Nameless Story 1人孤独に立ち向かわざるをえない者   作:ロイヤルかに玉

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更新が遅れてしまい申し訳ありません。
修正するうちに「やっぱここ変えた方がいいんじゃね?」とか「やっぱりここで会話を挟みたいな」等となってしまって修正という名の追記である。


これが俺なりの優しさってやつよ……!

 何とかアラガミに遭遇することなく集落を囲むアラガミを喰らう木の群生する森までたどり着く。

 

「アリサ、遊撃はもういい。後は木が何とかしてくれる」

「木……ですか?」

 

 アリサは首を傾げ、この木について軽く説明する。

 

「この木が……アラガミ……?」

「そういう事だ。前までは偏食因子を打ち込んで偏食を制御してアラガミの侵入を食い止めたんだが、しばらく餌やりにこれなくてな。恐らく木も偏食が変わっている。あまり刺激しないようにな。ま、触れさえしなければ大丈夫だ」

 

 

 森を抜けて集落に着き、集落の少年がこっちに走ってきた。

 

「ユウ兄ちゃん。来てくれたんだね!」

「ああ、元気そうで何よりだ」

 

 少年の頭を撫でて俺は集落の中心へ向かう。

 

 

「ユウさん、久しぶり。その人たちは……」

「ああ、同僚だ。悪いが休ませてやってくれ」

「分かりました。皆、手を貸してくれ!」

 

 

 

 

 ユウナは別室で寝かされ、アリサも手当てを受けている。俺は住人と近況について話し合う事にした。

 

「偏食因子のストックがまだあるのか……」

「ああ、この前リンドウさんが置いて行ったんだ。それで、もしユウさんが来たら餌やりを頼むって」

 

 あの人、自分に何かあったら……と言う状況を想定でもしていたのか……?

 ストックの量からして当分は平気だぞ……だとしたら本当にあの人には敵わないぜ……。

 

「そうか。食糧はどうだ?」

「自給自足でなんとかなってるよ。ある程度節約すれば余裕でもつさ」

 

 

 どうやら、当面の間は平気なようだ。

 偏食因子のストックもあるので、このクソ忙しい状況を何とか抜け出せれば今までのようにできるだろう。ただ餌やりが俺1人だけなので必然的に疲れる事になるが仕方あるまい。

 

 正直、此処をユウナとアリサに知られた以上、2人にも頼みたいが精鋭部隊のリーダーと優秀な神機使いがしょっちゅうアナグラを空けるのはまずいだろう。

 

 リンドウさんはその辺上手く折り合いをつけていたがユウナやアリサは性格上難しそうだ。

 

 今後の事を考えていると、扉が開いてアリサが部屋に入ってきた。

どうやら手当は終わったらしい。

 

「ユウナはどうだ?」

「静かに眠っています。呼吸も安定しているので安静にしていれば意識を取り戻すと思います」

「そうか。アリサ、ゴタゴタの後で悪いがちょいと手を貸してくれ」

「はい、分かりました」

 

 

 アリサを連れて倉庫から偏食因子をケースに入れて運ぶ。行き先はあの森だ。

 森へ向かいながらアリサの森での作業について説明しておくことにした。

 座学ではトップレベルの成績を誇っていたらしいので理解も早く教えるこちら側も大いに助かる。

 

 

「それではさっきの説明通りに?」

「ああ。偏食因子を打ち込んで木の偏食を制御するんだ。根の辺りに打ち込めばOKだ」

「分かりました」

 

 そう言ってアリサは手際よく偏食因子を打ち込んでいく。

 俺も早速作業に取り掛かって手早く終わらせた。

 

 

 偏食因子を打ち込み終えた。ケースを担いで集落へ戻る途中でアナグラの近況についてアリサから聞いた。

 

 まずアリサはユウナが時間を作ってリハビリに付き合ってくれたおかげで、あまり時間もかからずに戦線に復帰できた。ユウナは今までの実績を認められて第1部隊隊長に就任。サクヤさんも若干不安はあるが持ち直して戦闘には支障はないとの事。

 そしてつい先日、第1部隊は見事にプリティヴィ・マータを撃破して、今は黒いヴァジュラの動向を追っている。しかし最近は禁忌種が頻繁に出現するようになり、アナグラは人手不足。ユウナもリンドウさんの特務を引き継いで単身任務に出ており忙しいようだ。

 ソーマの奴も何かを探しているようで、まだまだ厄介ごとは片付かないようだ。

 

 アリサと今後の動きについて話し合った。

 ユウナが目覚め次第、俺達は3人でアナグラに戻る事になったのでとりあえずユウナが目覚めるまでは待機だ。

 

 しかし参ったな……。気まずい。

 ぶっちゃけアリサと共通の話題なんて無いし、俺は別に気にしていないが初めて顔を合わせた時のことを引きずっている様子。

 今この場であの時の事は気にするなと言っても余計逆効果だろう……。

 なんて言えばいいんだ? 「第1部隊はどうだ?」とか? 

いやいやリンドウさんの事があるだろ、地雷踏み抜いてどうするねん!

 

「ユウはリンドウさんの事をどう思ってましたか?」

 

 場の気まずさに頭を抱えているとアリサから突然質問が飛び出してきた。

 

「理想の上司だが?」

「そう、ですか。私は最初、あの人の事を旧型だからと馬鹿にしていました。それでも……空を見て動物に似た形の雲を見つけろって、そしたら気持ちが落ち着くって言ってくれました」

「そ、そうか。あの人らしいと言えばらしいな」

 

 リンドウさん、仲間には寛容だからな。アラガミには容赦無いけど。

 

「今でもたまに頭に過るんです。そんな人を死に追いやってしまって私は何赦されているのだろうって。勿論、リーダーや他の人もそんなことは無いって言ってくれます。それでも――」

「納得できないか?」

「はい……」

 

 若さ故に悩むね……。まあ普通の年頃の女の子の悩みではないのが確かだが。

 しかし、俺は精神科医じゃない。ましてや万が一の確率で治療を受ける方だ。酷い人間だと言われても否定できないが、優しい言葉なんて出てこない。

 

「赦される事なんてないさ。失敗も悪事もな。だから納得行くまで向き合え。ほらアレだ。リンドウさんから貰った命だろう?」

「貰った命……ですか」

「そう、親以外の他人にだって貰い物して人間出来ていくんだぜ? 恩返しとか償い以前に、自分の与えたモノがどんな使い方されるかって方が気になるもんだ。よーく考えてみると良いさ」

「リンドウさんが……何を思ってくれた命……。そうですね。私、勝手に考えていました。どうすれば償いになるのかなんて」

 

 水差すようで悪いがこれは俺個人の見解だ。ぶっちゃけ他人の考えなんて読めないから知ったことじゃないんだが……。

 まあ、アリサが今の悩みから少しでも解放されるならそれでいいってことにしよう。これが俺なりの優しさってやつよ。

 すまない、こんな遠回しな方法しかできないんだ……。まともな教養なんざ受けていないが故……!

 

「さて……じっとしていても暇なだけだし、森周辺の様子でも見てくるか……」

「それなら私も――」

「いや、お前は休んでおけ。あんな化け物とやり合っていたんだ。逃げ回るだけの俺よりお前らのほうが負担は大きい。休めるうちに休みな」

「……わかりました」

 

 

 アリサも不満はあるが納得はしてくれたので、すぐに戻るとだけ言って俺は森へ向かった。

 

 

 

 周辺の様子見をする前にしばらく偏食因子を打っていないエリアを確認したが特に異常はなさそうだ。こちらとしても侵入してくるアラガミさえ退治して補喰してくれればそれで良いのだが。

 リンドウさんが居ない今、この木の面倒を見続けるのも厳しくなってきた。あれだけ探しても見つからないのだ。そろそろ現実を受け入れるべきかもしれんが、諦めきれない。

 

 そのうち、榊博士に相談した方が良いのかもしれない。まだこの木はそこまで研究はされていない。調べれば餌やりをしなくてもよくなる可能性も十分ある。

 

 

「……! 木の揺れが……いつもと違う……?」

 

 

 突然周囲の気が揺れ始めた。

 近くにアラガミが居ると木が少し揺れ、棘を伸ばしてアラガミを貫いて喰らうのだが……。

 

 バキッと何かが折れる音がして、俺は音のした方向を警戒しつつ木の陰に隠れる。

 

 木が倒されたか……しかし、気配から察するにあまり大物ではないようだが……。

 気配を探ると、それはこちらへ一直線に向かってきた。

 慌てて伏せると目の前の気が中央でへし折られて俺の頭上を何かが通り過ぎ、すぐに距離を取って逃げる。

 

 何度か聞き覚えのある鳴き声だが、少し違和感がある。

 

「うおっ⁉」

 

 敵の姿を拝もうと振り返ると目の前には火球が迫っていた。咄嗟に体を捻ってやり過ごして背後で爆音が聞こえ、爆風が背中に吹き付ける事を気にせずに奇襲を仕掛けてきた奴を見た。

 

 赤い翼の鳥人が翼であり、手でもある両腕に炎を纏ってこちらへ近づいてきた。

 

「これはこれは、神機使い諸君から硬すぎてクソクソ呼ばれている剛炎タワーの化身、クソメト――じゃなくてセクメトさんでありませんか」

 

 

 シユウ種の禁忌種、厄介だな……。ただのシユウならまだしもよりにもよって禁忌種か……。いや、電気シユウもアレだが……。

 遠距離型の破砕には滅法弱いが近接武器に対して高い耐性を持っていて旧型近接の神機使いにとってはただただ面倒くさい奴だ。俺も一度だが交戦経験はあるのだが……硬すぎて怒りを通り越して泣きたくなる。斬っても斬ってもカキンカキンって火花が散って本当に面倒くさい。

 

 

『グゥオオオっ!』

 

 雄たけびと共に大きな火球を放ち、再び火球を回避する。当然ここは森の中、アラガミの木は『当たり前だよなぁ?』と当然のように燃える。

 

「おいゴラァ! 自然を大切にしろやぁ!」

 

 せっかく餌をやったりして面倒見てたのにパーにしやがったこいつ。

 あーなんかなー……すげぇ力に覚醒して素手でアラガミ倒せたりするっていう奇跡とか起きねえかなー。

 

 セクメトが再び火球を作り出した瞬間、俺の真横を青い玉が通り過ぎてセクメトの手を爆撃して火球が大きな爆発を起こした。

 爆発に巻き込まれた奴は悲鳴を上げながら地面に膝を突く。

 

 

「ユウ、無事ですか⁉」

「ああ、助かった。正直、神機が無いからどうしようもないんでな」

 

 アリサが救援に駆けつけてくれた。

 

「あれは、セクメトですか……。資料でしか見たことがありませんが」

「なーに、奴の倒し方は至って単純明快さ。破砕系の弾でひたすら銃撃だ。接近戦はあまりお勧めしない」

 

 俺が簡単に助言をするとセクメトは炎を纏って滑空攻撃を仕掛けてきた。

 アリサと共に跳んで回避すると、早速アドバイス通り銃撃を始めてセクメトは爆撃に悲鳴を上げつつ怯む。

 

 

 アリサの神機が弾を出さなくなり、すぐに近接形態に切り替えた。

 

「ごめんなさい。弾切れです」

「おし、少し奴と踊って気を引いてやるからチャンスを見つけて仕掛けろ」

「分かりました」

「先に突っ込む。頼んだぞ」

 

 それだけ言うと一気にセクメトと距離を詰めて対アラガミ用ナイフを抜刀しつつ斬りかかる。ナイフは容易く弾かれてセクメトの反撃が迫るが紙一重で回避して遠距離攻撃を誘発しないように至近距離で立ち回る。

 

 アリサがセクメトの背後へ回り込んで背中を切りつけて離脱してセクメトがアリサへ向くと俺はセクメトに飛びかかって翼の隙間にナイフを突き刺す。

 

『グゥ……⁉』

 

 鬱陶しいと言わんばかりに俺へ回し蹴りを繰り出してくるが、跳躍で避けてそのまま頭部を切りつけて背後へ回るとすぐにアリサが飛び込んできて翼を一閃して離脱する。

 

「アリサ、まだか? 踊るなんてかっこいい事ほざいたが要するに粘るってだけだからな! 急いでくれ!」

「分かっています! もう少し凌いでください!」

 

 セクメトが四方八方に火球を撃って回避しつつアリサを急かす。アリサも一発ずつ躱しながらセクメトへ接近する。

 

 

 

 火球の嵐を掻い潜って、一気に距離を詰めて斬りかかるがセクメトは両手で地面を叩きつけて衝撃波を放ち咄嗟に地面を蹴って後ろへ飛び退く。

 

 無茶な回避で後隙を晒してしまい当然奴は拳に炎を纏って殴りかかってくるが何とかギリギリで躱す。

 奴はすぐにアリサへ目標を変え、勢いよく跳んで距離を詰めてアリサへ殴りかかる。

 

「アリサ、迷うな!」

「ッ!」

 

 アリサは迫る拳にあえて攻撃を仕掛けて炎諸共拳を切り裂いた。

  

『グゥオ⁉』

 

「これなら!」

 

 素早く捕喰形態へ神機を切り替えてセクメトの肉を食い千切ってバースト状態に移行する。

 

「隙を作る! やっちまえ!」

 

 叫びながらセクメトへ飛びかかり、奴の目を切りつけた。

 

『グゥ……⁉』

 

 目を押さえながら隙を晒したセクメトを、銃形態へ変形させつつ胴体に銃口を向けて至近距離で爆撃する。

 

 アリサとセクメトは互いに吹き飛んだ。

 

「……!」

 

 油断を伺わせない表情をするアリサと下半身がボロボロになったセクメトが向かい合い、アリサが近接形態へ切り替えて駆けた。

 

 踏み込みと共に下半身の傷口を一閃して片足を斬り飛ばして地面へ倒れるセクメトの頭部に神機を突き刺して更に地面へ叩きつけて放り投げた。

宙を舞うセクメトにアリサは跳躍して体を回転させつつ神機を振り抜いてセクメトを一刀両断した。

 

 

「活動停止を確認しました」

「ああ、やったな。助かったぜ」

 

 無残な姿になったセクメトを2人で見下ろし、アリサの神機が死骸を捕喰してコアを回収した後、俺たちは集落へ戻った。

 




赦すと許すの違いがよくわからない今日この頃。
暇だったら今度ググってみます。

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