Nameless Story 1人孤独に立ち向かわざるをえない者 作:ロイヤルかに玉
アナグラへ戻り、とりあえず黒いハンニバルの事を伏せて報告した直後の事だった。
間の悪い事にタツミ、シュン、カレルの3人が黒いハンニバルと接触してしまったらしい。途中でユウナが加勢に入ったのでハンニバルも急に大人しくなってそのまま去って行って事なきを得たようだが……。
正直、すぐにでも黒いハンニバル――リンドウさんの追跡に出たかったのだがアナグラも黒いハンニバルに警戒を強めたおかげで待機命令を下されてしまい、俺も動けなくなってしまった。
さて、どうしたもんか……。ここまで頭を悩ませたのは久しぶりだ。アラガミの襲撃でもあればどさくさに紛れてそのまま――って作戦も考えたがそう都合よく事が運ばないのは世の常と言うべきか。
じっとしてても始まらないので適当に支部内を徘徊しながら次の手を考えるが、中々良い案が浮かんでこない。戦ってるときは多少頭の回転が速くなるのだがこういう時はどうも駄目だ。
「――ツ!」
突然立ち眩みを感じて咄嗟に壁に手をついて体を支える。
体が酷く重くなって床に膝を突き、気づけば息も上がり始めた。灰域種から受けた方の傷が急に熱を帯び、痛みが走って右手で押さえる。治療を受けはしたが……紫色の炎何て不気味なものを貰った故に何が起きても不思議じゃない。
アインも灰域種の攻撃は一撃一撃が致命傷に繋がると警告していただけあってその理由が分かる。
ここで調子悪そうに座っていたら周りの注目を買うことになるし、一回トイレの個室にでも籠っておくか。
何とか立ち上がって近くのトイレに入り、個室へ急いで戸を閉めて鍵をかけて便器の蓋を閉じて腰を掛ける。
クソ、あの灰域種アラガミめ……。とんだ土産を持たせてくれたな……!
灰域種か、エレナやアインが厄災のアラガミとまで呼んでいた存在。あんなものが出現する可能性があるだなんて冗談きついな……おまけに更に上位種の対抗適応型アラガミと呼ばれるものも居るらしい。
今はリンドウさんの事を優先にしたいが、どうしても気になってくる。一次大戦、二次大戦と言い、アーク計画と言い、世の中とは常に激動していないと気が済まないのか。
痛みも徐々に引いてきたのを合図に個室を出るが、手洗い場の鏡を見て驚いた。
灰色に変色した髪の毛が増えており、肌の色も色白の部分が更に広がり、何より驚いたのは瞳の色だ。一見すれば何も変わりないのだがよく見てみると片目だけ色調が僅かだが違う。
灰色の髪を見ればエレナの事が頭を過る。
あの子は今どうしてるだろうか。いや、アインも一緒なんだ。心配するだけ野暮ってもんだろうが……それでもやっぱり心配だ。ちゃんと食べて、ちゃんと寝て元気に暮らしていれば良いのだが――いや、約束破った男の台詞じゃねえか。全く、俺ってやつはどうしようもねえ野郎だ。
トイレから出て、エントランスへ戻って寛ごうと思い歩を進める。
「…………なんだ?」
感じたのは以前、神機保管庫で感じた人のような、アラガミのような妙な気配。
あの時は気のせいだと思ったが、どうやら違うらしい。全く、こんな時に面倒事が舞い込んできたものだ。
厄介な問題は早急に片付けるのが鉄則だ。
微かな気配を集中して辿っていくと、そこは医務室だった。中から誰かの話し声がして耳を澄ましてみた。
『それじゃあ、リンドウさんはエイジスに……?』
ユウナの声か? しかし誰と話しているんだ? ユウナ以外の声何て聞こえないが……だが、今の言葉に無視できないワードが入っていた。
エイジス……黒いハンニバルは……リンドウさんはエイジスに現れると言う事かな何の根拠もないが、今はとにかく行動すべきだな。
命令違反になるが仕方あるまい、事は一刻を争う。
「行くか、エイジスへ」
*
そして、エイジスに到着して大きな広間に出ると、青い月が夜空で輝いていた。
『GYAAAAAAAAAッ!』
黒いハンニバル――リンドウさんがこちらを見て、雄たけびを上げていた。
「さて、悪いですがもうひと踏ん張りして貰いますよ。リンドウさん」
勝率が1%も満たない賭けだ。最早リンドウさんの自我次第。俺はただ呼び掛けるしかできないが、それでも信じよう。
何、勝ち筋の無い戦いなんて既に経験している。諦めの悪さだけは死にかけようが直らないらしい。
ハンニバルがこちらへ襲い掛かろうとしたとき、突然オラクルの銃弾がハンニバルへ着弾して爆発を起こした。
「ユウナ、お前……」
後ろには神機を構えたユウナが神機を剣形態へ切り替えて歩いていた。
「此処にいるってことは……そういう事で良いんだよね?」
対アラガミ用ナイフを抜いて俺も構える。
「やり方は任せる。好きに使え」
「うん。行くよ」
ユウナはそう言うと同時に神機を構え、ハンニバルはこちらへ襲い掛かってきた。
「ユウ、私がタイミングを計る。スタングレネードを!」
「了解だ」
スタングレネードの準備をして俺はハンニバルの周囲を駆けながらユウナの指示を待つ。
ユウナはハンニバルの攻撃を弾き、その度に反撃を入れる慎重な戦いを展開する。
ハンニバルが周囲を薙ぎ払おうと尻尾を丸め、それを確認したユウナは素早く後ろに跳んだ。
「ユウ! 攻撃の後隙!」
「合点!」
尻尾による薙ぎ払いを跳んで躱し、素早くハンニバルの目の前へ空中ステップで移動してスタングレネードを地面へ叩きつける。
周囲に破裂音と閃光が広がり、ハンニバルは目を押さえながら蹲っている。
直後にユウナが素早くハンニバルの上を取り、捕喰形態に神機を変化させて急降下と共に逆鱗に喰らいつく。
『GYAAAAッ!?』
ハンニバルが痛みに悶えながら体を激しく揺らし、ユウナは暴れるハンニバルから素早く退避する。
「神機解放! 攻勢に出る!」
そしてユウナは凄まじいスピードで駆け出し、神機を振ってハンニバルに怒涛の連撃を叩き込み、神機が一閃される度に鮮血が飛び散る。しかしハンニバルも軽快な動きでユウナの連撃から逃れ、素早く炎の剣を作り出して両手に構えて2本の炎剣でユウナの神機を受け止める。
鍔迫り合いになるが、ハンニバルは動けないユウナにブレスを放とうと大きく息を吸い込む。
地面を蹴ってユウナに近づき、そのまま担ぎ上げて離脱する。
「ごめん! 助かった」
「気にするな。安心してガンガン攻めろ」
「お願い!」
ユウナを降ろし、すぐにハンニバルへ向かっていく。
俺の横を大きなオラクル弾が通過して次々とハンニバルに着弾して爆発する。しかし、ハンニバルも慣れたのか、ユウナの遠距離攻撃を炎剣で斬って消滅させてこちらへ向かってくる。
「ユウナ、隙を作る! 俺の事は気にしないでデカいのかませ!」
ユウナにそれだけ言って、炎剣による連撃に立ち向かう。
迫る炎剣を紙一重で熱を感じつつ凌ぎ、途中で突きや下段攻撃など搦手も繰り出されるがとにかく引き付けて回避してユウナの攻撃をサポートする。
数撃躱すごとにハンニバルの肉体は爆発に襲われ、たまらず俺から距離を取って今度はユウナへ向かう。
ユウナが迎撃しようと引き金を引くが、オラクル弾は尽く躱されるか斬られて消滅させられ、銃撃は諦めて剣形態に切り替えハンニバルへ向かう。
剣戟を繰り広げ、俺は隙を伺いつつ適度な距離を保ちつつ周囲を移動する。
ユウナに攻撃を弾かれた隙を狙って籠手のついた腕にしがみ付き、籠手と肉の間にナイフを突き入れる。
ハンニバルが俺に気を取られた隙に、ユウナの一撃が胴体を切り裂いた。
すぐにユウナと共に奴から距離を取るが、奴はこちらへ炎弾を吐き出してくる。
「任せて!」
ユウナは炎弾が当たる直前に装甲を展開、同時に神機を振って炎弾を弾き返した。
ハンニバルが跳ね返された炎弾に被弾して苦痛の悲鳴を上げるが、すぐにユウナへ接近して籠手で裏拳を放つ。
「くっ!」
神機がユウナの手から弾き飛ばされ、俺の方へ飛んできた。
「ウオッ!?」
俺は咄嗟にユウナの神機を天高く蹴り上げてしまった。
「済まんユウナ!」
「気にしないで! 集中!」
ハンニバルはユウナへ爪を振り降ろすが、ユウナは上手く回避して攻撃を捌いている。
爪による攻撃をジャンプで躱すがハンニバルは待っていたと言わんばかりに裏拳の構えを取った。
一か八か降ってきたユウナの神機を蹴り飛ばすと神機は回転して空気を斬りつつハンニバルの逆鱗へ突き刺さる。
『GYAAAAッ!?』
逆鱗に神機が深く刺さり、ユウナはすぐにハンニバルの背中に飛び乗って神機を抜いて再び捕喰形態へ切り替える。
神機から展開された捕喰形態は普通の獣の口と違い、大きく更に獰猛そうな獣のモノだった。
「臨界解放式・天ノ咢ォ!」
神機はハンニバルへ食らいつき、その肉を食い千切る。
ハンニバルは悶絶して地面へ倒れて苦しむ。
そして、ユウナからは何時ぞや感じたあの気配を感じた。
ユウナの瞳は獣のように瞳孔が縦に割れ、その表情は一変して静かに怒る獣のような顔をしていた。
そして立ち上がったハンニバルは劫火球を吐き出すが、ユウナが神機を両手で勢い良く振ると斬撃の衝撃波が飛び出し、劫火球を容易く掻き消してハンニバルを襲った。
『GUUUUU‼!』
炎剣を作り出し、ユウナに斬りかかるが斬撃は軽く振った神機の一振りで容易く掻き消された。
そしてユウナが神機を切り返してハンニバルの腕が斬り飛ばされた。
『GYAAAAッ!?』
そして間髪入れずにユウナはハンニバルの頭部に斬撃を叩き込んで鮮血が飛び散り、頭部の半分を失ったハンニバルは地面へ倒れた。
「ふう……」
ユウナが一息つくと瞳は元に戻り、それと同時に膝を突いて少し呼吸を荒くしている。
「ユウナ、今のは……」
「ちょっとね……。大丈夫、ちょっと疲れるだけだから。心配しないで」
苦笑いしながら言葉を紡ぐユウナ。
そんな深い事情まで探る趣味も無いのでとりあえず話はそれで終わろうとした時、僅かにハンニバルから敵意を感じ、身構えると共にハンニバルの肉体から炎が吹き出してハンニバルの傷や半分になった顔が炎と共に徐々に再生していた。
『GUGAAAAAAAAAッ!』
そして、いきなりハンニバルは起き上がってユウナを籠手で殴りつけようとする。
咄嗟にユウナを庇おうと突き飛ばすが籠手による打撃をモロに喰らい、凄まじい衝撃を感じて血を吐き出しながら吹き飛び、壁に激突した。
背中にも激痛が走り一瞬だけ意識が遠くなるが、なんとか膝を突いて倒れるのを堪えた。
「ッ……! ガッ……ァ……!」
「ユウ! 大丈夫!?」
ユウナがこちらへ駆けてくるが、声を振り絞った。
「気にするな……! 気をつけろ!」
「ッ!」
俺の言葉にユウナは素早く神機を構えて炎と共に再生しているハンニバルと相対する。
「リーダー!」
聞き覚えのある声が聞こえて振り向くとそこには第1部隊メンバーが勢ぞろいしていた。
「リン……ドウ……?」
サクヤさんが言葉を紡ぎ、ハッとしてハンニバルを見た。
そこには炎を纏いながら傷を癒すハンニバルの胸部にリンドウさんが捕らわれているように上半身のみ姿を現していた。
ついに、リンドウさんの顔を拝む事が出来た。そうだ……あと一歩だ、きっと。
第1部隊とリンドウさんが言葉を交える。
ただ、リンドウさんは既に意識を保つ限界が近そうだ。正直、呼びかけるだけではどうしようもないだろう。何とか……何か方法を……。
「………………」
折角会えた人との言葉を交えているところ、話の腰を折るようで失礼極まりないだろうが……。
リンドウさん……もしかして、引っ込抜けるんじゃね?
なんか両腕と下半身がハンニバルに埋まってるだけだから、もしかしたら引き抜けそうな気がしてならない。
もし引っこ抜けたら俺が最速でアナグラまで担ぎ込んで偏食因子打って腕輪を新しいのをつけて怪我を治療すれば普通に助かるんじゃなかろうか……。
「…………よし。………勝機ッ!」
呼吸を整え、床を思い切り蹴ってリンドウさんへ跳んでハンニバルを包む炎を力尽くで突破してリンドウさんの肩を掴む。
足はハンニバルの胸部に掛けて、リンドウさんの脇に手を通して思い切り腰を入れて引っ張る。
ただし、表現できない熱さに苦しみながら。
「ぬおおおぉぉぉおあああああついぃぃぃぃンンンンおおおおおおおおおッ!」
「おい、何してるバカ!」
「ユウ! 死んじまうぞッ!?」
怒声と驚愕の声が聞こえるが、大きく息を吸って叫ぶ。
「バカ野郎ォ! 悠長に話す暇なんかあるかぁ!? 引っこ抜けそうなんだから引っこ抜くだけだけじゃボケェ!」
『グ……よせ。早く逃げ……お前…』
「うっさいわボケェ! 俺が引っこ抜くつったら引っこ抜くんだよォ! 口答えしてんじゃねえお前よオォン⁉」
クソ! ビクともしねえ! これじゃあ、ただ俺が火傷するだけじゃねえか……!
ええい……こうなったら、ソーマとコウタにも助力を……。男3人の馬鹿力で引っ張るしかねえ!
残念だったなハンニバル!
こっちにはバスターを軽々振り回すソーマパイセンが居るんだぜェ!?
テメェとの綱引き合戦――もといリンドウさん引き合戦なんざもう終わりだッ!
『ここから……逃げろッ! これは……命令だァ!』
「うおっ!?」
リンドウさんが叫ぶと、俺は背後から大きな手に掴まれてそのまま投げ飛ばされて地面へ叩きつけられるが痛みを堪えてすぐに立ちあがる。
「無駄だァ!諦めろリンドウ!己の命令1つ守れん奴が俺に指図してんじゃねェ!」
叫びながら対アラガミ用ナイフを構えて突撃を仕掛け、傷の再生を終わらせたハンニバルが雄たけびを上げるが怯むことなく奴に斬りかかる。
「リンドウさんッ! 生きる事から、逃げるなァ!」
ユウナがいつの間にかリンドウさんの神機を左手に握ってオラクルに侵食されつつも突撃していた。
ハンニバルの胸部に対アラガミ用ナイフを突き刺し、ユウナはハンニバルの顔を切り裂き、露出したコアへ侵食された左手を叩き込んだ瞬間、意識が遠くなりそのまま意識を手放してしまった。
レン「なんかおまけがついてきたんですけど、どうしましょうか?」