Nameless Story 1人孤独に立ち向かわざるをえない者 作:ロイヤルかに玉
そして女主人公をキャラクリしたときにアクセサリで頑張って胸露出を再現しようと奮闘した思い出も蘇ってきた。
日が傾き始めた頃、ようやくエレナは泣き止んだ。まあ、泣き止んだと言っても、俺からくっついて離れようとしないが。
左手を痛いぐらいに掴まれて、決して離れようとしない。
ただ、黙ってこの痛みに耐えるしかないだろうな。この痛みは、エレナの心の痛みには遠く及ばない。しっかり受け止めてやらないとな。
「ユウ……怪我、治すね……」
エレナがそう言って俺の右頬に手を触れると頬が暖かくなる。ゴウから受けた傷を防ごうとしてくれているんだろう。
「エレナ、いいんだ」
エレナの手を握って頬から離す。
「でも……」
「せっかくエレナとお揃いになったんだ。2人でお揃いの方が良いだろう?」
「お揃い……うん!」
エレナの右頬にも横一文字の傷痕、丁度俺が先ほど負った傷は少し斜めだがほぼ横一文字だ。
女の子の顔に傷があって、自分が傷を治してもらうなんてできない。
それに顔の傷は相対した相手をビビらせたりするのに使える。
ましてやこれほど大きな傷だ。初対面なら激戦を潜ってきた猛者なのだと思わせることができるだろう。
「さて、バランとペニーウォートのクソ共もしつこいかも知れないからな。先を急ごう」
「うん。あ、ユウ」
立とうとしたらエレナに引き留められる。
「ん……」
エレナが頬に口づけをしてきた。
「はは、ありがとな」
エレナの頭を撫でて立ち上がり、しっかり抱き上げて再び駆けだした。
しかし、腕輪のビーコン反応ってのはどこまで反応するんだろうか……。とにかく遠くへ逃げ続けないとまたあいつらに追いつかれてしまう。
奴らだって馬鹿じゃない。またエレナが攫われたら今度こそ助け出せないかもしれん。ましてやバランに至っては大きな規模だ。ゴウと言ったか、あの男ほどの奴がゴロゴロいるかもしれん。流石にあんなのを数人も一度に相手はできん。
エレナの腕輪は物理的に切り放したから、拘束されることが無くなった。いざと言うときは俺が時間を稼いでいるうちにエレナを逃がすことも視野に入れる必要があるか……。
この世界の神機使いのレベルは分からんが、先程バランを脱出する際にエレナが威圧して奴らの動きを止めた。
そもそも考えればAGEが神機使いより身体能力が高いと言ってもガキを態々拘束する必要なんてあるのかと言う話だ。AGEが従来の神機使いより高い身体能力があると言っても所詮は子供だろう。成人すればそりゃ拘束する必要はあるが、子供にも腕輪による拘束を施す時点でいくら子供でも野放しにすれば危険だと知っているからでは……?
この予想が当たっているなら、それ程AGEの力は大きいと言う事だ。それならエレナ1人でも余程のことがない限りは返り討ちにできるだろう。
しかし、エレナを見れば不安そうな顔でしがみついている。
不安そうな表情で考えを改めた。
どんなに身体が強くても、心が弱ければ意味がない。
そうだ、俺が今この子の唯一の味方なんだ。そんな俺が護らなければいけない子に期待をしてどうする。
荒れた大地を駆け抜けると、荒廃した街が見えた。
街に入ると、周囲にはアラガミの気配がそれなりに感じられるが、気配の大きさから小型ばかりのようだ。この規模の街なら容易に撒くことができるだろう。
暫く街を探索して使えそうなものがないか探すか。
しかし辺りの建物は屋根が壊れ、壁は崩れて中を覗くと荒らされた形跡があるものばかりだ。
まだ屋根が残り、壁もあまり崩れていない建物を探すが中々見つからない。
エレナも辺りを見回しながら探してくれるが、そもそも俺より目の良いエレナが見つけられないなら俺にだって見つけられない。
暫く歩くと古い血痕を見つけた。
それなりに時間がたっているようだな。誰かが此処を通ったが、アラガミに襲われたか……それとも敵対している人間にやられたか……。
何もアラガミだけが敵じゃない。事実元の世界でもアラガミを信仰する宗教団体が一般人を拉致してアラガミに生贄と称して喰わせるなどと言ったことが起きている。宗教云々は信仰の自由なので別に煩く言わないが何の罪もない人間を拉致して喰わせるだなんて完全に狂ってるな。
そこまでアラガミを崇拝しているなら自分たちから生贄を出せばいいだろうに、無関係の人間拉致する時点でただの悪党だ。否、悪党の風上にも置けん。
まあ頭の可笑しい奴に絡まれても困るからさっさと移動するか。
バランやペニーウォートが追ってきている可能性もある。寄り道していると追いつかれる。
街の端を目指しつつ探索しよう。目ぼしいところが無ければそのまま街を発って東へ進もう。
エレナをしっかり抱き上げて歩を早めた。
「川か……」
目ぼしい建物は見つからなかったが、川を見つけた。
人は定住する地を見つけるときはまず川を探すと聞いたような覚えがある。
丁度東へ向かっている川だな。この川を辿れば人の住む場所にたどり着けるのではないか……。
少し根拠に欠けるが、何も考えなしに進むよりはマシだろう。
川を辿っていくと市街地を抜けて再び破壊された道路や食い荒らされた大地に出た。
夜は極力動きたくないので、日のあるうちに進まなければいけない。
ただでさえこちらは徒歩、奴らは灰域踏破船があるので追いつかれるのは時間の問題だ。ひたすらビーコン反応の届かない範囲外まで移動して、奴らの追跡を撒かなくてはいけない。夜になっても奴らは進めるがこちらは迂闊に動けない上に、一度距離を迫られたら追跡を撒くのが一気に困難になるだろう。
バランの設備を見るところ、ハイテク技術を使っているのは一目瞭然だ。腕輪のビーコン反応を辿るレーダーの性能も高いと踏んでおくのが妥当だろう。
「エレナ、しっかり掴まってろよ?」
「うん……」
エレナがしっかり体に抱き着き、それを確認して再び駆ける。
地割れが起き、一般人では越えるだけで一苦労する道のりを一足飛びに越えていくと、大きな渓谷が見えた。
「おいおい、また渓谷かよ」
渓谷には正直良い思い出が無いんだがな……。しかし、川が向かっている以上は入るしかないか……。
だが、先日の渓谷よりも遥かに大きいようだ。これならアラガミを撒きつつ抜ける事もできるかもしれん。いざと言うときは川に飛び込んで流れに身を任せる手もある。
水の中にグボロが居たら……。いや、何とかしよう。水中でもグボロを返り討ちにできるぐらいじゃ無いと神機使いは務まらんだろう。
即決で渓谷へ入っていき、隆起した段差を跳び越え、不安定な足場を素早く駆け抜けてひたすら川を辿っていく。
足早に駆けていくと遥か前方に青い光が落ちて砂埃を巻き上げた。
「くッ!?」
エレナを砂埃から庇いつつ、少しだけ目を開いて光が落ちた場所を見れば、人影のようなものが剣らしき物を両手に構え、青い炎が人影を包んだ。
「ッ……! エレナ、下がっていろ」
「え、ユウ?」
エレナを急いで降ろし、対アラガミ用ナイフを抜いて構える。
その直後に、轟音と共にそれは一気に迫ってきた。
砂埃を切り裂きながら斬撃が襲い掛かってきた。
影の正体は人なんかではなく、アラガミだった。下半身から青い炎を噴き、そして女性の様な上半身。だが、真っ先に視界に映るのは両腕とも言える刃。腕刃とでも呼ぶべきか。
その腕刃が今目の前まで迫ってきている。
ナイフを構えて迫る腕刃を受け止めるが、下半身――ブースト機構から青い炎を噴出して高い推進力を加えた攻撃に耐えきれる筈も無く、そのまま弾かれて吹き飛ばされる。
「クッ!?」
「ユウッ!」
エレナの声に応え、受け身を取って立ち上がり、大した傷は追っていないとアピールする。
しかし、エレナの声に反応してアラガミは両の腕刃をエレナへ向けて構えた。
青い稲妻がバチバチと音を立てながら、両腕の刃に集中する。
「野郎ッ!」
俺がエレナの元へ駆け出し、エレナまであと数歩という所でアラガミは青いレーザーを放つ。
「ぁ……」
迫るレーザーを前に身を強張らせるエレナへ、地面を思い切り蹴って一気に駆ける。
レーザーがエレナを飲み込む前に、押し倒して何とか2人揃って危機を脱する。
安堵せず、すぐに立ち上がってエレナを抱き上げてその場から跳び退く。
俺が宙へ跳んだ直後に、アラガミも空中まで後を追ってきて腕刃を振り抜いてきた。
身体を捻って斬撃を躱し、アラガミを踏みつけて高く跳び、距離を取る。
「ユウ!」
エレナが俺の手を握ると光の粒が集まり、俺の手にはオラクルの剣が握られている。
「ありがとな。よし、あの野郎ぶっ潰してくる。待っててくれ」
「うんッ! 頑張って!」
エレナを降ろし、俺は剣を構えて一気にアラガミとの距離を詰めて剣を振る。
斬撃は腕刃に受け止められるが、今度はこちらがそのまま押し返して追撃を仕掛ける。
『ッ!』
アラガミの下半身から青い炎が吹き出し、追撃を受け流して流れるよう俺の背後へ回り込んできた。
振りかえると既に腕刃が振られ、その刃はすぐ目の前まで迫ってくる。
剣を逆手に持って剣の腹をアラガミに向けて構え、片方の手で裏側から剣を押さえる。
腕刃が剣に触れる直前に、勢いよく体を捻りつつ片方の手で剣を押す。
「甘いッ!」
剣の腹で攻撃を受け止めつつ払い退け、そのまま先程とは逆に体を捻って剣でアラガミを斬りつけてブースターに大きな傷を入れる。
剣を順手に持ち替えて攻撃を仕掛けるが、アラガミも素早く身を退いてやり過ごし、腕刃を交互に振りつつ距離を詰めてくる。
後退しつつ、一つ一つ斬撃を回避して反撃を繰り出すも容易く弾き返されてしまう。
アラガミが両腕刃を交差させて振り抜き、咄嗟に防御するもあまりの衝撃に耐えきれず押し返され、隙を突くように腕刃を構えて突進を仕掛けてきた。
横へ跳んで突進を躱すも方向転換をして再び突進を繰り出してくる。
ジャンプしてやり過ごすと共に真上から頭部目掛けて攻撃するが、もう片方の腕刃を盾にして防がれた。
「ちぃッ!」
アラガミが再び向かってくるが、剣を構えてすれ違いざまに攻撃しようとタイミングを計る。
『COOOOOッ!!』
生物とは思えない雄たけびを上げてアラガミは空中へ跳び、そのまま俺目掛けて腕刃を振りかぶって空中から急襲を仕掛けてきた。
斬撃を紙一重で躱して腹目掛けて剣を突き刺す。
『CAAAAAAAAAっ!?』
咆哮と共に腕刃が青い電撃を纏った。
「何ッ!?」
不意に出された回転切りを咄嗟に剣で防御するが、衝撃までは完全に防げず態勢を崩して地面に膝を付く。
「ユウ! まだ来る!」
エレナの声が響くが、崩された態勢を立て直した頃にはアラガミは宙へ跳び、両腕刃を地面に叩きつけた。
地面へ両腕刃を叩きつけられるとアラガミの周囲には青い電撃が拡散し、俺は電撃に飲み込まれる。
「グァ……! ッ……!」
全身に焼けるような痛み、電気で体が痺れて震える。
「ユウ、逃げてッ!」
エレナの悲鳴が耳に届くが、体は青い電気を帯びて思うように動けない。痙攣するように震える体、目の前には腕刃を構えてこちらを見るアラガミ。
くそっ、動けッ!
痺れて自由が効かない。
奴が構えると、それはまるで居合抜きの構えだった。
あれを食らえば真っ二つは免れないぞ!
アラガミの下半身が青い炎を吐いた。
修正前のハバキリってこいつ出るゲーム間違えてんじゃねえの?と思うぐらい苦戦した。