Nameless Story 1人孤独に立ち向かわざるをえない者 作:ロイヤルかに玉
なんとか泣き止んで落ち着きを取り戻してくれたのでとりあえず瓦礫の陰に身を隠し、座り込んで一息つく。
エレナは俺にぴったりくっついて両手で俺の制服を掴んでいる。
「エレナ、どうしてこんな所に居たんだ?」
「看守達がアラガミを倒して来いって言って無理やり連れて来られて……。でも怖くて……」
看守……ああ、分かったぞ。あの光景の下衆共だな。牢屋の向こうで下劣で気色悪い笑みを浮かべていたあいつらの事で間違いなだろう……。
マジで腐ってんな。まだエレナは十歳かそこらだろ。まさか、腕輪も無理やり適合試験を受けさせて付けたんじゃあるまいな……。
つか、倒して来いってなんだよ。あいつらもゴッドイーターだろ。自分で行けよ。
「エレナ、その……どうして腕輪が2個もついているんだ?」
ずっと疑問だったんだよな。だって腕輪が2つだぜ? 腕輪って神機を制御するためにつけるものだろう? それが2個ついているってことは神機2刀流という浪漫がある。
あ、でも2刀流って見る分には格好良いけど実際に自分が使おうとしたら使いづらいにも程があるよな。ぶっちゃけ2刀流できる奴を見ると素直に器用だなと尊敬する。
「ユウは私たちの事を知らないの? AGEだから……だよ?」
AGEってなんぞや……。そんなもん聞いたことないぞ……。
「ウーム……。聞いたことないな……。寝ていたらいつの間にかあの礼拝堂の前で突っ立っていてな。此処が何処かも分からないんだ」
エレナによると、灰域と呼ばれる災害が起きてそれに伴って生まれたゴッドイーターらしい。その灰域に高い耐性を持っているらしく長時間は灰域の中でも行動できるとの事だ。
ちなみに今現在居るこの場所も濃度は低いが灰域の中らしい。
戦友達の言葉の意味が分かったな。つまり、俺は今戦友達に守られているから死なずに済んでいるらしい。長くはもたないって言っていたって事は早くエレナを連れ出さなければいけないか。
「私、サテライト拠点の孤児院に居たの。でも、ペニーウォートの人たちが来て子供たちを集めていたんだけど、私は怖かったから逃げようとしたら無理やり……。皆連れて行かれて、腕輪を嵌められて……!」
エレナが震えながら語り始め、エレナを抱き寄せて背中を擦る。
「それから一度も皆に会ってない……。看守たちは超・甲判定だ。レア物だって言ってて、私だけ狭い牢屋の中に入れられて、あいつらに……」
「大丈夫。もう話さなくても良い。大丈夫だ」
もう許せんぞ!ペニーウォートのカス共!
もう許さねえからなぁ?(憤怒)
今なら自力でバースト状態に移行できそうなほど高ぶっていやがる。
タツミや同期は仲間が致命傷を受けたら『テメェ、やりやがったな!?』とか『一度死なねば分らんようだな!』と怒りと共に神機開放状態になっていたな。
彼らの気持ちが分かった気がする。
しかし、ペニーウォート……ああ一々ペニーウォートって呼ぶの面倒だな。 もうぺ二カスでいいか。
あいつら……マジで考えただけで腹が立って来たぞ。きっとエレナの友達はみんな適合失敗で……。それにレア物って……人様を物扱いするとか人として終わってんな。
偉大なる戦友達が連中を許すなと言うのも頷ける。いやまあ、俺らのご先祖様だって残虐非道な事はしただろうが、少なくても俺たちはそんなことはしていないのでこれはこれそれはそれだ。ここはやっぱりけじめを付けるという建前で直々にぶっ潰すしかないか。しかし、それなりの組織だろうな……。
1人でエレナを守りつつ潰すのは中々至難の業だ。
とにかく、エレナを連中の手が届かない安全な場所に送り届けてからだな。戦争の次はアラガミ退治、そして今度はまた人間が相手か。俺って戦う宿命でも強いられているのだろうか……?
しかし、この子を助け出すのは中々骨が折れるな。
俺達神機使いは生きて行く上で偏食因子の投与が必要不可欠だ。だからペニーウォートに行かなければ偏食因子は置いていないだろう。偏食因子云々に関しては俺も同じだ。携行した数から半年程度は問題ないと思うが……。
もう1つ手があるとすれば、ペニーウォート以外のミナトか。エレナに合う偏食因子を作ってもらう事が出来るだろう。だが、右も左も分からないこの土地でどうすれば……。
いや、考えていても仕方ない。時間は無いのだから悩んで止まる暇があるなら1歩でも進まないといけないな。
「エレナ、これから遠くへ行って暮らせる場所を探さないか?」
「遠く……?」
「ああ、連中の所には戻りたくないだろう? だから、一緒に探さないか? 怯えずに暮らせる場所を」
「でもアイツらは追って来るよ! 見つかったら今度はユウが殺されちゃう!」
「大丈夫さ。俺がエレナと一緒に探したいんだ。危険なんて百も承知さ」
「…………ユウ。どうしてそこまで優しくしてくれるの?」
ふむ、まずいな。何か理由を付けなければ警戒されるか……。しかしなんて建前を述べたものか……。
まあ、傍から見れば不審者と言われても否定できる証拠がない以上それっぽい理由が必要だな。
「なに、思い出すだけさ。血が繋がっていないが弟が居てな。生まれたばかりで……ホントに小さな手をしていた。指で頬をつつくと嬉しそうに笑いやがってな」
「……………………」
「だが、俺が兄ちゃんらしいことをできたのはそれが最後だ。訳ありでな。結局何もしてやれなかった」
「ユウは後悔してるの?」
「ああ。少なくても、エレナをこのままペニーウォートに連れていかれたら俺はまた後悔するだろうからな」
「…………わかった。私、ユウと一緒に行きたい」
「決まりだな。その前に……」
制服の上着を脱いでエレナに羽織わせる。
こんなボロい布キレ一枚は流石にまずい。しかし、制服はかなりぶかぶかだな。とりあえず手を出せる所まで袖を捲ってやるか。
袖を捲り、携帯していた包帯で固定してエレナの手が出るようにする。もう1巻き包帯をエレナの腰に巻きつけて制服がはだけないようにする。
「これで良し。俺のお古で悪いけど、我慢してくれ」
「ううん。ありがとう、とっても暖かい……」
そりゃさっきまで俺が着ていたからな。
「ユウ、手」
エレナが手を出してきた。エレナの手を握ると握り返される。
「よし、行こうか」
「うん!」
俺はエレナと2人で礼拝堂を後にした。
*
まずは高いところから周囲を見渡してみようか。
何か人気のある建物があればいいんだが……。
エレナを抱き上げて崖を駆け上って上まで上がる。
「うーむ、何もないな……」
人が居る場所なら装甲壁が見えるのでそれを目印にしようかと思ったが、見渡せど視界に映るのはアメーバ状のオラクル細胞に捕食された建物と捕食対象を探して徘徊するアラガミ。
神機使いの姿も見当たらない。
「ユウ、近くに繁華街だった所があるの。そこで地図とかあるかも」
「おっと耳より情報。よし、そこに行くか。どっちにあるんだ?」
エレナに案内されながら歩くとすぐに繁華街は見えてきた。
やはりここも礼拝堂周辺と同じような状態だ。
「…………アラガミか」
俺達の先には小さな翼を首から生やした騎士の様なアラガミが居た。
新種か。いや俺にとっては新種だろうが、この世界では普通に存在を確認されているアラガミなんだろう。
両手の針のような武器……。気を付けるのはアレだな。
「ユウ、戦うの?」
「何とかしたいな……。あんなのがうろついていたら満足に探索もできねえからな。くそっ、神機さえあれば……」
「ユウ、これ……使って」
エレナが手に光を集めると、装甲がついてない近接型神機のような武器が作られた。
武器に『食べちゃダメだよ。力を貸してあげて』と言って手渡してきた。
「使わせてもらう。下がっててくれ」
「うん、気を付けてね」
武器を構えると、奴も丁度こちらに気づいたのか雄たけびを上げて向かってきた。
迫る針を躱し、側面に回り込んで斬りつけてすぐに離脱して距離を取る。
針を構え、一瞬で距離を詰めて突き攻撃を咄嗟に剣で防ぐが、そのまま後ろに押されて壁に叩きつけられる。
背中の痛みを無視して次の奴の攻撃に備える。
「ちッ!」
奴がもう片方の針で刺してきたが、攻撃をギリギリで避けて針に斬撃を叩き込んで針を折り、追撃を掛けようと突き攻撃で頭部を狙う。
『KIIIIIIIッ!』
「ぐあッ!?」
得物の先端が奴の頭部を貫く直前で奴は突然咆哮を上げ、声量だけで空気が大きく振動して耐えきれずに吹き飛ばされる。
受け身を取って剣を構えるが、耳の中でキーンと音が残る。人間吹き飛ばす程の力だ。鼓膜が破れないで済んでいるのは奇跡だ。
奴が跳び上がり、上空から針を突き刺そうと降りてくる。
大きく距離を取って攻撃を躱し、再び斬り込みを掛ける。
剣で2度斬りつけると、奴も反撃を返してくるが跳んでやり過ごして更に空中から剣を振り下ろす。
しかし奴も両腕の針を交差させ、剣を受け止められそのまま弾き飛ばされる。
「やるな……」
受け身を取って構え直すと追撃の突進突きで迫ってくるが、剣を振りかぶってタイミングを計る。
「おらァ!」
掛け声と共に突き攻撃を叩き斬って返り討ちにして吹き飛ばす。
『KIッ!」
奴も負けじと両足の爪を地面に食い込ませて衝撃を殺し、跳躍して片腕を振り下ろし、体を一回転させつつ側面へ回り込んで剣を振るが、針で防がれる。
「ッ!」
奴の背の翼が肥大化して大きな翼になり、赤い羽根がこちらめがけて襲い掛かってくる。
後方へ飛び退きつつ剣で被弾しそうな羽根を斬り落とし、着地と共に剣を蹴り飛ばす。
奴も馬鹿じゃない。どうせ後隙を突こうと接近したらまた咆哮で吹き飛ばそうとしてくるに決まっている。だからこちらは遠距離攻撃をさせてもらう。
空を切りながら回転する剣は奴の体に突き刺さり、奴は地面に膝をつく。
その隙を逃さずに一気に接近して剣を掴み、即座に振り抜いてそのままアラガミを切り伏せる。横に倒れたアラガミはまだ僅かに動いており、再び剣を掲げて頭部に突き立てた。
アラガミは動かなくなり、俺は念のため頭部を真っ二つにしてエレナの元へ向かう。
「ユウ! 大丈夫……?」
「見ての通りさ。ありがとな、貸してくれて」
そう言って俺は武器をエレナに渡すと武器は光の粒になって消え去った。
本当に不思議な力だ。
無理やりAGEにされた頃からできるようになったらしく、それを見た看守達からボロボロになるまで利用されたのだろう。
身に着けた布切れが隠していない肌には痣や傷が見えており、看守の命令が遂行できなかったら殴られ蹴られ、鞭で打たれて体を傷つけられていたのだろう。
「ユウ、耳……」
「ん? ああ、大丈夫だ。大きい音をいきなり聞いてびっくりしているだけだ」
アラガミの咆哮をモロに食らったせいで耳鳴りが酷く、無意識に耳を弄ってしまっていたようだ。それがエレナに目には耳をやられて辛そうに見えるのかもしれない。
「しゃがんで。ん……」
エレナの指示通りしゃがみ込むと、俺の両耳を手で包み込んできた。耳が暖かくなるのを感じると耳鳴りが嘘のように消えて無くなり、違和感も無くなっている。
「ありがとな。エレナ」
「んん……」
頭を撫でようとしたら手を掴まれて、頬擦りされる。どうやらエレナは頭を撫でられるより頬を撫でて貰う方がお気に入りらしい。
「よし、気を取り直して地図探しするか」
「うん!」
「対抗適応型ゴッドイーター(Adaptive God Eater)」通称は『AGE』
普通の人間じゃ10分も持たない危険領域灰域の発生に伴い、造り出された新たなゴッドイーター。
従来のゴッドイーターと違い、灰域に対する強い耐性を有し長時間の潜行を可能らしい。
極めて高い感応能力および身体能力を持ち、よりアラガミに近い存在だとか。
確かに、AGEの気配はソーマとそっくりだ。
AGEには、灰域への潜行、探索、物資の回収、アラガミの討伐、といった危険な仕事が課せられるが、彼らに与えられる報酬は極めて少ない上に使い捨ての駒扱いをされているとか。
かつて日本に蔓延ったブラック企業が彷彿される。