Nameless Story 1人孤独に立ち向かわざるをえない者 作:ロイヤルかに玉
主人公の経歴が不明とのことですが、主人公は時々ある発言をしますが、その発言の中に経歴に関してのヒント(答え)があります。主人公は以前、何処で何をしていたか予想してみてくださいね。当たった方には特に何もありません。
悲鳴とアラガミの咆哮が辺りに響く。
オウガテイルが建物を壊し、ザイゴートが逃げ惑う住民を追い駆ける。
アラガミの元へ向かいながら無線を起動させる。
「ヒバリちゃん、神機使いはまだ手配できないのか!?」
『今防衛班が現場に急行しています! ユウさんは住民の避難を!』
「了解。任された!」
無線を切って、ポケットへ入れる。
「……ッ! オラッ!」
一般人に喰らいつこうとするザイゴートに瓦礫を投げつける。瓦礫はザイゴートの体に当たると粉々に砕け散った。
当然の結果だろう。だが、ダメージを与えるつもりなど毛頭ない。
ザイゴートは俺に標的を定めたようだ。ザイゴートが空気の塊を吐きだしてきた。
向かってくる空気の塊を横に躱す。
第六感が上から危険が迫っているのを訴えた。
その場から身を投げると同時に、上空からオウガテイルが襲いかかってきた。
オウガテイルの背中に飛び乗ると俺を振り落とそうと暴れる。腰に差してある対アラガミ用ナイフを抜き、オウガテイルの目に突き刺す。視覚を潰された事でパニックでも起こしたのだろう。一目散に走り出す。
「コイツは良いロデオマシンだぜ!」
このまま外部居住区疾走しようか、オウガテイルよ。
ん? あ、あかん! 目の前にコンゴウが!
その先にコンゴウが瓦礫を喰らっており、コンゴウ目掛けて体当たりを仕掛けた。オウガテイルがコンゴウに激突する寸前にオウガテイルから飛び降りる。オウガテイルはぶつかった衝撃で地面に倒れ、両足でなんとか立ち上がろうと足掻いている。
「グオオォ!」
食事の時間を邪魔されたせいか、気が立っているコンゴウはオウガテイル殴り飛ばした。「今度はお前だ」と言わんばかりに俺を睨みつた。
この神様気取りモンキー、俺とやるつもりらしい。受けて立ちたいところだが、生憎こっちは懇切丁寧に相手してやる程暇じゃない。
腕を振ってきたが、それをバックステップで避ける。
まだ逃げ遅れた住民がいるか……。ちっ、こっちだって辛いっての……。
「はやく逃げろ! 長くは持たねえぞ!」
住民に怒鳴り散らし、逃げるよう催促すると、住民は悲鳴を上げながら逃げる。
コンゴウが逃げる住民を追いかけようと動き出した。
しかし、コンゴウはピタリと動きを止めて瓦礫の山を見た。そこには小さな女の子が泣きながら座っていた。
コンゴウが女の子を喰らおうと走り出す。
周囲のオウガテイルも女の子に気づき、我先にと動かない恰好のエサの元へ走り出す。
「うちの子がぁ!」
母親と思われる女性の悲鳴が響く。
太い鉄の棒を拾い上げて、力任せに折る。乱暴に折ったため、先っぽが上手く尖がった。
鋭い方をコンゴウ目掛けて投擲した。
鉄の棒はコンゴウに命中して地面へ転がった。
コンゴウがこちらを向く。
そして、その場からステップを繰り出して一気に女の子の元へ向かう。
ステップから更にステップを繰り返し、この場にいるすべてのアラガミをも超える速度で女の子の元へ駆ける。
しかし、既にオウガテイルが大きな口を開けて女の子に喰らいつこうとしていた。
くそ、流石に間に合わねえか……?
いや、間に合わせねえといけねえ。
渾身の力で地面を蹴りつけ、女の子の元へ跳ぶ。オウガテイルの牙が女の子を捉える直前で抱き上げつつ転がる。
立ち上がり、周囲の状況を確認。見るまでもない、囲まれている。
「もう大丈夫だ。ほら、ママのとこに行くぞ?」
「うん……」
しゃくりながらも頷く女の子に、いい子だと声を掛け、女の子をしっかり抱いて走り出す。
オウガテイルが飛びかかってくるが、スライディングをしてオウガテイルの真下を潜る。
すぐに立ち上がって走り出すが、数十メートル前に立ちはだかるオウガテイルが尻尾から無数の大きな棘を飛ばしてきた。
おいおい、冗談じゃねえぞ! 少々危険だが、横へ躱しつつ1本の棘を横から掴む。
手から鮮血が飛び散り、痛みと熱を感じる。
「ちっ、またザイゴートか」
ザイゴートが猛スピードでこちらへ向かってくる。
オウガテイルの棘をザイゴートの目に投げつける。
棘はザイゴートの目に刺さり、ザイゴートは地面に落ちる。
先にまだオウガテイルやザイゴートの群れが待ち構えている。
「しっかり掴まってろよ」
女の子に注意をし、更に走る速度を上げる。アラガミの群れまであと数メートルの所で高く跳躍し、アラガミ共を踏み台にしてジャンプで群れを突破する。
「さて、最後の難関か。通してもらうぜコンゴウ」
コンゴウは姿勢を低くし、背中のパイプからザイゴートが吐きだすものより大きな空気の塊を撃った。サイドステップで回避し、ポケットからスタングレネードを取り出し、安全ピンを口で引き抜く。
安全レバーをしっかり握り、使うタイミングを見計らう。
「お嬢さん、目ぇ閉じてな」
女の子にそう言い、スタングレネードを投げつける。
スタングレネードはコンゴウの目の前で光と爆音を放ち、コンゴウの視覚と聴覚を奪う。
その隙にコンゴウの横を素通りして、母親と思われる女性の元へ行き、女の子を降ろす。
「ああ、良かったぁ。ホントに良かった!」
女性は女の子に抱き着く。
「早く行ってくれ。ここは危険だ」
喜んでいるところ悪いが、状況は変わらない。一刻も早く非難してもらわなくては。
俺が1人居たところで稼げる時間なんてたかが知れている。
「ありがとうございます! このお礼はいつか……!」
「気持ちだけで十分だ。さあ、早く」
女性は女の子を抱き上げて走る。抱かれている女の子が手を振ってきた。
手を振りかえして、俺は後ろから迫ってくる敵に向き直る。
両手を構え、足を肩幅に開いて戦闘態勢に入る。さて、応援が来るまで一人孤独に立ち回るか。
コンゴウが腕を振り上げた。その隙に、一気にコンゴウの懐に飛び込んで足払いをして地面へ倒す。
ふと、後ろを見てみると、ザイゴートがこちらに向かってきていた。
咄嗟に身を投げて逃げようと、足に力を込める。
しかし、ザイゴートを一筋の光線が貫き、地へ落とした。
今のは銃形態の神機から放たれたレーザー。
そして見事に、
「ふ、ジーナか。相変わらず見事な腕だな」
応援が来てくれたようだ。まったく、出来る事なら最初から仲間と共に立ち向かいたいものだな。まあ、来てくれただけでもありがたい。
「グアアアァ!」
「ッ!」
仲間のスナイパーに感謝していると、コンゴウが雄たけびをあげながら、一気に距離を詰めて殴りかかってきた。
迫る拳を躱しつつ、コンゴウの腕を両手で掴んでコンゴウに背を向け、思いっきりを引っ張る。
「オラァァァ!」
雄たけびで体を奮起し、コンゴウを背負い投げて地面に叩きつける。
そして、対アラガミ用ナイフをコンゴウの目に突き刺す。
「よし、ッ!」
ザイゴートが大きな口を開けて迫ってくる。
「いや、問題ないか」
呟いた瞬間、俺の真横をレーザーが通り抜け、ザイゴートの目を貫いた。
俺の隣にスタッと音を立てて、レーザーを発射した人物が降りたつ。
「怪我は無い?」
「助かったぜ、ジーナ。相変わらず見事な腕だ」
「フフ、お褒めに預かり何とやらだわ」
「他の連中は?」
ジーナが神機の引き金を引き、レーザーを発射しつつ答える。
「もう到着するわ。それにしても相変わらず無茶するのね?」
「まあ、相手がコンゴウやシユウのようなヒト型なら、十八番の体術で応戦できるからな。だが、ピンチの仲間を装甲も無いのに庇ったりするお前にだけは言われたくないな」
流石にヴァジュラとかは無理だ、あんなんどうにもならん。あんなん投げるって無理だろ。
「グゥゥ……」
コンゴウが潰れた片目を手で覆いながら俺を睨みつけた。
俺の隣にまた1人助っ人が降りたつ。
「待たせたなユウ!」
「待ってたぜタツミ、さっさと終わらせちまおう。スタグレ、行くぞッ!」
「おう!」
俺はスタングレネードを地面へ叩きつけ、辺りを眩い光が包み込む。
周囲のアラガミが目を閉じて、ダウンしている。その隙にタツミが神機をアラガミの急所に突き刺し、一撃で沈める。そして一気に他のアラガミの元へ移動し、急所へ神機を突き刺す。
コンゴウが起き上がった。
タツミ目掛けて体当たりの態勢に入る。俺は連続ステップを用い、コンゴウの背後に回ると同時に奴の弱点である尻尾を、対アラガミ用ナイフで斬りつける。
ダメージなんて知れてるが、敏感な所を切られたら気が散るだろう。
案の定、コンゴウが俺に気を取られる。そしてコンゴウの胴体をジーナの神機から射出されたレーザーが貫く。コンゴウが悲鳴と共に地面に倒れた。
「ここだ!」
タツミが跳躍し、神機を捕食形態に切り替え、真上からコンゴウを喰らい千切る。
「よし! 討伐完了!」
「お疲れ様、2人とも」
「そっちもな。まったく、こんな夜中にご苦労な事だ」
「ま、俺達は防衛班だからな。住民を守るのが俺たちの仕事だ。俺はこの後、住民の安否確認をするから先に行くぜ」
「じゃ、私も手伝うわ」
「そうか、なら俺はこの辺りの被害状況を確認しよう」
「ああ、助かるぜ。んじゃ後でな」
タツミとジーナに手を振り、辺りの状況を確認するために2人とは別の方向へ歩いた。
「はあ~やっと帰って来た……」
被害状況の確認も終わり、支部に戻ってエントランスのソファーで寛ぐ。
時計を見てみれば、既に0時を過ぎ、翌日となっていた。
明日……いや、今日か。
今日も忙しいかも知れんし、早くに寝た方がいいか。睡眠不足は仕事の敵だからな。
寝る前になんか飲んで一服してから寝るか。
ソファーから立ち上がり、財布を出して自販機へ向かう。
「さて、どれにしようかな……」
よし、このジュースにしよう。何味かわからないけど。
青い缶のジュースを買う。
「しかし、冷やしカレードリンクってリッカ以外に飲む奴居るのか……?」
榊博士といい、天才ってのはなんかずれてるよな……。
再びソファーに腰を掛け、缶を開ける。
「あ、ユウ。戻ってきてたんだ。隣良い?」
「おう、ついさっきな。そっちも終わったのか? リッカ」
楠リッカ。神機使いやってるなら誰もがお世話になるであろう整備士だ。
機械もの全般に強く、神機以外の事でも彼女にはお世話になっている。ちなみにこの前はラジオを修理してもらった。本人曰く、延命しただけで買い換えた方が良いらしい。
「ううん。ちょっと一服しに来ただけ。新型神機の調整が忙しくてね」
「新型神機? なんだ、適合者でも見つかったのか?」
「うん、明日適合試験だからね。皆噂してるよ」
そう言いながら冷やしカレードリンクを手に、俺の横に腰を掛けた。
「それ、美味しいか……?」
「うん、美味しいよ? 一口飲む?」
「い、いや……遠慮しておこう。カレーの気分じゃない」
「そっか」
コイツ……なんでそんなに美味しそうに飲めるんだ……?
案外、飲んでみればいけるのか……? いや、やめておこう。好奇心はなんとやらだ。
「やっぱり、神機壊しちゃった事気にしてる?」
突然リッカが口を開き、聞いてきた。
「……すまん、あれ程お前に忠告されたのに……」
「ううん。きっと、ユウの判断は正しかったと思うよ」
「それでもだ、俺がもう1歩先を読めていたら……神機を壊す事はなかった」
神機使いになって当初、上手く神機を扱う事が出来なかった。それを見かねたリッカが指摘してくれた。
『神機だって生きてるんだよ? 無理やり押さえつけたら誰だって嫌がるでしょ?』
イラついている俺にリッカがそう指摘してくれた。
確かに、無理やり押さえつけられるなんて俺も御免だ。誰だって嫌な気持ちになるだろう。
むしろそれで嫌な気持ちにならない奴なんて居ないだろうが……。
やっぱり気持ちってのは大事だよ、うん。
そのおかげで神機を……いや、神機は俺に力を貸してくれた。ある意味、一緒に任務に出撃する味方よりも頼れる相棒だ。
そんな相棒を、俺はフェンリル入隊3か月目で失ってしまった。
任務の途中、厄介なアラガミが乱入し、味方が食われそうになり、俺は一か八か、神機を投擲した。神機はそのアラガミに突き刺さり、悶絶するアラガミを……
そして、その厄介なアラガミはある凄腕神機使いに討伐され、俺の神機は戻ってきた。
無残な姿となって。
「神機はきっと、俺の事なんて嫌っているさ」
「そんな事は無いよ。だって、ユウは神機が神機としての役割を果たせなくなっても、廃棄せずに使っているでしょう?」
リッカが俺の腰に差してある対アラガミナイフを見つめながらそう言った。
「そうかな……。まあ、そうだといいな……」
やっべぇ……。リッカから話を振ってくれたからいいけど、話題が終わった瞬間何を話せば良いのか……。俺ってあんまり人付き合い良くなかったからこういう時は本当にどうすればよいのか困る。何か話題振ろうにもそんな面白い話なんて無いし……。
「調子……どう?」
リッカは俺の腰に差してある対アラガミ用ナイフを見つめたまま言った。
「ん? ああ、絶好調だぜ。こいつのおかげで神機が無くてもそれなりに立ち回れる。リッカ姉さん様様だぜ?」
「あはは! それならいいんだけど、銃弾にオラクル細胞を塗布するのとはまた訳が違うし、作るのに少し頭を捻ったからちょっとね……。でも、ユウが使うからこそだと思うよ? その子が輝くのは」
このナイフは、俺の神機だったものだ。俺の神機はほぼ原形を留めていない無残な姿で俺の元に戻ってきた。ひび割れて今にももげてしまいそうな刀身、無残に粉々になった装甲。しかし、ひび割れた刀身の一部が一瞬光ったように見えた。俺はリッカに相談した。
刀身のこの光った部分だけを使って、何とかアラガミに……どんなに小さい手傷でも良いので負わせられるようにしてくれないかと。
そしたらリッカはその刀身部分を持って作業室に籠り、数日後……。
俺にこのナイフを渡してきた。使わなくなった神機のグリップ部分に正に達人の技といった所か、どんな細工をしたのかすら分からない程、上手く刀身をつけていた。
『本当に護身用だよ? アラガミに対するダメージなんて高が知れてるし、捕食もできない。理論上、倒す事はできるけど、小型のアラガミでも日が暮れるどころか最低でも一日中戦うぐらいじゃないと活動停止まで追い込めない。つまり、これでアラガミを倒すのは不可能だよ。きっと、そのナイフを使う事自体がほぼないと思う』
なんて言われたが、こいつには大いに助けられた。どんな武器も使いようによってその性能は何倍にも引き上げられる。ようするに技術の問題さ。
「お前、あの時驚いた顔してたよな? このナイフが役に立ったって礼を言いに行ったら」
「そりゃそうだよ。まさか、アラガミの目に刺して視覚を奪うなんて使い方をするとは思わないもん。装甲も無いのにアラガミの目の前に飛び込んでいく事自体正気の沙汰じゃないのに」
リッカが呆れながら言う。確かに、この時代じゃ普通に考えたら自殺行為かも知れない。
だが、俺は自殺行為とは思わない。立派な戦法だ。銃を持っている相手でも一気に間合いさえつめれば無力化は余裕だ。片手でも使いやすいナイフの長所とも合っている。
「あ、私そろそろ行くね。明日は新人さんにとっても、
「そうか、頑張れよ。でも無理はするなよ? 寝不足は仕事の敵だ」
「うん。分かってるよ。じゃあ、おやすみ」
「ああ」
リッカはエレベータに乗っていった。
俺もジュースを飲み干し、缶をゴミ箱へ捨てる。
「おし、寝るか。どうせもう誰も来ないだろうしな」
ソファーに座り、そのまま目を閉じた。
楠リッカ
俺が特に世話になった人ベスト5にランクインしている恩人だ。
彼女に本当に助けられた。特に対アラガミ用ナイフに驚かされた。
ナイフ1本あれば全然違うぜ。
彼女は神機も生き物だと言っており、俺も神機に適合したばかりの時は俺が神機に振り回された。彼女からアドバイスを貰い実戦にこぎつける事が出来た。アドバイスを貰った途端、神機はあばれ馬から信頼に足る相棒になった。やっぱり、気持ちって大事だな、うん。