Nameless Story 1人孤独に立ち向かわざるをえない者   作:ロイヤルかに玉

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投稿が遅くなり申し訳ございません。


ちょっと止まってろお前!

 

 俺のすぐ近くには超高熱の赤い川。めっちゃ熱い。兎に角熱い。俺が神機使いじゃなかったら近づく事すらできないだろう。この赤い川が一面に広がり、最早それは海と言っても過言ではないだろう。

 

「あ~! あっちぃ! 脳みそがドロドロになっちまうぞおい! だから地下街は嫌なんだよ!」

 

 制服の上着を脱ぎ、腰に巻きつけながら不満を口にしつつ周囲を警戒する。

 

 アラガミが見境なく捕食をして行ったせいでマグマにぶち当たり、溶岩が溢れ出してこのような状態になった。ホントクソだなアラガミ。マグマで溶けろや。

 

 

ザッ、ザッ

 

「ッ!」

 

 足音を聞き、素早く近くの瓦礫に隠れて息を殺す。

 姿勢を低くしながら瓦礫から顔を出し、周囲を見渡すと、数十メートル先に蠍型のアラガミ、ボルグ・カムランが餌でも探しているのか、瓦礫を漁っていた。

 

 地下街ではシユウを良く見かけるが、カムランもそれなりには目撃するな……。とりあえず、報告だな。まずはここから離れるか……。

 

 カムランの動きに気を配りながら、抜き足で移動する。

 

 よし、大分カムランからは距離を取れたな。さっさととんずら――ッ!

 

 騒音と共に殺気を感じてその場から飛び退く。先程まで立っていた場所を炎が飲み込んだ。

 炎が飛んできた弾道の先にマグマの中から砲門を覗かせつつ赤色のグボロ・グボロ――グボロ・グボロ堕天が姿を現した。

 

「キェェェェ!」

 

 耳を劈くような鳴き声を聞き、俺は溜息を漏らす。どうやら一番警戒していた奴に感づかれたようだ。

 

「さて……どうすっかな……」

 

 地下街じゃ狭くて思うように立ち回れない。瓦礫は邪魔だし、マグマは俺の移動範囲を大幅に刈り取っている。しかし、奴さん方は邪魔な瓦礫は体をぶつけるだけで破壊でき、足元がマグマであろうが何事も無いかのように移動する。完全にフリーだ。

 

 とにかく逃げるしかねえか……。だが急いでどこかに身を隠すなりしてやり過ごさないと、騒ぎを聞きつけて他のアラガミも集まってくる。そうなったら隠れるのは勿論、只逃げるだけで一苦労必要になる。

 

 奴らに背を向け、走り出す。

 

 背後から熱を感じ、斜め右へステップする。横を炎の弾丸が通り抜けて行った。

ちっ、あぶねぇな。しかし、こんな狭いところで追いかけっこも得策じゃないか? 少し相手してやるか。今度こっちの番だ赤グボロ。

 方向転換をし、逆にこちらから赤グボロへと向かう。

 

 赤グボロまで数百メートル、攻撃を躱しつつ進んでこちらから仕掛ける。スタングレネードを手に持ち、駆ける。

 

「キィィィ!」

 

 赤グボロの背後からカムランが跳躍と共に姿を現した。

 カムランは赤グボロを守るように立ちふさがった。カムランの素材名には騎士と付く。正に仲間を守る騎士だろう。だが、通らせてもらうぞ蠍野郎。

 

 カムランが姿勢を低くし、巨大な針を無数に飛ばしてきた。いくつもの放たれた針を掻い潜る。受け流しつつ、針を横から掴む。右手から鮮血が吹き出し、痛みを訴えるがそれを無視し、針を握り締めたままカムランへと突撃する。

 

 

 カムランの目の前に到達すると、カムランは尾針で突き刺してきた。

 紙一重で尾針を避け、スライディングでカムランの股下を潜り抜ける。カムランの背後に回り、そのまま赤グボロへ向かう。ここで一気に決める。更にスピードを上げて駆ける。

 赤グボロは砲門から炎を乱射するが、前へ進みつつ体を捻るなど、最低限の動きで止まることなく、走り続ける。すると赤グボロは炎の乱射を中断し、力を溜めるかのように動きを止めた。次の瞬間、奴の砲門から紫色の液体の塊が飛び出し、弾け飛んだ。

 

「酸の雨か……! 小癪な奴め」

 

 ステップで一気に移動し、範囲外へ逃げ、高く跳躍する。

 カムランから拝借した巨大な針を構え、赤グボロの横鰭を目掛けて落下する。

 

「ちょっと止まってろお前!」

 

 渾身の力で針を横鰭に突き刺し、地面まで深く突き刺して赤グボロをその場に縫い付ける。

 

「ガアアアッ!」

 

 赤グボロが悲鳴を上げながら暴れるが、縫い付けられていない横鰭と奴の胴体しか動かない。

 

 よし、今度はカムランか。ここまで来れば勝ちだ。

 カムランに向き直ると、奴は盾を構えたまま猛スピードで突進してくる。高く跳躍し、カムランの頭に張り付いて、スタングレネードの安全ピンを噛んで引き抜く。カムランが静止し、俺を振り落とそうと暴れる。

 スタングレネードをポイ投げし、カムランから飛び退いて離れる。

 

バシュッ!

 

 

 音と共に辺りが眩しくなる。

 

 

 カムランは奇声を発しながら、盾を地面へ叩きつけて辺りを見回す。まだ奴の視界は回復していない筈だ。今のうちに撤退させてもらおう。

 狭い細道に隠れるように入り、抜き足で移動する。まだカムランの鳴き声が聞こえてくるが次第に遠くなってくる。しばらくは赤グボロと共に俺を探し出そうとするかもしれんが、すぐに諦めるだろう。

 

 細い道が終わり、少し開けた場所に出た。

 

 あそこの瓦礫の陰で気配を探るか。しかし、やけに強い気配の奴がいるな。ただの大型とは違うようだが……。

 

 更に意識を集中して気配を探る。

 

 大きすぎるな。接触禁忌種か? しかし何でこんな所に……? そう易々と出現するようなものじゃない筈だ。いや、以前から極東地域は何かがおかしい。俺が3か月前に遭遇したスサノオ、そして偵察任務で時折見かける、ハガンコンゴウやセクメトなどの第2種接触禁忌種。

 

 どいつもこぞって集まってきているみたいだな。極東には上手い物でもあるのか?

 考えていると通信が入った。

 

「こちらユウ。どうした?」

 

『ユウさん。緊急連絡です。ユウさんが居る周辺で巨大なオラクル反応を2つ検知しました。これ以上の任務は危険ですので帰投してください』

 

「2つ? 了解。至急帰投する」

 

 通信を切り、通信機をしまう。

 

 大きな反応が2つ……。俺の察知じゃ1つしか探れないが……。

 

 

「ッ!? 何ッ!?」

 

 ついさっき察知した大きな気配がこっちに一直線で向かってきている……!

感づかれたか!? いや、だとしたらそのアラガミの索敵能力はあまりにも高すぎるぞ!?

 とにかく隠れてやり過ごすしかねえか……!

 

 息を潜め、姿勢を低くして瓦礫に隠れる。

 なんだ? 気温が下がってきている……? そんな馬鹿な話が……。すぐ近くにマグマがあるんだぞ……?

 

「グゥゥ……」

 

 響く唸り声を上げながら気配の主が近寄ってくる。抜き足で移動し、そのアラガミの姿を一目見ようとゆっくり瓦礫の陰から顔をのぞかせる。

 ヴァジュラの様な獣じみた身体、人間の顔。あまりに異質なアラガミだった。

 気温の低下は奴の仕業か。まあ、ヴァジュラと同じ形状のマント。マントの色が青いからイメージできるのは氷属性だ。しかし、本当に異質だな。特にあの人間の顔。

 

『アラガミが人を敵と認識し始めた結果かもしれない』

 

 榊博士の言葉が脳裏を過った。

 禁忌種は、昔人々が崇拝した神により近い形状に近づき、そのほとんどが人の顔を持つ、異形の多いアラガミの中でもさらに特異な外見に進化している。

 

「分からんな…………。敵……か……」

 

 考え事をしている暇じゃないさっさと離脱しよう。

 

 

 

「新種か」

「恐らくは。骨格から見てヴァジュラ種である事は間違いないかと」

 

帰投後、すぐに雨宮教官に報告した。俺が見た全てを報告し、考察を交える。

 

「周囲の気温が低下したことから氷属性、ヴァジュラが極地に適応した堕天種とも考えましたが、先ほど報告した通り、顔面部位がヴァジュラと異なり人間の顔を模していました」

「基本種のアラガミが身体の一部を変化させた状態か、つまり禁忌種ではないか? それがお前の考えか?」

「はい」

「まだ結論は出せんが、その可能性は高いだろう。環境に適応した場合、変わるのは体色を始め、部位の耐久力等だ。現に堕天種は見た目、体の構造そのものが基本種と変わっているものはいない。だが、もう1つ気になる点と言えば……」

「ええ。驚異的な索敵能力。こちらからは目視もできない程の距離にも関わらず、一直線に俺が隠れているエリアまで来ました。あれ程強力なアラガミに奇襲を掛けられたら間違いなく絶望的状況に陥るでしょう」

 

しかし、瓦礫に隠れている俺を探し出す事は出来なかった。あれ程の索敵能力があるなら俺を探し出す事も容易の筈だが……。

 

「可能性としては聴覚が異常発達しているか、それともお前を視認していたザイゴートが真っ先に新種を呼んだかのどちらかだろう」

「考えられるのはその2つですね。場所も丁度見通しの悪い地下街です。視覚がずば抜けて高いザイゴートならこちらが気づく前に視認もできるでしょう」

「何にしても、作戦行動中は警戒態勢を大幅に引き上げねばなるまい。まだ検知されたもう1つの巨大な反応の正体は掴めていない。例の新種も実際の能力は如何ほどのものかも不明だ。幸い、新種の姿形は判明している。この情報を得られただけでも大きな進歩だ」

 

 後日、会議で話が纏り次第、新種に関しての情報が公表されるだろう。新種に関しては調べたいところだが、仮に索敵能力が聴覚によるものだとしたら調査は難航するだろう。まだ姿も確認できないアラガミの事もある。偵察も今まで以上に慎重にしなければいけないようだ。

 

 さて、時間もできたな。例の島の調査をしに行くか。

 




ヨハネス・フォン・シックザール (45)

フェンリル極東支部を管轄する支部長。
政治家としての才能があり、彼の優れた手腕は対アラガミの最前線から未来に至る対策まで発揮されている。
昔は研究者であり、色々あって廃業した模様。
防壁に覆われた世界へ退避し、アラガミからの被害を避ける「エイジス計画」を推進している。
ソーマの親父さんであるが、仲は悪いらしい。

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