Nameless Story 1人孤独に立ち向かわざるをえない者 作:ロイヤルかに玉
「はあ~やれやれ、ビールが飲みてぇなァ……」
「まだ日は高いですよ。そんな自堕落な事してたらサクヤさんや雨宮教官に怒られますよ?」
気だるそうにリンドウさんが煙草を吸いながら隣を歩く。アラガミの襲撃があったので被害状況を確認している。集落の中心にまではアラガミは攻めてこなかったようで、破壊された建物などは特にない。
リンドウさんが通信機を取り出し、通信を始めた。
軽口を叩きながら受け答えをするリンドウさん、すると……。
「おいおい、そりゃないぜ! おい! 切りやがった姉上の奴……」
「なんかあったんですか?」
リンドウさんが溜息をつきながら通信機をしまい、口を開く。
「防衛班のとこのシュンが単独行動に走ってヴァジュラと交戦中らしい。ちなみにバイタル反応的に長くは持たねえから、近くにいる俺に救援に行けとよ」
「うへぇ……あいつまたかよ……」
「そういや、お前さんあいつと仲良かったよな」
「ただの喧嘩仲間ですよ」
集落を後にし、リンドウさんと一緒に止めてあるバギーまで戻り、すぐに走らせる。
ちなみにリンドウさんが運転しているんだが、中々スピードを出す。まあ、のんびり向かったらシュンがヤバイから当然の事であるがちょっと……気分が……。しかもちょっと揺られてお尻が……。
ああ……胃にあるものが喉まで来たよ。食事中の方、申し訳ありません。
身を乗り出してリバースする。
「ヴォエぇ……」
「おいおい、嘘だろお前!? アラガミ相手してる時はあんな大立ち回りしてるくせして酔うのかよ!」
「いや、それとこれとは話が別――ヴぉえー!」
「しゃーないな。着くまでに全部出しとけよー」
酷ぇ! 不調の人間を扱き使うつもりだよこの人! いやそもそも全部出すも何も食った物なら全部出てるよ! 既に胃液らしきものしか出てないよ! よくよく考えれば胃液って体内で分泌されるものだから理論上半永久的に出るよ! 出し切るとかそう言う問題じゃないよこれー! うえっ、気持ち÷――いや、気持ちを割ってどうすんだよ!
冗談言ってる場合じゃねえ! マジであかん!
(^o^)<もう無理ですー
バギーから飛び降り、連続ステップを繰り出してバギーと並走する。
リンドウさんは呆れた表情で俺を見ている。いや、そんな目で見られたって無理なものは無理ですよ。もう少し迅速かつ丁寧な運転を心がけてくださいよ。
通信機を取り出してヒバリちゃんと通信する。
「あ、ヒバリちゃん? シュンの野郎今どの辺に居るか分かるか?」
『ユウさんですか? シュンさんの救援にはリンドウさんが向かっているのですが……』
「あ、俺今リンドウさんと一緒にいるんだよね」
もしかして俺の腕輪のビーコン反応無い系? ホント最悪の精度だな! 前もあったよなこんな事。おかげさまで徒歩で帰ることになったよ。まったく、物ってのは現場の声を聞いたうえで作るのが普通だろうに。別に資源無くて切羽づまっているって訳でもあるまいし、それで出し惜しみしてるから不測の事態に陥って優秀な人材を失う事に繋がるかもしれないんだぞ!
『ユウさんの腕輪のビーコン反応はありませんが……。リンドウさんと一緒ですね? 状況把握しました。シュンさんは今ユウさん達が居る地点から北西4.6キロ先でヴァジュラと交戦中です』
「了解した」
通信機を懐に戻してリンドウさんに声を掛ける。
「リンドウさん。シュンなら北西4キロ程先に居るらしいですよ?」
「うーん、そうか。ユウ。じゃんけんしようぜ?」
「え? まあいいですけど」
「「じゃんけんポン」」
俺はパーでリンドウさんはチョキ。俺の負けだ。
「おし、シュンの救出はお前に任せるぞ。俺は安全地点でお前らを待ってるぜ」
「おぉい! リンドウさん! そりゃないでしょう!? こんなロクな武装もしてない一端の偵察兵に何ができるっていうんですか!?」
「ははっ! 冗談だ。俺は周りに他のアラガミが居ないか確認して安全を確保しておく」
「それ結局、俺がシュンを助けに行くのは変わりないですよね?」
「なーに、お前さんはデカい作戦の時、救護班に同行して戦闘継続不可能になった奴を安全地帯まで無事運びだしてるだろ? たかが1人の救出くらい朝飯前の筈だ」
いやいや、応戦する術がない状態で床ぺロしてる奴を戦場から運び出すって相当難易度高いんですよ!
でも、役割を交換しても神機がない俺じゃ何もできない。やっぱり、リンドウさんの判断は理に適っているよ。最早神機使いとして戦力外の俺がたった1人でこなすには少し重い仕事だが、此処には俺とリンドウさんの2人だけだ。なら、やってやろうじゃねえか。
「ま、了解しましたよ」
「おう。任せたぜ。集合場所はこの地点だ。死ぬなよ。2人揃って生きて帰れ」
タブレットで地図を表示し、赤い印を表示する。このマーカーが合流地点だな。よし、記憶した。
気合を入れて地面を蹴って北西へ大きく跳躍し、並走していたバギーを置いて、遥か先まで跳ぶ。
「居た!」
シュンがボロボロになりながらも神機を構えてヴァジュラと対峙している。絶望的な状況でもまだ戦おうとするあたり、大した根性を持っているよ。その根性をもっと有効活用してくれれば、助かる奴は大勢いると俺は思う。
シュンの隣に立つと、シュンは驚きながら口を開いた。
「な、ユウ!? 何でお前が!? こいつは俺の獲物だぞ!」
「バーカ、神機持ってない俺がどうやってこんな化け猫叩きのめすんだよ! お前を救助してくれって上から指示されたから来たんだよ」
「はあ!? 助けなんていらねえよ! いいから引っ込んでろ! お前神機が無いんだろ? 死んじまうぞ!」
「アホ抜かすなこのヴァーか! お前を此処で放ってたら俺とリンドウさんが怒られるんだぞ!」
「げっ、リンドウさんも来ているのかよ!」
「ガアアアアアッ!」
ヴァジュラが雄たけびを上げて、騒ぎ立てる俺達にうるさいと言わんばかりに吠える。
帯電しながらヴァジュラは跳躍し鋭い爪で襲いかかって来る。俺とシュンはその場から身を投げて回避する。
ヴァジュラは手負いのシュンを狙って雷球を放つ。
「いっ!?」
シュンが慌てて装甲を展開し、雷球を防ぐがあいつの装甲はバックラーだ。完全に衝撃までは受け止められない。しかも満身創痍の体じゃ、ちょっとしたダメージも致命的だ。
このままじゃシュンが持たない。
ヴァジュラの尻尾に飛びつき、対アラガミ用ナイフで尻尾を滅多刺しにする。
「ガアアッ!」
流石に急所を小突かれたら煩わしく感じるだろう。ヴァジュラは暴れて俺を引き剥がそうとする。お望み通り、手を離してヴァジュラの尻尾から距離を取る。
先に煩い蠅を潰すつもりか、ヴァジュラは俺を睨みつける。
シュンを見ると、地面に神機をついて、荒く息をしている。ヤベェな、そろそろ限界だろう。俺1人撤退するだけなら楽だが、負傷者を連れてでは話が違う。とりあえず、シュンのバイタルを回復させるか……。あの様子じゃ回復錠は使い切っただろう。
なら……。
「ガアッ」
ヴァジュラが右腕を振りかぶる。すぐにサイドステップで距離を取りつつ、ポーチから小さなケースを取り出す。ケースを握り潰すと、俺の手に黄緑色に輝く暖かい球体ができる。
回復球――神機使いの傷を忽ち塞ぐ回復錠よりも効果があるアイテムだ。回復球をシュンへ投げつける。回復球はシュンにぶつかるとシュンの体を包み込む。
すると、シュンの傷は忽ち塞がり荒かった呼吸も安定し始める。
「一応……礼は言っとく」
「素直じゃねえな……」
ほら、何だっけ……? こういうツンとしてて素直になる……そうだ、ツンデレだ。
いや、男がツンとしてデレても嬉しくないな。可愛い女の子がするべきだな、うん。
ヴァジュラはマントを発光させながら天高く吠えた。ビリビリと音がすると、肌に違和感が走る。それは次第に大きくなり、危険を感じヴァジュラから距離を取る。すると、真横を影が通り過ぎて……シュン!? よせ! ヴァジュラは今――
ヴァジュラに向かって神機を手に突撃するシュンに反射的に手を伸ばす。
「ガアアアアッ!」
ヴァジュラが青白い稲妻に包まれ、青い電撃は周囲へ飛び、地面を、壁を抉った。
「グッ、ウッ……」
あれ程の威力、無事である筈がない。あの野郎、せっかく傷を塞いだってのにとんだ無茶を……! シュンは装甲を展開しながら、地面に膝を突いて呻き声を漏らしていた。今にも意識を手放してしまいそうな目をしており、最早限界であることを示していた。
「シュン!」
意識を飛ばすなと喝を入れるように、名を呼ぶ。
「う、るせぇよ……! 聞こえてら……! ちくしょ……まだだっての……!」
悪態をつきながら、ヴァジュラを睨みつけるシュン。しかし、既に勝敗は明白だ。ヴァジュラは右腕を振り上げた。確実にとどめを刺そうと、青い稲妻が爪を包む。
足に力を込めて、一気に開放する。一瞬でシュンの元へたどり着き、シュンの腕を掴んで投げ飛ばしてヴァジュラから逃がす。既にヴァジュラの攻撃は来ているが、問題ない。想定済みだ。
ヴァジュラの爪は止まっていた。
「俺が何も考えずに敵の攻撃に飛び込むはずがないだろ?」
ホールドトラップを直前に設置しておき、それがたった今効力を発揮した。ヴァジュラは体の自由が効かずに動けないでいる。
この時を待っていた。後はスピード勝負だ。
投げ飛ばしたシュンの元へ向かい、シュンを担ぐと足早に撤退する。
連続ステップで飛ばしたいところだが、担いでいるのが怪我人だ。そんな訳にもいかないだろう。とにかく、リンドウさんと打ち合わせした通りの場所へ急がないとな……。
「たくっ! 怪我人を投げ飛ばすなんてどういう神経してんだお前!? どっかの衛生兵は誤射して吹き飛ばすわ、救出に来た偵察兵は怪我人を投げ飛ばすわで救護する奴には碌な奴が居ねえのかよ!」
「やかましいわボケェ! 折角回復してやったのにまた傷増やしやがって! お前が突っ込まずにあのまま撤退してたら、何事も無く離脱できたんだぞ!? 運ぶこっちの身にもなれや!」
「何だと!? 大体、お前がもっと早くホールドトラップをつかってりゃ倒す事だってできたかも知れないんだぞ!?」
「なぁにぃ!? クソ生意気なガキめ! アラガミが蹂躙する極限空間から人様死なせずに運び出すのにどれ程の技術が要ると思ってんだ! ぶっちゃけ、こんな任務俺にやらせるフェンリルが怖いわ! 偵察兵の限界越えとるわ! そもそも偵察兵の仕事じゃないわ!」
「お前にガキなんて言われたくねーよ!」
「んだとぉ! ガキをガキ呼ばわりして問題あるか!」
リンドウさんと合流した後、シュンを包帯でグルグル巻きにしてバギーの後部座席に転がしたら、シュンが文句垂れて来たのでこちらも文句をつけて醜い言い争いを展開していた。
「ホントお前さんら仲良いな……」
ほら、シュンのせいでリンドウさんが呆れているだろう。大体、こんな自己中と仲が良いなんて俺は絶対認めねえからな! とりあえずシュンは支部に帰ったら荒治療に命令違反の処罰、減給の3連コンボを食らう事になるだろう。ざまぁないぜ!
「はあ~疲れた……ホントに疲れた」
支部に戻ると、シュンは医務室に連行されリンドウさんは新型ちゃんと任務に行き、俺はソファーでぐったりしていた。
「ゲンさん、シュンの奴にガツンと言ってやってくださいよ」
俺は向かいのソファーに腰を掛けている老兵に文句を垂れた。老兵――ゲンさんは呆れた顔をしながら頬を掻く。なんか今日は人様に呆れられる回数が多いな。
「俺が言ったところで聞くような奴か、それはお前が一番知ってるだろう?」
「リンドウさんにも言いましたけど、別に仲が良いって訳じゃないですよ……。只の喧嘩仲間です」
「そりゃお前、喧嘩するほど仲が良いってやつだろ」
「冗談はよし子さんですよ。そうだ、一局やりませんか? 買った方が飲み物奢るって事で」
「ほう、まだまだ若い奴に負けんぞ。受けて立ってやる」
テーブルの下に置いてある将棋盤を取り出し、駒を並べる。
今日こそ1本取るぞ。やられっぱなしってのは気にくわないので今日こそは……!
「ほう、少しは腕を上げたようだな?」
「いつまでもやられっぱなしってのは恰好悪いじゃないですか? 今日こそは1本取らせて貰いますよ、ゲンさん」
今日はとても調子がいいぞ! 次の手はどうすれば良いか、自然と頭に浮かんでくる。まあ、ターミナルで将棋に関して調べて勉強したので当たり前だが。流石『コンゴウでも分かる!将棋初級編』だ。むしろこれが分かんないと俺の知能は連携と力技しか能がないコンゴウ以下って事になるから意地でも理解したのだが。
あ! この局面は本に書いてあったとこだ! 手が生き物の様だ! 手が脳に追いつかねぇ! 分かる、分かるぞぉ! 読める、読めるぞぉ!
「王手だ。出直してきな」
(^o^)<うわーもう無理ですー
敗北したので、財布から150fcが天に羽ばたいて逝きましたとさ。めでたしめでたし。
百田 ゲン(62)
俺が世話になった人ランキングベスト5にランクインしている。
新人研修担当の引退したゴッドイーターで元軍人だ。
彼は神機がピストル型だった頃の最初期の神機使いだ。俗に言う第0世代というところか。まだ神機の技術使用にも大きな危険が伴っていた当時、初めて神機使いに志願した軍人でもある。
最終階級は大尉らしい。彼ら第0世代がどうにか中型のアラガミを倒したことで、現在の神機の礎ができた。
長年の渡る戦いによるものか、腕の負傷のため引退しており、フェンリル極東支部の神機使い達の相談役をしている。
落ち着いた人物だが昔は「鬼」と呼ばれていたとか……。
シュンなどの一部の若手からは煙たがられている。
まあ、ぶっちゃけ軍で目上の人間に生意気な口をきこうものなら鉄拳制裁が当たり前だが、ゲンさんは心が広いのだろう。だから、かつてゲンさんに鍛えられた新人たち――現在最前線に立っている古参神機使い達は心の広い人が多いのかもしれない。