Nameless Story 1人孤独に立ち向かわざるをえない者 作:ロイヤルかに玉
空母エリアからソーマと共に帰投し、俺はいつもの定位置で寛ぐ。
報告書を書いて提出したのはいいが、特に任務も無く雑務も無い。つまり暇なのだ。
しかし、暇な時間に訓練するような真面目な人間ではないのでただ座って時間を無駄に過ごす。
「眠くなってきたな……。まだ晩飯前だが、少し寝るかな」
*
ああ、意識があるが微妙にはっきりしないこの感じ……夢だな。夢を見ると休んだ気にならないから体が怠い事この上ない。
『諸君……いよいよ我等の真価が問われる時がきた』
散々聞いた台詞に意識が覚醒し、辺りを見回すと洞窟の中だった。
辺りを見回すと壁にスピーカーが付いていた。先程の声はこのスピーカーから出ていたのだろう。
『軍の一員として、誇りを持って戦ってくれる事と信ずる。この島は、最重要拠点である。もしこの島が敵の手に渡れば、ここは爆撃の拠点となり敵はこの地から本土へと攻撃をせしめんとする』
久しぶりに見たな。遠い様で遠くないただの記憶だ。
心当たりがあるとすれば、ソーマに前は軍に居たんやでって喋ったからか。それしかないな。
『本土のため、祖国のため、我々は最後の一兵になろうとも、この島で敵を食いとどめることが責務である! 各々、10人の敵を倒すまでは死ぬことは禁ずる。生きて、再び祖国の地を踏めること無きものと覚悟せよ』
何回も聞いた台詞だ。もう何回玉砕する覚悟を決めたもんだか数えていない。
『矛は常に、諸士の先頭に在り』
10人殺るまで死ぬな……か……。まったく、こちとらただの兵卒だっての。
俺は立ち上がって、武器を手に洞窟の出口を目指して歩き出した。
*
いきなり目の前の景色がアナグラのエントランスに切り替わった。
「……ああ、覚めたか」
途中で夢から覚める事が出来た。いや、覚めて良かった。あの後そのまま敵と一戦おっぱじめた筈だから流石に夢の中でまで戦っていたら疲れる。
疲労回復のための睡眠で何故体力を消耗しなければいけないのか、これが分からない。
マジで記憶の整理とか必要ねえから変な夢見せるなや。仕事行く前に仕事する夢や出勤する夢を見るとマジで鬱になるからヤメ-や。その日のモチベーションダダ下がりやで……。
そういや、夕飯の時間か。
モニターの端に表示されている時間を見ると、丁度良い時間だ。
久しぶりに食堂で食うか。
fcケチって食堂に行かないでレーションばっかり食ってたからな。今日ぐらいは少し贅沢しよう。
「げっ、今日のメニューはトウモロコシ定食かよ。前に食堂で食った時もトウモロコシ定食だったぞ」
そういや……かなり昔に見た夢だが、砲撃機能が付いたトウモロコシと麦わら帽子を盾にお伽噺に良く出てくるドラゴンに立ち向かう夢を見たか……。
こちらはドラゴンを倒すために大真面目なのだが、こんな珍妙な武器に葬られる当のドラゴンは何ともやるせない気分になるだろうな……。
トレーを持って食堂を見回すも、時間が時間だ。開発部や技術部の人たちで混んでいる。
参ったな。神機使いは仕事なんて不定期だから時間通りに食事にありつけない事は多々あるが、非戦闘員は丁度食事をする時間だ。
完全に来るタイミングを間違えたと思ったが、一ヶ所だけ空いている場所を見つけた。
しかし……。
食堂の隅の席、正確にはアリサとかいう新人の周りだ。
やっぱりか。評判が良くないとは聞いていた。新型だからと旧型神機使いを見下して、技術部の人を顎で使うと。でも、まさかこれ程嫌われているとは思っていなかった。遠巻きに悪口も聞こえる。
アリサから席を空けた所に腰を掛けてトレーを置く。
アリサはこちらを一瞥したが、なにも言ってこなかった。俺も特に話題はないので静かに食事を取る。
少しして、食堂に見知った顔が現れた。
ユウナだ。混雑した食堂で席が見つからず、困っていたがこちらが丁度空いていると気がついたのか、こちらへやって来た。
「ユウ、アリサ、お疲れ様。隣良い?」
「ああ」
「お好きに」
別に同席を拒む理由も権利もないのだし、好きに座ればいいと思うのだが律儀だな。
「アリサ、この前の参考書の続きって持ってる?」
「持っていますが……」
「気が向いた時で良いから貸してもらえないかな?」
「分かりました」
ああ、第1部隊では上手くやっているのか。それとも同じ新型だからか何か通じるものがあるのか……。まあ、俺には関係ないか。さっさと食ってシャワー浴びて寝るか。エントランスで。
「そう言えばユウが食堂にいるのって初めて見たよ。いつも、レーションで済ませてたよね?」
「ああ、今日は贅沢しようと思ってな。普段は金欠故、食費も節約しねえとしけないんだ」
「そっか。でも、体調崩したりしない?」
「いや体調崩しても、医療班に点滴の申請して打ってもらえば1時間程度で調子が戻るから大丈夫だ」
まあ、点滴もfcが掛かるからあまり申請はしたくないんだがな。
いやーにしてもやっと半分とちょっと食べたが、腹いっぱいになってきた。長い事レーションとちょっとしたもので食い繋いできたから胃袋もかなり小さくなったらしい。
あ、やべえ。胸やけが……。吐きそう……。
まずい、こんな所で吐いたらちょっとした伝説を残してしまう。さっさと胃袋に詰め込んでトイレに駆け込むか。
次、ユウナに話しかけられる前に……。幸いアリサと会話している。
行儀が悪いがトレーを持ってトウモロコシの粒を口に放り込み。無理やり飲み込んで席を立つ。
「先行くわ。ごゆっくり」
「あ、うん。お疲れ様」
ユウナに手を振り、足早に食堂の出口へ向かう。
なんかアリサの奴、ジト目で見ていたが気のせいだろう。そんな事よりトイレに急がねば。
*
トイレに籠ったが結局リバースはしなかった。恐らく、リバースしても大丈夫な状況になったので心に余裕が生まれ云々したのだろう。危機は脱した。軽くシャワー浴びて後は寝ようと思ったが、自販機でジュースでも買おうと思ってエントランスに戻るとリンドウさんと鉢合わせした。
「よ、ユウ。ちょいとおっさんに付き合ってくれや」
「また飲むんですか……? この前ラウンジで泥酔してサクヤさんに引っ張られてこっぴどく怒られたばかりでしょう……」
「固い事言うなよ。今日は気を付けるさ」
前はそんな事言って結局お察しの結果だったんですがそれは……。ぶっちゃけ、俺も雨宮教官に飲み過ぎていたらお前も止めろと叱られたんだよなぁ……。
「ああ、分かりましたよ。酔ったと判断したら自室まで引きずっていきますからね」
「よし来た。さっさと行こうぜ」
リンドウさんに連れられてラウンジへ向かい、カウンター席について注文する。
「「乾杯」」
グラスをぶつけ合って互いに飲む。
「はぁーやっぱりうめぇなー」
「苦い。苦すぎる」
リンドウさんの感想と正反対である。こんなん飲めんわ。ビールなんて一体何がいいんだか……俺には理解できん。
「なんだ、酒の良さが分からないか。まだお子様か?」
「一応、十代後半なんですけどね。誰かさんに飲まされてるもんで……」
「んな事言って前はタツミも含めて3人で酒盛りしただろうが」
「2人は俺よりも年上で階級も差があるんですよ? 断れる筈が無い」
「ハハッ、何お前も共犯さ。開き直って酔っちまえ」
大笑いするリンドウさんを尻目にグラスを空にして、次はカクテルを頼む。
いつも奢ってもらっている故、自分で飲んだ分ぐらいは払わないといけないが、俺も金欠なので安くてアルコールも弱いカクテルが最適解なのだ。少しでもきつくなってきたら水に変えれば良い。
「なあ、ユウ」
「はい?」
急にリンドウさんが静かに言葉を紡いだ。
雰囲気に圧されて俺も真面目にリンドウさんを見る。
「お前と出会って、もう半年だな」
「そうですね。リンドウさんに助けてもらった命、無駄にはできませんよ」
「最初に出した3つの命令、真面目に守ってくれているようで何よりだ」
死ぬな。死にそうになったら逃げろ。そんで隠れろ。運が良かったら不意を突いてぶっ殺せ。あ、これじゃ4つだ。
リンドウさんがいつも口にする命令だ。
「いつかですよ……いつか必ず、その命令を破らなければいけない時がやってきます」
「じゃあ、約束だ。仁義に厚いお前なら約束は必ず守るだろう」
狡い人だ。俺がどういう人間なのか分かっているからこんな事を言う。
普段はおちゃらけている癖に、人を全く不快にさせない上に物事の核心を突くかのように鋭い事をしてくる。そりゃ、普段すっとぼけている奴が何気なくした発言が的を得ていたりするのは良くある例であるが故分かるが……この人の場合は別だ。
思考すべきことはしっかり理解した上で常に考えている。とても慎重な人だ。この人になら何処までもついて行ける。そんな気持ちにされてしまう。
「仁義に厚いからこそ、捨てなければいけないモノもあるんですよ」
「普通なら命令無視すんな、約束守れやってお説教垂れる筈なんだがなぁ……何故か、お前にはそれができない。何でだろうな……」
「大昔のある国の兵士は『誇り高く潔く死ぬ』って思想が精神に刻まれていますからね。俺は偶然、その思想に近い考えを持っているんでしょう」
「不思議なもんだな。俺からすれば異常な思想だが、そいつらにとってはそれが当然なんだろうな。決意は簡単に変えられないってか……」
リンドウさんは煙草を取り出して火をつけ、口に咥える。
決意は簡単に変えられない……確かに決意を固めた奴ほど厄介な奴は居ないと聞いたことがあるし実際はそうなのだろう。
『誇り高く潔く死ぬ』……凄まじいものだ。ある種の戦術でもある。追い詰めた敵が補給や増援を望めず撤退も不可能な状況で、爆弾抱えて雄叫びを上げながら突撃してくるんだ。精神的なショックを起こす奴もいるだろう。
死しても尚とはよく言ったものだ。
だが逆に言えば突撃を撃退できれば早々に決着をつけられるから敵が仕掛けてくるのを待ち望む者だっている。事実、突撃をほぼ完封できる戦術だってある訳だ。嵌れば実質、突撃なんて無駄死になる。
それなら今度は夜間に突撃してやろうとなる。暗い道で爆弾持って雄たけび上げながら突っ込まれたら脅威にも程がある。
ぶっ飛んだ思考はまたぶっとんだ思考で迎え撃つこの応酬。そうまでしなければ勝てないと言う事か……何と言うか、双方共にぶっ飛んでいると言うべきか。
「ユウ、命令を破る時がきたらお前は何を考える?」
「その時になってみないと分かんないですよ。でも、後悔だけはしないですよ。自分で決めたんですから」
「こりゃまた、決意の固い事で……」
「最期の瞬間位は自分で決めても罰は当たらないでしょう。俺達、生まれる場所も時代も選べないって言う出来レースを強制されているんですから」
「自分で決める……か」
煙草を灰皿に置き、残り僅かなグラスの中身を一気に飲み込み、リンドウさんはもう1杯注文した。
俺ももう1杯、カクテルを頼んだ。
藤木コウタ(15)
出生2056年6月20日
2071年フェンリル極東支部に入隊。第一部隊所属。
アサルト型神機。この神機は以前雨宮教官が使用していたらしい。
ユウナとは同期で同じ日に入隊している。家族思いで良い奴。家族思いの奴に悪い奴は居ない(確信)
言っちゃ悪いがシスコン。
偵察任務に関しては中々筋が良い。少なくても経験を積めば俺よりもできるようになる。第1部隊所属なので討伐は勿論、偵察も御座れと万能になるだろう。部隊長になっても何ら不思議ではない。
だが、バガラリーを夜通しで見せられるのは勘弁頂こう。