Nameless Story 1人孤独に立ち向かわざるをえない者 作:ロイヤルかに玉
本当に切ない。
じゃあ無我の境地捨ててプレイヤースキルでなんとかしろって話ですけどね。
突然現れた青く輝く冷気を纏うマータ。奴はこちらを睨みつけ、一気に距離を詰めての体当たりを仕掛けてきた。
焦って2人を突き飛ばし、咄嗟に両腕を交差させて防御するが両腕に激痛が走ると共に吹き飛ばされて廃墟に叩きつけられる。
「グゥ!? ……がハッ! ッ!」
痛みを堪えてスタングレネードを使う。
「ユウ! 立てる?」
「リーダー! 私が奴を引きつけます!」
すぐにユウナが駆け寄ってきて、肩を借りるとそのまま一気に跳躍で移動して物陰に隠れた。
「すまん……油断した。腕が痺れただけだ。すぐに治るさ」
「しばらく此処で休んでて。私とアリサで何とかするから」
そう言うとユウナはアリサの元へ向かって行った。
2人は何とか新手のマータと渡り合うが、新手のマータは先程の奴とは違い。基本的な動きも早く、氷柱を生成する時間も短い。
なんとか2人で銃撃による援護と近接攻撃を仕掛けるが、ユウナはともかくアリサには疲れが見えてきた。
くそ、仕方ねえ。回復錠を使うか。
ポーチから回復錠の詰まったケースを取り出して蓋を開けて中に入っている回復錠を口に放り込んで数回齧って飲み込む。
すぐに腕の痛みが引いて傷が塞がるのを確認してから物陰から飛び出す。
マータが氷柱を大量に生成して絶え間なく飛ばしてくる。アリサは銃撃、ユウナは神機で迎撃する。
「悪いがしばらく堪えてくれ! 突破口を開く!」
2人に言い、氷柱の嵐に真正面から向かう。氷柱から氷柱へと飛び移りながら距離を詰めてナイフを取り出し、マータの顔に突撃して目に突き刺す。
「ガァアアアッ!?」
マータが暴れだし、吹き飛ばされるがユウナが受け止めてくれた。アリサがオラクル弾を飛ばしながらマータへ近づき、ユウナは「後は任せて」と言って凄まじいスピードでマータへ向かっていく。
しかしマータが咆哮を上げると一気に冷気が放出されて2人は吹き飛ばされる。
奴の周囲には次々と氷柱が地面から飛び出してこちらの接近を許さない。
先程から纏っている冷気がマータを包み込んでアリサとユウナの銃撃が弾かれる。
そしてマータが駆けだすと先程とは比べ物にならないスピードで接近戦を仕掛けてくる。
アリサが装甲を展開して攻撃を防ぐが、衝撃を完全には受けきれず吹き飛ばされ、マータは一瞬でアリサの背後へ回り込む。
「させない!」
ユウナが割って入って攻撃を弾き返すが、マータは大きく後ろへ跳んで距離を取って氷のブレスを吐き出す。
ユウナは神機を振ってブレスを切り払うが、その隙を突いてマータは駆けだした。
「やらせん!」
「止める!」
俺とアリサが跳びながら切り付けるがあまりに硬く、こちらの手が痺れる。
「ちッ!」
「硬いッ……」
着地すると周囲には冷気、予感する。
「アリサッ! 離れろ!」
大声で叫んでその場から跳び退くと、地面から再び氷柱が飛び出してくる。
氷柱に着地してすぐにジャンプして次々と地面から飛び出してくる氷柱を避けながらマータを追う。
ユウナがマータと一騎打ちを繰り広げ、互いに1歩も引かずに戦う。
アリサも神機を構えてユウナを援護しようと銃撃を仕掛けるがマータの纏っている冷気がオラクル弾を防ぐ。そしてユウナの足元に冷気が収束していた。
「ユウナッ! 地面から来るぞ!」
「ッ!」
俺の声に反応して空中で装甲を展開して攻撃を防ぎつつ、その衝撃を利用して吹き飛ばされる。しかし、マータが間髪入れずに氷柱を作り出す。アリサが氷柱を銃撃で破壊するが数本は破壊しきれずユウナへ飛ばされた。
「撃ち落とす!」
ユウナも銃形態へ変化させて後退しつつ向かってくる氷柱を迎撃するが動きながら次々と氷柱を作り出して撃ちだすマータは距離を詰めてくる。
ユウナの足元に再び冷気が集まる。
俺はステップで一気にユウナの元へ向かい、ユウナを担ぎ上げてその場から退避する。
「ごめんッ! 助かる!」
「氷柱を頼むぞ」
ただそれだけ言って俺は足元から飛び出してくる氷柱を躱しながら駆ける。
「アリサッ! 撤退するよ! 私が銃撃で援護するから退避に専念して!」
「了解です!」
「しかし、マータもしつこいぞ。何とか動きを止めたいが……」
氷柱を撃ちながら駆けてくる奴を撒くのは容易じゃない。
どうするべきか考えているとマータは冷気の塊を口から空へ放出し、塊は空を覆って次々と上空から氷柱が降ってくる。
「キャッ!?」
アリサの真横に氷柱が落ちて衝撃で吹き飛ばされる。
「アリサッ! ユウッ、ごめん!」
ユウナは俺の腕を解いてアリサの元へ向かう。
「おいおい、無茶な真似を――」
挑発フェロモンを使うがマータは俺に見向きもせずにユウナとアリサの元へ。
前足に冷気を纏って攻撃態勢に入る。
「2人とも逃げろッ!」
俺の声も虚しく、ユウナはアリサを庇ってマータの攻撃に直撃する。
アリサが吹き飛ばされたユウナを受け止めようとしたがあまりの衝撃故か2人共吹き飛ばされる。
「グゥ……ア……ゥ……」
「リーダー!」
「伏せろッ!」
アリサがユウナを抱き上げる。マータはとどめを刺そうと前足を振り降ろすがそれよりも早くスタングレネードを投げつけてマータの視界を眩ませる。
急いで2人に駆け寄り、ユウナを担いでアリサを脇に抱えて跳んでマータからできるだけ離れる。
「ユウナを連れて先に逃げろ」
「でも、ユウは……!」
「俺もお前らが逃げ切ったらなんとかあいつを撒いて後で落ち合う。行け!」
「分かりました。無茶だけはしないでください!」
そう言ってアリサは神機を片手にユウナを担いで走っていく。
俺はマータの目の前に移動し、中指を立ててクイっと曲げてかかって来いよ挑発する。
挑発が通じたのか、怒声を上げて襲いかかってきた。バックステップで距離を保ちつつ次々と繰り出される攻撃を躱し続ける。マータが宙返りをしながら空へ跳び、氷柱を生成して撃ちだしてくる。
降りかかってくる氷柱を回避しつつ、アリサが逃げた方向とは逆の方向へ引きつける。
地面に着地したマータは走りながら氷のブレスを撃ちだして逃げる俺を仕留めようとするが、ブレスも紙一重で躱し、背後の地面に直撃すると氷柱が地面から生成されて逃げ道を封じられる。
「やべッ!」
マータが一瞬で目の前に移動してきた。
一瞬、視界に違和感を感じた。
冷気を纏った爪を振り上げた瞬間、振り降ろされる爪を回避した直後に間髪入れずにもう片方の足で殴りつけてくる光景が見えた。
「ッ!」
驚きと共に目の前には迫る爪、そして俺は先程見た光景とは違う行動、最低限の動きで爪を回避した。すると先ほどの光景で見たとおり、マータはもう片方の足でフックを繰り出してきた。
それも上手く躱し、跳んでマータを飛び越して背後に回りバックステップで距離を取る。
なんだ今の……?
まるで未来予知……。いや、これはただ純粋に精度の高い見切りか。奴の行動から更にその先の行動までが視えた。
成程、これが万物を見切る……真の見切りの極意……か……。
見切りの極意……俺があの戦いで極限状態に陥り、限界と言う名の殻を破った証。
敵の僅かな動きからどんな攻撃を仕掛けてくるか、それから次の行動を読み取る武術の極致の1つ。
絶え間のないただ純粋な研鑽の果てに鍛え上げられ、完成された精神を持って辿り着く領域。
そして……真の見切りの極意。
それは万物をも見切る神の御業とも称されている。万物とは未来を含むと言う事か。
万物を見切る……ただ見るだけではなく、聴く事も感じ取る事できると言われている。
お伽噺に出てくる鬼などの、人の手に余るような怪物を打倒した者は、この領域に居るらしい。確かに生身で鬼退治とかぶっ飛んでいる。
ただ見切の極意を会得すれば、強敵との戦闘や極限状態で一時的にこの領域に片足を突っ込めるらしい。
完全に会得して制御するには研鑽は勿論必要だが、絶対に不可欠なものがある。
1つは天武の才。この領域に近くして生まれるのも、才の1つだろう。
そしてもう1つは……天性の肉体。
この2つを併せ持つ存在が完成された精神を持って初めてこの境地に至ると教えられた。
「クッ……」
直後に凄まじい脱力感に襲われて膝を突き、呼吸も荒れる。
全身の筋肉に思うように力が入らない。ここが戦場じゃなかったらそのまま横に寝転がりたいものだ。
「ハァ……ハアッ……ハァ……」
天性の肉体が必要……そういう事か。確かにこの状態に耐えられるのは生まれ持った強靭な肉体が必要だな。俺も中々頑丈な方だとは思っていたが……その俺がこの体たらく……。
マータが振り返り、俺に狙いを定めて飛び掛かってくる。爪に冷気を纏わせて確実に俺を殺そうとしている。
奴の爪がどんな軌道で迫るかまでわかるってのに……体がスタミナ切れを起こして回避できないなんて……なんともまあ馬鹿らしい……。
被弾理由がスタミナ切れとか情けなくて悲しすぎる。
せめて致命傷を少しでも軽くしようと頭を腕で覆い、攻撃に備えた。
空中の巨体から振られた爪は俺を斬り裂くことなく、砕け散ってマータは諸共吹き飛ばされた。
俺の前に立つ神機使い、ただ一振りであの冷気を纏った強靭な爪を砕き、果てには巨体を吹き飛ばした。
「フー……」
神薙ユウナが神機を構えて一瞬でマータとの距離を詰めて、一閃――
『ガアアぁッ!?』
マータの顔の一部から肩を斬り飛ばし、切断された部位が血をまき散らしながらグチャりと音を立てて地面へ叩きつけられた。
『グゥ……グゥアァッ!』
マータは怯えるように逃げ出していき、ユウナはこちらを振り向いた。
赤い瞳が……獣のように縦に割れた瞳孔に変化しており、先ほど受けた傷は音を立てながら肉の繊維を編んで再生していた。
ユウナから発せられる尋常ではない気配、いつも彼女から感じる気配と全く同じだった。
危機に陥った宿主を守るために出てきたか……。あまりにも強力な獣の如く生存本能。
あまり刺激しないようにしないと、俺も敵だと判断されて奴の二の舞になる。
ユウナの瞳は元通りになり、目が閉じて地面へ倒れる。
「な……おい、ユウナ!」
慌ててユウナに駆けより、アリサも戻ってきた。
「アリサ、一体何があった?」
「分かりません。急に苦しみだして……眼もあんな風になってそのまま……」
「そうか……とにかく、他のアラガミが嗅ぎつけてくる前に離れるぞ」
ユウナを担ぐ。
アナグラは遠いな。それにアナグラの方向には結構な数が居る。ここからなら集落が近いか。幸い、アラガミの気配も少ない。何とか凌ぎながら行けるか。
出来るだけ戦闘を避けたい。俺もアリサもかなり疲弊している。ユウナはしばらく目を覚まさないだろう。
「何処へ行くんですか?」
「近くにちょいと頑丈な集落がある。そこへ向かう。悪いが遊撃を頼む」
「分かりました。リーダーの事、お願いします」
俺がユウナを担いで移動を始めると、アリサが周囲を警戒しつつ後に続いた。
真・見切りの極意
読んで字の如く。前回紹介した見切りの極意の強化版だな。
悪い鬼を退治するお伽噺でよく聞かされたものだ。
桃から生まれた彼&鉞担いだ彼「万物見切るで~」
強い(確信)
ちなみに俺に習得は無理だ。ぶっちゃけ成長限界が近いもん。
ユウナなら会得できる(根拠のない自信)