Nameless Story 1人孤独に立ち向かわざるをえない者 作:ロイヤルかに玉
翌日、偏食因子の検査の為に俺は十畳ほどの部屋に案内された。様々な形の機械に囲まれてベッドが設置されており、その上にコードが大量に接続されているヘッドギアが置いてある。
担当医によると、これを被って横になれば良いとの事だ。
『では、始めますね。リラックスしてください』
マイク越しに担当医の声が聞こえ、周囲の機械から唸りを上げ始め、しばらくすると熱気を感じ始める。
ああ、やべえ。これってなんか怠さが襲ってきてとてもじゃないが起きてられないんだよな……。
ヤベェな。身体が重くて最早目を開けてられない。
ああもういいや。寝よ。
そして俺は瞼を閉じた。
*
ふと、気が付けば目の前には白く綺麗に塗装された天井があった。
アナグラと違い、何処を探しても沁み1つ見当たらない。いや、集中してじっと見てれば1つぐらいあるかもしれん。
天井の染み1つ探すために為に全力を出す男が此処に存在すると言う事を誰か覚えていてくれ。
とうとう染み1つ探すのにも飽き、しばらく天井をぼーっと見つめ、それから上体を起こし、辺りを見渡す。
最近、医務室でばかり寝ている気がする。まあ、仕方ないよね。戦う者は医務室で寝るのが副業だ。
「はあ、でも動く気になれねえな。ジャックを冷やかしに行ったらまた無茶な訓練に付き合わされる可能性が大きいから嫌だしな」
体が怠いので動かすに気にはなれない。訓練なんて以ての外だ。しかし、ここから動かないと言う事はこのまま飯の時間まで寝るしかやる事がない。正直、起き上がるのすら怠いから飯も抜いて良いのではと思っている。
明日の昼に極東へ帰るのでお土産等も明日の午前中で買えるだろう。
手荷物とかは殆んど持ってきてねぇから準備も既に完了しているようなものだ。
1人遊びでもしようかと思ったが1人しりとりから1人じゃんけんまで網羅しているので少し捻りを加えないとな。
前は金縛りごっこをやったから今日は……。仕方ねえ。死体ごっこでもするか。
バタン、キュー。
そして迫真の死体ごっこが始まった。
『……………………なんか体がフワフワするな』
急に違和感を感じて起き上がったら、今まで感じていた怠さが無くなりすんなり起きれた。
ベッドから立ち上がり、もう1度周囲を見回すと目の前のベッドで白目剥いて寝てるバカが1人居た。
『………………………』
鏡を見れば目にする顔だな。白目剥いてマヌケ面をしていて、見てて面白い。
しかし何でコイツ白目剥いて死んだように寝てるんだろうな。
別に致命傷的なものは見当たらないし、何か病でも患っているわけでもなさそうだ。
いや、なんで俺はコイツの顔を何度も見た覚えがあるんだ?
此処極東じゃなくて本部だぜ?
『…………………』
そもそも考えれば、なんで俺が目の前で白目剥いて寝ているんだ?
おかしくね? おかしいよね? じゃあなんで俺は今立ち上がっているんだ……?
(。´・ω・)ん? 俺……?
(。´・ω・) …………。
『ファアアアアアアアッ!?』
アイエエエ!? オレ!? オレナンデ!?
おおおおおお落ち着け!
冷静に状況を整理するんだ!
俺が立ち上がって周囲を確認したら、俺が起き上がったベッドに、俺が寝ている。
いや意味が分からん! 何で!? これもう分かんねえな(思考放棄)
いや、流石に思考放棄して諦めている場合じゃねえぞこれは!
やはり俺はまだ冷静じゃないようだ。冷静だ。冷静になるんだ。
そうだ、錯乱した奴は1発ぶん殴ればハッとする筈だ!
行くぞ俺! 歯を食いしばれぇ!
決断と共に歯を食いしばり、俺は自分の頬に拳を叩き込むが拳は俺の頬をすり抜けていた。
『アイエエエエエエッ!?』
本日2度目の絶叫。
落ち着け。落ち着け。落ち着け。
そもそも体が透けているんだから通り抜けるに決まってるだろう、状況的に。
そうか、なら目の前で暢気に寝ている俺をぶん殴ればいいんだな!
『最後の1発くれてやるよオラァ!』
目の前で寝ている俺の頬に拳を叩き込むと、俺の拳は俺をすり抜けることなく俺の頬を捉えて俺の頬に激痛が走った。
『痛ってェ!』
いや、落ち着いたけど……。これからどうすればいいんだ?
そうだ、こういう時はエロい事考えて別の所に意識を向けて頭の中を真っ白にしよう。
そう、ジーナとかカノンとか知っている女性陣の際どい水着姿を想像して……。ああ、そういえばカノンって見事な物を持っているな。挟まれたい。
すると、俺の目の前で寝ている俺の股間の辺りで見事なテントができたと思ったら急に萎んだ。
『アッチョンブリケェェェッ!?』
本日3度目の絶叫。
まだまだこんなもんじゃ終わらんぞ。幽体離脱するのは良い事だ。(錯乱)
ん……? 幽体……離脱……?
あ、おk。把握した。
成程、状況が読めた。俺は死体ごっこしてそのまま幽体離脱したんだな。
うんうん。納得納得。
『って、できるかぁ! 意味分かんねえよ! なんで離脱してんだよ!』
俺は俺をぶっ叩いた。バシッと音がして俺の頬に痛みが走り、白目剥いてる俺の頬が赤く腫れた。
『と、とにかく! 戻らねば――』
いや、待てよ。俺は霊体だが、干渉できるんだ。このまま本部をさ迷い歩いて悪戯しまくれるのでは……?
『よし、ジャック。昨日のお返しをしてやる。飯奢った程度で俺のご機嫌を取れると思ったら大間違いだ』
そんな訳で俺は訓練室へ向かう。
ジャックはリサと共にベンチに腰を掛けていた。
「副隊長、今日もお時間を取っていただいて済みません」
「気にするな。訓練位ならいくらでも付き合ってやる。遠慮なく言え」
何このリア充。これ見よがしに見せつけやがって。しかも、この絶妙な距離感!
ああ、爆弾設置して吹き飛ばしてえな。
とりあえず、ジャックを横から押した。
「うおッ!?」
「キャッ!」
リサに覆いかぶさるようにジャックは倒れる。そして2人は顔を赤くして見つめ合う。
『……なんかこっちが恥ずかしくなってきたぞオイ!』
リサがジャックの制服を掴み、ジャックは恐る恐るリサの顔に手を当てる。
「ッ! すまんッ!」
「い、いえ! 私こそ、ごめんなさい!」
2人はハッとして慌てて起き上がる。
「よし、訓練再開するか」
ジャックが頬を赤くしながらリサに言い、2人は歩いて行った。
『……………………末永く爆発しろクソっタレ』
俺はただ一言呟いて、訓練室を後にした。
『ハアーなんかなー悪戯して面白い事にならねえかなー』
誰にも聞かれることが無いので、遠慮なく口に出して本部内を彷徨い歩く。
そしての俺の視界の端にシャワールームと書かれたプレートが目に入った。
シャワールームだ。
男子諸君、シャワールームだ。
大事な事だから何度でも言ってやる。今、目の前にはシャワールームがある。
『………………』
なあ、これってチャンスなんじゃねえのか。男子なら誰もが夢見た事だよな?
そう、女性の神秘的な姿を見る事が出来るのだ。男なら誰しも考えた筈だ。自分が透明人間なら覗きがしたいと……!
『……………』
シャワールームに1歩近づき、俺は正気に戻る。
待て待て!
駄目に決まってんだろ! 人として理性ってのがあるだろうが!
覗きなんて最低の行為だ。そんな事を許されるはずがない!
悪魔「何善人ぶってんだお前。ほら素直になれよ? 覗きたいんだろ? そして触りたいんだろ? ん? 違うか?」
くっ、やはり出て来たか!
だが、お前の誘惑には俺は負けん!
悪魔が居るなら天使だっている筈だ!助けて天使さんー!
天使「…………」
グラサンで髪型オールバックの天使が出てきた。
え、何この悪を体現した天使。天使のコスプレしたヤーさんじゃないの?
『…………あの……天使さん……ですよね……?』
天使「ヤれ」
『え』
悪魔「え」
天使「覗け。触れ。そして、犯――」
悪魔「待て!それ以上の発言をやめろぉ!」
天使「貴様、悪魔の分際で正義を騙るか……! 正しく無い悪などこの世には不要! 消え失せろォ!」
悪魔「ウワー」
天使の拳が悪魔の眉間を貫き、悪魔は煙と共に消滅した。
何故だ……! 悪魔よりも悪を体現している天使が出てきやがった……!
大体『正しく無い悪』ってなんだよ……。意味が分からねえ……。
そして天使にあるまじき凶暴性ってこれもう天使の皮を被った悪魔じゃん。こいつの方が悪魔じゃん。
天使「貴様も理性ガ-と抜かしているくちか」
グラサンの向こうで眼光が鋭く俺を見ているのだろう。俺は何も答えなかった。今滅茶苦茶困惑しているのに冷静な受け答えができるものか。
天使「腑抜けが。身体を貸せ。俺がヤる」
『じょ、冗談じゃねえ! F〇〇K YOU!』
天使の皮を被った悪党に、中指を立てて俺は慌てて部屋へ戻る。
『頼む! 神は信じねえが仏様は信じるから頼む!』
未だに白目剥いている自分の体にダイブをした。
「はっ!」
起き上がると、俺の体はちゃんと俺の思い通りに動いていた。
「ハア……ハア……はあー……」
そして溜息をついてベッドへ背中から倒れ込む。
良かった……戻れた……。疲れた。今日はもう飯抜きで寝よう。どうせ明日には帰るんだからヘリに揺られて疲れるだろうから備えよう。
交差点を右折する時だった。
2匹の猫が横断歩道を渡っていた。
更に2匹の猫がやってきた。
そしてやってきた猫がいきなり横断歩道を渡っている途中の猫に覆いかぶさってパコり始め、私は困惑しつつハンドルを切り右折した。危うく縁石にぶつかるところだった。