Nameless Story 1人孤独に立ち向かわざるをえない者   作:ロイヤルかに玉

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今回は5千文字超えてしまいました。ちょっと長いです。


仕事や出勤する夢を見たら鬱になるって言ったよな⁉

 タツミと共に救難信号を出した奴を発見し、周囲の安全を確保して廃墟の中で身を隠す。

 

 

 発見に至るのに1日掛かりだったが、特に要救助者も少しばかり深い傷を負っているだけで応急手当てをしてできるだけ安静にして治療をすれば大丈夫らしい。

幸い、タツミも手当てに慣れており、ちょうどアナグラで待機しているカノンに応急処置の指示を貰いながら何とか出来た。

 

 後はヘリを待つだけだ。俺は自分の任務に取り掛かろうと考えたが、ヘリの到着は明日になるらしく、負傷者もいるので今日はそのまま3人で固まっていろと雨宮教官から指示を貰った。

 

 

「体調はどうだ?」

「ああ、大丈夫です。すみません、僕が皆と逸れなければ……」

 

 こいつは同じ部隊の仲間と任務中、俺が今追っている新種のアラガミと遭遇して運悪く逸れてしまい、深い傷を負って動けなくなっていたらしい。

 

「しかし、奴らめ。活動範囲がさらに広がっているな……」

「確か索敵能力が高いって言ってたか、でも俺が見た感じ索敵能力は並み程度だと思うが……」

 

 タツミの意見は尤もだ。遠く離れた俺を嗅ぎつけるまで敵能力が高いならこの場所だって既に感づかれる可能性が高い。

正直、偶然あの場にザイゴートが居ただけだと思っている。

 

「厄介なのは群れでいる事だな。1頭増えるだけで一気に戦況が傾いちまう」

 

 深刻な顔をして頭を掻いてため息をつくタツミ。俺も厄介な任務に就かされたものだと肩を竦める。

 

「そろそろ、明かりを消したほうがいいな」

「だな。あとは黙って待つしかねえ」

 

 火を消して外へ意識を向けながら壁に背を預けて座る。

 

「お前は先に休んでろ。怪我人はさっさと寝て、さっさと怪我を治すのが仕事だ」

「わかりました。すみません。ありがとうございます」

「見張りは交代しながらでいいんだよな?」

「ああ、だがユウは少し長く休めよ? お前は明日から本格的に動くんだろ?」

「お言葉に甘えるよ。済まないな」

 

 

 

 少し仮眠をとったらタツミと見張りを交代して夜明けを待つ。

 

 気配を感じ取ろうと意識を集中してもあまりアラガミも居ないみたいだが油断はできない。あいつら地面からいきなり出てくることがある。 

 いきなりこの廃墟の中に出現する可能性もある。偵察任務やってて唐突な出現が一番驚く。目の前で地面から湧いて出たらもう最悪。中指立てて罵倒してとんずらする。

 

 

 しばらく見張りを続けているとタツミが起き上がりこっちへ向かってくる。

 

「ユウ、もう朝まで休めよ。後は俺が見ておく」

「ああ、済まないな。今度奢るわ」

 

 タツミに礼を言って壁に背を預けて座り、目を瞑る。

 

 

 

 

 *

 

 

「え…………は?」

 

 目を覚ますと目の前には荒野が広がっていた。

呆気にとられていると、右腕に違和感を感じて見てみると、右手首にあるはずの神機使いの証である腕輪がなくなっている。

 

 今の服装もフェンリルの制服ではなく、俺が神機使いになる前の服だ。

穴だらけで穴が開いた個所からは血が流れている。

 

「…………っ!」

 

 血を見て今の自分の状態を認識した瞬間、体中に激痛が走って膝を突く。

 

 くそっ、これから仕事だぞ⁉ こんな夢見せんなや……!

 俺前言ったよな⁉ 仕事したり出勤する夢を見たら鬱になるって言ったよな⁉

 

 心の中で愚痴を溢していると、視線の彼方から武装した兵隊がこちらへ攻め込んできた。

 

「ああ、やっぱりか…………ちっ! 仕方ねえ。肩慣らしだと思ってやってやるか……!」

 

 いつの間にか手元には折れた刀剣が握られており、俺は飛んでくる銃弾や斬撃の嵐に飛び込んだ。

 

 

 

『とうとう至ったか……。強き魂よ。それこそ、見切りの極意である』

 

 

 どこからともなく聞こえた声で、俺は思い出した。

そう、この夢は……追い詰められた事によって限界の殻を破った時の――声の言う通り、至った時の……あの時だ。

 

 

 

 

「ユウ!」

「うおっ⁉」

 

 タツミに起こされて俺ははっとする。

 

「随分険しい顔をしてたがどうした? 賭博でぼろ負けでもしたか?」

「いや、仕事する前に仕事する夢を見てな。そして今モチベーションは最悪だ」

 

 タツミと笑いながら、朝を迎えた。

 しばらく待つとヘリがこちらへ向かっているとの連絡が入り、俺もそろそろ出発しようと思い、タツミに言う。

 

「ああ、分かった。助かったぜ、気を付けてな」

「そっちこそ気をつけろよ? またな」

 

 タツミと要救助者に手を振って俺は周囲を警戒しながら廃墟を出る。

 

 

 

 ある程度離れた場所でアナグラへ連絡を入れる。

 

「こちらユウ、遅れたが任務を開始する」

 

『了解、異常があればすぐに報告を。非常事態に陥った時は救援要請をお願いします。くれぐれも無茶な行動は控えるように』

 

「了解。交信終了」

 

 アナグラとの無線を切って、周波数を例の集落へ合わせる。

 

「あー、ユウだ。聞こえるか?」

 

『ユウさんですか? どうしたんですか無線を寄越してくるなんて……』

 

「ちょいと厄介な仕事が入ってな。しばらく俺もリンドウさんも木の餌やりに行けないんだ。だからあまり近づいて木を刺激しないようにしてくれ」

 

『そ、そうですか……。食糧の方は何とかなりますから暫くなら平気です』

 

「悪いな。俺もできるだけ仕事を早く終わらせてそっちへ行けるようにする。済まないが辛抱してくれ」

 

『いえ、2人のおかげで私たちは助かったんです。このくらいへっちゃらですよ』

 

「……何かあればすぐに連絡してくれ。切るぞ」

 

 

 それだけ言って俺は無線をしまい、あの新種の気配を探りながら探索を始めた。

 

 

 

 *

 

 

 あの新種自体はすぐに見つかり、早速追跡を開始して情報をアナグラへ送る。

アラガミ同士の戦闘を盗み見して観察する。氷を用いた攻撃などを使い、物理攻撃はヴァジュラと同じ様な体当たりや前足によるフックなどだ。

 新種には厄介な特徴がある。それは活性化すると体の肉質が硬化する事だ。

 活性化前まで有効打となっていたアラガミの攻撃を受けてもあまり大きな傷に至っていなかった。

 

 得た情報を随時アナグラに報告して順調に任務を遂行させる。流石に今日はここまでだな。日が出ている内に、隠れる事が出来そうな所を探し、そこを拠点にしたい。

 

 

 

 かつては栄えていた地域だ。身を隠せる建物なら沢山あるが、特に丈夫そうな建物を選ぶ。

 

 壁を背に座り、レーションを齧って周囲の気配を探る。

 まだ、うじゃうじゃいるようだな。そして一際大きな気配が新種か。

 リンドウさんの気配は全く感じられない。

 

 

 そうだ。そう簡単に物事なんて上手く運ばないさ。丁度運よく任務の途中でリンドウさんを見つける事が出来てそれでアナグラに連れ帰る……。そんなミラクルなんて起きる筈がない。そろそろリンドウさんの捜索も打ち切られるはずだ。

 

 今はとにかく任務に集中しなければな。新種のせいで更に死人が増えるなんてリンドウさんが悲しむ。

 

 

 

 決意を新たに、任務に励んで早3週間が経過した。

 

 新種の情報もある程度集まり、つい先日アナグラからの連絡で新種のアラガミはプリティヴィ・マータと呼称され、第二種接触禁忌種に分類されたとの連絡がきた。近い内に第1部隊に討伐を要請するらしい。そして、俺が追っている黒いヴァジュラに関してはまだ何の音沙汰も無い。俺もまだ遭遇していないため、不明な点が多い。兎に角プリティヴィ・マータを追っていればいずれ黒いヴァジュラにも追いつくだろうと言う考えでマータを追跡している。

 

 そろそろ食料も携行品も付きそうなので一旦アナグラへ補給しに戻るか、補給物資の申請をしてこちらまで届けて貰う必要がある。

 

 なんだかんだ言ってクアドリガと遭遇して爆撃されまくり、仕舞いにはミサイルを飛ばしてきたのでそのミサイルに乗ったり等色々ぶっ飛んだことをやらかしていた。ほかにも禁忌種と接触してしまい、面倒な事に成ったりもしたがこの通り大した傷は受けずにピンピンしている。

 

 今のところはマータに感づかれる事無く順調に調査が進んでいる。ある程度情報は集まったので黒いヴァジュラとご対面といきたいものだ。

 

 そう思いながらマータを監視していると、奴が何かを聞きつけたように空を見上げてすぐに駆けだした。俺も慌てて無線の周波数をアナグラに合わせながらマータを追う。

 

 しかし、無線が全くつながらない。

 コクーンメイデンが群生してジャミングでもしているのか……?

 マータは市街地エリアを抜けて、平原エリアに向かっていった。暗雲から雨が降り注ぎ、俺の足音を雨音で消してくれるので多少派手に動いても感づかれない筈だ。

 

 マータが吠え、飛び跳ねる。

 

 

 マータが向かうその先には……ユウナとアリサが居た。

 

 

 2人はマータに気づいて攻撃を回避する。

 

 俺は無線を使って救援要請を掛けようとしたが、無線はまだつながらない。よくよく考えれば俺が市街地エリアから抜けた時点で連絡が来る筈だ。来ないと言う事は恐らくあちらもこちらに無線が繋がらずに対応に追われているかもしれない。

 

 救援が期待できないならやる事はただ1つ。

 

 スタングレードを手に俺もマータの元へ向かう。

 

 

 マータが氷柱を作り出し、2人へ放とうとしたところで俺は安全ピンを引き抜く。

 

「2人とも伏せろ!」

 

 警告と共にスタングレネードを投げて周囲を光で包む。

 

『ガアアッ!?』

 

 マータが驚きながら、態勢を崩す。

 

 

「ユウ、どうして……」

「コイツの調査でな。3週間近くこいつに張り付いて今に至る」

「神機を持っていないのに危険です! 早く下がってください!」

 

 辛辣なアリサから信じられない言葉が飛び出すが、それに驚くのは後だ。

 

「足は引っ張らん。囮が居るだけでも違うだろ?」

 

「でも……!」

 

「……分かった。第1部隊隊長としてユウの戦闘介入を許可します。でも、危険だと判断した場合は撤退の指示に従ってもらうよ」

 

 ユウナから言葉が紡がれ、俺はただ一言、了解とだけ答えてマータに向き合う。

 

「リーダーがそう言うなら構いません」

 

 

 

『ガァアアアッ!』

 

 

 マータが吠えて飛び掛かってくる。

 

 各々がステップで攻撃を避ける。

 

 まずはマータに接近して対アラガミ用ナイフで後ろ脚を小突いて注意をこちらに向けさせる。そしてユウナが斬撃、アリサが銃撃で攻撃してマータは悲鳴を上げる。

 マータがマントを光らせると気温の急低下を感じてユウナと共に跳び退くと、奴の周囲に冷気が放出される。

 

「近接戦闘に移行します!」

 

 アリサが銃形態から剣形態へ神機を変形させる。ユウナは剣形態から銃形態へ切り替えて、銃撃をしながら距離を取りつつ移動する。俺は挑発フェロモンでマータの気を引きながら走る。

 

『ガァッ!』

 

 マータが右フックや噛みつきで襲い掛かるがどちらも回避し、その間にユウナの銃撃が何度もマータの胴体を貫く。そしてアリサが渾身の斬撃で前足を切り裂いて態勢を崩す。

 

 しかし、マータの頭上に氷柱が生成されて氷柱の先はアリサを狙っている。

 

「アリサッ!」

 

ユウナがアリサに声を掛けて危機を知らせるが、これは間に合わない。俺が居なければな。

 

「ッ!」

 

 地面を思いっきり蹴って一瞬で距離を詰めてアリサを抱え上げてそのまま跳び退く。

 

「ちょっ!? ちょっと、降ろしてください!」

 

 アリサが顔を赤くしながら訴えかけてきたのである程度マータから離れると地面へ降ろす。

 

「あ、あの……ありがとう……ございます……」

 

「気にするな。こっちも悪かった。これしか手段を知らないが故な」

 

 マータがこちらを睨み、吠えると俺とアリサを冷気が包み込む。

 

 嫌な予感がして俺はアリサに下がれと言って跳び退くとアリサも同時に下がる。

 先程立っていた場所に地面から氷柱が生えた。あのまま動かなかったら確実に串刺しになっていただろう。

 

 周囲を影が覆い、振り返るとマータが前足を振り上げていた。

 

「まずっ!」

 

 紙一重で回避するがマータがもう片方の足を振った瞬間、俺と前足の間に一瞬で人影が割り込んで来て得物を振った。

 

 振られた得物は見事にマータの爪を砕き、前足を大きく切り裂き、奴は悲鳴を上げながら地面へ倒れた。

 

「任せてくださいッ!」

 

 そしてアリサが猛スピードでマータの顔面に神機を突き刺し、引き抜くと銃形態に変形させて再び剣を差し入れた傷に銃口を突っ込んで引き金を引く。

 

血が飛び散り、人のような顔は弾けとんだ。

 

「ふう、なんとかなったね」

「悪いな。助けられた」

「コアの回収をしてしまいましょう」

 

 ホッと一息つくとアリサに促され、ユウナの神機は捕食形態へ切り替わり、マータの体に食らいつく。

 

 噛み千切るような惨い音が数回響くと捕食形態は剣形態へ戻った。

 

 

 

 

「あの、ユウさん」

 

 アリサに声を掛けられて俺はアリサに向き直る。

 するとアリサは頭を下げて謝罪してきた。

 初対面時にいきなり失礼な事を言ってしまった事を気にしていたようで、顔を合わせる機会があれば謝りたかったとの事。

 

「ああ、気にするな。あの時の台詞はご尤もであるからな」

「それでも、あなたの気持ちなんて考えもせずに暴言を吐いてしまい、ごめんなさい」

 

 再び頭を下げてきたアリサに困り、ユウナに助けを求める視線を送るがただ笑顔を返されて頷いていた。

 いや、どうしろと……。

 

 困り果ててどうするべきかと思った直後、新たな気配を感じた。

 先程まで相手をしていたマータとは次元が違う気配を感じた。

 

 

 俺は2人の首根っこを掴んでその場から一気に跳び退くと、青く輝く冷気を纏ったプリティヴィ・マータが地面へ降りたった。

 

 

「こいつは……」

「さっきの奴とは……違う……!」

「でも、戦うしかありません!」

 

 2人は神機を構え、俺もいつでも動けるように戦闘態勢に入った。

 

 

 




見切りの極意

俺が神機使いになる前に至った境地だな。諦めるという意味の見切りじゃないぞ?
武術で「相手の動きで出方を決めること」ってニュアンスだ。

メタなことを言うとGEプレイヤーの諸君が予備動作でどんな攻撃が来るのか察するのと同じだよ(小声)

シンプルだ。相手の動作でどんな攻撃が来るかっていうのが分かるだけだ。
俺が滅多な事じゃ被弾しないのも見切りの極意を会得しているからだ。
精神的な鍛練を極めれば何れはたどり着くらしく、誰でも会得はできるとのこと。
修行の先生曰く、誰でも会得できる、即ち持たざる者――凡人に残された最後の手段らしい。

才能を持つ奴がこの境地に至ったら、万物を見切れるようになるらしい。

万物ってなんだよ(哲学)
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