Nameless Story 1人孤独に立ち向かわざるをえない者 作:ロイヤルかに玉
いざ近づいてみれば、とても巨大な施設だな……。
正直、組織の規模が予測できん。
目の前の建造物には歯車的な何かに囲まれている馬?のマークが描かれている旗が立っている。歯車に馬か……一体どう言った理由でシンボルにしたのか是非とも理由を聞いてみたい。
ペニーウォートの灰域踏破船も施設の入り口らしき場所に止まっている。
船を受け入れている、つまりあれはミナトか。
補給のためによったのか、他のミナトにエレナを売れば億はくだらないと連中の発言から考えるに、エレナを引き渡す先のミナトか……。
「相棒、エレナは何処にいる?」
神機が応えるようにCNSから触手を伸ばし、指し示したのは目の前の建造物やペニーウォートの船ではなく、地面だった。
ミナトは灰域の被害を防ぐために地下に建造されている。つまり、エレナは既に船ではなくこのミナトの中か。どうやらこのミナトがエレナを引き渡す相手らしい。
いや、考え事は後だ。とにかくエレナが居る筈だ。幸い神機がエレナの場所を示してくれるので侵入と脱出に専念すれば良いだろう。
ミナトに近づきながら侵入、救出、脱出を試行錯誤する。
戦略を考えると言うのは中々難しいものだ。リンドウさんやサクヤさん、タツミ、ユウナの凄さが良く分かる。
そういえば、いつも上官が言っていたな。
『戦略とは最悪な状況で尚且つ己の身一つしかない前提で企てろ』ってな。
確かに、いざ侵入すれば連中は俺の事を全力で潰しに来るだろうし、数だって奴らが上だ。
こちらは既に消耗状態でたった1人。
装備もこちらは装甲のない近接旧型神機。連中は新型神機だ。勿論装備は劣っている。
こちらは孤立無援だが奴らは数の暴力でごり押し、他には交代して補給をしながら徐々に追い詰めてくる作戦もあり得る。
何だろうな……さっきから頭の中である歌が響いているんだ。
「兵士は敵より少ないぞ~♪弾薬敵より足りてない~♪装備も敵より劣ってる~♪だーけど闘志は負けてない~♪」
あ、口に出ていた。ぶっちゃけ連中に勝っているものと言えば闘志ぐらいなもんだよな。
他にもいろいろなバリエーションの歌が頭を過るんだが……口にすればなんか、とてつもなく巨大な絶望に立ち向かっているような感覚に陥ってしまい何とも言えない気分になるのでもう考えるのはやめよう。
すぐ傍まで近づき、侵入経路がないか周囲を探る。
「おっ」
運よく大きな通気口を見つけた。幸い俺でも通れるぐらいの大きさだな。よし、後は鉄格子を神機でぶった切って中に侵入すればOKだ。
神機を構えて鉄格子を一閃して身を屈めて中に入る。
うわ、カビ臭。
「通気口から侵入するなんて漫画の世界だけだと思っていたぜ。まさか実際にやることになるとは……」
周囲には人の気配が腐るほどあり、それに交じって神機使いの気配、神機使いよりもアラガミに近いAGEの気配が入り乱れている。流石に数までは把握できない。
しかし、本当にソーマに似ている気配だなAGEってのは。待てよ、そう考えるとまさか五感も優れているわけではあるまい……。いや、最悪な状況を前提に考えろ。ソーマ並みに感覚の鋭い奴がゴロゴロいるならスニーキングする上では間違いなく最悪な状況だ。
なら、慎重に行動するだけだ。物音から呼吸に至るまですべてを最小限にな。
そうだ、俺はソーマに声を掛けるまで尾行しても気づかれなかったじゃないか、自分の感覚を信じろ!
そう、俺の感覚を信じる俺を信じろ!
(。´・ω・)ん? なんか色々と言葉がおかしいような……。
ま、日本語って難しいから仕方あるまい。だよな?
細心の注意を払いながら通気口を進み、廊下や部屋の様子を鉄格子越しに覗き、神機の示す方向へ向かうように進む。
しかしバカみたいに広い施設だな……。見たことのない機材がズラリと並んでいる。廊下通る人間の中には白衣を着て如何にも研究者ですよと言う格好をした奴らが忙しなく歩いており、当然銃を持った神機使いも2人1組、3人1組で哨戒しており通気口から出ようにも出れない。
暫く進むと広そうな部屋と思われる通気口に入ったようだ。鉄格子越しから中の様子を覗くとエレナと同じ年頃の子供が何十人も整列していた。
全員同じ黒い服を着ていて、両手首にはエレナと同じ腕輪とそれぞれの手には神機が握られている。
張りつめた空気だ。無表情で何も言わず、微動だにせず前だけを見ている子供たちの姿に言葉を失う。
「では基本の型からだ……始めっ!」
子どもたちの前に体格の良い男が現れ、彼もまた両手首に腕輪を嵌めていた。
男の一声で、子供たちが一斉に神機を振り始める。
列を崩さず決まった動きを繰り返す光景は俺も見慣れたものだ。だが、俺の知っている景色と違うものがあるとすれば得物を振るのは子供であるかどうかだ。
「貴様らは戦士だ。神を滅ぼすバランの剣……AGEだ。命令通りに行動し、ただバランに尽くせば良い。それが出来ない者に居場所はない。即刻処分されるものと覚悟しろ」
男から厳しい言葉が出ると、子供たちは無表情ではあるが恐怖を与えられたのか、より一層素振りに力が入る。
「次は組み手だ。互いに実力を競ってもらう。成績不振者には制裁が下される。心して掛かれ」
男が番号を呼ぶと返事と共に2人のAGEが前へ出て向かう合う。
ロングブレードとショートブレードを持ったAGEが互いに得物を構える。
「始めっ!」
男の号令と共に2人は掛け声を上げながら神機を振りかぶって激突する。
「やああああああ!」
「たあああああああ!」
ショートブレードを持つAGEが何度も打ち込み、ロングブレードを持つAGEは刀身を盾にして防ぎ、ショート使いが一瞬攻撃の手を緩めた瞬間にロング使いは得物を振って次の攻撃を弾いてショート使いの腹に蹴りを入れる。怯んだ隙に神機で殴りつけ、そして決着。
ヒエっ……やべぇ……。
子どもたちには全く躊躇がない。組手なら腐るほどやっているが殺すつもりでやったことなんて無いぞ……。
目の前の敵をただ倒すべしと洗脳されているとでも言うべきか。いや、洗脳じゃないか。
純真無垢な子供だからこそ何色にも染まる。こちらからすれば異常だが、あの子たちにとっては、アレが普通なのだろう。
それからしばらく組手が続いた。
「本日の訓練はこれまでだ。解散」
男の号令と共に、子供たちが訓練場から出ていく。
そうか、此処がバランか……。あのペニーウォートの男、エレナを売れば億はくだらないとか言っていたな。確かにエレナは特別だ、そりゃ何処の組織も喉から手が出るほど欲しがるだろう。
エレナ……。
このままじゃエレナが……あんなに優しい子に……鬼になれと言うのか……。どれだけ歴史を重ねても人は変わらないか……。俺たちが後世に託すために命を張って戦場を駆けたずっと先の未来がこの結果とはな……悲しくなってくる。
せめて、エレナだけでも……救い出さなければいけない。なあ戦友達よ、けじめを付けないといけないようだ。
もう後悔なんてたくさんだ……だから、力を貸してくれ。
訓練場から人の気配がしないことを確認すると、鉄格子を一閃して通気口から脱出して床に降り立つ。
「ふー体が痛ぇ……」
神機がエレナの居場所を教えてくれる。
扉を開いて廊下へ出るとあまり人の気配はしない。さて、エレナの居場所まで行くにはどうしても接敵するだろう。こういう時は変装が定番だな。そして、変装するなら手頃な奴をとっ捕まえて身ぐるみ剥いでトイレの用具入れに縛り付けて置くのが定石だ。
そんな訳でまずはWCを見つけよう。
気配から逃げるように廊下を小走りで駆けてトイレを探して駆けこんで用具入れに籠って誰かが来るのを待つ。
暫くすると足音が聞こえて息を潜める。
入ってきたのは小銃を持った神機使いだ。トイレの外には誰の気配もしないので丁度1人らしい。
よし、お前に決めたぞ。用具入れから顔を出して音をたてないようにゆっくり動く。
男が便器の前に立った瞬間飛びかかって背後から首に腕を回して締め付ける。
「フェンリルだ! 大人しくしろ!」
「何すんだおまっ――はなせこら!」
「1人に勝てるわけないだろう!」
「馬鹿野郎おまえ俺は勝つぞお前!」
随分と乗りの良いい見張りだが……。
「ちょっと眠ってろお前」
「あー放せコラ!」
「落ちろ!」
首を絞めつつ男の腹にパンチを入れると男は力なく項垂れた。
「落ちたな。縛らなきゃ」
男が羽織っているバランのシンボルが刺繍されている灰色のコートを脱がし、男のズボンを下ろしてそのまま男に巻き付ける。ついでに用具入れに入れてあったスポンジを口に突っ込んでベルトをテープ代わりに口に巻き付けて縛る。ついでに足に打撃を叩き込み、足の形を歪ませておく。これで立つのに時間がかかるだろう。
男から取り上げた帽子をかぶり、神機の先端をズボンに差して背中に背負い、その上からコートを纏って変装完了だ。
神機を隠したので後は帽子を深くかぶりつつトイレを出る。
懐に柔らかい感触を感じると、神機から伸びた触手が出てきてエレナの居場所を教えてくれる。
ここから更に下か……。なんか地図とかないのか、このミナトは。ぶっちゃけ迷宮みたいなもんだぜ。
エレベーターが発見できれば手当たり次第に階層を移動し、神機の反応を見るだけでエレナが居る階層を割り出せるのだが……。
怪しまれないように哨戒する振りをしつつエレベーターを探す。
忙しなく動いている奴が後をつけてみるか。忙しい奴ほどとにかく上や下へ行ったり来たりするものだろう。
*
中々忙しそうな奴が見つからない。
そう思いつつ、気を抜かずに哨戒の振りをしつつ施設内を探索していると目の前から見覚えのある男が歩いてきた。
先程、子供たちの訓練を仕切っていたAGEの男だ。随分厳つい顔をしている。
それに隙が無いな。見張りの神機使いなどは正直大したことは無いが、やはりどこの組織にもエースと言うのは存在するという訳か。
「…………」
「…………」
男と目を合わせないように横を素通りするが、後ろから聞こえていた足音が止み、男は歩くのをやめたと感じた。
これでこちらも立ち止まれば怪しまれる可能性がある。ここはそのままスルーだ。頼む、俺に声を掛けるなよ……おっさん。
願いつつそのまま歩く速度や歩き方は自然体を装い、男から離れた。
続きもすぐに投稿します。