Nameless Story 1人孤独に立ち向かわざるをえない者   作:ロイヤルかに玉

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実際どんな味なんだろうか、初恋ジュース


イ゛ェアアアアッ!!!!!!!!

「お疲れ、ユウ」

 

「ああ、助けられたなコウタ。ありがとよ」

 

「へっ、いいって事よ!」

 

 自販機でジュースを買ってコウタと共に一息つきながら新人区画の休憩所で休む。

 

「あ、そう言えばユウって昇格したんだろ? なんか祝いにちょっとパーティーでもしようぜ? 今まで忙しかったから全然提案できなかったけどさ」

 

 コウタの提案に驚いたが、今でも十分忙しいから無理だと思うんだが……。それに俺も補給を終えたらすぐにハンニバルの追跡に出ないといけないからそんな暇もないんだが……。

 

「悪いが、すぐにハンニバルの追跡に出ねえといけないんだ」

 

「マジで? 変わってもらうとかってできないのか?」

 

「適任が俺だけだからな……。それに雨宮教官には逆らえん」

 

「まあ、それは分かる気がする。仕方ないか。またの機会だな。あ、そうだ。プリン味のレーションでも持って行けよ」

 

「お前さり気無く俺にとんでもない食い物を押し付けようとするんじゃない」

 

「冗談だよ冗談」

 

 エントランスに戻ろうとする前に空き缶をゴミ箱へ捨て、ふと自販機を見れば何やら見慣れないジュースが目に留まった。

 

 

「初恋ジュース? なんだ新作か?」

 

「ああ。しばらくアナグラを空けてたからユウは知らないか。榊博士が構想に十年もの歳月を費やし、断水と節電の協力を呼びかけて、遂に完成させた究極の嗜好品だ」

 

「ちょっと待て。博士が作ったのかこれ?」

 

 正直とても嫌な予感しかしないのだが……。それに構想に十年ってどういう事よ……。

 博士、これ才能の無駄遣いじゃないのか? 

 あんた、こんなもんに十年かけてどうするんだよ。もっとアラガミとの戦いで役に立つもん作れたんじゃねえのか?

 大体何だよ初恋って。熟れた時期なんざとっくに過ぎて発酵してるだろ、年齢的な意味で。 

 

「と、とりあえず後で飲んでみるか」

 

 財布からfcを取りだして自販機へ投入して初恋ジュースを選ぶ。

 

「え、マジで飲むの? 色んな奴騙して飲ませた俺が言うのもアレだけど、ぶっちゃけお勧めしないぞそれ」

 

「まあ、リッカが冷やしカレードリンクなんて好んで飲んでるんだからもしかしたら行けるかもしれないぞ?」

 

「あ……ああ、そうかもな……。じゃ、俺も行くわ。次の任務、気を付けてな」

 

 

 コウタと別れ、エントランスに戻っていつものソファーで寛ぐ。

 どれ早速飲んでみようではないか。

 

 初恋ジュースの蓋を開けて、匂いを嗅いでみたが特に変な匂いはしない。

 

 

「あら、ユウ。お疲れ様」

 

「ユウ。お疲れ……あっ」

 

 丁度口をつけたと同時にサクヤさんとユウナが来た。

 ユウナがやってしまったかと言わんばかりの反応が気になった途端、口の中が阿鼻叫喚の渦に叩きこまれた。

 

 

「イ゛ェアアアアッ!!!!!!!!」

 

 

 声にならない悲鳴を上げて、一瞬宙へ浮かぶ感じがした後に床に倒れた。眼が勝手に見開き、体の痙攣が止まらない。

 

 な、なんだ……! 何が……起こった……? 

 

 何かサクヤさんとユウナが必死に呼びかけているような気がするんだが、声どころかいつもエントランスを賑やかにしている人の話し声や足音、モニターの映像の音など雑音すら聞こえない。

 体中のあらゆる器官が俺の生命を維持しようと奮闘しているが、心臓がバクバク鳴り、何かが喉を登ってきて、口まで到達すると、血と共に透明な液体が零れてきた。

 

 

 ああ、なんてことだ。これもう助からねえわ。

 マジかよ、こんな事で死ぬとか未練しかないんだが……。

 

 俺は意識が遠くなり、眼を閉じた。

 

 

 

 

「…………?」

 

 目を開くとそこは医務室の天井だった。

 

「あら、目が覚めた? はい、水よ」

 

 サクヤさんがコップに水を注いで渡してくれた。

 

「ああ、すみません」

 

 俺、どうしたんだっけ……? なんで医務室に居るんだ?

 水を飲みながら記憶を辿ってみる。

 

 確か地下街でハンニバルと交戦に入ってひたすら攻撃を躱していた筈なんだが……そこから先が思い出せない。サクヤさんに聞いてみるか。

 

「あの、サクヤさん。俺、地下街でハンニバルと戦っていたんですけど一体何が起こったんですか……? 全く思い出せないんですが……」

 

 なんかサクヤさんが驚いたような顔しているんだが……。

 

「ユウ、もしかして……。思い出せない?」

 

「? ええ、全く」

 

 

 う~む、横から他のアラガミの攻撃でも貰ったのだろうか……。でもあの時は周囲には他の気配は……。

 

 

「まずいわね、あのジュース。アレルギーかしら? 軽く記憶障害までも引き起こすなんて……」

 

「え? 記憶障害?」

 

「ああ、なんでもないのよ。ハンニバルは無事第一部隊で討伐してコアを回収、一度帰投したのよ」

 

 サクヤさんから説明を受けてそれでとりあえず納得した。やっぱり横やりを貰って気絶したのだろう。もしかしたら俺が気づけなかっただけかもしれん。俺もまだまだ、か……。

 

 扉が開き、誰かと思えばソーマが入ってきた。

 

「ああ、起きたか」

 

「なんだ見舞いにでも来たのか? 大した怪我はしてねえぞ?」

 

「何の話だ?」

 

「ちょっと、ソーマ」

 

 サクヤさんがソーマの肩を掴み、二人でなにやらコソコソと話している。

 俺は耳が良いのでこれくらいの距離なら聞こえるのだが……なんか耳の調子が悪いな……。

 もしかして歳か……?

 それともあれか? 突発性難聴的なやつか? 参ったな。補聴器買う金なんて持ち合わせていないのだが……。

 

 

 

「冗談だろ?」

 

「本当よ」

 

 ソーマが信じられないと言わんばかりに言ったんだが、サクヤさんは事実だと言う。一体何の話をしているんだ……?

 

 話が終わったらしく、二人がこちらを向く。

 

「いや、てっきり傷を負ったと思ってな。何ともないならそれでいい。じゃあな」

 

 ソーマは医務室を出て行った。

 

「ふふ、本当に丸くなったわね」

 

 サクヤさんが微笑みながら言うと、俺もそれに同意した。

 

「さ、私も行かなきゃ。折角だからゆっくり休みなさい? それじゃ」

 

 そう言ってサクヤさんも医務室を出て行き、俺は一人天井と睨めっこした。

 天井のシミの数でも数えるか。

 

 

 

 

 13……14……。

 

 天井のシミの数を数えるのを18ループ程したあたりで医務室のドアがノックされた。

 

 

「入ってどうぞ」

 

 

「よ、ユウ。元気そうだな」

 

「見舞いに来たわ」

 

「「失礼します!」」

 

 

 タツミとジーナ、そして見覚えのない男女が入ってきた。

 

「ああ。タツミ、ジーナ。っと、その2人は?」

 

「ああ、先日防衛班に配属された新人だ」

 

「2人とも新型なの」

 

 

 ああ、そういや新人が来るとかそんな話があったか。

 悲しいなぁ……こんなアラガミパラダイスに配属とは……悲しいなぁ……ああ、悲しいなぁ……。

 まあでも極東で経験を積めば何処の支部に転属しても通用するから決して運が悪いとは言う訳でもあるまい。

 成程、良い面構えだ。こりゃ良い神機使いになるぜ。

 女の方はちょっと恰好がアレだが……下手すりゃパンチラを拝んでしまうかもしれん。

 男の方は……何事もそつなくこなすタイプだな。将来有望だ。でもなんか存在感が薄そうだな。大抵の奴が名前を忘れてしまうかもしれんが、そういう奴ほど陰で人知れずデカい事をしているのだ。もし、こういう奴が敵に居たら厄介極まりない。

 

「初めまして! 第2部隊所属、アネット・ケーニッヒと申します!」

 

「同じく、第3部隊所属、フェデリコ・カルーゾです!」

 

「ユウだ、よろしくな。緊張しなくていい、気楽にしてくれ」

 

 元気の良い2人だ。俺も半年前はこんな感じだったか……。んでタツミに『そう緊張するな、気楽にな?』っと言われたか。

 

「俺なんかすぐに追い越して、良い神機使いになってくれ」

 

「あら、先輩としてちょっと情けないんじゃない?」

 

 ジーナにツッコみを入れられるが神機ぶっ壊した時点で神機使いとしては3流以下だし、これからも見込みは無い。

 

「おいおいジーナ、神機ぶっ壊したバカに教えられることなんて何があるんだ?」

 

 肩を竦めながら、ジーナに問う。

 

「ま、こんな事言ってるけど神機無しでもアラガミと一戦繰り広げる中々肝の据わった奴だ。立ち回りだとかは詳しいだろうから色々聞いてみろよ」

 

「「はい!」」

 

「さて、療養中だしあんまりうるさくしちゃ迷惑ね。今日の所は退散するわ」

 

「じゃあな、ユウ」

 

「「失礼します!」」

 

 

 4人を見送り、天井のシミを数える作業に戻る。

 

 

 

 

 

 

「っ…………!」

 

 体中に痛みが走り、胸が苦しくなり呼吸も荒くなる。

 またこれだ……この状態に陥る頻度が増えてきた。そしてこの状態になる度、徐々に苦しさの度合いは大きくなってきている。

 任務や仕事中にこの症状が出ないのが唯一の救いだ。一度ハンニバルの長期偵察任務前に診察してもらったが特に異常はなしだ。

 

 徐々に痛みが引いていき、解放される。

 

「ふぅ……」

 

 

 

 一睡しようかと思って横になろうとした時、ノックがされた。

 

 

「どうぞ~」

 

 するとユウナが医務室に入ってきた。今日は客が多いな……。

 

「具合はどう?」

 

 ユウナが椅子に腰を掛けて聞いてきたので、大丈夫だと返答する。

 

「あ、そうだ。あの集落の事だけど、今は第1部隊で分担してアラガミの木に偏食因子を打ってるから安心してね?」

 

「マジか。悪いな、只でさえ忙しいのにこんな事任せて」

 

「いいの、気にしないで。榊博士も偏食因子の持ち出しを特権で許可してくれたからリンドウさんやユウがやっていた程大変じゃないよ」

 

 マジで? ってことは博士に正直に話したら別に横領する必要は無かったんじゃ……。

 あちゃー、無駄に遠回りしてたか……。でも、これで良かったのだろう。

 

 安心していたら、ユウナは俺と違って不安な表情をしていた。

 どうしたのかと聞こうとしたら、ユウナが先に口を開いた。

 

「ユウ、聞きたいことがあるの。大丈夫?」

 

「ん? ああ」

 

 

「アーク計画の直前…………MIAの時、何がったの?」

 

「…………まあ色々とな……」

 

 察しが良いのか、よく気付くなユウナよ。

 

「肩の傷を手当てした時、声が聞こえてきたんだ。女の子の声。とても寂しそうに『行かないで。一緒に居てよ』って」

 

「声か…………」

 

エレナ……。

 いつも脳裏に過ってくる。正直、帰ってきてからあまり心の底から笑ったり楽しいと思えたことは無い。ただあの子が達者に暮らしているか、気になってしまう。あの走馬灯のようなもの……紫色の炎を纏ったアラガミと対峙していた神機使いがエレナの未来の姿ならば……少なくてもあの歳までは元気に過ごせたのだろう。

 

 

「そうか…………話せば長くなるから割愛するが、ちょいと知り合ってな。助けられもしたし、随分懐かれた」

 

「その子、ユウの事が大好きなんだろうね。ユウ、MIAになる前と随分変わったよ」

 

「そうか?」

 

「うん。なんだか、凄く大人びてる。それに、よく心配事をするような顔をしてるよ」

 

 大人びたか……。確かに、エレナと過ごすうちに変わったかもしれん。はは……笑えないな、あの子の事を妹のように、娘のように思っていたのに助けられたどころか、育てられていたのは俺の方か。

 

「ユウ、その子と一緒に居てあげて。協力できることがあるなら私も尽力するから、その子の傍に居てあげて」

 

「もう、無理なんだ」

 

「どうして?」

 

「MIAになる前、声が聞こえた気がした云々って言ったろ?その子の声だった。でも、もう声は聞こえない。それにな、体にもガタが来ているんだ。自分の身の事は自分が一番分かる。あまり長くはないだろう」

 

「そんな……! それなら猶更……!」

 

「おいおい、男が苦しんで悶えている無様を晒せってか? あの子にとって俺はヒーローなんだよ。ヒーローがそんな醜態見せる訳にもいかないし、俺も見られたくない」

 

「でも……! もうその子には……ユウしか居ないんだよ?声から分かるよ、同じ女子だもん。女の子なら、好きな男の子と最期まで一緒に居たいって思う筈だよ」 

 

 

「参ったなぁ……。…………ユウナ」

 

 軽く笑い、俺はすぐに真剣な顔をしてユウナの方を向いて呼ぶ。

 

 

「もしその子に会ったら、俺の代わりに支えてやってくれ」

 

「…………男の人って、ホントに自分勝手なんだから……。分かったよ、その子の名前、聞かせて」

 

「エレナだ、灰色の髪の毛に金色の瞳。すぐに分かる」

 

「了解、任せて。でも、ユウも約束して?最後まで諦めないって。生きる事から逃げないって」

 

 またその言葉か、本来ならとっくに死んでいる筈の俺にはちと重い言葉である事この上ない。腐っても軍人であるが、流石にその命令は守れない。『死んでも戦え』位の命令なら化けて出てきてとことん戦ってるところだが……。『生きる事から逃げるな』なんて少なくても俺が経験した中で一番果たすのが難しい約束であるぞ。

 

「ああ、約束しよう」

 

 多分無理だ、だが……やるだけやらないとな。エレナとの約束も破っちまった上に更に約束破るなんて……エレナに怒られちまう。

 

 

 

 




これは投稿直前の出来事です。



PC「ほら見ろよ見ろよ」(唐突なブルースクリーン)

俺「アアアァァァァァァッ⁉」


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