Nameless Story 1人孤独に立ち向かわざるをえない者 作:ロイヤルかに玉
ラボラトリを後にして俺は雨宮教官の執務室の前に立つ。
さて、一体どんな仕事を頼まれるのか……面倒事じゃありませんように……。
願掛けをする。まあ、俺は無神論者だがな。祈って何とかなる世の中なら誰も苦労はしない。
駄菓子かし、違う。駄菓子なんて今のご時世そう簡単に食えるわけないだろう! いい加減にしろ!
だがしかし、本当に万が一マジで面倒なことだったら……神よ、お前を〇す……!(純粋な殺意)
「失礼します」
声を掛けてから戸を開き、中に入る。
「来たか。ああ、そこで良い。すぐに済む」
「それで仕事とは?」
早速本題について聞く。ぶっちゃけ立ちっぱなしは疲れるから早く座りたいのだが……まあほら……目の前に上司が居たらリラックスできないじゃん?
だからいつもの特等席で寛ぎたいわけよ。
「新種アラガミの動向を追い、長期的に調査をしてもらいたい」
マジで? めっちゃ厄介事やん。またあの人面猫共と鬼ごっこしないといけないの? 神よ、やはりお前は処す。菊門広げて待ってろよ。
しかし、ちょっと流石にこれは予想外……何とか辞退できないものか……。
「何故、階級も低く実績のない俺を……?」
そう、『長所が無い俺にこんな仕事頼んでも無理ですよ』と遠まわしに伝えるまでだ。俺と全く違う価値観を持つ雨宮教官が俺の意を汲んでくれるかは別の問題だが……。
「お前の能力に関してはある程度把握している。それに、お前はごく少量の偏食因子を摂取すれば平気且つ長期間は活動できると榊博士から伺っている。お前が適任だ」
確かに携行型の偏食因子ぶっこめば数週間は余裕で持つな俺。自分で思うのはあれだが結構野戦向きな肉体をしている。
メディカルチェックとか忙しいから全く受けないし、ぶっちゃけ一々投与もめんどくさいから博士に頼んで携行型を貰ったんだよな。
大体感覚で摂取するタイミングが分かるからその時に自分で腕輪の穴にプスッとやってる。
大量に携行型をもたせりゃ長期間の調査もできるな。確かに適任だ。ここまで言われちゃ言い訳並べても無駄だろうな。それに長期で出れるなら、任務のついでにリンドウさんを探す事も出来る筈だ。
「分かりました。その仕事、確かに引き受けました」
「よろしい。早速明日から調査に出発してもらう。明日、12:00よりエントランスにて担当オペレーターより、詳細を聞きブリーフィングと準備、13:00に出発してもらう」
「了解」
俺は敬礼をして執務室を後にする。
*
さて、明日から忙しくなるな。
あ、そうだ。制服の上着を支給申請しないとな。あの人面猫の氷柱に乗っかってサーフィンしてたから足が凍らないように足元に敷いていたのだが、見事に氷漬けになった。
なんだかんだ使える物はフル活用するべきだろう。消耗品なら尚更だ。どうせボロボロになってきてるからその内取り替えようとは思っていたので丁度いいだろう。
ターミナルに接続して手続きをする。ついでに明日の任務に役に立ちそうなものも無いかチェックするか。あんまり高いのはNGだがな。
階級や実績に応じて金額の上限が決まっているが、無償支給でという素晴らしいものがある。まあ、上限超えれば自己負担、給料や報酬から天引きされてしまう。つまり俺の唯一の娯楽である賭博に使う金が無くなる。
長期の任務だもんな……容量の大きい水筒でも持って行くか。
流石に水は不可欠だ。食べ物は……とりあえずレーション持って行って切れたらその辺漁るか、覚悟を決めて土を食うか。いやまあ、火さえ通せば食べれるだろう。多分。
しかし、どうしたもんか……。アラガミの木に囲まれたあの集落が一番気掛りだ。
これからは餌やりも満足に行けるか分からねえな。あの木が好物喰えずにヘソ曲げたら何するか分からんねえしな。近づきさえしなければいいだろうが、集落の人間にも言っておかねえとな。
しかし、集落に寄る時間なんてあるか……?
教官から頼まれた任務のエリア外に集落はある。エリア外へ出てしまうと腕輪のビーコン反応でばれてしまう。
「ハァ、厄介ごとが次から次に……」
ターミナルから離れ、よろず屋さんで買い物をしようと1階へ降りる。
オペレーターがエリックの父親と話していた。その傍にはエリナもいた。エリナがこちらに気づき、こっちへきた。
「お兄さん、こんにちは!」
「ああ、こんにちは。今日も勉強しに来たのか?」
「ううん。今日はお父様が偉い人にお話をしに来ただけなの」
「そうか。エリナ、俺は明日から暫くアナグラに居ないんだ」
「そうなの……?」
ああ、やっぱりがっかりしている。
あんまり暗い顔を見たくはないがこればかりは仕方ない。子どもを置いて仕事に行かなければいけない親の気持ちが分かるような気がする。
「ああ、しばらく勉強は休みだ。でも、偶に髪の毛が銀色で瞳が赤いお姉さんが居るからそのお姉さんに聞いて見なさい。そのお姉さんは新型だし、アナグラの期待の星だからきっと良い勉強になると思うぞ。でも、お姉さんのいう事はちゃんと聞くようにな?」
「ホント!? 分かった!」
「あ、お姉さんには俺から聞いたって内緒だぞ?」
「? うん、分かった」
普段、温厚な性格だろうけど怒らせたら分からんからな。帰ってきて『よくも面倒事押し付けやがったなこのクソ野郎』って言われて斬られる可能性も無きにしろ非ず。
エリナの父親も話が終わったらしく、こちらへ歩いてくる。エリナも父親の話が終わったのだと知って父親の元へ歩いて行く。2人は手を繋いで出口へと向かっていった。エリナが振り返ってこちらに手を振ると、エリナのお父さんもこちらに一礼し、俺も礼を返した。
2人を見送り、よろず屋へ向かう。
「おう、兄ちゃん。今日はどうした?」
「ちょいと長期の任務でね。必要な物が多いんだ」
「そうかい。まあ、入念に準備するのに越した事はねえな。好きなだけ見ていきな」
「とりあえず、回復錠にレーションと偽装フェロモンを頼む」
中々難しいものだ。偵察故にできるだけ嵩張らないようにしなくてはいけないが長期的な任務であるから必要な物も多い。この辺りの管理が本当に難しい。
正直な話、教官に何持っていけばいいかと聞きたいところだ。しかし、それはできない。だってあの人おっかないもん。
とりあえず準備は既に完了したが、明日の出発時間までに暇な時間は山の様にある。
あの新種が出没しているエリアの周辺状況に関しては特に注意すべき点は無いようだが……一応今までの偵察任務で探索しているエリアなので、そこいらの連中よりかはあの辺には詳しい。
よし、やる事が無いが……金は少しある……。それならやる事は1つだ。
トランプと賽子ちゃんが俺を呼んでいる! 賭博所へレッツゴー! ヒャッハー!
*
「なんだ兄ちゃん。またカモられに来たのか?」
「ふっ、悪いが今回は秘策があるんでな。泣きを見るのはそっちだぜ……!」
賭場にて俺はサングラスの兄ちゃんから軽く挑発されたが、俺はその挑発をスルーしてテーブルに座る。
「さあ、始めようぜ……搾り取られるのは俺かアンタか……究極のブラックジャックを……!」
1戦目、相手がいきなりブラックジャックを揃え俺は敗北。だが、ここからだ。そう、勝利のピースは早速俺の手に舞い降りた。行くぜ、秘策!
「俺は次のゲーム、倍の額を掛ける」
「ほう……?」
2戦目、俺はバーストして敗北。
「まだまだぁ! 次はさっきの倍だぁ!」
「ヤケになったか……? しかしなんだこいつから感じられる根拠のない自信は……?」
3戦目、俺は惜しくも敗北。だが、まだまだ。
「3連敗だな。時の運に見放されたようだが……?」
「ふっ、どうかな? 次は更にさっきの倍だ!」
「こ、コイツ……! イカレテやがる……」
4戦目、俺はついに初勝利を収めた。
「ちっ、無駄に掛け金がでけえな……」
グラサンが俺に紙幣を渡した。そして俺は次の勝負で1戦目と同じ金額を掛けた。
「今度は少額……? ッ!? まさかお前ッ!」
「ふっ、いまさら気づいても遅いぜ! 俺が要した秘策、それは……」
ただ負けるごとに金額を倍にする事で1回でも勝利すれば利益になる方法だ。これがあれば資金の続く限り、俺は決して崩れない。
「成程、だが……。運をものにできなかったらすべてが崩壊する方法。崩すのは容易い」
「ふんっ、言ってろ。すぐに破産させて泣きっ面を拝んでやるぜ!」
3分後……。
「ぐああああああッ!? 7連敗だとぉ!? 資金がああああああぁ!」
俺はまさかの7連敗を喫し、資金が底を突いてしまった。
7連敗だぜ?
7回連続で負けたんだぜ?
128分の1の確率を見事に引き当てたんだぜ?
そのくせクジとかじゃはずればっかり引くんだぜ?
俺が何を言いたいのかと言うと、勝負の女神ってのはイカレタクソBBAだ。
何? 試行回数? 独立事象? 大数の法則?
あーあーあー聞こえませーん!
「ここまでだな。その方法は長くは稼げない。引き際と言うモノを考えんとな? だが、そんな引き際を考えられる頭を持っているなら、そもそもこんな賭場になんて来ない。お前は最初からアウトって事さァ!」
こ、コイツ……! ド正論過ぎて何も言い返せねえ……!
俺は少し潤っていた財布を真冬にし、その日はアナグラのエントランスで燃え尽きたかのように座った。
*
翌日、任務の担当オペレーターより詳しい説明を受ける。
「説明は以上です。分からないことがあればいつでも聞いてください」
「了解した」
持ち物のチェックは任務説明を受ける前に済ませているのでヘリの準備ができ次第すぐに出発できるように待機する。
とりあえず、現地に着いたら集落に周波数を合わせて連絡するか。別に急いで伝える要件でもない。もし、繋がらなかったら場所を変えてまた連絡すればいいだろう。
「あ、ユウさん」
オペレーターに呼ばれ振り返る。追加の連絡だろうか。
「ヘリの行き先付近で救難信号があって防衛班の大森班長も相乗りすることになったので一応」
「ああ、分かった。出発の時間に変更は?」
「いえ、大森班長もすでに待機しているのでヘリの準備が出来次第すぐに発てます」
「OK、了解だ」
タツミも一緒か。すぐ近くだし、手伝いぐらいならいいだろう。
*
「悪いなユウ。手まで貸してもらって」
「いや、気にするな。困ったときはお互い様だ」
ヘリの準備が完了して俺とタツミは早速乗り込んで目的地へ向かう。
「しかし、態々防衛班のリーダーが出向くなんてな……。お前がいないんじゃブレ公達も困るんじゃないのか?」
「なに、あいつらなら平気さ。俺はあいつらのことを信じているからな。だから安心して任せられる」
「確かに、俺とあいつらじゃ付き合いの長さが違うか。ご尤もだ」
「なあ、ユウ」
「どうした?」
タツミの顔がより真面目な顔になって俺も飄々とした態度を変える。
「リンドウさんの事、探すつもりなんだろ?」
「ああ、勿論だ。なーに、お前らの分までしっかり探してやらぁ。任せとけ」
大分前のことだが、外部居住区で仕事をしている最中にタツミが墓参りをしているのを見かけ、最初は親族かと思ったが付き合いの長い戦友らしい。
タツミも大事な人間を目の前で失って悔しい思いをしてきたのだろう。だから諦めきれない。
「頼むぞ、ユウ」
「ああ」
タツミが拳を突き出し、俺も拳を合わせる。
ヘリも目標地点に到達したらしく、高度を下げ始める。タツミはこの高さで十分だとパイロットに伝え、ヘリのドアを開ける。
「さて、助けを待ってるやつがいる。さっさと助けてやるか!」
「よっしゃ、仕事の時間だ」
2人でヘリから飛び降りて降下した。
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