Nameless Story 1人孤独に立ち向かわざるをえない者   作:ロイヤルかに玉

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更新があまりに遅れてしまい申し訳ありません。


おいいいッ!?

「それじゃ、スキャンを掛けるのでリラックスしていてくださいね」

 

 白衣を着た気のよさそうな壮年の男性が俺に笑いかけながら言う。

 

 返事をしてそのまま体の力を抜いて全体重を台に預ける。

 

 身体が青色の光に照らされて、何度か俺の頭から足を照らしながら往復して光が消えると俺が横になっている台は移動を始めてスキャン装置から離れる。

 

「はい、起き上がって大丈夫ですよ。特に体に異常はありませんか?」

 

「いや、特には」

 

「それでは次の検査に移るので別室で待機していてください」

 

 

 そう言われて俺は部屋を後にして指定された部屋へと向かう。

 とりあえず椅子に腰を掛けて腕を伸ばすと、欠伸も出た。

 

 

 ただの検査なのに朝から忙しい事この上ない。

 採血に尿検査、果てには身長と体重も測って視力検査に聴力検査。

 そして何より俺以外にもメディカルチェックや追加検査、再検査などで医療棟も人でごった返しているので待つ時間も多い。

 

「お待たせしました。次の検査に移るのでついて来てください」

 

 戸が開くと先程とは違う人が呼びに来た。

 

 この後も心電図検査、呼吸機能検査などまだまだ続く。

 結局時間は昼を過ぎてしまったが、このまま残りの検査をしてしまうとの事で昼飯を抜いてそのまま検査を続けた。

 

 

 

「お疲れ様です。本日の検査で身体に異常がなければ明日には偏食因子の検査に移ります。

明日の検査も大変ですのでゆっくり休んでくださいね」

 

 看護師に言われて俺は頷く。

 

 

 医療棟を後にしてこの後どうするか考えたが、この広い本部を歩き回ると迷子になりかねないので流石に本部を散策すると言うのはしたくない。

 

「そうだ、ジャックの奴今日は訓練するだとか言ってたな。どんな訓練しているのか見物でもするか」

 

 

 目的地を決めて地図を頼りに訓練室へ向かう。

 

 

 

 

 特に迷うことなく目的の場所へたどり着いた。

 特に行く宛ても無くフラフラするから迷うのであって明確に場所を決めておけば特に迷うことなく辿りつける。やはり道中でいろんなものに気を取られるから駄目なんだな。

 

 しかし流石は本部だな。訓練室もアナグラと比べれば天と地の差だ。設備は勿論最新式で手入れまでよく行き届いている。

 

 

「よおジャック、冷やかしに来たぜ」

 

「おお、態々来たのか。お前も訓練に混ざりたいのか?」

 

「冗談言うな。こちとら暇疲れしてんだ」

 

「まあ、朝っぱらからだもんな。お前食堂に居なかったが飯抜きでやったのか?」

 

「ああ、今日の夕食はいつもより美味しく感じるかもしれん」

 

 空腹は最高のスパイスとはよく言ったものだ。

 

「軽く食べればいいじゃないか。リサ、休憩だ」

 

「はい!」

 

 ジャックの指示を受けてリサは神機を降ろした。

 

 鎚のような形をしているブーストハンマーと言う名称だったか。実物は灰域の世界で敵が手にしていたモノを見たことがある。しかアネットも似たような神機を振っているがあちらはバスターブレードだ。

 

「ポール型神機か。極東じゃ見ないな」

 

「ブレード型に比べて複雑な機能・機構を持っているおかげで安定性に難があってな。そもそも欧州と極東でパーツの相性が悪いからな。極東地域じゃまず見かけないだろう」

 

 見るからに重そうだが、バスターブレードが短くなっただけじゃねえのか?

 個人的にチャージスピアを機会があるなら使ってみたい。

 

 

「へー、俺も使ってみてえな……」

 

「お前適合率絶望的な数値だったろ? 諦めろよ」

 

 ジャックにツッコまれ、事実なので黙るしかない。

 

「よし、ユウ。ちょいと付き合えよ。リサ、今から時間を15分やる。こいつに一発当てて見ろ」

 

「え!?」

 

「ファッ!?」

 

 え、何言ってんのこのセクハラドMモンキー。一発当てろってあんなもんでぶん殴られたら致命傷どころか運が悪かったら死んでしまうんだが……。

 

「ふ、副隊長! 流石にそれは……!」

 

「いいからやってみろ。俺が当たったと判断したら割って入って受け止めるから」

 

「わ、分かりました!」

 

 元気よく返事して神機をこちらへ向けて構えるリサ。

 

「おいいいッ!? 何本人の意思を無視して勝手に始めてんだコラァ! 大体当たったと判断ってなんだよ!? もうそれ当たってんじゃねえか! お前が割って入る頃にはとっくにペチャンコになっとるわ!」

 

「おら隙晒してるぞ! 不意をついて――」

 

 

 ん? なんか聞き覚えのあるありがたいお言葉が聞こえたような気が――

 

 

「ぶっ殺せ!」

 

 

 女の子が発現するには過激すぎる言葉と共に、神機が火を噴きながら向かって来る。

 

「うおッ!? あぶねェ!」

 

 バック宙で神機を躱してすかさず距離を取る。

 

「速い……ッ!」

 

「リサ、使える物は何でも使え!」

 

「はい!」

 

 リサがスタングレネードを取り出してこちらへ投げつけてきた。

 ちょっと待ていくら訓練だと言ってもスタグレ使うか普通。ジャックの奴、戦い方を徹底的に叩き込んでいるらしい。

 腕で顔を覆って光を遮るが、目の前から気配が迫ってくる。

 

「ッ!?」

 

 横に躱すと隣から凄まじい轟音が成り、先程立っていた場所にクレーターが出来上がっているに違いない。

 目を開ければ既に目の前でリサが神機を横に薙ごうと構えていた。

 

 今度は体を捻りつつ跳んで攻撃を躱すが、リサはすかさずブーストを起動させた。

 

「ッ!」

 

 火を噴きながら迫る神機を紙一重で躱して次の攻撃も躱す。

 

 そして大きく後ろへ跳んで距離を取るが、ブーストで更に加速して一気に距離を詰めてくる。

 

「せいやッ!」

 

「甘いぜ」

 

 攻撃を受け流して背後へ回り込む。

 

「クッ!」

 

 リサが身体を捻って振り向きながら神機を振るが、それも余裕を持って躱す。

 

「ハア……ッ! 手ごわいですね! ユウさん」

 

「リサ、使える物は使え。よく考えろ。スタミナ切らしてる場合じゃねえぞ」

 

「ところで後何分?」

 

 俺がジャックの方を向いて聞くと共に気配がすぐ傍まで迫ってくるのを感じ、バックステップで距離を取る。

 向き直ると既に神機が迫り、ギリギリで躱すとリサはそのまま一回転と共にもう1度殴りつけてきた。

 

「おっと!? まさかの一回転!」

 

 何とか避けるが――

 

「副隊長!」

 

「ッ!?」

 

 リサの言葉にハッとしてジャックの方へ向いた時、ジャックが神機――ロングブレードを構えて突き攻撃を繰り出してきた。

 

「おまっ!?」

 

 驚きながらも凌ぎ、2人から大きく距離を取って落ち着いて2人の動きを観察する。

 

「交代だ。人の動きもよく見ておけ。的の小さい敵と仲間が戦っている時、どのタイミングで攻撃を差し込むかを考えろ」

 

 ジャックが助言らしいことを言っているが、俺には分かる。そう、こいつは助言してカッコいい事言ってるが本当は……。

 

「テメエも戦いたいだけじゃねえかッ!」

 

「まあな!」

 

「せめて本音を隠せ!」

 

 ジャックは如何にも正攻法で攻めて来るがそれは罠だと気づいている。時には逆手に持って斬りつけてきたり、蹴りも絡めるといった攻撃を所々で取り入れて攻めてくる。

 

 普通に神機を振るいつつ、忘れた頃に搦め手を繰り出してきて俺の油断を待ちつつ攻める。それなりに組手などで対戦しただけあって俺との戦い方が良く分かっている。

 

 ジャックの攻撃を凌いでいると、ジャックが急にバックステップで距離を取った。

 直後に背後から危険を感じて横へ跳ぶと、リサが背後から神機を振り降ろして俺の立っていた床を粉砕していた。

 

「まだまだ!」

 

 リサが床を蹴って一気に接近してきて神機を振る。

 

 ジャックの攻撃よりかは鈍重なので対処は楽だ。

 

「いいぜ。来な!」

 

 俺も諦めてリサの相手をすることを決意して構え直した。

 

 

 その後、ジャックに止められるまで俺はリサの攻撃を回避し続けた。

 

 

 

 

「そこまでだ。時間切れだ」

 

「ハア……ハア……ハア……ありがとう、ございます……!」

 

「こちらこそ、良い鍛錬になった」

 

 リサが息を切らしながら頭を下げてきたのでこちらも一礼する。

 

「さて、素直に評価できる点もあれば……スタミナ管理をはじめとした咎めるべき点もある。この後反省会だな」

 

「はい!」

 

 ジャックの奴なんだかんだ言ってちゃんと見てるんだな。新人にやらせるには無茶ぶりが過ぎるがしっかり教育してんだなと思い、俺は2人のやり取りを見つめる。

 

 

 

 

 2人の反省会も終わり、3人で夕飯を食べる為に食堂へ向かう。

 

「さて、ユウ。付き合わせて悪かったな。詫びと言っちゃなんだが、奢ってやるよ」

 

「言われなくても時間外で働いたんだからたかるつもりだ。ありがたく頂くぜ」

 

「リサ、好きなの食えよ。今日は奢りだ」

 

「は、はい」

 

 と言っても俺は小食なので昨日と同じメニューだ。

 リサも遠慮して安いメニューを頼んでいた。ジャックは昨日と同じく山盛りで持ってくる。

 

 

「それにしてもユウさん、途中で2対1で攻められてもどうして対応できるんですか?」

 

「まあ、経験だ。見切りっての練習すりゃ誰でもできるようになる」

 

「油断や仲間庇ったりしなけりゃ、掠りはするがモロに被弾する事はねえよな」

 

「そうなんですか……。やっぱり極東で鍛錬を積んだお二人にはまだまだ届きませんね」

 

 

 これぐらいで驚いてちゃ極東に来たら腰抜かすぜ?

 敵の攻撃を弾き返すアナグラ最強の神機使いをはじめ、とんでもない猛者共が激戦を繰り広げている。

 

 しかし、リサも磨けば光るだろう。こればっかりはリサのティーチャーの手腕次第といった所か。新人ながら考えつつ動くと言う事が良くできている。

 

「にしても、リサも中々戦闘センスがあるな。戦っているうちにどんどん学習していく」

 

「そ、そんな私なんてまだまだですよ……」

 

 褒め言葉位素直に受け止めればいいのにな……。謙虚な事だ。

 

「粗削りだが、このまま鍛錬を重ねれば化けるぜこいつは」

 

 ジャックが自慢げに言う。

 

「ふ、副隊長までそんな……!」

 

 照れてはいるが、数年すれば一流の神機使いになっているだろう。そうなってくれればジャックも鼻が高いだろうな。

 誰かに教えるって言うのは中々大変かもしれんが、やりがいはあるのかもしれない。俺はやりたいとは思わないが……。

 

 さて、明日は本格的に偏食因子の検査か。何事も無ければいいんだが……。

 




編集をするごとに段々最終話が近づいてきてなんだかんだ終わるな~と思うが実際の所は「ここやっぱりこうするか」って感じで手を加えるのが多すぎて無駄に長くなっているだけと言う事実。

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