Nameless Story 1人孤独に立ち向かわざるをえない者 作:ロイヤルかに玉
アラガミが凄まじい速さで迫り、既に腕刃は振り抜かれている。
「お願いッ! 負けないでッ!」
エレナの声が聞こえた瞬間、体が光に包まれて体に自由が戻った。迫ってきたアラガミに対して咄嗟に左手を構えると左手に何処からともなくオラクルが集い、左手はオラクルに包まれた。
「……ッ!」
左手を包み込んだオラクルはアラガミの腕刃を防ぎ、咄嗟に腕刃を握り込む。
体の周囲は光の輪が囲み、力が漲ってくる。
「ッ! 邪魔だぁ!」
そのままアラガミを投げ飛ばして、周囲を見るとエレナも俺と同じように光の輪に囲まれており、俺を囲む輪とエレナを囲む輪は光の糸のようなもので結ばれていた。
なんだこれは……。この光の輪は一体……これもエレナが……?
「痛ッ!」
突然頭痛が走り、目の前には殺風景な景色ではなく、優しそうな壮年の女性にエレナと同じ年頃の子供たちが見えた。女性は優しい笑みでこちらへ手を差し出していた。
視界が元に戻り、アラガミが不意打ちを繰り出してきたが、剣で受け止める。
あれ程重かった攻撃が、今では嘘のように軽い。
左手を包んでいるオラクルは徐々にだが棒状に形を変えて先端は尖がり、槍になった。
「……ッ!」
咄嗟に槍を薙いでアラガミの頭部に叩き込んでアラガミを吹き飛ばし、左手に槍と右手に剣を持って構える。
「へっ、懐かしいな……!上官の真似事だが……。いいぜ、やってやる」
槍と剣を自在に扱うかつての上官の後ろ姿を思い出し、懐かしさから軽く笑う。
上官と刀で打ち合いをし、やっとの思いで上官に一撃を入れることができた時、上官は何処からともなく槍を取り出して刀と槍を同時に構え、こう叫んだ。
「滾ってきたわァ! 行くぞォ!」
地面を蹴って接近する。
『AAAAAAAッ!?』
表現できない悲鳴を上げ、がむしゃらにこちらへ腕刃を振る。
剣と槍を交互に使って矢継ぎ早に攻撃を凌ぎ、体を一回転させつつ側面へ回り込んで剣を横に薙ぎ、アラガミの下半身に斬撃を打ち込んで態勢を崩す。
そして踏み込みつつ槍で頭部を狙って突くが腕刃で顔を覆って守るが、槍の切っ先が刃を貫いて腕刃は砕け散り、アラガミが悲鳴を上げる。
ヤケクソに繰り出してきた突き攻撃をこちらも剣の突きで受けとめ、隻腕になった奴へ槍を突き出すがアラガミも後退するも、切っ先が僅かに胴体を掠めた。
アラガミが大きく距離を取って腕刃に電撃を纏ってその場で振ると、雷の刃が飛ぶ。
回避し、接近しようと駆けるが奴は近寄らせまいとひたすら腕刃を振って雷の刃を飛ばしてくる。
次々と迫る電撃の刃を躱しつつ徐々に近づくが、槍を持っているためあまり身軽に動けない。
迫る雷刃を躱し、即座に剣を次の雷刃へ投げつけて相殺。更に一気に剣まで跳び、アラガミ目掛けて蹴り飛ばして後を追って駆け出す。
回転しながら空を切って飛ぶ剣は次々と雷刃を掻き消しながらアラガミへ迫るが、アラガミも腕刃を振って剣を弾き飛ばす。
宙で舞う剣を左手でキャッチして右手に持ち替えた槍をアラガミの脳天へ振り下ろす。
「槍ってのはこう使うんだオラぁ!」
穂先がアラガミの頭部の一部だけを叩き潰し、致命傷を与えた。
『AAAAAAッ!? AAAAAAッ!』
それでも後ろへ下がりつつ、腕刃を構えて振り抜こうと構えるのを見て、こちらも槍を地面へ突き刺して剣を左腰に添えて居合の構えを取る。
アラガミが青い炎を噴きだすと共に腕刃を振り抜き、こちらも駆けだして剣を振る。
アラガミの腕刃は俺の頭上を通って空を切り、こちらの居合はアラガミの胴体を一閃、直後に返す刀でもう一閃して十文字に斬りつけた。
十字の傷から血が噴き出し、その巨体は地面へ崩れ落ちた。
槍で頭部の一部を叩き潰して視覚を奪っておいて正解だった。
俺を囲んでいた光の輪も消え、剣と槍も消滅する。エレナの元へ行こうと振り向くとエレナがすぐそこまで走ってきており、抱き着いてきた。
「っと。心配かけたな」
「ッ……ユウ……ユウぅ……!」
胸に顔を擦り付けて泣きじゃくり、抱き上げてあやす事しか出来ない。
「よしよし、大丈夫だ。な? 泣き顔より笑顔の方が似合ってるぜ?」
先程から何とか泣きやませようとあやしているのだが、一向に泣きやむ気配が無い。
ずっと胸に顔を埋めて嗚咽しており、良い方法が無いものか頭を抱える。
「だって……だって……銃持った人たちが、皆でユウを撃って……。痛いのに、ユウはやり返しに行ってまた撃たれて……そしたらユウがぁ…………」
この言葉を聞いてはっとした。
さっき見えたおばさんや子供たちは……間違いなく、エレナの記憶。そして俺と繋がっていたエレナは俺の記憶を……。
まずいな、流石に子供には刺激が強すぎる。おまけにエレナはペニーウォートやバランでのことで大人に対して恐怖心を抱いている。大人たちに銃を向けられる光景なんてトラウマを呼び起こすような物だろう。
「なに、昔の記憶さ。現にこうして元気にピンピンしてる」
背中を優しく叩く。しばらくすれば、エレナも泣きやんだので地面へ降ろす。
「さ、こんな事がまた起こらないとは限らない。行こう」
手を差しだすと、エレナは一回涙を拭って俺の手を取る。
胸に抱き寄せてすぐ後ろをついて行くように歩き出した。
「歩きづらくね?」
「これがいい」
「そうか」
*
後ろのエレナの様子を見ながら歩く。顔を俯かせているが、何だか顔を赤くさせている気がする。熱でもあるのではないかと思い、注意深く見てみるが呼吸などは乱れていない。
ただ泣いて腫れた顔を見られたくないだけかもしれん。
「ユウ、暮らせる場所が見つかったら……お別れ……なの?」
「そうだな……エレナを連れて行くのは人間としては正しいかもしれんが、この世の中じゃ違法だからな。もう指名手配されているだろうし、人のいる場所では生きていけないだろう。偏食因子も接種できなくて終わりだな」
死ぬのは分かっているさ。だが、この子のためなら命だって惜しくはない。
まだ携行型偏食因子のストックはある。1つ使えば数週間はもつ。まだ猶予はあるだろうが、俺を灰域から守ってくれている戦友たちの加護があとどれ程持つのか……。
仮に灰域を脱することができても結局アラガミ化して終わりか。
アラガミ化すると喰らう本能に支配されてしまうって座学で習ったが、実際どんなものなのか分からない。
そう易々と本能に振り回されるつもりなど毛頭ないが、エレナに危険が及ぶのは容易に想像できる。となれば……そうなる前に自害するしかないという訳か……。
やっぱ死ぬのって怖えなぁ……。
「もし、だよ? もし、ユウも偏食因子を打たなくても大丈夫になったら……ユウが悪い人って言われなくなったら……一緒に居てくれる?」
「そうだな。そんな奇跡が起こったなら、エレナが嫌だって言うまで一緒に居るさ」
「嫌じゃないよ。ユウ、大丈夫になったら……私を――」
最後の方が上手く、聞き取れなかった。もう1度聞こうと思ってエレナを見ると、顔を真っ赤にして俺の腕を両腕で抱きしめた。
子どもとは言え、流石ゴッドイーター。腕が痛い。
だが子供には反抗期という避けられぬ時が来る。俺もきっと臭いとかキモイとか言われるのだろう……。
やっべ、それもそれで鬱になりそう。いや、そうなる前にあの世へ逝けるなら、ある意味運がいいかもしれん。
「エレナ? ちょっと腕が痛い……。そのまま強く締めたら折れるんだが……」
「嫌、ずっと離さない」
仕方ない。しばらく我慢するか。
腕の痛みに耐えつつ、歩いていれば渓谷の下流域辺りに到達した。
既に荒廃しているが集落も発見した。
まだ屋根も壁も残っている建物が幾つもあり、中を覗いてみれば埃まみれで薄汚いが布などが床に落ちている。寒さも凌げそうだし、願ったり叶ったりだ。
日が暮れて暗くなっているので、今日はここで夜を明かそう。
しかし、今日は久々の激戦だった。バランに攻め入り、エレナを救い出し、剣を持ったクソみてぇなアラガミの襲撃と……波乱万丈の一日だった。
正直かなり疲れた。ゴウとの戦いで久しぶりに本気を出したせいか、疲れがどっと襲って来る。
廃墟に入り、散乱した物を片付けて壁を背に座り込む。
エレナもぴったりとくっついて座っている。さっきの事が余程堪えたのだろう。
本当はこんなことがあったなんてしゃべらずに黙ってあの世までもっていくつもりだったが……。
「エレナ、腹減ったろ?」
エレナに布を羽織らせて腰のポーチを探る。
「ううん。今日はずっと傍に居たいから、いい」
「そ、そうか……」
壁に背を預けたまま、欠伸をする。
エレナが左手を離し、そのまま胡坐の上に跨ってきた。
震える手でシャツを掴んでいる。
「どうしたんだ?」
「ねえユウ、どうしても欲しいものがあって、それが誰かに取られそうになったらどうする?」
なんだ心理テストか?
うーむ、ぶっちゃけ無欲な事で近所じゃ評判だった故に中々想像できんな……。
「私は……取られる前に自分のモノにする」
そう言って両肩に手を乗せて体を寄せてくる。
「え、エレナ……?」
急にエレナの纏う雰囲気が変わり、顔を覗き込んだ瞬間――
「だから、ごめんね。ユウ」
「え――」
唐突な謝罪をされたと思えば、いきなり首に歯を立てられて大した力で噛まれていないのにも関わらず、切られたような痛みが走った。
何とかエレナを押しのけようと軽い力でゆっくりとエレナの肩を押すが、両手首をがっしり掴まれて壁に押さえつけられる。
傷口から血を啜られ、それが終わると傷を舌で撫でてきた。何かを塗り込むように撫でられると、体が危険を訴える。
体内に良くないものが入り込んできた。これ以上はまずいと。しかし、体が言う事を聞かずなんの抵抗もできない。
「エレ……な……」
名前を呼ぶも意識が遠のき、そのまま意識を保てず目を閉じた。
今回ちょっと短いからお詫びに次回はちょっとえっちぃ感じにするんでお兄さん許して。
あ、ホモじゃないよ? 当たり前だよなぁ?