戦闘でステーションに搬送されたレニスの件で、しばらくの間、留守にしなければならなくなった。みんなには申し訳ないが、俺がいない間はマリアに隊長を務めてもらう」

 

 ドルチェフが基地を留守にすると言う事で、メンバー達はざわつく。

 

 殆どが隊長不在による任務遂行時の不安であるが、タクヤ本人は目の上のたんこぶ的存在が、しばらくいなくなる事に内心喜んでいた。

 

「そんなに不安そうな顔をするな。マリアは、俺と同等くらいにしっかりしている」

 

 今までドルチェフと長年付き添い、共に戦ってきただけにその実力は、折り紙付きだった。

 メンバーの不安を少しでも和らげる為にドルチェフは自信を持ってマリアを推す。

 

「みんな、マリアの命令は、ちゃんと聞くんだぞ。以上だ」

 

 ブリーフィングが終わり、メンバーはブリーフィングルームを後にする。

 

「マリア、後は頼むぞ」

 

「了解、気をつけて」

 

 二人だけになったブリーフィングルームでドルチェフとマリアは、お互いに敬礼をして別れの挨拶を済ませる。

 マリアは、心の中でドルチェフの無事を祈る。

 

 その1時間後、支度を終えたドルチェフは、惑星ローグを旅立って行った。

 他のメンバーが各自の業務をこなす中、マリアは一人でドルチェフを見送る。

 ドルチェフのバルキリーが見えなくなっても、しばらくの間、空を眺め続けていた。

 

「さて……今日から私がドルチェフの代わりに頑張らなきゃ」

 

 ドルチェフを見送ったマリアは、自分自身に言い聞かせて気合いを入れる。

 自身が気弱になってしまうと、パイロット達が不安がって士気も下がり、他のメンバー達にも示しが付かない。

 いくら強がっていても、その様子は自ずと気付かれてしまう。

 例え隊長代理とは言えど、その責任は重大なのだ。

 

ピピー

 

 マリアが自分の部屋で事務処理をしていると、部屋のチャイムが鳴る。

 

「はい」

 

「ミランですが、よろしいですか?」

 

 インターホンからミランの声が聞こえる。

 

「ええ、どうぞ」

 

 ドアが開き、ミランが部屋へと入ってくる。

 

「すみません、本当は隊長に見せなきゃいけないんですけど、マリアさんに見せて良いかどうか……」

 

 ミランは、申し訳なさそうにマリアに話す。

 

「今は私が隊長だから、私が見ます。何かしら?」

 

「実は、来月の経費関係の予算表なんですけど……」

 

「予算表?」

 

 ミランから初めて聞く言葉にマリアは、困惑な表情をする。

 

「ええ、弾薬から食料、雑貨等の必要経費の予算を毎月隊長さんに渡して、隊長さんが予算編成してから統合軍本部に提出しているんですよ」

 

「そもそも、それは統合軍本部が全てやっていたんじゃ……」

 

「ウチの部隊は、その……統合軍の掃き溜めって言われてるもので、予算編成は自分達でやらなきゃいけないんですよ」

 

「そうなの!?」

 

「……ええ」

 

 ミランの言葉にマリアは目を見開いて驚く。

 本来、経費精算や必要経費の予算等は全て統合軍本部が行っていた。

 また、パイロット達も必要な雑貨や経費は担当部署に伝えていた為、その内部事情等は一切知らない者も多い。

 当然、マリアも必要な物は担当部署任せにしていた為、知るはずもなかった。

 

「とりあえず、見せてくれるかしら」

 

「はい」

 

 マリアは、ミランから予算編成表を受け取る。

 

 予算編成表は、運営に必要な経費の細かい内訳が色々と書かれている。

 ミランの場合は、メカニック部門になる為、武器の弾薬やバルキリーの修理やメンテナンスに必要な部品が主になる。

 

「……ふぅ、見てるだけで頭が痛くなるわね」

 

 予算編成表を一通り見て、マリアの表情が険しくなる。

 

「でも隊長は、それを細かく見て編成してたんですよ」

 

「……そうなんだ。凄いわね」

 

 ミランの言葉にマリアは、改めてドルチェフの業務の大変さに感心する。

 

「とりあえず、最終編成は隊長になりますので……マリアさん、お願いします」

 

「わ、わかったわ」

 

「では、失礼します」

 

 ミランは、最後まで申し訳なさそうな表情をしたまま部屋を後にする。

 

 ミランが部屋を出た後、それぞれの担当者が予算編成表をマリアに提出をしにやって来る。

 担当者はミラン同様に申し訳なさそうな表情をしていた。

 それぞれの予算表を受け取る度にマリアの表情は、どんどん疲れきっていく。

 

「備品に食料、医療に雑貨……枚数は少ないとは言え、よく見ると細かく書いてあるわね。ドルチェフは、毎月こんな細かい事をしていたのね」

 

 マリアは、提出された予算編成表を一通りチェックする。

 

「さて、まずは備品からやろうかしら」

 

 マリアは、備品関係の予算編成に取り掛かる。

 

「えーと、弾薬に予算を回しすぎると今度は備品関係の予算が足りなくなるから、均等に分けて……でも均等に分けると、今度は弾薬が足りなくなるわね。うーん……」

 

 マリアは、試行錯誤しながら予算編成をする。

 時には予算編成表を見直し、時には電卓を叩いて計算をする。

 マリアの眉間には、いつも以上に皺が寄っていた。

 

「はあ……何とかできたわ」

 

 あれから約5時間を掛けてマリアは、全ての予算編成表を完成させる。

 その開放感からか、マリアは、そのまま机に突っ伏す。

 その表情は、少し窶れていた。

 

「ドルチェフが年齢の割に老けて見える理由が何となくわかった気がするわ、フフ」

 

 予算表を目を皿のように見回して、電卓を叩きながら一生懸命仕分けをするドルチェフを思い浮かべながら、マリアは少し笑う。

 

 椅子に凭れて伸びをした後、気分転換にローズティーを煎れて一息入れる。

 

「あら、もうこんな時間……何だか、もの凄くお腹が空いてきたから何か食べなきゃ」

 

 ふと時計を見ると20時を過ぎていたので、マリアは食堂へと向かう。

 

 食堂でヘルシーセットを注文して辺りを見回すと、ネルが大盛に盛った定食セットを口いっぱいに頬張っていた。

 

「ここ、いいかしら?」

 

「どーふぉどーふぉ」

 

 口いっぱいに食べ物を頬張りながらネルは、マリアの問い掛けに応える。

 食べ物を頬張る彼女の表情は、幸せいっぱいだった。

 

「ネル、女性がそんなにがっつくのは、みっともないわよ」

 

 マリアはネルの食事中の行儀の悪さを指摘する。

 まるで、がさつな男性が食事をしている雰囲気を醸し出すネルからは、とても女性らしさを感じられなかった。

 

「そんなの別にいいじゃん。それにしても、ここの飯って本当にウマいな。テロリストにいた頃は、こんなマトモな飯にありつけなかったからなぁ」

 

 食事をしながらネルは、テロリスト時代の事を思い出す。

 いつ敵に狙われるか分からないのと、上層部から与えられる補給物資も満足に貰えなかった為、質素な食事ばかりだったネルにとって、自分でお腹いっぱい食べられる事は幸せだった。

 

 ネルは、プレートに盛られた大きめのハンバーグをフォークで刺して一口でたいらげる。

 

「ネル、さっきも言ったでしょ!」

 

 マリアは、再びネルの行動を咎める。

 

「なあ、マリア」

 

「ネル、ここでは私があなたの上司なんだから、言葉遣いに気を付けなさい」

 

 ネルの礼儀知らずな言葉遣いにマリアは、注意を促す。

 

「はいはい。じゃあ、マリア大尉」

 

「何かしら?」

 

「大尉は、メルトランディなのにマイクローン臭いよね」

 

「……そ、そうかしら?」

 

 ネルのマイクローン臭いと言う言葉にマリアは、少し動揺する。

 元々、ゼントラーディ人とメルトランディ人の混血児として生まれたマリアは、巨人族特有の戦闘種族としての誇りは、少なからず持っていた。

 しかし、マイクローン所謂地球人と共に生活をしていくうちに気が付くと自分も地球の文化に感化されていた。

 

「礼儀にやたらうるさいのは、マイクローンの証拠だよ。あんまりうるさいとメルトランディとは言え、老けるよ」

 

「う゛」

 

 巨人族は年齢を重ねてもそれほど見た目が老ける事は感じられない。

 しかし、第三者から初めて老けると言われてマリアの表情は固まる。

 

「はぁぁぁ、おいしかったぁ~♪ んじゃ、お先」

 

 食事を終えたネルは、満足げな表情で食堂を後にする。

 

「老けてないわ……私は、老けてないわ」

 

 一人、食堂に残ったマリアは、自分に言い聞かせるように呟いていた。

 

ピピー

 

 翌日の早朝、マリアの部屋のチャイムが鳴る。

 

「んー……」

 

ピピー ピピー

 

 次第にチャイムの音がけたたましく鳴り響く。

 

「マリア大尉、マリア大尉! いませんか?」

 

 エスターが部屋の外でチャイムを押しながら叫んでいる。

 しかし、その声からは焦りが感じられる。

 

「もう……どうしたの?」

 

 チャイムの音に無理矢理起こされたマリアは、不機嫌な表情のままドアインターホンでエスターに応答する。

 

「あ、マリア大尉。喧嘩です!」

 

「喧嘩?」

 

「はい。最初はマルス先輩とネルさんが喧嘩していたんですけど、止めに入ったタクヤまで喧嘩して、それで……」

 

 しどろもどろの声でエスターは、状況を説明する。

 

「わかったわ、支度をするから少し待ってて」

 

 エスターとの会話を終えたマリアは、急いで身支度をする。

 

 喧嘩は日常茶飯事、どこかで起きている。

 統合軍の掃き溜めと呼ばれるブラックバルチャー隊も例外ではない。

 しかし、今はブラックバルチャー隊の長であるドルチェフが不在の為、その仲裁はマリアがしなければならない。

 

「ドルチェフが不在の時に喧嘩だなんて……もう!」

 

 喧嘩の仲裁という一番面倒な事を押し付けられて、マリアは不満を漏らしながらも身支度を終えて部屋のドアを開ける。

 

「喧嘩は、どこなの?」

 

「格納庫です」

 

 エスターが道案内をしてマリアは後を着いて行く。

 

 一方、格納庫ではタクヤとマルスがネルを相手に取っ組み合いの喧嘩をしていた。

 しかし、メルトランディとは言え、女性であるネルに対してタクヤとマルスは若干押され気味だった。

 

「ほらほら、どうしたの? 女ひとりに手こずっている様じゃ、アンタ達まだまだね」

 

 ネルは余裕の表情を見せながら二人を挑発する仕草をする。

 

「ク……黙って聞いてりゃ、調子に乗りやがって。こんの野郎!」

 

 タクヤは、右拳を思い切り振りかぶってネルに殴りかかる。

 

「ほらほらボウヤ、威勢はいいけど足元がお留守よ」

 

 ネルは殴りかかるタクヤをかわして、それと同時に足払いをして転ばす。

 

「うわ、うわわわわ!」

 

 転倒した勢いでタクヤは、そのまま壁にぶつかる。

 

「テメェ、メルトランディのクセに生意気なんだよ!」

 

 頭にターバンを巻いた男、マルスが続けて殴りかかる。

 ネルはマルスのパンチをかわそうとする。

 

「甘く見んじゃねえぞ! オラァァァ!」

 

 殴りかかるフリをしつつマルスは、フェイントを掛けてネルの腹に蹴りを食らわせる。

 

「クっ……うう……」

 

 マルスに腹を蹴られたネルは、そのまま膝を付く。

 

「ホラホラ、立てよ!」

 

 マルスは跪くネルの胸倉を掴んで起こして、そのまま殴り飛ばす。

 

「やったぜ、マルスさん」

 

「おう!」

 

 タクヤとマルスは、ネルに一矢報いた事の喜びを分かち合い、お互いにハイタッチする。

 

「ほぉ……どうやら、アタシを本気にさせたい気だねぇ……」

 

 ネルは、ゆっくりと起き上がり、指をバキバキと鳴らしながら二人を睨みつける。

 その形相は、まさに鬼そのものだった。

 

「へ、ヘン。まだ、やるってのかよ?」

 

 睨みつけるネルに対してタクヤは挑発をするが、その声はビビっているのか微妙に声が震えており、足元も震えていた。

 

「ハっ、やっと本気になりやがったか」

 

 ビビるタクヤとは対照的にマルスは本気になったネルに対して、不敵な笑みを浮かべている。

 

「さあ、来いよ」

 

 ネルに挑発されていたマルスが今度はネルを挑発する。

 

「こんのやろぉぉぉぉ!」

 

 怒りに任せてネルが二人に殴り掛かろうとした、その時、

 

「三人とも止めなさい!」

 

 三人の間にマリアが間に入って止めに入る。

 殴りかかろうとしたネルは、思わず調子を崩して転びそうになる。

 

「喧嘩の原因は何?」

 

「コイツがアタシに『メルトランディは邪魔だ』とか因縁付けたんだ!」

 

 ネルは怒鳴り散らしながらマルスに指を指す。 

 

「マルス、本当なの?」

 

「ああ、本当だ! 俺は、ゼントラーディもメルトランディも大嫌いだからな。だから大尉、俺はアンタの事も嫌いだ!」

 

 マルスの巨人族に対する嫌悪感にマリアは憤りを感じる。

 自身も女性ばかりの巨人族であるメルトランディである為、マルスの嫌悪感に対しては尚更である。

 

「でも、ここにはゼントラーディやメルトランディも一緒に生活しているのよ」

 

 嫌悪感を露わにするマルスに対して、マリアは何とか宥めようとする。

 

「は? それがどうした。俺は隊長がいるから、とりあえず仲良くしてやってるだけだよ! 勘違いすんじゃねえよ」

 

 そんなマリアの言葉も今のマルスは聞く耳を持たなかった。

 

「……アタシは、アンタの今の言葉にすっげームカついたわ! お前なんか今すぐ殺してやる!」

 

「ネル、止めなさい!」

 

「ネルさん、止めてください!」

 

 マルスに殴り掛かろうとするネルをマリアとエスターは必死で抑える。

 

「離せ、バカヤロー!」

 

「悪ぃけど、俺は次の出撃は遠慮しとくぜ。じゃあな」

 

 それだけ言い放って、マルスは格納庫を後にする。

 

「……あんの野郎、絶対にぶっ殺す!」

 

 ネルは壁を思い切り殴り、怒りを露わにする。

 

 第一次星間大戦後、地球人は巨人族と共に共存の道を切り開いたかの様に見えた。

 しかし、元々戦闘種族である巨人族は、今でも銀河の何処かで紛争を起こし、それに対しての地球人からの差別も何処かで起きている。

 

 ネル自身もレッドバタフライでのテロ活動時に差別を受けていた。

 特に統合軍からの理不尽な差別は顕著で、その事がネルのテロ活動に執念を燃やす切っ掛けにもなっていた。

 

「……」

 

 

「俺はゼントラーディもメルトランディも大嫌いだからな。だから大尉、本当は俺はアンタの事も嫌いだ!」

 

「俺は隊長がいるから、とりあえず仲良くしてやってるだけだよ!」

 

 

 マリアは、マルスの言葉が脳裏に焼き付いていた。

 信頼していた仲間が、あそこまで嫌悪感を示し、且つドルチェフがいたから仲間として認めていた事。

 

 マリアにとって、今までにないくらいに精神的なダメージはなかった。

 

(私は、メルトランディだからマルスに嫌われていた……ううん、そんな事ないわ)

 

 マリアは、心の中で自分自身に言い聞かせて理性を保つ。

 

「……大尉」

 

 マルスの言葉にショックを受けていたマリアを見兼ねて、エスターは心配そうに覗き込む。

 

「大丈夫よ、エスター。うん」

 

 心配するエスターにマリアは、笑顔で応える。

 

「……それなら良いですけど」

 

 笑顔で応えるマリアだが、不安げな表情が和らいでいる様子がない事にエスターは気付いていた。

 

「それはそうと、マルスとネルの喧嘩の原因はわかったとして、タクヤとネルの喧嘩の原因は何?」

 

 マリアはタクヤに理由を尋ねる。

 マルス自身は巨人族に対しての嫌悪感である事は理解できたが、タクヤ自身が何故マルスと共に喧嘩していたのかが理解できなかった。

 

「だって、姉ちゃんが俺の事をいつまでもボウヤ扱いするんだぜ! 腹立つったらありゃしねえ」

 

 タクヤはネルに言われた事を思い出したのか、怒りながら地団駄を踏む。

 

「そんな細かい事で怒ってるから、いつまで経ってもボウヤなのよ」

 

 地団駄を踏むタクヤをネルは鼻で笑う。

 

「んだと!」

 

 タクヤはネルに殴りかかろうとするが、再び足を引っ掛けられて転がされて顔面から地面に激突する。

 

「……」

 

「……」

 

 タクヤとネルのやり取りにマリアとエスターは、ただ呆れるだけだった。

 

 ブラックバルチャー基地の離れた場所で、マルスは一人でタバコを吹かしていた。

 ふと、タバコの煙の行方を眺めて気分転換をするつもりだったが、先程の喧嘩の事が頭を過り、尚更イライラ感が募ってくる。

 

「あ~あ、ったく面白くねえなあ!」

 

 マルスは、イラつきながら近くにあった石を思い切り蹴り飛ばす。

 

「こんな所にいたのね」

 

 そこへ、ちょうど様子を見にマリアがやって来る。

 

「んだよ! 何しに来たんだよ!」

 

 マリアの姿を見るなり、マルスは怒鳴り散らす。

 

「あなたの話を聞きたかったのよ」

 

「俺の話?」

 

「そう。どうして、あなたがゼントラーディやメルトランディを嫌うのかをね」

 

「……んなの聞いてどうするんだよ?」

 

「同じ隊の仲間として少しでもあなたの事を理解しようと思うと言うのは、理由にならないかしら?」

 

 マリア自身はマルスの話を聞いて、少しでも気持ちを理解しようと務める。

 今の状況を長引かせてしまっては、マルスだけではなく、部隊全体としての士気にも影響が出てしまうからだ。

 

「じゃあ、言ってやるよ」

 

 マルスは、加えていたタバコを地面に落として思い切り踏みにじる。

 

「俺の両親は昔、ゼントラーディやメルトランディに殺されたんだ。だから、俺は両親を殺したゼントラーディとメルトランディが憎い。理由は、それだけだ」

 

「……」

 

 感情を吐き出すマルスの言葉にマリアは、何も言い返せなかった。

 もし自分がマルスと同じ立場であれば、殺した相手に対して同じ様に目の敵にしていただろう。

 胸の奥に重い物がのしかかる様な感覚をマリアは感じていた。

 

「あれだけ多くの人間を殺しておいて、今更仲間だなんて偽善ぶるのもいい加減にしろよ!」

 

 そのままマルスはマリアに詰め寄る。

 マルスの形相は、殺意を持っていた。

 自分がマルスよりも立場が上とは言え、話す言葉を選びを間違えたら、彼は何の躊躇いもなく殺そうとするだろう。

 そう思いつつ、マリアは思わず固唾を飲む。

 

「わ、私は偽善ぶってないわ。それに……」

 

 頭の中では冷静さを保とうとするが、言葉は震えていた。

 

ピピ

 

 重苦しい雰囲気が漂う中、マリアの通信機が鳴る。

 

「はい」

 

 詰め寄るマルスから離れて、マリアは通信に応答する。

 

『マリア大尉、統合軍本部から支援要請です。至急、お戻りください』

 

 通信主は、アイナからだった。

 

「わかったわ、すぐに行くわ」

 

 アイナとの通信を終えて、マリアは通信器の電源を切る。

 

「私は、あなたの事を仲間だと思っているわ。だから、憎まれ口でも構わないから話したくなったら、いつでも話して」

 

 マルスを宥めてマリアは、基地へと急いで戻る。

 後ろめたさを感じるのか、マリアは基地へと戻る最中もチラチラとマルスの方へ視線を向けていた。

 

「ちっ……何が仲間だよ」

 

 マルスはポケットからタバコを取り出して、口にくわえて火を点ける。

 そして、視線を上に向けてマルスは、空をぼんやりと眺める。

 

「人間とゼントラーディが仲良くするなんて無理なんだよ」

 

 タバコの煙の行方を眺めながら、マルスはポツリと呟く。

 

 統合軍本部からの支援要請を受けたマリアは、緊急徴収を掛けてパイロットをブリーフィングルームへと集めてブリーフィングを行う。

 しかし、そこにマルスの姿は無かった。

 

「アイナ、ブリーフィングを始めて」

 

「マリア大尉、マルス少尉がまだ……」

 

 マルスの姿が見えないままブリーフィングを始めようとするマリアにアイナは疑問を持つ。

 

「構わないわ。始めて」

 

「は、はい。09:14、ブリーフィングを始めます」

 

 アイナの言葉にマリアは資料を読み上げる。

 

「先程、統合軍本部からポイントアルファにおいてテロリスト殲滅に先行した部隊が苦戦していると連絡が入りました。これより、我が隊はポイントアルファへ向かい先行部隊の支援に向かいます。各員出撃準備」

 

 マルスの姿が見えない事に疑問を持つパイロットもいたが、それでも任務を優先しなければならない為、パイロット達は格納庫へと向かう。

 

 バルキリーをブロウニングへと搬送するが、任務に参加しないマルスのバルキリーだけ搬送される事なく、その場に残される。

 

「マルスさん、本当に来ないんだ」

 

 タクヤは、置き去りにされるマルスのバルキリーを寂しそうな表情で見つめる。

 

 バルキリーを艦載したブロウニングは、ポイントアルファへ向けて発進する。

 その様子をマルスはタバコを吸いながら、ただぼんやりと眺めていた。

 

 ポイントアルファは惑星ローグからそれほど離れた距離ではない為、大気圏を抜けた直後、爆光が目の前に広がっていく。

 

 パイロット達は、すぐに出撃できるように機体に搭乗して待機していた。

 

『バルチャー2から各機へ。発進後は各機個別に迎撃態勢を取れ』

 

『了解』

 

『全機出撃!』

 

 マリアの号令と共にブロウニングの下部カタパルトが展開し、バルキリーが次々と発進していく。

 

 発進後、マリアは先行部隊に通信を入れる。

 

『こちら統合軍第142航空部隊797特別攻撃隊ブラックバルチャー隊、これより支援します』

 

『了解。貴部隊の支援、感謝する』

 

『バルチャー2より各機へ。これより迎撃態勢に移れ』

 

『了解』

 

 マリアの指示でブラックバルチャー隊は、各個散開してテロリスト迎撃に向かう。

 

 

「……」

 

 気が付くとマルスは、自分の機体のコクピットシートにもたれていた。

 そして、先程と同じように格納庫の天井を眺めていた。

 

「あれ? マルスさんの機体が残ってる」

 

 格納庫に荷物を置きに来たメイアは、格納庫内にポツンと残っているマルスの機体に気付く。

 よく見ると、コクピットから足を放り出している人の姿が見える。

 

「もしかして、マルスさんですか?」

 

「……ああ」

 

 メイアの呼び掛けにマルスは、気怠そうな声で返事をする。

 

「マルスさん、出撃していなかったんですか?」

 

 メイアは、コクピットに掛けられたハシゴを登り、コクピット内でシートにもたれ掛かるマルスに声を掛ける。

 

「んー……まあな」

 

 メイアの問い掛けにマルスは、相変わらず気怠そうに答える。

 

「お兄ちゃんから聞いたけど、ネルさん達と喧嘩したんですって?」

 

「んー……まあな」

 

「ダメですよ、喧嘩しちゃ。みんなと仲良くしなくちゃ」

 

 メイアの話も今のマルスは、殆ど聞き流している感じだった。

 

「なあ、メイアちゃん」

 

「何ですか?」

 

「メイアちゃんは、ゼントラーディとかメルトランディの事は、どう思う?」

 

「え? どうって言われても……」

 

 マルスの問い掛けにメイアは、考え込む。

 

「ゼントラーディとかメルトランディは、元々は俺達人間の敵だったんだぜ」

 

「うーん……確かにマルスさんの言う通りに元を辿ればそうですけど、でもミンメイさんの歌のおかげで、みんな仲良くなったんですよ」

 

「ミンメイの歌……か……」

 

 マルスは、ぼんやりと格納庫の天井を見上げる。

 

「マルスさんは、ミンメイの歌は聴いた事ありますか?」

 

「いや、全然。ミンメイとか興味は無かったからな」

 

 マルス自身は元々はロックやR&B系の曲を好んで聴く為、リン・ミンメイ等のアイドルソング自体は、全く興味を示さなかった。

 

 

「とても良い歌なんですよ。私、気分が落ち込んでいる時には、ミンメイの歌を聴いているんです」

 

 メイアは、ミンメイの歌を口ずさむ。

 

―今 あなたの声が聞こえる ここにおいでと 寂しさに負けそうな私に……

 

 格納庫にメイアの柔らかい歌声が響く。

 

 

 ポイントアルファは、ブラックバルチャー隊が支援に加わったが、相変わらず混戦状態が続いていた。

 

「VF-17まで出してくるなんて……どうやらテロリストも本気みたいね」

 

 マリア機の前にVF-17が仕掛けてくる。

 マリアが搭乗している機体VF-14と同じ製造メーカーであり、後継機でもある。

 ステルス機能を有し、アーマードバルキリー並みの装甲を持つ機体がテロリストが所有していること自体、テロリストの力の入れ具合も大きいとマリアは感じていた。

 

 

―もう一人ぼっちじゃない あなたがいるから……

 

「……メイアちゃん」

 

「はい」

 

「メイアちゃんは、ゼントラーディとメルトランディは、人間と共存できると思うか?」

 

「私は……できると思います。ここの基地でも多くのゼントラーディの人やメルトランディの人が、今まで一緒にやってこれましたから。それに兄以外に身寄りの無い私にとっては、家族みたいなものです」

 

 先程のマルスの問い掛けに対してメイアは、はっきりと答える。

 その表情は、自信に満ちていた。

 

「そうか……」

 

「マルスさんは、共存できると思いますか?」

 

「……俺は、共存できないと思う」

 

「……そうですか」

 

 自身が出した答えとは逆の事を答えるマルスにメイアは、シュンとした表情をする。

 

「……でもな」

 

「?」

 

「メイアちゃんの歌ったミンメイの歌を聴いたら、何となくだけど共存できそうな気がした」

 

 今までゼントラーディやメルトランディに対して憎しみを抱き、ましてやミンメイの歌自体に興味がなかった為、彼らと共存する事自体が馬鹿げていると思っていた。

 しかし、メイアの歌った歌詞と優しい歌声を聴いたマルスの奥底で少なからず、憎しみを止めて共存しても悪くはないと言う感情が芽生えてきていた。

 

 そして何より、自分よりも年下の少女が自信を持って共存できると信じているのに自分自身は、くだらない事でイライラしていた事を恥じていた。

 

「マルスさん……」

 

 マルスの共存を思う言葉にメイアの表情が明るくなる。

 

「俺、今から出るわ」

 

「はい、頑張ってください」

 

 マルスはコクピットから起き上がり身支度をし、その間にメイアは急いでマルス機の車輪止めを外す。

 

 機体のエンジンに火を入れて滑走路へと機体を動かし、メイアのハンドサインと共にマルスは大空へと飛び立っていく。

 

「くっ!」

 

 マリア機は、VF-17から発射されたミサイルをチャフをバラ撒きつつ回避する。

 しかし、未だにマリア機の後ろをVF-17は着いてくる。

 

「何とか反撃のチャンスを……」

 

 VF-17のガンポッドをかわしつつ反撃のチャンスを伺うが、VF-17の高い機動性に翻弄されるだけだった。

 

「これなら!」

 

 マリアは、機体をガウォーク・ファイターに変形させて逆加速でVF-17をやり過ごそうとするが、VF-17も同じ様にガウォーク・ファイターに変形させて相対速度を合わせようとする。

 

「動きを読まれるなんて……」

 

 更に別方向からVF-3000が援護にやって来る。

 

「挟まれた!?」

 

 VF-3000から発射されたミサイルをかわすも、後続のVF-17のガンポッドがマリア機に数発命中する。

 

「キャアアァァァァァァ!」

 

 攻撃を受けて、マリア機は失速する。

 

「?! 出力が上がらない」

 

 VF-14の質実剛健な作り故に撃墜は免れたものの、コンソールパネルにエンジンの出力が落ちている状況が表示される。

 

 マリアは必死になってスロットルを開けるが、エンジンは悲鳴を上げて出力が上がる様子はなかった。

 

 出力が上がらないマリア機を見て、VF-3000とVF-17が追い討ちを掛ける様に追撃をする。

 

「あ、ああ……いやああああ!」

 

 徐々に迫り来る恐怖感からマリアが悲鳴をあげた瞬間、VF-3000は突如、爆発を起こし、続けてVF-17も撃ち抜かれて爆発する。

 

「な、何が起きたの?」

 

 マリアは、突然の出来事に辺りを見回す。

 

『大丈夫か? 隊長さん』

 

 マルスからの通信を受けて、ふと辺りを見回すと、後方からマルスのVF-11が駆けつけていた。

 

『マルス……ありがとう』

 

 マルスからの通信を聞き、恐怖感に怯えていたマリアの表情が和らぐ。

 

『おいおい、エンジンがボロボロじゃないか。早く帰還しないとやられるぞ』

 

 マリア機はエンジン付近に攻撃をモロに喰らい、所々で小さな火花を散らしていた。

 

『わ、わかったわ』

 

「俺だけじゃマズいな」

 

 自分一人だけでは護衛が難しいと判断したマルスは、通信回線を開ける。

 

『バルチャー6から各機へ。バルチャー2が負傷した、誰かバルチャー2が帰還するまで援護に回ってくれ』

 

『了解』

 

 マルスの通信を受けて、ちょうど近くを飛んでいたタクヤ機とエスター機が駆けつける。

 

『マルスさん』

 

『あれ? あんなにマリア大尉を嫌ってたのに、一体どうしたんスか?』

 

 タクヤは、ブリーフィングに全く参加していなかったマルスが戦場にいる事に驚く。

 

『まあ、ちょっと色々とあってな……それよりも隊長が帰還するまで悪いけど援護してくれ』

 

『了解』

 

 3機はマリア機を援護しながらブロウニングへと向かう。

 

 次々と追撃する機体をマルス機を筆頭にタクヤ機とエスター機がフォーメーションを組みながら撃墜していく。

 

『マルス、あなた……どうして?』

 

『怪我をしているんだから喋るな。バルチャー6からホークス』

 

 マルスはブロウニングに通信を入れる。

 

『こちらホークス1』

 

 マルスの通信をアイナが受ける。

 

『バルチャー2が負傷したし、機体もヤバイ状況だ。間もなくそちらに到着するからカタパルトを開けてくれ』

 

『了解』

 

 マルスの通信を受けて、ブロウニングは受け入れ準備を始める。

 

 その間にも4機を追撃する手は止む事はなく、三人は必死になってマリアを護衛しながらブロウニングへと進む。

 

 ブロウニングが肉眼で確認できる距離まで近付くと同時に、ブロウニングは下部カタパルトが展開させて、4機はブロウニングへと帰還する。

 

『隊長さんは、しばらく休んでな』

 

『……わかったわ』

 

『なーに、後は俺達で何とかするさ。タクヤ、エスター、行くぞ』

 

『了解』

 

 傷ついたマリア機を格納庫に残し、3機は再び先行部隊の支援に向かう。

 

『バルチャー6よりホークス。現在の戦況を教えてくれ』

 

『現在、先行部隊と敵部隊との状況は、相変わらず先行部隊が押されている状況です』

 

「こちら側が不利って奴か……へへ、面白くなってきやがったぜ」

 

 戦況を聞いたマルスは、口元を緩ませながら舌なめずりをする。

 

『タクヤ、エスター、俺について来い』

 

『了解』

 

 3機は爆光輝く戦場へと機体を躍らせる。

 

 ブラックバルチャー隊の援護ならびにマルス機の追加支援のおかげで、最初は押され気味だった先行部隊も徐々に盛り返し、VF-19を先頭にした攻撃隊本体が到着した頃には、テロリストの殆どが壊滅状態だった。

 

『後は我々に任せてください。支援感謝します』

 

『了解、ホークス1より各機へ。任務完了、全機ブロウニングへ帰還してください』

 

 攻撃隊隊長との通信を終えて、アイナは帰還命令を出す。

 

「お疲れ様、マルス」

 

 ブロウニングに帰還したマルスをマリアが出迎える。

 しかし、その表情は何処と無く辛そうだった。

 

「おいおい、大丈夫かよ。そんな身体で!」

 

 フラつく身体で出迎えるマリアの体調を気遣い、マルスは思わず駆け寄る。

 

「私なら大丈夫よ。ねえ、マルス」

 

「な、何だよ」

 

「どうして、急に来たの?」

 

 あれだけゼントラーディを憎み、自分の話も聞かず、そしてブリーフィングにも参加しなかったマルス。

 しかし、部隊がピンチになった時に急に駆けつけた事にマリアは、不思議で仕方がなかった。

 

 そんなマリアの問い掛けにマルスは、思わず後ろを向く。

 

「……ちょっとばかり、気が変わった。ただ、それだけさ」

 

 マリアの問い掛けにマルスは、ぶっきらぼうに答える。

 しかし、その表情は、どことなく笑っていた。

 

「……そう、ありがとう」

 

 そんなマルスの言葉にマリアは、少し照れた表情でお礼を言う。

 当初、お互いにギスギスしていた雰囲気が、今では感じられなくなっていた。

 

(マリア大尉とマルスさん、打ち解けられたんだ。よかった)

 

 たまたま、二人の様子を見ていたエスターは、内心ホッとし、そしていつしか笑顔を見せていた。

 軍隊は仲良しこよしをする場所ではないが、それでもギスギスした感じでは士気にも影響が出る事もあるのも事実である。

 

 翌日、メイアは格納庫を通り過ぎるマルスを見つけて話し掛ける。

 

「マルスさん、おはようございます」

 

「ああ」

 

「あれから、マリアさん達と仲直りできましたか?」

 

「ん? んー……まあ、多分」

 

 相変わらず、ぶっきらぼうにマルスは応える。

 正直な事を言えば、マリアとは多少は和解はできたが、ネルとは未だに蟠りが残っていた。

 

「今はダメでも、いつかきっと仲直りできますよ。あ、そうだ」

 

 メイアは、バッグから可愛らしい巾着袋を取り出してマルスに渡す。

 

「これは?」

 

 受け取った巾着袋は、少し大きめでビデオディスクのパッケージが5枚くらい入る程だった。

 袋の中身を見ると、ビデオディスクが3枚ほど入っている。

 

「ミンメイのミュージックディスクです。よかったら聴いてください」

 

「……わかった。せっかくだから聴かせてもらうよ」

 

 マルスは、少し照れた笑顔をメイアに見せる。

 

 ミンメイに興味がなかったマルスだったが、昨日のメイアの歌を聴き、いつしかミンメイの曲に興味を持ち始めていた。

 

「はい。良かったら感想を聞かせてください」

 

 メイアもマルスに笑顔で返す。

 

「ああ、わかった」

 

 巾着袋を手にマルスは格納庫を後にする。

 

「マリア大尉、大丈夫ですか?」

 

 エスターが心配そうにマリアの様子を伺う。

 

「ええ、大丈夫よ。軽い打ち身だけだから」

 

 マリアは、不安げな表情をするエスターに笑顔で応える。

 

 昨日の出撃で怪我を負ったものの、大きな怪我はなく軽い打ち身で済んでいた。

 

「まあ、メルトランディだけにアタシ達巨人族は、マイクローンよりは身体が丈夫だからな」

 

 ネルは、自身を含めた強靭な身体のつくりを説明して得意気な顔をする。

 元々、巨人族は強靭な身体が特徴の為、マリアも地球人であれば大怪我になっていたであろう怪我も、メルトランディ故に軽い打ち身で済んでいたのだ。

 

「よお、隊長さん」

 

 ちょうど通路の反対側からマルスがやってきて、マリアに声を掛ける。

 

「おはよう、マルス」

 

「おはようございます」

 

「お前、また喧嘩売りに来たのか?」 

 

 マルスを見るなり、ネルは喧嘩腰になり、指をバキバキと鳴らす。

 マルスとは和解している訳でもなく、それでなくとも昨日の事をまだ根に持っている様子だった。

 

「おいおい、待てよ。今日は喧嘩を売りに来た訳じゃねえよ」

 

 マルスは、手をネルの正面に突き出して止める仕草をする。

 

「それよりも隊長。怪我は大丈夫か?」

 

「ええ、大丈夫よ。昨日は、ありがとう」

 

 心配するマルスに少し照れながらマリアは応える。

 昨日、あれだけ自分に対して暴言を吐いていたのに、怪我をした自分を色々と心配してくれるマルスにマリアは、心の底から嬉しく感じていた。

 

「よせやい。まあ、俺がいないと隊長は、やってられないもんな」

 

 マリアからのお礼にマルスは、視線を合わせずに照れ隠しに顔をかく。

 

「その言葉、いつかそっくりお返しするわ」

 

 マリアとマルスは、お互いに少しだけ、はにかんだ笑顔を見せる。

 

「なあ、エスター。あの二人、いつ仲直りしたんだ?」

 

 マリアとマルスの様子にネルは、エスターに問い掛ける。

 昨日まではマリアに暴言を吐いていたマルスが、いつの間にか仲良くなっている様子にネルは、理解ができない状態だった。

 

「そこは、その……色々とあったんですよ。でも、仲直りできて良かったです」

 

 エスターは、二人のやり取りを見て思わず笑顔になる。

 

「すぐケンカしたり、すぐ仲良くなったり……マイクローンと言うのは、よくわからん生き物だ」

 

 そんな二人を見ながらネルは、不思議そうな顔をしていた。




次回予告

 いがみ合うマリアとネル。
 二人に何が起きたのか?

次回「レディーズ・ファイト」
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